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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第一話 生徒会はほんのり塩味!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

第一話 生徒会はほんのり塩味!

四月某日。
私立無双竜機学園高校の入学式が終わって三十分ほど経った。この高校に入学したばかりのピカピカの一年生、一ノ瀬(いちのせ)タダオは、目を光らせ顔を輝かせて目的の教室を探していた。彼が目指しているのは生徒会室だ。
彼の頭の中には生徒会役員となって立派に働く自分の姿が浮かんでいた。人のために何かができる人間。それが、タダオの理想の人間だ。その理想と現実を近づけるためには、生徒会に入るしかない。そう結論づけたタダオは入学前から生徒会に入ると決めていた。
「確か、この辺りで間違っていないはずだけど……」
無双竜機学園の生徒数は多い。それに比例して校舎も大きくなっている。三階ということまでは判っていたが、三階のどこにあるのかは判らない。
「おい、そこのお前」
生徒会室を探して周囲を見ていると、声をかけられる。少女のものらしい高い声だ。タダオは声の主を見つけた後、「えっ?」という顔で彼女を見た。
無双竜機学園の制服であるブレザーに身を包んだその少女の頭には巨大なチェックのリボンが載っていた。キャンディの包み紙のような形状のリボンを含めても身長は百四十に満たない。
タダオは視線をリボンから下に向ける。その顔はリボンが似合うような幼いものであり、高校の校舎には合わないようなあどけなさを持っていた。髪は栗色のツインテールだ。そして、顔からこぼれ落ちそうな大きな二つの目がタダオを見ていた。
「人を見て驚くとは失礼な奴だお。お前、こんなところで何をしているんだお?」
「何って……、生徒会室を探しているんです。僕は一年になった一ノ瀬タダオです!生徒会に入りたいんです!」
「へ~、生徒会に入りたいなんておかしな奴だお」
目を輝かせて自分の目的を語るタダオに対して、少女は呆れたような目をしていた。そんな目でタダオを見ていたが、少女は彼の上着の裾を引っ張ると
「ついてくるといいお。生徒会室の場所、教えてやるお」
と、言った。
「助かります!ありがとうございます」
タダオは素直に少女の後についていく。
少女に連れられて三分ほどで生徒会室についた。三階の一番奥にあった生徒会室の扉は、普通の教室のようなスライド式のドアではなく、会社のオフィスの会議室にあるようなドアだった。
「ダイゴ~、生徒会にお客さんだお~」
少女はノックせずに、まるで家のドアでも開けるように気軽にドアを開けて中に入る。
続いてタダオも生徒会室の中に入った。
「失礼します!」
「うるさい!」
「ひっ!すみませ……、うわぁっ!」
怒鳴られると思わなかったタダオは、横から聞こえた声に驚いて腰を抜かす。声がした方を見て、もう一度驚いた。
「俺は、うるさいと言ったんだぞ。その口を閉じろ」
生徒会室の隅にいたその少年はタダオを睨みつけてそう言った。おかしな少年とおかしな空間がそこにあった。
短く切った黒髪が似合う和風の顔立ちの少年だ。背も高く均整の取れた体つきをしていた。鋭い目つきをしていて、道を極めた格闘家のようにも見える。
おかしいのは顔ではなく、彼の服装、行動、そして足元だ。生徒会室の中で彼は紺色の作務衣を着ている。彼の周りは六畳の畳が敷かれていた。周りの床はリノリウムだ。ここだけ和風の空間が作られている。
畳の上でその男は白い紙に向かって筆を突き立てた。
「静かにしてくれないと集中できねえんだよ」
「すみませんでした……」
タダオの謝罪を聞くと、男は紙の上で筆を滑らせていった。
「こいつは、三年の闘魂堂(とうこんどう)テツノスケだお」
タダオの横で少女が説明する。
「書道部の人なんですか?」
タダオは小声で少女に聞いた。
「いや、テツノスケは有名な書家の息子だお。テツノスケ自身もプロとして活躍していて本も出しているくらいだお。この学校の中で字を書くのが一番うまいのはこいつだお」
「よし、できた!さっきは怒鳴って悪かったな。これを見てくれい!」
字を書き上げたテツノスケは額の汗をぬぐうと、タダオと少女に目を向ける。そして、書いたばかりの字を見せた。
「あ、あの……、それって……」
「どうだ!自信作だ!」
書道などまったく判らないタダオでも、その文字が達筆ですばらしいことくらいは理解できた。だが、満面の笑みでテツノスケが見せた文字は『巨乳』だった。
タダオが反応に困っていると、テツノスケは
「ああ、判ってる判ってる。お前の言いたい事はぜ~んぶ判っている。まだ柔らかさとか包み込むような優しさとかたゆんとした感じとかぷるんとした感じとかが足りない。そう言いたいんだな」
と、聞いた。
「いや、その……」
「皆まで言うな!自分でも判っているんだ。俺達男子生徒の求める『乳』はこんなもんじゃねえ。もっと美しく気高いものだってな!ぐえっへっへ」
戸惑うタダオを無視して、テツノスケは一人で断言している。そして、自分の思い描く何かを妄想して口の端からよだれをたらした。
「とりあえず、これは壁に貼っておこう」
テツノスケは書いたばかりの『巨乳』の文字を壁に貼り付けた。タダオが壁を見ると、畳の周りの壁には『巨乳』と達筆で書かれた紙が大量に貼ってあった。全て達筆で芸術的だった。
「あ、あれが、書道のプロ……、ですかぁ?」
タダオは困ったような顔で少女に助けを求めた。テツノスケは大きく伸びをすると二人に近づく。
「ところでワンコ。こいつ、誰だ?」
「入学したばかりなのに、生徒会に入って道を踏み外したいって言ってる哀れでクレイジーな男子生徒だお。人手は多いに越したことはないから、連れてきたんだお」
「え~、俺は男じゃなくて巨乳美少女がいいぜ」
「諦めるお。まともな人格の人間は生徒会には入らないお」
「しょ~がね~な~。よろしく、俺は闘魂堂テツノスケだ」
明らかに覇気のない顔でテツノスケは手を出す。
「一ノ瀬タダオです。よろしくお願いします」
それを見てもタダオは笑顔でテツノスケが出した手を握った。
「ワンコはワンコだお!」
「お前、その自己紹介じゃ判らないだろう。こいつは、二年のワン・チャン。中国系のアメリカ人だ。本人が『ワンコ』って呼ぶように言っているから、そう呼んでやれ」
「よろしくお願いします。ワンコ先輩」
「よろしくしてやるお、タダオ。ところで、ダイゴはどこだお?」
ワンコの質問に対して、テツノスケは窓側を指すことで答えた。ワンコとタダオが見ると、そこには高級そうな艶のある木製のデスクの上にコンピュータを置き、立派な椅子に座った男の姿があった。
流れるような銀色の長髪に、芸術的な彫刻を思わせる顔立ち。コンピュータの画面を眺めながら、何か考えている仕草だけでも絵になる美少年だ。
美少年は椅子に寄りかかり、静かに溜息を吐いた。
「お疲れさん」
テツノスケが大きめの茶碗を渡す。中には抹茶が入っていた。
「サンキュ、テツノスケ。メールで仕事の内容は送っておいたが、また後で会社に顔を出すことになりそうだ」
高校生らしからぬ言葉が美少年の口から洩れる。それを聞いても、タダオは驚かなかった。彼の存在と功績を知っていたからこそ、この学校のこの生徒会を選んだのだ。
学外でも有名なこの男の名は極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。現役の高校生でありながら、いくつもの子会社を傘下に持つ巨大企業グループ、極神寺グループの総帥でもあるのだ。
極神寺グループは日本人なら知らない者はないと言われるほどの有名な大企業だ。日本だけでなく世界でも五本の指に入るほどの大企業で、学生の就職したい会社のランキングの上位に入っている。数年前に業績が悪化したが、その時にグループ全体を立て直したのが極神時ダイゴだ。
茶碗を置くと、美少年はタダオを見た。
「ダイゴ、生徒会の生贄になりに来た一ノ瀬タダオだお」
「生贄とか物騒な言い方をするな。君は新入生か」
「は、はい!今日、入学したばかりの一ノ瀬タダオです!生徒会に入りたいと思っています!」
ダイゴと呼ばれた美少年に見られて、タダオは背筋を伸ばして答える。緊張のせいか、体と声が震えた。
「俺が生徒王にして生徒会長の極神寺ダイゴだ。早速だが、生徒会への入会試験だ。一ノ瀬タダオ、お前に問う」
ダイゴは立ち上がると、二つの目でタダオを見つめる。その顔に真剣な表情が浮かんでいた。『生徒王』という聞き慣れない単語について質問することさえためらわれる緊張感が空気中に溶け込んでいた。
タダオが口の中に溜まった唾を飲み込んだ時、ダイゴは言った。
「アニメヒロインだったら、誰を嫁にしたい?」
「……はい?」
タダオは自分の体の中からありとあらゆる力が抜けて目が点になっているように感じた。今の言葉が何かの聞き間違いではないかと考えて頭を働かせる。だが、何の聞き間違いなのか判らない。
「だから、アニメヒロインだったら誰を嫁にしたいかと聞いているんだ。『俺だー!結婚してくれー!』とか『こいつは俺の嫁!』とか宣言したい相手はいないのか?」
「普通はいないと思うお」
「俺、巨乳のキャラだったら大抵オーケーだぜ。一人と言わずに何人でも来い!」
ワンコもテツノスケもダイゴに合わせて話を進める。それを聞いて、タダオは自分の耳に入った情報が聞き間違いでないことを理解した。理解して混乱した。
「な……、何なんですか、この質問は」
「おもしろくない反応だな。緊張しているのか?俺だったら、そうだな……」
ダイゴが顎に手を当てて考えていると、大きな音を立てて扉が開いた。扉が壊れるのではないかと思うような音だ。
その音と共に、体の大きな男子生徒が入ってくる。肩を怒らせて入って来たその男子生徒は坊主頭でゴリラのような顔をしていた。一目で判る怒りに満ちた表情の男だった。関わり合いになりたくない。
「極神寺、これはどういうことだ!」
男は大股でダイゴの前まで来ると、デスクの上に一枚の紙を叩きつけた。ダイゴは紙の内容を見ずに男の顔を見たまま
「そこに書いてある通りだ。野球のし過ぎで日本語が読めなくなったか?ワンコにゴリラ語の通訳でも頼むか?」
と、挑発した。
「ワンコ、ゴリラの言葉は通訳できないお」
「ふざけるな!何で、野球部が活動停止なんだ!」
挑発を受けた猿渡は顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。あまりの迫力にタダオが倒れてしまいそうなるくらいだった。
「猿渡(さるわたり)、注意したはずだ。野球部の部長がお前になってから部員に対して厳しすぎるという意見が出ていた。それが改善されなければ、野球部の活動を停止にする。生徒会で決まったことだ」
「厳しくねぇ!あれで根を上げる奴は根性が足りないんだ!」
「休みもなく、夜遅くまでハードな練習をさせておいて何を言うのかと思ったら根性論か。お前は上に立つ男ではないな」
ダイゴはゆっくり生徒会室の扉に向かって歩く。開いた出入り口の前まで立つと、振り向いて猿渡を見た。
「来い。俺の意見が正しいか、お前の意見が正しいかこれで決める!」
彼は右手にカードの束のようなものを持っていた。それを見て猿渡の目の色が変わる。
「いいぜ。根性でぶっ潰してやる!」
「筋肉馬鹿に知性ってものを見せてやるよ。とぅっ!」
ダイゴは脚に力を入れて助走する。そして、開いていた窓から飛び降りた。
「ええっ!何してんですか!」
驚いたタダオはすぐに窓に駆け寄り、下を見た。校庭に落ちたはずのダイゴは無事だった。二本の脚でしっかり地面に立っていた彼は、こちらに気付いたのか上を見て呑気に手を振っている。
「嘘……、ここは三階ですよ」
「ダイゴにはよくあることだお」
「行くぞ、新入り。校庭でダイゴのデュエマが始まる!」
ワンコとテツノスケがタダオに声をかけると、階段に向かって走り始めた。
「くそっ!絶対に叩き潰して判らせてやる」
恐ろしい形相をした猿渡もそれに続いた。下で何かが起こるということだけを理解したタダオも彼らを追った。

校庭には多くの生徒がいた。
生徒達はダイゴのやることに慣れているらしく「会長がまたデュエマするみたいだぜ」「今度は誰が戦うんだ?」「せっかくだから俺は会長に賭けるぜ!」と言った声が聞こえる。
多くの生徒の中央にダイゴと猿渡がいた。生徒達は彼らを囲むように、ドーナツ状になって集まっていた。
ダイゴと猿渡は十メートル近く離れていた。それだけ距離を置いたことに、タダオは疑問を抱いた。
「生徒達も集まったな。入学式だから少ないかと思ったが、部活中の生徒が多くいたみたいだ。これだけいれば充分だ!」
ダイゴは生徒達を見て高らかに叫んだ。
「皆の衆!俺が生徒王にして無双竜機学園高校生徒会長、極神寺ダイゴだ!今から生徒王の名において、この男を断罪アンド処刑する!処刑の方法はデュエル・マスターズ、つまり、デュエマだ!」
それを聞いて生徒達から歓声が沸き起こる。タダオは驚いて周囲を見た。
「いいんですか?会長、処刑とか言っちゃってますよ?」
「気にすんなお。処刑なんて言っても口だけだお。デュエマで猿渡をやっつけるだけだお」
「デュエマなら、腕力は関係ないからな。知力とセンスと運の勝負だから平等だ。ウチの学校では揉め事があると、これでケリつけてんだよ」
驚き、怯えるタダオを見てワンコとテツノスケが説明する。
「処刑だとか勝手なこと言いやがって!俺が勝ったら野球部の活動を再開させてもらうぞ。あと、俺の練習内容に口は出させない!」
「よかろう。俺に勝ったら好きにするがいい。聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
ダイゴが叫ぶと、彼の頭部に金色の王冠が現れた。そして、肩からは赤い色をした長いマントが現れる。ダイゴは満足したようにマントを広げると「ハーハッハ!」と大声で笑った。
変化したのはダイゴだけではない。
王冠とマントが現れたのと同じように、彼の背後に椅子が現れた。ただの椅子ではない。西洋の国王が座るような赤い立派な椅子だ。ダイゴはそれに腰掛けて脚を組むと指を鳴らす。すると、今度は彼の前に大きなテーブルが現れた。純白のテーブルクロスがかけられた高級感のあるテーブルだ。
床には真っ赤な絨毯が敷かれている。そして、いつの間にかダイゴの頭上には綺麗なシャンデリアが浮かんでいた。
「な、何が起こったんですか?魔法ですか、あれ?」
タダオは混乱した顔で隣にいるテツノスケとワンコを見た。
「魔法なんかじゃねぇよ。聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)は、この学校にいる奴の一部の人間が使える能力だ。自分と半径五メートル以内の空間に変化をもたらすんだ」
「使えるのは強い想いを持った人間だけだお」
「へぇ~、さすが極神寺グループの総帥ですね。あんな魔法みたいなことができるなんて意思が強いからなんですね」
「ちなみに、ダイゴが聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を生み出すのに使っている想いは性欲だお」
「はい?せ、性欲?」
「そうだ。二次元の女にモテたい。現実の女なんか勘弁だ、という想いから生み出されているんだ」
「な、なんてくだらない……。極神寺グループの総帥なんだから、二次元なんかじゃなくて現実の女性にモテるんじゃないんですか?」
「あいつにも色々あるんだお」
「……訳が判らないですよ」
タダオは理解することを放棄した。何も考えずにダイゴと猿渡を見る。
「準備はできたぞ。お前もフィールドを発動させろ」
「ぬおおおーっ!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
猿渡もダイゴと同じように聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させた。
彼の変化は普通だった。服装が野球部のユニフォームになり、足元には野球のベースが置かれただけだ。目の前に現れた机も、どの学校にもあるような普通の机である。
「猿渡。お前のフィールドは遊び心が足りないな」
「うるさい!俺の野球への想いが溢れたフィールドだ!」
猿渡は机の上に自分のカードの束、デッキを叩きつける。対して、ダイゴは流れるような優雅な手つきでテーブルの上にデッキを置いた。
山札の上のカード五枚が裏向きのままテーブルの上に並べられる。すると、ダイゴと猿渡の前にカードを拡大したような五枚の壁が現れる。両面にカードの裏側に描かれていたような銀色の龍の絵が描かれていた。
「あれは、一体、何なんですか?」
「お前、デュエマを知らねえのか。あれはシールドって言ってそれぞれのプレイヤーの体を守る盾みたいなもんだ」
「五枚のシールドを破って相手を直接殴った方が勝ちだお。殴るって言っても、素手で殴るんじゃないお。見てれば判ると思うお」
二人に解説されて、タダオは戦いの場に目を向ける。二人の対戦者はシールドとして置いたカードとは別に、五枚のカードを引いて手元に持っていた。
「俺から行くぞ!光含む2マナをタップして、《光陣の使徒ムルムル》を召喚!」
手に持っていたカードを先に使ったのはダイゴだった。場に黄色いカードを置くと、丸いムール貝のような生物が現れる。
「あれがそれぞれのプレイヤーが操るクリーチャーだ。相手のシールドを殴ったり相手のクリーチャーを殴ったり相手の攻撃から身を守ったりするのに使うぜ」
「シールドのない相手を殴るのにも使うお。ダイゴが出したのはブロッカーだから攻撃を受け止めるだけでシールドへの攻撃はできないんだお」
「へぇ……、色々あるんですね」
説明を聞いたタダオの頭は混乱していた。それでも、メモ帳に書き込みをして覚えようと努力している。
「今日は生徒会に入ろうとしている新入りが見ているからな。生徒王の力を全力で見せつけてやるぞ!」
「黙れ!根性の速攻で邪魔なブロッカーなんか踏み潰してやる!」
猿渡も二枚のカードをタップしてクリーチャーを出した。青と赤紫の毛の色の猫のようなクリーチャーだ。
「《熱湯グレンニャー》だ。これでドロー!」
「手札を増やしてきたか。基本を忘れるほど馬鹿でもないようだな。だが、お前の戦い方にはセンスが足りない」
ダイゴは場に二体目のクリーチャーカードを置く。その直後、《ムルムル》の横に金属でできた鳥のようなクリーチャーが現れる。鳥のクリーチャーの頭部のクリスタルから青い光の輪がいくつも飛び出して《グレンニャー》の体に飛び付いた。光の輪は《グレンニャー》の脚を拘束する。
「3マナタップして《束縛の守護者ユッパール》を召喚した。場に出した時の能力で《グレンニャー》をタップ。そして、《ムルムル》で攻撃だ!」
《ムルムル》はその場で跳躍すると、《グレンニャー》にのしかかる。潰された《グレンニャー》は泣き声と共に青と赤の光を発して消えていった。
「くそ!俺の《グレンニャー》が!」
「速攻と言っていたな。攻撃する前にクリーチャーを消してしまえば速攻はできまい」
「なめるなよ!《青銅の鎧(ブロンズ・アーム・トライブ)》を召喚!出した時の効果でマナを増やすぞ!」
猿渡の二体目のクリーチャーは槍を持った緑色の獣《青銅の鎧》だった。召喚直後に彼は自分の山札の上のカードを一枚つかむと、自分のマナゾーンに置いた。
「テツノスケ、あいつ出た時の能力を持つクリーチャーばかり使ってるお」
「出た時に仕事する奴を使えばクリーチャーを出すのと後半のための準備が両方できるからな。一挙両得って奴か」
テツノスケの言う通りだった。
猿渡のクリーチャー《グレンニャー》と《青銅の鎧》はどちらも場に出した時点で一つの仕事を終える。さらに、場に残った後はシールドへの攻撃という仕事を行う。考えられた戦い方だった。
「出た時の効果を効率よく使う。判っているようだな。それを野球部で活かせばいいものを……」
ダイゴは山札の上のカードを撫でると長い指でそれを引く。それを見たダイゴは今まで持っていたカードと混ぜた。
「マナに置くのはこれ。そして、俺は3マナをタップして《エナジー・ライト》を唱える!」
ダイゴが青いカードを置くと、彼の右手が青く光った。その手に吸い寄せられるように山札の上のカードが二枚、ダイゴの右手に飛んでいく。彼はそれを手札にくわえた後、使用後の《エナジー・ライト》を墓地に置いた。
「あれは呪文カードだお。呪文はクリーチャーと違って場に残らないけれど、場に出た時に仕事をするクリーチャーよりも強力な効果があるんだお」
「確かに、今まで猿渡さんが使っていたカードに比べると増えたカードの数が多いですね」
猿渡の《グレンニャー》も《青銅の鎧》も増やしたカードは一枚だった。《エナジー・ライト》の方が多い。
「これで終わりではないぞ、猿渡!《ユッパール》でシールドを攻撃!」
ダイゴは猿渡を守る五枚のシールドを見た。そして、右端の一枚を指す。《ユッパール》は羽根を広げて浮遊し、そのシールド目掛けて突っ込んだ。体当たりを受けたシールドはガラスのように割れて砕けていく。
「すごい!先制攻撃は会長ですよ!あの《ユッパール》とかいうのであと五回攻撃すれば勝ちじゃないですか!」
「そんな簡単には行かないのがデュエマなんだお」
猿渡は破られたシールドのカードを見ると、口の端を上げて笑った。それがいいカードだったというのは誰が見ても判る。
「お前の攻撃は失敗だな、極神寺!マナをチャージ!そして、お前がブレイクしたシールドに入っていたこの呪文を使う!」
猿渡は自分が持っているマナのカードを全てタップして赤いカードを置いた。それと同時に、ダイゴの《ムルムル》が炎の渦に包まれる。
「この感覚……、超次元呪文だな!?」
「その通りだ。《超次元ボルシャック・ホール》。この効果で《ムルムル》を破壊してこいつを出す!」
炎の渦を突き破って巨大なドラゴンが飛び出して来た。その赤いドラゴンは空に向かって吠える。
「呪文からクリーチャーが出てきましたよ!どうなってるんですか!?」
「あれは超次元呪文だ。普通の呪文の効果に加えてサイキック・クリーチャーという特殊なクリーチャーを呼び出すことができる」
「あれが、サイキック・クリーチャーなんですか?超強そうですよ……」
タダオは怯えた目で赤いドラゴンを見ていた。場に現れたのは《時空の火焔ボルシャック・ドラゴン》だ。その横をすり抜けて《青銅の鎧》が槍でダイゴのシールドを貫いた。
さすがにダイゴもまずいと思ったのか真剣な目で《ボルシャック・ドラゴン》を見ている。ドローしたカードを合わせて手札を吟味した後、溜息を吐いた。
「今の俺じゃ、《ボルシャック・ドラゴン》を倒せない。5マナをタップして《光線の精霊カチャマシグ》を召喚。ターンを終える」
一体のブロッカーを召喚しただけ。そんなダイゴの行動を見て、猿渡は大きな声で笑った。
「守りに入ったか。そんな臆病者が、俺の根性に勝てるはずがない!まずは、《エナジー・ライト》でドロー。準備は整った。やれ!《ボルシャック・ドラゴン》!」
《ボルシャック・ドラゴン》は足音を立ててダイゴのシールドに近づく。それを見て《カチャマシグ》は何もせずに道を譲った。《ボルシャック・ドラゴン》は右腕で一枚のシールドを貫き、左手で一枚のシールドを切り裂いた。これでダイゴのシールドは残り二枚だ。
「あ……、あのクリーチャー、シールドを二枚も壊しちゃいましたよ……。何なんですか!」
「あれがW・ブレイカーだお。でかいクリーチャーの中にはシールドを二枚以上ブレイクできる奴もいるんだお」
ダイゴは《ユッパール》で一枚しかシールドをブレイク出来ていない。半分以上のシールドを失ってしまったダイゴが不利だ。それはデュエマを初めて見るタダオにも理解できた。
「そんな恐ろしい攻撃だって判ってるなら、何で《カチャマシグ》でブロックしないんですか!それに、《ユッパール》だって攻撃できたのに攻撃してないし……」
「そう言うな。《時空の火焔ボルシャック・ドラゴン》は攻撃時に墓地にある火のカードの分だけパワーが増える。墓地に《グレンニャー》と《ボルシャック・ホール》があるから、火のカード二枚で2000プラスされる」
「それに《ボルシャック》はバトルに勝つと覚醒してより強力な姿に変身するんだお。前のターンで《ユッパール》で攻撃してたら、タップされた《ユッパール》が攻撃されて覚醒させちゃうし、《カチャマシグ》でブロックしてもバトルで負けて覚醒させちゃうんだお」
「そうだったんですか……。どっちにしても絶体絶命ですよ!」
「そんなことはねえよ。あいつの戦いをよく見てな」
二人の先輩達はダイゴを信じているようだった。この危機でも冷静だ。
「それに、ダイゴが負けたらそれはそれでおもしろいお」
「その時は、一週間からかい続けてやるか」
「ひどいですよ!」
ダイゴが負けた時の相談をするワンコとテツノスケの顔は笑顔だった。邪悪なオーラが漂う恐ろしい笑顔だ。
「どうだ。お前に《ボルシャック》が止められるか!気合いと根性の勝利だ!」
「笑わせるな」
ダイゴは低い声で答えた。顔に邪悪な微笑を浮かべてカードを引く。引いたカードを確認した後、即座に行動に移った。
「かかったな、猿渡!《ムルムル》を一体召喚!さらにもう一体《ムルムル》を召喚する!」
「し……、しまったぁ!」
猿渡の顔から余裕が消え、青ざめていく。
「《ムルムル》一体につき、ブロッカーのパワーは3000プラスされる。《カチャマシグ》のパワーはこれで12000!そして、ブロッカーが三体揃ったから攻撃可能になった!《ボルシャック》のパワーアタッカーによるパワーの増加は攻撃時のみ!今の無防備な《ボルシャック》など《カチャマシグ》の敵ではない!《カチャマシグ》で《ボルシャック・ドラゴン》を攻撃!」
《カチャマシグ》の紫色のクリスタルから一条の光線が発射される。それを全身に浴びた《ボルシャック・ドラゴン》は黒い灰になっていった。
「くそ!俺の《ボルシャック》が!」
「おまけだ。《ユッパール》でシールドを攻撃!」
すかさず《ユッパール》が動き、シールドに体当たりする。これで猿渡のシールドは三枚になった。
「くそ……。なら、数だ!《超次元フェアリー・ホール》で《時空の喧嘩屋キル》二体を!」
新たな超次元呪文によって猿渡の場に二体の人型クリーチャー《時空の喧嘩屋キル》が並んだ。《青銅の鎧》を含めたら三体だ。
だが、それを見てもダイゴは動じない。その動きを想定していたかのように迷わずに動く。
「無駄だ!無駄無駄!《反撃のサイレント・スパーク》!猿渡のクリーチャーを全てタップ!」
眩(まばゆ)い光を発して、ダイゴが出したカードが場を照らす。その光を受けた猿渡のクリーチャーはその場に倒れてしまった。
「我武者羅(がむしゃら)にやるだけのお前に俺は倒せん。必要なのは気合いと根性だけではない。冷静で緻密な判断力とコントロールだ」
「うるせえ!勝つのに必要なのは気合いと根性だ!部員だっていつかきっと判ってくれるはずなんだ!」
「果たしてそれはどうかな?お前の周りを見るがいい!」
「何ぃ!?」
熱くなっていた猿渡は周りに目を向けた。彼の周りで観戦しているのは野球部員ばかりだ。同じ部の仲間なのに、誰も猿渡を応援していなかった。
「あれはお前のかわいい部員達だ。だが、誰ひとりとしてお前を応援してはいないぞ?」
「いいぞ、会長!」
「部長なんか負けちまえ!」
それどころか、野球部員の口から出るのはダイゴへの応援と猿渡への罵声だった。それを聞いて猿渡は戸惑う。
「猿渡、聞け。これがお前の気合いと根性を受け入れなかった者達の声だ。お前の大好きな気合いと根性の大切さは伝わらなかったようだな」
「畜生。そんな馬鹿な……」
「これが現実だ。《ムルムル》二体!そして《カチャマシグ》で猿渡のクリーチャーを滅ぼす!」
《ムルムル》が《キル》にのしかかり、《カチャマシグ》の光線が《青銅の鎧》を焼いて行く。これで猿渡のクリーチャーは全滅した。
「こいつを忘れてはいないな?《ユッパール》でシールドをブレイク!」
猿渡のシールドが残り二枚になった。これで二人のシールドは同じ数になった。クリーチャーが並んでいる分、ダイゴの方が有利である。
「会長って悪い人なんですか?これじゃ、悪役ですよ!」
「黙って見てるお」
「あいつは馬鹿だが、考えもなしに言うような奴じゃねえよ」
タダオは心配そうな顔で場を見た。ダイゴは腕を組み、得意げな顔で猿渡を見ていた。まるで悪役のような表情だ。
「そう言えば、俺が勝った時の条件を提示していなかったな。今から、考えさせてもらうぞ」
それを聞いた猿渡が目を見開く。そして、早口でまくし立てた。
「極神寺!俺はどうなってもかまわない!だが、野球部の連中に迷惑がかかるようなことだけはやめろ!」
「それが人に頼む態度か?決めた。俺が勝ったら野球部を廃部にしよう」
「何ーっ!」
周りにいた野球部員達は憤慨した。「ふざけるなー!」「勝手にそんなこと決めるな!」という怒声をダイゴに浴びせる。
それを聞いたダイゴは彼らを見ながら首をかしげた。
「どうした、野球部員達よ。何故、怒る。部員が部長を嫌っていてまともな活動もできない状態になっている部活だ。滅んで当然であろう?」
「何が、滅んで当然だ……!」
猿渡の体が震える。低く怒りのこもった声が彼の口から吐き出された。
「野球部は俺の青春。俺の思い出。俺の命だ!高校生活の全てを捧げてきた野球部を、お前の気まぐれなんかで潰されてたまるか!」
彼の目に再び、闘志が戻る。ダイゴのコントロールに怯えていた彼はもう、そこにはいなかった。
「部員達に嫌われたとしても、見捨てられたとしても、俺は野球部の部長だ!お前に勝って絶対に部を守る!」
「部長、がんばって下さい!」
「会長なんかに負けるなー!」
やる気になった猿渡を見て、野球部員達の気持ちが一つになった。全員が猿渡を応援している。
野球部員だけではない。彼らに賛同して、周りの生徒も野球部と猿渡の応援を始めた。
「さっきまで部長の負けを祈っていた連中の態度とは思えんな。いいだろう。人の不幸は蜜の味。猿渡を倒し、野球部を廃部にしてお前達を不幸にしてやる。さあ、最悪を想像して絶望するがいい!」
「俺のことを応援してくれる部員達のためにも負けねぇーっ!」
野獣の咆哮のように猿渡は吠えた。だが、手元にあるカードで状況を逆転することはできない。それでも、今よりも良い状況を作り出すために行動を始めた。
「《ボルシャック・ホール》で邪魔な《ユッパール》を焼き殺す!そして、《レッド・ABYTHEN(エビセン)・カイザー》を出す!」
《ボルシャック・ホール》によって生み出された炎の渦が《ユッパール》を焼きつくしていく。これで、ダイゴの攻撃可能なクリーチャーは《カチャマシグ》だけとなった。
さらに、炎の渦から赤いドラゴンが生み出される。《ボルシャック・ドラゴン》とも違うそのドラゴンの名は《レッド・ABYTHEN(エビセン)・カイザー》だ。
「さっきとは別のサイキック・クリーチャーのドラゴンですね」
「さっき出した《ボルシャック》に似たようなもんだ。パワーが6000のW・ブレイカー。ただ、パワーアタッカーと単体での覚醒がないってだけ」
「でも、《エビセン》は《ボルシャック》にはない特徴を持っているんだお。ダイゴの持っているカードの効果で《エビセン》を選ぶとダイゴのマナが全部ボーンと消えてしまうんだお!《ユッパール》みたいなのでも選べないから大変だお」
「げげっ!どうやって倒すんですか、そんなの!」
タダオは驚いた目で《レッド・ABYTHEN・カイザー》を見ていた。選ぶことで相手にリスクを与えるクリーチャーなど、どうやって戦えばいいのか判らない。
「《エビセン》を攻撃したりブロックしたりはできるお。ダイゴがブロッカーでどう守るか、腕の見せ所だお」
タダオは心配していたが、ダイゴは《エビセン》の存在を気にしていなかった。くだらないものでも見るような目でそのクリーチャーを見て、鼻で笑う。
「《エビセン》か。厄介な奴だが、今の俺の敵ではないな。《エナジー・ライト》で二枚ドロー。《カチャマシグ》でシールドを攻撃!W・ブレイカーだから、お前のシールドはゼロだ!」
《カチャマシグ》のクリスタルから紫色の光線が発せられた。極太の光線は二枚のシールドを一気に焼き尽くしていく。猿渡を守っていた壁がこれで消えてしまった。
「うわぁーっ、部長ーっ!」
見ていた野球部員達が頭を抱える。猿渡も無念そうな顔でブレイクされたシールドのカードを見た。その二枚目を見た時、空気の流れが変わった。その場にいる誰もが、何かが起こる予兆を感じていた。
突然、猿渡は手元に戻ったシールドのカードを投げつける。同時に、場にサーフボードに乗った青い人型のクリーチャーが現れた。
「シールド・トリガー!《アクア・サーファー》だ!出した時の能力を使う。消えろ、《カチャマシグ》!」
サーフボードの先から青い光が発せられる。その光を浴びた《カチャマシグ》の姿が消え、《カチャマシグ》のカードがダイゴの手元に飛んでいった。
「突然、クリーチャーが出てきましたよ。あれは何ですか?」
「シールド・トリガーだ」
「シールド・トリガーは逆転のカードだお。ブレイクされたシールドがシールド・トリガーのカードだったらタダで出したり使ったりできるんだお」
「《アクア・サーファー》は場に出した時にクリーチャーを一体手札に戻す能力を持つ。三体の中から《カチャマシグ》を選んだか」
《カチャマシグ》はダイゴのクリーチャーの中で唯一、攻撃が可能だったカードだ。二体の《ムルムル》ではクリーチャーへの攻撃しかできない。
だが、二体の《ムルムル》のせいで猿渡のクリーチャーの攻撃が阻まれるのも事実だった。まだダイゴが有利だ。
「俺の《カチャマシグ》を戻したか。負けるのが少し後になっただけだな。俺にはまだ二体の《ムルムル》がいる。これでお前の攻撃など受け切ってやろう」
「確かに《ムルムル》二体は手強い。だが、それだって今の俺なら何とかなる!何とかしてやる!」
「強がるな、猿渡。手札にいいカードがないのだろう?その顔を見れば判るぞ」
猿渡は額に玉のような汗をかいていた。震える手で山札の上に触れる。
「運に全てを任せるか?お前の大好きな気合いと根性で引けるか?くっくっく……」
誰が見ても悪人としか思えない笑顔のダイゴに挑発されながら、野球部の部長はカード引いた。そのカードを見た時、彼は「よしっ!」と叫んだ。そして、強い意志と気合いのこもった視線でダイゴを射抜く。
「待たせたな、極神寺。6マナをタップ。そして、《エビセン》を進化!」
猿渡は引いたカードを《エビセン》のカードの上に重ねた。場に合った《エビセン》の姿が一時的に消失し、別のクリーチャーの姿が現れる。
それは四本の腕を持つ巨大な勇者だった。二本の左腕でオレンジ色の槍を構え、右の腕では体よりも巨大な大砲を支えている。そのクリーチャーの登場と同時に大砲は火を吹き、二体の《ムルムル》を一撃で灰も残さずに消し去った。
「《機神勇者スーパー・ダッシュ・バスター》!俺が根性で引き当てた切り札だ!これで《ムルムル》は消えた!《スーパー・ダッシュ・バスター》でW・ブレイク!」
ダイゴのシールドを守る者は存在しない。攻撃手段に続いて防御手段も潰されてしまったダイゴのシールドは《スーパー・ダッシュ・バスター》の大砲に撃ち抜かれ、破られていく。
「これでもお前のシールドはゼロ!だが、俺には《アクア・サーファー》がいる!これで……」
「そうだ。これで俺の勝ちだ!」
勝利を宣言したのは追い詰められていたダイゴだった。最後のシールドのカードを場に投げた時、金色の光がその場を照らした。
「バ、馬鹿な!ここで、シールド・トリガーか!」
「そうだ。お前だけシールド・トリガーが出て、俺のシールド・トリガーが出ないとでも思ったか?満を持して発動!《ヘブンズ・ゲート》ッ!」
空に金色の線で特徴的な模様が描かれる。それと共に、二体の天使が翼を広げて降臨した。
「俺の《ヘブンズ・ゲート》は光文明の進化ではないブロッカーを二体出す効果を持つ。出すのは攻撃可能なブロッカー《偽りの名(コードネーム) オレワレオ》二体だ!」
「ブロッカーか……、くそっ!」
《アクア・サーファー》は攻撃が可能だ。だが、攻撃を仕掛けたとしても《偽りの名 オレワレオ》で止められてしまう。
「猿渡、お前は終わりだ。行くぞ、《オレワレオ》!」
ダイゴは自分が従えた《オレワレオ》一体に命令をして右の拳を強く握る。両の足を開き、二つの目で真っ直ぐ猿渡を見る。この攻撃を止める者はない。
「必殺!ホワイト・シャイニング・テンペストォォォーッ!!」
ダイゴが拳を突き出す。同時に《オレワレオ》も拳を突き出して猿渡を吹き飛ばした。猿渡の場にあったクリーチャーの姿は全て消え去り、カードが風圧で宙を舞った。
「勝者は俺、生徒王にして生徒会長、極神寺ダイゴだ!」
右手の親指で自分の顔を指しながら、ダイゴは勝利のポーズを決めて白い歯を光らせる。その直後、聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)によって生み出されていた彼のマントと王冠、そして周りのものが消え去った。
ダイゴはデッキを片づけると腕を組んで猿渡を見た。そんな彼に呆れ顔のテツノスケとワンコが近づく。
「必殺技名が致命的にダセェ」
「まだまだだな、テツノスケ。テンペストの辺りが最高にカッコイイではないか」
「お前、負けそうだったお。猿渡に賭けてたのに、どうしてくれるんだお。罰として次回からデュエマじゃなくてヴァンガードやれお」
「ワンコ。名前がダイゴでヴァンガードやってない人に今すぐ謝ってこい」
「それよりも、野球部の部長さんのこと放っておいていいんですか?」
勝利の味に酔いしれていたダイゴはタダオの言葉を聞いて猿渡を見た。ダイゴの必殺技によって倒れた彼はまだ起き上がらない。
「部長!」
敗れて倒れた猿渡に部員達が駆け寄る。猿渡はゆっくりと力なく立ち上がった。そして、泣いた。
「俺は……、どうしていいか判らなかったんだ。ただ努力することしか知らないから、それで引っ張ることしかできなかった。みんな許してくれ」
猿渡は目に涙を浮かべながら部員達に何度も頭を下げる。
「そんな……、頭を上げてくださいよ!」
「すまない!本当にすまなかった!」
「泣くことはないぞ、猿渡」
部員達をどかして、ダイゴが猿渡の前に立った。その手には猿渡のデッキが握られている。戦いが終わった後、ダイゴが拾い集めたものだ。
「努力と根性で何でも解決しようとするのはお前の欠点だ。だが、お前は野球部に必要な人材だ。指導方法に困ったら、俺達を頼ればいい」
ダイゴは猿渡に近づくと彼のデッキを差し出す。彼は涙をぬぐいもせずにそれを受け取った。
「馬鹿野郎!そんなこと言ったってもう野球部は廃部だ!どうしようもねえ!」
「そんな口約束、俺は忘れた」
「何だって?」
驚く猿渡を見たダイゴは野球部員達に背を向けて歩き出す。生徒会のメンバーとタダオも彼に続いた。
「俺の知り合いにスポーツ科学の専門家がいる。お前達が必要だと思うのなら、生徒会室に来い。サポートを頼んでおこう」
「いいんだな!本当に俺達は野球をしていいんだな!」
「ああ。今回の件を反省して次に活かせ。よく練習し、よく休め」
野球部は存続する。それを知った周りの生徒は拍手をした。そして猿渡と野球部員達はダイゴ達に頭を下げて見送るのだった。

「これで野球部の件は解決だな。猿渡も休息の必要性を理解してくれたはずだ」
四人は生徒会室に帰り、ダイゴは自分のデスクに戻った。
「お前、今回は手加減しただろ。どういうつもりだ?」
茶碗に入れた抹茶を渡してテツノスケが聞いた。その視線は刀のように鋭い。
「やっぱり、テツノスケは気付いていたか。その通りだ。今回は手加減をした。野球部の問題は猿渡自身の管理能力だけではない。部員達の中に根付いていた猿渡への不信感もあった。猿渡が練習方法を変えただけで、すぐに野球部全体が変わるわけではない。もめていた奴らを一つにまとめる必要があった」
「でも、猿渡がうまくやらないとまた分裂すると思うお。それはどうするんだお」
ワンコの声に非難するような響きはない。そこには信頼する者への問いかけらしい優しさが含まれていた。
「猿渡ならうまくやってくれる。あいつの野球への情熱は本物だ。それに、生徒のやりたいことやしたいことを手助けするのが俺達、生徒会だ。また手伝ってやればいいさ」
ダイゴはデッキをしまうと鞄を手に取った。そして、タダオを見る。
「俺達の仕事を見てどう思った?まだ生徒会で働きたいと思うか?」
タダオは胸に手を当てて今日の出来事を振り返った。学校の生徒に対して全力で接しなければ生徒会の仕事は務まらない。簡単な仕事でないことは理解できた。
それ故に、タダオは燃えていた。ダイゴ達のように生徒のために働ける生徒会役員として働くつもりだ。
「もちろんです!」
「OK。入会試験は合格だ。君を生徒会役員見習いとして採用する」
「人手が足りないから、希望者はみんな採用なんだお」
「それは言うな」
ダイゴは、余計なことを言ったワンコを軽く睨みつけた。その後、視線をタダオに向ける。
「改めて紹介しよう。こいつは、二年のワン・チャン。ワンコと呼んでやってくれ。ただのちびっ子に見えるが、こう見えて二十ヶ国語を操る言語のエキスパートだ」
「最近は、グンマー語も話せるようになったお」
「三年の闘魂堂テツノスケ。書家の息子で書道の達人だ。茶道も学んでいるからうまい茶が飲みたかったら、こいつに言えばいい」
「俺をお茶くみ扱いするなよ」
「そして、この俺がっ!」
ダイゴはデスクの上に飛び乗って右手の親指の先を自分の顔に向けた。
「極神寺グループの総帥!生徒王!生徒会長!三年の極神寺ダイゴだ!」
自慢のポーズを取ったダイゴはしてやったりという顔でタダオを見た。タダオは思わず拍手をしていた。
「これからよろしく頼むぞ。一ノ瀬タダオ」
「はい!よろしくお願いします!」
これが、タダオと極神寺ダイゴのファーストコンタクトであり、彼らの暴走に付き合わされる運命への分岐点であった。

次回に続く

次回予告

弱者が力で傷つけられる。弱者を傷つけるのもまた弱者。その弱さと脆さが新たな弱者を生み出そうとしている。その叫びを聞いて、ダイゴが動きだす。
次回 第二話 弱者
漆黒の牙が全てを解体する。
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