スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『TOKYO決闘記』第三十三話 偽者

『TOKYO決闘記』
私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
ドナルド・マックイーンのアトリエに入った勇騎を待っていたのは怪盗アルケーだった。彼女は自分の肉体が既に消滅している事、青海ゆかりの肉体に寄生している事を話す。アルケーの本当の目的は保持者の中で最も強力な勇騎の肉体を奪う事だった。勇騎はゆかりを取り戻すため、アルケーは勇騎の体を手に入れるために月光の差す室内でデュエルを始める。
デュエルは勇騎が勝利した。覚醒したクリーチャー『ボルシャック・メビウス』でとどめを刺そうとしたその時、アルケーはゆかりの体から分離して勇騎に襲いかかる。しかし、勇騎はアルケーの行動を読んでいた。二度の攻撃を可能とする『ボルシャック・メビウス』でアルケー本体を蹴散らし、勇騎はゆかりを取り戻したのだった。
ドナルドのアトリエを出た二人は近くの公園で静かな時間を過ごす。そこへドナルド達『試験官』のボス、千秋千里が現れた。宣戦布告とも受け取れる不敵な言葉を残して彼は去った。
20XX年 一ノ瀬博成

第三十三話 偽者

ドナルド・マックイーンが怪盗アルケーに出会う数時間前に、白峰は彼からメールを受け取っていた。メールの内容は「怪盗アルケーをアトリエに招待した」というもので、アルケーが寄生している青海ゆかりがドナルドのアトリエに来ることが決まったというものだ。文面から彼の喜びが伝わってくる。しかし、ドナルドはメールの最後にこう書いていた。
「もし、僕がアルケーと出会った後にメールを送らなかったら、その時は察して下さい」
ドナルドがアルケーに会うと言っていた時間から半日が経った。アルケーと出会った事でスイッチが入り新しい作品を描きあげているということも考えたが、白峰はその考えを否定する。
自分の考えが正しいかどうか確認するために、彼はドナルドのアトリエに向かった。そこにドナルドの姿はなかった。もし、無事でいられたとしたら、彼は憧れの人物と出会った事で触発され、嬉々として絵に向かっているはずだった。
「せっかく買ってきたこれも無駄になったな」
そう言って白峰は持っていた紙袋をフローリングの床に投げ捨てる。倒れた紙袋の中からゴディバとウォンカのチョコレートの袋が転がり出た。それを拾う事なく、白峰はドナルドのアトリエを後にした。
「ドナルドを連れていけば千里から逃れるのも容易いと思ったが、うまくいかないものだな」
破滅を願う千里から逃れて生き延びる。それが今の白峰の願いだった。千里の下についていれば何か得する事があると思っていたが、それは大きな間違いだった。逃げるのには苦労するかもしれないが、死ぬよりはましだ。
ドナルドを仲間に引き込む事を考えたのは、彼に千里の元から去る事を告げた後だった。あの時は二度とドナルドに会わないつもりでいたのだが、考え直した。ドナルドの能力『チョコレート・ファクトリー』を使い、千里の記憶を奪いながら逃げれば安全だと判断した。そんな小細工が通用する相手ではないかもしれないが、賭ける価値はあると信じていた。
「ドナルドが駄目となると、美土里か。裏切り者だが、使えない事はない」
美土里が豪人のいるマンションに居候になっている事は部下から聞いていた。部下の中に千里に情報を提供する内通者がいるかもしれないから、これからは会わないようにしなくてはならないと考えていた時に得た情報だ。
「それなら使えるものはうまく利用するか。美土里を説得して仲間にして、俺は奴の力を奪う」
やるべき事を決めた白峰は街へ向かって歩き出した。

「美土里さん、外に出ましょう」
朝と言うには少し遅すぎた時間。目が覚めた美土里を待っていたのは、朝食と美和の言葉だった。
美土里は今、豪人の厚意に甘えて美和と同じ部屋に居候している。家事を手伝う事もあるが、やったのは食器を片づける、などの子供でもできる事ばかりだ。
「今日の味噌汁もうまいね。それで、何だって?」
「外に出ましょうと言ったのです。美土里さんはここに来てから一度も外に出ていません。それでは体を悪くしてしまいます」
「少しくらい出なくても死にやしないさ。酒と美和が作ってくれるうまい飯があれば充分さ。家に置いてもらってるんだから、これ以上の生活は求めないよ」
美土里はそう言うと、味噌汁をすすった。
「屁理屈みたいな事を言わないで下さい。お買い物に付き合って欲しいのです」
「愛しの豪人様を連れて行けばいいじゃないか」
「たまには豪人様に内緒でお買い物をしてみたいのです。豪人様が知らない服を買って、知らない服を着て驚かせてみたいのです」
「確かに、あいつが驚く顔は見たいな。でも、お出かけは遠慮しておくよ。御馳走様」
急いで食事を終えた美土里は食器を片づけ、台所へ持って行く。その背中に美和が聞く。
「美土里さんは『試験官』の追手が来る事を気にしているのですか?」
「……、ああ、そうさ」
美土里達『試験官』は保持者のデッキを奪い、自分を完全な保持者にするために行動している。保持者とは敵対する存在だ。『試験官』であるはずの人間が保持者を助け、別の保持者の家に居候している事を知られたらどんな目に遭うか判らない。
「追手が来て捕まったらどうなるか、大体見当はついてる。千里が何をしでかすかまでは判らないけれど、他の『試験官』の部下達はあたしを非難するだろうね。生きて帰れたらましってとこだね」
「そうなると判っていて、何故ヴェルデさんを助けたのですか?」
「何でだろうね。あたしにもよく判らないさ」
自分の身を危険にさらしてまで敵を助ける。その敵は自分の故郷に帰っていった。美土里には何の得もない。彼から与えられた物もない。だが、それでよかったのかもしれない。
「ただ、黙っていられなかった。不完全だけど、あたしもこの世界で作られた保持者だ。そして、間接的とはいえ人の心の声を聞く能力を持っている。あいつの声はよく届いた。痛いほど理解できた。だからかな」
「優しい人なんですね」
「相手にもよる。悪い奴には優しくしないさ」
「やっぱり優しい人ですよ」
「……、そうかな」
振り返った美土里は、美和に向かって微笑んだ。
自分がやった事に対して後悔はしていなかった。しかし、正しかったのか間違っていたのかは判らずにいた。美和の一言で、美土里は自分が正しかったと思う事ができた。
「それで、どこに買い物行くつもりなんだい?長い時間、外に出るつもりはないからさっさと済ませるよ」
「はい!」
美和は元気よく返事をすると、自分の買い物のプランを話し始めた。

豪人は勇騎の前にコーヒーが入ったカップを置くと、自分のコーヒーをテーブルに置いて席に着いた。昼に近い時間だが、勇騎は眠そうな顔をしていた。いつも冷静な表情しか見せていない彼にしては珍しい。
何も入れていないブラックの熱いコーヒーを口に流し込むと、静かに息を吐いた。それを見て豪人が聞く。
「眠れなかったのかい?それだけ昨日の事がショッキングだった?」
「この世界に来てから驚く事はいくつもあったが、あれほど驚いたのは初めてだ」
「そうだね。僕も君から全てを聞いた時にはそう思ったよ」
昨晩、勇騎とゆかりを車で迎えに行った豪人は二人の態度がおかしい事に気付いた。ゆかりはいつも以上に勇騎に対して親しげにしている。勇騎を見ると、彼は周りを宿敵に囲まれた獣のように緊張し、警戒した顔をしていた。ただならぬ気配を感じながら、豪人は車を運転した。しばらくしてから勇騎は呟いた。「本当の敵が来た」と。
ゆかりの家に彼女を届けるまで、豪人も口を開く事ができなかった。それだけ、勇騎が発した言葉が強烈だったのだ。勇騎は豪人の住むマンションに着いた時、緊張が解けたように深呼吸してその夜の事を話した。
ドナルド・マックイーンが怪盗アルケーに倒された事。怪盗アルケーは青海ゆかりに取りついていた事。ゆかりの肉体から出たアルケーは勇騎によって倒された事。そして、敵のボス、千秋千里との邂逅。
夜も遅くなってからの話だったが、豪人にとっては目の覚める事ばかりだった。
「奴は……千秋千里はどんな男だったんだい?」
「恐ろしい男だ。そう思った」
勇騎は空になったコーヒーカップを見つめながら呟く。彼にしてはシンプルな言い回しが、余計に恐ろしさをかき立てた。
「俺は奴の姿を見ていない。背後に立った奴の話を聞いていただけだった。だから、奴から発せられるオーラからしか奴を感じ取る事はできなかった」
「それだけでも、君を震えさせるほどの敵だったって事か」
豪人は昨晩の勇騎の怯えようを思い出す。
最強の敵、九重九十九と対峙した時も勇騎は怯えていなかった。しかし、今の敵は違う。勇気を怯えさせるほどの力を持った存在だった。
「奴の部下の『試験官』もどんな奴らなのか気になるね。怪盗アルケーがいなくなった事で問題が一つ消えたと思ったけれど、そう簡単にはいかないか。ところで、話は変わるけど」
「何だ?無駄話に興じる趣味はない」
「昨日、僕を電話で呼び出してから千秋千里に会うまで少し時間があったよね?キスくらいはした?」
豪人からの質問を受けた勇騎は何も言わずに質問者の顔を見ていた。呆れて何も言えずにいるというのが正しい。
勇騎は飲み終えたカップをキッチンまで持っていった。質問から逃れるように、豪人に背を向ける。
豪人は軽く笑うと口を開いた。
「あれ?もしかして照れてる?」
「照れるような事があるのか?」
「好きな子とキスしたのを聞かれて照れるなんて、君にもかわいいところがあるな~って思っただけさ。ゆかりちゃんの事は好きだろう?」
「嫌いではないが、お前の問いからは悪意を感じる」
「怒るなって」
「怒ってなどいない」
カップを洗い終えた勇騎は玄関に向かう。コートかけにかけてあった上着を取るとドアに手をかけた。彼を見送るために、豪人も玄関に向かった。
「照れているのかい?」
「そうじゃない。お前のように感情を表現できないというだけだ」
「大事な人や好きな人をただ好きだって言うだけの事さ。難しい事じゃないよ」
勇騎はそれを聞いてしばらく何かを考えていたようだった。それから無言で豪人に頭を下げるとドアに向かって歩く。
「帰るのかい?」
去ろうとする勇騎の背中に向かって豪人は声をかけた。客人は振り向いて豪人を見た。
「そうだ。千秋千里と決着をつけるために何をすればいいか考える。世話になったな」
「君が見た未来が変わったのかい?」
「そうじゃない。だが、俺は能力が見せた未来に少しでも抗いたいだけだ。それにここでは考えをまとめづらい」
「そうか。それじゃ、僕からのアドバイスだ。この世界で大事な何かを見つけるといい」
「大事な何か……?」
「そうだよ。僕はその大事な何かを守るために強くなった。そのためなら今よりも強くなれる気がする。君だって二年以上もこの世界にいるんだ、見つけられるだろう?」
「覚えておく」
数日間、この部屋にいた戦友は去って行った。
勇騎が見た未来は豪人にとっても、いや、世界中の全ての人々にとって悪い未来だ。それを回避する策を考えるのは勇騎だけの仕事ではない。敵と戦う力を持った保持者の仕事だ。
この世界に残っている保持者は勇騎と豪人の二人だけになってしまった。対して、人類と保持者の敵である『試験官』は一人残っている。さらに、『試験官』を統べる千秋千里もいて、彼が操る数多の部下がいるのだ。戦いは数の有利不利だけで決するものではないと判っているが、心の底から押し寄せる不安からは目を逸らせない。
不意に、思考を断絶するように豪人の携帯電話が鳴る。美和からの電話だった。
「豪人様!?お願いです!今すぐ来て欲しいのです!」
スピーカーから聞こえる美和の声には焦りが混ざっているようだった。いつものような穏やかさがない。
豪人もそれを聞いて只事ではないと感じ、耳から来る情報に集中する。
「美和。一体、どうしたんだい?」
「美土里さんと一緒に買い物に出かけていたのです。そしたら……」
「そしたら?」
豪人の脳裏に、『試験官』のメンバーが裏切り者を粛清しに来る光景が浮かんだ。保持者を倒すのではなく、保持者を助けた美土里を放っておくとは思えない。今まで仕掛けてこなかった事の方が不思議だ。美和はそれに巻き込まれたのだ。
「美和。君は無事なのか!?一緒にいる美土里君は!?」
問いかけるが、美和からの返事はない。ただ、口から空気が漏れるような音だけが聞こえた。
「美和?」
「そしたら、そしたら……、ははははは!」
聞こえてきた美和の声は突然笑い出した。あまりの出来事に豪人の頭脳は考える事を一時的に放棄する。美和と暮らしていた豪人には判る。自分が話している相手は美和の声を使って話している何者かだ。
「美和をどうした」
「怒ったみたいだな、豪人様。そんなに佐倉美和の安否が心配か?」
電話の向こうにいる何者かはまだ美和の声を使って話している。それが豪人の怒りに油を注いでいる。
「質問に答えろ。美和の声で話すな」
「いいだろう。ならば、俺の声で話をしてやろう。はじめまして、金城豪人。俺は『試験官』の一人、白峰敦也だ」
途中で声が男の声に変わった。白峰敦也というその名前を豪人は知っていた。美土里が話していた情報の中にあった人物だ。『スウェッティング・バレット』という能力を使い、別人の外見になる事ができる。おそらく、その能力を使って美和の声をコピーしたのだ。
「単刀直入に言おう。俺が今から指定する場所まで一人で来い。そこに来て俺と戦ってもらう。お前が勝てば佐倉美和と美土里を返してやろう」
「美土里君はお前に味方しているのではないんだね?」
「そうだ。美土里も人質だ。お前一人で来なかった場合、人質の無事は保証できない」
「美和は無事なんだろうな?」
「声を聞かせてやりたいところだが、聞かせたところで俺がコピーした声と区別はできないだろう?口約束になるが、お前とのデュエルが終わるまでは何もしないとしか言えない。この娘にはまだ利用価値があるからな」
白峰の言葉は信用できない。だが、今の豪人はそれを信じるしかなかった。
「判った。僕一人で行こう」
「メールで場所の地図を送る。来るルートもこちらで指定した道を使え。もし、仲間を連れてきたりルートから外れたりするような事があれば部下に報告させる」
「判っている。余計な事はしないよ」
通話を終えると、すぐにメールの着信が確認できた。指定された場所は、豪人のマンションから少し離れた場所にあるショッピングセンターだ。地図を見た豪人はすぐに上着を羽織り、玄関に向かう。
それまでの数秒の間に、自分の中にある怒りを闘争心へと変換する事に成功した。持っている熱い感情は全て白峰に叩きつける。呼吸と共に、熱い闘志が体中に流れた。
「後悔しろ、白峰敦也。君の目的がなんであろうと、美和に手を出した時点で全ては終わりだ。この僕が終わらせる」
豪人は無意識の内に『ネオウエーブ』を取り出して握りしめていた。彼の想いに呼応するようにデッキケースは金色の光を発した。

「勇騎君!」
豪人の部屋を出た勇騎の耳に友の声が届く。学校帰りに博成がやって来た。走って来たらしく、息が切れていた。
「一ノ瀬か。そんなに急いでどうした?」
「昨日の事を聞こうと思って……。あの後、どうしたの?」
「ああ、お前にはまだ話していなかったな」
博成は、昨日、ゆかりの護衛として勇騎と一緒に行動していた。長期戦になると考え、途中で勇騎が帰らせたのだ。博成が帰宅中、もしくは帰宅した後でアルケーとドナルド・マックイーンの戦い、勇騎とアルケーのデュエル、そして千秋千里との接触があった。強敵の登場に驚き、神経を高ぶらせていた勇騎は博成への詳細な報告をしていなかった。
「大体の事は豪人さんからメールで教えてもらったんだけどね。詳しい事は知らないんだ。今日は委員長も学校に来ていなかったし。僕には、まだ怪盗アルケーの正体が委員長だったなんて信じられないよ」
「青海がやりたくてやっていた訳じゃない。彼女はアルケーに体を乗っ取られていただけだ。だから、今までと同じように接してやって欲しい」
「判ってるよ。勇騎君が委員長を助けてくれたんだからね!僕達は今までと同じように委員長に接するつもりだよ」
その後は、昨日の話をしていた。
勇騎自体は見ていなかった為、詳細は不明だがドナルド・マックイーンも『試験官』の一員である事が明らかになった。彼はアルケーによって倒された為、勇騎達の前に敵として出てくる事はない。
ドナルド・マックイーンが倒された直後、勇騎はアルケーの正体を知った。同時に自分の罪を知り、自分の過去と戦い、アルケーからゆかりを助け出した。
「そして、『試験官』の長、千秋千里が現れた」
勇気がその名を口にした瞬間、博成は静かに息を呑んだ。かつて保持者と戦った『球舞』のボス、九重九十九と対峙した時の事を思い出したからだ。
九重九十九を見た時、博成は恐怖で凍りついたように動けなくなっていた。自分の心臓をわしづかみにされているような気分を味わっていた。千秋千里も同じようなプレッシャーを発する人間なのかもしれない。
「戦ったの?」
「戦えなかった。挨拶程度の言葉を残して、奴は去っていった」
勇騎が返した言葉は「戦わなかった」ではなく、「戦えなかった」だ。自信に溢れた勇騎の言葉を期待していた博成は、何も言えずに彼の顔を見ていた。
その後、勇騎は思い出したように呟く。
「大丈夫だ、一ノ瀬。俺が必ず奴の野望を止めてみせる」
「うん、そうだよね……」
一拍遅れて発せられただけでこんなにも不安になる。
心の中に生まれたもやもやした感情を抱えながら、博成は歩いていた。

白峰とその部下に誘拐された美和と美土里が連れて来られたのは倉庫のような場所だった。埃はまったく溜まっていなかった。今でも使われているのか、最近まで使われていたのか正確なことは判らない。
二人は白峰の部下達に目隠しをされた状態でここに連れて来られたので、現在位置が判らない。美土里は、能力『スタンド・バイ・ミー』を使って部下達の心を探ろうとしたが、彼らの心の声は聞こえて来なかった。白峰が能力の弱点をもらしたのか、心を読まれないように心を閉ざしていたのだ。
「部下を使って小娘二人を誘拐だなんて、落ちたもんだね」
目隠しを取られた美土里は、かつての仲間を見て言った。彼の周りには、もう部下は一人もいなかった。そして、二人は拘束されている訳でもなく、倉庫の中を自由に動く事ができる。
だが、白峰はいつでも『ブランク』の中に美和を閉じ込める事ができる。美土里は人質を取られているようなものだった。
「何とでも言え。千里を裏切った俺について来てくれる奴らがいたのさ。そいつらのためにも俺は俺の望みを叶える」
白峰は美土里を見ていない。同じように連れて来させた美和を見ていた。
美和の目には、怒りがこもっていた。それを見て美土里は驚く。おっとりした彼女がこんな表情をするとは思っていなかったからだ。
「金城豪人の姿をしていた俺に騙されたのが不満か?それとも、見抜けなかった自分に怒っているのか?」
豪人と同じ顔をした人物がいる。そう言った美和は、美土里の静止も聞かずにその男に近づいた。その結果、二人は美和と美土里の周囲に待機していた部下に捉えられたのだ。
「お前が愛しているのは、あの男の外見だ。だが、それでいい。その方が都合がいい」
「白峰、何を企んでいる?」
美土里でも白峰の考えを読む事は不可能だった。彼からは、豪人が自分を倒しに来るのを望む心の声が聞こえた。危険を嫌う彼からは想像もできない心の声だった。
「俺は、俺の部下を率いて千里から逃げ切る方法を考えている。大吉も香寿美もドナルドも保持者に敗れた。『試験官』は俺とお前しか残っていない」
「香寿美が保持者に負けたのかい?」
それは美土里も知らなかった情報だった。その問いを無視して白峰が続ける。
「俺達二人の力を使うために千里が動く事は充分に考えられる。正面から向き合ってあいつに勝てるとは思えない。だから、白峰敦也という人間はここで消える事にする」
「血迷ったのか!?」
消えると宣言した白峰の顔は非常に穏やかだった。安堵感に包まれて救われているような、そんな表情だ。
「俺は正気だ。ここに、金城豪人がやってくる。俺はここで奴と戦い、勝利する。そして、俺は自分の能力を使って奴の姿で生活をする」
「それじゃ、白峰敦也が消えるっていうのは……」
「俺の姿をした人間が消えるだけだ。外見が白峰敦也の人間はいなくなる。だが、俺は金城豪人として生き続ける。どうだ、美土里?この作戦を千里に黙っていてくれるなら、お前も別の外見を与えてやろう。もし、そこにいる佐倉美和が俺の作戦に協力的でないのなら、こいつを『ブランク』に閉じ込めて、お前が佐倉美和の代わりになればいい」
「そうすれば安全に暮らせる……?」
「その通りだ。それでも、千里が疑うようなら、通りすがりの人間に『スウェッティング・バレット』を使って偽者の白峰敦也と偽者の亀島美土里を作り出してやればいいだけの話だ。どうだ?協力するか?」
白峰の問いかけを聞いて、美土里はしばらく黙っていた。やがて、何も言わずに右手を差し出す。
「判ってくれたか」
白峰も右手を出す。それを見た美土里の右手が素早く動き、白峰の手を叩いた。
「何のつもりだ?」
怒気がこもっていた。怒りのオーラも拡散している。美土里が能力を使わなくても判るくらい、今の白峰は怒っていた。
「判るだろう?あんたのやり方に反対しているんだ。豪人にも美和にも世話になったからね」
「一宿一飯の恩を忘れないとでも言うつもりか。ならが、佐倉美和に聞いてみよう。俺の計画に手を貸せ。お前が愛しているのは金城豪人の外見だ。俺が金城豪人となったら、お前は俺を愛さずにはいられなくなる」
白峰は美和を抱きしめるように両腕を広げて近づく。それを見た美和は真っ直ぐに彼の顔を見て言った。
「あなたは勘違いをしています。私があなたに近づいたのは豪人様と同じ外見をしたあなたに惹かれたからではありません」
「何?」
白峰の足が止まる。美和は続けた。
「あなたの能力は美土里さんから聞いて知っていました。私があなたに近づいたのは、豪人様の外見を悪用する事が許せなかったからです。そんな事をするあなたの顔を一度ひっぱたいてあげようと思ったからです!」
凛とした声が響き、静寂が場を支配した。数秒が経過した後、美土里の笑い声が聞こえた。
「立派だな、美和。もっとおしとやかで何もできないお嬢さんかと思ったけれど、違うみたいだ」
「二年も豪人様の目的のために共に過ごしてきたのです。少しくらい強くなければ一緒にいられません」
美土里の声を聞いて、美和ははにかむように笑う。白峰は心底不愉快そうに舌打ちをした。
「おしゃべりな奴だ。俺の能力までしゃべるような奴の力は借りない。俺が今、この手で叩き潰す」
白峰は自分のデッキケースを取り出した。それに対抗するように、美土里もデッキケースを取り出して彼を見る。
その時、扉が開く音と共に倉庫の中に光が差した。白いスーツを着た男が優雅な足取りで倉庫の中に入ってくる。
「こんなところは女性を閉じ込めておくのにふさわしいところじゃない。そして、人を迎え入れる場所でもないね」
「豪人様!」
美和を見つけた豪人は笑顔で手を振る。その直後、敵の姿を見つけると鋭い目で見た。
「君が白峰敦也か。服装のセンスが悪いね」
「それは俺が言いたい台詞だ、金城豪人。生きるためとはいえ、こんな奴の姿にならなければならないと思うとぞっとする」
既に豪人の手には、金色に光るデッキ『ネオウエーブ』が握られている。白峰のデッキも同じ金色の光を発した。世界が戦うための世界へと変わった時、二人はシールドを並べて戦う準備を終えていた。
「最初に言っておくけど、今の僕は強いよ。自分の所有物に手を出された事は許せない。そんな事をする奴には、罰を与えてやらなくちゃならないからね」
「恋人をさらわれて怒りに火が点いたか。そんな感情で俺を超えられると思うな!」
先に動いたのは白峰だった。
彼の前に青い本が現れ、自動的にページがめくられていく。本が閉じた瞬間、その本は三枚のカードに変化した。白峰はそれを手に取り、手札のカード二枚を山札の上に置いた。
「2ターン目から手札補充のカードか。早いね」
「早いだけではない。俺が使った『ブレイン・ストーム』は手札から選んだカードを山札の上に置く事で手札破壊からカードを守る事ができる。そして、状況によっては山札の上を操作する事もできる」
白峰は、山札の上のカードを指先で軽く叩く。豪人は、それを注意深く見ていた。
ドローではなく山札を操作する事が目的だった場合、それを活かしたコンボで攻めてくる事がある。コンボの正体がつかめなければずるずると相手のペースにはまってしまう。そうなっては抜け出すのが難しい。
「僕は自分のペースで行くよ。まずはこのクリーチャーを召喚する」
豪人の場に小さな妖精が現れる。そして、儚げな緑色の光を出して消えた。その一瞬の出来事が終わった後、豪人のマナゾーンには新たに一枚のカードが置かれていた。
「『霞み妖精ジャスミン』さ。召喚直後に自爆する事でマナを増やす事ができる」
「手札よりマナを優先したか。なら、俺はこうする」
白峰の場にほとばしる光と共に一体のクリーチャーが現れた。一見すると只の人型のクリーチャーにも見えるが、巨大なクリスタルのようなものが刺さった頭部が目を引いた。
「紹介しよう。『ハッチャキ』だ。攻撃する時に5コスト以下のブロッカーを手札から出す能力を持っている」
「ブロッカーを!?」
『ハッチャキ』の能力を聞いた豪人の目にあるものが映る。それは白峰がカードを持っていない手で持っていた銃弾だった。それは微量の金色の光を発している。
「これに気付いたか。これは俺の能力『スウェッティング・バレット』の能力で作り出された弾丸だ。この弾にはお前のデータが入っている」
「白峰、まさか……」
同じ『試験官』のメンバーだった美土里にはその言葉だけで白峰の考えが理解できた。白峰は口元を妖しく歪めて笑う。
「その通りだ、美土里。お前は『スウェッティング・バレット』の能力の一部しか教えていないんだろう?今、こいつらに教えてやろう」
白峰の左手の中で弾丸は輝き続けている。その光は、豪人の持つ『ネオウエーブ』の光に似ていた。
「俺の『スウェッティング・バレット』は汗に含まれるデータを元に弾丸を作り出す能力。その弾丸を撃たれた者は弾丸の中のデータと同じ外見の人間になる。そして、その弾丸を握ってデュエルをするならば、そいつのデッキパターンや戦略を完全にコピーできる!」
「弾丸を撃てば外見のコピー。握れば内面のコピーか。でも、ただのコピーで僕に勝てるはずがない」
「ただのコピーだと思うな。お前の戦略を知った上でそれを潰す戦略を加えてある。それと、もう一つ。『スウェッティング・バレット』の弾丸のデータはリアルタイムで上書きされる。お前のデータを取ったのは過去だが、この弾丸にはデュエル直前までのお前のデータが入っているのだ!」
完全に戦略を見抜かれていると知って、さすがの豪人も驚きを感じた。それをすぐに表情に出す事はしないが、豪人のデータを完全にコピーした白峰には隠しきれなかった。
「嫌な相手だ」
小さく呟いた豪人は人型の軽量エンジェル・コマンド『滅炎の精霊イロハス』を召喚した。それを見た白峰は鼻で笑う。
「ブロッカーを召喚しなくていいのか?まあ、何を出しても無駄だがな」
『エナジー・ライト』での手札補充を終えた白峰は、豪人のシールドを指し、『ハッチャキ』に指示を出す。
「やれ!そして、ブロッカーを呼べ!」
『ハッチャキ』が踏み込んだ瞬間、その背後に水の柱が噴き出した。その中から水棲生物が飛び出してくる。
「『キング・ケーレ』!『イロハス』を消し去れ!」
白峰が命じた瞬間、『イロハス』は地中から噴き出した水の柱に飲みこまれる。それとほぼ同じタイミングで『ハッチャキ』の拳が豪人のシールドを捉えていた。
「僕をコピーしたにしては随分とせっかちな戦い方だね」
「お前が遅すぎるんだ。お前がやっている守って時間を稼ぐ戦法は俺には通じない。攻撃と防御が一体となった俺の戦法の方が上だからだ」
白峰の言うように、このまま『ハッチャキ』を放置していたら、大量のブロッカーを並べられて攻撃ができなくなってしまう。
攻撃を『ハッチャキ』に任せ、防御は『ハッチャキ』で呼び出したブロッカーに任せる。攻防一体の戦法だった。
「多分、今の白峰はあたしが見た中で最強だ」
美土里が呟く。彼女にしては珍しく、不安そうな声だった。
「白峰が『スウェッティング・バレット』の弾丸でデュエル中にコピーできる力には相性がある。光文明を中心に使う豪人のデータがマッチしてるんだ」
「それでも、豪人様は負けません」
美和が穏やかな、それでいて力強い口調で言う。その言葉の裏には、長い時間をかけて積み上げられた豪人への強い信頼があった。
その信頼に応えるように、突如、彼らの頭上に金色の四角錐のような形の物体が現れた。それは一条の光線を発して『ハッチャキ』の胸を貫く。
「何が起こった!」
「シールド・トリガー『雷撃と火炎の城塞』さ」
「何っ!?」
狼狽した白峰はまだ理解できないと言うように聞き返す。豪人は涼しい顔で答えた。
「シールド・トリガーを使って『ハッチャキ』を破壊したんだ。何度も使われたくない能力だからね。当然だろう?」
「何で火のカードまで……」
白峰を驚愕させた点は二つあった。一つはシールド・トリガーによる防御。もう一つは火文明のカードだ。
これまでの戦いのデータでは、豪人が火のカードを使った事はない。これは想定していなかった出来事だった。
「僕のデータをコピーして自分の力に足したみたいだけど、本当の内面まではコピーできていないね。メンタル面が弱い」
豪人は余裕の笑みを白峰に向ける。白峰を強敵だと思っていない証か、それともただのハッタリか。心までコピーできない白峰には判らなかった。
「この世には二種類の人間がいる。本当の強者と強者の真似をして強者の振りをした偽者だ。僕はどっちで、君はどっちかな?」
口を動かしながら、豪人は次の行動を起こしていた。自分のマナを全て使い、『ハッスル・キャッスル』でシールドを要塞化したのだ。
「光を中心に自然と火でサポートか。今までとは違う戦法だな」
ここで白峰も豪人の戦法が理解できた。同時に彼にも余裕が生まれる。
「俺は他人の力をコピーする事で自分の力にしてきた。これは俺にしかできない俺だけの力だ!お前の付け焼刃の戦法などに負ける訳がない!」
白峰の場に青い精霊が現れる。いくつもの手を持ち、宙に浮いていた。
「『知識の精霊ロードリエス』だ。文明は違うがやる事は同じだな」
豪人の『ハッスル・キャッスル』も白峰の『知識の精霊ロードリエス』も自分のクリーチャーが出る度にドローできるカードだ。『ロードリエス』はブロッカーが出た時のみという制約があるが、ブロッカーの多い彼のデッキではその程度のデメリットは気にならない。
「やる事が同じだと思ってる?痛い目を見るよ」
豪人が一枚のカードをかざした瞬間、その頭上に金色の穴が開いた。まばゆい金の光と共に、その穴から一体のクリーチャーが飛び出してきた。白く巨大な六枚の翼を広げ、下界を見下ろしながらそのクリーチャーは舞っている。
「『超次元シャイニー・ホール』を使って『ホワイト・TENMTH(テンムス)・カイザー』を呼び出した。さらに『ハッスル・キャッスル』の効果でドローするよ」
豪人が呼び出した『ホワイト・TENMTH(テンムス)・カイザー』は攻撃時に墓地の呪文を手札に回収できるW・ブレイカーのサイキック・クリーチャーだ。パワーが6000あり、クリーチャー相手に立ちまわるのに充分なパワーと言える。
「たかが、一体だ。俺は数を増やす!『ハッチャキ』!そして、『王機聖者ミル・アーマ』を召喚!」
二体目の『ハッチャキ』と機械で出来た騎士のようなクリーチャー『王機聖者ミル・アーマ』が並ぶ。『ミル・アーマ』はブロッカーのため、白峰はドローした。彼は手元に持っているカードを扇のように広げて裏向きのまま豪人に見せた。
「『ロードリエス』があれば豊富な手札を維持したまま戦える。『ハッチャキ』の能力を使えば、その分、手札を消費するが『ロードリエス』があれば問題はない。『ハッチャキ』で場を増やし、『ロードリエス』で弱点を打ち消しながら手札を増やすコンボ!『ハッチャキ』を一体破壊した程度で俺の勢いを止められると思うなよ!」
「確かにその通りだ。一体破壊しただけじゃ駄目だよね」
白峰が行動を終えたのを見て、豪人はすぐに行動を始めた。ドローもマナのタップにも迷いはない。流れるような動作を終えて一枚のカードを場にかざす。
「だけど、僕も言わせてもらおう。君の『ハッチャキ』が一体だけでないように、僕が持っている除去のカードも一枚だけじゃない」
再び、豪人の頭上に四角錐が現れる。『雷撃と火炎の城塞』の力によって生み出されたそれは火炎放射で『ハッチャキ』の体を焼きつくした。そして、光線を使って『ミル・アーマ』の目をくらませる。光線を受けた『ミル・アーマ』が膝をついた瞬間、豪人の『ホワイト・TENMTH・カイザー』が『ミル・アーマ』に襲いかかった。
「また、そのカードか!だが『ミル・アーマ』はやらせん!」
『TENMTH・カイザー』の前に『キング・ケーレ』が立ちふさがる。『キング・ケーレ』の体は小さいとは言えない。だが『TENMTH・カイザー』の腕は『キング・ケーレ』の腹を突き刺し、そのまま水棲生物の巨体を軽々と持ち上げた。『TENMTH・カイザー』が力を込めた瞬間、『キング・ケーレ』の肉体は黄色い光を放出しながら爆散していった。
「惜しかったな。『キング・ケーレ』がブロックしなければ、邪魔な奴をもう一体倒せたのに。でも、チャンスはまだあるからいいね」
そう言って豪人は『雷撃と火炎の城塞』を見せる。それは今、使ったものだ。
「君は『ハッチャキ』と『ロードリエス』のコンボを続ける気でいたみたいだね。僕も同じようなものかな。『シャイニー・ホール』や『雷撃と火炎の城塞』みたいな相手クリーチャーをタップできる呪文を『ホワイト・TENMTH・カイザー』の能力で回収するコンボを使う。呪文でクリーチャーをタップし、タップされたクリーチャーを『TENMTH・カイザー』で攻撃して回収する。君のコンボと同じように必要なクリーチャーが除去されるまではずっと続けられる。僕はこのコンボで君のクリーチャーを全て破壊する。我慢比べだよ、白峰敦也君」
豪人は歯を見せて敵に笑いかける。敵に向けた表情であるにも関わらず、その表情は爽やかなものだった。戦闘中の豪人を見た事がない美土里は少しだけ心を動かされた。彼の戦いを久しぶりに見た美和は、今までよりも豪人の事が好きになっていくのを感じていた。

今の彼を知る者に言っても信じてもらえないかもしれないが、千秋千里はただの人間だった。どこにでもいるような凡人で、いなくなっても代替が効くような男だ。大量生産された多くの人間の一人だった。
そんな彼の運命と彼自身の能力に劇的な変化をもたらしたのは今から三年ほど前の事だ。彼はとある組織に拉致された。そこで、人工的な天才を作り出すための実験材料として使われたのだ。その実験とは脳に改造を施し、人間の力を飛躍的に増大させるというものだ。その実験の結果が成功か否か、意見は別れている。
被験者の千里は成功だったと思っている。彼は人間を超越した力を手に入れ、組織が求めた力を備えた人材となったからだ。
しかし、組織の者達の多くは実験が失敗したと思っている。強化され過ぎた千里の力で組織は壊滅し、全ての幹部が彼の手にかかり、死んでいったからだ。
自分より上にいる者を全て抹殺し、千里が代わりに組織のトップとなった。変革した組織の長となった千里は、自分の手で滅ぼした幹部達の意思を継いで行動した。別の世界の力を使って世界を征服するという組織の目的を成し遂げるために動いた。千里は、改造された事で別世界の力を扱う術を身に着けていた。千里と組織の研究者達は別世界の力を簡単に扱う方法を模索した。その結果、誕生したブレイン・ジャッカーの寄生や融合といった方法で別世界の力を扱える者の数は増えていった。
千里の改造からわずか一年でここまで計画が進んだ。かつて、組織の上位にいた者達がまとめていなくなった事で、派閥争いがなくなり、計画がスムーズに進行したのだ。このまま行けば、あと半年で計画が完了すると誰もが思っていた時、別世界から巨大なエネルギーと来訪者がやって来た。五人の保持者と彼らが使う五つのデッキだ。それは、今から二年前の出来事だ。
巨大なエネルギーが襲来した事の余波を受けて、千里は一時的に行動不能となり、計画も遅れ始めた。彼は計画の遅れを取り戻すために、保持者と戦って彼らが持つ巨大なエネルギーを持つデッキを奪う事を考えた。保持者と同じタイミングで別世界から来たデッキのレプリカや『ブランク』の解析をし、量産させた。さらに、兵士の行動を管理する『球舞』と、千里をサポートする『試験官という組織を作った。
部下に指示を出した後、千里はしばらく休息を取っていた。その急速の中で彼は別世界のエネルギーを体に馴染ませ、さらなる変化を遂げていた。その時に得たのが未来を見る能力だ。未来は世界が滅ぶところで終わっている。世界の終わりを見ているのは千里と香寿美だ。世界の最期を眺めながら同時に彼らも滅ぶ。未来のビジョンを見る時、千里は安らかな気持ちでいた。改造手術を受けた時から彼の願いは自らの手で世界を終わらせて、それを見る事だったからだ。征服と破壊。結果に違いがあったが、千里と組織は同じ目的のために行動していた。
保持者の力の一つ、『エクスプロード』は手元にある。残りの四つも手を伸ばせばすぐに届くところにある。自分の計画の完了を想い、彼は一人でほくそ笑んだ。

白峰の持つカードが金色の輝きを発した時、室内も同じ光に包まれた。世界を包むようなその光が消えた時、白峰の場には新たに二体のクリーチャーが並んでいた。
一体は『光器セイント・アヴェ・マリア』。サイキック・クリーチャーのブロッカーだ。
そして、もう一体は『偽りの名オレワレオ』。全身にクリスタルのようなものを散りばめたエンジェル・コマンドだ。『オレワレオ』は攻撃不可能なブロッカーを攻撃可能にする能力を持っている。今まで、白峰はこのクリーチャーの能力で一斉攻撃をするためにブロッカーを増やしていたのだ。
「お前の負けだ。金城豪人」
彼は使い終わった呪文カードを投げ捨て、自分の場を見た。
白峰は驚異的な防御力で豪人の攻撃に耐えていた。『テンムス』を超えるパワーを持ち、呪文やクリーチャーの能力で選ばれる事のないブロッカー『我牙の精霊 HEIKE(ヘイケ)・XX(ダブルクロス)』。ドローの『ロードリエス』ブロッカーのパワーを高める『ムルムル』を置く事で防御の要塞を築き上げていた。シールドも五枚残っている。
さらに、『超次元マザー・ホール』で手札から『オレワレオ』を、超次元ゾーンから『セイント・アヴェ・マリア』を出していた。
「我慢比べは俺の勝ちだったな。お前の場は悲惨だ」
豪人のシールドは残り二枚で、クリーチャーは『TENMTH』しか残っていなかった。
「これでいい。俺はお前となって生きる。安全に、安らかに。その為に、お前は……!本物の金城豪人はここで眠れ!」
白峰の目はギラギラしていた。既に勝利を確信していて、決められた手続きをしてそれを手に入れるだけ。そんな表情だった。
まず『ムルムル』が動き、シールドに体当たりする。そのシールドが完全に砕ける前に『ロードリエス』のビームが最後のシールドを射抜いた。
「シールド・トリガーを使えば負けないとでも思っているか?それは誤りだ。これからお前に死を与えるのは『HEIKE・XX』!選ばれないクリーチャーだ!さあ……死ね!」
白峰が豪人を指し示す。しかし『HEIKE・XX』は動かなかった。それだけではない。白峰の全てのブロッカーがその場に崩れるようにして倒れていった。
「ああ……、うわあ……!何が起こった!?」
「シールド・トリガーを使ったのさ」
口を開けたまま、自分のブロッカーを見ていた白峰は豪人の言葉を聞いて我に返る。豪人の方を見ると、シールドが一枚復活していた。それを見て白峰はさらに混乱する。
「シールド!?バカな!最後のシールドは破った。なのに、何でシールドが一枚残っている!?」
「最後のシールドは『DNA・スパーク』だったのさ。これを使い、君のブロッカーを全てタップして、シールドを追加した」
冷静になって考えれば単純な話だ。白峰もそのカードの事は知っているし、自分のデッキにも入れている。
「さらに……」
静かな口調で豪人は口を開く。すると、彼の足元に金色に輝く光文明のマークが現れた。白峰がそれを見た瞬間、彼の掌にあった弾丸が破裂した。
「俺の弾丸まで……!何なんだよ、お前は!」
「今、僕は『ネオウエーブ』の真の力を使った。僕が指定した能力から、僕と美和を対象にする事を拒否する能力!『ネオウエーブ・ワンワールド』だ!」
豪人の真の力が目覚めたのを見て、白峰はその場にへたり込んだ。
震える手で弾丸を取り出して豪人を見る。
「お前、勝ったと思うなよ!お前以外にも光文明を使っていた奴のデータはある!それを使えば、まだ俺は戦える。確かに、俺のクリーチャーは全てタップされた。だが、『アヴェ・マリア』はアンタップできる!シールドもある!『オレワレオ』だって残っている!その場しのぎに負ける俺じゃない!」
「その場しのぎなんかじゃないさ。我慢比べはまだ続いているんだよ」
豪人が一枚のカードをかざした瞬間、『TENMTH』が体から金色の光を発した。そして、床を突き破った炎に体が包まれていく。
「進化だ、『TENMTH』!僕の切り札を見せてやる!」
炎を突き破って天使の鎧を纏った龍が現れる。その龍は迷う事なく、白峰のシールドに向かった。
「これが僕の切り札『聖竜ボルシャック・ウルフェウス』だ!」
「『TENMTH』が切り札ではなかったか。だが、そのパワーでは『アヴェ・マリア』には勝てん!」
『聖竜ボルシャック・ウルフェウス』はパワー9000、『アヴェ・マリア』は5500である。白峰の場には『ムルムル』がいるため、パワーが3000追加されて8500となり、さらにブロックした時に2000追加される。その結果、『アヴェ・マリア』のパワーは10500まで上昇する。
豪人もそれは判っていた。彼が微笑んだ瞬間『ボルシャック・ウルフェウス』の胸にある龍の顔が火を吹いた。炎は瞬く間に燃え広がり、白峰の全ブロッカーを包んだ。
「『ボルシャック・ウルフェウス』が場に出た時、光か火の呪文を使える。その能力で『超爆デュエル・ファイアー』を使ったのさ」
『超爆デュエル・ファイアー』は全てのブロッカーを破壊する火の呪文だ。ブロッカーであればどんなものでも焼き尽くす。選ばれないクリーチャーも例外ではない。
一陣の風と共に炎を振り払った『ボルシャック・ウルフェウス』は両手持ちの巨大な槍でシールドを切り裂いた。真っ二つにされたシールドは何のアクションも起こさずに消えていく。新しい手札となった二枚を見た白峰は舌打ちをした。
「切り札を出しただけで勝った気になるな!能力を使ったら、もう後はただのW・ブレイカーだ!」
白峰は『超次元シャイニー・ホール』を使い、二体のサイキック・クリーチャーを呼び出した。『光器シャンデリア』と『アルプスの使徒メリーアン』だ。これ以外に『アヴェ・マリア』が揃えばサイキック・リンクが成功する。Q・ブレイカーでターンの終わりにハンターをアンタップし、シールドを追加する『豪遊!セイント・シャン・メリー』となるのだ。それが出されては逆転が難しくなる。
さらに、白峰は『ハッチャキ』を召喚してきた。
「リンクまでは時間がかかるがこれでいい。ここから俺は陣形を立て直す。尤も、立て直す前に勝負がつくかもしれんがな」
白峰の攻撃可能なクリーチャーは二体だ。豪人の最後のシールドを破ってとどめを刺すのに充分な数が揃っている。
「陣形を立て直す暇は与えないよ」
豪人の言葉と共に『ボルシャック・ウルフェウス』の体が炎に包まれる。炎が消えた時、『ボルシャック・ウルフェウス』が今までとは違う金色に輝く大きな槍を持っていた。それを見て、白峰は目を見開く。
「お前……、何を!?」
「僕は『ボルシャック・ウルフェウス』が一枚だけだと言った覚えはない。『ボルシャック・ウルフェウス』に『ボルシャック・ウルフェウス』を重ねた。そして、手札から使う呪文は『超銀河弾HELL』だ!」
槍の切っ先が開き、そこにエネルギーが集中する。『ボルシャック・ウルフェウス』は腰を落とし、両手で槍を構えると先端を白峰のクリーチャーに向けた。
「撃てーっ!」
チャージされたエネルギーが炎の弾丸となって白峰のクリーチャーに襲いかかる。発射された弾丸は三発。一発ごとに周囲の気温が上がり、三発撃ち終わる頃には真夏のような暑さに変わっていた。
「やらせるか!」
汗を散らしながら白峰は『シャンデリア』の前に向かって光のカードを投げる。それが盾となって『シャンデリア』は助かった。
しかし、炎の弾丸の勢いはクリーチャー二体を葬った後も衰える事はなかった。発射された時の勢いを保ったまま、クリーチャーの背後にあった三枚のシールドまで焼き尽くす。その三枚はシールド・トリガーの『DNA・スパーク』と『スパイラル・ゲート』と『ヘブンズ・ゲート』だった。
「『HELL』は相手クリーチャーのパワーの合計が9000以下になるように選んで破壊する火の呪文。そして、破壊した数と同じ数のシールドを破壊する。白峰の『シャンデリア』は破壊される時に光のカードを手札から捨てれば破壊を免れるクリーチャーだから助かった。だけど、一体だけだ。悲惨なもんだね、白峰」
美土里はかつての仲間に目を向ける。この暑さの中で白峰は奥歯で音を立てながら震えていた。恐怖で凍りついた心を少しでも温めるように、必死で。
炎の弾丸を発射した事で先端が溶けて使用不可能になった『HELL』を投げ捨て、『ボルシャック・ウルフェウス』は本来の槍に持ち替えた。そして、白峰に迫る。
白峰は「ひっ」と体を震わせた後、手札のカードを一枚投げた。まるで、森の中で熊に襲われた人間がパニックになって熊に石を投げるかのように。
カードは巨大な人型のロボットのようなクリーチャー『光牙王機ゼロカゲ』へと変化した。『ゼロカゲ』は振るわれる槍を受け止めたが、そこで爆散する。
「何故だ!追い詰めていたのは俺なのに、何で2ターンでここまで逆転されなくちゃならない!くそっ!くそがーっ!」
白峰は自分の山札から引っ手繰るようにしてカードを引く。それを見た瞬間、震えが止まり、口元に笑みが浮かんだ。
「まだ俺はやれる!やれるぞ!『超次元シャイニー・ホール』で『アヴェ・マリア』を場に!そして『超次元ブルーホワイト・ホール』で『メリーアン』を場に!光のサイキック・クリーチャーを出したから効果で手札から一枚シールドを追加!」
白峰が投げたカードが空中でシールドに変化する。それを見た彼は満足そうに笑った。
「『シャンデリア』で攻撃する必要はない。次のターンでリンクして勝つ!」
白峰の自信を見て、豪人はあごに手を当てる。白峰がシールドに仕込んだのは間違いなくシールド・トリガーだ。サイキック・リンクの三体を倒してもシールド・トリガーだけで逆転できるような一枚。豪人はその一枚のカードについて考えながらカードを引く。そして、溜息を吐いた。
「諦めたか!!我慢比べはやはり俺の勝――」
「泣きっ面にはち」
「何?」
豪人が突然、口にした言葉に白峰は笑うのをやめる。美和と美土里も首をかしげていた。
周りの反応を気にせず、豪人は続けた。
「今の君の事だよ。弱り目に祟り目とも言うね。それとも、こう言った方がいいかな?二度ある事は三度あるって」
再び、『ボルシャック・ウルフェウス』が炎に包まれた。新しい『HELL』の切っ先を向けて『ボルシャック・ウルフェウス』は構えた。
「もう一度進化させた。さすがにこれ以上は無理。打ち止めだよ」
豪人が言い終わった瞬間『HELL』が火を吹いた。『アヴェ・マリア』『メリーアン』が焼かれ、白峰の最後のシールド『ヘブンズ・ゲート』が宙を舞った。
「この後で、君がまた陣形を立て直したら僕に勝ち目はないだろう。この一撃で決める!」
『ボルシャック・ウルフェウス』が白峰に向かって槍を振り下ろす。それを阻む者はいない。白峰の手札から現れる事もない。
地面に槍が叩きつけられ、爆音が轟き、硝煙が宙を舞った。
世界が元の世界に戻る瞬間、豪人は白峰に向かって『ブランク』を投げた。だが、『ブランク』は敗れた白峰を取り込む事なく、乾いた音を立てて着地する。
「白峰……、どこへ」
美土里は、呟いた瞬間、脊髄が凍りつくような感覚を覚えた。それは豪人も同じだった。突如、現れた気配に感覚の自由を奪われる。肌に触れる空気の中に恐怖が溶け込んでいるような錯覚が頭脳を支配する。
「これは、一体?」
豪人は持てる力を振り絞って美土里を見た。彼女はしばらく黙っていた。時間にして、それは一分ほどの時間だったが、豪人と美土里には長い時間に感じられた。
「千秋千里。あたしらのボスが来た」

人気のない路地裏まで逃げた白峰は壁に寄りかかって立っていた。息をするのが苦しい。体に力が入らない。
『ボルシャック・ウルフェウス』の攻撃が迫る瞬間、彼は『スウェッティング・バレット』の力を使って自分に酷似した人形を作り出していた。攻撃を受けたのはダミーの人形だが、人体とほぼ同じサイズのコピーを瞬時に作ったため、体にかかる負担も大きい。抗議の悲鳴をあげる体に鞭打って彼は歩き出す。
突然、奇妙なプレッシャーが彼を襲った。この威圧感の主は千秋千里だ。
「お疲れのようだね」
声が聞こえた。一番聞きたくなかった声を聞いてしまった。
白峰はゆっくりと顔を上げて声の主の居場所を確かめる。自分の中で目を背けようという意思と見ようとする意思が混在していた。自分の体とは思えないほどの緩慢な動作で首は動く。
そこに立っているのは、外見だけは普通の男だった。『正常』という皮で擬態した『異常』は、にこやなか表情で歩いてくる。
「千……里……」
「私はずっと君を泳がせていたんだよ、白峰。『試験官』の一人が、保持者と戦って生き残るのを待っていた。君をくれないか?」
「美土里がいる!あいつでもいいだろ!」
白峰はかすれた声で言い返す。喉にも力が入らない。
逃げるチャンスはあったのかもしれない。しかし、千里と目が合った時から足に重りをつけられたように動かなくなっていた。
「君でないと駄目なんだ。君はデュエルの記憶と共に『スウェッティング・バレット』の弾丸に蓄積された保持者のデータを持っている。だから、君を選んだんだ」
千里が一歩、前に進む。
白峰はもしもの時のために部下を配置していたことを思い出して周囲を見た。それを見ていた千里が笑う。
「君の部下はここだよ。全員、君を守るために私に挑んできた。いい部下を持ったね」
千里は懐からカードの束を取り出し、白峰に見せた。その『ブランク』の中には白峰の部下が封じられていた。
「貴様、俺の部下をやったのか!?こんな俺についてきてくれた部下なんだぞ!」
部下に手を出された怒りが、白峰の怯えと痛みを消し去った。金色に光るデッキケースを取り出し、千里を睨む。
だが、その怒りも一瞬で消える。千里が右手の掌にある黒い穴を見せた時、白峰の心が恐怖で黒く塗りつぶされた。
「残念だが、君では相手にならないよ。君の部下も同じように消してやったのさ。同じやり方で終わりを与える。私は優しいだろう?」
千里の右手は様々な物を吸いこんでいった。白峰はデッキケースと、それを握っていた腕が吸い込まれた。引き抜こうとしてもがくが、穴に吸い込まれた腕は動かない。それだけではない。吸い込まれて消えた部分は感覚がなかった。痛みすら感じなかった。
「こんな……、こんなこと、いつ出来るようになったんだよ!」
「このデッキのおかげだよ。やっと私も自分のデッキを持つことができた」
千里は自慢するような表情で左手に持った『エクスプロード』を見せる。もう、白峰の体は首から上しか残っていなかった。
「さようなら、白峰。いいデュエルをしたみたいだね。デュエルを奪うための手段と言った君らしい戦いだった」
白峰の体は完全に消えてしまった。千里は満足したように笑うと、人々がいる方へ歩き出した。

第三十四話予告
全ての戦いの元凶であり、試験官を統べる男、千秋千里。彼を倒し、全てを終わらせるために豪人は自分が動く決意をする。そして、彼は自分の想いを打ち明けた。
「美和、君にこれを贈る」
豪人の愛は全てを超えるか。
第三十四話 豪人
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

Twitter

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。