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『コードD』File Final 終わる『ウソのようなホントウ』の物語

『コードD』


 夢の中。
 そこに征市はいた。
 現実の特訓施設と寸分違わぬ四角い鉄の箱の中で、彼の目の前に一つだけ現実と異なる存在がいた。
『夢の中に意識を飛ばして自分の中にある我に接触する。考えたな、人の子よ』
 中性的な姿の存在。それは、人のようで人でない。彼でも彼女でもない。征市の夢の中で人の姿を現した『永遠の牢獄』だ。
『確かに我に接触し、デュエル・マスターズで勝てば我は滅ぶ。だが、それは悪あがきだ』
 口も開かず、表情も変わらない。だが、征市の頭の中に響いた淡々とした口調の声は挑発的なものを含んでいた。
「ごちゃごちゃうるせぇ!可能性があるならそれに賭ける!それが人間だ!」
 征市がマナゾーンのカード六枚をタップしてマナを出す。そして、一枚のカードにそのマナを注ぎ込み、場に投げつけた。炎を纏ったそのカードは、赤い光を発して甲冑を身につけ刀を握りしめたドラゴンの姿になった。
「《ボルシャック・大和・ドラゴン》召喚!そして、攻撃だ!」
 呼び出された《ボルシャック・ヤマト・ドラゴン》は主の言葉に頷くと、刀を握った両手に力を込めて相手のシールドに向かって飛んでいった。
『可能性?それはお前達を釣り上げるための餌だ。かすかな希望にすがった人の子よ。希望が絶望に変わるのを見て理解するがいい。お前達の未来にあるのは牢獄。生も死も、始まりも終わりもない『永遠の牢獄』だ』
「そんなもの、俺の切り札で絶ち切ってやるぜ!」

 人知れず魔法が発展した世界があった。
 その世界で攻撃魔法の奥義としてデュエル・マスターズカードが誕生する。
 時は流れ、悪の魔法使いや、魔力を帯びて人々に害をなすようになったアイテム、プライズから人々を守るために戦う組織が生まれた。デュエル・マスターズカードを使って人々を守る盾となり、同時に悪を消し去る剣となった彼らの名は『トライアンフ』。
 これは、彼らの戦いと成長を書いた『ウソのようなホントウ』の物語である。

  File Final 終わる『ウソのようなホントウ』の物語

 征市は冷静だった。
 自分の中にある昂ぶった気持ちを全てエネルギーに変えて戦っているような感覚があった。一つ一つの行動に確かな手応えを感じながら戦っている。相手を追い詰めているという感覚もあり、目の前にいる敵に勝てそうだと思えた。
 だが、同時に征市は不安を感じていた。今回の敵は今までとはまったく違う相手だ。魔道書同盟の力を終結させた最悪の奥義が人間の形になって現れた者。それが今、目の前にいる『永遠の牢獄』だ。
 多くのデュエリストや祖父を葬って来た魔道書同盟を相手に自分一人で勝てるのかという不安を、絶対に勝つ、明日へ進むという高ぶった感情で打ち消しながら征市は戦っていた。
「《無頼勇騎ウインドアックス》を召喚!」
 赤と緑の光を発し、巨大な斧を持った戦士が場に現れる。征市によって呼び出された《無頼勇騎ウインドアックス》は巨大な斧を『永遠の牢獄』の場に投げつけた。同時に空いていた片腕を頭上に向ける。
「《ウインドアックス》の効果で俺はお前のブロッカーを一体破壊し、同時にマナを増やす」
『そうだな。だが、我のブロッカーは一体ではない』
 巨大な斧によって『永遠の牢獄』のシールドを守っていた《デ・バウラ伯》が真っ二つに両断される。それを見ても、『永遠の牢獄』の表情も声の調子も変わらない。確かに彼の言うように、ブロッカーは一体ではなかった。二体の《マクスヴァル》がシールドを守るように立っている。他に、一体の龍がシールドの前に立っている。
 地球によく似た球体で出来た胴体を中心に腕と足が生えている龍だ。両肩と両膝にはそれぞれ一つずつ、違うドラゴンの頭がついている。合計五つの龍の頭が征市を見ていた。
「残ったには二体だけだ。それも何とかしてやるよ!」
 征市は、マナゾーンのカードを三枚タップすると、緑色のマナを出す。それら全てを手札にある一枚のカードに注ぎ込むと、空中に投げた。緑色の光を発したそのカードは空中で巨大な魔方陣を形成する。魔方陣の光を受けた《ウインドアックス》はカードの姿に戻り、マナゾーンに飛んでいった。
『《母なる紋章》か』
「ご名答。そして、これで俺がマナゾーンから出すのは火文明の切り札だ!」
 征市が指を鳴らすと、一枚の赤いカードが魔方陣に向かって飛んでいく。それについていくように、マナゾーンから二枚の赤いカードが飛んでいった。三枚のカードは魔方陣の中で重なり合う。その瞬間、赤い光が周囲を包んだ。
『それがお前の切り札か』
 眩しい光から目を隠さずに『永遠の牢獄』は征市の切り札が誕生するのを見ていた。
 そこには、二門の巨大な砲台を装備した要塞に赤い鳥の翼と鳥の頭をつけた不死鳥が宙に浮いていた。
 ただの赤い体ではない。要塞と融合したような胴体の内側は熱く燃えている。その熱によって翼も体も赤く輝いているのだ。
「俺の切り札の一つ、《超神星アレス・ヴァーミンガム》だ!」
 征市の切り札、《超神星アレス・ヴァーミンガム》が出た瞬間、周囲の気温が何度か上がった。それを肌で感じながら、征市は『永遠の牢獄』を見た。これだけのエネルギーを持った切り札を見ても肉体を持った魔術の顔は一ミリの変化もなかった。
「《アレス・ヴァーミンガム》はマナ進化の進化ボルテックスクリーチャーだ。つまり、召喚酔いせず、すぐに攻撃できる!さらに……!」
 征市の双眸が『永遠の牢獄』のシールドを睨んだ瞬間、《アレス・ヴァーミンガム》の胴体から赤い玉が飛んでいった。その玉は熱を発しながら飛んでいき、空中で激しく発光する。そして、いきなり音もなく爆発した。
その衝撃と爆発によって発せられる高熱によって二体の《マクスヴァル》は一瞬で蒸発してしまう。破壊された二体のブロッカーの肉体が灰となって黒い影のようにその場に残った。
「《アレス・ヴァーミンガム》のメテオバーンだ。この効果でお前の3コスト以下のブロッカーは全て破壊される!これでブロッカーは残っていない!」
 《アレス・ヴァーミンガム》の二門の砲台が動く。狙いは『永遠の牢獄』を守る二枚のシールドだ。
「行くぜ、《アレス・ヴァーミンガム》!W・ブレイクだ!」
 二つの大砲が、まるで呼吸をするように砲口の周囲の空気を吸い込む。その直後、熱く太い二条の赤い光線が勢いよく発射された。それはシールドだけでなく、その裏にいる最大の敵まで焼き尽くしかねないほどの勢いで『永遠の牢獄』の盾に激突した。
『愚かな……』
 《アレス・ヴァーミンガム》の召喚から今まで口を開かなかった『永遠の牢獄』が呟く。勝利を見据えていた征市はその言葉を聞いて自分の耳を疑った。
「負け惜しみか!?この攻撃でお前のシールドは0!後は《ボルシャック・大和・ドラゴン》で攻撃すれば――」
『ミスに気付かないから愚かだと言っている』
 シールドから黒い影と黒い剣の雨が飛び出す。征市のクリーチャーの上空に飛んでいった黒い剣の雨は、《アレス・ヴァーミンガム》と《ボルシャック・大和・ドラゴン》の上に降り注いだ。
「《アレス・ヴァーミンガム》!《ボルシャック・大和・ドラゴン》!!」
 切り札達の絶叫を聞きながら、征市は右手を伸ばす。しかし、その手は届かず、二体は赤い炎に包まれて消えていった。
 一瞬、心と思考が暗い闇に閉ざされる。しかし、征市は頭を強く振って正気を保った。絶望に陥りそうになりながら目の前にいる新たな強敵を見る。
「嘘だろ……?何で、今、そいつがシールドから出るんだよ!?」
 疑問が言葉となって口から洩れた。
 黒い光と共にシールドから現れたのは《オルゼキア》だった。場に出た時、自分のクリーチャー一体の命を犠牲にして相手のクリーチャー二体を破壊するデーモン・コマンドだ。
 しかし、シールド・トリガーは持っていない。この場で出るはずのないクリーチャーの存在が征市を混乱させていた。
『《オルゼキア》だけではない。見よ』
 《アレス・ヴァーミンガム》の攻撃を受けたもう一枚のシールドが金色の光を発する。そこからは、全身が金色の龍が飛び出した。鏡のように身が書かれたその体は征市の顔と手札のカードを映した。鏡のように映った征市の顔は驚きと恐怖で歪んでいた。歪んだ自分の表情を見ていながら、あまりのショックにそれを直す事ができなかった。
『《光神龍スペル・デル・フィン》。お前はこれで呪文を使う事ができなくなった。そして、我はお前の手札を見ながら戦う事ができる』
「《スペル・デル・フィン》まで……。シールド・トリガーじゃないクリーチャーが何で……」
 そこまで言った時、征市は『永遠の牢獄』の場にいた一体のドラゴンを見た。最初からその場にいたドラゴンの胴体にある地球のような球体が光っている。
「そのドラゴンの力か」
『そうだ。我の切り札、《星龍パーフェクト・アース》。この切り札がある限り、我のシールドは全てシールド・トリガーとなる!』
 デュエル・マスターズにおいてシールドに何が入っているかは基本的に誰も知る事ができない。だから、シールド・トリガーが出るかどうかは運次第だ。しかし、『永遠の牢獄』の切り札《星龍パーフェクト・アース》はその運命を歪め、自分の好きなように変える力を持っていた。その力で人々の未来を消し去り、逃れる事のできない牢獄を作り出す彼の力のように運命を変革される力を持っているのだ。
「だけど、《オルゼキア》は自爆した!俺のシールドは三枚残っている!お前の場にいるのはW・ブレイカーのクリーチャー二体だ。1ターンだけなら耐えられる!」
 征市の手札には、まだ《ボルシャック・大和・ドラゴン》が一枚あった。その事は《スペル・デル・フィン》の能力で征市の手札を見ている『永遠の牢獄』も理解しているはずだ。
「お前はブロッカーを出さないと負けるぜ?」
『ブロッカーは必要ない。我の手札にあるこのカードでお前の負けは決まる』
 『永遠の牢獄』はマナゾーンにあるカード五枚をタップして一枚のカードにマナを注ぎ入れる。『永遠の牢獄』の青い指先を離れたそのカードは赤と黒と緑色の光を発しながら人に近い形に姿を変える。円形の頭部に鎌を持った奇怪な姿。その姿に見覚えがあった征市は目を見開く。
「《鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェス》か!」
『《キリュー・ジルヴェス》は我のクリーチャー全てにスピードアタッカーを与える。当然《キリュー・ジルヴェス》自身もスピードアタッカーとなる。お前も知っているだろう』
 召喚されるのと同時に《鎧亜の咆哮キリュー・ジルヴェス》が征市のシールドに飛び込み、鎌でそれを切り裂いた。砕ける瞬間、緑色の光を発したそれは、力を発動させる事なくカードの姿になって征市の手元に飛んでいった。
『《ナチュラル・トラップ》か。それならば、我のクリーチャーを止める事ができた。ただし……』
 《キリュー・ジルヴェス》に続いて《スペル・デル・フィン》が動く。表面が鏡のように光った金色の龍の右手は短剣のようになっていた。短剣と化した右手がシールドを一枚ずつ真っ二つに切り裂いていく。その中に、シールド・トリガーはなかった。
『終わりだ。お前も人類も、全て……』
 勝利を手にしたというのに表情が変わらない『永遠の牢獄』が淡々とした口調で言った。同時に《パーフェクト・アース》の五つの龍の首がそれぞれの口から光線を吐く。赤、緑、金、青、黒の五色の光線に包まれた征市ははるか後方に吹き飛ばされた。
「がぁっ!」
 地面に激突した瞬間、内蔵の全てが熱く燃えるように感じた。同時に、痛みが全身を襲う。それが終わると、気力と魔力が全て抜けていった。まともに動く事もできず、息だけが口から洩れる。
『これが人間のいう可能性か。儚く脆い』
 視界の端で倒れた征市の姿を捉えた『永遠の牢獄』の体が青白く光った。それを見た征市は何とかして立ち上がろうと四肢に力を込める。すると、彼の体が赤く光り、体中に力と魔力が戻っていくのを感じた。内側から溢れ出る力を感じて征市は立ち上がる。
「そうか。彩弓と彩矢が俺に魔力を送ってくれているんだ。だから、俺は負けない。時間が来るまで何度でも挑戦してやる!」
 そう言って征市はバラバラになったカードに手を伸ばそうとした。しかし、それは黒い炎を出して燃えてしまう。周囲を見ると、どのカードも同じだった。征市のデッキに入っていたカードが黒く燃えていた。
『敗北した時の保険か。バックアップからの魔力供給によって何度でも挑戦する。小賢しい。そんな浅知恵で我を乗り越えるか』
「浅知恵か……。確かにその通りだったかもな。うまくいかねぇ。デッキが燃やされちまったからな」
 吐き捨てるように呟くと、征市は右手に燃えたマッチを持つ。そのマッチの炎が大きくなり、赤い光を発してそれが革で出来たデッキケースに変化した。
「だけど、俺のデッキは一つじゃない。今度こそ、間違いなくお前を倒す!」
 デッキケースを開けると、カードが勢いよく飛び出す。自分の目の前に五枚の赤いシールドが並んだのを見て、征市は山札から五枚のカードを引いた。
「第二ラウンドだ。そして、これがお前を倒す最終ラウンドだ!」
『お前と人類ができる最後の抵抗だ。華々しく散れ』
 それを見た『永遠の牢獄』もシールドを並べ、カードを引く。互いの視線がぶつかり合い、二度目の戦いが始まった。

 トライアンフの事務所では、仲間達が征市の帰りを待っていた。いつもと変わらないはずの室内が何故か暗く感じる。
 落ち着いて待つという事ができない陸は、自分のデスクの周りを歩いていた。時折、腕を組んだり髪をかきむしったりしている。
 落ち着いていられないのは陸だけではなかった。入院中で未だ病院から出られない一真からも「決着はついたのか」という電話があった。十一時三十分を過ぎている。普通、病院からはかけられないような時間だ。彼も、この戦いが気になっているのだ。
 誰もが緊張した雰囲気でいる中で、彩弓は静かに「あ」と呟いた。誰にも聞こえないように言ったつもりだったが、神経が昂っていたメンバー達の視線は彩弓に向く。
「姉さん。征市さんに魔力を送ったわね?」
 同じように自分の体の魔力の流れを感じた彩矢が聞く。彩弓は首を縦に振って答えた。
「それじゃ、セーイチさんが負けちゃったって事!?」
 陸が悲鳴に近いような声を出して聞く。
 彩弓と彩矢に与えられた能力は征市のバックアップだ。人造デュエリストの一号機として作られた彼は、魔力を失った時のバックアップが用意されていた。それが彩弓と彩矢だ。例え、敗北したとしても、膨大な魔力を持つ彼女達から魔力を供給する事で、征市は何度でも戦う事ができる。
 征市は、戦うために作られた自分の能力とこのシステムを嫌っていたが、今回はこれを利用する事にした。負けても、すぐに二人から魔力を受け取って『永遠の牢獄』に再挑戦するという作戦だ。
「恐らくは。ですが、一ノ瀬さん達の魔力が送られたという事は、相羽さんがまだ諦めていないという事です」
 不安そうな表情を隠しながら、菜央が言う。
「そんな事は判ってる!でも、また負けちゃったらどうするのさ!セーイチさんは、二つデッキを持っているけれど、それが両方通じなかったら?」
「陸さん、落ち着いて下さい!」
 陸をいさめようとする湊も目も震えていた。彼も、内に秘めた不安の感情を吐き出してしまいそうだった。
「落ち着いていられるかよ!」
 だが、湊の言葉は逆効果だった。感情の爆発に耐えられないのか、陸は思わず壁を殴る。そして、静かに言葉を漏らした。
「セーイチさんは、たった一人で頑張ってる。だけど、僕達はこうやって待ってるだけだ。それしかできない。何か僕達にできる事はないのかよ……。ねぇ!僕達はチームでしょ!みんなでプライズとか『魔道書同盟』とかと戦ってきたんじゃなかったの!?」
 最後に陸は仲間達を見て問いかけた。彼の言葉はそこにいる者達の気持ちを代弁していた。
「できる事は……あるかもしれないよ」
 彩弓が呟くように言うと、彼女は征市のバッグに手を伸ばした。全員が見ている前でそれを開けると、中から大量のデュエル・マスターズカードを取り出した。両手からこぼれ落ちそうな量のカードを持ちながら彩弓はそこにいる者達の目を見て言う。
「これは、真実さんからもらったカードに合わせて征市君が作っていた新しいデッキ。もしもの時のために作りかけだったのを入れておいたの。わたしはデュエル・マスターズの事は判らないけれど、みんななら判るでしょ?だから、ここにあるカードを使ってこのデッキを完成させて欲しいの!」
 そこにいる者達は驚き、顔を見合わせた。そして、最初に陸が手を伸ばす。
「火文明のカードは使った事がない。だけど、何度も使われた事があるし、セーイチさんの戦いを何度も見た。僕は手伝うよ!」
「相羽さんの戦い方は記録してあります」
 菜央が立ち上がり、彩弓に近づく。
「その記録を元に相羽さんにあったデッキを作りましょう。ほとんど完成しているのなら、すぐに完成するはずです」
 湊と彩矢も立ち上がった。
「僕も火文明のカードを使った事があります!全員で力を合わせてデッキを作りましょう!」
「そして、完成したデッキはアタシ達で魔力と一緒に征市さんに送るのね!」
「うんっ!」
 彩弓が元気よく頷くと、彼女は近づいてきた仲間達にカードを渡した。
 一人で戦う征市を助けるため、そして、共に征市と戦うための共同作業が始まった。

『行くぞ』
 『永遠の牢獄』が投げたカードは五色の光を発した。そのカードから最初に飛び出したのは地球のような蒼い球体だった。そこから五つの龍の頭が飛び出し、四肢を形成する。『永遠の牢獄』の切り札、《パーフェクト・アース》は完全な体になると両足で地面に着地した。その衝撃で足元が激しく揺れる。
『今の我のシールドは三枚。これら全てがシールド・トリガーとなってお前に襲いかかったらどうする?』
「……怖いな」
 淡々とした問いかけに、乾いた声で征市が返す。
 征市のシールドは無傷だった。『永遠の牢獄』の場には、既に《オルゼキア》がいたのに攻撃を仕掛けて来ない。征市のクリーチャーは両足で杖のような物を持つファイアー・バード《チッタ・ペロル》と《闘龍鬼ジャック・ライドウ》だけだ。どちらも、ブレイクできる数が少なく攻撃に向いていないクリーチャーだった。
「だけど、お前のシールドが全部シールド・トリガーになる事はねぇよ!怖い切り札は、今、この場で倒す!」
 征市が投げたカードが刺さり、《ジャック・ライドウ》の体が赤い光に包まれる。その光は《ジャック・ライドウ》を巨大で強大な姿に生まれ変わらせた。
「見せてやるぜ!これがじいちゃんからもらった最強の切り札!《超竜サンバースト・NEX》!!」
 四つの腕とそれに合わせた金色の四つの剣を持ち、ブースターと翼で大空を羽ばたく赤いドラゴン。それが、征市の切り札《超竜サンバースト・NEX》だ。
「《サンバースト・NEX》はバトルに勝てばアンタップされる!これでお前のクリーチャーを全滅させてからシールドをブレイクする!《サンバースト・NEX》で《パーフェクト・アース》を攻撃!」
 《サンバースト・NEX》の咆哮に合わせて《チッタ・ペロル》が巨大な龍の周りを飛び回る。その直後、《サンバースト・NEX》の体が赤い光に包まれた。
「《チッタ・ペロル》が場にいる間、ドラゴンはアンタップされているクリーチャーを攻撃できる!これで、お前の切り札は終わりだ!」
 背中のブースターがロケットのように火を吹く。翼を広げた《サンバースト・NEX》は剣を《パーフェクト・アース》の体に向けて飛び立った。金色の剣が光を発しながら《パーフェクト・アース》の胴体を狙う。
『いや、終わるのはお前の切り札だ』
 だが、剣が届く事はなかった。剣が球体に触れる直前に《パーフェクト・アース》の両手に掴まれてしまう。それを見た征市は目を見開く。
「嘘だろ!?《サンバースト・NEX》のパワーは11000だ!パワー6000の《パーフェクト・アース》なんかには負けるはずがない!」
『お前の切り札のパワーは高かった。だが、今はどうだ?』
 征市が《サンバースト・NEX》の体を見て「あっ」と声を上げた。その周りには黒い煙が漂っている。《パーフェクト・アース》の背後から黒いカエルのようなクリーチャーが姿を現した。黒い煙はそのクリーチャーの口から出ていた。
「《威牙の幻ハンゾウ》……!ニンジャ・ストライクを使ったのか!」
 《威牙の幻ハンゾウ》はニンジャ・ストライクを使う事によって特殊なタイミングでの召喚が可能となるクリーチャーだ。そして、場に出た時、相手クリーチャーのパワーを6000下げる事ができる。
『お前の切り札のパワーは11000程度。《ハンゾウ》で6000下げてしまえば5000だ。我が切り札を無防備な姿で放置しておくと思ったか?』
 《パーフェクト・アース》の腕に力がこもる。《サンバースト・NEX》の剣がへし折られてしまった。
『終わりだ。やれ、《パーフェクト・アース》』
 《パーフェクト・アース》の五つの龍の頭部が、口から光線を吐き出す。五色の光線は《サンバースト・NEX》の体を溶かしていった。
「嘘だ……!嘘だろ……!?《サンバースト・NEX》が……じいちゃんからもらった切り札が負けるなんて……!」
 まるで爆発するかのような赤い光を放出させて《サンバースト・NEX》は消えていった。呆然となった征市は瞬きするのも忘れてそれを見ていた。
『次は我の番だ。《パーフェクト・アース》は守りの切り札。次は攻めの切り札を見せてやろう』
 衝撃を受けた征市の事など意に介さず、『永遠の牢獄』は場に一枚のカードを投げる。同時に、《パーフェクト・アース》と《オルゼキア》が一瞬でカードの姿に戻った。
 場に投げ入れられたカードは赤と黒の光を発する。それを中心に《パーフェクト・アース》のカードが赤い光を出し、《オルゼキア》が黒い光を出しながら竜巻を作るように飛び回った。渦を巻くように飛び回っていた三枚のカードは上空で重なった。部屋の中を赤い光と黒い雲が満たしていく。
 赤と黒の渦巻きの中心で巨大な何かが誕生しようとしていた。『永遠の牢獄』の切り札は渦巻きの中から紫色の何かを飛ばす。
「羽根……?」
 それは、クリーチャーの羽根だった。征市は目の前に落ちて来た紫色の羽根を見る。それは、征市の足元に落ちると紫色の炎を出して、その場で燃えた。
『滅ぼしてやろう。全ての希望を。消し去ってやろう。お前の目の前にある可能性を』
 渦巻きの中から金色の剣が二本飛び出す。その剣による斬撃が赤と黒の渦巻きを消し去った。
 渦巻きの中から出て来たのは人型とも、鳥の怪物とも言えるような奇怪な生命体だった。広げる事で特訓施設の端から端まで届くような翼は鳥のものだ。今でも、紫色の羽根をまき散らしている。そのシルエットは人間のものだった。腕と足がある。剣は腕の先と融合していた。手があるはずの部分は鳥の爪のようなものがついている。胴体には、鳥の頭部があり、首の上にはまがまがしい顔が乗っていた。
『進化ボルテックスクリーチャー《暗黒凰ゼロ・フェニックス》だ。このクリーチャーが攻めの切り札だという理由を教えてやる』
「何が攻めの切り札だよ。W・ブレイカーを二体使ってまで呼び出すような奴か?」
 征市には理解ができなかった。《オルゼキア》と《パーフェクト・アース》は、どちらもW・ブレイカーだ。シールド・トリガーが出る危険性や手札となったシールドのせいで逆転される可能性もあるが、それでもこの二体で攻撃すれば征市のシールドを四枚もブレイクできるのだ。
 しかし、一体のクリーチャーにした事でそのブレイク数は減ってしまった。《暗黒凰ゼロ・フェニックス》はW・ブレイカーだ。
『すぐに判る。《ゼロ・フェニックス》、攻撃せよ』
 宙に浮いた《ゼロ・フェニックス》の体が征市のシールドの方を向いた。持っていた二本の剣が向けられるが、それで突き刺すのではない。胴体にある鳥の頭を中心にエネルギーが集まって行く。少しずつ大きくなり、紫色の光を伴って目に見えるようになってきた。征市が見ている前で、それはすぐに巨大な球体へと変化する。
 《ゼロ・フェニックス》の咆哮と共に、紫色の球体は光線となって征市のシールド二枚に直撃する。征市がそれを見た瞬間、シールド二枚は一瞬で蒸発して消え去ってしまった。手を伸ばすが、砕かれたシールドがカードになって飛んでくる事はなかった。
「これは……念の《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》と同じシールド焼却能力か!」
『理解したか。これが《ゼロ・フェニックス》が攻めの切り札と名乗る理由だ』
 征市がシールド焼却能力に苦しめられたのはこれが初めてではなかった。過去に『魔道書同盟』の念と初めて戦った時もシールド焼却能力を持つ念の《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》の攻撃に苦戦した事がある。
 シールド焼却能力はただシールド・トリガーを発動させないだけの能力ではない。文字通りシールドを完全に焼却する事でそのシールドが手札になる事も防ぎ、そのまま墓地に送り込むのだ。
『シールドをブレイクする数は減った。しかし、シールドへの攻撃の質は向上した。お前には後、何ターン残っているかな?』
 征市は何も言わずに山札の上のカードに触れた。だが、震えてカードを引く事ができない。
 自分の切り札を破壊された上に、圧倒的な攻撃力を持つ切り札を出されたのだ。自信が消え、恐怖が心を支配した。
「くそっ!負けるかよ!」
 自分を鼓舞するような声と共にカードを引く。そして、マナゾーンのカードをタップして場に出した。
 炎の塊となったそのカードの中から洋風の鎧を纏った龍が飛び出してくる。《ボルシャック・NEX》だ。《ボルシャック・NEX》を生み出した炎の塊から一羽の小鳥が飛び出してくる。それは何度もドラゴンに力を貸したファイアー・バード《コッコ・ルピア》だった。
「《ボルシャック・NEX》の効果で山札から《コッコ・ルピア》を出した。俺はこれでターンを終える」
 《コッコ・ルピア》を出した直後、征市は自分の手札を一度だけ見た。この中には戦況を大きく変えるカードが入っている。今はマナが足りなくて出せないが、次のターンには出せる。
『まだ切り札を隠し持っているのか。ならば、退場してもらおう』
 黒い光を帯びたカードが場に現れる。それは小さな人型となって征市の手札に飛んできた。身の丈ほどの大きさのカッターを持ったそのクリーチャーは征市の手札にあるカードを一枚突き刺す。
「くっ……!何しやがる!」
 吠える征市の手の中で《竜星バルガライザー》のカードが黒い粒子となって消えていった。それを見てカッターを持った少女の人形の姿のクリーチャー《解体人形ジェニー》はいやらしい声で笑った。
『《解体人形ジェニー》を使えば、お前の手札を見てその中から一枚選んで捨てる事ができる。次はバトルゾーンだ』
 『永遠の牢獄』が手札から引き抜いたカードが金と青の光を発する。その光を受けて《ボルシャック・NEX》の体が赤い粒子のように変わっていく。征市の見ている前で《ボルシャック・NEX》は一枚の赤いシールドに変えられてしまった。
『《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》だ。これでお前の場には貧弱な小鳥だけが残ったな』
 征市の場に残った二体のファイアー・バードを見た『永遠の牢獄』は右腕を伸ばす。それを見て《ゼロ・フェニックス》が紫色の光線を発射した。二枚のシールドが焼き尽くされていく。これで征市のシールドの残りは二枚となった。
『切り札の質だけでなく、シールドの数でも我の勝ちとなったな』
「すぐに巻き返してやるから見てろ!」
 自分のターンになったのを見て、征市は急いでカードを引く。それを見た征市の動きが止まる。しばらく引いたカードを見ていた彼はゆっくりと視線を逸らすと《ゼロ・フェニックス》を見た。
「どんな強い切り札も絶対に倒せない訳じゃねぇ。俺の頭を悩ませたお前の切り札は……こいつで終わりだ!」
 不敵な表情で笑う征市はマナゾーンのカード六枚をタップする。カードから出た緑色のマナを一枚のカードに集めると、征市は緑色に光るそのカードを場に投げた。《ゼロ・フェニックス》の足元に落ちたそのカードから緑色のツタが伸びてくる。そのツタは急激に成長し、《ゼロ・フェニックス》の体を飲みこんでいった。
「《ナチュラル・トラップ》を今、引いた。《ゼロ・フェニックス》がどれだけ強力な攻撃力を持っていても、防御は対した事ねぇな!」
『本当にそう思っているのか』
「何……!?」
 完全に自分が有利になったと思っていた征市は、淡々とした『永遠の牢獄』の言葉を聞いて耳を疑う。その瞬間、《ゼロ・フェニックス》が持っていた二つの剣が征市に向かって飛んできた。一本は征市の手札に突き刺さり、もう一本はマナゾーンのカードに突き刺さった。
『確かに《ゼロ・フェニックス》は除去呪文に耐性を持たない。だが、自分を破壊しようとする者に対して容赦はしない。手をかけた者に罰を与えるのだ。手札二枚とマナゾーンのカードを二枚奪う』
 剣が刺さった二枚の手札が紫の炎に包まれる。それを見た征市は慌てて手札のカードを落とした。これで征市の手札にあるカードはない。
 マナゾーンを見ると、二枚のカードが紫色の炎に包まれている。逆転したつもりが追い詰められた事実に気がつき、征市は呆然となる。
「く……。だったら、攻撃だ!」
 自棄になりながら征市は叫ぶ。同時に《チッタ・ペロル》が弾丸のように勢いをつけてシールドに突っ込んでいった。《チッタ・ペロル》の頭突きを受けてシールドがひび割れていく。
「次だ!《コッコ・ルピア》で――」
『冷静さも失ったか。もうお前には万に一つの勝ち目もない』
 ひび割れたシールドから赤い光と共に赤い服を着た人型のクリーチャーが飛び出す。そのクリーチャーは、シールドから飛び出した勢いを殺さずに右の足で《コッコ・ルピア》を蹴飛ばした。足が触れてすぐに《コッコ・ルピア》は赤い光となって消えていく。
『《爆獣ダキテー・ドラグーン》だ。場に出た時、パワー3000以下のクリーチャーを一体破壊するシールド・トリガークリーチャーだ』
 征市は完全に自分を見失っていた。自棄になって起こした行動が取り返しのつかないミスとなって自分の首を絞める。
『見苦しい。すぐに楽にしてやろう』
 征市の目に、再び、赤と黒の渦巻きが見えた。激しい光と共に二体目の《ゼロ・フェニックス》が現れる。新たな《ゼロ・フェニックス》が征市を守っていた二枚のシールドを焼きつくした。もう征市を守る壁は一枚も残っていない。
『悪あがきでもしてみるか?』
「やってやるよ!」
 安い挑発に乗って征市はカードを引く。それを見た征市の目が輝き、彼はマナゾーンのカードに手を伸ばす。だが、そこで彼の動きが止まり、表情が凍りつく。
「駄目だ。マナが足りない……」
 《ゼロ・フェニックス》が死の間際に放った一撃で征市のマナはダメージを受けていた。望みが絶たれたのを知った征市の手札から、今、引いたカードがこぼれ落ちる。それは《バルガライザー》だった。
『悪あがきをする力も残っていなかったか。今度こそ終わりだ』
 《ゼロ・フェニックス》の胴体に紫色の光が集まって行く。征市はぼんやりとした顔でそれを見ていた。集まった光が球体となった時、それは光線となって勢いよく発射される。
 征市の頭がそれを理解した瞬間、光線は彼の体を飲みこむ。勢いを残した光線は征市の体を壁に押し付けた。皮膚を焼く感触と痛みが全身を襲う。だが、声を上げる事すらできなかった。
 やがて、光線は消え、征市はその場でうつ伏せになって倒れた。残していたもう一つのデッキを使っても勝てなかった。
 征市は朦朧とする意識の中で目を開き、右手を伸ばす。今も、痛みが体全体を襲うが声を上げている暇はなかった。黒い炎に包まれて消えてしまう前にカードを拾わなければならない。全てのカードを拾ってもう一度戦わなければならない。
 しかし、どれだけ精神が肉体に命令をしても体はそれに反応しない。指先が震えるだけでカードには届かない。
 焦る征市の前でカードが黒い炎に包まれていく。自分の、いや、人類の最後の希望が消えていくのを見て、征市の心にあった闘志の炎が完全に消えていった。
『今度こそ終わりだ。お前も、人類も』
 『永遠の牢獄』が青白い光を発しながら征市に近づく。彼は右足で征市の腹を蹴った。痛みを感じるよりも先に征市はせき込み、体が仰向けになる。その瞳はもう何も見ていなかった。何かを見ようとする気力もなかった。
 『永遠の牢獄』の右手が青白い光を発しながら征市の首をつかむ。征市の肉体を青白い光が包んだ。
『これが人類に与えられた終わりで新たな始まりだ。だが、考えようによっては幸福かもしれんぞ。ジャロール・ケーリックと言ったか。あの男が目指した理想の不老不死が全ての人間に対して平等に与えられるのだからな。人間の中にもそれを望む者がいるだろう?尤も……』
 『永遠の牢獄』は征市の耳元に口を近づけて言う。征市はこの時、初めて『永遠の牢獄』の言葉に感情が宿ったように感じた。そこにあったのは喜びの感情だ。
『お前達の隣に付き纏うパートナーは絶望、恐怖、悲しみ、苦しみ、痛みだ。お前達が望まないものだけがいる世界の中で果てのない拷問を味わうがいい。正気を失って楽になる事も、自ら死を選んで楽になる事も許さない。世界の全てが消え去っても終わらない『永遠の牢獄』だ』
 そこまで言った時『永遠の牢獄』は満足したのか征市の耳元から顔を離し、首をつかんでいた手を放した。
 その瞬間、征市は自分の体に力が湧き上がるのを感じた。同時に体中の傷と痛みが消えていく。
『そうだ。体はまた元に戻り、新たな痛みがお前を襲う。お前だけ他の人類よりも先に体験させてやろう。終わらない地獄を。……何!?』
 征市の体から青白い光が消えていた。代わりに赤い光が彼を包んでいる。
 彼はゆっくりと立ち上がる。その目は、前髪に隠れていた。
 突然、胸元のラペルピンから赤い光と共に何枚ものカードが飛び出した。
『征市君っ!』
「彩弓か?」
 カードから声が聞こえた。
 数十分離れていただけなのに、何故かひどく懐かしく感じる声を聞いて征市は顔を上げる。その目は感情と光を取り戻していた。
「一体、何があったんだ……」
『みんなで作りかけのデッキを完成させたんですよ!』
 独り言のような征市の呟きに彩矢が答えた。
『僕達が手を貸したんだから、セーイチさんが作るのよりもうまくできてますよ!』
『ちょっと、陸さん!』
『ま、そーゆー事だから、ちゃっちゃとやっつけて来て下さいよ!』
『あの……応援してますから!』
 陸がやかましく喋った後に、慌てて湊が言葉をつなげる。いつものようなやり取りを聞いて征市は微笑んだ。
『相羽さん、私達も一緒です。トライアンフのリーダーとして最後の仕事を命じます。このデッキを使って『永遠の牢獄』に勝って下さい』
 菜央の言った『最後の仕事』という言葉が心に響く。この戦いは征市がトライアンフのメンバーとしての最後の仕事だ。全員が力を貸してくれたのに、この最後の仕事をしくじる訳にはいかない。
『征市さん』
 柔らかい女性の声が聞こえる。それは真実の声だ。彼女が誕生日のプレゼントと一緒にくれたカードが彼女の声を出している。
『辛い戦いをさせてしまいましたね。でも、これが終われば誰かが『魔道書同盟』に傷つけられる事はなくなるのです』
『その通りだ』
 黒い炎に包まれていたはずのカードの中から一枚のカードが飛び出す。それは《サンバースト・NEX》のカードだった。赤く光るそのカードから祖父、総一郎の声が聞こえた。
『お前にこんな戦いをさせた事を許して欲しい。征市、これが終わればお前はこれから自分が生きたいように生きられるんだ。いい手品師になるためにも、目の前に敵には勝たなくてはならない』
「真実……。じいちゃん……」
 続いて黒い炎の中から飛び出してくるカードがあった。ところどころ傷ついたそのカードは何度も征市のピンチを助け、勝利をもたらした切り札だ。
「そうだったな、《ボルシャック・大和・ドラゴン》。俺はこんな奴に負けられない。負けてる場合じゃねぇ!」
 征市が右手を伸ばす。すると、そこには、シャッフルされた四十枚のカードが収まった。その中には真実と祖父が遺したカードと《ボルシャック・大和・ドラゴン》が入っていた。征市がデッキを地面に置くと、それは征市が取りやすい位置に浮いた。
『お前が新しいデッキを手に入れ、再び立ち上がったのは奇跡だと言っていいだろう。だが、一度奇跡を起こしただけでは我に勝つ事はできない』
 『永遠の牢獄』の頭上に巨大な柱時計が現れる。全身が黒いその時計はあと五分で十二時になる事を示していた。
『あと五分だ。それだけの時間で我を倒せるか?それは不可能だ』
「無理じゃねぇ!」
 征市が五枚のカードを目の前に投げる。地面に刺さった五枚のカードは赤い炎を発して、変化する。それは征市を守る五枚の赤いシールドとなった。
「もし、お前に勝つために必要な奇跡が一度で足りないんだったら何度でも奇跡を起こしてやる!必要な数だけ、今、この場で!」
 右手を伸ばすと、山札から五枚のカードが征市の手元に飛んでくる。それを見た征市は前髪を指先ではらうと不敵に笑った。
『人間ごときが何度も奇跡を起こせるものか』
「起こしてやるんだよ!俺が大人になるために必要な数の奇跡を!俺達が明日に進むのに必要な数の奇跡を!俺がこの手で起こすんだ!」
『征市君、がんばってっ!』
 彩弓の声が征市の闘志を後押しする。体全体にみなぎる闘志が、エネルギーとなって征市の体を突き動かしていた。
 征市は右手の人差指を伸ばすと、それで『永遠の牢獄』を指す。敵の目を見つめながら彼はこう言った。
「さあ、見せてやるぜ。『ウソのようなホントウ』って奴を!」
『戯言を言うな。人間風情が!』
 何度も征市が立ち上がるのを見て、『永遠の牢獄』は苛立っていた。それを見る征市の顔は冷静そのものだ。
「一気に行くぜ!《ボルシャック・NEX》召喚!効果で《コッコ・ルピア》を場に出し、さらに《ボルシャック・NEX》を《サンバースト・NEX》に進化!」
 既に『永遠の牢獄』の場には《パーフェクト・アース》がいた。《腐敗聖者ベガ》でさらに防御を固めたため、シールドは六枚になっている。彼の場には、他に《腐敗勇騎ガレック》と《マクスヴァル》がいた。
 一方、征市のシールドは残り三枚。場には二体の《コッコ・ルピア》と《サンバースト・NEX》だけだ。征市は切り札を見て言う。
「《サンバースト・NEX》。ここは待機だ。動かなくていい」
『自棄になっているようだな。奇跡を起こすなどと言っておきながら、この体たらくとは』
「自棄に?俺は冷静だぜ。今、《サンバースト・NEX》で攻撃しても、シールドはシールド・トリガーになっちまうからな。チャンスを待つしかない」
『ならば、そのチャンスが来ない事を教えてやる』
 『永遠の牢獄』が《デ・バウラ伯》を召喚した。《デ・バウラ伯》は大砲を空に向けて発射する。発射されたのは緑色のカードだった。『永遠の牢獄』は手を伸ばしてそれを取ると、マナをタップしてすぐにそのカードを使った。
『《デ・バウラ伯》の効果で《母なる紋章》を墓地から回収。そして、回収した《母なる紋章》を使う』
 《ベガ》がカードの姿に戻ってマナゾーンに飛んでいく。そして、赤と黒の光を発するカードが代わりにバトルゾーンへ飛んでいった。そのカードを中心に《ガレック》と《マクスヴァル》が赤と黒の光を発しながら回転していく。赤と黒の渦巻きが切り札を誕生させた。
「《ゼロ・フェニックス》が来たか……」
『攻めの切り札と守りの切り札が揃った。これでお前に勝ち目はない』
 《ゼロ・フェニックス》の光線が征市のシールドを蒸発させていく。その中に《ナチュラル・トラップ》があった。
『そのカードがあれば《ゼロ・フェニックス》を破壊できたのに残念だったな。尤も、破壊出来たとしても、お前も只ではすまんが』
「いや、これでいい。《サンバースト・NEX》が残れば何とかなる!切り札にこだわったのがお前の敗因だ!」
 カードを引いた征市は『永遠の牢獄』を見た。その目に射すくめられた時、感情をあらわにする事がない『永遠の牢獄』の頬に一筋の汗が流れる。
『まるで、我が負けるような言い方だな』
「負けるんだよ。そして、俺が勝つ!」
 征市はマナゾーンのカード三枚をタップして緑色のマナを出した。そして、そのマナを使って一枚のカードを出す。
「《母なる紋章》だ。《コッコ・ルピア》をマナゾーンに送って火文明の究極進化クリーチャーを出す!」
 《コッコ・ルピア》は《母なる紋章》の効果で空中に現れた金色の魔法陣をくぐり、マナゾーンに飛んでいく。その直後、マナゾーンから一枚の赤いカードが飛んできて《サンバースト・NEX》の体に刺さった。体の内側から赤い光を発しながら《サンバースト・NEX》の姿が変化していく。四足の下半身に人型の上半身。たくましい八本の腕はそれぞれ金色の剣を持っている。巨大なブースターで宙を舞い、翼をはためかせる赤い龍が誕生した。
「《神羅ライジング・NEX》。《ボルシャック・NEX》と《サンバースト・NEX》に続く第三の切り札だ」
 場に現れた《神羅ライジング・NEX》が吠えた時、その衝撃だけで《デ・バウラ伯》の体が粉々になって砕けてしまう。『永遠の牢獄』は何も言わずにそれを見ていた。
「驚いたか?《ライジング・NEX》は場に出た時、相手の場にある一番弱いクリーチャーを破壊する能力を持っている。もし《デ・バウラ》がいなかったら《パーフェクト・アース》が死んでいたぜ。運が良かったな」
『我を馬鹿にしているのか?』
 しばらくして『永遠の牢獄』が返す。その言葉は少しだけ怒気を含んでいた。
「感情的になり始めているみたいだな。冷静な振りはもうしていられないか?それじゃ、もっとすごい切り札を見せてやるぜ!」
『何!?さらなる切り札だと!?』
 征市の言葉を聞いて『永遠の牢獄』が思わず聞き返す。驚いた彼を見ながら征市は新たに三枚のカードをタップする。緑色のマナを一枚のカードに集めて場に投げつける。緑色の光を発して飛んでいったカードは金色の魔方陣を生み出した。
「《母なる聖域》を使った。効果で《コッコ・ルピア》をマナに送る。そして、マナからは真実からもらった俺の第四の切り札を出す!」
 マナから赤い光を持ったカードが飛んでいく。その光のあまりの眩しさに『永遠の牢獄』は顔を手で隠した。
 赤いカードが刺さった瞬間、《ライジング・NEX》が雄叫びをあげる。その気迫に、《パーフェクト・アース》と《ゼロ・フェニックス》が気圧される。
 赤い光は繭のように《ライジング・NEX》の肉体を包んだ。光の中でそのシルエットがさらに巨大になっていく。
 『永遠の牢獄』が顔を覆っていた手をどけた瞬間、光の眉からいくつもの光線が飛び出した。赤い炎のようなその光線は『永遠の牢獄』の場に雨のように降り注ぎ、《パーフェクト・アース》と《ゼロ・フェニックス》の肉体を容赦なく貫いて行った。
「待たせたな。ようやく登場だぜ!」
 《パーフェクト・アース》と《ゼロ・フェニックス》がその場に倒れた瞬間、光の眉を切り裂いてその切り札は姿を現す。《ライジング・NEX》と真実の切り札《邪眼王ロマノフI世》を融合させたようなその龍は六つの腕に巨大な銃剣を持っている。その銃口から煙が立ち上る。圧倒的なオーラを持った最強の切り札の名は《超神羅ロマノフカイザー・NEX》。究極進化クリーチャーから進化する究極進化MAXクリーチャーだ。
「《超神羅ロマノフカイザー・NEX》は場に出た時に相手のクリーチャーを二体破壊する。さらに……」
 征市が『永遠の牢獄』のマナゾーンを指した。すると、そこにあったカードの内、二枚が銃弾を受けて穴だらけになっていた。
「マナゾーンのカードも二枚破壊する。これでお前のクリーチャーは全滅だ!」
『だが、お前の手札ももうない。切り札とはいえ、そのクリーチャー一体で勝てるのか?時間は残り一分だ』
 征市がいる場所からは『永遠の牢獄』の頭上にある時計が嫌でも目に入る。時間がない事は言われなくても判っていた。
 だが、それを見ても征市は不敵な笑顔をやめない。
「そんな事くらい百も承知だぜ!《ロマノフカイザー・NEX》でシールドを攻撃!!」
 《ロマノフカイザー・NEX》の銃剣がシールドに向く。銃口から同時に吐き出された光線は全てのシールドを撃ち抜いていった。五枚のシールドがそれぞれ同時にひび割れ、砕け散って行く。
『一撃だと!?どうなっている!?』
「ワールド・ブレイカーだ。お前のシールドが何枚あろうが関係ねぇ!俺の切り札を全て打ち抜く!」
 それを聞いた『永遠の牢獄』は征市を睨みつけた。その目には怒りの感情が宿っている。
『我をここまで追い詰めるとは……。ただでは済まさん!』
 すると、割れたシールドの欠片が黒く輝いた。征市がそれに気付くよりも少し早く、シールドの欠片は重なり、そこから黒い手が伸びる。《ロマノフカイザー・NEX》がそれに銃剣の先を向けるが、間に合わない。シールドから現れた黒い手《デーモン・ハンド》は征市の切り札の腹部を貫く。悲しい雄叫びをあげて、最強の切り札の体は崩れ落ちていった。
『シールド・トリガーだ。勝つのは我だ!人類への復讐を成し遂げ、『魔道書同盟』の無念も晴らす!』
 勝利を確信した『永遠の牢獄』は征市の顔を見た。もう時間がなく、征市の場には他のクリーチャーの姿もない。《ゼロ・フェニックス》が破壊された時の効果を使ったので手札も残っていなかった。
 しかし、『永遠の牢獄』の手札には《キリュー・ジルヴェス》と《黙示賢者ソルハバキ》があった。マナのカードが二枚破壊されたとはいえ、この二体を召喚する事に支障はない。時間まで逃げ切ったとしても、直接攻撃を決めたとしても『永遠の牢獄』は自分が勝つと信じていた。そして、そこにある征市の顔は絶望と悔しさで歪んでいると信じていた。
 征市の顔は不敵な笑みをやめない。それどころか、口を大きく開けて笑っていた。『永遠の牢獄』はその行動の意味が理解できなかった。
『絶望し、狂ったか』
「いいや、違うぜ。俺は正気だ。お前、人間ごときが何度も奇跡を起こせるものかって言ったよな?だけど、ここまでで二度、奇跡が起きた。一つは、俺の仲間達が魔力と一緒に新しいデッキを送ってくれた事。お陰で俺は再び、立ち上がる事ができた。もう一つは、俺が四つの切り札を使ってお前を追い詰めた事。これでお前を倒すまであと一息のところまで辿り着いた」
『だが、所詮人間のやる事。それが限界だ』
「そして、三つ」
 自信に満ちた征市の声が響く。『永遠の牢獄』は目を疑った。そこには、今までなかった炎の塊が宙に浮いていた。炎の塊の中から刀が飛び出てくる。
「俺の最強の切り札がここにいる!これで俺は勝つ!」
 刀が炎の塊を切り裂いた。その中から出て来たのは太い足で体を支え、両腕で大きな刀を握り、侍の鎧のような甲冑で身を守り、左目に傷を負った征市の相棒だ。
「俺の最後にして最強の切り札《ボルシャック・大和・ドラゴン》だ!!」
 場に現れた《ボルシャック・大和・ドラゴン》は刀の切っ先を『永遠の牢獄』に向けた。敵を切る準備は万全だ。
『何故だ……。何故、そのクリーチャーが出てくる?』
「《ロマノフカイザー・NEX》はバトルゾーンを離れる時に山札の中からアーマード・ドラゴンを呼び出し、場に出す能力を持っている。この効果で俺は《ボルシャック・大和・ドラゴン》を呼び出した」
『嘘だ……。人間がこんなに奇跡を起こせるはずがない……』
「嘘なんかじゃねぇ!これが『ウソのようなホントウ』って奴だ!《ボルシャック・大和・ドラゴン》で『永遠の牢獄』にとどめだ!!」
 命令を受けた《ボルシャック・大和・ドラゴン》は両足に力を入れて飛び立つ。それを見た『永遠の牢獄』は一枚の黒いカードを場に投げた。
『《ハンゾウ》!我を守れ!』
「無駄だ!《ボルシャック・大和・ドラゴン》は墓地にある火のカードの数だけパワーが上がる!《ハンゾウ》が攻撃を妨害しても、《ボルシャック・大和・ドラゴン》には通用しない!」
 黒いカードから飛び出した《ハンゾウ》が口から黒い煙を出すが、それを振り切って《ボルシャック・大和・ドラゴン》は突き進む。『永遠の牢獄』の前まで来た瞬間、振り上げられた刀が振り下ろされる。『永遠の牢獄』が逃げる間もなく、その刃は体に飲みこまれていった。
 『永遠の牢獄』の頭上にあった時計が砕け散る。そして、彼が使役していたクリーチャーとカードが黒い粒子を出して消えていった。
『我が……我が滅ぶというのか?主が生み出し、お前に取りつき、長き年月をかけて準備をしていた我が……』
「ああ、これで終わりだ。お前達の復讐は失敗したんだ」
 《ボルシャック・大和・ドラゴン》が刀を引き抜く。『永遠の牢獄』はその場に倒れた。その体は手と足の指先から黒い粒子となって消えていく。
『終わりなど認めるか……。こんな終わりなど……我は……認めない……』
 肉体全てが黒い粒子となって消えた。それを見届けた征市はデッキを手にして上を見る。温かい光が降り注いでいた。彼の顔が和らぐ。
「終わった。これで本当に終わったんだ」
 後ろを見ると、ドアが開いていた。征市は自分のいるべき場所に帰るため、ドアに向かって歩き出した。

 一真は病室で新聞を見た。日付は四月一日。一面には今日から施行される法律や条例に関する事柄が書かれていた。
 何も変わらない、いつもと同じ四月最初の日がやって来た。
「終わって見ると、随分呆気ないものだな」
 ベッドの横に座っていたマシューが言う。無事四月一日が来て緊張が解けたのか、やわらかい表情をしていた。
「あいつらはよくやってくれた。総長の代から続いた『魔道書同盟』との戦いもこれで終わりだな」
「……少し、不満そうだな」
 一真の口調はいつも通りだった。だが、付き合いの長いマシューはちょっとした違いに気付いていた。
「こんな体だから仕方ないが、俺も戦いたかった。引退する前に大きな戦いを経験したかった。おかしいと思われるかもしれないが、これが戦士としての俺の偽らざる本音だ」
「なら、現役でいればいい」
 反射的にマシューが言い返す。まるで、前からこう言うと決めていたかのように。
「君が訓練士として生きるなど面白くない。君がいた場所はしばらく僕が守る。リハビリをして戻って来い」
「それはどういう事だ?」
 戸惑う一真を見てマシューは鞄から数冊の本を出した。それらは全て日本の主要都市の旅行ガイドだった。
「しばらくトライアンフジャパンのサポーターとして力を貸す事になった。仕事が休みの時には旅行に行くと決めている。行きたいところがなくなったらアメリカに変えるつもりだ。それまでにトライアンフジャパンに戻って来い」
 そう言ってマシューは旅行ガイドを見た。
「最初は大阪だな。本場の『くいだおれ』を見てみたい」
「行きたいところがなくなったらと言うが、お前が日本に飽きるとは思えないな」
 一真が目を細めて言う。マシューは言葉の続きを待った。
「近場だったら俺も付き合う。だから俺が現役に戻るまで待っていてくれ」
 その言葉を聞いてマシューの顔が輝く。
「現役に戻ると言ったな!嘘ではないな!?」
「嘘をつく意味がない」
 マシューは急いで旅行ガイドを鞄につめると立ち上がった。その頬が上気している。
「どこに行くんだ?」
「彼らに知らせてくる。今日は留守番を頼まれているんだ」
「そうか。今日は征市がイギリスに行く日だったな」
「僕は反対した。イギリスは食事がまずいからな。奴らは味覚が狂っている」
 そう言ってマシューは病室を出た。『魔道書同盟』に勝利し、さらに秘密裏に用意されていた『永遠の牢獄』まで下した彼らの力を、一真は誇りに思う。同時に彼らに並ぶ実力を身につけたいと思っていた。
 トライアンフ最強というのはもう過去の話だ。一真のデュエリストとしての実力は、現役のトライアンフメンバーに比べて劣っている。それが我慢できなかった。
「俺もデュエル・マスターズ以外の仕事はできない男って事か」
 満足そうな顔で一真は微笑み、窓の外を見た。その日差しは、もう春のものになっていた。

 空港には征市と一緒に戦った仲間が見送りに来ていた。旅立ちの時が近づいている。
「おや、セーイチさん。眠そうですね」
 あくびをした征市を見て陸が笑う。
「当たり前だ。あの後、本当に徹夜で送別会をやりやがって。しかも、俺とお前以外みんな途中で寝てたじゃねぇか!」
「はっはっは!そう言えばそうでしたね!」
 そういう陸は元気だが、目が赤い。彼も寝不足だ。
「イギリスでの生活のサポートはトライアンフイギリスに頼んであります。トライアンフ所有のアパートがあるのでそこで暮らして下さい」
「悪いな、菜央。助かったぜ」
 『永遠の牢獄』との最終決戦の準備と並行して、征市のイギリス行きの準備を手伝ったのは菜央だ。他のメンバーも手伝おうとしたが、却って邪魔になる事が判ったため、菜央が中心になって仕事を進めた。
「どういたしまして。イギリスに行っても頑張って下さい。向こうのトライアンフのサポートもお願いしますね」
「ああ……。やっぱり、そういうのがあったんだな。裏があると思ったんだよ」
 菜央が意地悪い顔で微笑んだ。
「征市さん、あの……誕生日プレゼントです!」
 湊が綺麗な包みを差し出す。片手で持てるほどの小さなプレゼントだ。
「万年筆が入っています。おしゃれな征市さんにぴったりだと思うんです」
「万年筆か。ありがとう、湊。あっちに着いたら、これで手紙を書くよ」
 征市は嬉しそうな顔でそう言うと湊の頭を撫でた。
「当然、アタシも誕生日プレゼントを用意しているのよ!征市さん、どうぞ!」
 彩矢が征市に手渡したのは正方形の包みだった。湊のプレゼントと同じように片手に乗るような小さい包みだ。
「中には腕時計が入ってまーす!大事にしてね!」
「ありがとう。今の俺、ケータイ持ってないから時間が判らなくて不便だったんだ。助かったぜ。……そう言えば、陸だけは誕生日プレゼントくれなかったな。プレゼントとは言ってないけれど、菜央も一応あっちでの住まいを用意してくれたし」
 その場にいた全員の目が陸を見た。陸は肩をすくめて言う。
「嫌だなぁ。送別会の時に、コーラについていたおまけのストラップあげたじゃないですか。それに自分から誕生日プレゼントをねだるなんて意地汚いですよ」
「あれがプレゼントかよ!お前なぁ……」
 征市は呆れた顔で陸を見た。そんな征市の前に彩弓が立った。両手で小さな包みを差し出す。
「征市君、二十歳のお誕生日おめでとうっ!」
 彩弓が差しだしたのは、去年の誕生日と同じような青い包装紙に包まれた小さな箱だった。征市はそれを受け取る。
「今、開けてみていいか?」
「うん!今、開けてみて欲しいな」
 征市は包装紙をはがして中の箱を開ける。そこには、ケースに入ったネクタイピンが入っていた。去年、征市がもらって今もつけているラペルピンと同じように羽ばたいた鳥の翼のようなデザインのネクタイピンだ。
「これも、ずっとつけていてもらえるよね?」
「ああ、ずっとだ」
 そう言って征市は紺色のネクタイをネクタイピンで留めた。そのネクタイも真実からもらったものだ。
 アナウンスが聞こえて征市は顔を上げる。別れの時だ。
「みんなプレゼントありがとう。しばらく日本を留守にするけれど、よろしく頼む。みんな元気で。それじゃ、行ってくるぜ!」
 最後は、言葉を涙で震えさせながら征市は言った。赤いブレザーを翻し、彼は仲間の元を去る。
「行ってらっしゃい!」
 彼の仲間達は、その言葉で大人になった赤いブレザーの青年を見送った。

 イギリスの地についた時、空港は夜だった。空気の違いに戸惑いながら征市は足を踏み出す。
『もう、出てもいいか?』
 スーツケースの中から声が聞こえる。それは二号の声だった。彼はスーツケースの中に入って征市について来たのだ。
「駄目だ。まだ我慢しろ」
 人が少ないのを確認してから征市はスーツケースの中の二号に返す。
『スーツケースの中は辛いんだよ。こんな事ならついてくるんじゃなかった』
「お前がついてきたいって言ったんだろ?彩弓か菜央に預かってもらえばよかったな」
『ペットみたいに言うな。お前を近くで見守りたいっていう俺の親心が判らないのか』
「誰が親だよ」
 そう言って征市は近くの椅子に腰かける。空港には現地のトライアンフのメンバーが迎えに来る事になっていたが、まだ誰も着ていなかった。
「腹が減ったな」
 征市は空港の中にあるファミリーレストランを見て呟く。
『イギリスの飯はまずいからやめとけってマシューの奴が言ってただろ?』
「あいつは言う事が大袈裟なんだよ。アメリカンジョークか何かだろ?あれって。それに俺はこれからここで暮らすんだ。まずくても食わないと死ぬ。あと、空腹は最高の調味料だって言うぜ」
 そう言って征市が立ち上がった時、空港の入り口のガラスを突き破って車が入って来た。
 悲鳴と怒号が当たりを包む中で征市は呆然とした顔でそれを見ていた。車からは黒いローブを着た数人の男が降りてくる。男達は全員、銀色で先に大きな青い宝石のようなものがついた杖を持っていた。装飾が非常に細かい。 杖としての実用性がないアイテムだが、一目見た征市はその危険性に気付いていた。
「プライズだな」
『どれどれ』
 スーツケースの中から二号が顔を出した。
『あいつら……』
「二号、あいつらを知っているのか?」
『ああ、イギリスで活動をしている魔法を使ったテロ組織だ。確か『カオス・コントロール』って名前だったな。トライアンフのメンバーだったら見過ごせない相手だぜ?』
 スーツケースの中から出た二号が悪戯っぽい顔で征市を見た。
「俺はもうトライアンフじゃねぇんだけど……判ったよ」
 諦めたような溜息をついて征市はカオス・コントロールのメンバーを見た。リーダーらしい禿頭の男が声を張り上げる。
「諸君!我々はカオス・コントロールである!諸君らは罪のない一般市民である。だが、魔法による秩序の回復と混沌の制御のため、生贄になって欲しい!」
 リーダーの周りにいた男達が杖の先についている宝石を周囲の人間に向ける。周囲の人間は怯えきった顔で彼らを見ていた。
 宝石が青白い光を発したその時、リーダーの周りにいた男達は赤い光弾によって吹っ飛ばされた。全員、後ろにあったガラスの破片にダイブする。
「な、何が起こったというのだ!?」
「お前ら、悪い奴だな?」
 吹っ飛ばされた者達を見ていたリーダーはその声を聞いて声の主を探す。
 空から入ってくる風が赤いブレザーと紺色のネクタイをなびかせる。ラペルピンとネクタイピンの銀色が蛍光灯の光を受けて輝く。黒い前髪を指先ではらうと征市はイギリスで初めて出会う敵の姿を見た。
「何者だ!もうトライアンフが来たのか!?」
「俺はトライアンフのメンバーじゃない。今はな。敢えて名乗るんだったら……そうだな。侍の国からやって来た正義の味方だ」
 そう言った征市は挑発的な顔でデュエル・マスターズカードを見る。赤い光弾はカードを通じて魔力を発射したのだ。
 それを見たリーダーの顔が驚きで歪む。
「それはデュエル・マスターズカードか!何よりも戦闘に特化した魔法の奥儀で、機関銃による銃撃はおろか、核ミサイルすら受け止めると言われているそのカードをお前のような奴が……!」
 驚きながら、リーダーは次の行動に移る。ローブの中から黒いデッキケースを取り出した。彼もデュエル・マスターズカードを持っていたのだ。
 だが、シールドとしてカードをセットする仕草は不慣れなものだった。カードを手にして日が浅いのがよく判る。
 既に結界が張られて一般人からは自分の姿が見えていない事を確認した征市は、左手にポケットチーフを乗せる。右手の指を鳴らすと赤い光と共にポケットチーフが飛ばされた。何も乗っていなかったはずの左手には金属で出来たデッキケースが乗っていた。
「デュエル・マスターズカードを使えるからと言って強いとは限らない!私が負けるはずがない!」
「お前、俺を只のデュエリストだと勘違いしてないか?まあいいや。お前、今から起こる事をよく覚えておけ。お前は俺に倒されて、魔法警察に……いや、ここではそれもトライアンフが管理してるのかな。お前はトライアンフに身柄を拘束される」
 征市は目の前に五枚のカードを投げた。それは赤いシールドとなって彼の身を守る。
「そんな事はありえない!お前のような名も知らぬ男に負けるものか!」
「ありえるんだよ!俺はお前みたいに魔法を使って悪い事をする奴と戦ってきたんだ。デュエル・マスターズカードを使えるだけの奴には絶対に負ける気がしねぇ!お前は今から起こる事を嘘だと疑うかもしれないがそんな事はない」
 五枚のカードを手札として引いた征市は右手で相手を指す。闘志に満ち溢れた両目で敵を射抜くと、彼はいつものようにこう言った。
「さあ、見せてやるぜ。『ウソのようなホントウ』って奴を!」


 『コードD』 THE END.
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