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決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ! VISION.1

決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ!

我々の住む地球から遠く離れた場所にある惑星ルーン。
地球と同じように緑に囲まれたこの星で、人間の歴史と共に存在し続けるものがあった。
それは、デュエル・マスターズカード。
失われた文明の遺産として太古の遺跡から発見され、人々の英知を超えた力を発揮するそれらのカードは様々な形で人々の暮らしを助けて来た。
デュエル・マスターズカードの中でも特に貴重で、最も強力な力を持つと言われるレジェンドカード。
これは、レジェンドカードを求める若者達の物語である。

VISION.1 遭遇!伝説のカード!!


「行くぞ。俺のターンだ!」
どこの町にも学校があるように、この町、ルカーノにも学校があって、生徒達がいる。数人の少年少女が集まって二人の生徒の戦いを見ていた。
戦いと言っても、怪我をするような危険なものではない。本物のデュエル・マスターズカードでの戦いに見立てたデュエル・マスターズごっこだ。トランプに本物のカードと同じ効果とイラストを書いた紙を張り付けて使っている。代用品のカードを使ったごっこ遊びでしかないが、そこにいる者達は本物のカードで戦うデュエルと同じように熱中していた。
赤茶色の髪をした少年がカードを引く。軽く深呼吸をした後、相手を見た。
「どうした、レイモンド。いいカードが引けたか?どんなカードが引けたとしても、俺には勝てないさ!」
対戦相手のそばかすが目立つ少年が言う。彼の場には攻撃ができるクリーチャーが一体いて、シールドこそないものの、ブロッカーが彼を守るように立っていた。レイモンドと呼ばれた赤茶色の髪の少年は、カードを持っていない左手で針の山のように尖った自分の髪を撫でつける。
「ドビー、対した自信だな。いいカードを引く必要はない。既にいいカードは手札にある!《超次元シューティング・ホール》!!」
「あっ!そのカードは!」
ドビーと呼ばれたそばかすの少年が驚き、観客の少年少女はざわめく。この逆転を想定していたレイモンドは対戦相手と周囲の反応を見て静かに微笑み、持っていた赤いカードを場に出した。
「《シューティング・ホール》は相手のブロッカーを破壊する呪文だ。これでお前のブロッカーを破壊する。ドビー、これでお前を守るものは何もなくなった!」
「やられた……。だけど、これで勝ったと思うなよ!お前には攻撃できるクリーチャーがいないんだからな!」
ドビーはそう言うと、椅子に体重を預けてふんぞり返る。「お前の負けは決定している。何をしても、それは変わらない」とでも言うような態度だった。
対して、レイモンドは冷静だった。静かに指を振ると、机の上にあったカードの束から一枚のカードを指先でつかむ。全員の視線がそのカードに集まり、ドビーは息を飲んだ。
レイモンドは、自分の戦い方は間違っていなかったというように背筋を伸ばしてそれを場に出す。
「《シューティング・ホール》は特別な呪文だ。ブロッカーを破壊するだけでなく、超次元ゾーンからコスト9以下の火のサイキック・クリーチャーを呼び出す事ができる。俺が呼び出すのは、切り札《ガイアール・カイザー》だ!」
「うわぁっ!」
逆転の一枚を出された事で、ドビーは顔を覆う。そのドビーを追い詰めるように、レイモンドは口を開いた。
「《ガイアール・カイザー》はスピードアタッカーだ。普通のクリーチャーとは違い、召喚酔いにならない。出したターンに攻撃できる。判るな、ドビー?」
ドビーは答えない。周りの子供達の歓声を聞きながら、レイモンドは自分が出した切り札の上に指を添えて宣言した。
「《ガイアール・カイザー》でドビーに攻撃だ!」
レイモンドの双眸で射抜かれたドビーは、必死になって自分の手元にあったカードを見る。だが、その中に逆転を可能にする一枚はなかった。
「まいった……。俺の負け、だ……」
絞り出すような声でドビーが言った瞬間、今まで以上に大きな歓声がその場を包んだ。レイモンドは嬉しそうな笑みを浮かべると、自分のカードを片づけて立ち上がる。
「やった!Bクラスで一番強いドビーにレイモンドが勝った!これで、学校最強はレイモンドに決まった!」
「俺、すごいところ見ちゃった!」
「おめでとう、レイモンド!今の気持ちはどうだ?」
多くの生徒達が対戦の感想を漏らす中、数人の生徒がレイモンドにインタビューをする。メモ帳と鉛筆を手に持った彼らは新聞部の部員だ。
「ドビーは強かった。今回ばかりは勝てるかどうか判らなかったよ。それより……」
穏やかな顔でインタビューに答えたレイモンドは、羽織っていた白いデニムジャケットのポケットからカードの束を取り出した。それを見て、生徒達はすぐにそれが何か察した。
「新しいカードか!」
「そう、父さんのノートを見て新しく作ってきたデュエル・マスターズカードのサンプルだ。欲しい人は明日、欲しいカードと枚数を言ってくれよ。俺はそろそろ……」
カードの束を近くの机の上に置いたレイモンドは、窓に向かって走り出した。そして、開いている窓から外に飛び降りる。
二階だったが、彼が窓から下に飛び降りるのは日常茶飯事だった。青いジーンズに包まれた足から綺麗に着地したのを確認した生徒は、サンプルのカードに飛び付く。
それと、同時に大きな足音が廊下から聞こえて来た。生徒達は目の色を変え、目の前にあるカードを急いで机の中に隠した。全て隠し終えるのと同時に太った中年の女性がドアを開けて教室に入って来た。
「レイモンド・フラッグ!レイモンド・フラッグはいるの!?」
「あの、スキナー先生……。今日はもう、レイモンドは帰りました。……窓から」
「そう!玄関で待っていても来ないわけだわ!今日こそは、学校で商売をしないようにきっちり言い聞かせるつもりだったのに!」
スキナー先生は肩を怒らせながら戻って行く。去り際に教室に残っていた生徒達を見て
「あなた達!レイモンドが何か売っても相手にしちゃ駄目よ!」
と、釘を刺していった。スキナー先生が去ってしばらくすると、新しいカードのサンプルを見ながらドビーがこう呟いた。
「相手にするなっていうけれど、無理だよな。あいつが持ってくるものは面白いものばかりだ。一部の大人しかできないデュエル・マスターズをやれるようにしてくれたのもあいつだ。先生じゃ、レイモンドには勝てないよ」
その言葉に、その場にいた者達全員が頷き、彼らもサンプルのカードを手に取った。

学校を出たレイモンドは馬車に乗っていた。隣にいるのは、この馬車の持ち主で中年の紳士だ。紺のジャケットと整えられた口髭が似合うこの男の名は、シェル・セイドン。ルカーノの町長だ。周囲の町に比べて大きくて人も多いこの町をまとめている。ルカーノが大きな町になったのはシェルと、レイモンドの父で商人のレオパルド・フラッグの功績によるものが大きい。
「また、学校で商売をしたのか」
整えられた口髭に覆われた町長の口から最初に飛び出したのは、その言葉だった。レイモンドは悪びれる事なく「ああ」と答える。
「また、先生に怒られる事になるぞ」
「みんなデュエル・マスターズカードで遊んでみたいと思っている。本物は他の町に持って行かれてしまうけれど、ごっこ遊びのためのカードなら俺だって作れる。みんなが欲しいものを売るのは商人の仕事だ。父さんみたいな人に好かれる商人のね」
レイモンドは馬車の中から外を見て言う。レイモンド達が乗る馬車とは逆の方向に行く馬車が、その目に映った。あれは、この町で発掘されたデュエル・マスターズカードを別の町に送る荷馬車だ。
デュエル・マスターズカードは過去に滅んだ古代文明の遺産の一つだ。世界各国の様々な遺跡から発見される事がある。デュエル・マスターズカードは一枚では何の力も持たないが、四十枚のカードを組み合わせる事で(四十枚組みあわせたものをデッキと呼ぶ)剣や銃を上回る武器として扱う事ができるようになる。
デュエル・マスターズカードのデッキを使って戦う事をデュエルと呼ぶ。今、世界では戦争の代わりにデュエルで覇権を争っている。デュエルでは負けても怪我をするだけで済み、命を失う事がないからだ。
「他の町に送られるカードが気になるか?」
「いや、別に。俺には、父さんが遺してくれたデッキがある。あれが見つかったら、すぐに出発するさ!」
「まだ諦めていなかったのか……」
「もちろんさ!」
呆れたようにいう町長に対して、レイモンドは目を輝かせて言った。そして、ジャケットのポケットから新聞記事の切り抜きを取り出した。
「おじさん、これを見てよ。イレクの地下から奇妙なカードが見つかったっていう記事だ。もしかしたら、レジェンドカードかもしれない」
「レオパルドが探していた伝説のデュエル・マスターズカードか」
シェルは過去を懐かしむような顔で、静かに呟くように言った。
レジェンドカードとは、他のデュエル・マスターズカードとは比べ物にならないほどの力を持つカードだ。レジェンドカードは意思を持っていると言われている。自身が認めた者にしか力を貸さないのだ。
そして、レジェンドカードは自分が選んだ主の願いを一つだけ叶えると言われている。レイモンドの父、レオパルドが探していたように、世界にはレジェンドカードを探す者達がいるのだ。
「そう!デュエル・マスターズカードの事はほとんど知っていた父さんでも、一枚しか見つけられなかった謎のカードさ。俺は必ず全てのレジェンドカードを見つけてやるんだ」
「お前の言いたい事は判ったよ」
町長はレイモンドの頭を押さえつけるように撫で回す。
「だけど、お前の言うようなレジェンドカードを探す旅に出るのは、お前が学校を卒業してからだ」
「父さんは途中で学校を放り出して商人になって世界を旅したんだろう?」
「お前も同じようにやる必要はないさ。ほら、家に着いたぞ」
馬車の速度が落ち、少しして止まった。
「判ったよ」
と、呟いてレイモンドは馬車を降りる。そして、町長の顔を見ると
「父さんが遺したデッキが見つかるか、学校を卒業したら、冒険を始めるからね!」
と言って、家に向かった。シェルは頭を抱えて
「レオパルド。昔のお前を見ているようだよ……」
と、天を仰いだ。

荒れた道を馬車が走っていた。土色をした道が続くため、馬を操っていたその男は退屈に負けて眠ってしまいそうになるのを必死でこらえていた。
「おい、交代はまだか?」
「まだだよ。さっき交代したばかりだろ」
退屈さに耐え切れず、馬車に乗っている仲間に声をかける。彼が言うように、交代をしてから十分も経っていなかった。諦めて前を見た時、後ろから声がかけられる。
「真面目にやれよ。ファミリーの奴らがどこかで狙っているかもしれないんだぞ」
相棒からのその一言を聞いて、目が覚めたかのように手綱を握った男の背筋が伸びる。大きく目を開けたその男は背後にいる相棒を見ずにこう返した。
「お、脅かすなよ」
その声は震えている。無理もない。彼らが馬車で運んでいるのは、ただの人間ではない。指名手配となり、賞金が懸けられていたザーガファミリーのボス、ドン・ザーガだったからだ。
ドン・ザーガはこの地方、いや、この国において稀に見る凶悪犯だった。
四十人近い部下を従えたドン・ザーガは、違法な賭けデュエルの元締めだった。ドン・ザーガ自身もかなりの手練で、誰も彼がデュエルで負けた姿を見た事がない。
彼が仕切る賭けデュエルは危険極まりないものだ。勝者は大金を得る事ができるが、敗者には死か、ファミリーの下部組織での強制労働が待っている。勝てば破滅からは逃れられるが、勝ち続けた者はファミリーに目をつけられ、賭け率の操作のために闇に葬られる。賭けデュエルに手をつけた時点で勝っても負けても待つのは破滅だ。ドンは借金を抱えた者達にデュエル・マスターズカードを握らせ、この戦いを強いている。
それ以外にも余罪があるドン・ザーガを二人だけで護送するのは危険なように思える。しかし、十メートル近く離れて前後に地方警察の馬車がいる。護衛の馬車の目を盗んでドン・ザーガを奪還するのは簡単な事ではない。
「前にも後ろにも馬車がいるんだ。いくらファミリーがドンを奪還しようとしているからって、この状況で手は出さないだろっ?」
手綱を握る男は上ずった声で馬車の中の相棒に聞く。暑くもないのに、顎から汗が垂れるのを感じていた。
「もしもって事もある。ドンのデッキは後ろの馬車だから、万が一の事があっても、ドンはデッキを使えない。それに、ドンは今、麻酔で眠っている。明日まで目を覚まさないさ」
「俺のデッキは後ろの馬車か。いい事を聞いたぜ」
地の底から響くような低い声を聞き、手綱の男は思わず、後ろを向いた。
「脅かすなよ」
「いや、俺じゃない!……奴だ!ど、ドン・ザーガが起き上がっている!!」
「何っ!?」
手綱の男が馬車の中を凝視しようとした瞬間、馬車の周囲で何かが爆発するような音がした。周りを囲む破裂音に馬が驚き、暴れ始める。
「お、落ち着けっ!うわっ!」
人間が暴れる馬の力に勝てる訳がない。手綱を握っていた男は投げ出され、近くの岩に背中からぶつかってしまった。馬車の中の男も地面に投げ出されたが、すぐに立ち上がって懐から銃を取り出した。その銃口を、さっきまで自分達が乗っていた馬車に向ける。
横倒しになった馬車からゆっくりとした動きで大柄の男が出てくる。顎髭を撫でながら鋭い眼光で睨みつける。
「う、動くなっ!何で……何でだよ、麻酔が効いていたはずだぞ!?」
「こんな服着せやがって……」
馬車から下りたドン・ザーガは男の問いには答えず、自分の今の姿を見て呆れたように溜息を吐いた。彼が着ていたのはボーダーの囚人服だ。
「マフィアのドンの格好じゃねぇ。すぐに着替えを用意させるか」
「何で、起きてるんだよ!お前はっ!」
銃を持った男の怒声が響く。
相手が凶悪犯罪者であるとは言え、丸腰で手錠をかけられている。それにザーガの右足には鎖につながった鉄球がついていた。麻酔に加えてあの鉄球の重量で動きを止めるのが地方警察の狙いだったのだ。
常識的に考えたら、抵抗する力さえ奪われているザーガに対して銃を持った男が怯える理由など何一つない。しかし、銃を持った男の声は、犬などの動物が怯えて威嚇する時のそれに似ていた。
「お前、俺が本当に麻酔をかけられたと思っていたのか?」
ザーガはそこで初めて銃を持った男を見た。震える銃口はザーガを正面から見ていない。
「お前達が雇った医者はな。賭けデュエルの常連客の一人だ。戦う方じゃなく、勝敗を賭ける方のな。負け続けて、俺達からの借金が膨れ上がっていった。今じゃ、俺達の言う事には何一つ逆らえねぇ」
「そんな馬鹿な……」
「味方だったと思っていた奴が敵だと判った気分はどうだ?」
ザーガの小馬鹿にしたような笑みを見て、銃を持った男は顔に怒りの表情を浮かべる。怒りが恐怖を打ち消したのか、銃の震えも止まった。
「さっきよりいい顔をするじゃねぇか。だが、格が違うんだよ」
ザーガが歯を見せて笑った瞬間、銃を持った男は自分の後頭部に衝撃を受けて倒れた。地面に崩れる瞬間、視界の隅に数人の男達が見えた。
「お前……部下が……」
「待たせていたに決まっているだろう?地方警察の中には俺達に情報をくれる者もいる。俺を護送する道を知る事くらい、朝飯前だ」
ザーガの足が倒れた男の背中を踏む。金属が絡み合う音の後、その背中に手錠が叩きつけられた。倒れた男の視界には、ザーガの足を拘束していた鉄球が外されるのも見えた。
「行くぜ、ルカーノだ。あそこはカードがよく取れるからな。賭けデュエルをさせて、カードも買わせる。服もあそこで調達だ」
ドン・ザーガの命令と共に周囲の男が散る。凶悪犯罪者を逃がしてしまったという怒りと悔しさを感じながら、地方警察の男の意識は静かに消えていった。

家に帰った後、レイモンドは通学用の鞄とは別の鞄を持って出かけた。行き先は町外れにある洞窟だった。
この洞窟は、レイモンドが生まれるよりも前にデュエル・マスターズカードが発掘された場所だ。既に掘り尽くされていて、一枚のカードも出て来ない。
しかし、ここにはレイモンドが生まれた時にレオパルドが隠したデッキとレジェンドカードがある。十四歳の誕生日にシェルからその話を聞いたレイモンドは毎日、この洞窟の中を探している。
「これもまた冒険。伝説のカードを探す冒険だな」
洞窟の入り口でランタンに火を灯し、持ってきた鞄から一枚の紙を取り出す。両手で広げたその紙には、洞窟内部の地図が描かれていた。この数週間で調べた箇所が描きこまれている。
「今日は、ここだ!今日こそ、見つけてやる!」
洞窟の中はいくつもの道に分かれていた。レイモンドは、その分かれ道を毎日一つずつ調べていた。ランタンの燃料にも限界があり、学校で販売するカードも用意しなければならないので一日に調べられる時間には限りがあった。故に、一日に調べられるのは枝分かれした道の内の一本だけだった。
その日の道を決めたら、ランタンに灯りを点け、ただ進むだけだ。
洞窟の中はほとんど人の手が入っているため、危険はない。しかし、レイモンドにとってこれは自分だけの生まれて初めての冒険だと思っていた。
「ん?」
三十分ほど進んだ時、レイモンドは奇妙な感覚を覚えて立ち止まった。右を見て石でできた壁に手を伸ばす。
「ここだけ……色が違うな」
石の壁の色は毎日、飽きるほど見ているので見間違える事はない。光の加減で違うように見えるのかと思い、ランタンの光をかざしてみる。
「やっぱりだ」
レイモンドが触れた場所は周囲に比べて色が少し白かった。自然の岩を削ったり掘ったりした周りの壁とは違い、何者かによって作られたような色合いだった。
「怪しいな。……お?」
少し力を入れて押すと色の違う部分が動いた。重いドアのようにゆっくりとした動きでその壁は開いた。
「隠し通路があったのか。もしかしたら……!」
期待に胸を膨らませながら、レイモンドは開いた隠し通路をランタンで照らした。すると、そこには人が通れるように整備された道があった。それを見た瞬間、レイモンドはその道に足を踏み入れ、走り出していた。
根拠はないが、確信があった。この奥に父が隠したデュエル・マスターズカードがある、と。
「ここだッ!この先に、絶対にある!父さんが俺にくれたレジェンドカードッ!!」
道はレイモンドを惑わす事のない一本道だった。突き当りにドアがあり、開けようとしてノブを握ると鍵がかかっている事が判った。何の変哲もないドアで鍵穴に細工がしてあるようでもない。
レイモンドはそれを見て慌てる事なく、ネックレスのように首からぶら下げていた物を取り出した。それは紐で繋がれていた鍵だった。レイモンドは服の中から取り出した鍵をしばらく見ていた。
「父さん。昔、父さんがくれたこの鍵で俺はこのドアを開けるよ。この鍵で開けられる物の中に俺が求める物が入っているって言ったよね。これを開けて、俺は俺の欲しい物を手に入れる!そして、レジェンドカードと共にもっと大きな冒険の世界に飛び立つ!」
鍵を差し込んで回すと、ドアはすんなりと開いた。ドアの中は物置ほどのスペースしかなく、人間が一人入るのが限界だった。その床の上にカードの束と一枚のカードが置かれていた。カードの束は、デュエル・マスターズで戦うためのデッキだと判る。そして、一枚だけ別の存在として分けられていたカードも何なのか、レイモンドは理解していた。
「レジェンドカード……。レジェンドカードだ!」
滅多な事では驚かないレイモンドだったが、この時は感動と興奮で手が震えた。深呼吸して逸る自分の気持ちを抑えつけながら、赤いレジェンドカードに向かって両手を伸ばす。
「これが……俺が探していた……うわっ!!」
レイモンドの指先が触れた瞬間、赤いレジェンドカードは光を発した。その光はカードを隠してある小部屋は隠し通路だけでなく、洞窟全体を明るく照らすような強い光だった。レイモンドも反射的に目を閉じる。しばらくして光が弱まったのを感じたレイモンドは目を開ける。すると、自分の目の先に赤いレジェンドカードが浮いていた。
『あ~、よく寝たぜ。人間を見るのは十……四年ぶりくらいか?』
レイモンドの目の前で浮いているカードは人間の言葉を話し、レイモンドを見た後、瞬きした。信じられない事かもしれないが、カードに描かれた龍の口が開き、目が動いたのだ。
「い、生きているのか……?」
レイモンドもレジェンドカードの実物は見た事がない。父も詳しい事は教えてくれなかった。普通のデュエル・マスターズカードと同じようなものだと思っていた。
『おい、お前。お前、名前はなんていうんだ?』
レイモンドが呆けていると、赤いレジェンドカードの龍が話しかけて来た。
「俺は、レイモンド。レイモンド・フラッグだ」
『レイモンドか……。レオパルドが言ってた息子ってのは、お前の事だな?俺様は《ガイアール・カイザー》。人呼んで最強のレジェンドカードだ』
「ああ、よろしく。《ガイアール・カイザー》」
笑顔になったレイモンドは《ガイアール・カイザー》と名乗った鎧の龍のカードに手を伸ばす。しかし、《ガイアール・カイザー》はその手を避けるようにさらに上へと浮遊した。
『よろしく?お前、何か勘違いしてるんじゃねぇのか?俺達、レジェンドカードは自分で認めた奴にしか力を貸さねぇ。お前がレオパルドの息子でもそれは同じだ』
「なら、どうすれば俺を認めてくれるんだ?」
話しかけながら手を伸ばすが、《ガイアール・カイザー》は素早く動いているのでつかめない。
『簡単な事だ。そこにあるデッキと俺を使って、誰か強ぇ奴と戦えばいい。お前が強ぇ奴なら、勝てるだろ』
「強い奴って言っても、この町にデュエルができるのは――」
『おっ?』
ルカーノにデュエルができる者はいない。それを説明しようとした時、《ガイアール・カイザー》は赤く点滅した。何かを見つけたような目で遠くを見ている。
『来てるぜ。これは、レオパルドと一緒にいた時にも滅多に出会えなかったくらいの強ぇ奴だ。強ぇ奴の気配だ!』
《ガイアール・カイザー》は一人で納得すると、赤い光を出しながらレイモンドの脇をすり抜けて飛んで行ってしまった。
「待てよ!」
レイモンドは慌ててそこにあるデッキをつかみ、隠し通路を走った。

『あぁ!?何だ、こりゃぁ!!』
洞窟を抜け、ルカーノの町へ急いだ《ガイアール・カイザー》が見たのは、ドン・ザーガとその配下のマフィアだった。町の発展に尽力したレオパルドの銅像が建てられた中央の広場にザーガのファミリーはいた。その足元には、町の男達が倒れていた。
『シェル!お前もか!』
倒れた男達の中には、シェル町長の姿もあった。シェルは《ガイアール・カイザー》の声を聞くと顔を上げる。その額からは血が流れていた。
「その声……レオパルドの持っていたレジェンドカードか……。そうか。レイモンド、やったんだな」
そう言って、シェルは満足そうな笑みを浮かべると意識を失った。
「うめぇな」
前の持ち主、レオパルドの友人のシェルの姿を見て驚いていた《ガイアール・カイザー》は声のする方を見た。そこには、囚人服のドン・ザーガが葉巻をくわえている姿があった。
「葉巻は人生のオアシスだ。次に酒、次に服、次に女だ。判ったらさっさと行け」
ドン・ザーガの低く静かな声と共に、周りにいた三人の部下が走り出した。それを見た《ガイアール・カイザー》は吠えた。
『野郎ォッ!強ぇ奴と戦えると思ったが、とんでもねぇ事になってたみたいだぜ。許さねぇッ!絶対に許さねぇぞ!!』
《ガイアール・カイザー》はものすごいスピードで加速すると、ドン・ザーガのそばから離れた部下に向かって突進した。その速度は凄まじく、三人の部下は自分に突進してくるカードの存在に気付くのとほぼ同時に追突され、後方に吹き飛ばされていた。
『けっ、ザコが。次はお前だ!マフィアのドン!!』
倒れたマフィアを一瞥した後、《ガイアール・カイザー》はドン・ザーガに向かって突進していく。だが、ドン・ザーガはそれを避ける事なく、懐から取り出した物で受け止めた。
『げげっ!これは、デッキか!』
「人間の言葉を話し、自分の意思を持っている……。レオパルド・フラッグが十四年前にルカーノに持ち帰ったレジェンドカードか」
突如、現れた《ガイアール・カイザー》に怯える周囲の部下とは対照的に、落ち着いていたザーガはデッキを持っていない右手で《ガイアール・カイザー》をつかんだ。《ガイアール・カイザー》は身を震わせて逃れようとするが、ザーガの力が強くて逃れられない。
『畜生ッ!離しやがれッ!』
「離す馬鹿がいるか?レジェンドカードは持ち主の願いを一つ叶えてくれるんだろ?」
『馬鹿野郎がッ!レジェンドカードが願いを叶えるのは、自分の相棒と認めた奴だけだ。つまり、俺様が願いを叶える相手はレオパルドしかいねぇッ!!』
それを聞いたザーガは吹き出し、大きな声で笑った。その笑い声は《ガイアール・カイザー》を馬鹿にするような嘲笑と侮蔑の響きを持っていた。
『何がおかしいッ!!』
「お前は知らないのか?レオパルド・フラッグは七年前に死んだ。他の国に行く途中に死んだんだよ」
ザーガは、その言葉の一字一句全てを《ガイアール・カイザー》の心に刻みつけるようにゆっくりと聞かせた。途端に、《ガイアール・カイザー》の動きが止まる。
『死んだ……?レオパルドが……?嘘を吐くなッ!』
「嘘じゃねぇ。そこに倒れている町長を起こして聞いてみるか?」
『畜生ッ!』
突然、《ガイアール・カイザー》が赤く発光し、発熱する。煙が出るほどの高温になったため、ザーガはつかんでいる事ができずに手を離した。
「くそっ、逃げやがったか!」
『逃げたんじゃねぇッ!こうなりゃ、玉砕覚悟だ。この体が燃え尽きるまで戦い抜いてお前らをブチのめすッ!』
収まらない怒りを現すように、《ガイアール・カイザー》の体はまだ発光し、発熱を続けている。その勢いと迫力にマフィアの多くは怯えていたが、ザーガだけは恐怖を感じていなかった。それどころか、その目には怒りが宿っていた。
「物の癖に人様に楯突くとはいい度胸だ。俺の物にならない伝説なんかいらねぇ。その体、バラバラにしてやる!」
『上等だ!レジェンドカード、なめんじゃねぇッ!!』
体中に力をこめた《ガイアール・カイザー》が飛びかかろうとした瞬間、彼の体をつかむ手があった。その指先から流れる懐かしい感触に、《ガイアール・カイザー》の発熱が止まる。
『レオパルドか!?』
つかまれている状態では、後ろを見る事ができない。自分をつかむ者が自分を裏返した時、《ガイアール・カイザー》は驚いて小さく声を上げた。自分の体に懐かしい感触を与えたのは、さっきあったばかりの少年、レイモンドだったからだ。
「《ガイアール・カイザー》、カードは一人じゃ戦えない。デュエリストも一人では戦えない。今だけ、俺に力を貸してくれ!」
レイモンドは、《ガイアール・カイザー》と一緒に封印されていたデッキを見せる。それを見た《ガイアール・カイザー》は溜息を吐くような声で言った。
『レオパルドがいないなんて、今の俺様にはまだ信じられねぇ。それに、お前の事は認めてねぇ。だから、一回だけだ。あそこにいるマフィア野郎をブチのめす時だけ力を貸してやるッ!』
「交渉成立だ」
《ガイアール・カイザー》に向けて爽やかな笑みを浮かべた後、レイモンドはデッキをザーガに向けて突き付ける。その顔は、戦う男のものになっていた。
「おいおい、聞いてねぇぞ。ルカーノにはデュエリストはいないはずじゃねぇのか?」
愚痴るような口調で言うが、それとは逆に嬉しそうな表情でザーガが立ち上がる。彼の心は、いかにして相手を倒し、どうやって傷つけようかというサディスティックな感情で満たされていた。町を守り、悪漢を追い出そうというレイモンドと《ガイアール・カイザー》のコンビとは正反対の感情だ。
レイモンドとザーガが慣れた手つきでデッキのシャッフルを終えると、彼らの前の地面が発光し、光の中から白いテーブルが現れた。二人のデュエリストは、所定の位置にデッキを置く。置いたデッキの上から五枚のカードを取り、横一列に並べた時、ドアくらいの大きさの青い壁が現れる。これが、デュエリストを守る楯、シールドのビジョンだ。シールドの設置を終え、二人は上から五枚のカードを引いた。
『おい、レオパルドジュニア』
デッキの横にある超次元ゾーンに置かれた《ガイアール・カイザー》がレイモンドに話しかける。
「誰がジュニアだ」
『お前だよ。お前は、デュエルの経験はあるのか』
「ないね」
『そうか、ないのか……。ああッ!?お前、ふざけてんのか!初心者がまぐれで勝てる程デュエルは甘くねーんだぞッ!!』
レイモンドの経験を問うた《ガイアール・カイザー》は真っ赤に発光し、その場で跳びはねた。それを視界の端で捉えながら、レイモンドは自信に満ちた声で言う。
「だけど、ここには父さんのデッキとお前がいる。《ガイアール・カイザー》、お前の力を見せてもらうぞ」
その言葉を聞いて、《ガイアール・カイザー》は跳びはねるのをやめた。
「もう一度言う。俺にはちゃんとしたデュエルの経験はない。だけど、父さんのデッキとお前がいればこのデュエルは勝てる!」
『言ってくれるじゃねぇか。レジェンド様の力、見せてやるぜッ!』
レイモンドの言葉に呼応して《ガイアール・カイザー》が雄叫びを上げる。それを聞いて怯えたのか、ザーガの周りにいた子分達は銃を抜いた。十近い銃口は、全てレイモンドを向いている。
「やめろ」
意外な事にそれを制したのは、ザーガだった。
「レジェンドカードじゃなくてもデュエル・マスターズカードには奇妙な力がある。デュエルをしている最中の人間は、その奇妙な力に守られて傷つけられない。銃弾なんか通じねぇよ」
『そうだぞ!ザコはどいてろォッ!!』
《ガイアール・カイザー》の咆哮が広場に響く。恐怖の限界が突破した一人の銃が火を吹き、弾丸がレイモンド目掛けて一直線に飛ぶ。しかし、その弾丸はレイモンドに当たる事なく、空中で静止した。一秒ほど宙に浮いていたが、すぐに重力に引き寄せられて地面に落ちる。
「言っただろ。銃弾で蜂の巣にするのは、俺がデュエルで奴を倒してからだ」
ザーガは舌舐めずりをしてレイモンドを見る。その目は、何人もの獲物を葬ってきた野生の狩人のような光が宿っていた。
「先攻はお前にくれてやる。がんばりな、ボウヤ」
「じゃ、遠慮なくこっちからやらせてもらう。マナチャージ!」
レイモンドは手に持っていた五枚のカードから一枚選んでその場に置く。すると、置かれた瞬間、そのカードが赤く光った。
「これが本当のデュエル……」
『こいつらも戦いたくてうずうずしてんだ!俺様と一緒に十四年も待ってたんだからなッ!』
「そうみたいだな」
行動を終えたレイモンドはザーガを見る。不敵な笑みを浮かべたザーガはカードを引き、手札から一枚、マナとして置いた。それは黒い光を発した。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる。無駄口を叩く暇があったら、命乞いの台詞でも考えたらどうだ?」
「そんな必要はないね。勝つのは俺だ。それはもう決まっている!」
レイモンドはカードを引いてマナをチャージした。それだけで行動を終えてしまう。
「2ターンもチャージだけか。遅いな。やる気がねぇんなら、サンドバッグみてぇに殴りまくって沈めてやるぜ!」
ザーガはマナとしてカードを置いた直後、置かれた二枚のカードに手をかける。彼の手によってカードが直角に向きを変えた時、それぞれ黒い光を発した。
「闇のマナを二つ!召喚《デンデン・パーカッション》!」
ザーガは手元から一枚のカードを引き抜き、テーブルの上に置く。するとそのカードが黒い光を発して、その中から奇妙な生き物が現れた。オレンジ色に近い体色をして、自分の体よりも大きい太鼓を持った小悪魔《デンデン・パーカッション》だ。
「俺のデッキは速攻デッキ。お前がもたもたしている間に、殴り殺す!」
『おい、レオパルドジュニア!《デンデン・パーカッション》は呪文が効かないクリーチャーだ!クリーチャーを出して何とかしないとやられるぞ!』
ザーガのクリーチャーを見て危機感を覚えた《ガイアール・カイザー》がレイモンドに発破を掛ける。その時、レイモンドは震えていた。
『ジュニア……』
「無理もねぇ。このくらいの歳のガキなら、デュエルをやるのに早すぎるって事はねぇ。だが、俺を相手にするのは無理だったな」
《ガイアール・カイザー》は落胆の声をもらし、ザーガは勝利を確信したようにいやらしい顔で笑う。
「ジュニアじゃない……」
『え……?』
レイモンドが呟いた言葉を聞き返すように《ガイアール・カイザー》が言う。それと同時にレイモンドは顔を上げ「うおーっ!」と、叫んだ。
「これが!これが本物のデュエル!クリーチャーのビジョンがカードから浮かび上がる!俺は、今、憧れていたデュエルを体験しているんだ!!こんなに幸せな事はない!」
『お前……』
レイモンドの思考回路に呆れて《ガイアール・カイザー》が口を開く。その言葉を打ち消すようにレイモンドは冷静な声で続けた。
「判ってる。ドン・ザーガのデッキのスピードはハンパじゃない。だから、早く対処しろっていうんだろ?だが、まだだ。今は準備に力を使う!」
マナのチャージを終えたレイモンドはすかさず、マナゾーンにあった三枚のカードを傾ける。緑色の光がその場を包んだのを見て、レイモンドは手札から一枚のカードをテーブルの上に置いた。
「自然を含むマナ三つを使う。《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚!」
レイモンドが置いたカードから緑色の光と共に、二足で立つ獣のような姿の生き物が現れる。その直後、カードと山札が緑色の光を発した。
「《青銅の鎧》はバトルゾーンに出た時、山札の上のカードをマナに変える。これで4マナ。次のターンの最初にチャージすれば5マナ使えるようになる」
ターンを終えたレイモンドの顔に、恐怖の表情は全く浮かんでいない。危険なこの戦いを楽しむ余裕さえ感じられる。
「調子に乗るのも若さの特権か。俺は《クゥリャン》を召喚する!」
ザーガの動きも止まらない。溜まった三つのマナを全て使い、専用の乗り物に乗った宇宙人の赤子のようなクリーチャー《クゥリャン》を召喚する。召喚の後、《クゥリャン》とザーガの山札が青く光った。
「《クゥリャン》。召喚と同時に一枚ドローできるクリーチャーか。速攻の弱点は手札を失いやすい事だが、このクリーチャーを使う事で短所を打ち消している」
『冷静に解説している場合かッ!手札が増えただけじゃなくて、相手のクリーチャーが二体になっちまったぞ!それに、《青銅の鎧》のパワーは1000だから《デンデン・パーカッション》は相討ちで倒せてもパワー2000の《クゥリャン》には勝てねーぜッ!』
「そこにあるレジェンドカードの言う通りだ。喰らえ!《デンデン・パーカッション》で攻撃!」
ザーガの宣言と共に、《デンデン・パーカッション》のカードが自動で九十度傾く。それと同時にカードの上にいた《デンデン・パーカッション》のビジョンがカードの上から離れ、レイモンドのシールドに向かった。持っていた太鼓を大きく振り上げシールドに叩きつけると、またカードの上に戻って行った。
「先制攻撃を仕掛けられたのは俺の方だったな、ボウヤ」
レイモンドのシールドにひびが入り、ステンドガラスが割れるように砕け散って行く。破られたシールドに力を与えていたカードにレイモンドが触れた瞬間、彼はすぐにそれをめくった。
「来た。このシールドが持っていた力を発動させる!」
めくられたシールドは《青銅の鎧》が待つレイモンドのバトルゾーンに自ら移動。そして、赤い光と共に、四本足で立つ虎のクリーチャーのビジョンが現れた。その虎が口にくわえていた刀を横に振るった瞬間、《デンデン・パーカッション》と《クゥリャン》の体が燃え始めた。
『シールド・トリガーか!お前が冷静だったのは、シールド・トリガーを用意していたからなんだな!』
「ああ、これ以外にも守る方法は用意していた。俺のシールド・トリガークリーチャー《火焔タイガーグレンオー》は、バトルゾーンに出た時にパワー2000以下の相手クリーチャーを全て破壊する力を持っている。クリーチャーの力なら《デンデン・パーカッション》も破壊できる!」
これで、レイモンドのクリーチャーの数は二体になり、ザーガのクリーチャーは全滅。レイモンドが圧倒的に有利になった。
「子供だと思って油断したみたいだな。ここから痛い目を見せてやる」
そう言ったレイモンドは自信に満ちた表情で山札の上のカードを引いた。

レイモンドとザーガのデュエルが始まって十分近く経とうとしていた。
レイモンドはザーガのシールドを残り一枚まで追い詰めたがそこで攻撃の手が止まってしまう。彼のクリーチャーは0。シールドは二枚残っている。
ザーガはもしもの時のために用意していたブロッカー《ブラッディ・シンバル》を二体配置する事でレイモンドの攻撃を防いでいる。しかし、攻撃できるクリーチャーはいない。
それぞれ、睨み合いを続ける中、先に動いたのはザーガだった。
「ボウヤ、お前はよくやった。だが、これで終わりだ!」
ザーガが一枚のカードを天に掲げる。すると、一体の《ブラッディ・シンバル》のビジョンが消えた。そして、ザーガの手元のカードと《ブラッディ・シンバル》のカードが同じように黒い光を発する。
『気をつけろッ!野郎、切り札を出すつもりだ!』
「判っている。来るぞ!」
レイモンドと《ガイアール・カイザー》の視線がザーガのバトルゾーンに集まる。ビジョンの消えた《ブラッディ・シンバル》の上に、一枚のカードが重ねられる。すると、そこから《ブラッディ・シンバル》とは異なるクリーチャーのビジョンが現れた。
燕尾服のようなものを身に纏い、蝙蝠のような翼を生やしたその小悪魔は右手に持っていた指揮棒を静かに振るっている。
「進化クリーチャー《死鬼者デスワルツ》!俺の切り札だ!!」
《死鬼者デスワルツ》と呼ばれたザーガの切り札は、圧倒的なオーラを持っていた。《ブラッディ・シンバル》とはまるで違うオーラだ。
《デスワルツ》が指揮棒を一度振るとザーガの最後のシールドとレイモンドのシールドの一枚が黒く光り、二度振ると今度は黒くなったシールドが砕け始めた。三度振った時には粉々になり、シールドに力を与えていたカードは墓地に吹っ飛んでいった。
「《デスワルツ》は互いのシールドを一枚ずつ破壊する能力を持っている!こっちのシールドがないのは不安だが、《ブラッディ・シンバル》がいれば守れる!《デスワルツ》で攻撃!」
《デスワルツ》が指揮棒でレイモンドの最後のシールドをつく。レイモンドは最後のシールドの中身を見るが、それはシールド・トリガーではなかった。逆転できなかったのを見て、レイモンドの戦いを見守っていた町人は落胆の溜息を吐いた。
「ボウヤ、お前の負けだ。どんなクリーチャーを出しても召喚酔いで攻撃できねぇ。それに《ブラッディ・シンバル》でのブロックが可能!もし、《デスワルツ》を倒したとしても無駄だ。手札にあるもう一枚の《デスワルツ》を出して勝つ!」
「手札のカードまで教えてくれるなんて、随分親切だな」
そう言ったレイモンドは、山札の上のカードを引く。
町人達は既にデュエルを見ていない。レイモンドが傷つけられるという事実から目を背けるために顔を覆ったり、瞳を閉じたりしている。
『レオパルドジュニア。もう駄目だ。お前は素人だけど、よくやったぜ』
《ガイアール・カイザー》は優しい声でレイモンドに話しかける。それは慰めの感情に似ていた。
しかし、それを聞いたレイモンドは信じられない事を言った。彼の言葉を聞いた全ての人々は耳を疑った。
「よく聞こえなかったが『もう駄目だ』と『よくやった』って言ったのか?今の俺にかける言葉として、どちらも間違っている。『よくやった』はこれからお前が言う言葉だ。それから『もう駄目だ』なんて言葉は言う必要がない。何故なら、あいつが《ブラッディ・シンバル》を《デスワルツ》に進化してくれたから突破口が開けたんだからな」
『何ッ!』
驚く《ガイアール・カイザー》を見る事なく、レイモンドはマナに置いたカードに触れ、傾け始める。
「合わせろ、《ガイアール・カイザー》。これで決着だ!」
レイモンドがタップした五つのマナが赤く輝く。それを見た《ガイアール・カイザー》だけは、彼が何をしようとしているのか理解した。
「俺が《ブラッディ・シンバル》を《デスワルツ》に進化させたから突破口が開けた?馬鹿な事を言うな!俺が《デスワルツ》を出したからこそ、お前はシールド0まで追い詰められているんじゃねぇか!」
「《デスワルツ》はブロッカーじゃない」
「何ぃ?」
頭に疑問符を浮かべたザーガを見ながらレイモンドは言葉を続けた。
「もし、ブロッカーが二体も並んでいたら厄介だった。テンポよく攻撃なんかできなかったからだ。だが、あんたがブロッカーの数を減らしてくれたおかげで……自ら防御の質を落としてくれたおかげで俺は勝てるようになった!火を含む五つのマナを使い、この呪文を撃つ!」
レイモンドは手札から一枚のカードを引き抜き、《ブラッディ・シンバル》に向ける。カードの先から巨大な火の玉のビジョンが飛び出し、《ブラッディ・シンバル》に向かっていった。《ブラッディ・シンバル》は避ける事もできずにその火の玉に飲まれ、焼かれていく。
「ブロッカー破壊呪文か!?」
「そうだ。《超次元シューティング・ホール》を使った。《超次元シューティング・ホール》の能力は相手のブロッカーを破壊する事ともう一つ。コスト9以下の火のサイキック・クリーチャーを出す!」
「コスト9以下……。まさか、お前!」
ここでザーガはレイモンドの言っていた事の意味を理解する。《ブラッディ・シンバル》の体を焼く炎から鎧を纏った一体の赤い龍が飛び出した。両手に巨大な剣を持ち、尻尾を振り回しながらザーガ目掛けて突進するそのクリーチャーは《ガイアール・カイザー》だ。
「これで決める!俺の……」
『俺様の……』
『直接攻撃だッ!!』
レイモンドと《ガイアール・カイザー》の声が重なり、赤い龍の剣がザーガの体を袈裟切りにする。ザーガの肉体は遥か後方に吹き飛ばされて行った。
「ボス!しっかりして下さい!」
部下達の何人かは倒れたザーガに駆け寄り、残りの何人かはレイモンドに銃を向けて発砲した。しかし、デュエルが終わったにも関わらず銃弾はレイモンドまで届かず、途中で地面に落ちてしまう。
『お前ら知らねぇみたいだな。レジェンドカードの持ち主はデュエル以外の方法では倒せねぇ!そんな豆鉄砲は通じねぇぜッ!』
「くそっ!撤退だ!」
部下達はザーガを抱えて去っていく。レイモンドは右手を銃のような形にして人差し指を去っていくマフィア達の背中に向ける。そして、静かに呟いた。
「ゲームセットだ」
レイモンドがデッキを片づけると、デュエルのために現れたテーブルは消えた。痕跡すら残さず綺麗さっぱり消えてしまった。
『大した奴だな、おい』
テーブルがあった場所を見ていたレイモンドに、《ガイアール・カイザー》が話しかける。十四歳の少年がマフィアのドンに勝った事は、レジェンドカードにとっても予想外の事だった。
「言っただろ?父さんのデッキとお前がいれば勝てるって」
レイモンドは、宙に浮いた《ガイアール・カイザー》を見て右手を伸ばす。握手をするために、右手は開かれていた。
「そんな訳だから、これからよろしく頼む。相棒」
この日、この時からレジェンドカードを巡るこの世界最大の冒険は始まるのだった。

次回につづく

次回予告
父が遺したデッキとレジェンドカード《ガイアール・カイザー》の力を駆使してドン・ザーガを撃破したレイモンド。しかし、《ガイアール・カイザー》勝てたのは自分の力であって、レイモンドの力ではないと言う。険悪な仲の二人の前にレジェンドカードを狙うアッグブラザーズと名乗る二人の男が現れる。レイモンドは彼らに勝てるか?そして、レジェンドカードを探す旅に出られるか?
VISON.2 旅立ち!レイモンドの願い!!
伝説を目撃せよ!
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