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決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ! VISION.3

決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ!

我々の住む地球から遠く離れた場所にある惑星ルーン。
地球と同じように緑に囲まれたこの星で、人間の歴史と共に存在し続けるものがあった。
それは、デュエル・マスターズカード。
失われた文明の遺産として太古の遺跡から発見され、人々の英知を超えた力を発揮するそれらのカードは様々な形で人々の暮らしを助けて来た。
デュエル・マスターズカードの中でも特に貴重で、最も強力な力を持つと言われるレジェンドカード。
これは、レジェンドカードを求める若者達の物語である。

VISION.3 お祭り!レジェンドカードをつかみ取れ!!

花火の音が町に鳴り響く。早朝だったが、それを咎める者はいない。
年に一度のデュエル・マスターズの大会が始まるのだ。この町、ルボーにとっては最大のイベントであり、町中がお祭りムードに包まれていた。
花火の音を聞き、青空を見つめて人々は談笑しながら歩いている。この町に、いや、この町とこの周辺の町にこれほどの人がいたのかと思うほどの人がいた。
ある者はデュエル・マスターズのデッキを持っていた。隣町の力自慢の男だ。今日の大会で勝つために、時間を見つけて練習していた。ルボーではデュエルで強い男が偉いとされている。既婚者は妻や子供に、独身の男は意中の女性に、自分の雄姿を見せるために張り切っている。
またある者は道にマットを広げ、その上にカードを並べている。デュエリストではない。露店商のカード屋だ。ルカーノのような町から運ばれたカードは、販売専門の会社に買い取られる事もあれば、こういった場末の商人に買い取られる事もある。カード以外にも、露店商が店を出している。食べ物や飲み物の屋台などもあった。
『おい、見ろよ!朝も早いってのに、みんな集まってるぞ!俺様もワクワクしてきたぜッ!』
ある宿の客室の窓からカードが顔を出していた。ただのカードではない。自ら意思を持って行動し、主を選ぶレジェンドカード《ガイアール・カイザー》だ。
『おい、レイモンド。聞いてんのか?』
《ガイアール・カイザー》は窓から離れて客室の中を見た。中では一人の少年が体操をしていた。体をほぐした後、白いデニムのジャケットを羽織る。
「聞いてるよ。ワクワクしてるのは俺も同じさ。ルボーのデュエル大会は有名なイベントだからな。参加者と見学者を合わせたらルボーの人口と同じかそれ以上の人数になる」
『人口と同じか、それ以上!?全員、参加してるのか!』
「いや、そうじゃないよ。周りの町から来ている人もいるのさ。旅行者もいるし、他の町からここに物やカードを売りに来てる人だっている。それに、俺みたいにレジェンドカードの噂を聞いてここに来たデュエリストだっているはずだ」
そう言ってレイモンドはテーブルの上に置いてあった新聞を手に取った。新聞には大きな文字で『ルボーの町、レジェンドカード見つかる!』と書かれていた。
新聞の記事によると二週間ほど前にルボーの町長が庭を掘っていたところ、偶然、レジェンドカードが見つかった。町長はこれを今年のデュエル大会の賞品にする事を決めた。毎年、多くのデュエリストが集まるルボーのデュエル大会だが、今年は例年以上の参加者が出る事が予想される。
この記事を見たレイモンドがルボーの町に来たのが今から三日前だ。運よく宿が取れて大会まで休めたのは幸運だったと言える。参加者の中には、宿を取れずに大会まで野宿をする者もいた。
「どんな奴が出ても問題ない。優勝してレジェンドカードを手に入れるのは俺だ!」
新聞を置いたレイモンドはテーブルに置かれていたミルクを一気に飲み干す。《ガイアール・カイザー》はそれを見て呆れた顔をしていた。
『お前、優勝するって言ってやがるけど正気か?本当に勝てると思ってんのか?』
「俺の実力を疑うのか?」
赤茶色の髪の少年は相棒のカードに向かって無邪気な顔で微笑んだ。
彼、レイモンド・フラッグはレジェンドカードを求めて冒険をしている十四歳の少年だ。先日、生まれ故郷のルカーノで見つけたレジェンドカードの《ガイアール・カイザー》とデッキを持って旅している。
デニムの生地を好んでいて、下はブルーのデニム、上は赤いシャツの上から白いデニムのジャケットを羽織っている。腰には親代わりの町長からもらったガンベルトを締めている。これはホルスターに銃ではなくデッキを入れられるようになっている。
『お前の実力は知ってるよ。まだデュエル・マスターズカードを握ったばかりで俺がいないとデュエルで勝てねぇシロートだ』
レイモンドの隣に浮いているのは《ガイアール・カイザー》。この世に数種類しかないと言われるレジェンドカードの一枚だ。これは正確にはレイモンドが見つけたものではなく、彼の父、レオパルドが見つけてルカーノの町に持ち帰ったものだ。レイモンドが生まれてから十四年間、ルカーノの町で封印されていた。レイモンドの旅に同行している。
「素人じゃない。策ならちゃんと用意してあるよ」
『策がある?馬鹿言うなよ。お前がここに来てからやってた事って言えば、他の参加者の練習を見たり変な体操したりミルク飲んだりしてるだけじゃねーかッ!レオパルドだったらもしもの時に備えて万全の準備をしていたぜッ!一回戦負けで後悔すんなよ?』
「大丈夫だって。俺は父さんとは違うけれど、ちゃんと考えているつもりだから」
荷物を整え、レイモンドは部屋を出る。《ガイアール・カイザー》はジャケットの胸ポケットに入った。一階に降りエントランスを通って外に出た彼らを待っていたのは暖かい日差しだった。大会日和と言えるいい天気だ。
大会はルボーの広場で行われる。屋外の会場で雨を遮るものがないから晴れているのはありがたい。
『おい、ジュニア。ちょっとそこのカード屋、寄って行け』
真っ直ぐ会場に向かおうとしたレイモンドに《ガイアール・カイザー》が言う。周りから注目されないように小声だ。
「それもそうだな」
素直に言う事を聞き、彼は露店のカード屋を見た。今大会では三つの露店商が店を出していた。最も品揃えがいいのはここだった。
「おや、兄ちゃんも大会に出るのかい?大会最年少かもしれないな。よっしゃ、おっちゃんが強力カードを教えてやろう」
しばらく見ていると腹の出た店主が自分の太鼓のような腹を叩き、置かれていたカードの中から一枚を選んでレイモンドに見せた。
「これなんかどうだ?一昨年の大会で一位から三位までみんな使っていたカードだ。T・ブレイカーでパワーも一万を超えているんだぞ!ルボーの大会で勝つならパワフルなクリーチャーを入れないと!」
「すごいクリーチャーだ。でも、高いですね」
レイモンドの目は店主が勧めるカードを見ていなかった。別のカードを見ている。
「なら、これはどうだ?去年のトレンドだったW・ブレイカーでパワー9000の進化クリーチャー!今なら四枚セットでお安くしとくよ!」
「それもちょっとな……。俺はこのカードが欲しい」
レイモンドが指し示したカードを見て、店主は「えっ!?」と驚きの声を上げた。それは店主のお勧めとは全く逆の性質のクリーチャーだった。コストは低いがパワーも低くブレイクできるシールドも一枚だ。切り札にできるような力など持っていない。
「こ、これかい?もっといいのがあるんだよ?」
「俺はこれが欲しいんです。四枚……いや、在庫あるだけ買います」
「在庫あるだけ!?」
再び、店主が驚きの声を上げた。弱いカードを大量に買って行く目の前の少年の行動が信じられなかったからだ。周りで様子を見ていた人々も予想外の行動にざわめき始めた。
「おい、あいつ強いカードを知らない初心者なんじゃねーのか?」
「聞こえるように言うなよ。可哀想だろ。ま、余所者じゃここでの戦い方を知らないのも無理はないな」
余所から来た少年に聞こえるようにわざと大きな声で嘲るような者もいた。レイモンドの耳にその声が届いていない訳がない。
「買えませんか?」
「いいけれど……後で返品してって言ってもそれには応じないからね?」
「そんな事は言いません。それじゃ、これ。カードの代金です」
レイモンドは代金を渡してカードを受け取る。渡されたカードは四十枚以上あった。
「まいどありー!」
カードが大量に売れた事に喜ぶ店主の声を聞きながらレイモンドは会場に向かって歩き出した。すると、胸ポケットの中で《ガイアール・カイザー》が暴れ始める。
「どうしたんだ?」
『どうしたもこうしたもねぇ!そんな弱いカード買うなんて馬鹿か!?デッキに入れられるのは四枚なのに、そんなに買ってどうするんだ、この馬鹿ッ!!無駄遣いすんな!』
小声で聞いたレイモンドに対して《ガイアール・カイザー》は大声で罵声を浴びせる。周囲の人間がレイモンドを見た。人目を避けるためにレイモンドは急いで路地裏に向かった。
「このカードを買った事を怒ってるのか?」
『当たり前だ!この大馬鹿ヤローッ!!店主の言う強いカードを買っとけばいいだろーがッ!練習もしない、強いカードも買わない。しかも、周りにいた奴にも笑われて……。勝つ気あんのか、馬鹿ッ!もういい。お前なんか負けちまえ!!』
自分の言いたい事だけを言うと《ガイアール・カイザー》は黙った。レイモンドが話しかけても返事をしない。
「へそを曲げたのか。まあいいや。《ガイアール・カイザー》、大会が終わる頃にはお前も周りの人達も俺がやった事の意味が判るよ。笑いたい奴は笑わせておけばいい。デュエルはパワーだけじゃ決まらない。それを教えてやるさ」
不敵に微笑んだレイモンドは路地裏を抜け出すと走って会場に向かった。

大会参加者は千人を超えていた。受付で参加料を払い、参加証明書と専用のプロテクターを受け取る。デュエルの大会は実戦と同じ形式で行われるため、とどめを刺される時にクリーチャーの攻撃を受ける事になる。その衝撃を防ぐために参加者には服の上からつけられるプロテクターが配られているのだ。一度の直接攻撃でボロボロになってしまうため、使い捨てに近い。参加料の半分近くはこのプロテクター代となっている。
「今年もやってまいりました!ルボーデュエル・マスターズトーナメント!今年は今までで最大の参加人数となっております!大会を制するのはどの選手でしょうか!それでは第一回戦スタートです!」
レイモンドも対戦相手も既にシールドのセットと手札の準備を終えていた。目の前にいる対戦相手は二メートルを超える大男だ。
「相手が悪かったな、ボウヤ。俺は前回準優勝のギガだ。悪いが子供相手でも手加減はしないぜ」
「よろしく。それじゃ、手加減抜きの全力でお願いします」
物怖じしないレイモンドの言葉を聞いてギガの周囲の人間が笑い出す。
「おい、ギガ!全力でやってくれってよ!」
「ガキはおままごとでもしてたらどうだ!」
下卑た笑いに耐え切れず、超次元ゾーンの《ガイアール・カイザー》が暴れ出そうとして震える。それをレイモンドが手で止めた。
「デュエル中だ。やめろ」
二人だけに聞こえるような声でレイモンドは命じる。その言い方には渓流のせせらぎのような穏やかさがあった。
『お前!ここまで言われて悔しくねぇのかよッ!それでも男か!?』
「気に食わないから黙っているんだ。この対戦が終わってもまだこの男達が許せないのなら暴れてもいい」
『ちっ……!判ったよ』
《ガイアール・カイザー》の説得を終えたレイモンドはマナゾーンに一枚のカードを置いた。置かれた瞬間、そのカードは赤い光を発した。
「火のカードを使うのか。ここでの流行は自然文明だぞ。マナをガンガン増やして巨大なクリーチャーを出して相手を殴り倒すのがルボー流って奴よ!」
ギガがマナゾーンに置いたのは自然のカードだった。緑色の光を発したそれはマナを増やす能力を持つ呪文《フェアリー・ライフ》だ。
「予想通り。マナブーストのカードを入れていたみたいだな」
レイモンドも同じように自然文明のカードをマナゾーンに置く。それが緑色の光を発するのとほぼ同時に置かれたマナのカードを全てタップした。使えるマナは二つ。緑色に輝いた二枚のカードから力を得てバトルゾーンに一体のクリーチャーカードが置かれた。
「《霞み妖精ジャスミン》を召喚!そして、効果で自爆して山札の上のカードをマナに!」
一瞬、カードの上に現れた妖精の少女のビジョンはすぐに消え、カードは墓地に置かれた。その後、レイモンドは緑色に光った山札の上のカードに触れ、マナゾーンにそれを置いた。
「ボウヤもマナブーストか。だが、俺達ルボーの人間に追いつけるかな?」
ギガはカードを引く。舌打ちをしてマナゾーンに水のカードを置き、ターンを終えた。
「運が良かったな。このターンでマナは増やせない。だが、次は思いっきり増やしてやるよ」
「次はない!」
「何っ!?」
レイモンドの宣言にギガだけでなく、周囲のギャラリーも驚く。そんな彼らには目もくれず、レイモンドはドローとマナチャージを終えて一枚のカードを場に出した。そのカードは赤い光を発し、クリーチャーのビジョンを映し出す。現れたのは腰から下と両腕がドリルで出来ているような赤い人型ロボットだった。ドリルの先で独楽のように器用に立っている。
「《穿神兵ジェットドリル》召喚!ターンを終える」
「それだけ?」
次はない、という言葉からギガもギャラリーも強力なカードを出してくると思っていた。しかし、レイモンドが召喚したのはパワー2000のクリーチャーである。肩透かしを食わされたような気の抜けた声がギガの口から出た。
「次はあるんだよ、ボウヤ。《青銅の鎧》召喚!」
マナチャージを終えたギガは、マナブーストの基本とも言えるクリーチャー《青銅の鎧》を召喚する。その後、緑色に輝く山札の上のカードをつかんだ。
「ほらよ。これでマナが増えたぜ」
「そうでもないさ」
レイモンドが静かに微笑んだ時、ギガのマナのカードが一枚、山札の下に移動した。予想もしていなかった光景をギガもギャラリーも声を出す事を忘れて見ていた。
「お、俺のマナが勝手に消えやがった!何が起きたんだ!」
「これが俺の《ジェットドリル》の能力だ。山札か墓地のカードをマナにした時、マナから一枚を山札の下に置く能力!」
「く……!だが、お前だってマナブーストのカードを入れているだろう!お前がマナブーストした時だって山札の下にカードが置かれるはずだ!」
「心配ご無用。この能力は相手のみが受ける。俺はこの能力によるダメージを受けない!」
「嘘だろ!?」
《ジェットドリル》の効果を知って叫んだのはギガだけではない。周りにいたギャラリーも同じだった。ルボーの人間にとって唯一無二の必勝法が簡単に破られてしまったのだ。ハンマーで頭を殴られるような大きなショックを受けていた。
特にギガが受けた精神的衝撃は大きく、表情は絶望で歪んでいた。目も口も大きく開いたまま瞬きも呼吸も忘れたように凍りついている。
「ちょっとこれは想像以上だな」
あまりの出来事にレイモンドは溜息を漏らし、苦笑した。
その後、レイモンドは小型のクリーチャーを増やしながら毎ターンシールドを攻撃していった。マナブーストのカード以外は大型のクリーチャーばかりだったギガのデッキがその猛攻を止められる事はなく、一回戦はレイモンドの勝利に終わった。敗北したギガは逃げるようにその場を去っていった。
「一回戦終了だ。相棒、これでも周りの男達が許せないか?」
『いや、全然。面白いモン見せてもらったぜ!あと、相棒って言うな!』
《ガイアール・カイザー》の機嫌のいい声を聞いた直後、二回戦が始まる。二回戦の相手もレイモンドの敵ではなかった。一回戦と同じように《ジェットドリル》による妨害で相手の動きを封じて勝利した。
その後もレイモンドは順調に勝ち進んでいく。《ジェットドリル》の力は大きかったが、全ての試合をそれだけに頼ってはいない。
《ジェットドリル》の能力だけでは相手のマナブーストを防ぎ切れずに相手が大型クリーチャーを出す試合もあった。しかし、レイモンドは冷静さを失わずに除去カードで対応した。大型を一体出すという戦略故に、出した大型を破壊すれば相手は何もできなくなってしまうからだ。
《ジェットドリル》が引けない試合では小型クリーチャーを増やし、手数で相手を圧倒して勝利した。相手が切り札の大型クリーチャーを出す頃には相手のシールドが一枚程度という事もあった。
別の町から来たノーマークの少年はピンチに陥る事もなく、順調に決勝まで駒を進めた。
『さすがだぜ、ジュニア!まだ、俺様の出番がねぇのが気に食わねぇがよくやってるじゃねぇか!決勝戦も楽勝だなッ!』
「いや、そううまくいかないかもしれないぞ」
レイモンドはもう一つの準決勝をやっているテーブルを見た。そこで戦っているのはルボーの男と別の町からやって来た少女だった。
金色の糸のような長い髪を後ろで一本の三つ編みにしている。緑がかった青色の目は神秘的な宝石を思わせる輝きを秘めていた。肌は白く、顔以外では手しか露出していない。貴金属を思わせるような彼女の顔のパーツとは対照的に、白のシャツ、グレーのベスト、黒のズボンとシンプルな色合いの服装だった。スタイルが良く健康的な色気が溢れる彼女の肢体を包むには、むしろこういった服装の方が合っていると言える。
「はいっ、これで終わり!」
弾けるような少女の声と共に、その対戦は終わった。対戦開始から一分も経たずに勝利してしまうその早業に対戦相手は見惚れる事しかできなかった。
「これにて準決勝第二試合が終了!決勝戦に進出したのは、どちらも外からやって来た強力なデュエリストであります!青コーナー!今大会最年少のテクニシャン、レイモンド・フラッグ!!」
名を呼ばれたレイモンドは司会者がいる決勝のテーブルに向かって歩く。準決勝を終えた金髪の少女も笑顔で決勝のテーブルに向かった。
「赤コーナー!各地の大会に参加している大会ハンター、ジョセフィーヌ・ジンクス!」
司会者に紹介された二人は、特設会場に設置されたテーブルの前に立って対峙した。少し高い場所に作られたその特設会場の周囲をギャラリーが囲んでいる。決勝戦を戦うのはどちらも余所者であるにも拘らず、全方位から二人に熱い視線が送られていた。
「よろしく。レイモンド・フラッグ君。どんな戦い方でここまで勝ってきたの?」
ジョセフィーヌ・ジンクスが右手を差し出してくる。猫のような彼女の瞳が好奇心を込めてこちらを見ていた。
「よろしく。ジョセフィーヌ・ジンクス。悪いが俺の戦略は戦いが終わるその時まで秘密だ。君だってその早業の秘密を教えてくれないだろう?」
レイモンドはジョセフィーヌの手を握って言い返す。互いの視線がぶつかり、相手の戦い方への興味や対戦への期待といった抑えきれない感情が瞳から飛び出した。
「それでは、ルボーデュエル大会!決勝戦、スタート!」
先に行動してマナチャージをしたのはジョセフィーヌだった。可憐な三つ編みを揺らしながら一枚のカードをタップした状態で置く。
「火と水の多色カードか。コストの軽いクリーチャーだな。今までルボーの対戦相手がそんなカードを使った事はなかった。それが君のスピードの秘密か」
「さあ、どうかしら?」
否定とも肯定とも言えない返事と共にジョセフィーヌは微笑み、ターンを終えた。レイモンドもマナチャージをしてターンを終える。他のデュエリストに比べて軽いカードを入れているレイモンドのデッキでも、1ターン目から使えるカードはない。
「へぇ、もしかしたら速攻かと思ったけれど、別のやり方で勝ち上がって来たみたいね。それが君の強さの秘密か」
「さあ、どうかな?」
マナに置かれたカードを見てジョセフィーヌもレイモンドの戦略を推理し始めた。
それと同時に自分の戦いを進める事も忘れていない。口と同時に手が動き、マナゾーンにカードが置かれた。間髪入れずにそこにある二枚のカードはタップされる。赤と青、二色の輝きを受けて、バトルゾーンに置かれた一枚のカードからクリーチャーのビジョンが出て来た。
「《電磁翔天ピピッピ》召喚!」
現れたのは青い羽根の小鳥のようなクリーチャーだった。一部の羽根が赤く、非常に美しいバランスで色が分けられている。
この《電磁翔天ピピッピ》はただ美しいだけのクリーチャーではない。3000という2ターン目に召喚できるクリーチャーにしては高いパワーを持っている。それだけでなく、攻撃時に発動する特殊能力も持っているのだ。
「軽くて強いクリーチャーか。そこからどう動くのか見せてもらうぞ」
「ええ、よく見ていなさい。でも、見てるだけじゃすぐに終わっちゃうわよ!」
「心配はいらない!《霞み妖精ジャスミン》召喚!」
レイモンドが2ターン目にできる行動は《ジャスミン》を召喚し、その能力を使ってマナを増やす事だけだ。マナは増えたが、クリーチャーは残らない。既に攻撃できるクリーチャーを用意しているジョセフィーヌに対して丸腰の状態である。
「マナを増やす?もしかして、ここの人達と同じ戦略で勝ってきたの?」
「似たようなものだ。俺が考えた秘策は君には通じないさ」
「そう。それじゃ、あたしという不確定要素の存在を呪いながら倒れなさい!」
マナゾーンにカードを置いたジョセフィーヌは素早い手つきで二体目のクリーチャーを召喚する。球体を上下に分けたような物体の中にいるサイバーロード《クラゲン》だ。《クラゲン》を出した途端、ジョセフィーヌの山札のカードが青く光り始めた。彼女がその上に手をかざすと、山札の中から一枚のカードが飛び出してくる。
「これが《クラゲン》の能力よ。山札の中から選んだ進化クリーチャー《火ノ鳥カゲキリ》を山札の一番上に置くわ!そして……!」
《ピピッピ》が姿勢を低くしてレイモンドのシールドを睨む。いつでも攻撃できる体勢になっていたそのクリーチャーは主の命令を待っていた。
「《ピピッピ》でシールドを攻撃!攻撃時の効果で山札の上の進化カードをゲット!」
「《ピピッピ》は攻撃時に山札の上をめくり、進化カードなら手札として加える能力を持つ。山札の上に進化クリーチャーを持ってくる《クラゲン》とのコンボか」
「そういう事よ!」
ジョセフィーヌの狙いを理解したレイモンドは冷静な表情を崩さずに破られたシールドを手札に加えた。
速攻の弱点は手札の消費が早い事だ。《ピピッピ》の能力で手札を増やそうとしたとしても、必ず進化クリーチャーが山札の上にあるとは限らない。しかし、ジョセフィーヌは《クラゲン》を使う事でロスをなくし、ランダム要素も可能な限り排除した。弱点をなくし、無駄のない戦略として昇華している。
「やはり、君に勝つのは簡単ではなさそうだ。少しずつ追い詰める!」
最初のマナチャージを終えても、まだ四枚しかカードが置かれていない。切り札を出すにはマナが足りない。それでも、レイモンドは今出来るベストの選択をした。
マナの三枚をタップし、《流星のエグゼドライブ》を召喚する。
「《エグゼドライブ》で《ピピッピ》を攻撃!これでもう進化クリーチャーを手札に呼ぶような事はできない!」
《流星のエグゼドライブ》の正拳突きと《ピピッピ》のくちばしによる突きが相手に刺さったのはほぼ同時だった。それぞれ、光と共にクリーチャーのビジョンが消えて行く。
「相討ち覚悟で《ピピッピ》を攻撃してくるとは恐れ入ったわ。でも、《クラゲン》は残ってる!進化するわよ!」
《クラゲン》のビジョンが消え、その上に一枚の赤いカードが重ねられる。赤い光と共に現れたのは巨大な翼を広げた赤い全身の怪鳥だった。
「これがあたしの切り札、《火ノ鳥カゲキリ》よ。早速、進化した《カゲキリ》でシールドブレイク!」
ジョセフィーヌがレイモンドのシールドの一枚を選んで指すと、《カゲキリ》が首を伸ばして口の先を向けた。くちばしは開かれ、そこから怪音波が発せられる。一瞬にしてレイモンドのシールドは砕け散った。
「もう一回行くわよ!メテオバーン!」
ジョセフィーヌが叫んだ瞬間、《カゲキリ》の体が赤く輝き、下に置かれた二枚のカードの一枚が墓地に向かって飛んでいった。
「進化元を墓地に捨てる事で使えるメテオバーンか」
「そうよ。あたしの《カゲキリ》はメテオバーンを使う事でアンタップできる!もう一度シールド攻撃よ!」
再び、《カゲキリ》の怪音波がレイモンドのシールドを襲った。
「無理だ!あのレイモンドってガキじゃ、あのねえちゃんには勝てねぇよ!」
「ああ、速すぎるぜ」
既に半分以上のシールドを破られたレイモンドを見て、ギャラリーが言った。ジョセフィーヌと戦って敗れた彼らはレイモンドが勝つ事を期待していた。しかし、自分達と同じように速攻で追い詰められたのを見て嘆いていた。
「どう?降参しなさい!」
「嫌だね。俺はここから逆転するつもりだ!召喚!」
「えっ!?」
《カゲキリ》の怪音波を浴びせられたシールドが砕けるのと同時に、波が押し寄せて来た。《カゲキリ》の肉体はその波に取り込まれ、ビジョンが消えて行く。そして、波と共に一体の液体人間がバトルゾーンに現れる。レイモンドのシールド・トリガークリーチャー《アクア・サーファー》だ。
「《アクア・サーファー》の能力で《カゲキリ》を手札に戻した。また使われてしまう可能性もあるが、今はこうするしかない。そして、ドロー!マナチャージを終えて《超次元エナジー・ホール》!」
流れるような動きでマナを使い切ったレイモンドはカードを引いた。同時にバトルゾーンに渦のようなものが発生してそこから二体のクリーチャーのビジョンが飛び出す。一体は体よりも大きなトンファーを持った赤いヒューマノイド《時空の喧嘩屋キル》。もう一体は金色の肉体を持った戦士《時空の英雄アンタッチャブル》だった。
「一気に三体もクリーチャーが出たぜ!」
「いいぞ、やっちまえー!」
ギャラリーの声を聞きながら、レイモンドは思案する。そして、手を叩くとこう言った。
「攻撃はしない。ターンエンドだ」
それを聞いたギャラリーから激しいブーイングが起こる。《アクア・サーファー》が攻撃できるのに攻撃しなかったからだ。
「賢明な判断ね」
「判らない奴もいるみたいだが」
あまりにも激しいブーイングに二人は耳を塞ぎ、笑い合った。慌てて司会者がギャラリーをなだめて落ち着かせたところで試合が再開する。
「でも、それだけじゃ駄目よ。戦う前から優勝もこの町レジェンドカードもあたしのものと決まってるんだから!」
ジョセフィーヌはマナをチャージしない。既に置かれている三枚のカードをタップして青い帽子をかぶった鳥《ライラ・アイニー》を召喚する。《ライラ・アイニー》は目にも留まらぬスピードでレイモンドのシールドに近づくと、羽根を振り下ろして縦に切り裂いた。
「スピードアタッカーか。やってくれるな!」
しかし、レイモンドも負けてはいない。幸運の女神は彼を見捨てていなかった。シールドから緑色の光と獣の咆哮と共に白熊のようなクリーチャーが飛び出した。
「《駿足の政(イダテン・キッド)》だ。この効果でクリーチャーを一枚手札に加える」
「またクリーチャーを増やすお手伝いをしちゃった。でも、そのパワーで勝つつもり?」
《駿足の政》のパワーは1000だ。レイモンドのクリーチャーの中で一番パワーが高いのは《アクア・サーファー》だ。しかし、それでも2000しかない。《ライラ・アイニー》と戦って相討ちにするのが精一杯だ。
「こいつらのパワーで勝てるとは思っていないさ。だからこうする」
レイモンドはマナゾーンのカード三枚をタップする。そこから赤い光が溢れ、彼が場に出したカードにエネルギーを注いだ。その場にいたギャラリーに見守られながら赤い光と共にクリーチャーのビジョンが姿を現す。
「《ジェットドリル》召喚!」
だが、そこで現れたのは《ジェットドリル》だった。ジョセフィーヌ相手には通じないと言っていた『秘策』のクリーチャーが現れた事でギャラリーは呆れた溜息を出した。
『おい、ジュニア!何やってんだ!《ジェットドリル》はマナ増やす奴相手に入れたクリーチャーだろ!今、出しても意味ねーじゃねーかッ!』
超次元ゾーンでも《ガイアール・カイザー》が震えながら怒る。幸いな事にジョセフィーヌはレイモンドを見ていたのでそれには気付かなかった。
「それって、君が今までの対戦で使っていたクリーチャーよね?でも、あたしはマナブーストをしないから通用しないわよ?」
「ああ、判っている。だから、こうするのさ」
レイモンドはマナゾーンにある残った三枚のカードをタップした。そして、手札にある一枚のカードを突き出す。
「呪文《母なる紋章》!《ジェットドリル》をマナゾーンのクリーチャーと入れ替える!」
宣言と同時に《ジェットドリル》のビジョンが消える。まだ赤い光を発しているそのカードをつかんだレイモンドはそれをマナゾーンに置く。そして、マナから別の赤いカードがバトルゾーンに置かれた。光と共に、羽根飾りで着飾ったクリーチャー《激流アパッチ・リザード》が現れる。
「俺は《アパッチ・リザード》の効果でコスト8以下の火のサイキック・クリーチャーを呼び出す。出すのはこいつだ!」
《アパッチ・リザード》の両腕が炎を出し、その炎から龍の雄叫びと共に一体のサイキック・クリーチャーが飛び出した。
「《ガイアール・カイザー》召喚!」
『来たぜ!俺様が全部蹴散らしてやるッ!』
人語を発したクリーチャーのビジョンを見てギャラリーは驚き、一度言葉を失った。
「嘘……。クリーチャーがしゃべってる……」
快活なジョセフィーヌも突然の事に目を丸くしていた。
「ああ、こいつはレジェンドカードだからな。話す事もできる。目立ちたくなかったから今までは黙らせてたけどな。《ガイアール・カイザー》!《ライラ・アイニー》を攻撃だ!」
『おうっ!……って、シールドじゃねぇのかよッ!弱い者いじめみたいじゃねーかッ!』
振り向き、レイモンドに文句を言った後で《ガイアール・カイザー》は《ライラ・アイニー》の眼前まで飛ぶ。そして、移動の勢いを残したまま《ライラ・アイニー》を殴り飛ばした。吹っ飛ばされた《ライラ・アイニー》のビジョンはジョセフィーヌのシールドまで飛んでいき、そのまま激突した。
「《ライラ・アイニー》は攻撃された時にシールドを一枚手札に加えなくてはならない。これでようやく一枚だ。俺はターンを終える」
『おいっ!まだシールドを攻撃できるのにやめちゃうのかよ!』
「これでいいんだよ。俺にも考えがある」
「考えがあってもそれを実行できるとは限らないわよ!」
ジョセフィーヌの場に新たなクリーチャーのビジョンが現れる。それは二体目の《ライラ・アイニー》だった。《ライラ・アイニー》は召喚と同時にレイモンドのシールドに特攻をかける。これでレイモンドのシールドは0になってしまった。
「あたしの手札にはさっきの《カゲキリ》もあるし、その進化元もある。あなたの負けよ!レイモンド・フラッグ!」
「それは次の君のターンがあったと仮定しての話だ。だが、それはない。このターンで俺が勝つからだ!」
レイモンドが勝利を宣言した瞬間、《キル》の体が緑色の光を発し始めた。条件を満たす事でサイキック・クリーチャーが強化される『覚醒』という現象が起きている。
「パワー6000の《ガイアール・カイザー》がいる事で《キル》覚醒。《巨人の覚醒者セツダン》!」
そこに立っていたのは《キル》の面影を残したまま巨大化し、色が緑色に変化した巨人のクリーチャーだった。《巨人の覚醒者セツダン》になった事でパワーは5000に増え、W・ブレイクを得た。
「ジョセフィーヌ。君のデッキは速攻デッキだ。故に軽いカードばかりが入っていてシールド・トリガーが少ないと俺は推理した。しかし、一枚も入っていないとは考えていないし、総攻撃を仕掛ける事でシールド・トリガーを踏む事も予想している。だから、俺は1ターン待って《キル》を《セツダン》に覚醒させたんだ」
「なるほど。用心深いのね」
『え?どういう事だよ!』
レイモンドの解説を聞いてジョセフィーヌは全てを理解した。説明を聞いても判らなかった《ガイアール・カイザー》だけが頭上に疑問符を浮かべている。
「ジョセフィーヌのデッキは水と火のデッキ。水文明のカードなら相手のクリーチャーを手札に戻すシールド・トリガーが使える」
『お前がさっき使った《アクア・サーファー》みたいな奴か』
「手札に戻すシールド・トリガーは軽い。ジョセフィーヌのデッキに入っている事も充分考えられる。だから、俺はサイキック・クリーチャーを手札に戻せなくする《セツダン》に覚醒するのを待っていたんだ!」
『そうか!それなら、あのパツキンねえちゃんのシールド・トリガーも怖くないって訳だな!』
「そういう事だ!行くぞ!」
『おうよ!』
《ガイアール・カイザー》と《セツダン》が同時にシールドに攻め込む。四枚あったシールドは一瞬でなくなってしまった。ジョセフィーヌはそのシールドの中身を見て悔しそうに唇をかむ。
「1ターン待てる用心深さと忍耐力。それが君の強さの秘密なのかしら?」
「さあ、どうかな?」
レイモンドが微笑み、《アンタッチャブル》に攻撃命令を下す。《アンタッチャブル》の正拳突きを受けてジョセフィーヌは後方に倒れた。勝利したレイモンドはデッキを片づけるとすぐにジョセフィーヌに近づき、手を差し出す。
「ナイスファイト。本当に強かったよ」
「ありがと。優勝おめでとう」
ジョセフィーヌがレイモンドの手を取った瞬間、会場は溢れんばかりの拍手と割れんばかりの歓声に包まれた。

表彰式から一時間ほど経った。レイモンドは優勝賞品として与えられた鍵を持って横穴の前に立っている。この洞窟の奥にレジェンドカードを封じた宝箱がある、と司会者は言っていた。
「自分で開けろって事なのね。持ってきてくれてもいいのに」
レイモンドの隣にはジョセフィーヌがいた。どうしてもレジェンドカードを見たいという事で着いて来たのだ。
「大勢の前で渡したら盗まれるかもしれない。だから、ここに隠してあるんだろう」
ランタンに火を灯しながらレイモンドが推測を口にする。隠し場所に洞窟を選んだ理由などどうでもよかった。取りにくい場所に隠してある物を取りに行く、という冒険らしいやり方が気に入ったからだ。
「洞窟に入った瞬間、入口を埋められないかしら?」
「後ろから何かが来る気配はないよ。それに、そんな事があったらこいつがどうにかしてくれる。そうだろ?」
同意を求められた《ガイアール・カイザー》は照れくさそうに
『ま、俺様が本気を出せば埋まった入口をこじ開けるのなんか一発だぜ!』
と、言った。
洞窟の中は広かった。しかし、持っていたランタンで数メートル先まで照らせるため、視界に不自由はなかった。足元も照らせるので転ぶような危険な場所も確認できる。今のところ、平坦な道ばかりで危険な場所は見当たらなかった。それを確認してレイモンドは歩き出す。ジョセフィーヌも続いた。
「レジェンドカードって持ち主を選ぶのよね」
「ああ、自分で認めた者にしか力を貸さないらしい」
『言っておくが、俺様はまだお前を認めてないからな』
「いい加減、認めろよ」
「じゃ、もしもレイモンドがここのレジェンドカードに認められなかったら、あたしがもらってもいい?」
「いいよ。俺は絶対に認めさせてみせる。だから、君の手元にここのレジェンドカードが行く事はない」
『俺様はジュニアを認めてねぇけど、お前を認めるつもりもねぇ』
「はいはい、判ったわよ。ところで、ここにはどんなレジェンドカードが隠されているのかしら?かわいくて速攻に使えるのだといいわね!」
「俺はどんなカードでも大切にするつもりだ」
『どんなレジェンドカードだったとしても関係ねぇぜッ!俺様の方が強いに決まってらぁッ!』
「随分と楽しそうだな、レイモンド・フラッグ」
弾んでいたレイモンド達の雑談に男の声が乱入する。進行方向を照らすとそこには二人の男と小さな宝箱が見えた。片方は特徴的な鷲鼻と緑色のポンチョ。もう一人は茶色がメインの服装にサスペンダーの大男だ。
『お前ら……!ルカーノを襲った奴らだな!ここまで俺様達を追ってきやがったか!』
ポンチョの男、ゾック・アッグとサスペンダーの大男、ゴッグ・アッグ。レイモンドの故郷、ルカーノを襲い、《ガイアール・カイザー》を奪おうとしたアッグブラザーズだ。
「今度は何を企んでいる?ルカーノと同じようにこの町を襲うのか?」
「ふん。こんな時化(しけ)た町に用はない。レジェンドカードを手に入れる事。ついでにお前に復讐する事。この二つが俺達の目的だ。さあ、宝箱の鍵を渡せ」
ゾックはポンチョの中から右手を出した。左手で宝箱の蓋をつかむ。
「誰が渡すか。欲しいのならこれで取ってみろ!」
ゾックの鼻先にデッキを突き付けたレイモンドは不敵な笑みを見せて挑発する。一度、ルカーノで勝った相手に負ける訳がない。そんな自信に満ちていた。
「今回の相手は俺ではない。ゴッグ!この小僧の相手をしてやれ!」
「判ったよ、アニキ」
大きな体躯を震わせながらゴッグはレイモンドの前に立ちはだかる。その巨体はまるで山岳のようで、レイモンドもジョセフィーヌも彼と目を合わせるためには見上げなければならないほどだった。
「俺に勝つつもりか?そこにいるゾックだって俺には勝てなかったんだ。やめておけ、やるだけ無駄だ」
「確かにアニキは負けた。だが、今はルカーノで戦った時とは違う」
山のようにどっしりしているせいか、挑発にも動じない。ゴッグは自分のペースを乱さずにデッキのシャッフルを始めた。それを見てレイモンドもシャッフルを始める。
「今の俺はお前とアニキの戦いのデータを持っている。その前のデュエルのデータもあるからお前の戦い方は判っている。それに、今のお前は大会で多くのデュエリストと戦って疲れている。コンディションは俺の方がいい」
「それだけで勝てると思いこむとはね。恐れ入ったよ」
レイモンドはシールドの設置を終えると山札の上のカード五枚を取った。そして、鋭い視線でゴッグを射抜く。
「俺だって勝つつもりだ!今の俺は大会で多くのデュエリストと戦った。その分の経験値が蓄積されている!」
「ならば、今日は負けを経験させてやる」
低い声でゴッグが凄み、カードをマナゾーンに置いた。置かれたカードが一瞬黒い光を発する。
「闇デッキか。トリッキーな戦術に注意が必要だな」
レイモンドはカードを引いてマナを置く。今、手元に《ジャスミン》はない。出足が遅れそうだった。
「マナをチャージ。そして、《奪い去る者ザビフライ》を召喚」
プロペラ機のような姿をした怪人がカードから現れる。ゴッグの戦術はゾックとは違い、序盤から攻撃可能なクリーチャーを召喚しての速攻のようだった。
「速いわね!」
「ただ速いだけじゃなさそうだな」
ジョセフィーヌとレイモンドが《ザビフライ》を見て言う。
引いたカードもまだ使えるものではない。2ターン目もチャージだけでレイモンドの行動が終了した。
「俺のデッキはアニキよりも攻撃的だぞ。今度はこいつだ!《電脳封魔マクスヴァル》召喚!」
ゴッグが出したのはブロッカーだった。攻撃できないクリーチャーの召喚にレイモンドもジョセフィーヌも困惑する。
「闇クリーチャーのコストを下げるブロッカーか。大型を出す準備をしているのか?」
「さあな。それよりも攻撃だ。行け、《ザビフライ》!」
《ザビフライ》がレイモンドのシールドに特攻する。鼻先についたプロペラがミキサーのスクリューのようにシールドを砕いていった。
「シールドを攻撃されたのは痛い。だが、手札にこいつが来た!早速召喚させてもらうぞ!」
レイモンドはマナの三枚をタップして《青銅の鎧》を召喚する。これでレイモンドのマナは四枚になった。
「次のターンに5コストの超次元呪文が使えるわね」
「ああ、これで数を増やして攻める!」
いい動きだった。想定通りの流れるような動きで自分の流れを作っている。
ルカーノで友人達相手にやっていたごっこ遊びのデュエルの時からレイモンドの戦闘スタイルは変わっていない。ルボーで多くのデュエリストと戦う事で洗練されていた。
「何か狙ってるみたいだな~。アニキ、どう思う?」
ベストの流れを作ったレイモンドを見てゴッグはいやらしい笑みを浮かべている。ゾックも同じだった。自分が負けた相手に向けるものとは思えない舐め切った笑いだ。
「何を狙っていても対した事はない。ゴッグ!お前の戦い方を教えてやれ!」
「判ったぜ、アニキ!うおおおお、召喚!」
野獣のような砲口と共にゴッグは四枚のカードをタップ。そして、バトルゾーンに一体のクリーチャーを召喚した。黒い光を発したカードからたくさんの剣を持った悪鬼のビジョンが現れる。そのクリーチャーはビジョンの発現と同時に剣を《ザビフライ》と《青銅の鎧》に投げつけた。
「俺の《魔刻の剣士ザビ・オルゼキア》は強いぞ!エイリアンを生贄に捧げれば、どんなクリーチャーでもイチコロだ!」
ゴッグが言ったように、エイリアン種族の《ザビフライ》のビジョンが消えて行くのと同時に《青銅の鎧》のビジョンが消えた。
「しまった!」
それを見てレイモンドが叫ぶ。《青銅の鎧》が破壊された事に衝撃を受けているのではない。その目は《ザビフライ》を見ていた。
『どうしたんだよ?《青銅の鎧》がやられたのはきついけど、相手だって攻撃できるクリーチャーを殺しているんだぜ?どっこいどっこいだろ?』
「違うぞ、相棒。俺の方がマイナスだ。俺は可能な限り《ザビフライ》を破壊せずに戦うつもりだった!《ザビフライ》は破壊された時に相手の手札を一枚捨てるクリーチャーだ」
ビジョンが消えたはずの《ザビフライ》のカードからプロペラが飛び出して来る。そのプロペラはレイモンドの手札を一枚弾き飛ばしていった。
「どうだ。レイモンド・フラッグ!ゴッグのデッキは死を操る能力!お前が破壊したくないと思ったクリーチャーは自爆させる!お前の切り札も破壊する!このデッキに勝てるか!」
「へっへっへ。勝てるか、なんて聞くなよ、アニキ。こんなガキ、すぐにやっつけてやるからよ」
厄介な敵だった。ルボーで対戦した者達とは違って戦い方が直線的ではない。ゴッグは破壊を戦略として複雑に絡めて戦っている。
「《マクスヴァル》がいた事で5コストの《ザビ・オルゼキア》が4マナで召喚できる。それも考えられているわね」
ジョセフィーヌが言うように3ターン目に召喚された攻撃できないブロッカーにも意味があった。レイモンドが《青銅の鎧》によるマナブーストで4ターン目に5コストの超次元呪文を使うのを狙っていたように、ゴッグも4ターン目に《ザビ・オルゼキア》を使うのを狙っていたのだ。
「どうだ、ガキ。今までのは全部まぐれだ。俺達アッグブラザーズを舐めるなよ」
「三枚だ」
「あ?」
唐突で流れを無視したレイモンドの言葉を聞き返す。ゴッグが見ると、目の前の少年は右手の指を三本立てていた。
「《ザビ・オルゼキア》は残り三枚。自爆をコントロールできるのも三回。よく考えて使うんだな」
「舐めてるのかーっ!」
あくまで冷静さを崩さないレイモンドを見てゴッグは顔を真っ赤にして激昂した。レイモンドは顔色一つ変えずにカードを引き、クリーチャーを召喚する。
「《駿足の政》を召喚する。効果で《アバレ・ムゲン》を手札に!」
白熊のようなクリーチャーがバトルゾーンに立つ。その効果でレイモンドは切り札の《アバレ・ムゲン》を手に入れていた。レイモンドの手札の赤い龍を見てアッグブラザーズは二人同時に顔を青くした。
「ゴッグ!あのカードは危ない!早く何とかしろ!」
「判ったぜ、アニキ!とは言ったもののどうすれば……おおっ!」
引いたカードを見て怯えていたゴッグの顔に余裕が戻ってくる。
「俺のデッキはレイモンド・フラッグを倒すために作ったんだ。こいつの弱点をつく戦い方ができる!召喚!」
マナのカード二枚がタップされ、赤い光を発する。バトルゾーンに置かれたカードからは赤い光と共に自分の体と同じくらいの大きさのハンマーを持った小人のようなクリーチャーが現れた。頭部と腕以外の部分を黒いマントのような布で覆った赤いクリーチャーは、体から炎をまき散らしなら《駿足の政》に近づいていく。
「《自爆屋ギル・メイワク》だ!こいつの特技は《ザビ・オルゼキア》と同じように自爆だ。自爆で相手のパワー2000以下のクリーチャーを破壊する!」
《ギル・メイワク》のハンマーで殴られた《駿足の政》は体をふらつかせながら倒れる。炎をまき散らしながら踊る《ギル・メイワク》も倒れた《駿足の政》も同時に消えた。
「レイモンド・フラッグ。お前のデッキに入っている切り札は確かに強い。だが、切り札の内の二枚、《アバレ・ムゲン》と《オオ・ヘラクレス》は進化クリーチャーだ。進化クリーチャーは進化元がなければ召喚できない。お前、進化クリーチャー以外は弱い奴ばかり入れてたな?」
ゴッグの指摘は正しかった。レイモンドのクリーチャーは召喚時や攻撃時に特殊能力を発揮するものが多く、パワーは低い。切り札の進化クリーチャーを使えばパワーの問題は解消できるが、進化元を狙い撃ちされては手も足も出なかった。
「レジェンドカードに頼るか?レジェンドカードがないと何もできないのか?」
『うるせェッ!お前みたいな三下なんかにジュニアが負けるかよ!』
超次元ゾーンで怒りに震えながら《ガイアール・カイザー》が叫んだ。それを見てゾックが嘲笑混じりに言う。
「そのジュニアは何も言えないでいるぞ?図星をつかれたのか?」
『ジュニア……』
《ガイアール・カイザー》は心配した様子でレイモンドの顔色をうかがった。
その時、彼は笑っていた。弱点をつかれ、自分への対抗策まで用意されているこの状況で笑っていたのだ。
「面白いな、相棒!」
『あぁん!?』
「弱い弱いと思っていた奴らがどんどん強くなっていく。俺の弱点をつく方法を考えて攻めてくる。こんな時、どうすれば勝てるかって考えるのが面白いし楽しい!なあ、そうだろ!?」
振り向いたレイモンドは、背後にいたジョセフィーヌに同意を求めた。その目は追い詰められているとは思えない輝きに溢れている。
「ここであたしに振るか。まあ、そうね。大会ハンターなんかやってると勝てないのは困るけれど、やっぱりデュエルは楽しいわよ。そうじゃなかったらデュエルの大会ハンターなんかやらずにもっと楽な仕事探してるわ!」
ジョセフィーヌも同じように最高の笑顔で返す。それを見て何かを感じ取ったレイモンドは、再び対戦相手の顔を見た。
「行くぞ、ゴッグ・アッグ。俺はこのデュエルで必ず勝つ。あんたに勝つのに必要なのが運なのか策なのかは判らない。勝ちが見えるその時まで運も策も全力でぶつけていく!」
圧倒的な気迫を見せられゴッグはたじろいだ。攻めているはずなのに、追い詰められているような緊張感を覚える。
「ならば、その全力を潰してやる!《ザビ・オルゼキア》で攻撃!」
《ザビ・オルゼキア》の剣がレイモンドのシールドを狙う。四方八方から飛んでくる剣によって串刺しにされたシールドは空しい音を立てて割れていった。
「残るは三枚!三枚だ!」
「運も策も全力だって言ったはずだぞ?」
静かな言葉と共に余裕の表情を見せる。それと同時に割れたシールドから大量の水が飛び出した。その水は波となり《マクスヴァル》を飲みこんでいく。その波には板に乗った液体人間が乗っている。
「シールド・トリガーか!」
「そうだ。シールド・トリガーで《アクア・サーファー》を召喚し、《マクスヴァル》を戻した。これで闇クリーチャーを召喚する時に正規のコストを支払わなければならない。割引セールは長くは続かないって事だ」
「ぐぐぐ……。ふざけた事を……!」
突然のカウンターにゴッグは奥歯を噛みしめ、顔を真っ赤に染める。怒りのあまり、顔から湯気が出そうなほどだ。ゴッグとは対照的にレイモンドは涼しい顔でカードを引き、行動を開始する。
「《流星のエグゼドライブ》を召喚!そして、《エグゼドライブ》と《アクア・サーファー》でシールドブレイク!」
レイモンドの場にいる二体のクリーチャーによってゴッグのシールドが無傷の五枚から三枚に減った。シールド・トリガーも出ない。
「俺の全力を潰したければそっちも全力で来い!」
レイモンドの挑発でそのターンは終了した。

それから数ターンが経過した。
レイモンドのシールドは二枚。場には《アクア・ジェット》が一体いた。
対してゴッグのシールドは一枚。クリーチャーはいなかった。
「《アクア・ジェット》を潰せなければ切り札に進化させるぞ。お前は既に《ギル・メイワク》も《ザビ・オルゼキア》も四枚使っている。序盤で破壊のためのカードを使い過ぎたのが失敗だ」
レイモンドの指摘を聞きながらゴッグは顔を真っ赤にしている。乱暴な手つきで山札の上のカードを引いた。
「ゴッグ!勝てるのか!?」
「うるせぇよ、アニキ!黙って……」
引いたカードを見た時、ゴッグは声を発する事を忘れた。そして、彼の顔から怒りの表情が消える。代わりに現れたのはレイモンドを追い詰めていた時と同じ顔だった。
「確かに俺は自爆クリーチャーを使い過ぎた。だけど、なくなったらまた持ってくればいいんだ。この切り札の力を使ってよ!」
ゴッグがマナゾーンのカードを六枚タップした瞬間、レイモンドは言いようのない寒気を背筋に感じた。見ると、マナのカードは黒い光を発している。
「6マナ?《デーモン・ハンド》!?」
『いや、違うぜ、ジョセフィーヌ!こいつはクリーチャーだ!とんでもねぇ奴が来るッ!』
ゴッグがバトルゾーンにカードを置いた瞬間、黒い光と共にその切り札は姿を見せた。腹にある巨大な口は死者の雄叫びのような不気味な声を発し、マントは黒く冷たい宇宙を映す。甲虫の角を思わせる兜の下から白い歯が覗いた。
「召喚!《凶星王ザビ・ヒドラ》!!」
ゴッグの切り札、《凶星王ザビ・ヒドラ》は異様な存在感を持ってそこに立っていた。まだ《ザビ・ヒドラ》は能力を使っていないにも関わらず奇妙な空気がその場を包んでいる。
「俺はターンを終える。ほら、かかってこいよ」
「対した自信だな。だったらこうする!」
《アクア・ジェット》のビジョンが消え、その上から一枚の緑色のカードが重ねられる。新たな光と共に甲虫を思わせる姿の巨人《オオ・ヘラクレス》が姿を見せた。
「《オオ・ヘラクレス》で最後のシールドを攻撃!そして、攻撃時の効果でマナゾーンの《流星のエグゼドライブ》を場に!」
《オオ・ヘラクレス》は攻撃時にマナの数以下のコストのハンタークリーチャーを呼び出す力を持っている。その効果によって呼び出された《エグゼドライブ》と《オオ・ヘラクレス》がシールドに向かって突撃していった。
「ブレイクだ!《オオ・ヘラクレス》!」
《オオ・ヘラクレス》の拳がシールドを叩き割る。《エグゼドライブ》が《オオ・ヘラクレス》とシールドを飛び越えてゴッグに拳をぶつけようとした。
「そうはいかないぜ。シールド・トリガー!《デーモン・ハンド》!」
突然、シールドが黒い手となって《エグゼドライブ》に襲いかかる。自分の体よりも大きな手に拘束されて《エグゼドライブ》はそのまま落下し、地面に叩きつけられた。
「間一髪だったぜ。エグゼドライブまで出てくるとは思わなかったからな。だが、これでいいぜ。これで俺の勝ちだ!」
ゴッグは汽車に腕と頭がついたようなクリーチャー《封魔妖ザビ・クズトレイン》を召喚した。
「今さらドロー用のクリーチャー?何を考えているの?」
ジョセフィーヌはゴッグの行動に首をかしげていたが、レイモンドはその動きの真意に気付き墓地を見た。ゴッグの墓地が黒く光っている。
「《ザビ・ヒドラ》は墓地からエイリアンを手札として蘇らせるクリーチャーだ。まさか……!」
「そのまさかだよ。《ザビ・オルゼキア》召喚!」
もう山札には残っていないはずの《ザビ・オルゼキア》が蘇った。その事実に驚愕するレイモンドの前で《オオ・ヘラクレス》が《ザビ・オルゼキア》の剣の餌食となって倒れた。
『墓地のカードが蘇るなんてありかよ!だけど、お前だってもう終わりだぜ!蘇らせた《ザビ・オルゼキア》を自爆させて墓地に送っちまったんだからな!もう手札に《ザビ・オルゼキア》はないからもう自爆はさせねぇぜッ!』
「このレジェンドカード、頭が悪いな」
『何だと、テメェッ!もう一度言ってみやがれ!』
ゴッグは嘲笑を顔に浮かべながら自分の墓地を指した。《ザビ・クズトレイン》を召喚した時と同じように黒く光っている。
「相棒。そんなに甘くはないんだよ。《ザビ・オルゼキア》が出た時の能力で自分のエイリアンを破壊し、相手のクリーチャーを道連れにする。その時《ザビ・オルゼキア》自身を選んで自爆してもいい。そして《ザビ・ヒドラ》は《ザビ・オルゼキア》が出た事で能力を使うための条件を満たした。この時、自爆した《ザビ・オルゼキア》を戻す事ができる。奴の攻撃はマナが続く限り永遠にループする」
『嘘だろ……!?』
《ガイアール・カイザー》は絞り出すような声でレイモンドに聞いた。彼の相棒は小さく「本当の事さ」とだけ返した。
「さらに俺のバトルゾーンには《ザビ・クズトレイン》がいる!エイリアンが破壊された時の効果でドロー!いいカードが引けたぜ。次のターンでとどめだ」
『くそっ!シールドがブレイクされたら、そのカードで何とかできたかもしれねぇってのに!』
「そんな事を期待する必要はない」
レイモンドは静かな声で言ってカードを引いた。そのカードは外れだったらしく、首を横に振る。
『ジュニア……』
「いいカードが引けなかったみたいだな!これで俺の――」
「いや、勝つのは俺達だ!」
ゴッグの言葉にかぶせるようにしてレイモンドが叫ぶ。マナのカード五枚をタップして一枚のカードを突き出した。
「相棒、これで決めるぞ!《超次元シューティング・ホール》!!」
レイモンドが唱えた呪文によって場に炎の渦が発生した。ゴッグはそれを見て腹を抱えて笑う。
「馬鹿か!ブロッカーがいないのにブロッカー破壊の呪文を使うなんて!」
「馬鹿はお前だ!ゴッグ!超次元呪文だぞ!」
「え?超次元……呪文!?」
ゾックに言われてゴッグはようやくその効果を思い出した。だが、思い出した時は既に遅かった。炎の渦からはレイモンドの切り札にして相棒と言えるレジェンドカード《ガイアール・カイザー》のビジョンが飛び出していた。
『よっしゃ!出番だぜ!ジュニア、どいつを殴る?当然、決まってるよなッ!』
「ああ、ゴッグ・アッグにとどめだ!」
『OK!』
《ガイアール・カイザー》の剣がゴッグを捉える。巨体が吹き飛び、洞窟の壁に叩きつけられた。
「くそ!今日は引き上げだ!行くぞ、ゴッグ!」
「ま、待ってくれよ、アニキ~」
痛む体を引きずりながらゴッグはゾックについて去っていった。レイモンドはその背中を人差し指で指し、得意げな顔で言う。
「ゲームセットだ」
「やるじゃない、レイモンド!さ、早く宝箱を開けてレジェンドカードを見ましょ!」
『こいつ、無茶苦茶楽しみにしてるな。ジュニア、早くしろよ』
「判ってるよ。鍵穴はここだな……」
鍵を差し込み、回す。小気味のいい音を立てて宝箱の鍵は開いた。レイモンドが宝箱の蓋に手を当て少し押すと宝箱が開いた。中には一枚のカードが入っていた。
「これがレジェンドカードなのね!ちょっと見せて!」
レイモンドが手に取ったカードをジョセフィーヌが覗きこんだ。まるで宝石でも見るような表情でジョセフィーヌは見ていたが、レイモンドの顔は嬉しそうではなかった。
「相棒、これ……」
『ああ、そうだな。レジェンドカードじゃねぇ』
「ええー!レジェンドカードじゃないの!?苦労してあいつらやっつけたのに!?」
レイモンドは手にしたカードを知っていた。実物を見るのは初めてだが、父のノートにこのカードの事が書いてあった。貴重なカードだが、レジェンドカードではない。
「そういう事もあるさ。そんなに簡単にレジェンドカードが見つかったらつまらないだろ?次の出会いに期待しようぜ」
「何だかがっかりね」
洞窟に入る時とは逆に落ち込んだ顔でジョセフィーヌは出ていった。レイモンドもそれに続いて洞窟を出ていく。

それからしばらくしてジョセフィーヌとは別れた。
「どこかで大会があったらまた会うかもね!その時はよろしくね!」
と、彼女は言っていた。
レイモンドは一度宿に戻り、預けていた荷物を受け取ってルボーの町を去ろうとしていた。夕日に照らされて影が長く伸びていた。
『あ~あ、三日も準備したのに勿体ねぇよな。骨折り損のくたびれ儲けじゃねぇか』
「そうでもないさ。三日もいたからここの地図ができた。初めて訪れる町の地図を書くのは楽しいな!」
レイモンドは笑顔で一枚の紙を見せる。それを見た《ガイアール・カイザー》は溜息を吐いた。
『大会の賞金はもらったけれど、結局マイナスだぜ。お前がカードを在庫あるだけ買ったせいだ!安いからって買い過ぎなんだよ!』
「ああ、それだったら――」
「おーい!」
レイモンドを追って一人の男が走って来た。大会の前に会った露店商だ。彼は全速力でレイモンドの前まで来ると頭を下げて手を合わせた。
「頼む!君が買っていった《ジェットドリル》のカードを買い戻させてくれないか!?来年はあれがトレンドになるはずなんだ!金はこれだけ出すから!」
そう言って露店商は両手につかみきれないほどの札を鞄から取り出した。レイモンドが《ジェットドリル》のカードを買った金の二十倍はある。
「いいですよ。四枚は俺が使うから手元に残しておきます。残りの全部を売ります」
「ありがとう!これで来年も商売ができるよ!」
レイモンドからカードを買い戻した露店商は満足そうな顔で何度もレイモンドに礼を言っていた。露店商の姿が見えなくなった時、《ガイアール・カイザー》が口を開く。
『お前、《ジェットドリル》の価値が上がるのが判ってたんだな』
「ああ、俺は《ジェットドリル》の能力をうまく使って勝ち上がるつもりでいた。ルボーで今まで流行っていた戦略を崩す新しいカードとしてこれから《ジェットドリル》を使うのが流行る。高く売れるようになる」
『頭いいな』
「今のトレンドじゃなく、明日のトレンドを見て物を買い、物を売る。父さんからの受け売りさ」
たくさんの儲けを手にしてレイモンドはルボーを去る。次の町ではレジェンドカードに出会えると信じて。

次回につづく

次回予告
便利な移動手段を求め、レイモンドは発明家の町、ル・パーへ向かった。そこでレイモンドは、古代文明の機械の修理を仕事にしている少年アーサー・アイザックと出会う。ル・パーに忍びよるアッグブラザーズの影。古代文明の遺跡でアーサーはレジェンドカードを得る。
VISION.4 エウレーカ!メカニックデュエリスト、アーサー登場!!
伝説を目撃せよ!
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