スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ! VISION.2

決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ!

我々の住む地球から遠く離れた場所にある惑星ルーン。
地球と同じように緑に囲まれたこの星で、人間の歴史と共に存在し続けるものがあった。
それは、デュエル・マスターズカード。
失われた文明の遺産として太古の遺跡から発見され、人々の英知を超えた力を発揮するそれらのカードは様々な形で人々の暮らしを助けて来た。
デュエル・マスターズカードの中でも特に貴重で、最も強力な力を持つと言われるレジェンドカード。
これは、レジェンドカードを求める若者達の物語である。

VISION.2 旅立ち!レイモンドの願い!!

その男は、ルカーノから全力で逃げていた。男は、ひと月ほど前にザーガファミリーに入った新入りのチンピラだ。デュエルができるため、ファミリーの一員になる事ができた。
今回のドン・ザーガ奪還作戦では、ザーガを護送する地方警察の中にデュエリストがいたらデュエルで足止めする役目を与えられていた。地方警察の中にデュエリストはいなかった。男は自分の力を使えなかった事の肩すかしと、大役によるプレッシャーから解放された気分を感じていた。
そのまま、ザーガの言う事を聞いてルカーノの町を占拠。町人が恐怖で怯えるのを見て、自分が支配者になったような快楽に酔っていた。
しかし、その酔いはすぐに覚める事になる。ファミリーの中で一番強いザーガが一人の少年に負けてしまったのだ。ファミリーは全員逃走。ザーガが意識を取り戻してから別の町を襲う計画を立てるが、地方警察の応援がやってきてファミリーの多くが捕まってしまった。
「畜生!何が、ボスを助けるだけの簡単な仕事だ!」
悪態を吐きながら男は逃げ続ける。自分以外の足音が聞こえなくなった事に気付いて、後ろを振り返る余裕も出て来た。後ろから自分を追いかける地方警察の警官の姿はもう見えない。それに安心して、男の速度が落ちた。
「失敗したようだな」
どこからともなく、男の声が聞こえた。チンピラの男は慌てて周囲を見る。
既に夜になっていて、周囲に誰がいるのか判らない。自分が捕まるかもしれないという恐怖からチンピラは叫ぶ。
「誰だ!出て来やがれ!」
「怯える事もないだろう。俺達だよ」
暗がりの中から二人の男が出て来た。
一人は薄い緑色のポンチョと同じような色のテンガロンハットの男だった。鷲鼻の男で目つきが鋭い。
もう一人はがっしりとした体つきで背が高い山のような男だった。濃い茶色で袖が切れてなくなっている上着と、同色のズボンを穿いている。黒いサスペンダーでズボンを釣り上げていた。
「あ、あんたら、アッグブラザーズか。脅かすなよ……」
チンピラの男は、溜息を吐きながらその場にへたり込む。恐怖の糸が切れたらしく、その顔は弛緩していた。
「あんたらが悪いんだ。あんたらがもっといい仕事を教えてくれればこんな事には……。くそっ!」
恐怖が消え、怒りが蘇って来たらしく、チンピラは目の前の地面を叩く。
「アニキ、どうするんだい?」
サスペンダーの男が鷲鼻の男に聞く。鷲鼻の男は顎を撫でながらチンピラに近づく。
「お前、このゾック様が教えてやった仕事にケチをつけるのか?ボスを助けるのは簡単な仕事だっただろ?」
「うるせぇ!ボスもファミリーのみんなも捕まっちまったよ!働いたのに、金が入って来ねぇじゃねぇか!お前らが責任取れ!」
チンピラは目に怒りを込め立ち上がると、鷲鼻の男、ゾックに殴りかかった。ゾックは顎を撫でたまま、避けようとしない。彼の鷲鼻にチンピラの拳が触れるか触れないかという時、サスペンダーの男がチンピラの腕をつかんだ。
「離せよ、デカブツ!」
「嫌だね」
サスペンダーの男は、腕をつかんだままチンピラを上に持ち上げる。釣り下げられるような状態になった男の腕が悲鳴を挙げた。
「痛ぇ!やめろ!俺が悪かったから、離してくれ!」
「ゴッグ、離してやれ」
「アニキが言うんじゃ仕方ねぇ。ほらよ」
ゾックの命令を聞いて、サスペンダーの男、ゴッグはチンピラを解放する。落下し、地面に尻を打ち付けたチンピラは、まだ痛む肩をさすった。
「あんな簡単な仕事を失敗するとはな。驚いているぞ」
「俺のせいじゃねぇ!ボスがデュエルで負けたのが悪いんだ!」
「何?」
ザーガがデュエルで負けた事を聞き、ゾックの眉が動く。
「お前、それは本当か?あのザーガが負けた?どこで誰にやられた?」
「ルカーノだよ!ボスを助けた場所から近いし、カードがよく取れるからな!そこを拠点にしてしばらく活動しようって事になってたんだ!」
「馬鹿言え。ルカーノはカードが多く取れるが、デュエリストは一人もいないはずだ。出鱈目を言うと……」
ゾックは、ゴッグに対し、こっちに来るように指で呼ぶ。それを見て必死な顔でチンピラは話を続けた。
「本当だ!ルカーノにデュエリストがいないのは俺も知ってた!だけど、いたんだ!レジェンドカードを持ったガキのデュエリストがドン・ザーガに勝っちまったんだ!」
「レジェンドカード!?」
チンピラの口から発せられた一言に、ゾックとゴッグの目の色が変わった。
「レジェンドカードとそれを持ったガキについて聞かせろ。お前が見た事を全て話せ!」
ゾックの瞳に見つめられた瞬間、チンピラは彼らに逆らう事を忘れていた。さっきまでは、仕事がうまく行かなかった事の怒りを彼らにぶつけようとしていたが、その気持ちが完全に消えていた。代わりに湧き上がって来たのは、目の前の二人に逆らう事に対する恐怖だった。その目には、言いようのない威圧感がある。
「わ、判った……。話す。ボスがあのガキと戦い始めたところから全部……」
急に弱い口調になったチンピラの男は、数時間前の記憶を引きずり出し、順序立てて話し始めた。

ザーガファミリーの騒動から数時間が経った。幸い、ルカーノの町民で大怪我を負った者はいなかった。その夜には、皆、家に帰り、夕食を楽しんでいた。
ザーガを護送していた地方警察も、すぐに応援に来た仲間達に助けられ、事無きを得た。ザーガとその部下も捕まり、ドン・ザーガの脱走という大事件は呆気なく幕を閉じたのだった。
その夜、レイモンドは自室にいた。鼻歌を唄いながら部屋の床に色々なものを並べている。時々、ベッドの上に置いたバッグを見ていた。
『上機嫌だな、ジュニア』
「だから、ジュニアはやめてくれよ。俺はレイモンド。レイモンド・フラッグだ」
そう言って机の上に置かれたカードに話しかける。机の上に置かれているのは、父が使っていたものと同じデッキ。そして、十四年以上の年月を経て父から子の手に渡ったレジェンドカード《ガイアール・カイザー》だった。
「父さんが遺してくれたレジェンドカードとデッキが見つかったんだ。だから、俺は、レジェンドカードを探す旅に出る」
『レジェンドカードを探す!?お前が!?こいつぁ、傑作だッ!』
疑問形の口調で聞き返した直後、《ガイアール・カイザー》は大きな声で笑った。それは豪快で心地いい笑いではなく、侮辱の意思を含んでいた。
「おかしいか?」
『お前、本当にレオパルドの息子か?考える事が甘いって言ってんだよ。レジェンドカードを探す旅って事は、道中、お前と同じようにレジェンドカードを狙う奴と戦うって事だ。レジェンドカードを狙う奴はただのデュエリストじゃねぇ。間違いなく強ぇ奴ばかりだ』
「それぐらい、判る」
『いいや、判ってねぇよ。お前はそいつらの実力を舐めてんのさ。今日、マフィアの親玉に勝ったから、レジェンドカードを狙う奴にも余裕で勝てるとか思ってんじゃねーだろうな?』
「思っている。俺とお前が手を組めば、どんな奴にも負ける気がしない。これからよろしく頼むぞ、相棒」
そう言うと、レイモンドは《ガイアール・カイザー》のカードに手を伸ばす。だが、《ガイアール・カイザー》は彼から逃れるように飛んでいった。
『相棒って言うなッ!いいか。お前が勝てたのは実力じゃねぇ。この俺様の力があったからだ。そうじゃなきゃ、経験ゼロのお前がマフィアのボスに勝てる訳ねーだろッ!』
「まぐれだって言いたいのか?」
レイモンドの声に険しいものが混ざる。それを気にせず、《ガイアール・カイザー》は続けた。
『まぐれって訳じゃねぇ。全て俺様のお陰って事だ。だが、俺様の力に頼ってるだけじゃどうにもならない事もある。ここでもっと修行して、俺様の力を受け止められるくらいにはなれよ』
そう言って《ガイアール・カイザー》は開いている窓から外に出る。最後に
『あと、相棒って言うなよ!俺を相棒って言っていいのは、今でもレオパルドだけだッ!』
と、言い残して去って行った。
「待てよ!」
レイモンドが手を伸ばしてつかもうとするが、遅かった。新たな主の言葉を無視して、レジェンドカードは飛び去ってしまった。
それを見たレイモンドはすぐに追いかけない。頭の中で、《ガイアール・カイザー》に言われた事を考えていたのだ。
レイモンドは本物のデュエル・マスターズカードを使ったデュエルをするのは、ザーガとのデュエルが初めてだった。しかし、それまでに学校の仲間を相手に、実戦とほぼ同じ形式のごっこ遊びをしていた。カードの効果、戦略も知り尽くしていると言っても過言ではない。学校のチャンピオンが外に出てすぐにチャンピオンになれる訳がない事くらい、レイモンドも熟知している。
「要するに、俺の実力を認めさせればいい。どうすればいいかな」
ふと、机の上のデッキに目をやる。それを手にとってレイモンドはしばし、思案するのだった。

レイモンドの部屋を飛び出した《ガイアール・カイザー》が向かったのは遠くではなかった。レイモンドの部屋の下にあるシェルの部屋だ。
『シェル、生きてるか?』
窓から入った《ガイアール・カイザー》は旧友に話しかけるような口調で問う。ベッドに腰掛けていたシェルは窓から入って来た客に対して手を振った。額やシャツから覗く包帯が痛々しいが、顔色は悪くなかった。
「十……四年ぶりか。レイモンドが生まれてすぐにお前はここに来たんだからな」
『ああ、十四年で随分変わったな。お前も髭なんか生やして。似合わねぇ』
「放っておけ。この髭は評判がいいんだ」
そう言ったシェルは穏やかな表情で微笑んだ。《ガイアール・カイザー》もそれに釣られるように笑う。
『町、でっかくなったな。……お前一人で七年、頑張って来たのか』
「そうだ。七年前まではレオパルドと一緒だったが……」
七年前にレイモンドの父でシェルの親友で《ガイアール・カイザー》の最初の相棒だったレオパルド・フラッグは死んだ。《ガイアール・カイザー》はそれをドン・ザーガに聞かされたのだ。
『本当にレオパルドは死んだのか?俺には信じられねぇ』
「俺だって、今でも信じられないさ。だが、本当だ。今から、七年前。あいつはデュエル・マスターズカードの新しい販売先を探すために船に乗って出かけていた。お前もレイモンドが使っている商船は覚えているな?」
《ガイアール・カイザー》は自分がレオパルドと出会った時の事を思い出していた。あの時も彼は自分の商船に乗っていた。
『当たり前だぜ。俺様はあの船に乗ってレオパルドと一緒に世界を回ったんだ。忘れる訳がねぇ。その船がどうかしたのか?』
「レオパルドはその船と一緒に海に沈められてしまったんだ。突然、海が荒れ狂って波に飲みこまれたんだ」
『事故だってのか?レオパルドが海に飲まれるなんて……ッ!あいつが、天候を読み間違えるような馬鹿な真似するかよッ!』
七年前の出来事を聞いた《ガイアール・カイザー》が激昂する。《ガイアール・カイザー》の知っているレオパルドは冷静で正しい判断ができる男だった。荒れ狂う海を船で進むような無茶はしない。
「俺もおかしいと思った。だが、国際警察の調査隊の調査ではそう判断されたんだ。船も乗組員も全滅したんだ。最期にレオパルドが何を考えていたのか、真相は判らない」
『そうか……。レオパルド……』
例えようのない重い空気が場を支配していた。
シェルは顔を上げて《ガイアール・カイザー》に切り出す。
「《ガイアール・カイザー》、お前、レイモンドと一緒に冒険に行くのか?」
『いいや、行くつもりはねぇな。俺の相棒はレオパルドだけだ。十四年間、洞窟の中で我慢してたのだって、レオパルドとの約束があったからだ。レイモンドが俺とデッキを見つけたら俺とレオパルドとレイモンドの三人で冒険をするって決めてたからだッ!レイモンドはレオパルドじゃねぇ。奴は俺の相棒にはなれねぇよ。認めねぇ』
拗ねた子供のような口調で言った《ガイアール・カイザー》はシェルの部屋の窓から飛び出して行った。もう見えなくなったそのカードに向かってシェルは静かに言う。
「確かに、レイモンドはレオパルドとは違う。だけど、レイモンドもお前の相棒にふさわしい実力を持っているさ」

目が覚めたレイモンドは妙な胸騒ぎを感じていた。本来ならば冒険に旅立つ時の胸に収まらないような高揚感がなければならないはずなのに、感じていたのは不安になるような嫌な気分だった。
いつもならば、朝は窓から色々な音や声が聞こえてくるはずだ。しかし、それが聞こえて来ない。時間が早すぎるというのではない。ルカーノの町には色々な店があって、その準備のために朝早くから働いている人がいる。その準備の音すら聞こえないのはおかしい。
不審に思ったレイモンドが窓から外を見ると、外には誰もいなかった。町の人間が全て消えてしまったかのようだった。奇妙に思ったレイモンドは慌てて外に出た。
外をしばらく歩いても、誰にも出会わない。どの店もしまっていた。朝早くからやっているはずの店も同じだった。
「一体、何が……」
よく判らない現象に、思わず独り言がこぼれる。
広場に出た時、人の姿が見つかった。しかし、それは町民ではない。手にデッキを持って近づいてくるその男はザーガファミリーの一員だった。
「昨日の奴らの一人だな。地方警察に捕まってない奴がいたのか」
「よく覚えていたな、ガキ。レジェンドカードを渡してもらうぞ」
チンピラが言ったのは、あまりにも唐突な一言だった。レイモンドも驚いて一瞬、言葉を失う。
「お前、何を言っているんだ?何故、俺がお前にレジェンドカードを渡さなくちゃならないんだ」
レイモンドの言葉を聞いたチンピラの口元が笑いで歪む。気持ちの悪い含み笑いだった。
「いきなり、こんな事を言ったらそう思うのが普通だ。ところで、町の奴らはどうした?あのパン屋、こんな時間なのに開いてないぜ?」
「お前、町の人達をどこへやったのか知っているな?」
「どうだかな」
チンピラの目が笑っている。挑発的な笑みを見ながら、レイモンドはどうすればこの状況を切り抜けられるか考えていた。今、レイモンドの手元に《ガイアール・カイザー》がない事が判ったら、目の前にいるチンピラは町の人々の行方について情報が聞けなくなるかもしれない。
そう考えたレイモンドはデッキを取り出した。
「デッキを持っているって事は、デュエルができるって事だな?俺に勝ったらレジェンドカードを渡そう」
「いいぜ。その条件でやってやる!」
二人がデッキのシャッフルを終えると、二人の間の空間が発光し、白いテーブルが現れる。その上にデッキを置き、五枚のシールドをセットし、五枚のカードを引く。シールドとして置かれたカードからドアくらいの大きさをした楯のビジョンが現れる。互いに準備を終えた事を確認し、デュエルが始まった。
「マナをチャージ!そして、《霞み妖精ジャスミン》を召喚!」
先に動き出したのはレイモンドだった。マナのカード二枚が緑色の光を発し、バトルゾーンに出したカードに力を与える。緑色の光と共にカードから現れたのは、少女のような姿の妖精のビジョンだった。カードから現れたクリーチャー《霞み妖精ジャスミン》は、春の日光のような光を体から発するとすぐに消えてしまった。
「クリーチャーを出したのに、自爆させたのか?」
「ああ、これで効果が使える。《ジャスミン》を召喚と同時に自爆させる事で、俺は山札の上のカードをマナにできる!」
山札の上のカードが緑色に光ったのを確認したレイモンドは、それをつかみ、マナゾーンに置いた。
「ボスとの戦いで《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚した時にやったのと同じ技か。序盤はマナを増やすのがメインみたいだな。じゃあ、俺はお前のカードを減らす!」
チンピラはマナチャージを終えると、マナゾーンにある二枚のカードを傾けた。
「マナの二枚をタップ!この呪文を喰らえ!」
チンピラは一枚のカードを突き出す。すると、黒い光がカードから飛び出し、レイモンドの手札を貫いた。
「俺の手札がっ!何が起こった!?」
光に貫かれた一枚のカードは遥か上空に飛び上がり、やがて墓地に落ちていった。その動きを見て、レイモンドはチンピラが使った呪文が何なのか理解した。
「《ゴースト・タッチ》。手札破壊呪文か」
「そうだ。俺はお前から全て奪ってやる!」
「奪う、か。安っぽい考え方をする奴だ」
手札破壊のダメージなどないようにレイモンドは振舞い、新しいクリーチャーを召喚する。それは《クゥリャン》だった。
「効果でドロー。奪われた分はこれで取り戻したぞ」
「マナだけじゃなく、手札も増やすか。なら、俺は減らす事にするぜ」
そう言ったチンピラは口の端を歪めて笑い、マナゾーンのカードをタップした。タップされた三枚のカードは青い光を発して、チンピラが出したカードに力を与える。青い光と共にそのビジョンは現れた。
「召喚!《氷牙フランツI世》!」
現れたのは、青い鎧を纏った騎士のクリーチャーだった。左腕には剣を、右腕には奇妙な形の銃を持っている。
「《氷牙フランツI世》。減らすっていうのは、自分の呪文のコストを減らすという事か」
「そうだ。ガンガン呪文を使って叩き潰してやる!」
《氷牙フランツI世》は、それを召喚した者の呪文のコストを1減らす能力を持っている。バトルゾーンにその姿がある限り、その能力は持続する。さらに、複数存在すればその能力は追加され、存在する《フランツ》の数だけ呪文のコストを減らす事ができる。
レイモンドがチンピラのマナゾーンを見ると、そこに置かれている三枚のカードは全て呪文カードだった。《フランツ》の効果で呪文のコストを減らし、大量の呪文で相手の妨害をするデッキのようだ。
「クリーチャーの召喚を重視した俺とは逆のデッキか。なら、こっちはさらにクリーチャーを増やす!《アクア・ジェット》召喚!」
青い光と波の音と共に、レイモンドがバトルゾーンに置いたカードから液体で出来た人間のようなクリーチャーが現れる。少年のような体型のそのクリーチャーは、光の剣を左手と左肩で支えている。バトルゾーンにあるハンターの数だけドローできる《アクア・ジェット》だ。
「《アクア・ジェット》自体がハンターだ。俺はこの効果で一枚ドロー。そして、攻撃をせずにターンを終える」
既にレイモンドのバトルゾーンにあった《クゥリャン》は攻撃が可能だった。しかし、レイモンドはそれをせずに動きを終える。それを見たチンピラはレイモンドの判断を馬鹿にしたように笑う。
「チキンが!ビビっちまってんのか!?だったら、そこでおねんねしてな!《エナジー・ホール》!」
チンピラが新しい呪文カードを突き出す。すると、バトルゾーンに青い渦巻きが発生し、そこから二体のクリーチャーのビジョンが現れた。一体は帽子をかぶって光る鞭を持った《時空の探検家ジョン》。もう一体は黄金色に輝く体を持ったヒーローのようなクリーチャー《時空の英雄アンタッチャブル》だった。
「《超次元エナジー・ホール》。こいつで俺は一枚ドローし、コストが5以下になるように二体のサイキック・クリーチャーを出した」
「今のお前のマナゾーンのカードは四枚。本来、5コストの《エナジー・ホール》を《フランツ》で1コスト減らし、4コストで使ったのか。チンピラにしてはいい動きだ」
「感心してる場合か?クリーチャーの数は俺の方が上だぞ?」
チンピラが言うように、彼のバトルゾーンのクリーチャーは三体で、レイモンドの二体より多い。そして、チンピラのクリーチャーはレイモンドのクリーチャーと比べるとバトルゾーンに出た後に活躍するものばかりだ。バトルゾーンに出た事で役目の半分を果たしたと言えるレイモンドのクリーチャーよりも質が高いと言える。
「ここでターンを終える。次だ。次のターンでお前に地獄を見せてやる!」
「地獄、ねぇ。そんな事、簡単に言うもんじゃないな」
レイモンドは二体目の《アクア・ジェット》を召喚した。これでバトルゾーンに二体ハンターが揃った事になり、二枚のカードを引く。しかし、マナを使い切ってしまった。
「手札は充分だ。ターンを終える」
「また攻撃なしか。お前、レジェンドカードなしだと弱いな!早くレジェンドカードを使えよな!」
チンピラはもう一度《エナジー・ホール》を使った。渦巻きの中から飛び出したのは二体の《アンタッチャブル》だった。
「ここでターンを終える。そして、覚醒!」
チンピラの掛け声と共に、《ジョン》と三体の《アンタッチャブル》の体が光り始めた。その光に包まれながら、四体のサイキック・クリーチャーは姿を変えて行く。巨大で力強く、別次元のオーラを持った存在へと変化する。これが覚醒だ。
「覚醒完了!《冒険の覚醒者ジョンジョ・ジョン》と《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》だ!」
「覚醒したサイキック・クリーチャーが四体か……。下手したら、次のターンで終わりか」
覚醒したサイキック・クリーチャーは覚醒前の力を強大にした能力を持っている。《冒険の覚醒者ジョンジョ・ジョン》は自分のクリーチャーの三回目のアタック時にアンタップされる。これにより、事実上のW・ブレイカーとして機能する。そして、《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》はブロックされず、相手の呪文やクリーチャーの効果で選ばれる事がない。これをとどめのためにキープしておけば、レイモンドのシールド・トリガーを無効化しながらとどめを刺す事ができる。《フランツ》で一枚、《ジョンジョ・ジョン》で二枚、二体の《アンタッチャブル・パワード》で二枚、最後に《アンタッチャブル・パワード》でとどめ、というのがチンピラの考えた次のターンの行動だった。
「綺麗な戦い方だ。本当にチンピラとは思えない。チンピラにしておくには勿体ない」
「俺をなめんなよ、ガキが!俺はデュエルの腕を見込まれてザーガファミリーに入った男なんだからな!」
勝利を確信したのか、自慢するような表情でチンピラが言う。その表情にも余裕のような物が見える。それを見たレイモンドは、追い詰められている人間がするものとは思えない爽やかな微笑みを見せる。
「それ故、読みやすい。お前の動きは完全に俺の読み通りだった。だから、これで俺が勝つ!進化!」
レイモンドがマナのカード七枚をタップした瞬間、《アクア・ジェット》のビジョンが消える。そのカードの上にレイモンドがカードを重ねた瞬間、重なった二枚のカードは赤い光を発しながら、別のクリーチャーのビジョンを発現させた。それは、赤い龍のようでも人のようでもあった。胸と両肩に白い馬の頭がついていて、胸の馬の頭には青く輝く傷がついていた。
進化前の《アクア・ジェット》とは全く違うその姿を見て、チンピラはただ口を開けて見上げる事しかできなかった。
「ハンターの進化ドラゴン《超竜アバレ・ムゲン》だ。パワー8000のW・ブレイカーだ。特殊能力も持っている」
「はっ!ビビらせやがって!今、W・ブレイカーを一体出したところで戦局が変わる訳がねぇんだよ!」
阿呆のように口を開けていたチンピラはレイモンドの口から《超竜アバレ・ムゲン》の能力の説明を受け、腹を抱えて笑う。
進化したところで、レイモンドの軍の総合的なシールドブレイク数が一枚増えるだけだった。彼のクリーチャー三体がシールドに突撃しても、ブレイクできるシールドは四枚が限界だ。チンピラのシールドが一枚残ってしまう。
「弱い!ボスを倒したお前を俺が倒すんだから、次のボスは俺に決まりかもな!ファミリーは俺のもんだ!」
チンピラが軽口を叩いた、まさにその時だった。《アバレ・ムゲン》の脚が《ジョンジョ・ジョン》の体を捉え、まるでサッカーボールをゴールに叩きこむようにシールドに向かって蹴り飛ばした。《ジョンジョ・ジョン》の体は、まるで紙のように舞い、主のシールドを破って消え去った。
「まずは一体か」
「お前ー!何をしてるんだーっ!!」
想定外の事態に混乱したチンピラは《アバレ・ムゲン》と破られたシールドを交互に見ながら叫んだ。そして、頭を抱える。
「何故、アンタップされたクリーチャーが攻撃される!?何故、俺のシールドが破られる!?ありえねぇんだよ!」
「どちらもありえる事だ。《アバレ・ムゲン》はただのW・ブレイカーじゃない。こいつはタップされていないサイキック・クリーチャーを攻撃する能力を持っている。さらに、攻撃してバトルに勝った時、相手のシールドをブレイクする能力も持っている」
「そんな力があったのか。だが、残念だったな!その能力を使わずにシールドを狙っていたら、二枚ブレイクできたのにな!やっぱりお前はレジェンドカードなしじゃ何もできないガキだ!」
チンピラがその言葉を発した瞬間、三体の《アンタッチャブル・パワード》が《アバレ・ムゲン》の蹴りによってシールドに叩きこまれた。これにより、三枚のシールドが音を立てて砕け散り、チンピラのシールドは残り一枚となった。
「何が起こった!?今度は何をしやがった!?何で四体もいた俺のサイキック・クリーチャーが全滅してやがるんだーっ!!」
「言い忘れていたな。《アバレ・ムゲン》がバトルで勝った時の効果はシールドブレイクだけじゃない。勝った時はアンタップできる。再度、攻撃ができるという事だ」
「再度、攻撃!?再度、攻撃だとっ!?まさか!」
レイモンドは対戦中、チンピラの動きを「読みやすい」と言っていた。サイキック・クリーチャーを並べる事も計算の内に入っていたのかもしれない。
「お前!最初からこれを狙っていたな!俺にサイキック・クリーチャーを並べさせて、それを利用してシールドを一気に減らすつもりでいたな!?」
「その通りだ。今頃気づいても、もう遅い!《アバレ・ムゲン》で最後のシールドをブレイク!」
《アバレ・ムゲン》の蹴りが直接シールドを突き破る。そして、その後に続くように《アクア・ジェット》のビジョンがチンピラ目掛けて走った。
「い、嫌だ……!俺はこの仕事をこなしてでかくなるんだ!このガキに勝ってボスよりも上になるんだ!」
「その夢は諦めるんだな!《アクア・ジェット》でとどめだ!」
《アクア・ジェット》が持っていた光の剣でチンピラを切り裂いた瞬間、巨大なエネルギーに弾き飛ばされてチンピラは後方に吹っ飛んでいった。デッキを片づけたレイモンドは、すぐにそのチンピラを追う。地面に倒れていた彼に近づき、服の首元をつかんで揺さぶった。
「言え!町のみんなをどこにやった!?」
「へ……言うもんかよ……」
チンピラはまだ気を失っていないらしく、焦点の合わない目でレイモンドを見て、弱々しい声で呟いた。答えが気に入らないレイモンドはその頬を思い切り殴りつける。
「もう一度聞くぞ。町のみんなはどこだ?」
チンピラにつかみかかったレイモンドが問うた時、体中を揺さぶるような爆発音が聞こえた。何が起きたのか理解できなかったレイモンドは、一瞬、間を置いて顔を上げる。
「今の……学校か!」
チンピラをそこへ放り出したレイモンドは爆発が聞こえた方向へ全速力で走り出した。
息を切らしながら校門に辿り着いたレイモンドは想像を絶する光景を見て、息を飲んだ。校庭には、手足を縛られて拘束された町民達が転がされている。そして、昨日まで通っていた校舎は炎に包まれていた。時折、窓から火が噴き出している。
「ようやくご登場か。待ちくたびれたぞ、レジェンドカードの持ち主よ」
レイモンドはその声を聞いて、地面に転がっていない人間がいる事に気がついた。鷲鼻の男、ゾック。サスペンダーの男、ゴッグ。そして、その二人に連れられて弱々しい足取りでシェルがやってくる。シェルは両腕を後ろに回されて拘束されていた。
「おじさん!」
「近づくな!町長と町民を解放して欲しければレジェンドカードを渡してもらおう」
「人質という事か?」
「そうだ」
校庭には町のほとんどの人がいる。二人の人間がこれだけの人数を誘拐できるとは思えない。レイモンドはザーガファミリーの捕まっていないチンピラがいる事を思い出していた。
「お前達は、ザーガファミリーのチンピラか?目的は本当にレジェンドカードか?」
「ザーガファミリーなどと一緒にするな!俺の名はゾック・アッグ」
「そして、俺はゴッグ・アッグ」
「悪事を請け負う何でも屋のアッグブラザーズとは俺達の事だ!もう一度言う。レジェンドカードを渡せ!」
「嫌だと言ったら?」
今、手元に《ガイアール・カイザー》はない。それを気付かれないように注意しながらレイモンドはデッキを取り出した。
「ならば、力ずくだ。交渉で入手できないんだったら、痛い目を見てもらうしかないな!」
ゾックがポンチョの中からデッキを取り出して応戦する。二人の間には、すぐに白いテーブルが現れた。
「レイモンド!」
シェルが心配するような声でレイモンドの名を呼び、彼を見る。レイモンドはその声には答えず、彼と一瞬、視線を交わし、すぐに視線を目の前にいるゾックに戻した。それを見たシェルには、レイモンドが《ガイアール・カイザー》を持っていない事が理解できた。
「強情だねぇ。あんたのせがれか?」
シェルの両腕を拘束した縄を持ったまま、ゴッグが聞く。シェルはそれには答えない。
「つまらないな、町長さん。まあいいや。あのガキも馬鹿な奴だな。アニキと戦わずにレジェンドカードを渡した方がよかったのに」
シェルは祈るような気持ちで対戦テーブルを見た。
レイモンドがデュエルで勝っても、状況は好転しない。ゾックが倒れても、ゴッグが控えている。他にも、町民達をここに連れて来たサーガファミリーのメンバーが数人いた。今は敵に囲まれている状態なのだ。町民達もチャンスを見つけて自分達の拘束を解く事などできない。
「いいのか、小僧?学校の火が他の場所に燃え移るぞ?」
「その前にお前を倒すだけだ。《青銅の鎧》召喚!」
先に動いたのはレイモンドだった。《青銅の鎧》を召喚してマナを増やしている。対するゾックは既に《フェアリー・ライフ》でマナを増やしていた。
「次のターンには、超次元呪文が来るか……。だが、そううまくはいかないんだよっ!」
ゾックが突き出したカードが黄色い光を出す。すると、その光の中から巨大な口が現れた。否、巨大な口に見えたのは、オレンジ色の板状の物体で作られたサイキック・クリーチャーだ。丸い体とその半分近くはある巨大な口が特徴のそのクリーチャーの名は《イオの伝道師ガガ・パックン》だ。
「《超次元サプライズ・ホール》から《イオの伝道師ガガ・パックン》を出した。《ガガ・パックン》は相手の呪文のコストを1増やす能力を持っている」
「嫌な能力だ」
レイモンドの手札の中には《超次元エナジー・ホール》と《超次元シューティング・ホール》があった。《ガイアール・カイザー》を呼び出すための《シューティング・ホール》はともかく、《エナジー・ホール》を使うためのコストが増えるのは辛い。
「だが、それだけじゃ俺は止められない。《駿足の政(イダテン・キッド)》を召喚!」
マナをチャージしたレイモンドは、置かれている五枚のマナゾーンのカードをタップする。タップされたカードは緑色の光を発し、レイモンドがバトルゾーンに置いたカードがビジョンを現すためのエネルギーを与えた。カードから現れたのは白熊のようなクリーチャーだった。
「《駿足の政》の登場時に、山札の上五枚を見てクリーチャーのカードを一枚入手する事ができる。俺が選ぶのは《アバレ・ムゲン》だ!」
《アバレ・ムゲン》が手元に来た事でレイモンドの顔がほころぶ。これなら、ゾックがサイキック・クリーチャーを出しても、一方的に殴り倒す事ができるからだ。
「ふん、《アバレ・ムゲン》か。偵察通りだな」
「何っ!?」
ゾックはカードを引き、手札を吟味している。その中から一枚を決めると、三枚のマナをタップした。マナは黄色の光と青の光を発している。
「お前がチンピラとやったデュエルの内容は、無線で俺に届いていた。レジェンドカード以外の切り札はその《アバレ・ムゲン》なんだろう?だが、進化元がなければ意味がない!《魂と記憶の盾(エターナル・ガード)》を喰らえ!」
ゾックが選んだ呪文カードをバトルゾーンにかざした瞬間、《駿足の政》のビジョンが消える。そして、カードが勝手に動き、レイモンドのシールドゾーンに移動した。
「《魂と記憶の盾》。クリーチャーを持ち主のシールドに変えるカードか!」
「その通りだ。《アバレ・ムゲン》の進化元は全てバトルゾーンから消してやる。そして……」
ゾックは、自分の背後にある燃え盛る校舎を見た。
「あの校舎のようにこの町も消し去ってやる。お前もお前の町ももう終わりだ!」
「そうだな、アニキ!」
アッグブラザーズの不敵な笑いがその場に響く。不快なその声を聞きながら、レイモンドはカードを引いた。

『げげッ!何だ、あの爆発はッ!?』
レイモンドとゾックが戦い始める数分前。《ガイアール・カイザー》は町から少し離れた場所にいた。自分が認めたデュエリスト、レオパルドがいないという事実に耐え切れずに一晩、出歩いていたのだ。レイモンドを認めるのか、否か、考えがまとまらないまま、時間だけが過ぎ去って行った。考えるのをやめて、遠くから町を見ている時にその耳に爆音が届いた。その目は、町から立ち上る煙も捉えている。
『まずい。これはきっとまずい事が起こっているに違いねぇぜッ!』
《ガイアール・カイザー》は持てる最大のスピードで町に向かった。宙に浮きながら目的地に向かう《ガイアール・カイザー》が見たのは、町民が一人もいない町だった。言いようのない不安を感じながら、爆発が起こった学校に向かう。
校門へ辿り着いた《ガイアール・カイザー》は、中に入るのをやめ、一度、空中で静止した。
『ヤバい時ほど冷静に。レオパルドはよくこう言ってたな。冷静になるのはこういう時だ!』
過去の相棒の言葉を思い出し、静かに様子をうかがう。カードの大きさならば、顔を出しても気付かれる事はない。中を見た時、思わず声を上げそうになるが、レジェンドカードはその声を押し殺した。
集められ、縛られている町民や無力さに絶望している町長。周囲にいるチンピラ達。そして、たった一人、敵に立ち向かうレイモンドの姿が見えた。
戦いは後半に突入しているらしく、レイモンドの墓地もゾックの墓地にも多くのカードが置かれていた。シールドがないゾックに対して、レイモンドは一枚のシールドがあった。しかし、ゾックのバトルゾーンには《魔光王機デ・バウラ伯》が一体いて主を守っていた。レイモンドの場にいる《アクア・ジェット》では勝つ事ができない。
「追い込んだぞ。後一発殴るだけだ」
それでも、レイモンドの目の闘志は消えていなかった。目の前にある勝利を逃さないように熱く燃えている。
「後一発?馬鹿言うな。勝つのは俺だ。《アバレ・ムゲン》をマナに置いた時点でお前は負けていたのだ!俺の切り札でお前を終わりにしてやる!」
鮮やかな手つきでゾックのマナのカードがタップされていく。その数は九。それだけのマナから生み出されるエネルギーはとてつもないものだった。マナの黄色い光と呼応するように、ゾックが出した切り札も黄色い光を出してクリーチャーのビジョンを出す。
そのクリーチャーの体色は金色で、つやのある輝きはまるで鏡のようだった。デュエルを見守る人々の顔が映り込むほどだ。その輝きと気品に、レイモンドも戦いを忘れて見惚れてしまっていた。
「《光神龍スペル・デル・フィン》。このクリーチャーがバトルゾーンにいれば、お前の手札の情報は全て俺の頭に入ってくる」
そう言って笑ったゾックの脳に、レイモンドの手札の情報が直接飛び込んできた。
「《超次元エナジー・ホール》、《超次元シューティング・ホール》、《母なる紋章》か。ふん、さては《母なる紋章》でマナに置いた《アバレ・ムゲン》を出そうと考えていたな。だが、それはできなくなった!《スペル・デル・フィン》がいる間、お前は呪文を使う事ができない!つまり、レジェンドカードを出す事もできない!」
《ガイアール・カイザー》を呼び出す《超次元シューティング・ホール》は呪文カードだ。《スペル・デル・フィン》がいる時、レイモンドは呪文を使えない。一体の龍によって《ガイアール・カイザー》を呼び出す手段が潰されてしまった。
「俺はこれでターンを終える。精々、あがいてみせろ」
レイモンドは、山札の上に手を置いた。シールドがあるから1ターンは耐える事ができる。しかし、その次はない。ここで《スペル・デル・フィン》か、《デ・バウラ伯》を倒せるカードを引かなければならない。
「頼む。来いっ……!」
レイモンドが引いたのは、ゾックのクリーチャーを倒せるカードではなかった。《スペル・デル・フィン》の能力でその情報を伝えられたゾックは鼻で笑う。
「ただの進化クリーチャーか。もう終わったな」
『いや、終わっちゃいねぇぜッ!!』
熱い叫び声がその場に響いた。それと同時に、人質にされていた町民の周りを赤い光が駆け巡る。その光に触れた瞬間、見張りとしてそこに立っていたチンピラ達が後方に吹き飛ばされ、町民を拘束していた縄が切られた。
「何が起こった!?何者だ!」
『俺様だッ!この鷲鼻ヤローッ!!』
赤い光はゴッグを突き飛ばした後、レイモンドに向かって突っ込む。レイモンドの手元で止まった時、周りの者達は赤い光の正体が判った。それは《ガイアール・カイザー》だった。
『町の人達はこれで大丈夫だ!さっさとこの鷲鼻ヤローをぶっ飛ばして学校の火を消すぞ!』
レイモンドが見ると町民達はシェルを解放し、校舎の火を消すために動き始めていた。
「おのれ。レジェンドカードめ!よくも俺の邪魔をしてくれたな!」
『うるせぇ!俺様は俺様のやりたいようにやるだけだッ!おい、ジュニア。俺様が力を貸してやるって言ってるんだ!このターンで決着つけるぞッ!』
そう言った《ガイアール・カイザー》は自ら進んで超次元ゾーンに移動する。それを見たレイモンドの目に新たな闘志の炎が宿る。
「ああ、よろしく頼むぞ。相棒!」
『相棒って言うんじゃねぇッ!俺様はまだお前を認めちゃいねぇッ!』
「お前ら、調子に乗るな!」
レイモンドと《ガイアール・カイザー》のやり取りを見たゾックが叫んだ。勝利を確信していた時とは違い、作戦が乱れた事でその声には苛立ちが混じっていた。
「町がどうなろうと知った事か!そこにあるレジェンドカードさえ手に入れば俺達の目的は達成されるのだ!お前だけは必ず倒す!」
「必ず倒す。それは俺の台詞だな」
レイモンドは自分の手札を扇のように広げる。そして、超次元ゾーンで待つ相棒に対して言った。
「《ガイアール・カイザー》。必ずお前を活躍させてやる。このデュエル、お前で勝つ!」
『言ってくれるじゃねぇか。俺様がいなくても、ここまでやれるんだ。ちょっとは実力があるって事は認めてやるよ。でも、どうするつもりだ?《スペル・デル・フィン》で呪文が使えねぇんじゃ、俺は出せないんじゃねぇのか?』
「安心しろ。お前が来る事を想定して俺は動いていた。そして、今、俺の手札には最高のカードが来た!」
レイモンドは自分のマナ、七枚を全てタップする。マナが緑色の光を発したのを見ると、すかさず一枚のカードを《アクア・ジェット》の上に置いた。
「進化!」
上に置かれたカードが緑色の光を発し、クリーチャーのビジョンを生み出す。そこに現れたのは甲虫のような外骨格を持った人型のクリーチャー《大魂蟲オオ・ヘラクレス》だった。
「《オオ・ヘラクレス》は登場と同時にマナゾーンからハンタークリーチャーを出す事ができる。俺はこいつを選んで出す!」
レイモンドが触れたマナのカードが赤く輝く。マナゾーンからバトルゾーンにそのカードが置かれた瞬間、赤いクリーチャーのビジョンが現れた。頭を羽根飾りで覆っているクリーチャー《激流アパッチ・リザード》だ。
「クリーチャーが二体!?だが、《アパッチ・リザード》は召喚酔いしている!《オオ・ヘラクレス》一体の攻撃では、俺は倒せんぞ!」
「それくらい、理解している。この二体だけではお前を倒せない事も、お前が《アパッチ・リザード》の能力を過小評価している事もな!」
場に現れた《アパッチ・リザード》のビジョンは体の前で腕を大きく振り回し始めた。すると、炎の輪が現れる。その輪から、燃える炎の音と共に龍の雄叫びのような物が聞こえる。
「なんだ!何をするか判らんがやめろっ!」
「やめないね。《アパッチ・リザード》は登場と同時にコスト8以下の火か自然のサイキック・クリーチャーを出す能力を持っている。俺が出すのはもちろん、こいつだ!」
『うぉっしゃあ!行くぜッ!!』
炎の輪から《ガイアール・カイザー》が飛び出してくる。《オオ・ヘラクレス》と《ガイアール・カイザー》がゾック目掛けて突っ込んでいった。
「くそっ!止めろ、《デ・バウラ》!」
泣きそうな声で叫んだゾックの言葉を聞いて《デ・バウラ》が二体の前に立ちふさがる。だが、その体は《オオ・ヘラクレス》の鉄拳の前に、砕け散った。
「ブロッカー一体じゃ、一体のクリーチャーしか止められない。これで終わりだ!《ガイアール・カイザー》、とどめだ!」
『おうッ!喰らえ、鷲鼻ヤローッ!!』
《ガイアール・カイザー》が持っていた剣を勢いよく振り下ろす。その力を受けたゾックは、後方へ吹き飛ばされた。だが、その体をゴッグが受け止める。
「アニキ、大丈夫?」
「ご……ゴッグか。ここは引き上げるぞ!」
ゾックは自分のカードを拾うと、ゴッグと共に校門に向かって走り出した。その姿をレイモンドはもう見ていない。彼の目はまだ燃えている校舎を見ていた。
「なあ、《ガイアール・カイザー》。レジェンドカードは人の願いを叶えてくれるんだよな?」
『レジェンドカードが認めた奴の願いで、叶えられる願いだけな。それも一回だけだ』
レイモンドは両手で《ガイアール・カイザー》のカードをつかむ。そして、精一杯祈りながら言った。
「頼む!すぐに校舎の火を消してくれ!」
『……俺はまだお前を認めちゃいえねぇ』
「そんな!頼むよ!」
悲痛な叫びを聞きながら、《ガイアール・カイザー》はレイモンドの手から離れて飛んでいく。向かった先にあるのは校舎だ。
『それに、お前はもっと叶えたい願いがあるはずだ。お前が本当に叶えたい願いのために、その一回は取っておけ』
「今のが俺にとっての叶えたい願いだ!昨日まで通っていた学校なんだ!友達がいて、先生がいて、毎日があった!この場所があったから、俺は俺になれたんだ!」
『うるせぇッ!今のお前の願いは叶えねぇって言っただろ!レジェンドカードの力はお前が夢を叶えるための切り札として取っておけ!今、ここで使ったら本当に使いたい時に使えなくなるぞッ!』
「構うもんか!」
『うるせぇよ!そこで黙ってろッ!』
そう言った《ガイアール・カイザー》が赤く輝き始める。すると、校舎の火が少しずつ弱くなっていった。
「何をしているんだ?」
『お前の願いはまだ叶えてやらねぇ。だけど、この町の奴らの願いを叶えてやる。レオパルドに連れて来られてから十四年間、俺はこの町の奴らの願いを糧に生きて来た』
「レオパルドから聞いた事がある。レジェンドカードはその土地に住む神のようなもの。人々の祈りを自らの力にして生きている。そして、時に人々の願いを叶える手助けをする、と」
負傷していたシェルが町民に支えられながら口にする。今の《ガイアール・カイザー》がやっているのはまさにそれだった。
『十四年間、見守る事しかできなかったからな。今、この場でこいつらの願いを叶えてやるぜッ!蘇れ、学校!』
赤い光が校舎全体を包み込む。その光が消えた時、そこには、いつもと同じ姿の校舎が立っていた。
『ふー、疲れたぜ』
力を使い切った《ガイアール・カイザー》がゆっくりと地面に落ちて行く。レイモンドは走ってそれを受け止めた。
「ありがとう。《ガイアール・カイザー》」
『いいって事よ』
レイモンドの礼に照れくさそうに答えた《ガイアール・カイザー》は静かに目を閉じた。

アッグブラザーズによる学校の爆破事件から一日が経った。一日延期になったレイモンドの旅立ちを見守るために、多くの町民が汽車の駅に集まった。
「いいか、レイモンド。俺もいつか、本物のデュエル・マスターズカードを持ってお前みたいにレジェンドカードを探す旅に出るからな」
そう言って挨拶をするのはそばかすの少年、ドビーだ。
「ああ、楽しみにしている」
二人は握手をして再会を誓った。
「レイモンド。これを持って行くといい」
汽車が出発する直前になってシェルが渡したのはガンベルトのようなものだった。銃を入れるところがデッキケースになっている。
「すごい!かっこいいよ、おじさん!」
「少し遅れたが、お前の十四歳の誕生日プレゼントだ。辛くなったら、ここに帰ってきなさい。この町はいつでもお前を待っているんだから」
「ありがとう、おじさん。大事にするよ」
レイモンドは、もらったベルトを腰に巻きつける。その後、デニムジャケットのポケットから小さな赤い石を取り出した。
「それは何だ?」
「レジェンドカードの力の一部を残したものでクリスタルと言うんだって。《ガイアール・カイザー》がこの町に置いて行くって言ってた。これがあれば、これからもルカーノの町は《ガイアール・カイザー》が見守ってくれるって」
「《ガイアール・カイザー》の力の一部か。ところで、《ガイアール・カイザー》はどうした?またどこかに行ってしまったのか?」
「いや、そうじゃないよ。ここにいる」
そう言ったレイモンドはジャケットのポケットを指した。
「別れが悲しくて泣いちゃって出て来ないんだ」
「そういう事か」
今までの《ガイアール・カイザー》の姿から想像できなかった仕草にシェルと町民が笑う。
出発の時刻になって、レイモンドは足元のバッグを担ぎ、汽車に乗り込んだ。
「それじゃ、みんな行ってくるよ!またね!」
笑顔と共に、彼は夢に向かって旅立った。

『おい。みんなは見えなくなったか?』
汽車に乗って十分ほどした時、《ガイアール・カイザー》の声がした。涙声だった。
「ああ、大丈夫だよ。泣き顔は見られてない」
それを聞いて《ガイアール・カイザー》が飛び出す。
『俺様は泣いてねぇッ!レジェンドカード舐めるなよ!』
「はいはい、そういう事にしとくよ」
『何だ、その態度は。クソッ!ギャングのボスとのデュエルも鷲鼻ヤローとのデュエルも俺様がいなかったら、勝てなかったんだからなッ!』
「そうでもないぜ。ゾックとの対戦では、お前の力を借りなくても勝てたと思う」
『な、何ィッ!?』
思わぬ一言に《ガイアール・カイザー》が飛び上がる。
『おい、そりゃ、どーゆー意味だ!』
「《オオ・ヘラクレス》で出すのは、《アパッチ・リザード》でなくてもよかったのさ。あの時、マナゾーンには《GENJI(ゲンジ)・ボーイ》があった」
《GENJI・ボーイ》。それはハンタークリーチャーに、攻撃時にブロッカーを破壊する能力を与えるクリーチャーだ。自身もハンターのため、ブロッカー破壊能力を持っている。
『そ、それじゃ、俺がいなくても……』
「勝てたな。ドン・ザーガとのデュエルもこれで勝てたはずだ」
それを聞いた《ガイアール・カイザー》が赤く光る。怒りで赤面しているかのようだった。
「お前がいなくても、戦えるって事は判ったか?俺の実力、認めてもらうぞ」
『うるせーッ!お前みたいにひねくれた奴、絶対認めねーッ!認めねーからなッ!』
汽車の中では、しばらくレイモンドの笑い声と《ガイアール・カイザー》の怒鳴り声が響いていた。

次回につづく

次回予告
レイモンドが最初に向かったのは、ルボーだった。発掘されたレジェンドカードの持ち主を決めるため、ルボーの町ではデュエル大会が開催された。秘策を練って参加するレイモンド。彼以外にもレジェンドカードを狙う強豪が大勢現れる。そこにはアッグブラザーズの影もあった。レイモンドは大会で優勝してレジェンドカードを入手できるのか!?
VISION.3 お祭り!レジェンドカードをつかみ取れ!!
伝説を目撃せよ!
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

Twitter

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。