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DM花嫁修業 笹倉心亜 第五話 王子様への挑戦!

『DM花嫁修業 笹倉心亜』
DM企業戦士。
それは、会社のためにデュエル・マスターズで死闘を繰り広げ、同僚の未来を守るプロのデュエリストの事である。
仲間を探すために近くの専門学校の文化祭に出かけた心亜達。そこで行われていたフリーデュエルで、子供相手にいじめるように戦う者がいた。その名は鬼塚恭兵(おにづかきょうへい)。様々なショップを追い出された彼は、不快な言動で周りを怒らせる。そんなギャラリーを鎮めるように、企画責任者の学生、三葉(みつば)クララが現れた。自分に勝てばレアカードを渡すという条件で鬼塚に挑むクララ。彼女は《メガ・イノセントソード》と進化クリーチャーをうまく使ったデッキで鬼塚を手玉に取って勝利する。そんな彼女を見た心亜は、クララを自分達の仲間として迎える事を決めたのだった。

第五話 王子様への挑戦!

心亜達三人とクララは対戦に使った部屋の奥にある事務室のような場所に来ていた。事務室とは言っても、それは急ごしらえのものらしく、板で壁を作って対戦の部屋から見えないようにしているだけだった。急ごしらえにしてはドアの出来はよく、それが気に入った綾華は何回か開け閉めを繰り返していた。
「ボクを仲間に加えてDM企業戦士日本一決定戦に出たいってのが、キミ達の言い分なんだよね?」
事務室に来た三人を見てクララが確認のために聞く。部屋の中に置かれた工具などを興味深そうに見ていた心亜は声をかけられてから我に返る。
「そうですわ。次のDM企業戦士日本一決定戦はチーム戦です。今日もチームのメンバーになってくれる人を探すためにここまで来たのです」
「ふぅん。それじゃ、ボクもそれなりに実力はある人に見えたって事かな?」
「鬼塚恭兵に勝った事で実力がある事は証明されていますわ」
「だから、一緒にやろっ!」
心亜がクララに右手を差し出す。しかし、クララはその手を取らなかった。
「ノン!悪いけれど、キミ達の仲間にはなれないよ。DM企業戦士日本一決定戦には興味があるし、面白そうだと思うし、出てみたいとは思っているけどね」
クララはそう言うと、近くにあった椅子に座り脚を組んで三人を見た。
「どうして?日本一決定戦には興味があるのに、協力してくれないの?」
心亜は自分の疑問をぶつける。それに対してクララは、自分の顔の前で人差し指を横に振った。
「判ってないね。DM企業戦士日本一決定戦はものすごく大きな大会だよ。色々なメディアが注目してるんだ。ボクはそんな大きな大会に出るんだったら、優勝してみんなからちやほやされてみたい。だから、実力のある人と組みたいのさ。だけど、ただ実力があるっていうだけじゃチームとしてやっていけない。今の鬼なんとか君みたいな奴と組むのは問題外だもんね。たけど……」
クララは真剣な目で心亜を見ている。心亜もそれを見てクララが何かを言いだすのを待っていた。
「だけど、ただ帰すっているのも後味が悪いし寝覚めが悪いよね。それにキミはあの子を助けようとしてくれた。だから、一つだけチャンスをあげよう。来週までにこのボクを満足させるデッキを作ってくる事!来週の土曜日にボクとデュエルだ!いいね!」
「そんな!一方的すぎますわ!」
クララが出した条件に反対したのは綾華だった。クララは綾華に目を向ける。
「文句あるの?」
「ええ、あなたを満足させるなんて曖昧な条件は受けられません。いいデッキを作ったとしても、あなたが首を横に振ってしまったらおしまいではないですか!」
「ボクはそんなにスケールの小さい人じゃないよ。なんたって王子様なんだからね!」
「ですが……」
「大丈夫だよ、綾華ちゃん」
反対しようとする綾華を止めるように心亜が言う。その顔に不安そうな様子はない。むしろ、楽しそうな顔をしていた。
「楽しみなの?」
難題を出したクララも嬉しそうな顔で聞く。
「もちろん!強いデッキじゃなくて、面白いデッキを作ればいいんでしょ!クララちゃんがさっき使ってたみたいなの!」
心亜の言葉を聞いてクララの眉がかすかに動く。
「よく判ったね。ボクが満足するデッキについて判ってるなら楽しめるかな」
そう言うと、クララは立ち上がってドアに近づく。にこやかな顔でドアを開けた。
「さ、今日はもう帰ってもらおうか。お茶も出せないのは悪いけれど、ボクはこれから君達と戦うためのデッキを組まなくちゃいけないからね。それじゃ!」
「判ったよ!それじゃ、またね!」
心亜は手を振って事務室を出る。綾華と、終始戸惑っていた香奈もそれに続いた。
「心亜、あんな事言っちゃっていいの?」
部屋を出た後、香奈は心亜に聞く。
「あんな事って?」
「面白いのを作るって話。面白いなんて、具体的じゃないからよく判らないじゃない」
「だいじょうぶっ!きっとクララちゃんは理解してくれるって!」
「そうかもしれませんね」
心亜の返事を聞いて香奈は頭を抱えたが、綾華は静かに微笑んだ。
「どんなデッキを作るかはおば様にも相談しましょう。あたくしも考えますわ」
「ありがとう!二人でがんばっていいデッキを作ろうね!」

数日後。馬庭カルチャーセンターの事務室で綾華と多田は頭を抱えていた。白い長机の上には大量のデュエル・マスターズカードが散らばっている。
「面白いデッキって言ったって……。ヒントがなさすぎる……」
「面白いという言葉は、抽象的すぎますわ……」
散らばったカードを見ても、クララが言う『面白いデッキ』が見えて来ない。
綾華も多田も自分なりの戦い方で勝つデッキを組むのならここまで悩まない。勝利というゴールに自分のやり方で自分なりの最短距離で目指せばいいからだ。だが、面白さを追求したデッキを作るとなると話は別だ。勝利というゴールに最短距離で近づく前に、面白さという寄り道が必要不可欠になる。それに慣れていないから二人は苦戦していた。
「うーん。ひたすらマナを増やしまくって手札を増やしまくって、ものすごく早く相手に負けちゃうデッキとかどうかな?」
「そんな無粋なデッキを作ったら、門前払いを喰らいますわ。やっている本人だけが面白いと思い込むだけです。白けますわ」
「うーん。それじゃあ、どんなのが……」
「失礼するザマス。二人とも、気分転換に外へ行くといいザマス」
ドアを開けて華江が入ってくる。彼女は一枚の小さな紙を二人に見せた。
「社長、これは何ですか?買い物メモみたいに見えますけれど」
「みたいではなく、買い物のメモザマス。商店街に行って備品を買ってきて欲しいザマス。外に笹倉さんがいて、二人を待っているザマス」
「え~、お使いなんてアルバイトの役目ですよ~。僕はちょっと……」
「多田君、こういう時にアルバイトに手本を見せるのも社員の仕事ザマス。文句を言うと給料をカットするザマス!」
「僕に任せて下さい!ほら、先に行くよ!」
華江の言葉を聞いて多田の態度が一変する。やる気を見せているつもりなのか、両手を大きく振っていた。
「悩んでいるみたいザマスね」
「ええ、これは難題ですわ……」
綾華は机の上に散らばったカードを見て答える。どれも、綾華達が面白いと思ったカードだ。だが、ただそれを出すだけのデッキでクララが納得するとは思えない。彼女は面白い事には厳しい人間に思えた。
「そういう時は気分転換が一番ザマス。それに……」
華江は綾華の頬に指を当て、上に引っ張ろうとした。引っ張られて綾華の口角が上がっていく。
「おば様、何を?」
「面白い事や楽しい事は笑っている時の方が見つかるものザマス。それは『エンジョイ』の社長さんならよく判っている事だと思うザマス」
「……そうですわね」
華江の言う通りだった。綾華の社長としての仕事は子供が喜ぶ安価なおもちゃを開発する事だ。楽しいものや面白いものを作る原動力を見失うところだった。
「必ず面白いデッキを組んで見せますわ。あの王子様に認められるだけのデッキではなく、あっちからチームに入れて欲しいと頼んでくるような素晴らしいものを」
「その意気ザマス」
華江に頭を下げて、綾華は部屋を出て行った。外では心亜と多田が待っている。
「綾華ちゃん、早く行こう!商店街で福引やってるんだって!早く行かないと当たりがなくなっちゃうよ!」
「笹倉さん、そんなに慌てなくても福引は逃げて行かないって」
「多田さんって、そんな呑気な事を言っていくつもチャンスを逃していそうですわ」
「え?のんびりマイペースで素晴らしいって?そんなに褒めないでよ」
「褒めてないよ」
「褒めてなどいないですわ」
「うぅ……」
二人から真顔で言われた多田は返す言葉がなかった。
「それよりも、福引!早く福引しようよ!」
心亜は思い出したように叫ぶ。そして、チラシを綾華に見せた。チラシには一等から残念賞までの賞品が書かれている。残念賞は、もちろん、ポケットティッシュだ。
「当たったら温泉旅行だよ、温泉旅行!いいなぁ、温泉……」
心亜は一人で暴走して温泉に思いを馳せている。多田もチラシを覗き込んだ。
「温泉か。でも、僕は三等賞の洗剤セットもいいな。一人暮らししてると、こういうの必要だからね」
「当てる事ばかり考えていても駄目ですわ。こういうのはあれが欲しいこれが欲しいと思っていても、多くの人が外れくじを引くというように世の中ができているのです。さ、ポケットティッシュを当てに行きましょう」
「そんな考え方じゃ駄目だよ!福引はもっと楽しんでやらなくちゃ!当たるといいな、タダで温泉!……タダで?」
心亜は自分が言った言葉を反芻する。多田が「呼んだ?」と聞いたが、心亜はそれに答えなかった。
「タダで何か出てくる。何が出てくるかは判らない。当たりも外れもある。それはお買い得だし、きっと面白いよね。よし!」
心亜は持っていたチラシを綾華に渡す。そして、笑顔で言った。
「面白いデッキ、思いついちゃった。お使い、任せてもいい?」
「任されましたわ。がんばって下さいね」
綾華の言葉を聞いた心亜は急いでビルの中に戻って行った。それを見た多田が口を尖らせる。
「何だよぉ。お使い頼まれたのにサボっちゃいけないんだぞ」
「いいのですよ。何か閃いたみたいだから、好きにさせてあげましょう。あの子、面白い事を考えますからね」
「そっか。じゃ、僕も何とかして面白いデッキを考えるから、お使いは任せてもいいかな?」
笑顔で問いかける多田の眼前にメモが付きつけられる。そして、綾華が低い声で言った。
「買う物のリストはこれですわ。男性なら力仕事も得意でしょう。荷物持ちをお願いしますわ」
「今は、男女平等じゃないかな?荷物持ちだって男がやると決まっているわけじゃ……」
「何か文句でも?あたくしの口からおばさまに言ってもよくってよ」
綾華が冷ややかな目で多田を見る。華江の名前を出されたら逆らうわけにはいかない。
「はいはい、判りましたよ」
多田は仕方なくOKした。その後、二人は無事買い物を終えて福引にチャレンジしたが、当たったのは残念賞のポケットティッシュだった。

それから数日が経ち、約束の日がやってきた。クララに案内された部屋には、多田、心亜、綾華の三人がいる。
「ぎゃー!負けたー!」
クララのシールドを一枚もブレイクできずに多田は敗北する。彼のバトルゾーンには大量のブロッカーが並んでいた。
「んー、こういう事言いたかないけど、おっさん弱すぎだと思うよ?どんなコンセプトでデッキを組んだの?何か悪いものでも食べたの?ボクが強すぎるっていうのは判ると思うんだけど、それにしてもここまで差がつくとボクとしても気持ち悪いものが喉に引っ掛かるっていうかすっきりしないんだよね」
「軽いブロッカーを大量に並べて絶対にシールドをブレイクされないデッキってコンセプトで作ったのに……」
多田が言うように彼のデッキは軽いブロッカーばかりで作られたデッキだった。そのため、クララが出した《クリスタル・パラディン》や《クリスタル・ランサー》には手も足も出なかった。
「攻撃する方法って考えた?」
「げっ、忘れてた……!」
そこで初めて多田は自分の根本的な誤りに気がついた。
攻撃できないブロッカーを大量に並べて守るデッキは珍しくない。しかし、そういうデッキを作る時は、《ダイヤモンド・ソード》や《ダイヤモンド・エイヴン》などのブロッカーを攻撃可能にするカードを入れておくか、ブロッカーから進化するクリーチャーを用意するなどして、シールドへの攻撃方法を考えておくものだ。攻撃の手段をなくすのは失敗である。
「で、でも面白いんじゃないかな!?非武装デッキ……なんちゃって」
「次は誰?このおじさんは0点だよ。次はちゃんと面白いデッキだといいな。ボクの魂に点火してくれるような天下無敵の逸品を拝みたいものだね!」
「ならば、あたくしが相手をしますわ」
「0点」と言われてショックを受けている多田をどかして、綾華が椅子に座る。デッキをシャッフルする手つきも多田とは違い、きびきびしている。シールドのセット、五枚のドローも綺麗な動作で行っていた。それを見たクララは口笛を吹いた。
「わお、自信もやる気もフルバーストって感じだね!ボク、そういう人と戦うの好きだなっ!いざ勝負!」
クララもシールドを置き最初の五枚を引いて対戦の準備を終える。綾華を褒めた彼女の目にもやる気の炎が宿っている。
綾華は自分のテーマであるコモンとアンコモンのカードだけで誰でも作れる安くて強いビートダウンデッキを使用している。クララも面白さと派手さをコンセプトにした進化クリーチャーメインのデッキだ。絶え間なく登場する進化クリーチャーで攻撃を防ぎながら攻めるタイミングをうかがっている。
対戦の途中で、心亜は身を乗り出し、目を輝かせて二人の対戦を見ていた。どちらのデッキも彼女の心を揺さぶるものだった。
熾烈な戦いの結果、ギリギリのところでクララが勝利を収めた。
「危なかった!強い。間違いなく強くていいデッキだ!でも、地味で面白さと華がない。強さだけじゃ、ボクのハートは揺さぶられないよ!だけど、頑張ったから、六十点はあげるよ」
「あたくしが……たったの六十点……。屈辱ですわ」
「六十点」という自分の評価を聞いた綾華は右の拳を握りしめ悔しさをにじませた。彼女が力なく立ち上がった後、心亜が椅子に座る。彼女の目は対戦を見ていた時と同じように輝いていた。
「最後はキミだけど……まだやるの?ボク、時間の無駄だと思うなぁ。こうインスピレーションがバキューンって来るようなの見たかったのに、なんか残念なのばっかりで涙がちょちょ切れるっていうかこういうデッキとしか対戦させてくれない運命を呪うっていうか」
対して、クララの目は冷めきっていた。心亜達に期待していた訳ではない。しかし、多田と綾華のデッキがあまりにも期待外れだったためにやる気をなくしているのだ。
「でも、あたしは対戦したい!だって、面白いデッキなんだもん!多田さんと綾華ちゃんだけ対戦してもらってあたしだけ対戦してもらえないのはずるい!」
「ん……。そう言われるとみんなの王子様としては対戦しない訳にはいかないよね。いいよ!面白いデッキって言ってくれた人にお構いもせずに帰しちゃったら王子様失格だもんね!始めよう!」
クララはデッキをシャッフルして準備を終えた。心亜はデッキケースからデッキを取り出すと両手で握って念を込める。
「どうか、面白いって言ってもらえますように」
充分に念を込めた後でデッキのシャッフルを始める。互いにシールドのセットを終え、五枚のカードをドローする。礼を終えた後、対戦が始まった。
「ボクの戦いはこの一枚から始まる。行くよ!《メガ・イノセントソード》!」
先に行動を起こしたのはクララだ。クリーチャーの構造を変え、別の種族への進化を可能とするクロスギア《メガ・イノセントソード》を出して心亜を見る。
2ターン目に出したのは今までの対戦の中では最速だった。それ故、観戦に徹していた多田と綾華の顔に動揺が走る。
「二人やっつけた時点でウォーミングアップは終わった。ボクの実力を認めてくれた君だからこそ、本気で行くぜっ!」
「うんっ!」
クララのウインクに対して、心亜は笑顔で答えた。
「ちょっと、笹倉さん!うん、じゃないよ!ちょっとは手加減してもらわないと!負けちゃったら困るでしょ!」
「大丈夫!あたしが作ったデッキは簡単には負けないよ!《ジャスミン》を召喚して自爆!効果でマナを増やすよ!」
心配した多田の言葉など聞こえていないような素振りだった。心亜の対戦は平常運転だったと言える。2ターン目に《メガ・イノセントソード》をジェネレートしたクララに対して心亜も2ターン目に《霞み妖精ジャスミン》を召喚してのマナブーストに成功した。クララも本気なら、心亜も本気だ。
「へぇ……。まず、そういう動きで行くんだ。これはちょっと判らないデッキだな」
心亜のマナゾーンに置かれたカード三枚と墓地の《ジャスミン》を見たが、クララにはまだ心亜の使うデッキの全貌が判らない。
確認できる文明は三つ。火と水と自然だ。攻撃的なビートダウンデッキにおける普遍的な組み合わせと言ってもいい。今のところ置かれているのは全てクリーチャーだった。
「《エグゼドライブ》もあるんだ。ズドーンバコーンって奇襲をかけてビックリさせてくる奴だからね。用心に用心を重ねていかなくちゃ!」
クララは、心亜のマナと自分の手札を見た後、思案する。その後、《青銅の鎧》を召喚した。
「ボクも序盤はマナブーストさ。これで次のターンには《メガ・イノセントソード》をクロスできる!ここからボクのボクによるボクのために進化劇場スタート!」
「うわーっ!ヤバいよ!もうクロスギアとクロス先のクリーチャーの準備ができちゃってる!」
多田が大袈裟に叫んで驚く。それも仕方がない事だった。
クララのデッキが動くに必要なクロスギア《メガ・イノセントソード》とそれをクロスするクリーチャーが揃ったからだ。《青銅の鎧》が《メガ・イノセントソード》をクロスしたら毎ターンのように様々な進化クリーチャーが飛び出してくる。状況に合わせたチョイスに多田も綾香も太刀打ちできなかった。それを思い出した二人は心配するような目つきで心亜を見つめる。
「よしっ!大丈夫!」
しかし、心亜だけはそれを見ても笑顔だった。自分の勝ちを信じているような自信に満ちている。
「大丈夫?勝つ算段があるという事ですか?」
「うん、そうだよ!今すぐに勝つのは無理。だけど、次のターンに進化はさせない!召喚!」
心亜が勢いよく一体のクリーチャーを出す。それはデッキ進化のクリーチャー《機神装甲ヴァルドリル》だった。
「進化クリーチャーか。ボクに対抗しようっての?」
「そうだよ!あたしはあたしの進化デッキで戦う!山札をめくって……やった!クリーチャーだから《ヴァルドリル》が出せる!行くよ!《ヴァルドリル》でクララちゃんの《青銅の鎧》を攻撃!」
《ヴァルドリル》は出したターンだけタップされていないクリーチャーを攻撃できる。その攻撃を阻む障害は、今はない。
「クリーチャーだけのデッキにしたのはデッキ進化のため……?いや、これだけだとまだ判らないな」
《青銅の鎧》を墓地に置きながら、クララは心亜のデッキの構造を推測する。彼女の頭は相手のデッキについて考えるのと同時に、自分にとってのベストの動きも考えていた。
《クゥリャン》を召喚し、残ったマナで《メガ・イノセントソード》をクロスする。それを見てクララは満足そうに笑った。
「ちょっと遅れたけれど、これでOK!ノープロブレム!さあ!ここからが全力フルパワーフルスロットルだよ!」
「じゃ、こっちも本気!今までも本気だったけれどもっと本気!」
本気を宣言した心亜はドローしたカードを合わせた手札を吟味する。その中から《クゥリャン》を召喚し、効果を使った。次に《ジャスミン》を召喚してマナを増やす。
それを見ていたクララは心亜の攻撃を想定して身構える。すると、拍子抜けする言葉がその耳を襲った。
「あたしのターンはこれで終わり!」
「へ?」
間の受けたような声を出した後、クララは溜息を吐く。怒りで額に皺をよせながらカードを引いた。
「やれやれ……。本気って言っておきながら攻撃しないとかふざけてんの!?ボク、手加減する奴とわざと自滅するような奴は大大大っ嫌いだよ!」
口だけではなく手も素早く動かすクララを見た多田は「やべっ!あのデッキ使わなくて良かった~」と小さく呻いた。
「行くよ!《クリスタル・ランサー》!そして、攻撃!」
クララが重ねたのは、パワー8000の進化クリーチャー《クリスタル・ランサー》だった。《メガ・イノセントソード》の効果も合わせて10000のパワーになっている。
「W・ブレイク!さあ、この子も一気に決めてKO勝ちさ!」
シールド・トリガーが出れば《クリスタル・ランサー》を消すチャンスはある。同じ事を考えていた多田と綾華は、シールドを手札に加える心亜を見た。
シールド・トリガーは不発だった。
「うわーっ!相手はもう切り札があってこっちはシールド・トリガーもない!しかも、笹倉さんは本気じゃないし!もうダメだ!無理無理!絶対勝てないよ!」
「おっさん!外野は静かにしてよ!」
「そうですわ!うるさいですわ!」
「そんな……」
二人に怒鳴られた多田は、大人しくなってうなだれる。
「大丈夫だよ、多田さん」
そんな多田に心亜が声をかける。それは泣いている子供をあやすような優しさがあった。
「クララちゃんは切り札を使っていてシールド・トリガーも出なかった。でも、あたしは本気!だから負ける気がしない!」
ターンが回って来た心亜の行動はシンプルだった。自分が使えるマナを全てタップし、切り札を場に出すというそれだけの事だった。
それだけのシンプルな行動を見た時、三人は息をするのを忘れ、言葉を失った。
「《ヴァルドリル》に重ねて究極進化!《神羅マグマ・ムーン》!!」
心亜が切り札の名を告げた時、三人はようやく呼吸をするという動作を思い出した。同時に前のターンで心亜が攻撃しなかった理由を理解した。
「《マグマ・ムーン》は究極進化のクリーチャー!究極進化って事は、進化クリーチャーからじゃないと進化できないって事!さっき《ヴァルドリル》で攻撃しなかったのは、殴り返しで《ヴァルドリル》がやられるのを防ぐためだったのか!宣言通りだ!君は本気だった!」
言葉を発さないと呼吸ができないとでも言うようにクララが矢継ぎ早に述べた。その直後、恥ずかしそうに
「さっき、本気を出せって怒鳴った非礼を許してくれるかな?さっきはチャージ中だったんだよね?」
と、聞いた。
「うん、そうだよ!本気のためには準備が必要だもん!」
笑顔で返した心亜は《マグマ・ムーン》に手を添える。攻撃の仕草を見て、ふと多田は我に返った。
「あれ?《マグマ・ムーン》のパワーは9000だけど、今の《ランサー》は10000だよね?バトルしたら負けちゃうよ!」
「それを回避する方法くらい考えていますわよ。そうでしょう?」
綾華の問いかけに対して心亜は笑顔を見せる。その後、
「ない!ここからは切り札の力を引き出して全力でぶつかるだけだよ!」
と言って《マグマ・ムーン》をタップした。
「《マグマ・ムーン》でシールド攻撃!そして、攻撃する時の効果で数を選ぶよ!6!」
《マグマ・ムーン》がいる時にクリーチャーが攻撃すると、特殊な効果が発動する。まず、プレイヤーは数を選ぶ。山札をめくって見たカードが選んだ数と同じコストのクリーチャーであれば場に出せるのだ。
心亜は笑顔で山札をめくる。そのカードはクリーチャーだったが、コストは4だった。
「あ~、ダメだ~。でもW・ブレイクだよ!そして、《クゥリャン》で攻撃!選ぶ数は4!」
《マグマ・ムーン》の効果で一度山札の上のカードを見ているので間違えようがない。効果で心亜が出したのは《霊騎ラグマール》だった。
「しまった!」
そのクリーチャーを見てクララが叫ぶ。《ラグマールは互いにバトルゾーンから自分のクリーチャー一体を選んでマナに置く効果を持っている。心亜のように数を並べるデッキなら、一番弱いクリーチャーを置けばいい。しかし、クララのような強力な切り札のみで戦うタイプは必然的に切り札を選ぶ事になる。彼女は顔を伏せながら《クリスタル・ランサー》をマナに置いた。心亜は《ラグマール》を置く。
「ブレイクされたシールドはこれだね。……《アクア・サーファー》」
今までと違い、淡々とした口調でクララは離す。シールド・トリガーで心亜の《マグマ・ムーン》を手札に戻した。
心亜はターンを終えてクララを見た。彼女は山札の上のカードに指を添えたまま、小刻みに震えている。心配に思った心亜が顔を覗き込もうと思った時、クララは顔を上げた。
泣き笑いのような表情で彼女は吠えるように話す。
「感動した!こんなに面白い子、久しぶりだ!クリーチャーばかりだったのは《マグマ・ムーン》の力を引き出すためだったんだ!」
「そうだよ!名付けて福引デッキ!」
「福引……」
綾華はそれを聞いて数日前の出来事を思い出す。商店街の福引が心亜にヒントを与えていたのだ。
「最高!最っ高だよ、キミ!今、決めた!ボクはキミの仲間になる!キミの仲間としてDM企業戦士の大会に出る!」
その言葉が心亜達三人の顔を輝かせた。直後、クララがカードを引く。
「でも、デュエルの勝ちは譲らないよ!王子として!王子らしく!華麗に!芸術的に勝つ!」
「あたしだって負けるつもりはないよ!」
二人が睨み合ってデュエルが再開した。
それから二人は、一進一退の攻防を続けた。どちらも一歩の退かない激しい戦いだった。
「《マグマ・ムーン》でシールド攻撃!選ぶ数は3!」
「何を!《コマンダー・イノセント》でブロック!」
クララのブロッカーによって《マグマ・ムーン》の攻撃が止められる。クララのシールドは残り二枚。この攻撃が通っていればシールドは0になっていた。
「まだあたしにはクリーチャーがいる!今、出したばかりの《ライラ・アイニー》でシールドを攻撃!選ぶ数は3!」
心亜が山札をめくると二体目の《ライラ・アイニー》が現れる。多田と綾華はそれを見て心亜の勝利を確信した。
「行けるよ!笹倉さんのバトルゾーンには殴れる《青銅の鎧》と《クゥリャン》もいる。どんなシールド・トリガーが出ても殴り切れる!」
「ええ……、これなら勝てますわ!」
「いいや。それは甘い!実に甘い考えなんだよ!シールド・トリガー!」
クララはブレイクされたシールドを見た瞬間、反射的にそれを出した。そのカードを見て心亜達三人が息を呑んだ。
「もしもの時のために入れておいた《スーパーバースト・ショット》だよ。これでキミのクリーチャーを一掃する!」
攻撃が可能な心亜のクリーチャーは全てパワー2000以下だ。《ライラ・アイニー》二体、《青銅の鎧》と《クゥリャン》が破壊され、心亜のコントロール下にあるクリーチャーは《マグマ・ムーン》だけとなった。
「ここでシールド・トリガーが出るなんてすごい!速攻対策に入れていたの!?」
心亜の目はまだ輝きを失っていない。予想していなかった相手のカードのチョイスを見て、目を爛々と輝かせていた。
「そうさ。ボクのデッキは準備に時間がかかるから、速攻で攻められると困るからね!シールドの中にいてくれて助かったよ~。それに、いいタイミングで発動してくれた。それじゃ、奥の手と行こうかな!」
クララはマナに闇のカードを置いた。今まで水と自然しか置かれていなかったマナゾーンに新たな色が加えられた事に心亜達三人が注目する。
「闇も入ってるんだ……」
「そーなの。今まで隠していたけどね。《進化の化身》を召喚して《悪魔神ドルバロム》を手札に!次のターン、《進化の化身》に《メガ・イノセントソード》をクロスして《ドルバロム》に進化させる。その後はもう何もさせない。完全に完璧に蹴散らして勝ってみせる!その前に地ならしだ。《ナチュラル・トラップ》で《マグマ・ムーン》をマナに!」
これで心亜のバトルゾーンにいるクリーチャーは全て消えた。最後に残った一枚のシールドだけが彼女を守っている。
しかし、それだけではクララの策略には対抗できない。次のターンに出る予定の《悪魔神ドルバロム》は闇以外のクリーチャーとマナを全て破壊する進化クリーチャーだ。それを出されたら、心亜はもう戦えなくなってしまう。
「互いにシールドは一枚だけど、クリーチャーも奥の手の切り札もある分、ボクの方が有利!絶対に有利!」
「本当にすごいね、クララちゃんは……」
次のターンに最強の切り札を出せるクララを見ても、心亜の目は輝いている。彼女はまだ勝つための秘策を持っていたのだ。
「悪いね。決着決める切り札を準備しちゃって」
「悪くないよ。奥の手があるのはあたしも同じ!そして、あたしにはそれを出すだけのマナも手札もある!必要なのは、ちょっとした運だけ!」
心亜が話す奥の手に興味を抱きながらクララは場の動きを見る。
心亜が最初に召喚したのはマナ進化のクリーチャー《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》だった。進化クリーチャーなので、すぐに攻撃ができる。
「それだけ?それが奥の手なの?」
「まだだよ!《キリンソーヤ》は下準備!あれが山札の中にあれば何とかなるの!入っていて!」
続けて心亜が召喚したのは《クラゲン》だ。
「《キリンソーヤ》か《ヴァルドリル》を呼ぶつもりかい?だけど、《クラゲン》は《進化の化身》みたいに手札に加えるんじゃない。山札の上に置くカードだ!すぐには召喚できないよ」
「そうだよ。それがいいんじゃない!」
笑顔で返した心亜の手には一枚の進化クリーチャーが握られていた。そのカードを見てクララと綾華が息を呑む。
「《超竜バジュラズテラ》だって!?」
「まさか……、このターンで《バジュラズテラ》を出して相手よりも先にマナを壊滅させる気ですの!?」
「え?どういう事?」
多田だけがついていけずに頭に疑問符を浮かべている。彼に説明するように心亜は残っていたマナをタップした。
「《母なる星域》で《クラゲン》をマナに!マナから《マグマ・ムーン》を呼んで《キリンソーヤ》を《マグマ・ムーン》に究極進化だよ!」
バトルゾーンにクリーチャーが一体もいない状況から究極進化クリーチャーを用意する。1ターンで起こった出来事とは思えないほどの鮮やかなカードさばきだった。だが、これだけで終わりではない。心亜が用意した奥の手はこんなものではない。
「行くよ、《マグマ・ムーン》!《マグマ・ムーン》でシールドを攻撃!選ぶ数は《バジュラズテラ》の9!」
心亜が満面の笑みで山札の上をめくった。それを見るクララの顔はひきつっていた。
「え?《マグマ・ムーン》って進化も出せるの?」
「そうですわ。《マグマ・ムーン》のテキストには進化以外のクリーチャーとは書かれていません。だから、《バジュラズテラ》を出す事も可能。《マグマ・ムーン》の種族にはアーマード・ドラゴンが含まれていますわ」
「へ~、そうなんだ。……って事は笹倉さんは《マグマ・ムーン》を《バジュラズテラ》に進化させるって事!?うぎゃ~、すっげー!」
多田もようやく心亜の考えが理解できた。それと同時に《マグマ・ムーン》の上に《バジュラズテラ》のカードが乗る。
「《バジュラズテラ》に進化!効果でドラゴン以外のマナを全部墓地へ!」
心亜もクララもマナゾーンのカードが全て破壊された。
クリーチャーの数とシールドの数が同じでマナゾーンのカードも0ならば先にシールドを攻撃した方が勝つ。心亜の目には、既に勝つ自分の姿が映っていた。
「最後の最後までやってくれるよね、キミは!だけど、勝つのはボク!それはもう判っているんだ!ボクの目には、キミに勝つボクの姿が見えている!」
攻撃を仕掛ける心亜を見てクララはそう叫んだ。そして、最後のシールドを確認する事なく裏返す。
「見なくても判ってるんだ!最後のシールドはシールド・トリガー、《アクア・サーファー》!《進化の化身》の効果で山札を見た時に、これが最後のシールドだって判ってた!《バジュラズテラ》を手札に戻すよ!」
心亜が《バジュラズテラ》を手札に戻したのを見た直後、クララは《アクア・サーファー》に指を添える。
「がんばったね。本当に強かったよ。でも、これでおしまい!ボクの勝ち!《アクア・サーファー》でシールドを攻撃!さらに《進化の化身》で――」
「シールド・トリガー!」
クララが攻撃を受けた時と同じように、心亜も自分の最後のシールドを裏返す。それは、《アクア・サーファー》だった。
「なっ、なんだって!?」
「クララちゃんと同じ。《クラゲン》で山札を見た時に確認していたんだよ!《アクア・サーファー》でクララちゃんの《進化の化身》を手札に!そして、あたしの《アクア・サーファー》でクララちゃんにとどめ!」
逆転に次ぐ逆転を制したのは心亜だった。とどめを刺された瞬間、クララは肩を震わせていた。静かに笑っているのだ。やがてそれは大きな笑いへと変わっていた。
「やってくれた!すごすぎだよ、キミは!ボク、デュエルの腕には結構自信があったんだけど、そのボクが面白いデッキを使って負けるんだもん。ほんとーにすごい!」
早口で心亜を褒めた後、右手を差し出す。そして、心亜達を見てこう言った。
「改めまして自己紹介。面白いデッキが大好きなみんなの王子様!三葉クララです!これからもよろしく!」
「あたし、笹倉心亜だよ!」
満面の笑みで心亜がクララの手を握る。観戦していた二人もそれに続いた。
「花菱綾華ですわ」
「僕は最強のDM企業戦士を目指す男、多田太郎さ!」
クララは自分の仲間になった三人を見た。三人とも自分が見た事がないタイプの人間だった。この三人と一緒にいれば面白いものを得られるかもしれない。そんな予感がしていた。
「これから楽しみだよ!楽しませてもらうよ!」
クララは友好の証として、自分にできる最高の笑顔を見せた。

次回に続く

第六話予告
時任「すごいな!逆転に次ぐ逆転!これこそデュエルだぜ!」
百瀬「どちらも素晴らしかった!時任、お前では勝てないのではないか?」
時任「うん、確かに……、って何言わせんだよ!」
百瀬「クララ嬢を仲間として迎え入れた心亜嬢。四人目の仲間を探していたが、強いプレイヤーは見つからなかった。そこで彼女達は商店街のデュエルカーニバルに参加する事を決意!」
時任「そこで見つかる四人目!大人しそうな外見からは想像できないその実力とは……!」
百瀬「次回『第六話 最強少女』!脅威の実力!その目で確かめろ!」
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