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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第四話 才女な彼女は辛口で!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、生徒会の頂点に君臨するナイスな男が一人。
その名は極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。人は彼を生徒王と呼ぶ。
生徒会メンバーの一人、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビがダイゴ達の前に現れた。海外旅行から戻って来た彼女は、毒島(ぶすじま)ショウタによる暴力事件の内容を聞き、彼が復讐をするのではないかと考えた。
ミヤビの予想通り、生徒会によって処刑された毒島は生徒会を恨んでいた。彼は復讐を果たそうとするが、誘拐された振りをしたミヤビによって倒される。
一ノ瀬(いちのせ)タダオはその戦いの中で学園最強と呼ばれる彼女の実力を見るのだった。

第四話 才女な彼女は辛口で!
その日の放課後、生徒会室には生徒会役員が全員揃っていた。
「それでは、今日の議題について話し合うとしよう」
窓際に置かれた自分専用の高級デスクに陣取り、生徒会長の極神寺ダイゴが口を開く。春の陽光に照らされて、長い銀髪が輝いた。外見だけは美形だが、彼の頭にはマンガで描かれているような丸いたんこぶがいくつもできている。
「胸、揉めなかった……。指一本触れられなかった……」
会議用の長机の上に頭を乗せて溜息を吐いているのは闘魂堂(とうこんどう)テツノスケだ。彼の頭にも、ダイゴと同じようにたんこぶができていた。
「二人とも何で頭にたんこぶできてるのかしら?」
長い髪を揺らして一人の女子生徒が疑問を呟いた。手には焼酎お湯割り梅入りを持っていて、時々口をつけては幸せそうに溜息を吐いている。彼女は不死鳥座ミヤビ。ダイゴとテツノスケが頭にたんこぶを作る原因となった人物だ。二年留年しているため、二十歳の三年生だ。
「ミヤビが殴りまくったからだお。止めるの大変だったみたいだお」
近くのカレー屋の弁当を食べながら頭に大きなリボンを乗せたツインテールの少女が言う。二年のワン・チャン、通称ワンコだ。机の上に乗っているカレー弁当は六つだ。既に二つ目に突入している。
「幸い、会長とテツノスケ先輩以外には暴力を振るわなかったみたいですから。それで良しとしましょうか」
彼は一年生の一ノ瀬タダオ。生徒会見習いである。
「う~ん、ダイゴ君にものすごく失礼なことを言われたのだけは覚えてるんだけどね~」
ミヤビは頭をひねってダイゴとテツノスケを殴った原因を思い出そうとしていた。
昨日の朝のミヤビと毒島のデュエマが全ての原因だった。毒島との実力差に退屈したミヤビは対戦中に寝てしまう。彼女を起こすためにダイゴはミヤビを挑発した。その結果、ミヤビは怒りによって目を覚まし、毒島を叩き潰す。それでも、彼女の怒りが収まることはなかった。彼女を止めるためにダイゴとテツノスケが動いたのだ。
「ちくしょう……。まさか触れることすらできねえなんて……」
テツノスケはミヤビを止める時に、どさくさにまぎれて彼女の胸を揉もうとしていた。だが、彼の不純な手が彼女を捉えることはできなかった。テツノスケは一方的に殴られただけだった。
「ところで、毒島は大人しくしているんでしょうか?」
タダオが不安そうな声で言う。
毒島は暴力事件を起こしていた。タダオもそれに巻き込まれたことがある。それを注意するためにダイゴとテツノスケは毒島達をデュエマで処刑した。普通の生徒ならばこれで反省するのだが、毒島はダイゴ達に復讐することを決めた。ミヤビの手によって復讐は阻止されたのだ。
「毒島が、また復讐してくるなんてことはないでしょうか?正直、僕は不安です」
「その心配はいらないぞ」
渋く低い声と共に扉を開けて一人の男が入ってくる。黒に近いこげ茶色のスーツを着たダンディな雰囲気のこの男は富宝(とみたか)ゴンゾウ。生徒会の顧問をしている教師だ。外見は渋い四十代に見えるが、これでも二十代後半である。
「ゴンゾウ先生っ!」
ミヤビは立ち上がると弾丸のように飛び出し、ゴンゾウに抱きつく。抱きつかれたゴンゾウは彼女を引き離そうとしながら「酒臭っ!」と言った。
「いつ、生徒会に戻って来たんだ、不死鳥座」
「一昨日です~。もう先生が恋しくて恋しくて仕方がなかったんですよ~」
ミヤビはゴンゾウに向けて潤んだ視線を送っていた。それを見たダイゴとテツノスケは「また始まった」と呟いた。
「ミヤビはゴンゾウ先生が好きなんだお。四十代くらいのナイスミドルがタイプらしいんだお」
「そう言えば、聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)でもそんな感じの人が出ていましたね」
タダオはワンコの説明を聞いてミヤビの趣味を理解した。抱きついていたミヤビが離れてからゴンゾウは生徒会の全員を見る。
「毒島も反省したようだ。彼の父、毒島議員からも更生させたことについて礼を言われたよ。今、ここに毒島が来ているんだ。入りたまえ」
ゴンゾウが扉に向かって言った。すると、扉の影から一人の生徒が姿を見せる。その姿を見て生徒会のメンバーは全員自分の目を疑った。
そこにいたのはポニーテールが似合うかわいらしい女子生徒だった。真新しい制服のブレザーに身を包み、落ち着きのない視線で周囲を見ている。
「え……、あの……、別の毒島ですか?」
「一ノ瀬タダオ!」
『毒島』として連れて来られたその生徒は、タダオの前に立った。声も完全に女子生徒のものだった。その生徒はタダオの席の前まで来ると頭を下げる。
「ごめんなさい!謝ったって許してもらえないかもしれない。だけど、全力で反省する。殴らないと許してもらえないんだったら、気が済むまで殴られる。だから、どうかアタシ達がしたことを許してください!」
「いや、僕に女の子を殴る趣味は……。っていうか、僕を殴ったのは毒島ショウタであって君ではないんだけど」
すると、『毒島』と呼ばれた生徒は頭を上げ、不思議そうな顔でタダオを見た。
「アタシがその毒島よ。昨日、ミヤビさんにデュエマで負けてしばらく経ってから毒島ショウタじゃなくて毒島ショウコって名乗るようにしてるけど」
「え……、ええーっ!?」
タダオは驚きのあまり、体の奥から声を発していた。毒島ショウコと名乗っている今の毒島と、ソフトモヒカンだった毒島ショウタの姿が、タダオの脳内では一致しない。
混乱しているタダオの横を通り抜け、ショウコはミヤビの側に行った。ゴンゾウに抱きつこうとしてチャンスをうかがっていたミヤビはショウコを見る。
「誘拐なんかしてごめんなさい!ミヤビさんにデュエマで負けて気が付きました。アタシ、もう悪いことはしません!それと……、お姉さまって呼ばせてください!」
「うん、いいんじゃない。面白そうだし」
ミヤビは軽く返事をする。その後、ゴンゾウに抱きついた。
最後にショウコはダイゴの前に立った。そして、顔を赤くして口を開いたり閉じたりを繰り返している。
「俺にも用か?」
「えっと……、その……」
ショウコはまるで茹でだこのように顔を真っ赤にしていた。ダイゴ達がその様子を見ていて噴火するんじゃないかと思っていた時、ショウコは口を開いた。
「あ、あの、この前は大勢の前で叱ってくれてありがとう!あんたのおかげでやり直せそうな気がするわ!でも、勘違いしないでよね!あんたのことなんか特に何とも思ってないんだから……!」
早口でまくし立てたショウコはダイゴから目を逸らす。そして、横目で彼の顔を見て呟いた。
「そうよ。好きだとか愛してるなんて思ってないんだから……」
そう言うとショウコは顔を真っ赤にしたまま生徒会室を走って出て行った。まるで嵐のようだった。
ダイゴは何も言わず、顔面蒼白になったまま固まっていた。
「他にも謝らなくちゃならん奴らがいるらしい。付き添いをするから後は頼むぞ」
それだけ言い残してゴンゾウは去っていく。その直後、ダイゴは溜息を吐いた。
「やれやれ……。何が起こったんだ?」
「良かったね、ダイゴ君。ショウコちゃんって、君の小説に出てくるハートちゃんみたいなツンデレじゃない?君の理想のヒロインの登場ね!」
ミヤビが冷やかすような口調で言った。ダイゴは頭を抱えながら言い返す。
「やめてくださいよ!」
「いいじゃねぇか。付き合っちまえよ」
「テツノスケ!お前、他人事だと思って!」
「他人事ですよ。ところで会長はショウコとユウミさん、どっちを選ぶんです?」
「タダオ、何でその二つしか選択肢がないんだ?」
「まあまあ、ワンコのカレー弁当一個あげるから元気出せお」
「優しいのはワンコだけか。ありがとう」
「代金は後で請求するお」
「前言撤回だ。優しくない」
ワンコからカレー弁当を一つ受け取ったダイゴは、蓋を開けてプラスチックのスプーンを握る。ダイゴが食べようとしたその時、ノックする音が聞こえた。
「タダオ、見て来てくれ。そして、毒島だったら追い返してくれ。俺は男の告白を受ける気はない」
「判りましたよ。でも、今の毒島って男なんですか?元男じゃなくて」
「男の告白も元男の告白も聞くつもりはない」
タダオが扉を開けると、そこには眼鏡をかけた女子生徒が立っていた。黒髪のショートボブの少女で背はタダオより少し高い。ブレザーの襟についたバッジで彼女が三年生だと判る。
賢そうな目をしたその女子生徒を見ながら、タダオは目の前の人物が男か女か考えていた。最近、外見で男女を判別できなくなってしまったため、こんなことを考える癖ができてしまった。
「あの、生徒会に御用ですか?」
「そうなの。不死鳥座さんから何か聞いてないかしら?」
「あ、やっぱり加奈子(かなこ)ちゃんだー」
タダオの後ろにミヤビがやって来て手招きした。この時、ミヤビがタダオと密着したため、彼女の胸がタダオの背中に当たっていた。そのため、タダオの精神は混乱していた。
(ほひぃーっ!?ぼ、ぼぼ、僕の背中に何やら温かくてやわらかくて大きくて素敵な優しい触感のものが二つ当たってらっしゃるー!何て幸せなんだー!息が酒臭いけど、うれしー!)
その時、幸福の絶頂にいたタダオは、自分を見つめる鋭い視線に気付いた。顔を後ろに向けてその正体を確かめる。テツノスケだ。奥歯を噛みしめ、顔を真っ赤にして目を血走らせている。
(羨ましすぎるぞ!俺と代われ!)
彼は視線だけでメッセージを送って来た。タダオは勝ち誇った顔でテツノスケに返す。
(テツノスケ先輩はミヤビ先輩の胸に触ったことないんですか?巨乳好きって言ってるんだから、もう触ったものかと思ってましたよ。お先に失礼しますね。おお、やわらかい。この二つのぬくもりは最高だ)
(このヤロー!)
「加奈子ちゃん、入って。相談したいことがあるんでしょ?」
「そうです。失礼します」
加奈子と呼ばれた女生徒を連れて三人は仲に入った。
「田中さんか。学園一の才女が、一体、どんな悩みを?」
最初に口を開いたのはダイゴだった。
「巨乳になりたいってのじゃねえのか?大葉って貧乳だし」
テツノスケは、まだタダオを睨みながら言った。加奈子には興味がないようだ。
「待て、テツノスケ!田中さんのサイズは並だ。貧乳ではない。貧乳スキーとして訂正を要求する!」
「俺に言わせればC以下は全部貧乳なんだよ!C以下に存在価値はねえ!」
「この判らず屋が!」
「やるか!」
「加奈子、あの馬鹿二人は無視してカレー食べるといいお。代金はダイゴ持ちだお」
「待て。また、俺の支払いにするな」
代金を支払うと聞いてダイゴは話に戻って来た。テツノスケも加奈子を見る。
「ここの男子は相変わらずね」
カレーを食べるために席に着いた加奈子はダイゴとテツノスケを見て呆れたように笑う。
「大丈夫だよ!ダイゴ君は馬鹿に見えるけれど、一応、極神寺グループの総帥で生徒会長だもの。相談してみて」
「そうですね」
「あの、ちょっと待ってください」
加奈子が口を開きかけた時、頭に手を当てながらタダオが発言する。
「田中さんで大葉さんなんですよね?どっちなんですか?」
「加奈子ちゃんよ」
「ミヤビ、そうじゃないお。タダオは加奈子のフルネームを聞いているんだお」
「ああ、そうか。タダオ君は一年生だから、まだ加奈子ちゃんのこと知らないのね。この人は田中大葉加奈子ちゃん。苗字が田中で大葉加奈子が名前よ」
「田中でも大葉でも加奈子でも好きに呼んでいいわ。でも、大葉加奈子だけは絶対にダメ!いいわね、一ノ瀬タダオ君?」
田中大葉加奈子の鬼気迫る表情を見てタダオは静かに返事をした。
「あれ?僕、自己紹介しましたっけ?」
あなた、一部ではうわさになってるわよ。変人だらけの生徒会に入った期待のニューフェイスって」
「ところで悩みってなんだお?」
「やっぱり巨乳になりたいとか?ぶへっ!」
テツノスケがミヤビに顔面を殴られた直後、加奈子は口を開いた。
「悩みっていうのは私の名前のことなの。私、この名前のせいで大学への進学も就職もできないんじゃないかと思って!」
「それが……、悩み、ですか?」
タダオが気の抜けたような声で聞いた。それを見て加奈子が噛みつくように言う。
「そうよ!これが悩みよ!DQNネームやキラキラネームみたいな変な名前は面接なしで名前だけで落とされるって聞いたわ。そんな名前つける親が子供をちゃんと育てられるわけないって。名前だけで将来が決まってしまうのよ!」
勢いのある言葉だった。口を挟む余裕すらない。
その迫力にタダオは驚き、自分が軽々しく口にした言葉を反省した。
「悪魔なんて名前は役所で拒否できるんだから、変な名前は全部役所で拒否して受け入れられないようにしなさいよ!」
「田中さん。悪魔って名前の例は二十年くらい前の話だ。すごいこと知ってるんだな。それにしても、将来か」
「俺、下着メーカーに就職して巨乳美女のための下着を作るぜ!」
「闘魂堂君には書道があるでしょ。それ、活かしなさいよ」
「俺は二次元に行ける機械を作る会社に入りたい」
「極神寺君は自分のとこの会社でやればいいじゃない」
「あたしはかわいいお嫁さん!あ、やっぱりお姫様がいい!」
「不死鳥座さんは、まず卒業することを考えた方がいいんじゃないですか?」
テツノスケ、ダイゴ、ミヤビが言った適当な将来について加奈子は的確なアドバイス、いや、ツッコミを送った。
「ナイスツッコミだな。さすが学園一の才女だ」
「ああ、もう!何で私があなた達の将来についての意見を言わなくちゃならないのよ!」
加奈子は会議用のテーブルを両手で叩いて言った。
「それで、加奈子は将来、何をしたいんだお?」
「私は建築学を学びたい。大学で建築の研究をしたいのよ!人間、建築物から離れて生きてはいけないわ。人々の生活に密着する建築をもっと知りたいの」
「進路相談みたいになったな」
ダイゴが正直な感想をもらすと、加奈子は頭を抱えて唸った。
「でも、名前が……。こんな名前じゃ、どの大学を受けても門前払いだわ。名前なんていう生まれ持ったもののせいでこんなに苦しまなくちゃいけないなんて……。そうだ!」
加奈子は手を叩いて立ち上がる。悩みが解決したのかと、タダオは期待したが次の言葉を聞いてそれは違うと判った。
「私、不良になるわ!名が体を表すように大馬鹿な不良になってやるわよ!だから、今から不良になる方法を教えて!」
「いいんですか、それ!」
「ウフフ、オッケー♪」
「会長もノリノリでOKしないでくだい。あと、言い方キモいですよ」
タダオの言葉を無視して生徒会の四人は不良になる方法を考えていた。まず、ダイゴが口を開く。
「不良ならば酒とタバコだな。しかも、未成年なのに飲酒と喫煙だ」
「却下。未成年だし、それに健康に悪いわ」
「加奈子ちゃん、髪を染めてみたらどう?金髪だと不良に見えるかも」
「不死鳥座さん、それは校則違反です」
「いや、校則とか法律を破ったり、不健康なことをするから不良なんですよ。それに校則違反みたいな髪型はここにもいますし」
そう言ってタダオは横目でダイゴを見た。ダイゴは長い銀髪をかきあげ「これは地毛だ!いいだろう!」と自慢していた。
「なかなかうまく行かないわね……」
加奈子は顎に手を当てて溜息を吐いた。そんな彼女を見てテツノスケが口を開く。
「お前らはダメだな。俺の意見を聞いて腰を抜かせ」
「いいアイディアなのかお?」
「ああ」
テツノスケは自信に溢れた表情で微笑んだ。
「エステに行って巨乳になれ!バインでボイーンなわがままボディになれば男は全員『なんていけないけしからんナイスバディなんだ』と思うはずだ!これぞ不良!」
テツノスケは顔を紅潮させて叫んだ。彼の熱弁は届かず、加奈子は彼を生ごみでも見るような目で見ていた。
「闘魂堂君はそんなことばかり言ってるから女子にキモいって言われるのよ。結局、まともな意見は出なかったわね。自分で不良になる方法を考えてみるわ。カレーごちそうさま」
加奈子は頭を下げて生徒会室を出ていった。彼女が去った後の扉をタダオが見つめる。
「いいんですか?これで」
「良かねえよ。俺のことキモいって言った女子の名前聞かないと。貧乳だったら思いっきりバカにしてやる。巨乳だったら土下座して何が何でも揉ませてもらう」
「そうじゃないです!加奈子さんの悩みが解決してないんじゃないかって言ってるんです!」
「大丈夫だお。よくあることなんだお」
「え?」
「彼女は自分の名前でよく悩んでいてな。今までも何度か生徒会に相談に来ているんだ。その度にくだらない雑談をして解決している」
「加奈子ちゃんはね、人に相談する時は、もう答えを自分で見つけているの。誰かに背中を押してもらいたいだけなんだよ」
「俺は巨乳の胸を押したい」
誰もテツノスケは相手にしなかった。
「明日、またここに来るようだったら、その時に考えよう。それじゃ、今日の議題だ」
生徒会のメンバーは全員、所定の位置についた。その日の会議が終わる頃には、タダオは加奈子の悩みなんて忘れてしまっていた。

翌日の放課後。生徒会室にはダイゴ、テツノスケ、タダオが集まっていた。
「今日は田中さんは来ないようだな。悩みが解決したんだろう」
ダイゴは安心したように言って、自分専用の椅子に腰を下ろす。
「まあ、予想できてたことだろ。奴だって完璧じゃない。だけど、才女だから悩みもすぐに解決するってことだ」
テツノスケは愛用の紺色の作務衣に着替えて墨を磨っていた。既に、周りには筆や紙の準備ができている。
「そんなものなんですかね?」
タダオだけは首をかしげていた。今までの加奈子の相談を見たことがないから、ダイゴ達の考えが判らないのだ。
「そういうものなんだよ。それにしても、ワンコの奴遅いな。いつもならお茶の準備をしろってうるせえのに」
テツノスケが呟いた時、大きな音を立てて生徒会室の扉が開いた。開けたのはワンコだ。肩で息をしている。尋常ではないその様子を見てダイゴ達三人は立ち上がった。
「ダイゴ、大変だお。加奈子が体育館で暴れているんだお!」
「何だって!?どういうことだ!」
「とにかく、ついてきてくれお!」
そう言い残してワンコは生徒会室から去った。
「行くぞ」
二人に命じて、ダイゴも生徒会室から出る。テツノスケ、タダオも続いた。
「ワンコ、ちょっと気になって加奈子を探していたんだお」
ワンコに追いついた三人は走りながら事情を聞いていた。
「放課後、加奈子のクラスに行ってみたら、今日は休んでいるっていうんだお。真面目で皆勤賞を狙っている加奈子が休むなんておかしいと思ったんだお。そう思って体育館の前を歩いたら人だかりができていたんだお」
ダイゴ達が体育館前に到着した時、既にそこにはミヤビが立っていた。周りに多くの生徒が集まっている。
「ダイゴ君、こっちだよ!」
生徒会メンバーはミヤビの近くに集まった。それを見て大勢の生徒達が彼らに道を開ける。
「田中さんは体育館の中にいるんですね?」
「そうなの。見て、加奈子ちゃんが」
「一体、どうしたと言うんです?」
生徒達の壁を抜けると体育館の床が見えた。そこで見た光景に、彼らは息を飲んだ。
体育館の中央にいたのは、昨日生徒会で見た加奈子だ。だが、髪は長い金髪になり、服装はスカート丈が異様に長いセーラー服に変わっていた。口元にはタバコのような白い筒状のものが見える。そして、手にはヨーヨーを持っていた。そのヨーヨーは自らの意思を持った生き物のように素早く動いている。
「へ~、加奈子ちゃんってヨーヨーうまいのね。練習したのかな?」
「感心している場合ですか!」
タダオは、ミヤビの的外れな感想にツッコミを入れる。それを無視してワンコが前に進んだ。
「頼んだぞ、ワンコ」
「任せて欲しいお」
ダイゴの応援を背中で聞きながらワンコは進んでいく。手にはデッキを持っている。
「加奈子、不良になってしまったのかお」
「そうよ。昨日、不良になるって言ったじゃない。髪染めるのが嫌だから、これはウイッグでくわえているのはタバコチョコだけどね。それと不良って長いスカートのセーラー服でヨーヨー振り回すものでしょ?」
「そのイメージはよく判らないお。でも、似合っていないことだけは判るお」
「別にいいじゃない」
加奈子はヨーヨーを回しながらワンコの言葉に答えた。その目はワンコではなく、ヨーヨーの回転を見ている。
「努力なんかしても、もう何の意味もない。名前だけで夢が叶わなくなるって判っているんだもの。これからは似合わない生き方をしてもいい。自堕落に、好き勝手に生きるわ」
「ヨーヨー、うまいんだおね」
「え?」
ヨーヨーをキャッチした加奈子の手が止まる。予想していなかった言葉を聞いて加奈子はワンコを見た。
「前からうまかったのかお?」
「不良になるって決めたから急いで練習したのよ」
「本当に努力家なんだお。それに努力が実るのも早い。羨ましいお。ワンコも加奈子みたいになりたいお」
「勝手なこと言わないで!」
加奈子は加えていたタバコチョコを床に叩きつけて叫んだ。
「あなたには、私の苦労なんか判らないでしょ!名前のせいでいじめられたことだってあった。名前だけ見て大馬鹿な子だって言われたことだってあった!自分で変えられないことに悪口を言われるのは嫌なの!こんな私になりたいの!?」
「名前でいじめられるのは嫌だお。でも、加奈子のように努力できる人間にはなりたいお。努力して、その努力が実る人間になりたいお。加奈子が名前でいじめられたことがあるっていうのは何度も聞いたお。でも、いじめられてもそれに負ける人じゃなかったお。勉強で見返したり、運動で相手に勝ったりしたことがあったお。相手の得意分野を研究して、相手の土俵で勝負して勝つこともあったお。デュエマが得意だって相手をデュエマで負かしたことだってあった。ここにいる生徒で見たことがある奴もいるはずだお!」
ワンコが声を張り上げると、ギャラリーの生徒の一部が頷いた。
「努力の天才が名前だけで諦めるのかお?田中大葉加奈子はそんな奴なのかお!?」
「フルネームで呼んだわね……!」
加奈子の顔に怒りの炎が宿った。彼女は体育館の壁に向かってヨーヨーを投げつけ、デッキを取り出す。
「あなたの得意分野は何?」
「一番得意なのはデュエマだお」
「それで叩き潰してあげるわ!私の名前だけ見て私を馬鹿にした連中と同じようにね!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
ワンコから十メートルほど離れた位置まで移動して、加奈子は聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させる。彼女自身に変化はないが、彼女の背後に変化が現れた。
そこには、新築の一軒家が建っていた。もちろん、本物ではない。体育館のサイズに合わせて縮尺されたものだ。
加奈子の前には、木目が美しいテーブルが現れる。
「加奈子ちゃん、建築の研究したいって言ってたでしょ。だから、聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)も家なの」
ミヤビの解説を聞いて、タダオは加奈子の想いが本物であることに気付いた。野球部の猿渡(さるわたり)も野球に関する聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させていた。皆、自分が好きなものに関するフィールドを生み出すのだ。
「じゃ、ワンコ先輩はどんな聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を作るんですか?」
「見てのお楽しみよ」
「ワンコを他の奴と一緒にしない方がいいお。聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
ワンコが両手を叩くと、彼女の背後が白い光に包まれる。光が消えてからそこに現れたのはたくさんの屋台だ。お好み焼き、たこ焼き、焼き鳥など様々な食べ物の屋台が並んでいる。そこから食べ物を調理する音と共に、香りが漂ってきた。昼食後、数時間が経過していた生徒達は思わずよだれを飲みこむ。
彼女の前には定食屋にあるようなテーブルが現れた。調味料一式と割り箸まで置かれている。
「ワンコの聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)は空腹の時には見たくないな。あいつは食欲で聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させるんだ」
「って、結局生徒会全員、欲で聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させるんですか!誰か一人くらい純粋な気持ちで発動させてくださいよ!」
「タダオ君、始まるわよ!」
タダオのツッコミをスルーしながらミヤビが言う。
既に二人はシールドの設置とドローを終えてデュエマを始めようとしていた。
「先に行くお。《無頼勇騎ゴンタ》を召喚だお!」
巨大な槍を持った人型のクリーチャーがワンコの場に現れる。《無頼勇騎ゴンタ》はコスト2と軽量でありながら、4000という高いパワーを持つ。
「速攻ね。読みやすくて助かるわ!召喚!」
《ゴンタ》を召喚したワンコに対して、加奈子はブロッカーである《墓守の鐘 ベルリン》を召喚する。《ベルリン》は持っていた金色の鐘を鳴らして《ゴンタ》の攻撃を誘った。
「たかがパワー3000のブロッカーだお。それに《ベルリン》の特殊能力はワンコのデッキ相手では無駄だお!」
《ベルリン》の持ち主は相手のカードの効果や能力で手札を捨てられた時、墓地からカードを二枚まで手札に戻すことができる。ワンコの発言は、手札破壊のカードを持っていないという宣言でもあった。
「いいの?手札破壊がないことを言っちゃって」
「かまわないお。どうせ、すぐに気付かれることだお。でも、それに気付く頃にはデュエマが終わっているお。《アクア・ソニックウェーブ》を召喚!」
ワンコが自分の場にカードを置くと、濃い青色の鎧を着た人型のクリーチャーが現れる。そのクリーチャー、《アクア・ソニックウェーブ》が巨大な腕で体育館の床を叩くと、その振動で《ベルリン》の姿が消えた。
「加奈子さんのブロッカーが消えましたよ!何があったんですか!?」
「ワンコが召喚した《アクア・ソニックウェーブ》は召喚時にバトルゾーンにあるパワー4000以下のクリーチャーを一体、手札に戻すことができる」
「軽量クリーチャーを召喚し、攻撃を阻むブロッカーを消す。速攻の基本戦術だぜ」
《アクア・ソニックウェーブ》の能力を見て驚いたタダオに、ダイゴとテツノスケが教えた。
ワンコは守る者がいないシールドを見て《ゴンタ》に攻撃を命じる。
「《ゴンタ》!シールドブレイクだお!」
両足に力を入れて跳躍した人型の獣は、持っていた槍で加奈子のシールドを打ち砕いた。
「やるわね。でも、今のブレイクのお陰で私の切り札が来たわ。この勝負、もらった!」
加奈子は自分のターンになるとすぐに一枚のカードを場に出す。現れたのは丸みを帯びた金色の鎧に身を包んだクリーチャー《希望の親衛隊ラプソディ》だった。
「コスト1のクリーチャーかお?」
「そうよ。でも、これで攻撃するんじゃない。こうするのよ!」
加奈子は残っていたマナのカード二枚をタップし、《ラプソディ》のカードに一枚のカードを重ねた。《ラプソディ》の姿が一時的に消え、より巨大な人型のクリーチャーに姿を変える。白い蝶を思わせるその進化クリーチャーは《聖天使グライス・メジキューラ》だ。
「《聖天使グライス・メジキューラ》で《ゴンタ》を攻撃よ!」
《グライス・メジキューラ》の手からオレンジ色のミサイルが発射される。《ゴンタ》はその砲撃を受け、爆散した。
「これが加奈子さんの切り札なんですか?出るのが早すぎますよ!」
タダオがそう思うのも無理はない。まだ3ターン目の後攻側だ。切り札の登場には早すぎると言える。
「そうよ。加奈子ちゃんの切り札はコスト2の進化クリーチャー《聖天使グライス・メジキューラ》。早ければ2ターン目に出ることだってあるわ」
「じゃ、加奈子さんのデッキはワンコ先輩と同じ速攻デッキなんですか?それだったら、先にシールドをブレイクしているワンコ先輩の方が有利なんじゃ……」
タダオの意見を聞いてミヤビは首を横に振った。
「《グライス・メジキューラ》の長所は軽くて進化させやすいだけじゃないの。切り札を名乗るのにふさわしい能力があるのよ」
「切り札を名乗るのにふさわしい能力……」
タダオが心配そうな顔で場を見る。ワンコはドローのためのクリーチャー《クゥリャン》を召喚し、《アクア・ソニックウェーブ》に命令を出した。
「殴り切るお!《アクア・ソニックウェーブ》でシールドブレイクだお!」
《アクア・ソニックウェーブ》は俊敏な動作で加奈子のシールドの前まで移動する。そして、巨大な腕を振り上げた。
「させない!」
加奈子が空中に二枚のカードを投げる。すると、《グライス・メジキューラ》の両腕が本体から分離し、《アクア・ソニックウェーブ》の体を押さえつけた。《アクア・ソニックウェーブ》はシールドをブレイクできずにその場に倒れる。
「シールドのブレイクを防いだ!?でも、ブロッカーではないんでしょう?」
「あれが《グライス・メジキューラ》の能力だ。シールドをブレイクされる時、自分の手札を二枚捨てることでブレイクを防ぐ能力。自分のシールドへの攻撃を防ぎ、自分だけは攻撃を通す。これが田中さんの戦略だ」
ダイゴの言葉を聞いてタダオはぞっとした。自分は攻撃によるダメージを受けず、自分だけは相手に攻撃を通す。最強の戦略に思えたからだ。
「《グライス・メジキューラ》は間違いなく強いお。でも、手札はどうするんだお?」
「人の心配をしている場合?手札ならこうやって増やすわよ!」
加奈子の場に歯をむき出しにした頭でっかちな子供のようなクリーチャーが現れる。そのクリーチャー、《セブ・コアクマン》の能力で加奈子の山札の上が三枚めくられた。
「いいわ。これで光文明のカードを三枚ゲット!《グライス・メジキューラ》で《アクア・ソニックウェーブ》を攻撃!」
《グライス・メジキューラ》のミサイルが《アクア・ソニックウェーブ》を襲う。
だが、二体目のクリーチャーを失ってもワンコは平然としていた。
「《グライス・メジキューラ》は間違いなく強敵だお。でも、最強じゃないんだお。こうやってやっつけるお!」
ワンコがマナゾーンのカードを全てタップする。すると、その中から一枚のカードが緑色の光を発して場に飛んでいった。ワンコはそのカードに一枚のカードを重ねる。
「《大神秘イダ》、召喚だお!」
場に現れたのは緑色の鎧に身を包んだ侍の巨人、《大神秘イダ》だ。腰に構えていた刀を振るうと、その直後に《グライス・メジキューラ》のの体が真っ二つにされていた。
「な、何が起こったんですか?」
「《大神秘イダ》はマナ進化のクリーチャーよ。マナゾーンにある自然文明のクリーチャーのカード一枚を進化元にして召喚できるの」
ミヤビに言われてタダオはワンコのマナゾーンを見た。《イダ》を召喚する前は五枚あったカードが四枚になっている。
「《イダ》はパワー7000でW・ブレイカーだ。大葉は才女だったけれど、生徒会メンバーの敵じゃなかったってわけだな」
テツノスケは安心したように言うと欠伸をした。
彼とは違い、真剣な表情でシールドを見ていたワンコは、《クゥリャン》に指示を出す。
「《クゥリャン》でブレイクだお!」
《クゥリャン》は乗っていた機械のマニピュレーターで加奈子のシールドを貫いた。その時、そのシールドから黒い光が発せられる。亡者の声を思わせるような音と共に髑髏が宙を舞った。
「来たわ。シールド・トリガー《ゾンビ・カーニバル》!この効果で墓地からイニシエート三枚を手札に回収よ!」
加奈子が墓地に向かって右手を伸ばす。すると、その手に《ラプソディ》と《グライス・メジキューラ》、そして《グライス・メジキューラ》の能力で捨てたカードが飛んでいった。
「一気に三枚も手札が増えましたよ!」
「《グライス・メジキューラ》で捨てたカードはこうやって回収か。やはり才女だな。戦略が完成されている」
ダイゴは加奈子の戦い方を褒めると、歯を見せて微笑んだ。
《ゾンビ・カーニバル》は種族を一つ選び、墓地からその種族のクリーチャー三体を手札に戻す呪文だ。《グライス・メジキューラ》で捨てていたのもイニシエートだった。《グライス・メジキューラ》の防御のために手札を消費するという弱点を《セブ・コアクマン》での手札補充や《ゾンビ・カーニバル》での墓地回収という手段で克服する。考えられた戦法だった。
「《イダ》は強いわ。でも、それだけじゃ私には勝てない!《ベルリン》!《ラプソディ》!《グライス・メジキューラ》!」
加奈子の場に《ベルリン》と《ラプソディ》が並び、直後、《ラプソディ》が《グライス・メジキューラ》に進化した。《グライス・メジキューラ》のミサイルが《クゥリャン》を破壊し、《セブ・コアクマン》がワンコのシールドを叩き割った。ついに加奈子がシールドへの攻撃を開始したのだ。
「やっぱり、加奈子はすごい人だお」
防御も攻撃も完璧な彼女を見てワンコは呟いた。
「何言ってるの?あなたは追い詰められてるのよ?今はシールドの数に差があるけれど、すぐに全部ブレイクしてみせる。少しは慌てなさい」
「いや、慌てないお。すごいと思ったからすごいって言ったんだお。努力の天才の才能を肌で感じているお」
ワンコは加奈子に対して微笑みかけた。無邪気で悪意のない笑顔だ。
「でも、今の加奈子は馬鹿だお。これだけのことができるのに自分の力を信じていない」
「だって、しょうがないじゃない。名前のせいで……」
「それは違うお。加奈子の悩みの原因は別のところにあるんだお」
「おしゃべりに付き合う暇はないわ。不良の道を極めなくちゃならないんだから。早くかかってきなさい!」
「判ったお」
ワンコは新たな《クゥリャン》を召喚し、ドローする。引いたカードを見た時、彼女の表情が少しだけ輝いた。
「これで行けるお!《イダ》でシールドを攻撃だお!」
《イダ》は全く動かずに腰に構えていた刀を抜いて振るう。その風圧だけで一枚のシールドが真っ二つになった。一度、鞘に刀を入れた《イダ》は再び刀を抜く。
「甘い!」
加奈子が手札のカードを二枚捨てる。《グライス・メジキューラ》の両腕が《イダ》に向かって飛んで拘束した。
「一枚だけはブレイクさせてあげるわ。だけど、これで終わり。もう何もさせてあげない!」
加奈子が投げ捨てたカードが光り始めて墓地から場に戻る。すると、その二枚のカードに描かれていたクリーチャーが場に現れた。
「《無頼聖者サンフィスト》二体を場に!攻撃可能なイニシエートのブロッカーよ!」
勾玉のような丸みのある鎧を着た獣のクリーチャー《無頼聖者サンフィスト》はワンコの場を睨みつけていた。足に力を入れ、今にも飛び出しそうだ。
「そんな!いきなり、クリーチャーが二体も出てきましよ!」
「これが加奈子ちゃんの攻防主体の奥義よ。《グライス・メジキューラ》で手札から二枚の《サンフィスト》を捨てる。《サンフィスト》は相手のターン中に手札から捨てられると場に出るクリーチャー。だから、シールドを守った上にクリーチャーまで増やせるの」
「しかも、《サンフィスト》はブロッカーだ。相手クリーチャーの追撃を阻止できる」
「でも、ワンコのデッキにもブロッカー対策ぐらいあるだろ?まだ判らねえって」
テツノスケが緊張感のない声で言った時、加奈子の場に二体のクリーチャーが現れる。ダイゴもよく使うそのクリーチャーを見て、体育館の中に歓声が響き渡った。
「《光陣の使徒ムルムル》を二体召喚したわ!これでブロッカーのパワーを6000増やせる!まずは《ベルリン》で《イダ》を攻撃!」
《ベルリン》が持っていた鐘を《イダ》に投げつけた。すると《イダ》は緑色の光を出して爆散する。
「さっきどんなカードを引いたの?もしかして《アクア・ソニックウェーブ》で《ベルリン》を手札に戻して攻撃を通そうと思っていたんじゃない?」
「その通りだお」
ワンコは引いたばかりの《アクア・ソニックウェーブ》を見ながら言った。ブロッカーのパワーが上がってしまった今、《アクア・ソニックウェーブ》では加奈子のクリーチャーを手札に戻すことはできない。
「シールド四枚!このターンで頂くわ!《グライス・メジキューラ》でシールドブレイク!」
《グライス・メジキューラ》のミサイルがシールドを突き破る。間髪入れずに《セブ・コアクマン》の二体の《サンフィスト》がシールドに突撃していった。瞬きする間もなく、ワンコのシールドは破られていく。
「本当に加奈子はすごいお。どんな風にデッキを作っているんだお?」
シールドがゼロになってもワンコは怯えていない。いつものように落ち着いた口調で加奈子に尋ねた。それを見た加奈子は少し戸惑いながらワンコに答える。
「自分で勝ち方をイメージして、その勝ち方に合うようなカードを探すわ。そうやって自分が決めた道を突き進むの。誰だってそうじゃない?」
「それって人生でも同じことなんじゃないかお」
「何が言いたいの?」
加奈子の口調に苛立ちが混ざった。ワンコは淡々とした口調で続ける。
「自分の力を信じて突き進めばいいんだお。それなのに、ずっと一人で悩んで、人のせいにして立ち止まってる。今の加奈子は名前通りの大馬鹿な子だお!」
「名前で悩んだこともない癖に!偉そうなことを言うのなら、勝ってからいいなさいよ!」
加奈子は喉の奥から、力強く、怒りや憎しみを込めた声で叫んだ。その時、ワンコの場に緑色の光が現れる。
「そうさせてもらうお。勝っていつもの加奈子を取り戻すお!まずは、ストライク・バック!《天真妖精オチャッピィ》を召喚だお!」
ワンコの場に現れたのは少女の姿のクリーチャー《天真妖精オチャッピィ》だ。《オチャッピィ》が持っていたバトンを振り回すと、破壊されたばかりの《イダ》のカードがマナゾーンへ飛んでいった。
「《オチャッピィ》の能力でマナを増やして6マナ。ターンの最初のチャージを終えて7マナ。これでワンコの切り札の出番だお!」
ワンコの場に《ゴンタ》が現れ、すぐにその姿が消える。直後にその場に現れたのは赤い鎧に身を包んだ進化ヒューマノイド《涙の終撃(ラストアタック)オニナグリ》だった。
「加奈子が進化クリーチャーを切り札にしたようにワンコも進化クリーチャーを切り札にしているんだお!《涙の終撃オニナグリ》でシールドを攻撃!そして、邪魔なブロッカーを蹴散らすお!」
《オニナグリ》は地ならしのために、両肩に付けたキャノン砲で《ムルムル》二体と《グライス・メジキューラ》を焼き尽くした。燃えて灰になったクリーチャーを飛び越えて《オニナグリ》の拳がシールドに伸びる。熱い拳はシールドを突き破り、加奈子の眼前まで迫った。
「それでも、シールド・トリガーが!シールド・トリガーがあれば!」
加奈子は鬼気迫る表情で一枚目のシールドを見る。それは、シールド・トリガーではなかった。
呆然としている加奈子の前で、《オニナグリ》の拳が彼女の最後のシールドを突き破る。
「来たわ!シールド・トリガー《デーモン・ハンド》よ!
加奈子が一枚のカードを突き出し、シールドから伸びる黒い手がワンコのクリーチャーに迫る。だが、加奈子はワンコの場を見て手元のカードを落とした。
ワンコのクリーチャーは《オチャッピィ》と《クゥリャン》の二体だ。《デーモン・ハンド》で一体破壊しても、もう一体でとどめを刺されてしまう。加奈子の敗北だった。
「目を覚ますんだお!いつもの加奈子は……、努力で何でも叶えてきた努力の天才のはずだお!名前なんかに負けるんじゃねーお!」
《オチャッピィ》が《デーモン・ハンド》を飛び越えて加奈子に近づく。それを見た加奈子は両目を強く閉じた。そんな彼女を見て《オチャッピィ》は両手でバトンを持つと、加奈子の頭を軽く叩いた。
「私……、負けた?」
加奈子は恐る恐る目を開けて呟いた。そして、力を失ったようにその場にへたりこむ。聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除したワンコが彼女に近づいた。
「気分はどうだお?」
「なんか、すっきりした」
加奈子はそう言って笑い、立ち上がる。そして、その場で宣言した。
「私、自分の実力が信じられなくて不安になっていたんだと思う。でも、もう大丈夫だから!名前にも不安にも負けない。それと、名前の通り大馬鹿な子なんて言う人にも絶対に負けない。約束するわ」
「判ったお。また一緒にカレー食べるお」
「いいわ。その時は辛口ね」
二人は右手を出して握手する。二人とも晴れやかな笑顔だった。
「うまく解決したみたいですね」
「そうだな。田中さんは悩みを吐き出したかっただけなんだよ。人生ってのは自分が生きたいように、やりたいように生きるのがいいんだ。やりたいことの為に突っ走って行く。これが人生の醍醐味だろ?」
「俺も巨乳を揉むために人生を突っ走っていくぜ!」
「テツノスケ君は自重を覚えようね」
いつものテツノスケに苦笑しながらダイゴは体育館を出た。しばらく歩くと、自分に向かって走ってくる二つの人影が見えた。
「総帥ー!」
一人はダイゴの秘書の蜜本(みつもと)ユウミだ。無双竜機学園の女子の制服に身を包んだショートカットの少年だ。外見だけを見るならば美少女にしか見えないが騙されてはいけない。
「ダイゴー!」
もう一人は毒島ショウコだった。二人とも髪を振り乱しながら全速力でダイゴの前まで走って来た。
「総帥!こいつが総帥の彼女になるとか言ってるんです!そんなことないよね?勝手に言ってるだけだよね?」
ユウミは不安そうな顔でダイゴを見ながら言った。
「そうよ。今は勝手に言ってるだけよ!でも、絶対にダイゴの彼女になってやるんだから!」
そう言ってショウコは顔を真っ赤に染める。
「総帥!こんな奴よりボクを選んで!」
「あ、アタシを選ばないと承知しないんだからねっ!」
二人はダイゴとの距離を詰めてくる。顔が青白くなったダイゴは二人に背を向けると全力で走り出した。
「総帥、待ってー!」
「ダイゴ、待ちなさいよ!」
「確かにやりたいようにやれとは言ったが、相手の迷惑くらい考えろ!勘弁してくれー!」
放課後の無双竜機学園にダイゴの情けない叫び声が響いた。

次回につづく

次回予告

人間は本当に賢いのか?人類よりも賢い者が現れた時、我々は飼われる存在へとなり下がるのか?野生の賢者の存在に、ダイゴは翻弄される。
次回 第五話 賢者
その食欲は宇宙そのものだ。
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