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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第五話 ウホホホ!ウホホ!バナナ味!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、生徒会の頂点に君臨するナイスな男が一人。
その名は極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。人は彼を生徒王と呼ぶ。
学園一の才女と言われる田中大葉加奈子(たなかおおばかなこ)が生徒会にやって来た。彼女は名前のせいで進学も就職も失敗すると思っていたのだ。悩みが解決しない彼女は不良になると決め、その第一歩を進める。だが、ワンコとのデュエマで自分の感情を吐き出し、全てが解決した。

第五話 ウホホホ!ウホホ!バナナ味!

生徒会は今日も平和だった。会長専用の席で、銀髪の男、極神寺ダイゴがパソコンのキーボードを操作している。極神寺グループの総帥でもある彼は空き時間を利用して傘下の企業と連絡を取り合っているのだ。
リズムよくタイプしていた手が途中で止まる。
「お前ら、離れろ」
ダイゴは自分に抱きついている二人の人物に向けて言った。
「えー!いいじゃないですかー!ボク、秘書だから総帥の仕事を見守ってないといけないし!」
ダイゴの右側にいたショートカットの人物が言った。名は蜜本(みつもと)ユウミ。名前と無双竜機学園の女子用の制服を着ていることから少女に見えるがそうではない。本名はユウジであり、性別は男だ。
「べ、別に抱きつきたくて抱きついてるんじゃないんだからねっ!ダイゴが寒がってないか心配しているだけなんだから!」
ツンデレのテンプレのような台詞を言うこの生徒は毒島ショウコ。無双竜機学園の一年生だ。外見はポニーテールが似合うかわいらしい女子生徒だが、彼も本当は男だ。
毒島ショウタとして校内暴力を振るっていたが、二度、生徒会に敗北した後に反省してこんな外見になってしまった。
「もう五月なんだから寒いわけないでしょ!総帥から離れろ!」
「何よ!アンタだってこの学園の生徒じゃないんだから出て行きなさいよ!」
二人はダイゴを間に挟んで睨み合った。「離れろ」という文句を結果的に無視された形になったダイゴは静かに溜息を吐く。
「おいおい。お前ら、あんまり見せつけんなよ」
笑いながらダイゴ達を茶化すのは隅に置かれた畳の上にいる闘魂堂(とうこんどう)テツノスケだ。和を好む男で生徒会室にいる時は紺色の作務衣を着ている。
「お前ら、アツアツ過ぎて困るぜ。とりあえず、茶でも飲んで落ちつけよ」
彼は自分が立てた抹茶を三人に渡した。
「あ、おいしい。総帥にも一口あげますね。はい、あ~んして」
一口飲んだユウミは感想を漏らす。そして、ダイゴに茶碗を向ける。
それを見たショウコも一口飲んだ後、慌ててダイゴに茶碗を向けた。
「し、仕方ないわね。アンタが欲しいって言うのなら、少しくらいあげるわよ、ほら」
「はっはっは!末永くお幸せにな!」
二人の様子を見ていたテツノスケは豪快に笑い飛ばした。
「テツノスケ先輩、楽しそうですね」
会議用のテーブルで彼らの様子を見つめていた男子生徒が言う。一年生の一ノ瀬(いちのせ)タダオだ。彼は正式な生徒会役員ではなく、まだ見習い扱いである。
「それはきっと、ダイゴが男二人に言い寄られているからだお」
タダオの横で、カルボナーラを食べながら生徒会の備品のノートパソコンに向かっている小柄な少女が言った。
彼女は二年生のワン・チャン。ほとんどの人間は彼女をワンコと呼んでいる。頭上に乗った、キャンディの包み紙のような巨大なリボンが目立つツインテールの少女だ。生徒会の中でも冷静で感情が表に出ることは少ない。
「もし、女子生徒二人に言い寄られているのを見たら、滝のような勢いで血の涙を流しながら『リア充爆発しろ!死ね!』って言うはずだお」
「そうね。言い寄ってる子が巨乳であっても、そうじゃなくても関係なくそう言って怒ってるよね~」
ワンコの横にいる女子生徒が焼酎お湯割り梅入りを飲みながら補足する。
制服がはちきれそうな大きさの胸を持つロングヘアーの三年生、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビだ。二度、留年した二十歳のため、飲酒自体は違法ではない。
「ところで、ワンコ先輩は何をしてるんですか?」
「生徒会の非公式ブログを作ったんだお。ほら」
ワンコは二人にノートパソコンの画面を向ける。そこには白を基調にしたホームページの画面が映っている。生徒会の行動などが写真付きで書かれていた(個人を判別しにくくするためか、人物の顔はぼかしが入っていた)。
「よくできてるわね。面白いじゃない!」
「でも、突然、何でブログなんか」
「ワンコも加奈子を見習って自分の能力で出来ることを始めたんだお。既に色々な国の言語に翻訳済みだお」
得意そうにいったワンコはページ内のリンクをクリックする。英語で書かれたページが出て来た。
「こっちはフランス語、ドイツ語、イタリア語、中国語に韓国語、グンマー語もあるお」
「ひぇー、すごいですね。……あれ?」
その時、タダオの目に入ったのはブログの端についていたニュースの部分だ。そこだけは日本語で書かれている。ありふれたニュースの中からタダオは一つのニュースのタイトルを見ていた。
「タダオ君、どうかしたの?」
「このニュースを見てください。動物園の天才ゴリラが脱走したって」
「それって、ゴリラのレオナルド君かお?」
レオナルドは今、話題のゴリラだ。人間の言語を理解したり、簡単な計算ができたりするため天才ゴリラだと言われている。
ぬいぐるみやTシャツ、レオナルド君クッキーなどの関連商品も販売されている。
「とにかく、見てみましょう」
タダオはニュースのリンクをクリックする。ブログからニュースサイトのページへ飛んだ。画面にゴリラの写真と活字で書かれたページが映った。
昨晩、レオナルドは動物園を抜け出した。動物園の監視カメラにレオナルドを連れ出したような人物は映っていない。
目撃証言はなく、捜査は難航している。
「ふーん、天才ゴリラのレオナルド君が自分で脱走したのかしらね。足取りがつかめないっていうけれど、ゴリラが歩いていたなら判りそうなもんじゃない?目立つし」
「人気のない道とか山や森に逃げたのかもしれないお」
ミヤビの疑問にワンコが答える。その頃には、ミヤビの興味は天才ゴリラから別のものに移っていた。他のニュースを目で追っている。
「ねぇ!この『年上の彼氏の気を引く十の方法』っていうの見ようよ!きっとあたし達全員が幸せになれると思うの!」
「ミヤビさん、もう遊びの時間は終わりですよ。……お前らも離れろ。会議するから帰れ」
ダイゴはミヤビに注意した後、ユウミ、ショウコに対して冷たく言い放つ。
ミヤビは「仕方ないわね」と言って、記事を読むのを諦めた。
「総帥、ボクが見てないからって浮気なんかしないでね!」
「ダイゴ、浮気なんかしたら許さないんだからね!」
ユウミとショウコも大人しく引き下がり、生徒会室を出た。
「俺達、付き合ってないだろ!彼女のような発言をするな!」
ダイゴは二人の背中に向かって叫んだ。二人が去ると溜息を吐く。
「英雄、色を好むっていうだろ?お前も生徒王を名乗ってるんだから、二人まとめて彼女にしちまえよ」
「絶対に嫌だ!それよりも会議だ、会議!」
ダイゴは強引に話題を逸らすように言って、手元のファイルをめくった。
「今日の議題は運動部の練習についてだ。過度な練習で体を壊していないか。練習は安全に行われているか。下校中の生徒や地域の人に迷惑がかかる練習をしていないか話し合う」
「運動部の練習ですか。猿渡(さるわたり)先輩はどうなったんです?」
運動部と聞いてタダオの頭に浮かんだのは野球部の猿渡だ。過剰なトレーニングをやめるよう、生徒会に警告された男だ。
根性論を理由にその警告を無視して過度な練習を部員に強いた彼に対して部員は反発し、野球部はバラバラになるところだった。しかし、ダイゴが憎まれ役を買って出ることで部員達は和解し、猿渡も自分のやり方を反省した。
「奴ならうまくやってるよ。新しいコーチとの関係も良好らしい」
「この前、練習してるのを見たわよ。部員全員が一つになってがんばってたわ。これぞ、青春って感じよね~」
ミヤビがそう言って焼酎に口をつけた時、ドアがノックされた。
「開いてるぞ。入りたまえ」
ダイゴの声を聞いて来訪者は扉を開けた。
そこに立っていたのは、無双竜機学園の男子用の制服を着た大人のゴリラだった。
それを見てタダオは自分の目を疑った。まばたきしてもう一度来訪者を見る。
ゴリラだ。
夢かと思い、頬をつねる。痛いのを確認してもう一度来訪者を見た。
ゴリラだ。
「猿渡か。丁度、今、お前の話をしていたところだ。黒くなったな。練習で日焼けしたのか?」
ダイゴに猿渡と呼ばれたゴリラは持っていたスケッチブックに何か書いている。書き終わった後、ダイゴ達に見せた。
『今、風邪でしゃべれない。これに書く』
「そうか。風邪をひいてしまったか。オーバーワークはいかんぞ。体は大丈夫か?」
『オーバーワークはしてない。風邪は休めば治る。少ししたら出ていく』
猿渡(?)はスケッチブックに書いた字で答える。それを見ていたタダオは、目の前の光景に我慢できなくなったのか会議用のテーブルを叩いて勢いよく立ち上がった。
「ゴリラじゃないですか!どこをどう見てもうちの制服を着ただけのゴリラじゃないですか!黒いのも当然ですよ!人間じゃなくてゴリラなんですから!日焼けってレベルじゃないでしょう、この黒さは!というより、黒い以外にも違うところがあるでしょう!体型とか、腕の太さとか、顔つきだとか!そりゃ、猿渡先輩は少しゴリラに似た顔をしていますよ。僕だって初めて顔を見た時はゴリラを連想しました。でも、ゴリラを見て猿渡先輩と間違うなんてあんまりです!ひどすぎます!これは何ですか!ドッキリなんですか?みんなでボクをからかって遊んでいるんだ。そうでしょう?きっと本物の猿渡先輩は、その辺にいて、出番を待っているんでしょう?猿渡せんぱーい!出て来てくださいよー!」
タダオは大声そう言うと荒い呼吸をした。しかし、猿渡もドッキリカメラにあるような『ドッキリでした!』と書かれているようなプラカードも出て来ない。
あるのは、生徒会役員達の、タダオに対する冷たい目だ。異常者を見るような目で見られて、タダオはたじろぐ。
「タダオ、お前、そりゃあねえだろ」
最初に口を開いたのはテツノスケだった。呆れた声だった。
「確かに、猿渡の顔はゴリラに似てるぜ。俺達も少しは茶化すこともある。だからって、本物のゴリラみたいに詳しく言わなくてもいいじゃないか。人の外見は悪く言っちゃいけない。ただし、貧乳は除くから馬鹿にしてもいいって小学生の時に教わらなかったか?」
「タダオ君はそんなこと言わない真面目な子だと思ってた。でも、がっかりだな。幻滅しちゃったよ」
「はあ……、すみません」
気がついたらタダオは謝っていた。テツノスケに対して、貧乳を馬鹿にするのはいいのか問うことすら忘れるほどにショックを受けていたのだ。
「猿渡先輩、ごめんなさい」
タダオは謝った。
もしかして、自分だけ猿渡の姿がゴリラに見える奇病にかかっているのではないかというおかしな考えに至る程度に混乱しながら。
「猿渡、タダオもこう言って謝ってくれているみたいだし、許してくれるかお?」
『気にしてない。許す』
「お前、いい奴だな~。俺が外見を馬鹿にされたら許さねえな。相手が巨乳の女だとしたら、その償いとして絶対に胸を揉むぜ。それくらいさせてもらわないと許さねえ」
猿渡(?)の発言にテツノスケは感激していた。タダオも目の前にいるゴリラが本当に猿渡に見えてきた。
「猿渡、野球部の調子はどうだ?」
ダイゴが話題を変えるように話す。世間話でもするようなさりげなさだ。
『順調だ』
「そうか。それは良かった。ところで、猿渡」
『なんだ?』
「本物の猿渡はどこだ?」
淡々とした口調の言葉で生徒会室の空気が凍りつく。ダイゴは腕を組み、不敵な笑みを浮かべて猿渡(?)を見ていた。
「ダイゴ、何言ってるんだお?こいつは猿渡だお」
「ワンコが見抜けなかったのも無理はない。その男は完璧な変装で猿渡の振りをしていた。唯一、タダオが違いに気付いたようだな」
ダイゴはタダオを見た。
「完璧も何も、どこからどう見てもゴリラじゃないですか」
そう言おうとしたが、タダオは言葉を飲みこんだ。他の三人に何を言われるか判らないからだ。
「タダオは敢えてお前を怒らせるためにゴリラ発言をした。というのも、本物の猿渡はゴリラ呼ばわりされるのは慣れていて怒らないからだ。機嫌がいい時はゴリラの物真似をすることもある。ちなみに、去年の文化祭の物真似大会で優勝するほどの腕前だ」
「あいつ、ゴリラの物真似うまかったのか。知らなかった。去年の文化祭、俺は書道部の手伝いでイベントをほとんど見られなかったからな~」
テツノスケが呟く。
「普通、あれだけゴリラ呼ばわりされて罵倒されたら怒る。タダオもそれを計算してあれだけの暴言を吐いた。そうだろう?」
自信に満ち溢れた顔でダイゴはタダオを見る。タダオは「違う」と言って首を横に振りたかったが、それを許さない雰囲気があった。彼は首を縦に振る。
「やはりな」
満足したようにダイゴが言う。
「だが、一つだけ誤算があった。それはお前が怒らなかったことだ。そのせいでタダオはお前が偽者だと証明できなかった」
ダイゴは立ち上がり、猿渡(?)の横まで来た。猿渡(?)のすぐ近くで説明を続ける。
「だた、俺は違う。タダオがゴリラ発言をしたせいで違和感に気付き、お前をじっくり観察できた。些細な違いだが一点だけ違う点を発見できた。それはこれだ!」
ダイゴは猿渡(?)のネクタイに手をかけて緩める。そして、シャツの第一ボタンを指した。
「本物の猿渡は第一ボタンを留めない男だ!第一ボタンを留めているお前は偽者だ!」
「……はあ?」
あまりにもおかしな指摘にタダオは呆れた口調でそう言った。
「第一ボタンを留めることもあれば、留めないこともあるでしょう。気分次第で。そんなことで偽者なんて……」
そこまで言ってテツノスケ達三人を見る。
彼らは驚いていた。目玉が飛び出そうなほどに目を見開き、口を大きく開けて驚いている。
「本当だ……。第一ボタンが留めてあるぜ!」
「じゃ、こいつは……、偽者だお!」
「見破るなんて……、二人ともすごいわ!」
タダオは何も言えなかった。この三人に対してどんな言葉を投げつけていいか判らなかったのだ。
「風邪をひいていてしゃべれない振りをしているというのはいい発想だ。声を発したら変装がバレてしまうかもしれないからな。さあ、言え!偽猿渡よ!お前は、猿渡の格好をして何を企んでいる!」
「そうだ!教えてもらうぞ!」
声と共に生徒会の扉が勢いよく開かれた。そこに立っていたのは無双竜機学園のジャージを着たゴリラのような顔の男子生徒だ。本物の猿渡が、肩で息をしながらそこに立っていた。
「げ!猿渡が二人!」
「テツノスケ、よく見るお!そっくりだけど、ジャージの猿渡が本物だお」
「こうやって見ると、双子みたいね」
テツノスケ達三人にはまだゴリラと猿渡の区別がつかないようだった。
本物の猿渡がゴリラの肩をつかむ。
「俺の制服を返せ!あと、何を企んでいるか言え!」
「もし、言えないのなら、俺がこの手で処刑してやる」
ダイゴと猿渡がゴリラを睨んだ。ゴリラは何も言わない。二人を振りほどき、扉を開けて出て行った。
「待て!」
ダイゴはそれを追う。ダイゴとゴリラは窓を開けて、そこから校庭に飛び降りた。
「極神寺!俺も行くぞ!」
それを見た猿渡は二人を追いかけるように生徒会室を飛び出す。部屋にはタダオ達四人だけが残った。
「あのな、タダオ……。さっきは悪かった……」
「完璧な変装だったから気付かなかったんだお」
「それにしても、あの変装を見破るなんてタダオ君はすごいわね!」
テツノスケ達三人は、まるで腫れものに触れるような態度でタダオに話しかける。
タダオは笑顔だった。にっこり笑った彼は、氷のように冷たい口調でこう言った。
「帰りに眼科に行って目に異常がないか見てもらいやがってください。それとも、見てもらうのは頭ですかね?」

今日も校庭には多くの生徒が集まっていた。
ダイゴが校舎の窓から飛び降りるのはよくあることなので誰も驚いていない。だが、彼以外にも窓から飛び降りて校庭に着地する者がいたのを見て生徒達は動揺していた。
「俺以外にも窓から飛び降りられる奴がいたとはな。やるな!」
ダイゴは敬意を抱きながらデッキを取り出す。ゴリラはそのデッキを見つめていた。
「偽猿渡の処刑方法はデュエマだ!お前もデッキを取り出せ」
「いいだろう。やっつけてやんなさい!」
そう言ったのはゴリラではない。ゴリラの背後に男が立っていた。
牛乳瓶の底のような分厚いレンズの眼鏡に白髪、白衣と絵に描いたような研究者のような姿の男だ。着ている服も皺だらけで汚れている。
その男の外見を見たダイゴは、しばらく考えた後、男に問いかける。
「あなたは、中ノ森(なかのもり)教授ですか?」
中ノ森教授は猿の研究の第一人者だ。普通の生徒は知らないだろうが、ダイゴは名前と功績を知っていた。
自分の名が知られたことで気を良くしたのか、中ノ森はふんぞり返った姿勢で話す。
「その通りだよ、学生さん。そして、彼も有名人。いや、有名ゴリラだ!さあ、服を脱いで皆さんに生まれたままの姿を見せてあげなさい!」
ゴリラは猿渡の制服を脱ぐ。その姿を見て多くの生徒が声をあげた。
「あいつ、人間じゃない!ゴリラだ!」
「猿渡に変装した偽者だったんだ!」
「皆さん、判らなかったようだね。彼は動物園から脱走した天才ゴリラのレオナルド君だ!」
『よろしくね』
中ノ森が生徒達に紹介し、レオナルドはスケッチブックに書いた文字を見せた。
そこに、猿渡と生徒会役員達がやってくる。
「あれって、天才ゴリラのレオナルド君じゃないですか!」
「レオナルド君が猿渡に変装してたのかお」
タダオ達は服を脱いだレオナルドを驚いた顔で見ていた。彼のことを知っていた猿渡は何も言わずにダイゴに近づく。
「どうした?お前がレオナルド君と戦うのか?」
「いや、そうじゃねぇ。こんなことを言うのは恥ずかしい。だが、言わなくちゃいけねぇか」
猿渡はしばらく考えた後、頬をかいてこう言った。
「極神寺、油断するな!奴はただのゴリラじゃねぇ。俺はデュエマで負けて制服を取られたんだ!」
「お前が負けるほどの相手だと?」
その事実を告げられ、ダイゴは目を大きく見開いた。だが、その後、すぐに息を吐いてレオナルド君に近づく。
「忠告、感謝するぞ、猿渡。だが、心配はいらない。俺は生徒王だ。相手が誰であっても学園の中でなら負けるはずがない」
そう言った後、生徒会役員の姿を見た。ミヤビが体全体から黒いオーラを発してダイゴを見ている。
「……訂正する。一人を除いて負けるはずがない」
ダイゴはもう一度ミヤビを見た。彼女の体から黒いオーラは消えていた。
「それでよろしい。ダイゴ君、がんばってね!」
「極神寺、お前、弱みでも握られてんのか?」
「そんなようなものだ。さて……」
デッキを手にしたダイゴはレオナルドに右手の人差指を突き付ける。そして、校庭にいる生徒全員に聞こえるような声で叫んだ。
「これより、生徒王にして生徒会長の極神寺ダイゴが猿渡に変装した不届き者を処刑する!処刑方法はデュエマだ!」
「ふん、身の程知らずめ。レオナルド君、相手をしてやりなさい」
中ノ森はレオナルドにデッキを渡した。ダイゴとレオナルドの視線がぶつかり、睨み合いが始まる。
「ただの天才ゴリラが俺に勝てると思うなよ!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
ダイゴの体が白く輝き、彼と彼の周囲の空間が変化していく。ダイゴは頭部に王冠をかぶり、制服の上から赤いマントを羽織った姿になった。彼の前には純白のテーブルクロスを敷いたテーブルが置かれ、頭上には豪華なシャンデリアが吊るされていた。
『聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動だ』
中ノ森がレオナルドの通訳をしている。
レオナルド自身に変化はなく、彼の前に現れた台も普通のテーブルだった。
だが、彼の周囲は激しく変化している。いくつもの木が生い茂り、枝からはたくさんのバナナがぶら下がっている。
「お、おいしそうだお……。一つだけ、一つだけくれないかお……」
「落ち着け、ワンコ」
そのバナナに目を奪われてワンコが近づこうとする。テツノスケが彼女を止めるように羽交い締めにした。
「聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)で生み出された食べ物は食べても腹は膨れねえし、栄養も取れねえ。判るだろ?」
「で、でも味も匂いもするんだお。あんなおいしそうなバナナは初めて見たお」
「とにかく、落ち着け!タダオも手伝え!」
「は、はい!」
テツノスケに命令されてタダオもワンコの体を押さえつけようとする。
「キャー!タダオのヘンタイ!セクハラだお!」
「えっ!ち、違います!変なとこは触ってませんから!」
タダオが顔を真っ赤にして反論した時、ガラスが割れるような音が校庭に響いた。
見ると、ダイゴが召喚した人型のクリーチャー《ハッチャキ》がレオナルドのシールドをブレイクしているところだった。
「もう始まってたんですか!?」
「そうね。ダイゴ君の先攻よ。レオナルド君が《フェアリー・ライフ》でマナを増やし、ダイゴ君が《ハッチャキ》を召喚。レオナルド君が《エナジー・ライト》でドロー。ダイゴ君も《エナジー・ライト》でドローして《ハッチャキ》で攻撃。この時、《ハッチャキ》の効果でコスト《知識の精霊ロードリエス》を出したわ」
1ターンも見逃さずにデュエマを観察していたミヤビの解説は的確だった。彼女が言うように、ダイゴのバトルゾーンには攻撃した《ハッチャキ》と《知識の精霊ロードリエス》がある。猿渡との戦いでしたように、《ハッチャキ》が攻撃する時の能力を使ってコスト5以下のブロッカーを並べるデッキのようだった。
「先制攻撃だ。どうした?天才ゴリラの名が泣くぞ?」
『心配ない』
レオナルド(と通訳の中ノ森)はそう答える。その言葉がダイゴの耳に届いた時、彼らの頭上に巨大な扉が現れた。その扉をこじ開けて、一体の巨人が飛び降りてくる。緑色の体色をした巨人はダイゴの場に並んだクリーチャーを見て鼻で笑った。
「シールド・トリガーか!」
『その通り。《ミラクルとミステリーの扉》で《西南の超人(キリノ・ジャイアント)》を出した』
《ミラクルとミステリーの扉》はシールド・トリガー呪文だ。山札の上から五枚を相手に見せてその中からクリーチャーのカードを選ばせる。そのクリーチャーをコストを払わずに出せるという呪文だ。
「確かにすごいですけれど、選ぶのは会長ですよね?選択さえ間違えなければ怖くないんじゃないですか?」
「確かにタダオの言う通りだ。選択肢があればの話だがな」
テツノスケは苦い顔で答える。それを聞いてもタダオは彼の言うことが理解できないようだった。
「もし、《ミラクルとミステリーの扉》をメインにしたデッキを使っているのなら、余計なクリーチャーは入れていないってことだお。めくったカードの中にクリーチャーが一枚だけってこともあるんだお。それも凶悪な奴が一枚ってことが!」
「もし、選択肢があったとしても、どちらも最悪な選択肢ってこともあるわね。《ミラクルとミステリーの扉》を使うデッキの場合、とんでもなく巨大で重いクリーチャーを入れることが多いから。コスト9くらいの切り札がいきなり出てもおかしくないわよ」
「げげっ!」
ワンコとミヤビの説明を聞いてようやくタダオは《ミラクルとミステリーの扉》の恐ろしさを理解した。相手が選ぶとはいえ、巨大な切り札を簡単に出せるシールド・トリガーが怖くない者などいない。
シールドを攻撃すれば、このシールド・トリガーによって巨大なクリーチャーが現れることがある。シールドへの攻撃を恐れたら準備を終えた相手が手札から切り札を召喚してくる。どうやっても相手の思うつぼだった。
「あ、ワンコ先輩、落ち着いたみたいですね。バナナはもういいんですか?」
「もう充分食べたお。ほら」
ワンコは自分の足元を指す。そこには大量のバナナの皮が置かれていた。驚いてレオナルドの聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)に目を向ける。さっきまで山のようにあったバナナが全て消えていた。
「早っ!いつの間に食べたんですか!」
「完熟で実に美味だったお!皮はデュエマが終わったら消えるからこのままにしておくお」
「そうか。皮がなくなるのなら問題はねえ」
「そういう問題ですか!」
タダオは諦めて場に視線を戻した。
「猿渡、お前もこれにやられたのか?今回は運が良かった。出て来たのはパワー3000の《西南の超人》だからな」
「馬鹿言うな!恐ろしいのはそいつだ!」
猿渡は震える手で《西南の超人》を指した。3000のパワーならパワー2000の《ハッチャキ》をバトルで倒すことは可能だ。だが、その攻撃はパワー4000の《ロードリエス》によって阻まれてしまう。攻撃するのは得策ではない。
『その少年の言う通りだ。《西南の超人》の恐ろしさを味わえ!』
地面を揺るがすような振動と共に《西南の超人》の横に新たな巨人が現れる。下半身が奇怪な水棲生物でできているようなその巨人の名は《剛撃戦攻ドルゲーザ》だ。
『《剛撃戦攻ドルゲーザ》の能力で三枚ドロー!少年、このクリーチャーが怖いかね?』
ダイゴは二つの瞳で《ドルゲーザ》の姿を見つめていた。そして、静かに息を吐いて答える。
「なるほど。確かに《西南の超人》は恐ろしいな。《西南の超人》の持つジャイアントのコストを2下げる能力。そして、《ドルゲーザ》が持つジャイアントの数だけ自身のコストを下げる能力をつかってコストを3下げてコスト5で召喚。さらに《ドルゲーザ》が持つ能力でドローしたか」
《ドルゲーザ》は両腕を組んでダイゴを見ていた。自身の力に絶対の自信を持っているような態度だ。
「落ち着いている場合ですか!あの《ドルゲーザ》ってクリーチャー、パワー9000のW・ブレイカーですよ!攻撃されたらひとたまりもないですよ!」
ダイゴの代わりにタダオが焦っていた。《ドルゲーザ》のパワーの前では《ロードリエス》など紙切れに等しい。
それでも、ダイゴは冷静さを失わない。長い指でカードを引いて行動を始める。
「タダオ、よく聞け。昔の人は言ったもんだ。『召喚酔いしている間はどんな切り札もザコ』ってな。デカブツにはこうやって対処する!」
ダイゴが自分の場にカードを置いた時、《ドルゲーザ》の周りに多くの水が現れる。その水流に飲みこまれて《ドルゲーザ》の姿が消えていった。
「《スパイラル・ゲート》だ。これで攻撃はできないな!さらに《ハッチャキ》で攻撃して《我牙の精霊 HEIKE(ヘイケ)・XX(ダブルクロス)》を出す!ブロッカーが出たから《ロードリエス》の能力でドロー!」
《ロードリエス》の隣に神官のような服を着たブロッカー、《我牙の精霊 HEIKE・XX》が現れた。それを横目で確認して《ハッチャキ》はレオナルドのシールドに拳を叩きこむ。
その瞬間、シールドが青く輝き、風が吹いた。シールドに吸い寄せられるように《ハッチャキ》が歩いていく。
「二発目のシールド・トリガーか!」
『その通り。《ドンドン吸い込むナウ》だ。これで《ハッチャキ》を手札に!』
ダイゴの場にあった《ハッチャキ》のカードがはじけ飛ぶ。それを見たレオナルドは一枚のカードをダイゴに見せた。
「《ドンドン吸い込むナウ》で《西南の超人》を手札に加え、手札に戻す効果を使ったか。《ミラクルとミステリーの扉》だけを頼っているわけではないようだな」
「極神寺、気をつけろ!あいつのデッキはシールド・トリガーが多いぞ!」
「だろうな」
猿渡はレオナルドのシールドを指して言う。ダイゴは苦い顔をしていた。
「ふん。有名進学校の学生でもこんなものか。やはり、人間は愚かだ!レオナルド君には勝てない!」
局面を見て中ノ森が笑う。勝利を確信しているような自信に満ちた顔だった。
「中ノ森教授。あなたは何を企んでいるんですか?」
「いいだろう。教えてやりましょう。私は多くの天才ゴリラを生み出し、育てる。天才ゴリラ軍団を使って愚かな人間を支配するのだ!」
狂人の考えだった。それを聞いた大勢の生徒達の中でざわめきが起こる。
「人間を支配とは……。何故、そんな考えを?」
「ある日、人間が愚かだということを思い知ったからだよ」
中ノ森は低い声で語り始めた。口調から彼の恨みや憎しみが染みだしてくるようだった。
「そう、あれは今から数年前。久しぶりの休みを取った私は妻と娘を誘って出かけようとした。だが、二人は私の誘いを拒んだ!何故か!?それは私の体から加齢臭がして臭いからだというのだ!こんな理不尽があるかね!?」
どんな憎しみが語られるのかと身構えていた生徒達は目を丸くしていた。
「確かに、その時の私は数日、風呂に入っていなかった。だが、おかしいかね?野生の動物だって匂いはあるのだ。おかしいのは過剰なまでに匂いを気にする人間なのだ!」
「風呂入れよ」
「奥さんと娘さんが可哀想」
生徒達の中からそんな声が聞こえる。中ノ森はそれを遮るように叫んだ。
「だから、私はゴリラが人間を支配する楽園を作る。人間が匂いに敏感にならない世界を作り、悩める者達を救うのだ!」
ダイゴは中ノ森に答えない。代わりにレオナルドを見た。
「レオナルド君はそんなことしたいのか?」
『したくない』
スケッチブックの文字でレオナルドが答える。彼の行動に、一切の迷いはなかった。
『でも、教授は親みたいなもの。最後まで付き合う』
「判った。ならば俺が君を止める。処刑対象を変更だ。敵はレオナルド君じゃない。中ノ森教授だ!人間を救うという傲慢な考え持つあなたを処刑する!」
ダイゴが中ノ森教授を指して宣言すると、生徒達から歓声が沸き起こる。顔を真っ赤にして中ノ森は叫んだ。
「レオナルド君、未だ!あの生意気なのをやっつけなさい!」
レオナルドは二体目の《西南の超人》と《ドルゲーザ》を召喚してターンを終えた。
手札が多い。数を並べられて押し切られてもおかしくない。
「確かに、これはマズイな。だが、扉を使うのは君だけじゃない。俺の扉を見せてやる!」
ダイゴが一枚のカードを空にかざすと、上空に金色の模様が浮かぶ。そこから二体の金色のクリーチャーが飛び出す。巨大なガトリング砲を背負った、四足歩行の獣を思わせる肉体のエンジェル・コマンド《ビビラ精霊オッソ・レオーネ》だ。
「《ヘブンズ・ゲート》を使った。これで《オッソ・レオーネ》二体を出す!さらに《ロードリエス》の効果で二枚ドロー!ターンを終了する」
《オッソ・レオーネ》を見てレオナルドの動きが止まる。ドローした後も考えこんでいるようだった。
「《オッソ・レオーネ》ってそんなにすごいクリーチャーなんですか?」
「パワーは7000でW・ブレイカーで攻撃できるブロッカー。ここまでは普通ね」
「《オッソ・レオーネ》は相手のターン中は選ばれないクリーチャーなんだお。《ドンドン吸い込むナウ》でもやっつけられないお」
「時間稼ぎ程度にしかならないかもしれんがやるじゃねえか!」
レオナルドはカードを引いた。だが、引きたかったカードではなかったらしく、しばらくそれを見ていた。
「レオナルド君、何をしている!とにかく動くんだ!」
中ノ森に急かされてレオナルドは《ドルゲーザ》を召喚した。大量のカードが彼の手元に飛んでいく。そのカードを見てレオナルドの動きが止まった。カードを裏向きのままテーブルに置くと空を見て大きな声で吠えた。
「猿渡。お前、どんなカードが来るか心当たりはあるか?」
「いや、俺は《西南の超人》と《ドルゲーザ》を並べられて押し切られた。それ以上の切り札があったとしても俺は知らねぇ!」
「データ無しか。嫌な予感しかしないな」
レオナルドは召喚したばかりの《ドルゲーザ》に一枚のカードを重ねる。すると《ドルゲーザ》がとてつもなく巨大なクリーチャーへと変化した。
校庭の半分を埋め尽くしそうな巨体は、まさに巨人。ジャイアントの名にふさわしい。その進化クリーチャー《真実の大神秘(トゥルージャイアント) 星飯(ドカベン)》は団子のように串刺しになった星を食べていた。両手に持っていた串についた星が全てなくなった時、ゲップをしてダイゴのクリーチャーを見る。食い足りないのか、舌舐めずりをしていた。
「なんですか、アレ……。大きすぎますよ!勝ち目があるんですか?」
《真実の大神秘 星飯》の巨体に恐れをなしたタダオが生徒会役員達に向かって言う。震える声で彼の恐怖が伝わった。
「困ったわね。《星飯》は自身よりパワーが低いクリーチャーにはブロックされないW・ブレイカーなのよ」
「そして、そのパワーは11000だ」
「ダイゴのブロッカーで一番高いパワーは7000だお。ブロックはできないお」
「そんな……!」
ダイゴのデッキはブロッカーで攻撃を受け止めて守るタイプのデッキだ。その特技が封じられたのを知ってタダオは絶望しかけていた。諦めたような目で場を見る。
だが、ダイゴは諦めていない。いつもの彼のような不敵な笑みを浮かべている。
「事実上、ブロックされないW・ブレイカーの切り札か。だが、一体だけなら俺の敵ではない。俺に攻撃が届く前に残りの三枚のシールドを叩き割って勝つ!」
「威勢がいいね。だが、レオナルド君の召喚はこれで終わりではない!」
中ノ森が叫ぶと、レオナルドは《西南の超人》に一枚のカードを重ねた。二体目の《星飯》だ。それを見たダイゴの表情が消える。
「あんなでかいのが二体も!でも、どうして二体も出せたんです?」
「ソウルシフトと《西南の超人》の能力だ」
「ソウルシフトは進化元のコストだけ召喚のコストが下がる能力よ。進化クリーチャーだけが持っているわ。《星飯》の本来のコストは10だけど、《ドルゲーザ》のコストの分、軽減されて2になった。さらに《西南の超人》がいるからその能力で減って1になったわ」
「二体目は《西南の超人》のコストの分、4減って、《西南の超人》二体の能力でさらに4減ったお。だから、2になったお」
「二体召喚したのに、合計でコスト3だなんて……」
《星飯》のような大型進化クリーチャーが1ターンに二体も並んだカラクリは簡単だった。
コスト踏み倒しとコスト軽減。この二つの力をうまく使って、レオナルドは難なく巨大クリーチャーを並べたのだ。
「レオナルド君!もう君の勝ちは決まったようなものだ!攻撃しなさい!」
仲の檻に命じられてレオナルドは《星飯》を動かす。《星飯》は持っていた串をダイゴのシールドに向かって投げつけた。その串は一直線に飛んでいき、シールドに突き刺さる。ダイゴが割られたシールドを手にすると、二枚目のシールドに串が突き刺さった。三枚目、四枚目にも同じように串が突き刺さる。
「レオナルド君!次は《ドルゲーザ》だ!これでシールドをゼロにしてしまいなさい!」
「そこまでだ、中ノ森教授。シールド・トリガーを使う!」
金色の輝きと共に空に模様が現れる。そこから二体の天使が飛び出して来た。
「《ヘブンズ・ゲート》を使った。《我牙の精霊 HEIKE・XX》と《偽りの名(コードネーム) オレワレオ》を出した。《オレワレオ》のパワーは9500!《ドルゲーザ》のパワーを上回る!」
体中にクリスタルをつけたエンジェル・コマンド《オレワレオ》は《ドルゲーザ》の前に立ちふさがり、睨みつける。
『ターンエンド』
これ以上の攻撃はクリーチャーを浪費するだけだ。レオナルドの言葉を中ノ森が通訳する。
それを見たタダオは小さく拳を握る。
「勝てますよ!会長の《オレワレオ》はブロッカーでも攻撃できるようにするクリーチャー!W・ブレイカー一体と他のクリーチャー一体でシールドをブレイクして、他のクリーチャー一体でとどめ。これなら、三体もクリーチャーが余りますよ。余裕です!」
「タダオ、それを本気で言ってるのかお?」
「え?」
安心しているタダオの気持ちに水を差すようにワンコが言った。
「シールド・トリガーがある。《ドンドン吸い込むナウ》みたいなカードの効果で《オレワレオ》がいなくなったらダイゴは攻撃できねえ」
「《オッソ・レオーネ》の選ばれない能力もダイゴ君のターンじゃ使えないしね」
「でも……、でも会長の運なら!」
「はっはっは!」
タダオ達の会話を聞いていた中ノ森が笑い出す。そして、タダオを見た。
「彼の運なら勝てるというのかな?なら、絶望的な情報を教えてあげよう。レオナルド君が使っているデッキはほぼ半分がシールド・トリガーだ。そして、《ドンドン吸い込むナウ》以外にも除去呪文を入れている!この三枚のシールドの中にあるシールド・トリガーの呪文で邪魔なクリーチャーをやっつけてやる!」
「随分とおしゃべりなんだな」
ダイゴが冷水を浴びせるような声で中ノ森に言う。彼は手札にあるカードから一枚を引き抜き、じっと見つめていた。
「来なさい。最後の悪あがきを見てあげよう」
「そうか。それじゃ、遠慮なく」
ダイゴは《HEIKE・XX》に一枚のカードを重ねた。金色の輝きと共に、それは巨大な翼を持つ精霊へと姿を変える。芸術的とも言える美しさを持った鎧に身を包んだ精霊の王がその場に降臨した。
「俺の切り札《聖霊王アルカディアス》だ。パワー12500のW・ブレイカーだ」
《聖霊王アルカディアス》は《星飯》を超えるパワーを持っていた。だが、ダイゴと彼のクリーチャーは《星飯》など見ていない。ターゲットは残る三枚のシールドだけだ。
「《オッソ・レオーネ》でシールドを攻撃する!」
《オッソ・レオーネ》が動き出し、シールドへ突進していく。勢いと巨体を活かした体当たりで二枚のシールドが割られた。そのシールドが青い光を発する。
「会長!シールド・トリガーが!」
「判っている!」
その二枚はシールド・トリガーだったようだ。だが、レオナルドはそれを使わずに手札に加えた。
「何故だ、レオナルド君!シールド・トリガーを使うんだ!《スパイラル・ゲート》と《ドンドン吸い込むナウ》で彼のクリーチャーをやっつけろ!」
「中ノ森教授。それは無理な相談だ」
髪をかきむしりながらヒステリックな声で叫ぶ中ノ森。それに対してダイゴは静かで冷静な声で話す。出来の悪い生徒と優秀な教師のようだった。
「《アルカディアス》が場に存在する間、誰も光文明以外の呪文は使えない。シールド・トリガーで倒したければ光文明の呪文か、シールド・トリガークリーチャーを用意するんだな!」
「くそっ!私が迂闊にもシールド・トリガー呪文などと口にしてしまったからそんな進化クリーチャーを召喚したのか!小癪(こしゃく)な奴め!」
「勘違いするな。俺は今まで使われたカードの傾向から考えてシールド・トリガー呪文が来ると予想して行動していただけだ。水文明なら《スパイラル・ゲート》か《ドンドン吸い込むナウ》。自然文明なら《父なる大地》や《ナチュラル・トラップ》。それらのカードから身を守るために、最初から手札に握っていた」
「そんな……」
呆然とする中ノ森の前で最後のシールドが割られていく。それはダイゴが予想していた《父なる大地》だった。
「あなたの野望はこれで終わりだ!行くぞ、《アルカディアス》!必殺、シャイニング・プリズム・ライトニング!」
《アルカディアス》が天に向かって右手を掲げる。すると、中ノ森の上に雷が落ちて来た。
「ぎゃーっ!」
中ノ森がその場に倒れる。ダイゴと《アルカディアス》が出力を調整した攻撃なので、体にダメージが残るわけではない。ただ、しばらくしびれて動けなくなるだけだ。
「勝ったぞ!これで猿渡の偽者事件は解決だ!」
「ああ。だが、必殺技の名前が致命的にダセェ」
ダイゴが生徒会役員達に勝利を宣言し、いつものようにテツノスケが必殺技名に文句を言う。その横を通り過ぎて猿渡が走った。向かうのはレオナルドと中ノ森がいるところだ。
「立てるか?」
猿渡はレオナルドと一緒に中ノ森を立たせる。彼は気を失っているようだった。
『服、すまなかった』
レオナルドがスケッチブックに書いた文字を見せる。猿渡が何も言えずにいると、レオナルドは文字を書き続けた。
『学校に行ってみたかった。夢が叶った。ありがとう。制服は後でクリーニングして返す』
「そ、そんなこと気にすんなよ!また来い!そうだ。これを持って行け!」
猿渡はジャージのポケットからあるものを取り出してレオナルドに渡す。それは野球のボールだった。
「お前は、今から無双竜機学園野球部の名誉部員だ。元気でな。体に気をつけろよ」
二人の目が合う。レオナルドは嬉しそうな声で吠えた後、学園を去っていった。

それから数日が経った。
タダオは、今でも疑問に思う。何故、自分以外の人間は制服を着たレオナルドを猿渡だと勘違いしたのか。その謎は今でも解けない。
「おい、レオナルド君から手紙が来たみたいだぜ!」
その日、テツノスケは封筒を見せながら生徒会室に入ってきた。顧問の富宝(とみたか)ゴンゾウに渡されたものらしい。
手紙には、無双竜機学園の生徒達への礼、中ノ森が野望を諦めたことなどが書かれていた。手紙以外に、野球のボールで遊ぶレオナルドの写真が入っている。
「猿渡にもよろしくって。初めて人間の友達ができたと喜んでいるみたいだ。タダオも読むか?」
ダイゴに手渡されて、タダオも手紙に目を通す。それは手書きの手紙で、どこかで見たことのある筆跡だった。
「って、これ書いたのレオナルド君じゃないですか!署名入りですし!」
「手紙まで自分で書けるとはすごいわね。さすが、天才ゴリラ!」
その話を聞いていたワンコが顔をあげる。バナナを片手にノートパソコンに向かっていた彼女はこう言った。
「レオナルド君向けにゴリラ語に翻訳したページも作るかお?」

次回につづく

次回予告
彼には彼の武器がある。その力を求めて使者が現れる。気まぐれな彼に選ばれるのは、力を求める者か、ダイゴか。
次回 七話 書道
残像を残し、鳥は羽ばたく。
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