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決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ! VISION.4

決闘覚醒伝 レジェンド・ラッシュ!

我々の住む地球から遠く離れた場所にある惑星ルーン。
地球と同じように緑に囲まれたこの星で、人間の歴史と共に存在し続けるものがあった。
それは、デュエル・マスターズカード。
失われた文明の遺産として太古の遺跡から発見され、人々の英知を超えた力を発揮するそれらのカードは様々な形で人々の暮らしを助けて来た。
デュエル・マスターズカードの中でも特に貴重で、最も強力な力を持つと言われるレジェンドカード。
これは、レジェンドカードを求める若者達の物語である。

VISION.4 エウレーカ!メカニックデュエリスト、アーサー登場!!


乗客が少ない汽車に揺られながらレイモンドは考え事をしていた。手元の地図には既に行った場所にバツ印がつけられている。ルボーを出てからレジェンドカードがあるという噂の場所をいくつか調べたがレジェンドカードは手に入らなかった。噂はあくまで噂であり、ルボーと同じように人々がただのレアカードをレジェンドカードだと勘違いしていただけだった。
丸印がついているのはレジェンドカードがあると噂されている場所だ。数え切れないほどの丸印が地図に記されていて、その上からバツ印が書かれたのは十にも満たない。まだ冒険は始まったばかりだ。
『ジュニア。このサンドウィッチうまそうだぞ。食わないのか?』
隣の座席から声が聞こえるが人間の姿はない。幽霊がいるのでもない。一枚のデュエル・マスターズカードが話しているのだ。
「そうだな。食べようか」
地図から目を離さずに食堂車で買ったサンドウィッチに手を伸ばす。袋から取り出したサンドウィッチを口に入れた時、レイモンドは食感に違和感を覚えてサンドウィッチを見た。
「ハムがないな」
持っていたサンドウィッチにはレタスだけがパンにはさまれていた。白と白の間で瑞々しい緑色が自己主張している。
『本当だ!これは災難だったな!』
ハムのないサンドウィッチを見て《ガイアール・カイザー》は豪快に笑い飛ばす。レイモンドはそんな相棒の姿をじっと見ていた。
「食べかけのハムが口の周りについてるぞ」
『げえッ!食った後、拭いたはずなのに!』
《ガイアール・カイザー》は急いで口の周りを腕でこする。そして、レイモンドを見て言った。
『取れたか?』
「やっぱり犯人はお前か」
レイモンドの口から冬の北国のように冷たい言葉が出る。それを聞き、突き刺さるような視線で射抜かれた《ガイアール・カイザー》はレイモンドの行動の意味を理解した。
『汚ぇぞ!俺様を騙しやがったな!』
「汚いのはお前だ。何でハムだけ取るような真似をするんだ」
『野菜嫌いなんだよ……。じゃ、全部食えば良かったのか?』
「その時はもっと怒る」
『どっちにしても怒るんじゃねーかッ!』
「当然だ。人のものを勝手に食べるのが悪い。さて、どんなおしおきをしてやろうか」
座席にふんぞり返ってレイモンドは《ガイアール・カイザー》を見た。一人前のスペースを占領している《ガイアール・カイザー》はその表情を見て細かく震えている。
『よ、よせよ……。俺様とお前の仲じゃねぇか。それに、また食堂車に行って買ってくればいいだろ?』
「食べ物の恨みは恐ろしいんだよ。それに、これが最後の一個だ。これがなくなったら、次の駅に着くまで食べ物はなしだ」
『判った。悪かったよ。でも、今度は俺様の分もハムを用意しておいてくれよな』
「ハムだけ食べるつもりか」
レイモンドは呆れた声で言った後、サンドウィッチと一緒に買った牛乳を口に運ぶ。
レイモンド・フラッグは十四歳の少年だ。レジェンドカードを求めて旅を続けている。頭がよく行動力もある。
デニム生地のものを好んでいて、上は白いデニムのベスト、下は青いジーンズだ。腰に巻いたガンベルトのホルスターにはデッキを入れている。赤茶色の髪が特徴的で遠くからでも彼だと判る。
隣に置かれているカードは《ガイアール・カイザー》。世界に数種類しかないレジェンドカードの中の一枚だ。レイモンドの故郷、ルカーノの町に封印されていたレジェンドカードで十四年前まではレイモンドの父、レオパルド・フラッグと一緒に旅をしていた。暴れる事と強者と戦う事を好んでいる。
レジェンドカードは普通のカードとは違う。
普通のデュエル・マスターズカードはどんなに貴重なカードでも同じものが複数存在する。レジェンドカードは同じカードは世界に一枚しか存在しない
最大の違いはそれぞれのカードが意思を持ち、自分を扱う人間をカード自身が決める事だ。レジェンドカードに選ばれた人間は一つだけ願いを叶えてもらえる。カードの能力を超えた願いは受け付けられないが、大抵の望みは叶う。
《ガイアール・カイザー》はレイモンドを認めていないと言い張っている。そのため、レイモンドの事を『ジュニア』と呼び、レイモンドが自分の事を『相棒』と呼ぶのを嫌っている。今でも自分のパートナーはレオパルドだと思っているのだ。
『ところでジュニア。地図とにらめっこなんかしてどうしたんだ?次の目的地を悩んでるのか?』
「悩んでるよ。ちょっと考えがあってね。次はここに行くつもりでいるんだ」
そう言うと、レイモンドは《ガイアール・カイザー》に地図を見せた。レイモンドが指した場所は丸印のついていない場所だった。
『おい。そこにレジェンドカードはないだろ?』
「そうだな。レジェンドカードがあるという噂は聞かない。だけど、ここにはこれから旅を続ける上で必要なものを買いに行くんだ」
『必要なものって言うけれど、お前、ルカーノを出る時に必要なものは全部鞄の中に入れただろ?今までもそれで不自由はしなかったじゃねぇか』
「今まではそうだった。だけど、これから色々な場所を探すのにどうしても必要なものがある。この町ならそれがあるかもしれないし、なかったとしても作ってもらえるかもしれない」
『作る?作るってどういう事だ?』
レイモンドの考えている事が判らずに《ガイアール・カイザー》は呟く。そして、地図とレイモンドの顔を見た。
「今回の行き先は発明の町、ル・パーだ。俺はここで小型の汽車を手に入れる」
そこまで断言した後で、レイモンドは首をひねる。三秒ほど思案した後、こう言い直した。
「いや……正確には汽車じゃないな。個人で所有できる乗り物で汽車のように速く、汽車よりも色々な場所で動ける機械だ。汽車はレールの上以外の場所にはいけない。だから、どんな道でも走れるような乗り物を手に入れる」
『そうか!それに乗って汽車じゃ行けないところまで行くって事だな!』
「そうだ。問題は、ル・パーに俺の想像通りの乗り物があるかどうか、だな」
レイモンドは改めて地図を見て呟いた。既に汽車はル・パー目指して走り出していた。

ル・パーの町は今日も平和だった。他の町の建築とは違う金属製の建物が朝日の光を浴びている。小さな物でも大きな物でも、人の望む物なら何でも作るのがモットーの町だ。専門の工房がたくさんある。それぞれ、得意な仕事があり、得意分野ではこの国の他の工場に負けない実力を持っている。世界でもトップクラスと言っていいだろう。
そんなル・パーの町で一軒だけ何も作らない工房があった。それは、カーゴ親方の工房だ。他の工房は自分達の得意分野の物ならば何でも作るのが仕事なのだが、この工房は違う。ル・パーで作られた機械なら何でも直すのが仕事だ。専門的な分野では他の工房に遅れを取っているが総合的な知識と技術がある工房で、ル・パーを訪れる人達だけでなく、周りの工房からも頼りにされている。
体が大きく顔の下半分が茶色の髭に覆われたカーゴ親方が大欠伸をしながら作業場へ入ると、誰かが作業をしていた。親方が入った事にも気付かず、作業に集中している。
「エウレーカ!修理できた!」
親方が声をかけようとした時、その小さな人影は両腕を大きく伸ばして叫んだ。そして、作業机の上に置いていた四角い箱のような物を持って振り返る。
小さな人影の正体は少年だった。大きな瞳が特徴の少年で、首元には作業用のマスクをかけていた。作業のしやすさを重視しているせいか、服はシャツにオーバーオールだった。瑞々しい青の髪が額のゴーグルにかかっている。
「おはよう、親方!起きてたんだ!」
「おはよう、アーサー。もう修理終わったのか」
「そうだよ。急ぎの修理でしょ?これくらい、僕に任せてよ!」
そう言って青い髪の少年は胸を叩く。
少年の名は、アーサー・アイザック。この工房の最年少の工員だが、充分なキャリアを持つベテランの工員だ。
「見て見て!ちゃんと直ってるでしょ!?」
「完璧だよ。よくやってくれた」
親方は優しい手つきでアーサーの頭をなでる。最年少の工員は笑顔でそれを受け止めた。
「それじゃ、これの修理はOKだよね。僕、行ってくるよ!」
愛用の工具入れを持ってアーサーは工房を出て行った。カーゴ親方はその背中を見送る。
アーサーと入れ替わるようにして数名の若い男が入って来た。ここの工員達だ。
「親方、おはようございます。うわっ!これの修理、もう終わったんスか!?」
「アーサーだよ」
「へえ、アーサーが……。すっげぇなあ。俺があいつくらいの頃には学校行って友達と遊んでばっかだったからなあ。この仕事に就くとも思ってなかった」
「同じくらいの歳の子と遊ばせてやりたいもんだな」
カーゴ親方が言った。その言葉には何とも言えない悲しさや侘しさがこもっていた。
「そうっスね。ここに子供はいないし、可哀想っスね」
「そう思うんだったら、お前達がもっとがんばって働くんだ。アーサーの分もな」
「が、がんばりますよ……」
苦笑しながら若い工員達は仕事を始める。
アーサーに親はいない。いたのかもしれないが、今はどこにいるのか判らない。生きているのか、死んでいるのか、それすらも判らない。
アーサーは十二年前に修理工房の前に捨てられていた。まだ生まれたばかりのアーサーを拾ったのは、修理工房を作って独立したばかりのカーゴ親方だった。カーゴ親方はアーサーの親を探したが見つける事ができなかった。赤ん坊の持ち物は自分が包まれていた白い毛布と、『アーサー・アイザック』と書かれた紙だけだった。
それからカーゴ親方は工房の仕事とアーサーの育児を同時にこなした。子供を育てるのは機械をいじるように簡単ではなかった。時に他の工房の者の助言を聞いたり手を借りたりしながら育てていった。
カーゴ親方と町の人々の愛情を受けたアーサーは順調に成長した。物心つく頃には親方と同じように機械をいじるようになっていた。親方だけでなく、工員全員から修理の仕方を教えてもらったアーサーは機械の直し方を覚え始めた。水を吸うスポンジのように他の工員の持つ知識や技術を会得していったアーサーは、工房にとって頼れる戦力として成長した。今では、若手の工員に修理のやり方を教える事も多い。
「やりたい事を見つけてもらいたいもんだが……」
親方にとっての悩みはそれだった。
アーサーは機械の修理だけでなく、発明も得意としている。色々な国や町に行って発明について学べば、アーサーは立派な発明家になれると町の誰もが思っている。
しかし、アーサーは今の仕事が気に入っていると言って町から出ようとしない。それは、育ててもらったカーゴ親方に恩義を感じていて、親方の仕事の手伝いをする事で恩を返せると思っているからだ。
カーゴ親方の体は病に蝕まれている。そのため、長時間の仕事はできない。それも、アーサーが工房を出ようとしない理由の一つだった。
「埋もれされるには勿体ないよな……」
一言呟いてカーゴ親方は手袋に手を通し、自分の仕事に手をつけ始めた。

アーサーが向かったのは町外れにある古代の遺跡だった。ル・パーの人間だったら誰もが知っている遺跡で古代文明の機械が大量に見つかった場所だ。これらの機械を元にル・パーの人々は色々な機械を作り上げた。
今はここに来る者は、アーサー以外には誰もいない。目ぼしい物は全て発掘され、残っているのはガラクタだけだからだ。
だが、アーサーは毎日のようにここに来ている。大人にはガラクタの山に見えても彼にとっては宝の山だ。ガラクタを分解して動く原理を調べたり、ガラクタとガラクタを組み合わせて新しい機械を作ったり、別のガラクタから部品を取ってガラクタを直したりして遊んでいた。周りの大人から見ればそれは立派な発明なのだが、アーサーにとってこれは楽しい遊びでしかない。
「そうだ!今日はアレを分解してみよう!」
アーサーは手を叩き、いくつかある部屋の一つに向かった。遺跡の部屋の扉はどれも開いていて誰でも入れるようになっている。だが、一番奥の扉だけは開かなかった。町一番の力自慢がこじ開けようとしてもびくともしない。様々な工具で分解する事もできない。壊そうといてハンマーで叩いても傷一つつかない。どんな事をしても開かないので町民は奥の部屋を開けるのは諦めた。
アーサーも一番奥には興味がなかった。他の部屋にあるガラクタだけで充分遊べたからだ。
鼻歌を唄いながら目的の扉に手をかけて、開ける。大人が五人も入れば窮屈に感じられるようなその部屋に三つの人影があった。
自分以外の人間がいる事が珍しかったのでアーサーは思わず声をあげた。中にいた男達がその声を聞いて入口を見る。
「おい、エイク。ガキが入り込んでるじゃないか!」
「すみません、ゾック様。ここは町の奴らが来ない遺跡だと聞いていたんですが……。すぐに黙らせますぜ」
エイクと呼ばれた男は懐からナイフを取り出した。ゾックへの弁明を終えるのと同時にアーサーへ飛びかかる。逃げようとして踵を返したアーサーの首を羽交い締めにし、ナイフの刃先を首筋に当てる。
「エイク、物騒な事はやめとけよ」
茶色の上下にサスペンダーの男、ゴッグがエイクの腕をつかんだ。彼は不満そうな表情で首筋からナイフを話した。
「エイク、そのガキをそこの柱に縛りつけろ」
ゾックからロープを受け取り、エイクは近くの柱に向かう。手慣れた手つきで柱にアーサーを縛りつけた。
「上出来だ。ボウヤ、この遺跡に開かずの部屋はないかな?」
「開かずの部屋?」
開かずの部屋と聞いてル・パーの住民が思い浮かべるのは一つしかない。一番奥の部屋だ。
「知らないよ」
アッグブラザーズの目的が一番奥の部屋だと判った時、アーサーはとっさにそう答えていた。町民が開けられなかった扉を開けてどこから来たのか判らない者達が入る事が許せなかったからだ。
「ふん、知らないと言うのかね……」
ゾックはエイクを見て右手を出す。エイクは差し出された掌にナイフを置いた。ナイフを握ったゾックはそれをアーサーの耳の横に突き刺した。スレスレのところにあるナイフを見てアーサーは「ひっ」と小さく呻いた。刃先に触れて切れた髪が舞い落ちる。
「白を切るな!大人を騙すとただじゃ済まないぞ!」
「うるさい!お前達なんかに教えるもんか!何を企んでいるんだ!」
「知りたいか?お前が開かずの部屋の場所を教えてくれないんだ。こっちも教えてやらないよ」
ナイフを引き抜き、ゾックはアーサーに背を向けた。ナイフをエイクに返し、部屋の出入り口に向かって歩き出す。
「部屋の数は多くない。一つずつ調べていけば判るだろう。今度こそ、うまくやってボスに認めてもらうぞ!」
高笑いと共にゾック達が出て行った。彼が言うように部屋の数は多くない。三人で調べればすぐに奥の部屋の扉が開かない事は判ってしまう。
「でも……どうするつもりなんだろう?もしかして……あのおじさん達、扉を開けるつもりなの?」
部屋を出て行ったゾック達は、自分達が扉を開けられないとは考えていないようだった。扉の場所は知らないが、扉が開かない事は知っている。事前に調べていたかのようだ。ここに来たのも扉を開ける方法を知っていて、中にある物を奪いに来るためなのかもしれない。
「こうしちゃいられない!」
そこまで考えたアーサーは体をひねる。しかし、ロープは切れる事も緩む事もなかった。
アーサーは出入り口を睨みつける。そこには誰もいない。
「渡さないぞ。あんな人達に渡してたまるもんか!」

「ここも駄目か」
ル・パーの工房を出たレイモンドは溜息と共に呟く。中を見せてもらった工房は十五件だが、どの工房もレイモンドが望むような物は作れないと言っていた。中には『どこでも走れる小型の汽車』というレイモンドの考えを聞いて馬鹿にしたような目で見る者もいた。「汽車があるから、そんな物を作る必要はない」と言う者もいた。
「汽車じゃ駄目なんだ。もっと自由な旅のために小回りの利く乗り物が欲しいんだ!何でそれが判らないんだ!?」
自分の考えが理解されない苛立ちを打ち消すように、レイモンドは頭を抱えて髪をかきむしった。その隣で《ガイアール・カイザー》が左右に激しく揺れながら怒っている。
『全くだぜッ!機械と発明の町だっていうから楽しみにしてたのに、何で出迎えが木の看板なんだよ!普通、ここはブリキのロボットが『コンニチハ。ル・パーヘヨウコソ』とか言って出迎えるもんじゃねぇのか!?』
「え?何それ?」
『あ?おかしな事言ったか?』
「それはさておき、困った事になったな。大きなところから順番に見て来たけれど、どこも回答は同じか」
『専門家が言ってるんだ。無理なんじゃねぇのか?』
「それを克服するのが専門家だ!発明の町と聞いていたけれど、これが限界だったとは思わなかったな」
落胆し、溜息を吐いてレイモンドが歩く。その時、一件の工房の横に置かれている物が目に入った。
それを一言で表すなら、四つの車輪の上に乗った巨大な金属の塊だった。ボディは白い塗料で塗られていて、小屋よりも少し小さいくらいの大きさだ。それを見つけたレイモンドは金属の塊の前でしばらく放心していた。
『おい、レイモンド。これがどうかしたのか?』
放心したレイモンドが心配になった《ガイアール・カイザー》が声をかけた時、主の少年は静かに笑った。
「前言撤回だ。さすが発明の町!欲しいと思った物があった!」
一人で納得したレイモンドはその工房の入り口に向かう。扉の上にある看板には『カーゴ修理工房』と書かれていた。
「あの、すみません!工房の横に置いてある物について聞きたいんですが!」
工房に入ったレイモンドは近くにいた若い工員に声をかけた。工員は作業を休んでいる途中だったらしく、すぐにレイモンドに気付いた。
「ああ、あれね。通路を塞いじゃって邪魔だったかい?」
「おや、そうじゃないんです。あれを作った技術者に会わせて欲しいんです!あの機械について聞きたいんです!」
「えぇっ!?」
予想もしなかった言葉に若い工員は驚く。そして、工房の中を見て声を張り上げた。
「親方ー!アーサー、帰って来てますかー?」
「まだだー!遺跡にいるはずだ!」
作業する音に混じって男の声が返ってくる。それを聞いたレイモンドは「遺跡?」と口に出していた。
「ああ、町外れに遺跡があるのさ。あれを作ったのは俺達じゃなくて、君よりも少し年下の男の子さ。いつも遺跡で古代文明の機械を見ているから、会いたいなら行ってごらん」
「判りました。どうもありがとう」
若い工員に礼を言ってすぐに工房を出る。レイモンドの目は星のように輝いていた。
『おい、ジュニア。あれってお前が欲しがっていた小型の汽車か?汽車とは随分違う形じゃねぇか』
「確かに俺が想像していた形とは違う。だけど、あれはきっと俺の想像以上のいい物だと思う。早くその技術者に会って交渉しないとな!」
遺跡の場所は、ル・パーの町に入る前に見ていたから場所は判っていた。入口には数人の足跡がある。どれも新しいもので、その内の三つは大人のものだった。
「一つは子供の足跡だ。それは技術者のだからいいとして……。俺以外にもあの機械を欲しがって交渉しに来た奴がいるのか!」
『いや、いねぇだろ……』
レイモンドの思いつきを否定し《ガイアール・カイザー》は溜息を吐いた。レイモンドはその否定を打ち消しながら遺跡に入っていく。
「判らないさ。俺以外にも目の肥えた奴がいたって事だ。先を越される訳にはいかないな!」
四つの足跡は途中で別れていた。子供の足跡だけが別の方向へ向かっている。三つある大人の足跡はついたり離れたりしている。まるで、何かを探しているようだった。
「この足跡……。技術者を探しているんじゃないのか?技術者の居場所だったら足跡を見れば判るはずなのに……」
『レジェンドカードでも探しに来たんじゃねぇのか?』
「まさかな……」
《ガイアール・カイザー》の冗談を聞き流しながらレイモンドは子供の足跡を追った。足跡は一つの部屋に向かっている。レイモンドと彼のジャケットのポケットに入った《ガイアール・カイザー》がその部屋に入ると二つの瞳と大声が彼らを出迎えた。
「今度は子供か!お前もあの扉の中の物を奪いに来たんだな!」
怒声と共に迎えられ、レイモンドはしばらく放心していた。だが、声の主が縛られていた事に気付くと、ジャケットのポケットからナイフを取り出してアーサーに近づく。その刃先を見て勘違いした彼の顔が一瞬で青ざめた。
「待って!やめて!殺さないで!」
「変な勘違いをするな。助けてやるから動くなよ」
レイモンドはアーサーの傍まで行ってロープにナイフを押し当てる。緊張したアーサーの目が刃先を見ていた。ロープはすぐに切れてアーサーの体が解放される。
「助かった……。ありがとね」
緊張が解けたせいか、アーサーはその場にへたり込んだ。その後、すぐに顔を上げて礼を言う。
「君はどうしてこんなところに来たの?」
「カーゴ修理工場にある四つの車輪がついた機械について聞きに来たんだ。俺はあの機械を買いたいと思っている」
「ええーっ!あれを買う!?」
驚いてアーサーは立ち上がる。そして、目の前にいるレイモンドの顔をまじまじと見つめた。
「あの機械は――名前は自動車っていうんだ。自分で動く車だからそう名付けたんだ――まだ出来ていないんだ。ほとんどの部分は完成しているんだけれど、動力がうまくいかなくて……。だから、僕はそのヒントを得るために毎日ここに来ているんだけど……あーっ!!」
説明している途中でアーサーは叫んで部屋を飛び出した。レイモンドはそれを追う。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
「変な奴らが来て遺跡の物を盗もうとしてるんだ!」
「変な奴ら?」
「そうだよ!緑のポンチョを来た鷲鼻の奴と茶色い服のでっかい奴と黒いジャケットの奴!」
アーサーが言った特徴に合致する人間をレイモンドは知っている。故郷、ルカーノでもルボーでも出会った男達だ。
「ここでもアッグブラザーズに会うとはな」
「知り合いなの?」
「嫌な腐れ縁だ」
レイモンドが吐き捨てるように言った時、奥の扉が見えて来た。アッグブラザーズとエイクもそこに立っている。
「待て!おじさん達!」
「アッグブラザーズ!またあんた達か!」
レイモンドとアーサーの声を聴いてアッグブラザーズとエイクが振り返った。
「おや、さっきのガキとレイモンド・フラッグか。また俺達の邪魔をしに来たのか?」
「ゾック、今度は何を企んでいる?ここにレジェンドカードはないはずだ!」
「え?レジェンドカード?」
予想もしていなかった言葉を聞いてアーサーが戸惑う。レイモンドの言葉を聞いてゾックが笑った。
「確かにレジェンドカードがあるという噂はない。だが、我々のボスはここにレジェンドカードがある事を突き止めたのだ!今からここを開けてレジェンドカードを手に入れるぞ!」
ゾックはレイモンド達に背を向け、扉の前に立つ。
扉には大きな龍が描かれていた。ゾックはその目に石のようなものをかざした。すると、振動と共に開かないはずの扉が横に動き始めた。
「今まで何をやっても開かないはずの扉が……開いちゃった!」
「驚くのも無理はない。この扉はレジェンドカードをかざすと開くようになっている扉だ。それ以外の方法で開ける事はできない」
驚くアーサーを見て自慢するような口調でゾックが説明し、中に入ろうとする。その腕をレイモンドがつかんだ。
「待て。あんたはレジェンドカードを持っていないはずだ。持っていたら、俺との戦いで使っていた。一体、どうやってこの扉を開けた?」
「知りたいか?これを使ったんだ」
ゾックが見せたのは掌に収まる程度の小さな黒い石だった。楕円形で人工的なつやがある。自然にできたものではなかった。
「これはレジェンドカードと同じ成分を含んだ石だ。ボスが作ったこれを使って扉を開けたのさ」
「鍵がなくて錠を開けられないから錠を壊すようなものだな。そんなルール違反、俺が許さない!」
レイモンドはデッキを取り出してゾックの鼻先に突き付けた。
「デュエルだ。あんたみたいな奴にレジェンドカードは渡さない!」
「ふん、いいだろう。お前のようなガキは見ていて虫酸が走る。ここで痛い目を見せてやる!」
ゾックはデッキを取り出し、エイクとゴッグを見た。
「お前達は部屋の中にあるレジェンドカードを取れ!」
「判ったぜ、アニキ!」
命令を聞いてゴッグが部屋の中に入ろうとする。しかし、それよりも先に中に飛び込んだ者がいた。それはアーサーだ。
アーサーは部屋の中心にある台座に向かうと、そこに置かれている一枚のカードを手に取った。カードには金色の龍の絵が描かれている。
「よこせ!クソガキ!」
エイクとゴッグがレジェンドカードに手を伸ばした。その瞬間、レジェンドカードは金色の光を発して二人の体を吹き飛ばした。
「びっくりした……。これがレジェンドカードの力、なの?」
アーサーは自分が持っていたカードに語りかける。それを肯定するように、レジェンドカードは優しい金色の光を出して点滅した。
「いてて……。クソッ!こうしてやる!」
弾き飛ばされたエイクがすぐに立ち上がって次の行動に移る。ジャケットの中から三本のナイフを取り出し、アーサー目掛けて投げつけた。同時に投げたにも関わらず、その狙いは正確で切っ先は全て急所を狙っていた。どれか一つでも当たれば致命傷は免れない。
そして、その動きはあまりにも速く、アーサーは避けるという発想にすら至らなかった。自分に向かって飛んでくる刃物を見ながら呆然と立ち尽くしている。
『危ねぇッ!』
《ガイアール・カイザー》がナイフを弾こうとして飛び出す。しかし、距離があり過ぎた。
誰もがアーサーは助からないと思い、レイモンドは目を閉じ、アッグブラザーズとエイクはうすら笑いを浮かべて幼い発明家を見ていた。
その時、アーサーの体が金色の光に包まれる。それと同時にナイフは勢いを失って全て地面に落ちていった。まるで、見えない力に操られているようだった。
「え?ええっ?何が起きたの?」
金色の光が消え、アーサーが周囲を見ながら呟く。彼にも何が起きたのか判っていないようだった。いつの間にか彼の左手にはデュエル・マスターズカードのデッキが握られている。
『ジュニア……。こいつは……』
「間違いない。彼は選ばれたんだ。このル・パーに眠っていたレジェンドカードの主として!」
目を開けたレイモンドはアーサーの手に握られたデッキを見て確信する。人生において二枚目のレジェンドカードとの出会いに胸が躍った。
アーサーは突然現れたデッキに目を通す。そして、笑顔で叫んだ。
「エウレーカ!すごい!よく判らない事ばかりだけどすごいぞ!楽しい!やるぞ!発明のアイディアが浮かんできた!」
デッキとレジェンドカードを持ったアーサーは部屋を出ようとして歩き出す。その行く手をエイクが塞いだ。彼は自分のデッキを取り出し、血走った目でアーサーを睨んでいる。
「ここでお前を逃がしたら仕事は失敗だ。始末するぜ!」
アーサーとエイクの間に白いテーブルのようなものが出現する。エイクは慣れた手つきでデッキをシャッフルし、シールドの設置とドローを終えた。アーサーはそれを見ながらぎこちない仕草で準備を終える。
「おい、レイモンド・フラッグ。お前のせいでまた仕事が駄目になってしまったぞ。この疫病神め!ここで潰してやる!」
「いいだろう。ここであんたに勝って二度と邪魔をできないようにしてやる!」
レイモンドとゾックが睨み合い、彼らのデュエルも始まった。
「《青銅の鎧ブロンズ・アーム・トライブ)》召喚!スピード上げて行くぞ!」
最初にレイモンドの場に出たクリーチャーは切り込み隊長とも言える《青銅の鎧》だった。山札の上のカードを一枚マナに変える能力を使う事で、早い段階で相手よりも多くのマナを使う事ができるようになる。ゾックはそれを見て不敵に微笑んでいた。
「ワンパターンな奴め。お前の動きは既に見切っている!要塞化!」
ゾックがマナゾーンのカードを三枚タップして持っていたカードにマナを与える。この時、マナゾーンのカードは黒い光を発していた。
『ジュニアッ!前と鷲鼻ヤロウの戦い方が違うぞ!』
「自然文明を抜いて闇文明を入れたのか!動きが鈍いわけだ。その分、妨害に長けたデッキになったか」
ゾックが使ったカードもマナと同じように黒い光を発する。すると、その光に照らされてゾックのシールドのビジョンが消えた。シールドのカードに黒い光を発するカードを重ねた時、シールドのビジョンは黒い色になって再生した。
「シールドの色が変わった!?」
「変わったのは色だけじゃないぞ。俺のシールドよ、《青銅の鎧》を食いちぎれ!」
ゾックが命じると、黒くなったシールドのビジョンから黒いバラのツタが伸びてくる。《青銅の鎧》はそのツタに縛られてしまった。
「俺は《ローズ・キャッスル》でシールドを要塞化した。その効果でお前のクリーチャーのパワーは1000マイナスされる!《青銅の鎧》のようなザコクリーチャーなど立っている事すらできない!ところで、もう一枚《ローズ・キャッスル》を使ったらどうなるかな?」
ゾックが余裕の笑みを浮かべながら聞いてくる。答えは明白だった。
レイモンドのデッキは特殊な能力を持つがパワーの低いクリーチャーを並べるデッキだ。仕事を終えたクリーチャーは相手のシールドを殴る攻撃要員となるか、進化元になるか二つに一つである。
しかし、パワーが1000か2000のクリーチャーが多いため、《ローズ・キャッスル》を二枚も使われたらバトルゾーンに姿を維持できなくなってしまう。進化など不可能だ。
「前回のゾックとのデュエルで確信した!お前の弱点はパワー不足にある!そこをつけば勝つのは容易い!」
『ジュニア……。どうすんだよッ!』
ゾックの言葉に不安を覚えた《ガイアール・カイザー》が超次元ゾーンで吠える。
それを聞いたレイモンドは全く動じていない。歯を見せて笑みを浮かべる余裕さえあった。予想できない行動に《ガイアール・カイザー》もゾックも驚いて目を疑った。
「いい戦い方だな、ゾック!確かにあんたの言うように俺のデッキの弱点はパワー不足だ。今のところ、それは克服されていないように見える。だが……本当に弱点は放置されたままかな?」
ゾックへの意趣返しとでも言うように不敵な微笑みを見せる。それを見てゾックは笑い返した。
「サイキック・クリーチャーに頼るつもりか?ならば、それを出す前に俺の切り札で手段を封じてやる!」
ゾックの切り札は《光神龍スペル・デル・フィン》だ。相手の呪文の使用を封じる事ができる凶悪なクリーチャーだ。サイキック・クリーチャーを呼び出すのに使う超次元呪文も同様に封じる事ができる。
既にレイモンドのマナゾーンには五枚のカードがあった。サイキック・クリーチャーを呼ぶための超次元呪文を使える程度の量だ。
しかし、レイモンドは超次元呪文を使わずにパワー不足のクリーチャーを召喚する。次に彼の場に現れたのは《クゥリャン》だった。
「《クゥリャン》の能力で俺はカードを一枚ドローする」
「なるほど。確かに《クゥリャン》ならパワー2000だから《ローズ・キャッスル》を使われても生き残れるな。だが、二枚目の《ローズ・キャッスル》がないとは誰も言っていないぞ?」
口元を釣り上げながらレイモンドを見るゾック。その手で手札の中の一枚のカードを弄んでいた。慢心か余裕の表れか、笑顔のまま山札の上のカードに手を触れようとする。
その瞬間、レイモンドがマナのカードを一枚タップした。タップされたカードは赤い光を発する。
「まだ動けたのか!」
「俺は一度もターンを終えると言ったつもりはない。アンタが城のカードを使ったように、俺も城のカードを使う!《反撃の城 ギャラクシー・ファルコン》でシールドを要塞化!」
シールドのビジョンが消え、シールドのカードの上に赤く光るカードが重ねられる。復活したシールドのビジョンは赤く光っていた。そして、そこから機械でできた巨大な要塞が飛び出した。
「これでターンを終える。ゾック、どう動く?」
「決まっている!別のシールドを要塞化!使うのは《ローズ・キャッスル》だ!」
二枚目の《ローズ・キャッスル》によってレイモンドのクリーチャーのパワーは全て2000マイナスされる。二枚のシールドから伸びたバラのツタで《クゥリャン》が絡め取られた。
「お前の城、《ギャラクシー・ファルコン》はハンターをスピードアタッカーにするカード。だが、お前のクリーチャーはパワー不足!スピードアタッカーになったとしても、二枚の《ローズ・キャッスル》で破壊される事実に変わりはない!もうお前は何もできない!」
「ならば、パワー不足じゃないハンターを見せてやる」
レイモンドの静かな声がゾックの顔の余裕を打ち消した。彼はマナゾーンに置いた六枚のカードを全てタップして相手に笑みを見せる。マナのカードが赤く輝いた時、一枚のカードを場に置いた。
「《ガイアール・ゼロ》召喚……!」
カードから赤い光と雄々しき咆哮と共にオレンジ色の体色の龍のビジョンが飛び出して来た。その龍が蒼く光る右腕を叩きつけた時、地面が揺れた。
「が、ガイアールだと……!?《ガイアール・カイザー》以外にもその名を持つドラゴンを入れていたのか!」
『へッ!驚いたか、鷲鼻ヤロウ!この《ガイアール・ゼロ》は俺の能力を分け与えて生み出したドラゴンだッ!』
「カードを生み出したというのか!?」
超次元ゾーンで跳びはねながら自慢する《ガイアール・カイザー》を見て、ゾックは目をむいた。想像を絶するレジェンドカードの能力に驚きを隠せない。
「《ガイアール・ゼロ》はハンター。そして、パワーは7000のW・ブレイカーだ!もうパワー不足とは言わせない!」
レイモンドはゾックのシールドを指した。そして、高らかに宣言する。
「《ガイアール・ゼロ》でゾックのシールドを攻撃!目標は《ローズ・キャッスル》によって要塞化されたシールド二枚だ!」
《ローズ・キャッスル》が出すバラのツタを踏みつけて《ガイアール・ゼロ》は空高く跳躍した。落下の勢いに乗りながら左腕を振り下ろしてシールドを真っ二つに切り裂く。すると、切り裂かれたシールドのビジョンがカードの映像に変わった。
「なるほど。そのシールドは切り札の《スペル・デル・フィン》か」
「何っ!?」
レイモンドが映像を見て頷いた直後、ゾックは破られたシールドのカードを手札に戻す。彼が言うように、それはゾックの切り札《スペル・デル・フィン》だった。
「これが《ガイアール・ゼロ》の能力だ。ブレイクしたシールドのカードを見る事ができる!さらに……!」
《ガイアール・ゼロ》の右腕が蒼く光る。光る爪が虚空を切り裂いた時、そこから炎の渦が現れた。
「馬鹿な……!何か出すつもりか!」
「その通り。シールドのカードを見るだけで能力が終わりだと思ったか?《ガイアール・ゼロ》がシールドをブレイクした時、シールドのカードより小さいコストコストのサイキック・クリーチャーを出す事ができる!この効果で俺は8コストのサイキック・クリーチャーを出す!頼むぞ、相棒!」
『相棒って言うな、ジュニアッ!』
炎の渦からは《ガイアール・カイザー》が飛び出して来る。暴れたくてうずうずしていたらしく、ゾックのシールドを睨んでいた。
「まだ《ガイアール・ゼロ》のブレイクが残っている。ブレイクだ!」
《ガイアール・ゼロ》の左腕が《ローズ・キャッスル》で要塞化されたシールドを貫く。そのシールドは2コストのカードだった。
「2コストか。それじゃ、サイキック・クリーチャーは呼べないな。だが、これで《ローズ・キャッスル》二枚を破壊できた。パワーマイナスはもう使えない!」
『そうだッ!小細工なしのぶつかり合いと行こうぜェッ!!』
《ガイアール・カイザー》は目にも留まらぬスピードでゾックのシールドに近づき、持っていた剣で二枚のシールドを切り裂いた。そこからもシールド・トリガーは出ない。
「ゾック、あんたのターンだ。ここからどうやって逆転するか、見せてもらおう」
既にゾックは顔面蒼白だった。荒い息をしてカードを引く。引いたカードを見た瞬間「うわぁっ!」と情けない声を出した。
「も、もう駄目だ……!」
「ターンは終わりか。《ガイアール・ゼロ》!シールドをブレイク!そして、《ガイアール・カイザー》でとどめだ!」
《ガイアール・ゼロ》の左腕が最後のシールドを砕く。その上を飛び越えて《ガイアール・カイザー》がゾックに近づいた。
『今回も俺様達の勝ちだったなッ!あばよッ!』
《ガイアール・カイザー》の剣が振り下ろされ、ゾックの体が後ろに吹き飛んだ。それをゴッグが受け止める。
「あれだけ必死になって改良したのに……。アニキ……!」
ゴッグは悔しそうな顔でゾックのデッキを片づける。レイモンドに背を向けると、エイクを見た。
「エイク!後はお前に任せた。必ず、そのレジェンドカードを奪って来い!」
命令だけを告げるとゾックを抱えて去っていった。
「ゲームセット!」
走り去るゴッグの背中を指すようにして決め台詞を言ったレイモンドはアーサーとエイクのデュエルに視線を向けた。
アーサーのバトルゾーンには、二体のブロッカーが並んでいる。宇宙戦艦にも似たシルエットを持つ飛行物体《光波の守護者テルス・ルース》と金色の騎士《王機聖者ミル・アーマ》だ。
「アーサーがレジェンドカードから与えられたのはブロッカーデッキか」
『守りがメインって事だな!俺は好きじゃねぇが、これならどんな攻撃だって防げる!』
「いや……そう簡単にはいかないみたいだ」
レイモンドが見た時、エイクのバトルゾーンには紫色の体色の液状人間《腐敗電脳メルニア》と限りなく透明に近い青の体色の人型ロボット《弾丸透魂スケルハンター》がいた。互いにシールドは無傷の五枚である。
「レジェンドカードに選ばれたとは言っても、動きは素人だな!俺のデッキはブロックされないクリーチャーが大量に入っている。ブロッカーなど無駄だ!やれ!」
エイクの言葉が終わる時、《メルニア》が地を蹴ってシールドに近づく。行く手を二体のブロッカーが阻もうとするが、《メルニア》の姿はブロッカーに触れる前に消えてしまった。
「うわっ!いなくなった!?……あっ!」
気がついた時には《メルニア》はシールドの前まで来ていた。持っていたナイフがシールドに突き刺さる。
『何が起きてやがるんだッ!おい、ゴーグル小僧、しっかりしろ!二体もブロッカーがいるだろーがッ!』
「相棒。あれがブロックされないクリーチャーの力だ。ブロッカーが何体いても攻撃を止める事はできない」
《メルニア》、そして《スケルハンター》の能力はブロックされない事だ。普通のクリーチャーに比べてパワーは低くなるが、確実に狙った標的を攻撃できる。
『ブロックされない!?卑怯じゃねーかッ!』
「これをどう乗り切るか……。レジェンドカードが選んだ少年と、レジェンドカードが託したデッキの力を見せてもらおうか」
アーサーはひび割れたシールドに手を伸ばす。だが、その手がシールドに触れる前にシールドのひびから水が溢れて来た。勢いを増した水は波となって《スケルハンター》の体を流していく。
「やった!《スパイラル・ゲート》だよ!これで嫌な《スケルハンター》はいなくなっちゃえ!」
エイクは手札に戻った《スケルハンター》のカードをちらりと見た。そして、静かに笑う。
「そうだよな。お前にとってこいつは嫌なクリーチャーだ。だが、一体戻しただけじゃどうにもならないんだぜ!《スパイラル・ゲート》は一枚しかデッキに入れられない呪文だからな!」
「そんな事、判ってるさ!だから、こうするのさ!」
カードの扱いに慣れて来たのか、アーサーはテンポよく五枚のカードをタップした。五枚のマナが金色の光を放ったのを確認して一枚のカードを突き出す。すると、墓地に置かれたカードの一枚が同じように光を放った。
「何をしやがった!」
「《超次元ドラヴィタ・ホール》を使ったんだ。これでコスト3以下の呪文を墓地から手札に戻すんだよ。効果で《スパイラル・ゲート》を手札に!そして、ここからが本領発揮!」
アーサーが両手を広げて頭上を見る。そこには金色の光を発する穴が開いていた。
「エウレーカ!楽しくなってきたぞ!出て来い、僕のレジェンドカード!」
金色の穴からそのクリーチャーが出て来た時、あまりの眩しさにレイモンドとエイクは目を閉じた。光が弱まったのを感じて目を開けた時、そこには体をうねらせ、青い光を発しながら宙を舞う金色の龍の姿があった。部屋全体に轟く咆哮を聞き、アーサーは目を輝かせていた。
「判ったぞ!君の名前は《チャクラ》!《時空の雷龍チャクラ》だ!」
呼び出された《時空の雷龍チャクラ》は威圧するような目でエイクのシールドを見ていた。クリーチャーのビジョンに睨まれて、彼は一歩後退する。
「な、何がレジェンドカードだ!俺の《メルニア》はスレイヤー能力を持っている!どんな強力なクリーチャーだって相討ち狙いで倒せる!」
「そうだね。だから、僕はこうする!」
アーサーの目が《メルニア》の姿を捉え、右手を場にかざす。すると《メルニア》目掛けて《テルス・ルース》が飛んでいった。
「ごめん、《テルス・ルース》!《メルニア》をやっつけて!」
勢いよく飛んでくる《テルス・ルース》を見て《メルニア》は持っていたナイフを構える。二体のクリーチャーが激突し、二つの閃光と共に消え去った。
「いい戦い方だな。《テルス・ルース》はシールドへの攻撃はできないが、クリーチャーへの攻撃は可能だ。パワーを比べるバトルの結果に関係なく対戦相手を破壊する《メルニア》と戦わせるのならば、一番重要ではないクリーチャーを選ぶ必要がある。初心者だと思っていたが、見間違いだったかもしれないな」
レイモンドの言葉を聞きながら、アーサーは次の命令を下す。彼の目はエイクのシールドを見ていた。
「行くよ、《ミル・アーマ》!シールドへ攻撃だ!」
《ミル・アーマ》はシールドの前まで移動すると持っていたランスでそれを貫く。これでアーサーとエイクのシールドは共に四枚になった。
「けっ、切り札がなんだ。シールドをブレイクしたくらいがなんだ。俺だってサイキック・クリーチャーくらい用意しているんだ!」
アーサーのターン終了と同時にエイクは行動を開始する。マナチャージを終え、今持っているマナ四枚全てをタップして一枚の呪文カードを突き出した。
「《超次元ブラックブルー・ホール》!そして、出でよ《アクア・カトラス》!」
エイクの頭上に空いた水のように青い穴から一体のサイキック・クリーチャーが飛び出してくる。水色の体に白いラインのその騎士は両腕に持っていた剣を振り回した。
「《時空の剣士アクア・カトラス》だ。覚醒すればパワー8000のW・ブレイカーになる!」
『パワー8000のW・ブレイカーッ!?嘘だろ!?4コストの呪文で何でそんな奴が出てくるんだよッ!?』
《ガイアール・カイザー》が驚くのも無理はなかった。
《超次元ブラックブルー・ホール》は5コスト以下のサイキック・クリーチャーを超次元ゾーンから呼び出す呪文である。5コスト以下のサイキック・クリーチャーは覚醒する事で大きく化ける可能性を持っている。たかが4コストの呪文だが、サイキック・クリーチャーのチョイス次第では戦局を変える力を持っている。
だが、それを見てもアーサーは顔色を変えない。初めて見るクリーチャーのビジョンや、初めて体験するデュエルを笑顔で楽しんでいる。振り返って、背後にいるレイモンドを見た。
「ねぇ!デュエルって、いつもこんなにスゴイの!?いつもこんなに楽しいの!?」
「ああ、そうだ。みんな自分で考えた戦略で戦うんだ。色々な奴がいて色々な戦い方があるから楽しいぞ!」
「エウレーカ!機械と同じだ!色々な機械があって色々な癖がある!機械だけじゃなくて、デュエルも楽しいんだ!」
エイクに向き直ったアーサーは右手を天に掲げる。そして、《チャクラ》を見て命令を発した。
「行くよ、《チャクラ》!君の真価を見せてやれ!」
《チャクラ》の体内から出ている青い光が金色に変わり、その光の量が増えていく。明るさを増していった光は《チャクラ》の体を飲みこんだ。
「何だ!何をするつもりだ!」
気圧されまいとしてエイクが叫ぶ。しかし、それは追い詰められた者が発する恐怖の叫びだった。
《チャクラ》を包んでいた光は弱まり、変化したその姿が見えてくる。二対の翼で空を飛び、何本もの腕を持つ巨大な龍がそこにいた。
「覚醒完了!《雷電の覚醒者グレート・チャクラ》!」
覚醒したレジェンドカード《雷電の覚醒者グレート・チャクラ》の姿を見てレイモンドもエイクも震えていた。
レイモンドの震えは歓喜の震えだ。新しく出会ったレジェンドカードの雄姿を脳裏に焼き付けるために、瞬きする事も忘れて金色の龍を見ている。
エイクの震えは恐怖の震えだ。目の前に現れた圧倒的な力は自分に振るわれる。想像するだけで恐怖が心の奥から溢れる。
「こ、これがレジェンドカードの力か!こんなに早く覚醒するなんて聞いてないぞ!」
エイクの怯えの原因の一つはそれだった。
サイキック・クリーチャーは条件を満たす事で持っている力が強化される。これを覚醒と呼ぶ。大きな力を得るため、覚醒する条件は難しいものが多い。しかし、《チャクラ》はすぐに覚醒してしまった。難しい条件をクリアしたようには見えない。
「僕の《チャクラ》はターンの最初に覚醒する。条件はシールドの数が相手のシールドと同じかそれより多い事!シールドの数が同じだから覚醒できるようになったのさ!」
「そんな馬鹿な!」
驚くエイクの前でアーサーはマナのカードをタップしていく。新たな超次元呪文によって場に二体のサイキック・クリーチャーが並んだ。
「《超次元エナジー・ホール》!《キル》と《マティーニ》出すよ!そして、《グレート・チャクラ》でT・ブレイク!」
《グレート・チャクラ》が腕を頭上に上げると、巨大な雷の球が現れた。何本もの腕が同時に動き、雷の球をシールド目掛けて投げつける。轟く雷鳴と閃光が辺りを支配し、エイクのシールド三枚を砕いていった。
ブレイクされたシールドのカードを手札に加えたエイクは、最後の望みを託すように残ったシールドを見た。そのシールドも《ミル・アーマ》によって破られていく。
「うわぁーっ!俺のシールドが!四枚もあった俺のシールドが!」
「次で終わりだよ、おじさん!」
アーサーの言う事は間違いではなかった。アーサーとエイクの場では差が付きすぎている。レジェンドカード《グレート・チャクラ》を含めた四体のクリーチャーがいるアーサーと《アクア・カトラス》しかいない。エイク。シールドが四枚残っているアーサーとシールドが全滅したエイク。誰の目で見てもアーサーの有利は明らかだった。
しかし、レイモンドだけはその光景を注意深く見守っていた。まるで、これから来る嵐を予期していたかのように。
「ガキが!俺を虚仮にしやがって!ここで負けちまったらゾック様に合わせる顔がない!俺の切り札よ、来い!」
山札の上からひったくるようにしてカードを引く。そのカードを見た時、エイクの体の震えが止まった。静かな動きでマナをタップしていく。
行動の静けさの中に隠れた何かがあった。その威圧感に圧倒され、アーサーは何も言えずにエイクの動きを見ていた。
「来たんだよ、切り札が。これがあれば何も問題はねぇ。この一枚で目の前にいる邪魔なブロッカーもレジェンドカードも全部蹴散らしてやる!」
「はったりだ!そんな強いカードがあるもんか!」
エイクの言葉を否定するようにアーサーが叫んだ。それをエイクが打ち消す。
「あるんだよ!だから切り札なんだ!進化!」
《アクア・カトラス》のビジョンが消え、上に青いカードが重ねられる。青い光を出しながら、カードからエイクの切り札のビジョンが浮かび上がってきた。
馬のような下半身と人の姿の上半身を持ったその騎士が、持っていた剣の先を《キル》に向けた。
「まずは邪魔な《キル》からだ。やれ!《クリスタル・スーパーパラディン》!!」
剣を向けられた《キル》のビジョンは青い光と共に消えてしまった。突然の出来事にアーサーは目を丸くしていた。視線は《キル》がいた場所と《クリスタル・スーパーパラディン》のビジョンを行ったり来たりしている。
「嘘……!進化しただけで《キル》をやっつけちゃったの!?」
《クリスタル・スーパーパラディン》は自分の力を誇示するように四本の腕を振り回した。それを見たエイクは愉快そうに手を叩いて笑う。
「俺の切り札《クリスタル・スーパーパラディン》は場に出ただけでサイキック・クリーチャーを一体消し去る能力を持っている!そして、パワー6000のW・ブレイカーだ!」
『パワー6000?何だよ、《アクア・カトラス》が覚醒した時の方が強いんじゃねぇか。ゴーグル小僧!怖がる事はねーぞ!やっちまえ!』
《クリスタル・スーパーパラディン》の性能を聞いた《ガイアール・カイザー》が感想を漏らす。
《アクア・カトラス》が覚醒していればパワー8000のW・ブレイカーになる予定だった。2000の差だが、その差は大きい。
「いや、相棒。それは違うんだ……!」
レイモンドが静かな声で相棒の意見を否定する。彼の視線は険しく、事態を楽観視していないのが伝わってくる。
『何が違うんだよッ!確かに、出た時にサイキック・クリーチャーを一体潰せるのは強ぇけど、それだけじぇねーかッ!あと、相棒って呼ぶな!』
「そこにいるガキの言う通りだぞ。《クリスタル・スーパーパラディン》は《アクア・カトラス》が覚醒した時以上の力を持つ。今からそれを見せてやろう!やれ!」
エイクの命令を受けた《クリスタル・スーパーパラディン》は《グレート・チャクラ》に向かって走り出した。予想外の行動を見てアーサーは声を挙げた。
「自爆する気!?」
「違うな。俺が勝ち、お前が負ける!それだけだ!《クリスタル・スーパーパラディン》よ!お前の力を見せろ!」
エイクの期待に応え、アーサーの疑問に答えるように《クリスタル・スーパーパラディン》は自分の腕を振るった。それによって起こされる風がアーサーのクリーチャーを包んでいく。
「なんだ、この風!みんな、負けるな!」
だが、アーサーの応援は彼のクリーチャーには届かなかった。突風によって《ミル・アーマ》と《マティーニ》のビジョンが消えていく。残った《グレート・チャクラ》は金色の光を発して《チャクラ》の姿に戻ってしまった。
「僕のクリーチャーがやられた……!?何で!?何でなの!?」
「アーサー!これが《クリスタル・スーパーパラディン》の能力だ!」
驚いて立ち尽くしているアーサーを現実に連れ戻すように、レイモンドが叫んだ。
「父さんのノートに書いてあったのを思い出したよ。サイキック・クリーチャーキラーの《クリスタル・スーパーパラディン》。登場時にはサイキック・クリーチャーを一体超次元ゾーンに送り、攻撃時にはバトルゾーンに存在する全てのブロッカーを手札に戻す能力を持つ!その二つの能力が君を追い詰めたんだ!アーサー、《チャクラ》は諦めろ!次の手を考えるんだ!」
「諦めるの……?」
アドバイスを送るレイモンドを見た後、アーサーは目の前にいる金色の龍を見た。
《クリスタル・スーパーパラディン》の剣は今にも龍の首に届きそうな距離まで近づいている。《クリスタル・スーパーパラディン》のパワーは6000で《チャクラ》のパワーは5500だ。間違いなく一撃で破壊されてしまう。
レイモンドの言う事は正しかった。《チャクラ》が破壊されてしまうのは避けられない。
「嫌だ……」
「え……?」
「僕は《チャクラ》を諦めるのなんか嫌だって言ったんだ!」
だが、アーサーはレイモンドのアドバイスを聞かなかった。わがままを言う子供のように首を横に振って否定する。
「《チャクラ》は僕を選んでくれたレジェンドカードなんだよ!デュエルをした事もない、カードを握った事もない僕を選んでくれたんだ!僕はそんな《チャクラ》を見捨てるような事はできない!《チャクラ》と一緒に勝つ!」
「《チャクラ》で勝つなんか無理だぞ、ガキが!また出しても無駄だ!《クリスタル・スーパーパラディン》の能力で何度でも戻してやる!」
アーサーの宣言を嘲笑うようにエイクが言う。彼が言うように、何度出しても何度でも戻されてしまう。
それを受け入れられないのか、アーサーは持っていた手札で顔を隠した。
「お前を選んだレジェンドカードが破壊されるのは見たくないってか!?だったら、悲鳴でも聞いてな!やれ、《クリスタル・スーパーパラディン》!」
《クリスタル・スーパーパラディン》は腕を伸ばして《チャクラ》の首を狙う。鋭い剣の切っ先は的確に首筋を狙っていた。
だが、その剣は首に触れる寸前で止まる。《クリスタル・スーパーパラディン》が《チャクラ》を貫く事はなく、彫像のようにその場で静止してしまった。
「何やってる!早く《チャクラ》を討て!」
「それは無理だよ。間に合ったからね……!」
アーサーは自分の手札から顔を上げる。その顔は笑顔だった。笑顔の先には《クリスタル・スーパーパラディン》の体を受け止める一体のクリーチャーがいた。
「《光牙忍ハヤブサマル》!ニンジャ・ストライクで召喚したブロッカーだよ!」
「何だとぉっ!?」
エイクが目をむいて驚く。レイモンドも予想外の行動を見て息を吐いた。感嘆のため息だ。
「ニンジャ・ストライクか。東洋の神秘だな。いい動きをする」
攻撃を受け止められた《クリスタル・スーパーパラディン》は動きを止め、役目を終えた《ハヤブサマル》のビジョンは消えていった。
「畜生!ブロッカーは全部どかしたはずだ!どこに隠れていた!?」
「ニンジャ・ストライクさ。おじさんが攻撃時の能力で僕のブロッカーをどかした後に、召喚可能なタイミングが来る。だから、その時に召喚したんだよ!」
「そんな馬鹿な……!」
《クリスタル・スーパーパラディン》による《チャクラ》への攻撃の失敗。それはエイクの敗北を意味していた。
信じてくれた主に応えるように《チャクラ》は再び《グレート・チャクラ》への覚醒を果たす。《グレート・チャクラ》を見て、主は静かに命令を下す。
「信じなくちゃ発明はできない。自分の中にあるアイディアを信じて突っ走るから物を作れるんだ!行くよ、《グレート・チャクラ》!おじさんにとどめだ!」
《グレート・チャクラ》は掌を頭上に向ける。すると、シールドブレイクと同じように雷の球が現れる。全身全霊、持てる全ての力を注ぎこみながら《グレート・チャクラ》はそれをエイクに投げつけた。
「ぐああああ!」
エイクが避ける暇など、ありはしない。雷のエネルギーは遺跡への侵入者の体を貫いていった。攻撃を受けたエイクはその場に倒れる。
「やった……。このすごい力がレジェンドカードの力なんだ」
デュエルを終えたアーサーは両手で《チャクラ》のカードを握りしめた。二つの大きな瞳は、自分に戦う力をくれたそのカードを見る。
「レジェンドカードの力はそれだけじゃない。カードが主と認めた者の願いを一つだけ叶えてくれる。そうだよな?相棒」
レイモンドの言葉を聞いたアーサーは顔を上げた。そして、《ガイアール・カイザー》に詰め寄る。
「それ、本当なの!?本当に願いが叶うの!?何でもいいの!?」
『ああ!俺様達、レジェンドカードに叶えられる願いなら何でも叶えてやるぜッ!』
「やっぱり、何でも叶えてくれるんだね!噂は本当だったんだ~」
何でも叶うという噂を思い出したアーサーは腕を組み、首をひねって叶えるべき願いを考える。時折、指を折って何かを数えるような仕草をしていた。叶えたい願いの数を確かめているようだった。
「どうするんだ?その力で自動車の動力を完成させるか?」
レイモンドがそう聞いた時、アーサーは横に首を振った。そして、彼を見て答える。
「自動車を完成させるのに、レジェンドカードの力は借りたくないんだ。時間がかかってもいいから、あれは僕の知恵と僕の力で完成させたい。完成するまで待ってくれるなら、自動車を売れるけれど何に使うの?」
問いかけているつもりだったレイモンドに問いが帰ってくる。レイモンドは持っていたバッグから一冊のノートを取り出した。それは彼の父がまとめたデュエル・マスターズカードに関するノートだ。
「このノートにはデュエル・マスターズカードに関するほぼ全ての事が書かれている。だが、レジェンドカードの部分だけは空白が多くて埋まっていない。俺の夢は、全てのレジェンドカードを見てこのノートを埋める事だ!そのためにレジェンドカードを追って旅をしている」
『旅を続けるのに便利な移動手段が欲しいって言い出したのさ。それで、お前の自動車を買う事に決めたんだよ』
「夢……!夢か!」
夢の一言にアーサーは目を輝かせた。そして、頭上に向かって握りこぶしを突き上げた。
「エウレーカ!見つけた、僕の夢!今まで漠然としてて判らなかったけれど、今、判った!僕も君と同じように旅をする!」
『何ィーッ!!』
突拍子のないアーサーの言葉に《ガイアール・カイザー》が驚き、叫ぶ。レイモンドも目を丸くしていた。
「そのために、僕はレジェンドカードの力を使うよ。旅をする前に恩返しをしたいんだ」
「恩返し?」
「そうだよ。僕をここまで育ててくれた人で、機械の事を教えてくれた大事な人。親方の病気をレジェンドカードの力で治したいんだ!」
「なるほど。それで恩返しか」
レイモンドは故郷を思い出していた。育ての親とも言えるシェル町長や町の大人達、学校の仲間達の顔が瞼に浮かぶ。
「君はいい奴だな。俺は旅をするために故郷を出た時、恩返しなんて考えていなかった」
「そうなの?じゃ、旅を終えて帰ってから恩返しするといいよ!……ところで、ちょっと頼みたい事があるんだけど」
アーサーはレイモンドの顔を見上げて聞く。彼が同年代の子供に頼み事をするのはこれが初めてだった。
「何だ?俺はレジェンドカードじゃないから君の願いは叶えられないぞ」
「君じゃないと叶えられないよ。僕も君の旅についていきたいんだ!自動車は旅の途中でどんな動作不良を起こすか判らない。それに、色々な遺跡に残っている機械を見たいんだ!機械を見て色々な発明をする!それが僕の夢のための旅!」
「夢のための旅か……。いいよ」
『そんなにあっさり決めちゃっていいのかよッ!』
アーサーの願いを聞いてから数秒しか経っていない。レイモンドの即断に《ガイアール・カイザー》は驚いていた。アーサーはレイモンドの許可を得て笑顔で跳びはねている。
「いい事は即断即決が基本だ。よろしく、カーゴ工房の少年」
「少年なんて名前じゃないよ。僕はアーサー・アイザック!ええと……」
アーサーは右手を出してレイモンドを見た。自分の記憶の中からレイモンドの名前を引きずり出そうとしているようだった。レイモンドは彼の右手に自分の右手を重ねると言う。
「レイモンド・フラッグだ。こいつは相棒の《ガイアール・カイザー》」
『おい、ジュニア!相棒って言うんじゃねーって言ってるだろ!』
「これからよろしく頼む」
『無視すんなって!』
「うん!よろしく、レイモンド!《ガイアール・カイザー》!それじゃ、工房に行こう!奥の部屋を見てから色々思いついた事があるんだ!これで自動車の動力も完成するよ!」
初めての友達を得たアーサーはそう言って部屋を飛び出した。レイモンドと《ガイアール・カイザー》もそれに続く。

アーサーが親方の回復を願ってから二週間が経った。親方の病気は治り、体調も順調だった。
今、工房の前の道では完成した自動車が唸るような低い音を立てている。
「親方、みんな。それじゃ、行ってきます」
工房の前には元気そうな親方と工員達が立っていた。レイモンドは自動車の運転席からそれを見ている。
『ジュニア。ルカーノの事、思い出したか?』
「少しだけな。今は過去を思い出している暇はない。どんどん先に進みたい。先に進む事が俺にできる最大の恩返しだからな」
『違いねぇな』
レイモンドの脳裏には、ルカーノで過ごした日々の思い出が浮かんでいた。全てのレジェンドカードを見つけてからでなくてもいい。いつか、自分のした事の報告も兼ねて故郷に帰るのも悪くはない。そう思っていた。
「がんばれよ、アーサー。気をつけて」
カーゴ親方はアーサーの頭に手を置いて撫でる。別れを惜しむようにゆっくり撫でていた。
「親方も体を大事にしてね!みんな、親方の言う事を聞いてがんばるんだよ!」
親代わりだった親方に背を向けて、自動車の横のドアを開ける。車内に足を踏み入れた時、アーサーは振り向いた。
「行ってきます!」
「ああ、行って来い!」
工員達の激励を受けてアーサーは自動車に乗った。ドアが閉まってからしばらくして自動車は動き出す。
アーサーが自分で作り上げた自動車はどんどん速度を上げて進んでいく。発明家の少年は窓から顔を出して自分の家族に手を振っていた。その姿が小さくなり、見えなくなるまで振り続けた。
「出発をもう少し遅らせてもよかったんだぞ」
ル・パーの町が見えなくなってからレイモンドが聞く。後ろにいたアーサーは首を横に振った。
「僕は、僕の夢のために旅をするんだ。だから、旅立ちは早い方がいいに決まってるさ!」
精一杯強がって見せるアーサー。その声には、どこか泣き声のようなものが混じっていた。レイモンドは彼がいる後ろを振り向かずに答える。
「そうだな。その方がいい。夢を叶えて帰ってくるのも早い方がいいか?」
「焦りは禁物!夢を追う旅は、じっくりゆっくり行こうね!」
『そういうのも悪くねぇ!次の町までぶっ飛ばそうぜ!』
日の光を浴びて自動車は進む。彼らの夢を乗せて、次の目的地まで。

次回につづく

次回予告
自動車を手に入れ、アーサーを仲間に迎えたレイモンドはガボル砂漠を往く。二人はそこで行き倒れになっている少女、アザミに出会う。アザミは人助けをするために旅をしているというのだ。彼女に連れられてレイモンド達はガボル砂漠の近くの町、バーピアから古代文明の遺産を運ぶ羽目になってしまう。そこに古代文明の遺産を狙う者達が現れる。レイモンドとアザミはこのピンチをどうやって潜り抜けるのか!?
VISION.5 剣豪!正義と慈悲と必殺剣!!
伝説を目撃せよ!
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