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『TOKYO決闘記』第三十五話 博成

『TOKYO決闘記』
私、一ノ瀬博成は東京連続失踪事件の謎を調査した高校二年生だ。
金城豪人(かねしろごうと)は『試験官』の長、千秋千里(せんしゅうせんり)と戦う事を決意する。恋人とも言える佐倉美和(さくらみわ)と愛を確かめ合った彼は千里の元へ向かった。豪人は切り札、『聖霊王アルファディオス』を用いた強固な防御陣を展開するが、千里の戦略の前に敗北する。だが、敗北さえも豪人の計算の内だった。自分が千里と戦う未来を作る事で赤城勇騎(あかぎゆうき)に千里の戦い方を見せたのだ。
一方、勇騎は『プロミネンス・ネクストレベル』で未来を見る事ができなくなっていた。
20XX年 一ノ瀬博成

第三十五話 博成

博成に呼び出されて行った店はとあるビルの二階にあった。少し判りにくい入り組んだところにある入口に博成は立っていた。勇騎の姿を見つけると手袋をした手を振った。
「突然で悪かったね、勇騎君。それじゃ、行こうか!」
「ああ」
店の中には多くのプレイヤーがいた。商品のカードを見る者、トレードをしている者、デッキの調整をしている者、そしてデュエルをしている者だ。
いくつかパックを選んで買った博成は勇騎を連れて対戦スペースに向かった。どのテーブルにも活気があった。楽しそうな笑顔で溢れている。
「賑わっているな」
「今日は日曜日だからね」
博成に言われるまで、勇騎は曜日の感覚までなくなっていた事を思い出す。それほどまでに勇騎は追い詰められていたのだ。
既に着席していた博成に促されて勇騎も椅子に座る。博成がデッキを出すのに合わせて、勇騎もバッグから自分のデッキを取り出した。『プロミネンス』ではない。この世界のカードを組み合わせて作った普通のデッキだ。
「勇騎君、こういう普通のデュエルをするのは初めて?」
「ああ、そうだな。した事がない」
「それじゃ、ここでは僕が先輩だね。色々教えてあげるよ。まずはデッキをシャッフルするんだ。それが終わったら、相手とデッキを交換して念入りにシャッフル。デッキを返してもらったらシールドを置いてカードを五枚引くんだ」
それは普段のデュエルなら、全てデッキが自動で行っている動作だった。少し不慣れな動きで準備を終えた勇騎は手札のカードを見た。
「準備は終わったな。始めるぞ」
「まだだよ。ジャンケンで先攻と後攻を決めて対戦前は挨拶をするんだ。よろしくお願いしますって。ほら、見てごらん」
博成に促されて別のテーブルを見ると、他のプレイヤーは先攻を決めるためにジャンケンをしていたし、始める前に挨拶をしていた。勇騎にとってそれは新鮮な体験だった。
ジャンケンの結果、先攻は博成となった。挨拶を終えてデュエルが始まる。
「マナゾーンにカードを置いて……。勇騎君のターンだよ。ほら、そんな怖い顔しないで?楽しそうにしてよ」
「俺にとってはどんなデュエルも戦いだ。このデュエルだって気を抜くつもりはない」
「うん、そうだね……」
少し残念そうな顔で博成は勇騎を見ていた。最初のターンから何か行動を起こせる事もなく、博成はマナチャージだけでターンを終える。それは勇騎も同じだった。
その次のターンで博成の最初のアクションが始まる。『シークレット・クロックタワー』を唱え、三枚のカードを吟味して一枚を手札にする。対して勇騎は『霞み妖精ジャスミン』を使ってマナを増やした。
「それじゃ、行くよ!『ピュアランダース』を召喚!シールド・プラスだ!」
3ターン目に博成が召喚したのは小型クリーチャー『ピュアランダース』だった。パワー自体は心元ない。ただ、シールド・プラスが厄介だった。その能力で博成は一枚のシールドにもう一枚のカードを重ねる。ブレイクされれば通常の二倍のカードが手札となり、シールド・トリガーが出る確率も二倍に増える。
「そのシールドは後回しだ。『超次元の手ブルー・レッドホール』を唱える!」
勇騎は超次元呪文で『時空の剣士アクア・カトラス』を場に出した。シールドへの攻撃に適した便利なクリーチャーだ。
「僕も超次元呪文だ。『超次元ホワイトブルー・ホール』を唱えて『イオの伝道師ガガ・パックン』をバトルゾーンに。光のサイキック・クリーチャーが出たから、手札を一枚シールドにするよ」
シールド・プラスに続き、シールドを追加。複数の方法で防御を固めていた。
「攻撃行くよ!『ピュアランダース』でシールドブレイク!」
先に攻撃を仕掛けシールドをブレイクしたのは博成だった。彼自身、その事に驚いていたらしく、何度も瞬きを繰り返していた。
「やるな、一ノ瀬」
これは勇騎の本音だった。
勇騎の行動をシールドの追加という心理的な手段と、『ガガ・パックン』による呪文コストの上昇という物理的な手段で足止めしている。手札にある『超次元ボルシャック・ホール』なら『ガガ・パックン』を破壊して切り札級のサイキック・クリーチャーを出す事ができる。だが、マナが足りない。『ガガ・パックン』さえいなければ唱える事ができた。
ベストの選択から妥協せざるを得なくなった勇騎は二枚目の『ブルー・レッドホール』を唱えた。
「俺が出すのは『ブーストグレンオー』だ。バトルゾーンに出る時の能力で『ピュアランダース』を破壊する。そして、『アクア・カトラス』でシールドを攻撃する。選ぶのはこのシールドだ!」
勇騎が指したのはシールド・プラスでも追加したシールドでもない比較的安全なシールドだ。ブロックされなかった『アクア・カトラス』の能力でドローしてそれがブレイクされるのを見る。「あ」と言う小さな声の後で博成はそのカードを場に出した。
「シールド・トリガー『アクア・サーファー』だよ。これで『アクア・カトラス』を超次元ゾーンに!」
覚醒の一歩手前で『アクア・カトラス』が盤面から消える。勇騎にとって苦しい展開となった。
「ドローして……、『シークレット・クロックタワー』!そして、『ピュアランダース』を召喚だよ!」
『シークレット・クロックタワー』は山札の上のカード三枚を見て一枚を手札、一枚を山札の上、一枚を山札の下に置く呪文だ。これで山札の上のカードを操作し、『ピュアランダース』で仕込んだカードをシールドに置く。考えられたコンボだった。
これにより、博成のシールド五枚の内、半分以上が手を加えられた危険なシールドとなった。
「行くよ!『アクア・サーファー』でシールドブレイク!」
博成によって選ばれたシールドを見た勇騎は即座にそれを彼に見せる。それを見た博成は再び、静かに口を開いた。
「『スーパー炎獄スクラッパー』だ。『ガガ・パックン』と『ピュアランダース』を破壊する」
「う……、判ったよ」
博成の猛攻を一時的に食い止める事に成功した。勇騎は間髪入れずに行動を開始する。
「『超次元ボルシャック・ホール』で『アクア・サーファー』を破壊。そして、『レッド・ABYTHEN・カイザー』を出す」
当初の予定では『不死身のブーストグレンオー』の破壊されない能力で攻め込むつもりでいた。だが、博成のデッキは破壊以外の手段でクリーチャーを除去する手段を多く持っている。故に『不死身のブーストグレンオー』ではなく、選ぶ事でリスクを伴う『レッド・ABYTHEN・カイザー』を出したのだ。
「『ブーストグレンオー』でシールドをブレイク!選ぶのはこのシールドだ!」
勇騎が選んだのは『ブルーホワイト・ホール』で追加されたシールドだった。博成は諦めたような顔でそのシールドを手札に加えた。
「今のシールドは恐らく『DNA・スパーク』だ。手札から仕込まれたシールドは最後にブレイクする者が多い。一ノ瀬はその心理を逆手にとって最後にブレイクされる時に絶大な効果を発するシールド・トリガーを仕込んだ。一発で逆転を狙えるシールド・トリガーで光か水のものといったら『DNA・スパーク』のような相手クリーチャーを全て行動不能にする呪文や『アポカリプス・デイ』のようなクリーチャーを全て破壊して状況をリセットするような呪文しかない」
勇騎の独白とも受け取れる呟きを聞いて、博成はビクッと小さく震えた。彼の推理通り、仕込んでいたシールドには『DNA・スパーク』を入れていた。最後に一斉攻撃を仕掛けた時ならともかく、今、使っても意味はない。
「一ノ瀬、俺の予想が正しければ、お前のデッキはシールド・トリガーを多く入れたカウンター狙いのデッキだ。シールド・プラスやシールド追加でシールド・トリガーが出る確率を上昇させ、小型クリーチャーで攻める」
「当たり。その通りだよ、勇騎君」
それ以外に、博成は勇騎に言っていない事があった。それは博成が持つ最強の武器、絶対的な幸運だ。
彼の人生は、他の人間と同じように幸運と不幸が同じくらいある。東京連続失踪事件に関わって以来、何度か命を落としかけている事を考えると他人よりも不幸が占める割合が多いと言えるかもしれない。
神がその不幸との帳尻を合わせるために彼の運命をいじったせいか、それとも神のいたずらなのか、彼はデュエル・マスターズをプレイする時の運だけは凄まじかった。欲しいカードが手札に来る確率は悪く見積もっても五分五分。調子のいい時であれば、必ず手札に来る。マンガの主人公が重要な局面で切り札を引くようなヒロイックなシーンを再現するのは日常茶飯事だった。
幸運が味方をするのはドローだけではない。シールド・トリガーが出る確率にも影響を与えている。デッキに一枚しかシールド・トリガーを入れていないような場合でもそれがシールドに入っている事の方が多い。同じ構築済みデッキを使った対戦で博成だけ全てのシールドがシールド・トリガーで相手は一枚もシールド・トリガーが出なかった事もあった。
このデッキなら博成が持つ強運を活かして戦う事ができる。本気で勇騎を倒す戦いをしていた。
「『シークレット・クロックタワー』で一枚手札に。そして、『超次元サプライズ・ホール』を唱えるよ。『時空の英雄アンタッチャブル』をバトルゾーンに!」
厄介なサイキック・クリーチャーが現れた。『時空の英雄アンタッチャブル』は『レッド・ABYTHEN・カイザー』とは違い、絶対に選ばれないクリーチャーだ。終盤まで放っておいたら、止める事は難しい。
だが、勇騎はそれを止める手段を持っていた。
「『超次元グリーンレッド・ホール』を唱える。俺が出すのは『サコン・ピッピー』だ」
勇騎が出したのはパワーが3000のサイキック・クリーチャーだった。コスト5以下のサイキック・クリーチャーを出せる『グリーンレッド・ホール』の効果なら、もっと強力な『アクア・カトラス』を呼び出す事もできた。しかし、勇騎がこれを選ぶのには理由があった。
「『グリーンレッド・ホール』で火のサイキック・クリーチャーを呼び出したターン、俺のクリーチャー一体はタップされていないクリーチャーを攻撃できるようになる。『アンタッチャブル』のパワーなら『ブーストグレンオー』で充分だ!」
勇騎は『ブーストグレンオー』のカードに手を添えてタップする。それを見た博成は反射的に一枚のカードをバトルゾーンに出していた。
「『光牙忍ハヤブサマル』だよ。『ブーストグレンオー』の攻撃を『ハヤブサマル』で受ける!」
同じパワーを持つ二体は相討ちとなる。勇騎は『ブーストグレンオー』を超次元ゾーンに置き、博成は『ハヤブサマル』を墓地に置いた。それを見た勇騎は静かな、それでいて確かな声で断言する。
「お前のもう一つの武器が判った。確信が持てた」
「えっ!」
博成が驚くのを見ながら勇騎が言う。彼は右手の人差指を立てていた。それは博成が見慣れている動作。勇騎が真実を言い当てて敵を倒す時の動作だ。
「デュエルを始めた時からお前が何らかの武器を持って俺に挑む事には気付いていた。そして、おおよその正体も判っていた。だが、ディテールまでは判らない。だから、それを探りながら戦っていた。もし、俺の予想が当たっていたのなら、お前はこのタイミングで『ハヤブサマル』を手に入れていると思った。『ハヤブサマル』がブロックした事で俺の予想は当たっていた事が証明された」
勇騎は立てていた人差し指を博成に向ける。そして、こう言った。
「一ノ瀬、お前が持つ最強の武器は強運だ。カードと運がお前を守っている」
「……いつ、気がついたの?」
隠していたはずの力まで気付かれていた。博成は隠すような事はせずに質問をした。それは自分の武器の存在を認めるのと同じ事だった。
「対戦が始まってしばらくしてからこちらを見た奴らがいた。その中の一人がお前を見て言っていたよ。『幸運の一ノ瀬』とな」
それは、このショップでつけられた博成の二つ名だ。ホームで戦った事が仇となった。
「やっぱり、勇騎君はすごいね。僕のデッキだけじゃなくて、僕自身の事もすぐに判っちゃう。でも、判っただけじゃ、僕のデッキは倒せないよ!」
「相手を理解する事で見える策もある。石橋を叩いて渡る必要はない。『レッド・ABYTHEN・カイザー』で攻撃!」
破られたシールドを見て、博成は一枚ずつシールド・トリガーを使う。一枚目のシールドは『シークレット・クロックタワー』だった。しかし、二枚目はシールド・トリガーではない。いつの間にか集まっていたギャラリーがどよめく。
自分のターンになってから、博成は手元にあるカードを見た。さすがに手札が少なくなっていたので、『エナジー・ライト』で手札を補充する。そして、『超次元サプライズ・ホール』で『キル』を超次元ゾーンからバトルゾーンに出した。
「勇騎君のシールドは二枚。普通ならここで攻撃するのは良くない事かもしれない。だけど……!」
博成が相手をしているのは尋常ならざる実力と今まで生き残った運を持った勇騎だ。セオリー通りの戦い方が必ずしも正しいとは限らない。
自分の選択が正しい事を信じながら、博成は『アンタッチャブル』をタップした。
「『アンタッチャブル』でシールドをブレイク!」
博成に指定されたシールドを見た勇騎は何も言わずにそれを手札に加える。博成はほっとしたように胸を撫で下ろす。周囲のギャラリーからも緊張から一時的に解放されたような空気が伝わってきた。
今までにない感覚に勇騎は戸惑いながらカードを引いた。今までのデュエルで、敵側のギャラリーは存在しなかった。今は、相手にのみ応援者がいて自分だけが孤独な戦いを強いられている。
だが、その違和感が勇騎の邪魔をしたのは一瞬だった。すぐに勝つための行動に移る。
「『超次元ボルシャック・ホール』を唱え、『キル』を破壊する!」
「う……、判ったよ」
『キル』はサイキック・クリーチャーの除去体制を高めるために出したサイキック・クリーチャーだった。それを失うのは痛い。
だが、それでも博成はまだ勝つつもりでいた。シールドにはシールド・プラスで仕込んだシールド・トリガーが入っていて、手札に超次元呪文も残っているからだ。
だが、勇騎は一枚のカードでその自信を崩した。
「俺が出すのは『流星のフォーエバー・カイザー』だ。これにより、お前のサイキック・クリーチャーはシールドへの攻撃と直接攻撃が不可能となる!俺はそれだけで止まるつもりはない。一気に行くぞ!」
勇騎は『レッド・ABYTHEN・カイザー』をタップしてシールドを指す。すると、それと同時に博成は手札から一枚のカードを出した。
「ニンジャ・ストライク!『斬隠テンサイ・ジャニット』を召喚して『サコン・ピッピー』を超次元ゾーンに!これでとどめは刺せなくなったよ!」
このターン、生き延びる事ができた。それを知った博成は勇騎が指定したシールドを見る。その中の一枚はシールド・プラスで仕込んだカードが入ったシールドだった。これならば、勇騎の策も潰せる。
「『超次元サプライズ・ホール』と『アクア・サーファー』だ!『サプライズ・ホール』で『キル』を出して『アクア・サーファー』で『フォーエバー・カイザー』を超次元ゾーンに!」
続いて最後のシールドを見た。その二枚を表向きにして博成は驚くべき行動に出た。
「『DNA・スパーク』と『スパイラル・ゲート』。シールドを追加して『スパイラル・ゲート』で『レッド・ABYTHEN・カイザー』を超次元ゾーンに!」
歓声が響いた。
これによって博成のマナは0となる。しかし、三体の攻撃可能なクリーチャーが勇騎の最後のシールドを狙っているのだ。
「『アクア・サーファー』でシールドブレイク!『アンタッチャブル』なら、どんなシールド・トリガーでも耐えられる!これで僕の勝ちだ!」
「ならば、ここで例外を見せてやる」
勇騎は最後のシールドを裏向きのまま指でつまみ、自分の目の高さまで持ち上げる。一拍置いた後、表向きにしてそのクリーチャーを召喚した。
「シールド・トリガー『火焔タイガーグレンオー』だ。パワー2000以下の相手クリーチャーを全て破壊する。選ばれない『アンタッチャブル』とて例外ではない!」
観客達がざわめく。『幸運の一ノ瀬』が運で負けているからだ。
絶対的に不利な状況で、博成は勇騎に微笑みかける。それは、まだ彼の心が折れていない証拠であり、自身の勝利を諦めていない事の現れでもあった。
「すごいよ、勇騎君。カードでのデュエルでも強いんだね。でも、僕だってまだ負けていない。最後のシールドに全てを賭けるよ」
「そうか。ならば、俺も全力で攻める!『爆竜GENJI・XX』を召喚!」
勇騎が切り札として召喚したのはスピードアタッカーのドラゴン『爆竜GENJI・XX』だった。これでシールドをブレイクし、とどめを刺せるだけのクリーチャーが揃った事になる。先に『タイガーグレンオー』が動いた。
博成は最後のシールドの中身を見る事なく、その場で表向きにした。そのカードを見て観客はざわめき、勇騎も驚きのあまり一瞬思考が停止した。
「『ホーガン・ブラスター』だよ。最後の最後まで、僕には幸運が味方してくれた!」
博成はデッキを手に持って丁寧にシャッフルした。そしてデッキを置き、祈るような目つきで山札の上のカードに触れる。
「ここで『超次元ブルーホワイト・ホール』が出たら、僕は光のサイキック・クリーチャーを出してシールドを追加する。『アクア・サーファー』が出たら、『GENJI・XX』を戻す。勝ってみせるよ!」
その場にいる全ての者が博成の山札の上を見ていた。それをめくる権利を持った博成は、天を仰ぎながらカードをめくった。観客の声が聞こえた時、博成は全てを悟った。
「『エナジー・ライト』か。一ノ瀬、お前は強敵だったよ」
博成はその言葉を聞いて勇騎を見た。彼の顔の冷や汗が、その言葉が嘘でない事を証明していた。博成には勇気を追い詰めるだけの実力があったのだ。
勇騎は『GENJI・XX』の上に指を置いて宣言する。
「『GENJI・XX』でとどめだ!」
対戦スペースの全てを包むように歓声が響いた。勇騎と博成はそこで初めて周囲を見た。予想以上に多くのギャラリーがいた。対戦していた者も対戦を中断して観戦していた。対戦スペースにいた全ての者がこの戦いに釘付けになっていたのだ。
博成は勇騎に頭を下げる。そして「ありがとうございました」と言った。
「一ノ瀬、それは何だ?」
「対戦が終わったらこういうんだ。僕らのデュエルは『よろしくお願いします』で始まって『ありがとうございました』で終わるんだよ」
それを聞いた勇騎も同じように頭を下げる。彼が「ありがとうございました」と言ったところでデュエルは終わった。

デュエルを終えて十分ほどしてから二人は店を出た。勇騎はすぐに出るつもりでいたが、対戦を見て感動したギャラリーから質問攻めにあったため、出るのに時間がかかってしまった。
店の前の道路を歩きながら博成が言った。
「今のお店は勇騎君と出会う少し前に入ったカード屋さんなんだ。去年の事だよ。覚えてるでしょ?」
「忘れるはずがない。あの時はお前がここまで首を突っ込んでくるとは思っていなかった」
全ては去年のあの時から始まった。ゆかりの指示で東京連続失踪事件の調査をした博成は、戦う力とデッキを持ったデュエリストに狙われ、失踪事件の被害者の仲間入りをするところだった。それを助けたのが、保持者、赤城勇騎だ。
彼を含む五人の保持者と出会い、その戦いを見つめ続けて来た。もう、それも終わろうとしている。
「一ノ瀬、何のために俺を呼び出した」
博成の前を歩く勇騎が聞いた。対戦中も疑問を感じていた彼はそれを友人にぶつけた。
博成は勇騎の背中を見る。いつも彼の後ろから戦いを見ていた。この背中を見ると何が起きても大丈夫だ、と思える。博成は勇騎の全てを信頼していた。
「自信をなくしているのかと思って。勇騎君、アルケーと戦った後から元気がなさそうだったし」
勇騎が立ち止まり、博成も歩くのをやめた。そのまま、話を続ける。
「僕が何をしたら勇騎君を助けられるのかよく判らなかったけれど、何もしないのは嫌だったんだ。だから、デュエルをするしかないと思った。実際に戦ってみて判ったよ。勇騎君は強いんだ。だから、きっと大丈夫」
博成は空を見上げる。厚い雲に覆われた空から白いものが降ってきた。雪だ。
「今までだって大丈夫だったし、これからも大丈夫だと思う。一度のデュエルじゃ何も判らないかもしれないって言うかもしれないけれど、僕自身が信じられたんだ。勇騎君に任せておけばきっと大丈夫だって」
「一ノ瀬」
勇騎は博成を見た。その鋭い目は二人が出会ったその日から変わっていない。
「お前なら、どんな未来を望む?」
唐突で予想外の質問を聞いて博成は戸惑う。しばらく考えた後、彼はこう言った。
「幸せな未来がいい。『球舞』や『試験官』みたいにデュエルで悪い事をする人がいない未来。今日のショップでのデュエルみたいにものすごいデュエルをして、多くの人がそれを見る。デュエルをしている人もそれを見ている人も楽しめるような未来。僕はそんな未来がいい」
「そうか。俺には想像できなかった未来だ。最初からお前に聞けば良かったんだな」
勇騎は納得したような声で呟き、博成に背を向ける。そして、歩き始めた。
「一ノ瀬、俺は今から千秋千里を倒す。戦いが終わるまで仲間を集めて安全な場所に隠れていろ。確か、金城がマンションの地下にシェルターを作っていたはずだ。青海や佐倉、日芽を頼むぞ」
「任せてよ!僕だって男だもん!」
「最後にもう一つ」
勇騎は右手の人差指を立てる。その指先に雪が触れて消えていく。
「今度、デュエルをしよう。今日と同じように、ただのカードゲームのデュエルをする。約束だ」
「判った。約束だよ!」
勇騎は歩き続けて人ごみの中に消えていった。
自分のした事が勇騎にとってプラスになったのか。それは判らない。だが、何の影響も与えなかったとは思えない。
博成は勇騎の勝利を信じて振り返る。そして、歩き始めた。勇騎が言っていたように安全な場所に隠れなくてはならない。彼は戦う力のない仲間が人質になるのを恐れているのだ。
仲間を守る役目を持った博成は勇騎との約束を胸に足を進めた。

夜になっていた。
うっすらと積もった雪は地面を少しだけ白く染めていく。勇騎の足跡だけが黒く残っていた。それは道の色だ。
豪人と同じように、勇騎も迷うことなく千里のマンションに辿り着いた。最上階まで辿り着き、その部屋のドアを開ける。
本日二度目の客人を見た千里は持っていた空のワイングラスを勇騎に向ける。ソファに座り、足を組んだままの姿勢で聞いた。彼の隣にあるテーブルにはワインが置かれている。
「今夜は冷えるね。暖房を入れておいたよ。ところで、何か飲むかい?」
「俺は未成年だ。酒を飲むつもりはない」
「そうか。それが未成年の模範解答か。仕方ないな。乾杯の相手が欲しかったけれど、我慢しよう。全てが終わった後に、一緒に祝ってくれる相手が誰もいないのが残念だ」
ワイングラスをテーブルの上に置いた千里は立ち上がる。足元に置いてあったアタッシュケースを拾い上げ、中身を勇騎に見せる。それを見た勇騎は愕然とした。
「お前……。それをどこで手に入れた?」
「いいものだろう?これは君のライバル、墨川一夜が使っていた『エクスプロード』だ。私の手に最もよく馴染む。これが金城豪人の『ネオウエーブ』。今はこの世界にいないヴェルデが使っていた『グランドクロス』に、怪盗アルケーの『ツナミ』。君の『プロミネンス』を入れて五つだ。究極のデッキが全てこの場に揃った!今から私達はこの五つのデッキを手に入れるために戦うのさ。君が勝ったらここにある四つのデッキは君に渡そう。私が勝ったら君の『プロミネンス』を貰う。君相手に使うのはこれにしよう」
千里は『エクスプロード』を取り出してアタッシュケースを閉じた。ゆっくり立ち上がり、勇騎を見る。余裕のこもった眼差しだった。
「何故、私がこの四つのデッキを入手できたか教えてあげよう。『エクスプロード』は意味と墨川一夜が戦った場所で部下が見つけてくれたんだよ」
「あの時、火を放ったのはお前の部下だったのか!」
「そうさ。『ネオウエーブ』は金城豪人を倒して手に入れた。そして、『ツナミ』と『グランドクロス』は自分で探したんだ。君がここに来る前に見つかって良かったよ。判りやすい場所に隠してあったから見つけるのは簡単だった」
勇騎はもしもの時のために『ツナミ』と『グランドクロス』を隠していた。隠し場所は『球舞』が使っていた研究所の跡地だ。埃がたまっていて誰も入らないようなところだった。そこには不完全なデッキが大量に捨てられていた。乱雑に置かれていたそれらのデッキの中に二つのデッキを隠したのだ。そこから見つけるのは容易な事ではない。
それを成したのは千里の執念か、それとも彼が持つ恐るべき力のせいか。勇騎の行動を部下に見張らせていたのかもしれない。その真意は判らないし、興味もない。
勇騎は何も言わずに『プロミネンス』を取り出した。いくつもの戦いを支えて来た相棒は主の想いに応えるように赤く輝く。
「君はせっかちだな。戦う前に面白いものを見せてあげるから少し待つといい」
千里が指を鳴らすと彼の背後に白いスクリーンが降りて来た。どこかの風景が映る。それは豪人の住むマンションの前だ。灰色のデッキを持った者達が大勢集まっている。その連中が通るのを防ぐように博成が両手を大きく広げて立っていた。
その光景を見て勇騎は思わず声を荒げた。
「一ノ瀬!何をしている!お前も逃げるんだ!」
勇騎の本来の予定では博成達はマンションの地下にあるシェルターに避難しているはずだった。それは四人にメールで指示を出している。全員から了解のメールが返ってきた。
それなのに、博成はこうして出てきている。
「気合いや根性で何とかなると思っているらしい。賢い君とは大違いだ」
「黙れ……」
勇騎が震える声で言った。彼の双眸は千里を見ている。鋭い瞳で射抜かれた千里はおどけたような表情で言った。
「友人を馬鹿にされたのが気に入らないのかい?何もできない凡人だ。君と釣り合うわけがない。人質としての価値はあるみたいだけどね」
「一ノ瀬は只の凡人じゃない。かけがえのない俺の仲間だ!」
「君らしくない答えだな」
千里は静かな声で笑うと一歩、前に出た。
「この世界に来る前の戦士だった君はどこに行ったんだい?今の君は無個性な正義の味方のような言葉を吐いている。これもまた、余興かな?」
世界が戦うための世界へと変わっていく。勇騎の呼吸が、息のリズムが怒りを燃料にして戦うためのエネルギーを生み出していく。
「勝負だ、千秋千里。お前に真実を見せてやる」
「ならば私は、答えを君の前に晒してあげよう。残酷で強固で確実な答えを!」

第三十五話 終

最終話予告
かつて、東京連続失踪事件というものがあった。人々が恐れていた事件を人知れず解決する者がいた。強力なデッキを持ち、悪を打ち倒して行く者達。その者達の名は『保持者』。保持者は次々と現れる敵と戦い、いくつもの悪に勝利してきた。
「約束を果たしに来た」
これは、私、一ノ瀬博成が見た保持者の決闘の記録である。
最終話 勇騎
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