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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第三話 先輩はお熱いのがお好き!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、生徒会の頂点に君臨するナイスな男が一人。
その名は極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。人は彼を生徒王と呼ぶ。
生徒会見習いの一年、一ノ瀬(いちのせ)タダオが毒島(ぶすじま)達のグループに襲われた。国会議員の息子という立場を利用し、目撃証言をもみ消していた毒島だったが、ダイゴの策略により暴力事件の容疑が白日の元に晒される。
ダイゴは逆上した毒島を相手にデュエマを行い、相手を完全にコントロールした戦いで下すのだった。

第三話 先輩はお熱いのがお好き!

一ノ瀬タダオは他の生徒会役員の誰よりも先に生徒会室に来ている。一番乗りを続けることで自分の本気を認めてもらおうと思っているのだ。
生徒会室の扉を開けようとしてドアノブを握る。鍵はかかっていなかった。
「あれ?もう誰か来ているのかな?」
鍵はタダオを含めた生徒会のメンバーだけが持っている。タダオの頭に三人の先輩と顧問の姿が浮かんだ。
しかし、扉を開けて彼が見たのは今まで見たことがない女子生徒だった。その女子生徒はいつも極神寺ダイゴがいる専用の高級デスクに着席していた。普段、ダイゴがPCを置いている場所には透明なグラスが置かれている。女子生徒はそのグラスの中身を飲み干すと、幸せそうに息を吐いた。
「あ~、しあわせだわ~」
「なっ……」
幸せそうな女子生徒の姿を見て、タダオの脳は高速で思考する。何故、ここに無関係の女子生徒がいるのか。鍵は開いていたのか。一体、何を飲んでいるのか。それ以上に何故、彼女はこれほどまでに美しいのか。
その思考に至ったタダオは女子生徒を見て顔を赤くしている自分に気がついた。
どうやら三年生らしいその女生徒はタダオに比べて大人に見えた。美しい茶色の長髪は窓から差し込む暖かな春の陽光に照らされて輝いているように見える。そして、ボリュームのある胸の二つの塊が机の上に乗って存在を強調しているように見えた。タダオは顔を見た後で、その胸から目を離せずにいた。
(僕、テツノスケ先輩の言うことを少し理解できたかもしれない)
「ん?ちょっとそこの君」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
緊張したタダオは奇妙な声を出して生徒会室の中に入った。じっと見ていたことを怒られると考えた彼は弁明の台詞を考えたが、それよりも先に女子生徒が動いた。彼女は笑顔で空になったグラスをタダオに向ける。
「作って」
「作ってって……、何をですか?お茶ならもうすぐしたらテツノスケ先輩が来ますから……」
「お茶じゃないの。材料はそこのテーブルの上にあるから」
タダオはデスクに近づいてグラスを受け取る。女子生徒に近づいた時、タダオの鼻は慣れない匂いを嗅ぎ取った。
(う、なんだろう。この匂い)
奇妙に思いながら振り向いて会議用のテーブルの上を見た。すると、そこには一升瓶とポット、梅干しが入った容器が置かれていた。
「へ?」
間抜けな声を出したタダオは目をこすってから会議用のテーブルの上にあるものをもう一度見た。
何度見てもそこにあるものは酒だ。高校生が飲んでいいものではない。
「お湯が六割で焼酎が四割。お湯が絶対に先だからね!梅干しは忘れちゃダメよ~」
タダオが助けを求めるように女子生徒に視線を向けると女子生徒は焼酎お湯割りの作り方を教えてくれた。タダオの人生にとって余計な知識が一つ増えた。
だが、その知識を元に経験するよりも先にタダオの口から疑問が飛び出した。
「あの、未成年なのに飲んでいいんですか?」
「え?」
その質問を受けて女子生徒はきょとんとしていた。その後、だらしなく顔を弛緩させて笑う。
「もー、うまいんだから!未成年か。ね、あたしっていくつに見える?」
女子生徒は小首をかしげて微笑む。その魅力的な仕草に再び、タダオの顔は赤くなった。
同時にタダオの頭脳に新たな疑問が生まれる。目の前にいる女子生徒の口調はまるで自分が未成年でないような言い方だ。どう答えるべきか。実年齢よりも高かったら失礼に当たり、実年齢と比べてあまりにも低すぎるのもよくない。だが、ブレザーの襟についたバッジで三年生だと判る。それを元に答えようとタダオは決めた。
「えっと……、十――」
「ワンコ、弁当買い過ぎじゃないのか?」
答えようとしたタダオの声を遮るように、外から生徒会役員達の声が聞こえてきた。女子生徒の質問にどうやった答えるべきか悩んでいたタダオは彼らの存在が、まるで地獄にたらされた蜘蛛の糸のように思えた。
「そんなことはないお。今半の弁当なら三つくらいペロリだお。テツノスケ、お茶の準備をお願いするお」
「俺をお茶汲みみたいに扱うな!たまにはタダオにやらせようぜ」
会話と共に三人の生徒が入ってきた。
最初に入室したのは、ウエーブがかった長い銀髪の美少年だ。整った美貌を持つ彼は、生徒会長の極神寺ダイゴだ。
短く切った黒髪と鋭い目つきをした和風の雰囲気の少年は闘魂堂(とうこんどう)テツノスケだ。生徒会室にいる時は書道をするために紺色の作務衣を着ているが、今はまだ制服のブレザーを着ていた。茶道も学んでいるため、生徒会のメンバーのために茶を立てることもある。
最後に入ってきたのは、キャンディの包み紙を連想させるような巨大なリボンを頭に付けた栗色のツインテールの少女だった。リボンを含めても身長が百四十センチ程度の彼女は、二年生のワン・チャン。中国系のアメリカ人で様々な言語を操ることができる。周りも彼女自身も彼女を『ワンコ』と呼ぶ。
「タダオ、今日も早い、な……」
入室したダイゴは、タダオではなく女子生徒の姿を見て硬直した。その後、小刻みに震え、顔は真っ青になっていた。
「も、もしかして……、いやもしかしなくても……」
「久しぶりだね、ダイゴ君!」
「げぇーっ、ミヤビさんーっ!?」
女子生徒、ミヤビに微笑みかけられたダイゴは絞り出すような声で叫んだ。その顔はまさに、絶望した人間そのものであった。
「うっひょーっ!ミヤビさんだ!ちょっとスキンシップとして胸触らせてくださ、ぶべっ!」
ミヤビの体に抱きつこうとしたテツノスケだが、そううまく行かなかった。彼がミヤビの体に触れるよりも先に彼女の拳が顔面に当たっていたからである。
「ダイゴ君、そんなに驚かなくてもいいでしょ!それと、テツノスケ君。エッチなのはダメ!君のはセクハラよ!そんなのスキンシップじゃありません!」
「ミヤビ、久しぶりだお。今までどこに行ってたんだお?」
ワンコの態度は普通だった。ダイゴのように絶望もしていない。テツノスケのように過剰なまでに喜んでもいない。
「聞きたい?無事、三年生に進級できたからヨーロッパに行ってたの!ワインとかビールとかウイスキーとかおいしいお酒をいっぱい飲んできたよ!でも、やっぱり一番は日本の焼酎よね~。焼酎お湯割りに梅を入れるのが最高だわ~」
「ダメですよ!未成年なのに、お酒飲んじゃ!会長、この人誰なんですか?」
タダオは震えているダイゴに声をかけた。彼はタダオと目を合わせることなく、青ざめた顔で言う。
「この人は生徒会の隠しボス的な存在、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビさんだ。ミヤビさん、こいつが一年の一ノ瀬タダオです」
「ああ、やっぱり!ダイゴ君からメールで話を聞いてたよ。きっとこんな感じの真面目そうな子なんだろうな~って思ってたんだ」
不死鳥座ミヤビは手を叩いてタダオを見た。そして、椅子から立ち上がり頭を下げる。
「不死鳥座ミヤビです。これからよろしくね!」
「一ノ瀬タダオです。よろしくお願いします。あと、未成年なのにお酒はダメです」
「タダオ、気にすんなお。ミヤビは二十歳だお」
「え?」
ワンコの言葉を聞いてタダオは驚いた顔でミヤビを見た。彼女はまただらしなく緩んだ顔で「えへ~、あたしって未成年に見えるんだ~。年齢より若く見えるんだ~」と笑っていた。
「ミヤビさんは二回留年しているんだ。二年前に俺が生徒会長になった時からの知り合いだよ」
「へぇ、そうなんですか。って、会長は一年の時に生徒会長になったんですか!」
さりげなくダイゴから驚愕の事実を教えられる。二回の留年よりも一年生の生徒会長の方が珍しい。
「は~、誰か焼酎お湯割り作ってくれないかな~。ねぇ、ダイゴ君?」
「はい、ただいま!」
ダイゴはタダオが持っているグラスをひったくるようにして受け取ると、グラスの中に湯を入れ始めた。
「いいんですか、会長?」
「馬鹿!ミヤビさんに逆らうな!逆らったら大変なことになるぞ!」
ダイゴの手は震えていたが、湯も焼酎もこぼすことなく焼酎お湯割りを作った。梅を入れてミヤビに渡す。
「ありがと。はぁ~、やっぱりこれじゃないとね~」
グラスの中身を一口飲んだミヤビはゆっくり息を吐く。それを見たダイゴもほっとしたように息を吐いた。
「会長がこんなに怯えるなんて……。ミヤビ先輩ってそんなに怖い人なんですか?」
「まあな。怖がってるのはダイゴだけじゃないぜ。多くの生徒がミヤビさんのことを『女帝』だとか『魔王』だとか呼んで恐れているんだ。ただ美人なだけじゃない。学校中の不良が束になってもかなわないくらい腕っ節が強い。強いのは喧嘩だけじゃないぜ。デュエマもだ。この学校で一番強いのはダイゴじゃなくてミヤビさんだろうな」
「会長よりも強いんですか!」
「でも、ダイゴがミヤビを恐れているのは強いからじゃないと思うお。別の理由があるんだお」
「別の理由ですか?」
タダオが頭上に疑問符を浮かべるが、テツノスケもワンコもうすら笑いを浮かべるだけでダイゴがミヤビを恐れる本当の理由について語ろうとしなかった。タダオがすっきりしないものを抱えていると、ミヤビが手を叩いた。
「そうだ、ダイゴ君。タダオ君にコレ、見せてあげようか!」
ミヤビは鞄から一冊のノートを取り出した。それを見たダイゴは口を大きく開けて驚く。これ以上は不可能と思えるほど見開かれた瞳はそのノートだけを見ていた。
「それは、もうこの世から消え去ったと思っていた『クエストオブジャスティス』!」
「そう、ダイゴ君が一年の時に書いていたオリジナルのファンタジー小説よ。主人公、十文字(じゅうもんじ)ダイヤは平凡な男子高校生だった。だが、ある時異世界に召喚されたことで彼の運命は大きく変わる!この十文字ダイヤのモデルってダイゴ君?」
「ぎゃー!言わないでー!」
ノートをめくり解説を始めるミヤビ。ダイゴは耳を塞いでそれを聞かないようにするが、それだけで音声をシャットアウトできるはずがない。
「異世界に召喚されたダイヤは国王の命令で魔王を退治することになった!『やれやれ、何で俺がこんな目に……』が口癖の主人公だったよね。こういうのがいいと思ってたんだよね」
「ぎょえーっ!」
「ヒロインはダイヤと一緒に冒険する魔法使い見習いのハート。『国王様の命令だから仕方なく一緒に旅してあげてるんだからね!勘違いしないでよね!』が口癖の絵に描いたようなツンデレヒロインだったよね。この子って当時見てたアニメのヒロインを参考にしてるんだよねー!っていうか、パクリだよねー!」
「いやーっ!」
「ほらほら、最初に出てくる魔獣O・イワーって大岩先生がモデルだよね、きっと。あ、こっちには主人公とヒロインのイラストつき設定資料とかあるー!話の終わりには作者と登場人物の対談という名のドツキ漫才があって作者がボコボコにされるの!三話までしかできてなくて外伝ばかり書いてるのよね。で、結局途中で放置しちゃってるの」
「も、もう許して……」
引き続き聞こえてくるミヤビの解説を聞いて、ダイゴの顔は赤くなったり青くなったりしていた。テツノスケとワンコはそれを見ながらにやにや笑っている。
「こんな厨二病小説書いてたのバレたら逆らえねえよな。ダイゴは何度か奪おうとしたみたいだけど、その度に失敗したみたいだし」
「タダオ、こんな厨二病小説を書くような奴にはなっちゃダメだお」
「え?面白そうじゃないですか?会長、がんばって続き書きましょうよ」
「やめろ、タダオ。お前の純粋な目が痛いよ……」
ダイゴはふらふらともつれるように歩きながら扉に向かった。倒れるようにして扉に寄りかかると振り向いて生徒会メンバーを見る。
「俺、もうダメだ。今日は会社行くよ」
「ダイゴ君!がんばって仕事してきてね!きっとヒロインのハートちゃんもツンデレっぽい台詞で応援してるぞ!」
「ぎゃー!」
ミヤビに追い打ちをかけられたダイゴは叫びながら生徒会室を飛び出した。テツノスケとワンコは焼酎の瓶などを片づけ、何事もなかったかのように席に着いた。
「面白そうじゃないですか。僕だけが変なのかなぁ……?」
ダイゴが自作小説を解説されるのを嫌がる理由がタダオにだけは理解できなかった。首をかしげながら、彼も席に着く。
「ダイゴが行っちまったけれど、今日の議題について話し合うとするか。まず、先週解決した校内連続暴力事件だが……」
「へぇ、そんなことあったんだ。テツノスケ君、説明してくれる?」
「判りましたよ。実は……」
テツノスケはミヤビに毒島が起こした事件について説明した。
「ふーん。親の七光で暴れる不良ねぇ。その子達の事件って本当に解決したのかしら?」
ミヤビは気のない口調でそう言った。だが、その眼光は鋭い。その目を見て、タダオは彼女も生徒会のメンバーとしてふさわしい人間なのだと本能的に気がついた。
「え?でも、俺達であいつらをボコボコにしてやりましたけど」
「話で聞いただけで実際に見たわけじゃないけれど、その毒島って子、プライドが高そうよね。逆上して復讐してくるんじゃないかしら」
「復讐ですか」
その言葉を聞いてタダオは自分が毒島から受けた暴力を思い出す。あの時のように暴行を受けるのはごめんだ。
「あたしが気にし過ぎているだけかもしれないけれど、一応、用心しておいた方がいいかもね」
タダオが心配していることに気付いたのか、ミヤビは彼の顔を見て微笑んだ。その目を見たタダオは自分の中に生まれた不安な気持ちが少しずつ溶けて小さくなっていくのを感じた。
理由は判らない。ただ、ダイゴと同じように上の立つ者が持つべき力をミヤビも持っているのかもしれない。
「じゃ、この件はこれでおしまいだお。テツノスケ、今半の弁当食べるからお茶をお願いするお」
「だから、俺をお茶汲み扱いするな!」
「あ!あたしも久しぶりにテツノスケ君のお茶飲みたーい!」
「お任せください、ミヤビさん!巨乳美女のためならお茶くらいお安い御用です!お茶だけにお茶の子さいさいです!」
テツノスケの態度が変わるのは早かった。それを見たタダオは既に毒島のことを忘れかけていた。

「くそっ!イライラする!」
ソフトモヒカンの男子生徒、毒島ショウタは転がっていた空き缶を蹴飛ばした。
彼の脳裏に先週の出来事がよぎる。今までの校内連続暴力事件を起こしていた毒島達のグループ五人の内、三人は生徒会のメンバーに闇討ちされて捕えられた。毒島と副リーダーの原(はら)は生徒会のダイゴとテツノスケにデュエマで挑み、二人とも多くの生徒が見ている前で敗北した。
それ以降、校内で暴力が振るえなくなった。彼らにとって威圧感は非常に大事なものだ。相手が恐怖を感じている内に暴力を振るって相手の恐怖を増大させていく。そうやって相手を支配してきた。
だが、生徒会とのデュエマをしてから多くの生徒達は毒島達に対して恐怖を感じなくなっていた。どうやってもうまく行かない状況を感じて原以外のメンバーは毒島のグループから抜けていった。
大勢の前で自分に恥をかかせ、仲間を奪ったダイゴが許せない。彼に対する怒りが毒島の中でくすぶっていた。
「原ぁ!生徒会の奴らに仕返しする方法はないのか!」
「毒島君、落ち着いてくださいよ!」
肩を怒らせ顔を真っ赤にして怒る毒島を、原は必死になってなだめていた。
ミヤビの予想は的中していた。毒島は反省せずに生徒会を恨んでいたのだ。まだ実行せずに怒りの感情を自分の中で燃やしているだけだったが、危険なことに違いはない。
「あいつらをどうにかしようとしても、また返り討ちですよ。一年のザコ以外は全員聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)使えるんすから。勝ち目ないっすよ」
「じゃ、このまま負けたままでいろってのかぁ!」
毒島が原に向かって吠えた時、彼の目はある者を捉えた。それはテツノスケ達と共に校舎から出て来たミヤビだった。三人と別れ、彼女だけは一人で歩いている。
毒島は迷うことなく、すぐに動く。携帯電話を取り出し、自分の暴力事件をもみ消した連中に電話をかけた。通話を終えた毒島は満足したように笑っている。
「ぶ、毒島君?」
心配そうな声で原が聞く。毒島は原を見ていない。
「ついてるぜ。俺が復讐したいと思ったら、すぐに復讐のチャンスが来た!俺は選ばれた人間だってことだよ!」
邪悪な笑いを顔に貼り付けた毒島はミヤビに向かって歩き出した。

登校したタダオは、校庭が騒がしいことに気がついた。空気中に形容しがたい嫌な気配が漂っているように感じられる。
「どうしたんだろう」
「タダオ!おはようだお!」
自分を呼ぶ声が聞こえて、タダオは振り向いた。そこには、ダイゴとテツノスケとワンコがいた。
「おはようございます。何の騒ぎでしょう?」
「校庭に芸能人でも迷い込んだんじゃねえのか?」
「野良猫じゃないんですから、迷い込むわけがないでしょう」
「ワンコ、料理人が迷い込んで欲しいお。おいしい料理を作ってもらうお」
「プロだったら料理してもらうのに、ものすごくお金がかかるんじゃないですか?」
「判ったぞ!とうとう二次元から三次元に美少女が舞い降りたのだ!」
「そんなまさか」
三人とも目茶苦茶なことを言っている。ダイゴの予想が一番おかしかった。
「こうしちゃいられん!どけ!俺の嫁だー!」
「ふざけんな!巨乳美女だったら俺のもんだー!」
ダイゴとテツノスケが生徒達をかき分けて突進していく。二人が通ったところは生徒が避けて道ができたのでタダオとワンコはそこを進んでいった。
「待たせたな、俺の嫁候補の二次元美少女……、ってミヤビさん!」
ダイゴは驚きのあまり、声を漏らした。テツノスケとタダオも同じだ。
校庭の中央には登山用の丈夫なロープで縛られたミヤビが倒れていた。細く長い髪が顔にかかっていて表情は判らない。まったく動いていなかった。
「どうしたんですか!しっかりしてください!」
タダオが駆けだそうとすると、その前に一人の男子生徒が現れる。原だ。
そして、ミヤビの近くに毒島が立っていた。その姿を見て、タダオの足は恐怖で震えた。
「毒島!何のつもりだ!」
「聞きたいかぁ?テメェら、生徒会への復讐だ!まずはこいつだ!」
ダイゴの問いを聞いた毒島は舌で唇を舐めながら答えた。生徒会全員を挑発しているようだった。
「奴め、ミヤビさんに何をするつもりだ」
テツノスケも鋭い目つきで毒島を見ていた。
「ミヤビ先輩は暴力事件には関係ないだろう!殴りたいなら僕を殴れ!」
タダオは震える足を踏み出して叫ぶ。
ミヤビはタダオを安心させるように微笑みかけてくれた。その恩に答えたい気持ちが彼を動かしたのだ。
「そんなのはつまらねぇんだよ!」
毒島は吐き捨てるようにそう言った。そして、座りこむとミヤビの顔を見て続ける。
「俺の復讐はもっと楽しいことだ。生徒が大勢いる今ぁ!ここでぇ!伏せ字にしないと表現できないようなあんなことやこんなことをしてやる!」
「あ、あんなことやこんなことだと!ぶっひょおおおーっ!」
毒島の言葉を聞いて、テツノスケは鼻から大量の血液を吹き出して倒れた。タダオが介抱しようとすると、「放っておけ」とダイゴが命じた。
テツノスケと同じように鼻血を吹き出しそうな生徒は大勢いた。「何という羨まし……、いやけしからん!」と言った声も聞こえる。
「あいつ、こんな復讐を考えていたなんて。迂闊でした。昨日、行動していれば……」
「タダオ、心配するな。ミヤビさんなら大丈夫だ」
「でも、会長。このままじゃ……、その健全な高校生にあるまじき……、その……、あんなことやこんなことが」
「もじもじしてどうしたんだお。そんなにミヤビが【ピー】しているところとか【ピー】しているのとか見たいのかお?」
毒島やタダオが遠慮して言わなかった単語をワンコは気にせずに言い放った。それを見てダイゴは阿呆のように口を開けて見ていた。
「お前、そのものズバリを言うんじゃない。情緒ってものがないだろ?」
「そんなに【ピー】に情緒が欲しいのかお。女みたいなことを言うんだお」
「いや、でもなあ……」
情緒について話している二人を無視してタダオはミヤビの様子を見た。すると、ミヤビの肩が少しだけ動いた。
「あ!」
タダオが声をあげるとミヤビの頭が動く。半開きの目で周囲を見ると、小さな欠伸をした。
「ふあー、よく寝た」
ミヤビは軽く首を振った後、体に力を入れる。登山用の丈夫なロープが音を立てて千切れた。彼女は立ち上がると、まるで拘束など無意味であるようにその場で大きく体を伸ばした。
「げぇっ!ちょっと待てよ!何でロープが切れるんだよぉ!ありえねぇだろ!」
目の前で起こった光景が信じられないのか、毒島は切れたロープを引っ張る。彼の腕で引っ張ってもロープはびくともしない。ミヤビは笑顔でそのロープを取った。
「あたしを誘拐して何をするつもりだったのかな?うまく誘拐できたと思った?残念でした。誘拐させてあげたんだよ!」
ミヤビがロープを引っ張った。まるで、その辺りに生えている草でも千切るようにいともたやすく切れてしまった。
「な……、何者だ、こいつはぁ!」
自分が手を出した人物の恐ろしさに気付き、毒島は後ずさりを始めた。ミヤビはそんな彼に右手の人差指を突き付け、宣言する。
「これより、生徒会最強のあたし、不死鳥座ミヤビが追加制裁を加える!デュエマで勝負よ!毒島ショウタ!」
「けっ、上等だ!だが、勝った時は俺がテメェを好きなようにさせてもらうぜぇ!」
「それで構わないわ。聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動よ!」
ミヤビの体と周囲が白い光に包まれる。白い光が消えた時、ミヤビの服はきらびやかな赤いドレスに変わっていた。彼女は脚を組んでソファーに腰掛けている。その周りには彼女の年齢の倍はあるような紳士達が集まっていた。
「へぇ、あいつが今日のミヤビちゃんの敵?命知らずだね」
派手なストライプのシャツを着た男がミヤビに話しかける。
「そうよ、おじ様。今からあたしがやっつけてやるの」
ミヤビは男の顔を見ずに、髪の毛の先をいじりながら答えた。そこへ執事がやって来てミヤビにデッキを渡す。
「お嬢様、行ってらっしゃいませ」
「御苦労。行ってくるわ」
ミヤビが立ち上がり、一歩前に出ると白いテーブルが現れる。それと同時に男達は煙を出してパネルになった。
「テツノスケ先輩にそっくりだ……。ミヤビ先輩は性欲で聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させたんですね。って、生徒会は全員性欲で聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させるんですか!」
「ワンコは違うお。一緒にしないで欲しいお」
「俺も違うぞ。俺は性欲じゃなくて愛で聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させている」
「会長は嘘言わないでください!」
「ごちゃごちゃうるせぇ!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
毒島も聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させた。彼の姿が変化し、髪型は鶏のトサカを連想させるようなモヒカンになり、服は肩パッドのついた皮のジャケットに変化した。
「話には聞いていたわ。汚物を消毒しそうな聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)ね。三流悪役にはぴったりだわ」
「テメェのはセンスねぇなぁ!」
互いに罵声を浴びせた両者は五枚のシールドのセットと五枚のドローを終えて対戦を始めた。
「行くわよ!《フェアリー・ライフ》!」
先に動いたのは先攻を取ったミヤビだった。場が穏やかな春の日差しを思わせる緑色の光に包まれ、ミヤビの山札の上のカードがマナゾーンへ飛んでいった。
「マナ増やしてデカブツでも出すつもりかぁ?何か出す前に速攻で片づけてやるぜぇ!」
毒島はダイゴとの対戦でやった時と同じように、紺色のスーツを着た紳士のようなクリーチャー《戦略のD・H(デュエルヒーロー)アツト》を召喚した。出した時の能力で二枚引き、手札から二枚のカードを墓地に送る。
「墓地を利用した速攻か。確かにぼやぼやしてたらやられちゃうわね。でも、まだ大丈夫。《エコ・アイニー》を召喚よ!」
ミヤビが自分の場に一枚のカードを置く。すると、緑色の羽根の鳥が出て来た。その鳥、《エコ・アイニー》が天に向かってさえずると、山札の上のカードが一枚めくれてマナゾーンに飛んでいった。
「またマナが増えた!」
「ミヤビのデッキは中盤以降に本領を発揮するデッキだお。3ターン目まではああやってマナを増やして準備をしているんだお」
「そして《エコ・アイニー》の能力でマナに置かれたカードがドラゴンだった時、もう一回だけ山札の上のカードがマナに置かれる。今、置かれたのは《偽りの名(コードネーム) バザガジー・ラゴン》だったからもう一枚置けるな」
ミヤビがマナゾーンの上に手を伸ばすと山札の上のカードがマナゾーンへ飛んでいった。
「君が墓地なら、あたしはマナ!これで6マナまで使えるようになったわ!」
「マナがどうしたぁ!マナがあっても、手札がなきゃ何もできねぇぞ!《特攻人形ジェニー》を召喚!そして、自爆!」
毒島が召喚したのは手札破壊を可能とする黒い服を着た少女の人形のクリーチャーだった。けたたましい笑い声と共に自爆したジェニーの残骸がミヤビの手札に向かって飛んでいく。勢いよく飛んでいった残骸は二枚のカードの内、一枚を弾き飛ばした。
「どうだぁ!手札にある一枚で何ができる!どうせ、ターンの最初に引いても二枚だ!」
「狙いは悪くなかったわね。あたしが相手じゃなかったら通じていたわよ」
ミヤビは上を見て手を伸ばした。すると、捨てられたカードは吸い寄せられるように彼女の手元に戻って来た。ミヤビは川の流れのように優雅な手つきでそれを場に置いた。
噴火するように地面から赤い光が吹き出す。同時に巨大な龍の咆哮が校舎を揺らした。
「来たわよ、あたしの切り札の一つ!《永遠のリュウセイ・カイザー》!」
赤い光から四本の足で地面に立つ青いドラゴンが現れた。胴体に伸びる長い傷跡からは赤い炎が噴き出していた。
「馬鹿な!何でドラゴンが出やがる!」
毒島が驚くのも無理はなかった。自分は相手の手札を捨てていたはずだ。それにミヤビはクリーチャーを召喚するような動作を見せていなかった。
混乱する毒島を見て、ミヤビは出来の悪い生徒に解答を教える優しい教師のような口調で解説した。
「《永遠のリュウセイ・カイザー》は相手のクリーチャーか呪文で手札から墓地に捨てられる時、タダで場に出せるクリーチャーよ。パワー8000のW・ブレイカー!もうこれで勝ったも同然よね!」
「ち、ちくしょおおお!」
突如、現れた切り札級のクリーチャーの存在を見た毒島は何をすればいいのか判らなくなっていた。《アツト》のカードをタップし、シールドへの攻撃を命じる。その行為に戦略性はない。無意味な特攻と言ってもよかった。
破られたシールドは《フェアリー・ライフ》だった。シールド・トリガーだったのでミヤビはコストを払わずにその能力を使う。
「勝てますよ!強力なW・ブレイカーのドラゴンもいて、マナのカードは七枚ですよ!毒島のクリーチャーは《アツト》だけですし、マナも三枚!この状況で負ける方が難しいですって!」
対戦を見ていたタダオは両手を握って興奮しながら話す。だが、ダイゴとワンコは冷静だった。二人と自分の態度の温度差を見て、タダオはわざとらしい咳払いをする。
「ま、まあ、まだ判らないですよね。毒島のシールドは五枚ですし、シールド・トリガーが出るかもしれないですし」
「いや、タダオの言う通り、普通ならこの状況で負ける方が難しいだろう。だが、戦っているのはミヤビさんだ」
「え?」
ダイゴの言葉を聞いて、タダオは信じられない様子で彼の顔を見た。
「普通なら負ける方が難しい状況なんですよね?それで、戦っているのは学園で最強のミヤビ先輩だから……、どう考えても負けないんじゃないんですか?」
「ミヤビさんは最強であるが故の弱点があるんだよ。見ろ」
ダイゴに促されてタダオは場を見た。
タダオは自分の目を疑った。対戦の途中だと言うのに、ミヤビはとんでもないことをしていた。
「って、寝てる!ミヤビ先輩が寝ていますよ!」
ミヤビは目を閉じたまま、頭を前後に動かしていた。右手を動かして山札の横に手を置く。そのままカードを引く素振りをした。手にカードを持っていないのを気付いて、もう一度山札の上に手を置く。しばらくしてカードを引いた。そのカードを見ずにマナゾーンに落とした。
「そうなんだ。ミヤビさんは相手が弱すぎると油断して立ったまま、寝てしまうんだ!」
「何ですか、その弱点は!でも、ドローとマナチャージだけはしてるんですね。本当に寝てるんですか?」
「寝てるんだお。対戦が終わるまで起きないお。あれがミヤビの唯一の弱点なんだお」
「何もしねぇのか。遠慮はしねぇぞぉ!」
ドローとマナチャージ以外の行動をせずに寝ているミヤビを見て毒島は行動を始めた。
新たにバトルゾーンに現れたのは巨大な作業用の機械に乗ったサイバーロード《クゥリャン》だった。《クゥリャン》が動こうとすると、《リュウセイ・カイザー》の体から出ていた炎が機械ごと《クゥリャン》の体を拘束する。
「無駄だ、毒島。《リュウセイ・カイザー》が場に残っている限り、お前のクリーチャーはタップされた状態で場に出る!」
「へっ!だが、《クゥリャン》の出した時の能力は使えるぜ!ドローだ!そして、《アツト》で攻撃ぃ!」
《アツト》は持っていた棒付きキャンディでミヤビのシールドを叩き割る。それはシールド・トリガーではなかった。
「そいつのデッキはやべぇな。だが、戦わずに寝てる相手に負ける奴はいねぇ!次は今、召喚した《クゥリャン》と《アツト》でブレイクして残りのシールドは一枚!その次のターンでとどめだ!そしたら、ぐへへへ!」
毒島は既に勝った時のことを考えているのか、舌舐めずりをした。それを見てタダオが叫ぶ。
「何とかならないんですか!このままじゃ、毒島の速攻に負けてしまいますよ!」
タダオの声を聞いてダイゴは目を閉じる。そうやってしばらくしてから絞り出すような声で言った。
「……方法がないわけではない。だが、危険すぎる。俺は……、やりたくない」
ダイゴはタダオに対して目で訴える。彼の目は反対の意思を現していた。タダオはその目を見返す。
「でも、ミヤビ先輩のピンチです。やりましょう、会長!」
タダオは真っ直ぐな視線でダイゴの目を射抜いた。迷っていたダイゴは、その目を見て頷く。
「判った。だが、後悔するなよ?」
「もちろんです」
ダイゴは静かに息を吸い込んだ。そして、ミヤビに対して大きな声でこう叫んだ。
「ババア!」
「……へ?」
タダオは目を点にしてダイゴを見ていた。
「ババア!」
「……あ?」
ダイゴは二度叫んだ。その言葉を聞いて、低く恐ろしい声と共にミヤビは目を開ける。その瞳の奥にあるものを感じ取って、タダオは恐怖した。
ミヤビはその恐ろしい視線を毒島に向けた。彼もその目を見て小動物のような声を出して怯える。
「あたしをババアと言ったのは貴様か?」
ミヤビの声は地獄の底から響き渡る呪詛のようだった。聞く者全てを支配し、不幸にする。そんな声だ。
「は?何言ってんだ。俺じゃねぇ!」
「あたしをババアと言ったのは貴様か、と聞いている!」
「俺じゃねぇっつってんだろ!」
心の全てを恐怖に支配されそうだった毒島は泣きそうな声で叫ぶ。それをかき消すようにダイゴが叫んだ。
「ミヤビさん、そいつです!そいつが、クソババア!アニメヒロイン的に考えて二十歳超えてる奴はババアなんだよ!賞味期限切れなんだよ!必死にかわい子ぶってんじゃねえよクソがって言ってました!」
「極神寺、テメェ!」
「やはり、貴様か」
マナチャージを終えたミヤビは二枚のカードを場に出した。一枚はクリーチャーだ。赤い光と共に、硬い鱗にその身を包んだ龍が現れる。
「《紅神龍バルガゲイザー》だ。攻撃する度に山札の上をめくり、ドラゴンならタダで出せる。貴様を地獄に送る処刑者をこれで呼び出す」
「ば、馬鹿言え!都合よくドラゴンが出るわけがねぇ!」
「もう一枚のカードで山札の上に置く。《魂の呼び声》」
ミヤビがその呪文の名を出した時、緑色の光が場を包んだ。そして、彼女の山札のカードが全て空中に飛んでいく。
「あたしはこれでレッド・コマンド・ドラゴンを三枚、山札の上に置く。来い!我が下僕!」
その声を合図に三枚のカードが彼女の手元に飛んでいった。他のカードは空中でシャッフルされ、元の位置に飛んでいく。ミヤビは取った三枚のカードをその上に置く。
「ミヤビ先輩、今、何をしたんですか?」
「コンボを使ったのさ。《バルガゲイザー》は攻撃する時、山札の上をめくりドラゴンなら出せる。それ以外なら墓地に置く。ミヤビさんのデッキはドラゴンメインのデッキだから高確率で成功するが、それでも絶対に成功するってわけじゃない。だから、《魂の呼び声》を使って山札の上にドラゴンを持ってきたんだ。これで、欲しいドラゴンを欲しいタイミングで出すことができる」
「すごい……!」
ダイゴの説明を聞いてタダオは素直にそう思った。
本当に隙のないコンボだった。《魂の呼び声》は呪文だから何度も使えるわけではない。だが、一度でもこのコンボが成功すれば相手を追い詰めることだってできる。
「馬鹿だ!《バルガゲイザー》は召喚酔いだ!今、使ってどうすんだよ!」
「馬鹿はお前だ。毒島、お前はもう何もできない。お前に許されるのは絶望すること、命乞いをすること、そしてあたしの手にかかって死ぬことだけだ」
「あ?何を言って――」
毒島の言葉はそこで途切れる。《バルガゲイザー》のよる体当たりによって《アツト》が倒されたからだ。
「何で《バルガゲイザー》が動いてるんだよ!」
「あたしの《リュウセイ・カイザー》が持つ能力の一つ、味方全てにスピードアタッカーを与える能力!」
召喚したばかりの《バルガゲイザー》が動いていた理由はすぐに判明した。同時に毒島の背筋を冷たいものが流れる。
「そ、それで何を出すんだ?何を出してもそれですぐ勝てるってわけじゃねぇ!俺のシールドは五枚だ!五枚もあるんだ!」
彼の声を震えていた。様々な理由で自分を安心させようと試みるが、却って不安になる。それを聞いたミヤビは口元だけで笑う。
「そうだな。すぐには無理だ。だから、時間をかけて苦しめながら終わらせてやろう。あたしの最強の切り札の力で!」
空から一体の巨大な生命体が現れる。生徒達はその赤い輝きが何なのか理解できなかった。その生物が何者なのか理解したのは、それが《クゥリャン》を焼き尽くし、動きを止めた時だった。
鋭い刀剣を思わせるような赤い龍。そして、その龍の頭部に乗った人型のクリーチャー。人と龍が完全に一体になった存在《勝利宣言(ビクトリー・ラッシュ) 鬼丸「覇(ヘッド)」》だ。
「あたしの《鬼丸「覇」》が出た時点でお前の負けだ。このクリーチャーは攻撃する時にガチンコ・ジャッジを行う」
ガチンコ・ジャッジ。それは、互いに山札の一番上のカードをめくり、そのコストの大きさを競うものである。ガチンコ・ジャッジを行ったプレイヤーのカードの方が数字が大きい、もしくは同じ数字であった場合、ガチンコ・ジャッジを行ったプレイヤーの勝ちとなり、特殊能力を扱うことができる。
「ガチンコ・ジャッジだと!?そんな運任せで俺に勝つつもりかぁ?俺はテレビでやってた今日の占いで一位だったんだぞ!」
「ガチンコ・ジャッジが運で決まると思っているのか。愚か者め。今回のガチンコ・ジャッジでお前は私に勝てない。何故なら、お前のデッキにはコスト6以下のカードしか入っていない」
「なっ……!」
毒島は驚いた顔でミヤビを見た。多くの生徒とタダオも驚いて声を漏らす。
「でたらめ言うんじゃねぇ!証拠あんのかぁ!」
「マナゾーンのカードを見れば予想はできる。《アクア・サーファー》よりも重いカードがあるのか?」
「くっ……!」
毒島はその問いに答えない。それで肯定しているようなものだった。
「そして、あたしの山札の上のカードは《魂の呼び声》で持ってきた《リュウセイ・カイザー》だ。コスト8のカードに勝てるか?勝てるはずがないな」
ミヤビは右手を山札の上に置いた。毒島はそれを拒否したかったが、右手が勝手に動き出す。彼の意思とは無関係に動いた右手は山札の上のカードに触れる。
「セット」
「い、嫌だ!やめてくれーっ!」
「オープン!」
山札の上のカードがめくられる。毒島のカードは、彼のデッキの中で一番重い《アクア・サーファー》だったが、コスト8には勝てない。
「ガチンコ・ジャッジは成功だ。やれ、《リュウセイ・カイザー》!」
《リュウセイ・カイザー》は尻尾についていた長剣で毒島のシールド二枚を切り裂く。その中にシールド・トリガーはない。
「確かにヤベェよ。だけど、俺のターンだ」
ミヤビのクリーチャーが行動を終えたのを見て、毒島はほっとしたように息を吐いた。そして、自分の山札に手を伸ばす。だが、その手が止まった。手だけではない。彼の全身が彼の命令を無視して、行動を止めている。
「何だよ!さっきは勝手に山札に触れたのに、今度は動けねぇ!」
「当たり前だ。今、ガチンコ・ジャッジの勝利によって得られた能力を使っている。《鬼丸「覇」》がガチンコ・ジャッジの勝利で得る能力は追加ターン。もう一度あたしのターンとなる!」
「何だと……?」
「言ったはずだ。お前にはもう何もできない、と。《鬼丸「覇」》でシールドを攻撃!そして、ガチンコ・ジャッジ!」
ミヤビと毒島の右手が山札の上のカードに触れた。
「セット。オープン!」
そして、めくられる。今回もミヤビの勝ちだった。
速攻デッキとドラゴンデッキではコストの差があり過ぎる。毒島に勝ち目はない。
巨大な龍の突進によって毒島のシールド三枚が破られた。そこから《アクア・サーファー》が飛び出すが、一体を手札に戻してももう一体が残っている。これで毒島の負けは確定した。
「これでお前の負けは決まった。だが、終わりではない。追加ターンだ。《鬼丸「覇」》で毒島ショウタに直接攻撃!そして、ガチンコ・ジャッジ!」
龍の頭部から降りた《鬼丸「覇」》が毒島に向かって走り出す。それを見ながら、毒島の体は勝手に動いていた。山札のカードをめくる体勢になっている。
「セット。オープン!」
「もうしなくてもいいだろぉ!」
毒島が叫んだのと同時に、《鬼丸「覇」》の拳が毒島の腹を殴りつけた。それを受けて彼は後ろによろめく。倒れそうになった時、《鬼丸「覇」》は毒島の服の襟をつかんだ。
「お前、俺を助けたのか?」
毒島は顔をあげて《鬼丸「覇」》を見た。心温まる光景を見て、生徒達からも歓声が起こる。
「素晴らしい!素敵ですよ、ミヤビ先輩!」
タダオも感激して拍手していた。
生徒達の声を聞きながら、無表情のミヤビは静かな声で呟く。
「追加ターンだ」
注意していないと聞き取れないようなその声の後で、生徒達は全員動きを止める。ミヤビは山札の上に右手を添えて宣言した。
「《鬼丸「覇」》で毒島ショウタに直接攻撃。ガチンコ・ジャッジだ」
「お、俺はもう負けて……」
「セット!」
「嫌だーっ!」
毒島の右手が動き、山札の上に触れた。
「オープン!」
「うわーっ!」
そして、彼の意思とは無関係にカードをめくる。そのガチンコ・ジャッジでも毒島は勝つことができなかった。
間髪入れずに《鬼丸「覇」》が毒島の顔を殴りつける。
「まだだ、毒島。あたしはまだお前が倒れることを許していない。追加ターン、《鬼丸「覇」》で直接攻撃。ガチンコ・ジャッジ。セット、オープン!追加ターン!《鬼丸「覇」》で直接攻撃。ガチンコ・ジャッジ。セット、オープン!」
追加ターンは何度も行われた。九回目の直接攻撃を受けた後、ミヤビの眉が動く。
「占いの運が一位だと言っていたな。確かにその通りだ。もう追加ターンはない。これで終わりだから喜べ」
ミヤビの山札の上のカードは《フェアリー・ライフ》で毒島の山札の上のカードは《クゥリャン》だった。これで終わると知った毒島は、連続攻撃によって切れた口で「よかった」と弱々しく呟いた。
「ああ、よかったな。死ね」
ミヤビの口から発せられる冷たい命令と共に《鬼丸「覇」》は動く。その右足が勢いよく動き、毒島の股間を蹴りあげていた。
「ぎゃーっ!」
見ていた男子生徒達が絶望の叫び声をあげる。蹴られた毒島自身は声にならない叫びと共に倒れた。
「ミヤビさん、ちょっとやりすぎですよ」
ダイゴは、戦いを終えて聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除したミヤビに近づく。制服姿に戻った彼女は冷たい目でダイゴを見てこう言った。
「ダイゴ、次は貴様の番だ」
「え?」
「あたしをババアと言ったのはお前だな?」
「バレてたー!」
ダイゴはミヤビに背を向けて逃げようとする。だが、彼の長い髪をミヤビがつかんだ。
「今から、処刑を始める」
「しょ、処刑の内容はデュエマでお願いします!」
「デュエマではない。あたしの拳で刑罰を執行してやろう!」
「ぎゃー!ワンコ、タダオ、助けてくれー!」
ダイゴが情けない声で生徒会のメンバーに助けを求めた。だが、ワンコとタダオは倒れた毒島を連れて保健室へ行こうとしていた。ダイゴには目もくれていない。
「つ、冷たい!お前ら、それが生徒王に対する態度か!あ、そうだ。テツノスケ、俺を助けてくれたらミヤビさんの胸を好きなだけ揉んでいいぞ!」
「男に二言はないな!」
倒れていたテツノスケはダイゴの言葉を聞いて、立ち上がる。その目は期待に満ち溢れていた。
「ああ!もちろんだ!」
「よっしゃ!ミヤビさんを止めると見せかけて、胸を揉みまくってやるぜ、ぐへへへ!」
「いいだろう。二人まとめて始末してやる」
テツノスケは全身全霊全ての力を込めてミヤビに向かって走る。
その後、生徒達は校舎に戻り、校庭にはダイゴとテツノスケの叫び声が轟いた。

次回につづく

次回予告

子は生まれてくる家を選べない。賢いその少女を翻弄するのは両親の無自覚な悪意。少女の悲痛な叫びが届く時、ダイゴはある決意をする。
次回 第四話 名前
その拳、言葉よりも雄弁。
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