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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第六話 愛と情熱のしょうゆ味!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、平和と治安を維持する者達がいた。
書道の達人、闘魂堂(とうこんどう)テツノスケ。
言語のエキスパート、ワン・チャン。
学園最強の女帝、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビ。
凡人、一ノ瀬(いちのせ)タダオ。
そして、生徒王にして生徒会長の極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。
これは、彼ら、無双竜機学園生徒会が学園に巣食う悪を蹴散らす物語だ。
天才ゴリラのレオナルドが猿渡(さるわたり)の振りをして無双竜機学園に現れた。ダイゴとタダオはその変装に気付く。レオナルドは中ノ森(なかのもり)教授の指示を仰ぎ、ダイゴと対決する。レオナルドが中ノ森教授の野望のために無理矢理従わされていることを知ったダイゴの怒りが爆発。ダイゴは中ノ森教授に怒りの一撃を放ち、レオナルドを解放するのだった。

第六話 愛と情熱のしょうゆ味!

一ノ瀬タダオは思う。生徒会役員は全員、強烈な個性を持っている。生徒会長の極神寺ダイゴの経歴がインパクトがあるため、他が霞んで見えてしまうことがあるが、彼らも只者ではないのだ。
その一人が、今、畳の上で紙に筆を滑らせている闘魂堂テツノスケだ。書家の息子であり、若くして書道のプロとして活躍する彼も、個性あふれる生徒会役員の一人だ。
ダイゴは彼を学園一、字を書くのがうまいと言っていた。タダオもこの台詞の意味を理解し始めた。書道部の顧問の教師でも、テツノスケ以上に達筆な教師は存在しない。
二年のワン・チャン、通称ワンコは言語のエキスパートだ。十以上の言語を話すだけでなく、書くこともできる。彼女が作った生徒会の非公式ブログはほぼ毎日、複数の言語で更新されている。巻き寿司を片手に持って、ノートパソコンに向かっていた。
三年の不死鳥座ミヤビは、毎日、生徒会室で焼酎お湯割り梅入りを飲んでいるだけの生徒に見えるがそうではない。彼女は学園一のデュエマの実力を持つ。ダイゴも自分で二番目だと言うほどだ。
単純に腕っ節も強い。どんな戦いでも強いのだ。
タダオはふと思ったことを口に出す。
「そう言えば、皆さんは部活とかしないんですか?会長は仕事で忙しいからやっていないのは判るんですけれど」
「部活か~。青春って感じでいいわよね~。あたしも生徒会に入らなかったら、部活に入ってたかも」
最初に反応したのはミヤビだった。昔のことを思い出すように遠くを見ながら言う。
「じゃ、部活と生徒会のどっちにするか迷ってたんですか?」
「タダオはミヤビさんの伝説を知らないんだな。教えてやるよ」
ダイゴはタダオの肩に手を置いた。そして、説明を続ける。
「ミヤビさんは、入学した直後に空手部、剣道部、柔道部、レスリング部の男女混合部隊を一人で叩き潰したことがあってな」
「えぇ!?」
無双竜機学園は規模が大きい学校だ。それ故、運動部の人数も多い。格闘技に関する部活の男女混合部隊など、想像するだけで寒気がするほどだ。それを一人で叩き潰すなど、人間のすることではない。
「それ以来、運動部系の部活はミヤビさんを恐れて勧誘しないようにしているんだ」
「うわぁ……」
「弱いのがいけないのよね。あたしも弱い人と一緒なのは嫌だからいいけれど」
ミヤビは可愛らしく口を尖らせて言った。だが、先ほどの話を聞いた後では恐怖が先に出て可愛らしさなどを感じる余裕などはない。
「あ、でも文科系の部活とかもあるじゃないですか」
「そっちも好みの部活がなかったのよね。だから、焼酎部を作ろうと思って生徒会に頼みに行ったの!」
「焼酎部ですか。その頃から好みが変わってないんですね」
自分の好きなことを部活にしようとしたミヤビを見てタダオは微笑む。だが、すぐにおかしなことに気付いて表情が消えた。
「ちょっと、待ってくださいよ……。入学した直後の話ですよね?ミヤビさん、いくつだったんですか!」
「タダオ君?女の子に歳を聞いちゃいけないんだゾ!」
ミヤビは精一杯かわい子ぶって答えるが、タダオはそれに惑わされない。
彼女は二回留年しているので、年齢は二十歳だ。だから、飲酒に関して誰も何も言わない。
だが、入学した直後は未成年だったはずだ。未成年が飲酒をすることなど許されない。焼酎部を作るなどもってのほかだ。
「高校生にふさわしくないから焼酎部は駄目だって言われたわ。日本各地のおいしい焼酎とか焼酎に合うつまみとかを研究したり、ロック、水割り、お湯割りのどれが一番おいしいか調べたりするだけの真面目な部活のつもりだったのに……」
「未成年だから駄目なんですよ!」
タダオの頭に、高校一年生の時から焼酎お湯割りを飲んでいるミヤビの姿が浮かんだ。彼女がその時から焼酎を飲んでいたのか少し気になったが、その思考を脳裏から追い出す。
「ワンコ先輩はどうなんですか?好きな部活とかなかったんですか?」
「実は、ワンコも入学してしばらくは部活に入っていたんだお。料理部だお」
「料理部ですか」
タダオは、可愛らしいエプロンをつけて料理するワンコの姿が浮かんだ。身長が低いので、母親を手伝う小学生のように思える。
「ワンコ先輩らしいと思いますよ。でも、今は続けてないんですか?」
「そうなんだお。料理部を追い出されてしまったんだお」
「えっ?どうしてですか?」
「ワンコは真面目に活動をしていたんだお。味見の達人として」
「えっ……?」
どうやら、タダオが想像していた一般的な料理部の活動とワンコの考えていた料理部の活動は違っていたらしい。
「ワンコは他の人が作った料理を食べて批評する味見役をしていたんだお。君、作る人。ワンコ、食べる人って言ったら追い出されてしまったんだお」
「そりゃ、仕方ないですよ。料理部って料理を作るのがメインですから……」
「でも、誰かが料理を作ったら誰かが食べるものだお」
「それは作った人が食べるからいいんです!」
タダオは頭を抱えた。この二人が部活に入れない理由が理解できた気がする。
彼は最後にテツノスケを見た。彼は話に参加せず、筆で紙に文字を書いている。
「テツノスケ先輩は書道部に行ったりはしないんですか?去年の文化祭で手伝ったって聞いたんですけど……」
「冗談じゃねえよ。あんなつまんないところにはいられねえぜ」
テツノスケは吐き捨てるような口調で言う。その姿は気難しい芸術家のようでもあった。
「いられないと言うより、追い出されたと言った方が正しいお。ここで書いている時みたいに、いつも『巨乳』の文字ばかり書いていたから追い出されてしまったんだお」
「うるせえよ。それを言うな。とにかく、俺の芸術を理解できない奴が悪いんだ。あんな奴らと一緒にいられるか!」
「それでも、去年の文化祭は友達に頼まれたから仕方なく書道部の手伝いをしたんだよね~」
「まあ、そうっすけど」
テツノスケが去年の文化祭で書道部を手伝ったという話は聞いたことがあった。
書道部を嫌っているテツノスケを納得させ、彼を追い出した書道部の部員達も納得させられる者がいたのだ。
「テツノスケ先輩を説得できるなんて、その友達ってすごい人なんですか?」
「ある意味、すごいと言えるな。彼はユニークな奴だ」
その時、ドアをノックする音と共に「失礼します」という若い男の声が聞こえた。
「どうぞ。入るといいお」
ワンコの声の直後、扉が開いた。そこに立っていたのは三年の男子生徒だった。
真面目そうな外見の生徒だ。人を疑うことを知らないような目をした、育ちの良さそうな顔をしている。テツノスケと同じように和風の雰囲気を持っていて、髪は黒かった。
彼は生徒会室の中を探すように色々な場所を見ていた。
「闘魂堂君!」
彼はテツノスケを見ると、彼に駆け寄る。膝をついて、さっきまでテツノスケが書いていた『巨乳』の文字を見た。
「今日も素晴らしい出来だね、闘魂堂君!やっぱり、君は天才だ!」
「よせよ、いつもの出来だぜ?」
「謙遜しないでくれ!本当に素晴らしい!」
闖入者は何度もテツノスケを褒めている。テツノスケはあしらうような態度で答えていた。
「この人は誰ですか?」
「彼は村主(すぐり)シンゴ。書道部の部長だ。テツノスケを書道部に協力させた友達だ」
「この人がさっき言ってた人ですか?」
タダオは改めて村主シンゴの姿を見た。
真面目そうだということ以外、特徴のないような男だ。生徒会に入って、毎日のように奇天烈な人々(主に生徒会役員)を見ているタダオにとっては無味無臭の存在と言ってもいい。本当に彼がテツノスケに書道部の手伝いをさせるほどの人間なのか。
タダオが疑問に思っていたら、テツノスケが口を開いた。
「おい、シンゴ。今日は何をしに来たんだ?書道部に入れって話ならお断りだぜ」
「闘魂堂君が断ることは判っているんだ。だから、今日は外壁から攻めることにした」
シンゴは立ち上がると、振り返ってダイゴを見た。手に持っていた風呂敷包みを渡す。
「極神寺君。どうか受け取ってください。闘魂堂君を書道部に加えたかったから、必死になって集めてきたんだ」
「お、話せるじゃないか」
ダイゴは嬉しそうな顔でそれを受け取る。重みのある風呂敷包みだった。
タダオはドラマなどでこれに似た光景を見たことがあった。賄賂だ。商人が悪代官に対して小判を送るシーンや、政治家が風呂敷に包んだ札束を受け取るシーンと同じだ。それが、今、目の前で起ころうとしている。
「シンゴ、お前!」
それを見て、テツノスケが慌てて立ち上がる。目の前で起きていることが信じられないようだった。
「闘魂堂君、今日の俺は本気だよ。君がいれば書道部はもっとよくなる。君に書道部に入ってもらうためなら、俺はどんなことでもするんだ」
「だからって、こんなこと……!」
「まあまあ、そう言うなよ、テツノスケ。彼の誠意を受け取ろうじゃないか。ひゃっはっは!」
下卑た笑みを浮かべてダイゴは風呂敷包みを開ける。だが、その中身を見た時、ダイゴの笑みは消えた。
「……何これ?」
そこにあったのは文字が書かれた半紙だった。多くの生徒の名前が書かれている。その半紙が何枚もあった。
「闘魂堂君を書道部に入れるための署名だよ。全校生徒の三分の一以上の署名を集めた。お願いです!闘魂堂君を俺にください!」
「まるで、結婚を許してもらうために花嫁の父親にお願いする男みたいな言い方だお」
シンゴはダイゴに向かって頭を下げる。その勢いも真剣さも、結婚を許してもらうために頭を下げる男に負けないものがあった。
それを見たテツノスケは額に皺を寄せながら言う。
「シンゴ。俺が入っても書道部が喜ぶとは限らねえだろ?」
「そんなことはない!君の文字を見ればみんな心を奪われる!文化祭の前に君のことを悪く言っていた連中だって、君の文字を見たら何も言えなくなった。君の文字はつまらない悪口や罵詈雑言を跳ね返せる力を持っているんだ!さあ、俺と一緒に書道部に行こう!」
顔を上げたシンゴはテツノスケを見て懇願した。顔を赤くして激しい勢いで語る。
「俺には君が必要なんだ!闘魂堂君、好きだ!愛しているんだ!」
「えぇっ!?」
その台詞を聞いてタダオは混乱する。周りを見たが、ダイゴとワンコの様子はいつも通り、正常だった。これが日常茶飯事だということが判る。テツノスケは迷惑そうな顔をしていた。
「キター!いつ見てもシンゴ君の告白は素晴らしいわ!焼酎のつまみにぴったりね!嗚呼、鼻血が出てしまいそう……」
ミヤビは鼻血を垂らしながら、目を閉じてうっとりしていた。目の端からは感動のせいで漏れた涙が見える。
「え?何で?どこに感動する要素だとか鼻血を垂らす要素があるんです?」
「タダオ君は鈍いのね」
困惑するタダオの発言を聞き、ミヤビは溜息を吐き出し、鼻にティッシュを詰める。彼女はタダオを見た。その目は極限まで見開かれ、真正面からタダオの瞳を捉える。何か重大な発言をする前触れのようだった。
「いい?よく聞きなさい……」
「はい……」
それを見たらタダオも真剣にならざるを得ない。息を飲んで次に続く言葉を待つ。
「男の子同士の恋愛、つまり、ボーイズラブが嫌いな女子なんかいません!」
(真面目に聞かなきゃよかった)
ミヤビの熱弁を真正面から受け止めたタダオは後悔していた。今の記憶を消す方法を考えようとしたが、頭の中でミヤビの言葉がエンドレスに流れ続けている。止めようと思って止められるものではなかった。
「異議ありだお!全員がそうではないお」
「ワンコちゃんは色気より食い気だから仕方ないわよね~」
ミヤビはワンコの異議を却下した。ワンコは頬を膨らませて不服そうな顔でミヤビを見ている。無言の抗議だった。
どうしようもない状況に頭を悩ませたタダオは、ダイゴを見て目で助けを求める。
「気にするな。ミヤビさんがこういうのはよくあることだ。それに、シンゴが言った言葉だって愛の告白じゃない。言い方が紛らわしいんだ」
「いや、どう見ても愛の告白じゃないですか。それにミヤビ先輩たこういうのを好きだって……うわあ……」
「褒められた趣味じゃないかもしれんが、人の趣味にどうこう言うのは感心しないな。それはさておき、シンゴはテツノスケが好きだと言っているんじゃない。テツノスケが書く文字が好きだと言っているんだ」
「言葉を省略する癖があるみたいなんだお。初めて聞いた時は、ワンコも自分の耳を疑ったお。紛らわしい奴だお」
「言葉を省略するって……、省略しちゃダメな言葉を省略してるじゃないですか!」
「文句は奴に言え」
タダオはシンゴを見る。だが、真剣な眼差しでテツノスケを見ているシンゴの邪魔はできなかった。
「悪いけど、書道部に行くつもりはねえよ。ダイゴも何とか言ってやってくれ」
「そんな……!」
テツノスケの拒否を聞いたシンゴはすがりつくような目でダイゴを見た。彼は口を開く。
「こう見えてもテツノスケは生徒会役員だからな。俺達にとっても大事な仲間だ。その仲間が嫌がっていることを無理にさせるわけにはいかない」
「そうか。残念だ」
シンゴはその言葉を聞いて肩を落とした。タダオにはかける言葉が見つからない。
「だが……」
そこでダイゴの目が怪しく光る。白い歯を見せながらいやらしい顔で笑った。
「何もしないというのも良くないな。集めてくれた署名もある。生徒会長としてその努力には応えなくてはならない。だから、テツノスケとシンゴで面白いことをやってもらう」
「馬鹿野郎!俺とシンゴに何をさせるつもりだ!」
「対したことじゃない。ただデュエマで戦ってもらうだけだ。シンゴが勝ったらテツノスケは書道部に入部する」
「そうか。それならすぐにでも!」
シンゴは懐からデッキを取り出してダイゴを見る。鼻息が荒かった。それを止めるようにダイゴが付け加える。
「焦るな。勝負は今すぐじゃない。それにふさわしい時にふさわしい場所で行う。その時が来たら二人に教えよう」
「判った。では、その時まで練習して腕を磨いておくよ。闘魂堂君!」
断られた時とは別人のように生気に満ちた顔でシンゴが去って行った。扉が閉まるのと同時に、テツノスケがダイゴに突っかかる。
「ダイゴ。お前、何を企んでやがる?」
「企むとは人聞きが悪いな。俺はお前達の対決をドラマチックに演出して大勢の人に楽しんでもらおうとしているだけだ」
「お前な。シンゴは変なところもあるが、真面目な奴なんだぞ!見世物みたいにするんじゃねえ!」
「随分、彼の肩を持つな。お前ら二人、できてるんじゃないか?」
ダイゴの邪推に満ちた発言を聞いて、テツノスケは彼の胸ぐらをつかむ。ミヤビは、鼻血を流しながらそれを見ていた。
「小学生の頃、同じ書道教室に通っていただけだ。あいつを変な目で見るんじゃねえ!」
テツノスケはそう言ってダイゴを突き放す。解放されたダイゴは、上着を直しながらテツノスケを見た。
「それよりもテツノスケ。俺達はお前達二人の対決のスケジュールを練るからここから出て行ってくれ」
「はあ!?俺は生徒会役員だぞ!?」
「これから、お前達の対決に関する極秘の会議を始めるんだ。お前がいると、お前を勝たせるために不正をやったんじゃないかと思われてしまうだろう。それが嫌なら出ていくんだな」
「くそっ!」
テツノスケは悪態をつくと扉を開けて出て行った。叩きつけるような激しい音と共に扉が閉まる。
「あの……、テツノスケ先輩を追い出していいんですか?」
「いいんだよ。さて、あいつら二人の対決の内容を決めないとな」
「シンゴを見世物にするのかお?」
ワンコの質問を聞いたダイゴは、自分のデスクに座ると腕を組んで軽く笑う。
「まさか。見方によってはそう見えるかもしれないが、俺はそんなつもりはない。テツノスケを書道部に入れるために努力をした彼に、少しくらい美味しい目を味わわせてやろうと思っているだけだ」
そう笑うダイゴの目を見て、タダオは溜息を吐いた。まともな意見が出て欲しいと祈りながら、彼は席に着いた。

それから数日後の日曜日。生徒会役員は近所の公民館に来ていた。
生徒会役員は全員、制服で関係者の席に座っている。タダオの前には柔道の試合で使われるような大きな畳が敷かれている。暗くてよく見えないが、テツノスケとシンゴもスタンバイしているようだった。
畳の上に立っているダイゴは実況としてマイクを握っていた。
「ようこそ、皆さん。無双竜機学園特別杯にようこそ!」
マイクを持ったダイゴが客席にいる観客に向かって言う。宣伝がうまくいったのか、客席には多くの人が集まっている。学園の生徒以外にも色々な人がいた。
「では、対戦者を紹介しよう。無双竜機学園が誇る書道の達人にして学園一キモい男、闘魂堂テツノスケ!」
畳の上に正座した作務衣姿のテツノスケがライトで照らされる。彼の周りには書道の道具と大量の半紙が置かれていた。
「ダイゴ、テメェ!誰がキモい男だ!」
「おーい、学園のみんなー!テツノスケは巨乳巨乳ばかり言っていてキモいよなー!」
テツノスケの怒りを無視してダイゴがギャラリーに向かって訪ねる。すると、「キモーい!」と同意する女子の声が聞こえた。それに混じって「生徒会長もキモーい!」という声が聞こえる。
「うるさい!人をキモいという奴は最低だ!」
「さっきまで会長も言っていたじゃないですか……。人のこと言えませんよ」
「キモい」コールが収まると、ダイゴも気を取り直して実況を続けた。
「対するのは挑戦者。無双竜機学園書道部部長にして、書道一筋の男、村主シンゴ!」
ライトがシンゴを照らす。彼も畳の上で正座をしていた。テツノスケと同じように作務衣を着ている。彼の周りにも書道の道具が一式置かれていた。どちらも同じものだ。
二人の周囲に置かれた書道の道具を見てギャラリーがざわめく。
「二人に与えられた書道の道具を見て驚いた人もいるだろう。デュエマをするのに何でこんなものが必要なのか、と。今回の勝負はただのデュエマじゃない。書道デュエマをしてもらう!」
「書道デュエマ、ですか?」
初めて聞く単語にタダオが首をかしげる。ギャラリーの中からもそれについて説明を求める声があった。
「説明しよう!書道デュエマとは書道とデュエマを組み合わせた競技!通常のデュエマならマナを支払い手札からカードを出してカードを使用する。だが、書道デュエマではこれにもう一つの手間が加わる。プレイヤーは使用するカードを紙に書かなくてはならない!例えば《ヘブンズ・ゲート》を唱えたとしよう。普通なら手札からカードを出して使うカードの名前を言った時点で効果を使える。だが、書道デュエマでは口で宣言するのと同時に文字で書かなければならないのだ!同名のカードなら一枚書けばいいというものではない。そのカードを使う度に、また新しく文字を書かなくてはならない。もし、書いた字が汚ければそのカードは使用不可能となってゲームから取り除かれる。墓地に置かれるわけではないから再利用も不可能だ!字が綺麗かどうかの判断は審査員がするぞ!」
ダイゴが審査員の席を手で示す。そこには、和服を纏った老人達が座っている。タダオのような一般人でも名前を知っているような著名な書家達だ。
「なるほど。普段のデュエマにひと手間加えたんですね」
「口でもカード名を言って、手でさらに書かなくちゃいけないなんて面倒だお」
「でも、書道好きな二人に合ってるんじゃない?それに、シンゴ君もテツノスケ君が書いた字をたくさん見られるし」
「あ、そうか……」
タダオはミヤビの言葉を聞いてダイゴの目的に気付いた。
シンゴはテツノスケが書いた文字を好んでいる男だ。このルールなら、テツノスケが書いた文字を多く見ることができる。それだけでも、シンゴにとっては価値のある試合だ。
「行くぜ、シンゴ!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
テツノスケがデッキを置くと、彼の周りの空間が白く光った。今回は、ソファは現れない。だが、以前と同じように水着姿の巨乳美女達が集まっていた。
「テっちゃん、大丈夫?書道デュエマだって?」
「でへへ、大丈夫大丈夫」
水着美女達に、だらしなく緩みきった顔で答えるテツノスケは、いつもの彼だった。大勢の観客や著名人の前でも変わることがない。自分を貫き通すのは、ある意味では立派だった。だが、多くの人は軽蔑しているだろう。
水着美女がパネルに変わるとシンゴもデッキを置いた。
「勝負だ、闘魂堂君!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
シンゴの背後が白い光に包まれる。その光が消えた時に現れたのは衝立だった。その衝立には、隙間が埋まるほどにたくさんの半紙が貼られている。その文字を見て多くの人が悲鳴を上げた。それは全て『巨乳』と書かれた半紙だった。
「げ……。シンゴ先輩ってテツノスケ先輩と同じで巨乳好きの変態だったんですか?」
「違うな。シンゴは学園でも五本の指に入るほどの真面目な人間だ。巨乳が好きだから衝立にあんな文字を貼り付けているんじゃない。よく見ろ」
タダオが目を凝らしてシンゴの背後にある多くの文字を見た。その筆跡には見覚えがある。
「これって、もしかして全部テツノスケ先輩が書いた字じゃないですか!」
「そうだお。奴はテツノスケが書く字を何よりも愛しているんだお」
「その愛が空回りしちゃってる印象はあるけどね。でも、真面目なのは確かよ」
シンゴの顔は緩み切っていない。これから戦いに赴く侍のように、真剣そのものといった顔をしている。だからこそ、貼られた『巨乳』の文字がおかしく見える。
「シールドのセット完了。手札も引いた」
「おい、シンゴ。そんな文字貼った聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)はやめろよ」
テツノスケは忠告するが、シンゴはそれを聞かない。首を横に振った。
「何を言うんだ、テツノスケ君。この『巨乳』の文字はテツノスケ君が書いた文字の中で最もイキイキしている。生きた感情が伝わってくるんだ!だから、俺の聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)にはこれを貼りつける!まずは俺のターンだね。《海底鬼面城》を要塞化!そして、とりゃーっ!」
シンゴがカードを動かすと、一枚のシールドが奇怪な姿の城へと変化した。それを確認した彼は筆を取ると勢いよく半紙に文字を書いていく。
シンゴの文字を見た審査員達は迷うことなく『有効』と書かれた札を上げた。
「おおーっと!有効の札!さすが書道部の部長だ。無効にはならない!」
「やっぱり、書道部の部長はすごいですね。ところで、要塞化って何です?」
城のカードを初めて見たタダオが聞く。
「城はシールドにくっつけるカードだお。城をシールドにつけることを要塞化って言うんだお。ついているシールドが場を離れない限り、効果が続くお」
「《海底鬼面城》は持ち主のターンの最初に一枚追加ドローができるカードなの。この時、相手も引けるわ」
「じゃ、シンゴ先輩のターン開始時に二人とも一枚引けるんですね」
魅力的なカードだった。テツノスケにとってもプラスになるカードだ。
だが、彼は苦い顔をしてそれを見ていた。
「手札補充か。お前が恩恵を受ける前に何とかしたかったが仕方ねえ。先攻はそっちだもんな。だから、俺はこいつだ!」
テツノスケはカードを出し、素早く文字を書く。テツノスケが書き、審査員に見せた《凶戦士ブレイズ・クロー》の文字は、相手に飛びついて襲いかかろうとする荒々しさが感じられた。
『有効』の札と共にドレッドヘアーのトカゲの戦士《ブレイズ・クロー》が姿を見せる。両手の爪を叩いて鳴らしていた。
「すごいよ!闘魂堂君!」
コスト1のクリーチャーの出現で自分の城とシールドが危ういにも関わらず、シンゴは手を叩いて喜んでいた。
「コスト1のクリーチャーが持つ獰猛さを現しているような文字だ!見事だよ!」
興奮するシンゴとは対照的に、テツノスケは冷めていた。
「まだ1ターン目が終わっただけだぜ。来いよ、シンゴ。お前のターンだ」
「判った」
互いに《海底鬼面城》の効果でドロー。さらに、シンゴは本来のドローを終えて行動を始める。彼はマナを二枚タップし、赤くかわいらしい鳥のクリーチャーを召喚した。
「《ライラ・ラッタ》か。やってくれるぜ」
《ライラ・ラッタ》はつぶらな瞳でテツノスケのシールドを見ていた。軽量だが、比較的パワーが高いクリーチャーの出現にテツノスケが戸惑う。
彼は少し考えた後、一枚のカードを選んで場に出した。
「《地獄のケンカボーグ》だ。これなら、《ライラ・ラッタ》のパワーに負けねえ。《ブレイズ・クロー》でシールドブレイク!」
新たに場に出た《ケンカボーグ》の横を通り抜け、《ブレイズ・クロー》が走る。鋭いつきが城ごとシールドを突き破った。
「これで《海底鬼面城》のドロー効果は使えねえぜ」
「いいんだ。もう引きたいカードは引けた。召喚!」
シンゴがカードを置くと、《ライラ・ラッタ》が姿を変えていく。今までの姿を小鳥とするなら、これは成長した大人の姿と言える。長く伸びた首と大きく広がった翼。すらっとした体。進化クリーチャー《火ノ鳥カゲキリ》がそこにいた。
「これが俺の切り札だ!《カゲキリ》行け!」
《カゲキリ》が音もなく《ブレイズ・クロー》に近づき、すれ違いざま、翼で真っ二つに切り裂く。
それと同時に、もう一体の《カゲキリ》がテツノスケのシールドの前に現れる。それは口から怪音波を発し、テツノスケのシールドを砕いた。
「え?分身した!?」
驚いたタダオは目をこすって、もう一度場を見る。《ブレイズ。クロー》に攻撃した《カゲキリ》の姿が消えていく。
「《カゲキリ》のメテオバーンよ。進化元のカードを墓地に捨てることでアンタップできるの」
「この能力で《カゲキリ》は二回攻撃できたんだお」
恐ろしい進化クリーチャーだった。もし、シールドに攻撃を集中していたら、二枚もブレイクされていた。
「まだまだだな」
だが、テツノスケは余裕があるのか、そんなことを呟く。そして、筆を取って字を書き始める。
「シンゴ、お前の字は硬い。真面目なのはいいが、それが字に出過ぎている。書の前では己を殺せ」
テツノスケは書いた文字を見せた。そこに書かれていたのは、シンゴの切り札《火ノ鳥カゲキリ》だった。
「すごい躍動感だ」
シンゴはデュエマを忘れてそれに見入る。同じ紙、同じ道具で書いた文字だが、テツノスケの文字は今にも飛び立とうとするクリーチャーの動きが見える。一部のギャラリーも驚いていた。
「《カゲキリ》はお前の切り札だろ?だったら、もっと《カゲキリ》の気持ちになって書け。こいつを空に飛ばしてみせろ」
学園の生徒達は普段と違うテツノスケを見て、息を飲んでいた。書道を極めた達人を思わせる言動や仕草に、多くの者が見惚れていた。
「すごい余裕だ!なんと対戦中に相手にアドバイスを送っている。これで負けたらすごくはずかしいぞ!」
「ダイゴ、うるせえ!」
マイクを持って実況するダイゴに向かってテツノスケが叫ぶ。その時点で、彼はいつものテツノスケに戻っていた。
テツノスケは使うカードが決まっているのか、迷うことなく一枚のカードを選び《ケンカボーグ》に重ねる。
「待たせたな。俺の切り札《鬼神!ヴァルボーグなう》だ!」
《ケンカボーグ》は巨大なドリルを多数装備した《ヴァルボーグなう》へと変化を遂げる。テツノスケが書いた文字も《ヴァルボーグなう》に合わせた激しい筆跡のものだった。
「まずはクリーチャーの排除だ。《ヴァルボーグなう》で《カゲキリ》を攻撃!」
《ヴァルボーグなう》の行動を素早かった。一度の跳躍で標的との距離を詰め、右腕のドリルで容赦なく貫いていく。シンゴの切り札は姿を消した。
「テツノスケ先輩も速い!でも、どうしてシールドじゃなくてクリーチャーを狙ったんでしょう?」
「速攻相手にクリーチャーを残すのが怖いからだお。シールドはクリーチャーの数を増やしてから後でブレイクすればいいお」
「そうね。ちまちまブレイクしていったら、少しずつ相手の手札を増やすから次のターンで使われかねない。でも、ギリギリまで攻撃を我慢したら大丈夫。速攻デッキは一気に増えた手札を使い切れない」
シールドへの攻撃はタイミングが重要なのが判った。二人とも速攻デッキを使っている。シールドブレイクは相手の手札を増やすことにつながる。読みが試される戦いだ。
「シールドへ攻撃してこないんだね。なら、俺は《クック・ポロン》を召喚だ!」
シンゴが新たに呼びだしたのは《ライラ・ラッタ》よりも一回り小さい小鳥のクリーチャーだった。だが、そのクリーチャーを見るテツノスケの目は鋭い。
「嫌なもん、出してくるんだな」
「同じタイプのデッキの対決なら、ブロックされない《クック・ポロン》の能力が活きる!闘魂堂君、どうする?」
挑発的な言葉を投げかけられてテツノスケが迷ったのは一瞬だった。彼は手札から一枚のカードを引き抜くと、場に出す。人の上半身にも不定形な存在にも見える白いクリーチャーが現れた。
「ちっ!だったら、ガラじゃねえが《ねじれる者ボーン・スライム》召喚!こいつで守る!」
「ブロッカーか」
実況を忘れたダイゴが呟く。それくらい意外なことだったのだ。
「《ボーン・スライム》は攻撃もできるコスト1のブロッカーだお」
「でも、パワーは1000よ。それに一度シールドを攻撃したら破壊されるわ。ブロックするにしても、攻撃するにしても一度が限界。使い捨てみたいなブロッカーね」
ワンコとミヤビが言うように《ボーン・スライム》は非情に脆い。だが、それだけで充分だった。
余裕が生まれたテツノスケはシンゴのシールドを見据え、《ヴァルボーグなう》に指示を出す。
「行くぜ!《ヴァルボーグなう》でW・ブレイク!」
ドリルによる荒々しい攻撃がシンゴのシールド二枚を貫いた。その中にシールド・トリガーはない。
「シンゴ、《クック・ポロン》で来るなら来いよ!《ボーン・スライム》で道連れにしてやるぜ!」
《ボーン・スライム》のパワーは低い。だが、《クック・ポロン》と同じ数値だ。テツノスケが言うようにブロックして道連れにすることはできる。
苦悶の表情を浮かべたシンゴはカードを引いた。それを見た時、彼の目の色が変わった。
「そうはいかないよ。《ボーン・スライム》にはどいてもらう!」
シンゴがカードを見せると、突然、《ボーン・スライム》の肉体が燃え始めた。同時に、《クック・ポロン》の横の空間に赤い穴が開く。
「《超次元キル・ホール》だ!《ボーン・スライム》を墓地へ!さらに、効果で《サコン・ピッピー》を出す!」
赤い穴からは新しい小鳥が生み出される。それを横目で見ながら《クック・ポロン》はシールドに向かって走った。
「行け、《クック・ポロン》!」
主の応援を受けた《クック・ポロン》のくちばしがテツノスケのシールドをつついた。
「《クック・ポロン》を倒す方法はブロックするか、クリーチャーの能力や呪文の効果で破壊すること。その内の一つであるブロックを封じる方法もちゃんと用意していたのね」
「数を増やすことも忘れていないお。ブロッカー破壊だけにターンを費やしたわけではないんだおね」
ブロッカーを破壊されただけでなく、増援まで現れた。テツノスケにとって好ましくない状態だ。
「ちっ、クリーチャーを殺れないんだったら、シールドだけを狙うしかねえ!こいつの出番だ!」
テツノスケの場に現れたのは鶴の騎士のようなクリーチャーだった。純白の羽根を広げ、燃える炎の剣を持っている。
「《突風のゴーマッハ・スワン》召喚!こいつはスピードアタッカーだ!お前のシールドは残り二枚だったよな。これで終わりだ!」
《ヴァルボーグなう》が腰を落として構える。力を溜めたそのクリーチャーは、静から動へと転じ、走り出した。だが、その攻撃がシールドに届くことはなかった。《ヴァルボーグなう》は突如、青い光を出してその姿を消していく。嫌な予感がしたテツノスケはシンゴの場を見た。
「《斬隠テンサイ・ジャニット》さ。闘魂堂君なら速攻で来ると思って入れておいたんだ」
「ちっ!だったら《ゴーマッハ・スワン》でブレイク!」
《ゴーマッハ・スワン》の攻撃は通る。だが、それでも破れるシールドは一枚だ。残り一枚のシールドを破り、さらにとどめを刺す。そのためには最低でも二回の攻撃が必要だ。
「俺を次のターンで倒すつもりかもしれない。だけど、そうはいかない。俺は勝つ!勝って君を連れていく!」
青い光と共に、新たなクリーチャーが現れる。それはベレー帽をかぶり、巨大な機械を操縦する水の子供のようなクリーチャー《トロン》だった。
「ブロッカーか!」
「そうさ。これも闘魂堂君対策だ。これで君の攻撃を止める。そして《サコン・ピッピー》を《カゲキリ》に進化!」
赤い光を出して《サコン・ピッピー》が《カゲキリ》へと姿を変えていった。変化を終えた《カゲキリ》は即座に攻撃を開始する。残像を残しながら二枚のシールドをほぼ同時に破っていく。
「さらに《クック・ポロン》で最後のシールドをブレイク!」
《クック・ポロン》のくちばしがテツノスケの最後のシールドをつついた。その時、それが赤く輝く。
「まずい!シールド・トリガーか!」
それを見たシンゴは頭を抱えた。その一枚のせいで、見えていた勝利が消えてしまうかもしれないからだ。
だが、テツノスケは舌打ちをしながらそれを場に出す。いいカードではなかったようだ。
「シールド・トリガー《問答無用だ!鬼丸ボーイ》!」
チェーンソーを思わせる形状の刀を二本持った人型のクリーチャー《問答無用だ!鬼丸ボーイ》がテツノスケの場に現れた。《鬼丸ボーイ》は何もない場に向かって刀を振り回している。
「シールド・トリガークリーチャーですか!でも、何で何もないところに刀を振っているんです?」
タダオが疑問に思うのも無理はない。それが意味のある行為には見えないからだ。
「《鬼丸ボーイ》は出した時に相手のサイキック・クリーチャーをパワーの合計が8000以下になるまで破壊できるんだお」
「でも、シンゴ君の場にサイキック・クリーチャーはいない。さっきまで《サコン・ピッピー》がいたんだけどね」
紙一重とも言うべき状況だった。もし、シンゴが《クック・ポロン》を《カゲキリ》の進化元にしていて、シールドの攻撃の順番が変わっていたらテツノスケはシールドを一枚残していたかもしれない。
だが、デュエマに『もしも』はない。『もしも』を願っても、何も変わらない。
「どうするの?《鬼丸ボーイ》でクリーチャーを攻撃する?それでも俺の《クック・ポロン》は生き残るよ。それに《トロン》でブロックもできる」
「シンゴは余裕だーっ!テツノスケ、万事休すか!」
テツノスケは完全に追い詰められていた。シンゴにとどめを刺すためには《トロン》とシールドを排除しなくてはならない。だが、今、この場にいる二体のクリーチャーでは無理だ。《トロン》とシールドの排除で精一杯でシンゴには届かない。
盤面の情報だけを見て、誰もがテツノスケの負けを感じた時、彼は口元だけで静かに微笑んだ。
「弱いと思って甘く見ていたぜ。強くなったじゃねえか」
「当然さ。俺は闘魂堂君の戦い方を参考にしてデッキを組んだし、練習した。君がいたから強くなれたんだ!」
「俺がいたから強くなれた、か。うれしいことを言ってくれるじゃねえか」
テツノスケは手札のカードを指で弾いた。
この時、タダオは感じる。あれがテツノスケの切り札であり、彼がずっとキープしていたカードだと。
「ここまで来たら狙いは一つだ!行くぜぇっ!」
テツノスケは《鬼丸ボーイ》に一枚のカードを重ねる。すると、その体が赤い光に包まれて変化を始めた。与えられた巨大なキャノン砲を両腕に持ち、体を赤い鎧で包んだ。
人々がその姿を認識した瞬間、その進化クリーチャーは両腕のキャノン砲で《トロン》を打ち抜く。
「俺の進化ヒューマノイドが《ヴァルボーグなう》だけだと思ったか?これが追い詰められた時のための真の切り札《滅殺鉄拳オニジゴク》!!」
「まだそんな進化クリーチャーを……!」
《滅殺鉄拳オニジゴク》はその瞳で最後のシールドを睨む。両足に力を入れ、走り出した。
「これでお前のシールドを守る奴はいねえ!それに俺のクリーチャーは二体ともコスト4だ。《テンサイ・ジャニット》でも戻されねえ!《オニジゴク》!シールドをぶち割れ!」
「しまった!」
《オニジゴク》のタックルが最後のシールドを破る。その横を飛ぶ白い存在がいた。《ゴーマッハ・スワン》だ。シンゴの目は羽ばたく白い翼をしっかり捉えていた。
「まだ、君に追いつけないよ。書道でもデュエマでも……」
「当たり前だ。場数が違う。鍛練が違う。何よりもお前には遊び心が足りねえ」
《ゴーマッハ・スワン》は持っていた剣でシンゴの脳天を叩いた。シンゴは呻くと、両手で頭を押さえた。
「とどめ、手加減はしておいたぜ」
「勝者、闘魂堂テツノスケ!」
歓声が公民館を包む。素晴らしい対戦と綺麗な文字を見たのだ。観客が熱くならないはずがない。
テツノスケはシンゴの側に駆け寄り、彼の手を取る。生徒会の役員達も彼らに近づいた。シンゴはテツノスケを不思議そうな目で見ながら言う。
「闘魂堂君。俺は自分を鍛えるには何をすればいい?」
「それは自分で考えろ。だが、これだけは覚えておけ。書の道は女の道だ。女遊び一つせずに書道をしようってのが間違ってるんだよ」
「そうか。そんなことは考えたこともなかった」
テツノスケが言った言葉を聞いて、シンゴは純粋に感動しているようだった。他の者達が口を挟むこともできない。
「そうだ。俺が負けたのだから、君に何かを渡さなくちゃいけないな。本気のデュエマは何かを賭けるものだから」
「いいって。そんなこと気にすんなよ」
「そうもいかない。今、俺に用意できるのはこれくらいだが、受け取ってくれないか?」
シンゴが懐から出したのは、包装されたしょうゆ煎餅だった。テツノスケはそれを受け取って見た。
「これ……」
「そうだよ。俺達が小学生の頃、一緒に行っていた書道教室の近くにあった煎餅屋のものだ。よく食べてたじゃないか」
「そう、だったな」
テツノスケがそれをかじると、思い出が蘇ってくる。懐かしさに涙がこみ上げてきそうだった。
「これだけでいいよ。いいものをくれてサンキュな」
「闘魂堂君。それじゃ」
シンゴはテツノスケと生徒会役員達に頭を下げて去ろうとした。
「ちょっと待つんだ。これを持って行くといい」
そんな彼にダイゴは一枚のディスクを渡した。
「これは?」
「俗に言うギャルゲーというものだ。真面目な君では女遊びができないだろうからシミュレーションから初めてみるといい」
「ダイゴ!シンゴに変なもん教えるな!」
テツノスケがダイゴに向かって吠えるが、シンゴは感激していた。
「ありがとう、極神寺君!俺はこれで闘魂堂君の教えを守ってみせるよ!」
シンゴは感激した様子で去って行った。それを見ながらテツノスケが口を開く。
「お前、今回のデュエマ、あいつのために企画したのか?」
「何を言っている?『人の不幸は蜜の味』が俺の信条だぞ?お前が負けて書道部に連れて行かれるのを期待していたのさ。そうなったら、お前の茶が飲めなくて困るが仕方ない。お前が書く『巨乳』の文字を見なくて済むと思うとせいせいする」
ダイゴはテツノスケに背を向けて去っていく。その背中に向かってテツノスケが言った。
「馬鹿野郎!明日も明後日も見せてやるから覚悟しとけ!あと、茶くらい書道部から出張して用意してやってもいいぜ!」
そう言ったテツノスケの顔は輝いていた。シンゴとの戦いで満足したようだった。

翌日。
生徒会室には生徒会役員の他にシンゴが来ていた。
「すまない、極神寺君!俺にギャルゲーを教えて欲しいんだ!俺では誰一人として振り向いてくれない!」
「ああ……、そうなのか」
苦笑いするダイゴにシンゴはギャルゲーをプレイした時の様子を語った。どうやってもクリアできないらしい。
「まだまだ俺には修行が足りないみたいだ!君の力を貸してくれ!」
「テツノスケ~、こいつ何とかしてくれよ~。女遊びを教えてやってくれ~」
「お前が何とかしろよ。俺は書道で忙しいんだ」
「そんな~」
今、シンゴはダイゴを尊敬の目で見ていた。テツノスケを見る目と同じ、師匠を見るような目だ。
「ご教授お願いします!極神寺君!」
「勘弁してくれ~!」
その日が終わるまで、生徒会室にはダイゴの情けない声が響いた。

次回につづく

次回予告
神は自分に似た存在として人間を創った。そして、今、人は自分に似た存在を生み出す。他者を圧倒するその力を求めて争奪戦が始まる。ダイゴ、そして、生徒会役員はその戦いに巻き込まれる。
次回 七話 機械
電子の悪戯に酔え。
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