スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第七話 ボンジュール!ミーとワインとチーズ味!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、平和と治安を維持する者達がいた。
書道の達人、闘魂堂(とうこんどう)テツノスケ。
言語のエキスパート、ワン・チャン。
学園最強の女帝、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビ。
凡人、一ノ瀬(いちのせ)タダオ。
そして、生徒王にして生徒会長の極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。
これは、彼ら、無双竜機学園生徒会が学園に巣食う悪を蹴散らす物語だ。
書道部部長の村主(すぐり)シンゴが生徒会室にやって来た。彼は、テツノスケを書道部に加えたいと言う。テツノスケは拒否したが、ダイゴはシンゴとテツノスケの対戦を提案する。カードの使用と共に、自分が使ったカードの文字を書く『書道デュエマ』でシンゴはテツノスケの文字を堪能する。シンゴの速攻に苦戦するテツノスケだったが、何とか勝利。二人は互いの実力を認め合い、それぞれの道を進むのだった。

第七話 ボンジュール!ミーとワインとチーズ味!

「あ、会長。もう来てたんですか」
生徒会室の扉を開けた一ノ瀬タダオは部屋の中を見て言う。
珍しいことだった。生徒会室に一番乗りになるのはタダオが一番多かったからだ。
よく見ると、極神寺ダイゴだけでなく、闘魂堂テツノスケもいた。生徒会室にいる時は書道をするため、紺色の作務衣でいることが多い彼だが、今日は制服だった。
「ああ、このポスターの準備をしていたんだ。今日は校内にこれを貼るぞ」
ダイゴがタダオに渡したのは、イラストと文字が書かれたポスターだった。『校内に犬・猫を持ちこまない!』という注意書きの文字が目立つフォントと色で書かれている。だが、それ以上に目立っていたのは文字よりも上部に描かれたイラストだった。ダイゴが好みそうな幼さの残る体型の萌え系美少女が頬を膨らませながら『どうぶつを学校に連れて来ちゃめっ、なんだよ。おにいちゃん』という台詞を吐いている。
「な、何なんですか、これは」
「説明がまだだったな。最近、校内を徘徊する動物が現れたのだ。学校の中に動物を連れて来ている生徒がいるらしい。近所の野良猫を餌付けするということもあるな。そういう行為は認められていないから注意喚起のためにポスターを作ったんだ」
「そういうことじゃないんです!この子はなんですか?」
「俺が考えた萌え萌え妹キャラ、エリーちゃんだ。イラストは俺が描いた」
タダオはダイゴの意外な才能を知った。才能の無駄遣いだと思うのだった。
「ダイゴ、タダオはそんなこと言いたいんじゃねえよ。何でそんなキャラ描いてるのかって言いたいんだろ?」
「テツノスケ先輩!」
意外なところから助け舟が出た。普段はおかしな発言ばかりしているが、それでも先輩だ。ダイゴが間違っている時はきちんと注意してくれる。この時、タダオの目はテツノスケへの尊敬の念で溢れていた。目の端から漏れてしまいそうだった。
「そんな貧乳キャラじゃなくて、こういうのにしろってタダオは言いたいんだよ。なあ?」
テツノスケが見せたポスターもダイゴと似たような構成のポスターだった。テツノスケのポスターに描かれているのが、非情に露出度の高い巨乳美女が『坊や、校内にペットを連れこんじゃ駄目よ?』と悩ましい仕草で言っているイラストだという点だけ違う。
「テツノスケ、馬鹿なことを言うな!お前のイラストの方がまずいだろう。肌色の部分が多すぎる」
「うるせー!俺の描いたイラストのどこが悪いんだ!お前の貧乳チビ助の方がまずいだろうが!」
巨乳美女のイラストを描いたのはテツノスケだったらしい。書道、茶道の他にもあったテツノスケの才能を見てタダオは頭を抱えた。
「とにかく、ポスターを作り直しましょう。ただ好きなイラストを描くんじゃなくて校内に動物を連れこまない、校内でペットとして飼わないことを伝えるような絵にしましょうよ」
「うーん、それじゃ、こんなのはどうかしら?」
いつの間にか生徒会室の中にミヤビが入っていた。彼女はイラストのラフを生徒会役員達に見せる。それは、校内に連れて来られた動物が丸焼きにされているイラストだった。その下には『動物を連れこまないでください。無許可でペットとして飼われている動物は、見つけ次第、スタッフがおいしく頂きます』と書いてあった。
「ひでぇーっ!」
三人の声が合う。何をしてでも、このポスターだけは反対しなければならないと思った。
「み、ミヤビさん。さすがにそれはまずいっすよ。動物を丸焼きにして食べるってのはちょっと……」
まず、ダイゴが口火を切った。テツノスケがそれに続く。
「そうっすよ。生徒会が動物を丸焼きにしてるみたいじゃないすか!」
「だから、そう思われないためにスタッフってしてるじゃない」
「そういう問題じゃないですよ!」
二人が抗議してもミヤビは引く気配を見せない。タダオは溜息を吐いた後、話題を変えようとした。
「そう言えば、ワンコ先輩が来ませんね。どうしたんでしょう?」
「学食で何か食ってるんじゃないのか?」

「おーい、誰か開けてくれおー」
ノックの音に続いて、少女特有の高い声が聞こえてくる。ワンコの声だ。
「どうした?食べ物を持ちすぎてドアを開けられないのか?」
ダイゴは自分のポスターを会議用のテーブルの上に置くと扉を開けた。廊下に立っていたワンコは両手で大きな箱を抱えていた。満面の笑みを浮かべている。
「たくさん買ってきたな。何だ、それは」
「今から見せてあげるお。みんな、もっと近くに来るといいお」
ワンコは生徒会室の中に入り、会議用のテーブルの上に箱を置く。全員が近くに集まったのを見ると「じゃーん!」と言って箱を開ける。中に入っていたのは犬のロボットだった。毛の代わりに紺色のポリカーボネイトを身に纏っている。つぶらな二つの瞳があるべき場所は黒い長方形のバイザーのようになっていた。
「キャーっ!」
絹を裂くような甲高い悲鳴をあげたのはミヤビではない。ダイゴだ。黙っていれば美しく見える彼の顔は青ざめ、恐怖に歪んでいる。彼は膝の力だけで高くジャンプすると自分専用のデスクの裏に隠れた。
「お……、おい!そのおぞましい物体はどうした?」
「ジロキチ・ピエールだお。一緒に入っていた紙に名前が書いてあったお!」
ワンコは笑顔でジロキチ・ピエールという名のロボットを抱きかかえる。一瞬、顔を出したダイゴはまたデスクの裏に隠れた。
「俺が言っているのはそういうことじゃない!どこでそんなものを手に入れて来た!?」
「近くのホテルでチーズフォンデュ食べ放題をやってたから行って来たんだお。おいしすぎて食材を食べ尽くしちゃったから、帰ることにしたんだお。その途中でこれを拾ったんだお!」
「捨て犬ロボットなのね。可哀想……」
ミヤビは道場するような目でジロキチを見た。
「ダイゴ、これ飼ってもいいかお?」
「ダメです!元々あった場所に捨ててらっしゃい!」
「何でお母さんみたいな言い方してるんですか!」
タダオのツッコミを消し去るように激しい勢いでダイゴは続けた。
「今は、学園内に無断で動物を連れこむ生徒が増えている。生徒会でそれに対する注意アカン気のポスターを作っていたところだ」
「そんなことしてたのかお?」
タダオは、ダイゴとテツノスケが作ったポスターを見せる。ミヤビが作ったものはショッキング過ぎて見せるのがためらわれた。
「うわあ……、趣味丸出しだお」
ワンコはポスターを見た後、軽蔑するような眼差しでテツノスケを見た。
「生徒会が注意喚起をしているのに、生徒会役員のワンコがそんなことをしたら示しがつかないだろう?だから、ダメだ」
「そんなあ……」
「ダイゴ、お前、犬嫌いなだけだろ」
「ギクッ!」
判りやすいリアクションだった。ダイゴは頭だけ出してテツノスケを見る。
「何で判った」
「今までのお前の行動を見て判らない奴がいるか?」
「何で犬嫌いなの?かわいいじゃない」
ミヤビに聞かれて、ダイゴは少し迷った顔をしていた。しばらく考えた後、溜息を吐き、話し始める。
「あれは今から十年近く前か。田舎のばあちゃん家に泊まっていた俺は、そこで飼われていた犬と仲良くなった。名前はヒロシ。柴犬だ」
ダイゴはそこまで話すと一息入れて苦悶の表情を浮かべた。
「ある日、俺とヒロシは近くの河原に散歩に行った。ヒロシは嬉しそうに河原を走り回っていた。俺が遊び疲れて河原で寝そべっているとヒロシが近づいてきた。妙に体をプルプルさせていると思ったが、気にしなかった。眠くなってうとうとしていたからな。ヒロシは俺の顔の側まで来た。あの時のヒロシの切なそうな顔は今でも忘れられない。ヒロシはプルプルさせた尻を俺の顔に近づけ……、そして、尻から、尻から……、うわぁーっ!!」
当時の記憶を思い出すことに耐え切れなくなったのか、ダイゴは顔を押さえて呻く。黙って話を聞いていた生徒会のメンバーも青ざめていた。
「だから、俺は犬が嫌いだ。人の顔に向かってブリブリやらかす奴はこの学園には一匹たりとも入れさせん!そして、入って来た奴は排除する!」
ダイゴが宣言した時、グポーンという音と共に、ジロキチのバイザーが光った。黒いバイザーに二つの赤い目が現れる。
「ひっ!」
ダイゴが怯えた声を出すとジロキチが首を振った。
「オーゥ、そんなに怖がられるとショックデース」
「ウワァァァ、シャベッタァァァ!!」
ダイゴは気が狂ったように震えながらデスクを叩く。恐怖に精神が耐えられなくなっているのか、目があらぬ方向を向いていた。
「ジロキチ、お前、しゃべれたのかお?」
「ノー!ミーはそんなダサい名前じゃないのデース!マイネームイズJP!おフランス生まれのスーパーロボットデース!」
ジロキチはワンコの腕の中で暴れながら抗議する。その首筋を見ながらテツノスケが呟いた。
「お前、首にメイドインチャイナって書いてあるぜ」
「そ……そんな!ミーが、ミーが中国製!?」
そうとうショックだったのか、ジロキチは首と肩を落としてうなだれた。頭からは煙が出ている。
「冗談だ。本気にすんなよ」
「オーゥ、やめて欲しいデース。心臓に悪いデース!」
「お前、心臓あるのかお」

「そんなこと話してる場合じゃないですよ!」
タダオが叫ぶ。ミヤビもそれに続いた。
「そうね。おフランス生まれなのに、何で英語交じりの日本語でしゃべっているのかしら?」
「そういうことでもないです。いいですか?ジロキチは人と会話できる高性能なロボットですよ」
「スーパーロボットデース!」
ジロキチの訂正を無視してタダオは続ける。
「ワンコ先輩はこれを拾ったって言いましたよね。ジロキチを落とした人が困ってるんじゃないですか?」
「元飼い主に返せってことかお?」
「そうです。一緒に入っていた説明書にこれを作った会社とか研究所の連絡先が書いてあるかもしれません。そこに連絡しましょう」
「さすがだ、タダオ!ナーイスアイディア!そうしよう。それがいい。早く連絡して、そのおぞましい物体を引き取ってもらえ!」
タダオの提案にダイゴが大声で賛同する。彼はまだ、デスクの影に隠れたままだった。
「ジロキチを……、返す」
ワンコはジロキチの顔を見ていた。しばらくすると決心したように顔を上げる。
「そんなの嫌だお!」
「ええっ!?」
「ジロキチは、もうワンコが責任を持って飼うと決めたんだお。ワンコのものだお!」
「ジロキチちゃんはそれでいいの?」
ミヤビはワンコの腕の中のジロキチに聞く。ジロキチは目を光らせながら答えた。
「はっはっは。ミーは研究所での暮らしなど飽きているのデース!それに、マスターワンコがミーを飼うというのなら従うのデース。それがブシドーデース!」
「問題なさそうだぜ。説明書のここを見ろよ」
説明書を開いたテツノスケが全員にあるページを見せる。そこには『ジロキチに色々な体験をさせて、色々なことを覚えさせてください』と書かれていた。
「この近くに箱が置いてあったのも、この学園の生徒に持って行ってもらうためじゃねえか?学校な色んな奴がいるからな」
「なるほど」
テツノスケの説は的確だった。ジロキチを返すことを考えていたタダオも納得する。
「でも、念の為、連絡入れておきますね。うちで飼うことになりましたって」
「やったおー!ジロキチ、これからずっと一緒だお!」
「ノー!JPデース!」
歓喜して抱きしめるワンコと呼び方について抗議するジロキチ。これで問題は解決したように思えたが、水を差すようにダイゴが発言した。
「ダメだダメだダメだ!俺がダメと言ったら絶対にダメだ!」
「いいじゃないですか。犬じゃなくて犬のロボットですし」
「ダメだ!俺は全校生徒を統べる王、生徒王だぞ!その俺がダメと言ったらダメだ!」
「……仕方ありませんね」
タダオは我儘な子供を見るような困った顔でダイゴがいる場所を見て溜息を吐いた。
この時、ダイゴは自分の勝利を確信した。先輩想いのタダオはダイゴの意見を尊重し、ジロキチを捨てることに賛成する。過去の行動を見てタダオが自分を尊敬していることはダイゴもよく判っていた。だから、間違いなく自分の意見に従うと思っていた。
しかし、それは誤りであり、判断ミスである。ダイゴはそれを残酷な方法で思い知らされる。
「それじゃ、多数決で決めましょう。ジロキチをここで飼ってもいいと思う人は手を上げてください」
「は?タダオ、何を言って――」
「はーい!」
ダイゴの声を遮るようにミヤビとワンコが元気な声を出して手を挙げた。テツノスケも「まあ、反対する理由はねえな」と、挙手する。
「もう決まりですね。それじゃ、ジロキチをここで飼いましょう」
「待て、タダオ!まだ飼うのに反対の人間の意見を聞いていないぞ!」
「ミスターダイゴ。男らしくないデース。もう賛成意見を過半数が超えているのデース。民主主義の勝利デース!」
「チクショー!」
そう言って叫ぶと、ダイゴはデスクから出た。ジロキチから距離を取るように部屋の隅を走りながら部屋を飛び出す。
「オーゥ、嫌われてしまったデース」
「ジロキチ、気にすんなお。ダイゴもきっとジロキチのことを好きになるお」
「マスターワンコ。ジロキチじゃなくて、JPデース!」
「判ったお、ジロキチ」
ワンコが訂正を受け入れないのを感じて、ジロキチは肩を落とした。目の赤い丸はバツ印に変わっていた。

それから数日が経った。
研究所の許可を得て、ジロキチはワンコが管理することに決まった。下校と同時に自宅にジロキチを持ちかえり、ジロキチと一緒に登校するようになった。登校した後は、生徒会室にジロキチを置いて行く。
ジロキチは生徒会だけでなく、生徒会に入り浸る者達にも受け入れられていた。
「うわ~、かわいい犬型ロボット~!」
そう言って頬に両手を当てて感激しているのは、ダイゴの秘書、蜜本(みつもと)ユウミだ。
「かわいい~!ダイゴも抱いて撫でてみればいいじゃない!」
ジロキチを抱えながらそう言うのは、毒島(ぶすじま)ショウコだ。ユウミとショウコは外見はかわいらしい少女に見えるが、二人とも男である。ダイゴに好意を持っているという共通点もある。
「あ、でも、この犬型ロボットじゃなくてアタシを撫でてもいいんだからねっ!って、何言わせんのよ!」
「勝手に何言ってんだよ……」
ダイゴはげっそりとやつれた顔をしていた。犬嫌いはすぐに直せるものではない。今も彼は自分のトラウマと戦っていた。
「ワンコちゃんって、本当にジロキチが好きね~。犬、好きなの?」
「うん、そうだお。今まで犬を飼いたかったんだお」
ジロキチはショウコの手から離れてワンコの手に移った。ワンコは、ジロキチを撫でながらミヤビの問いに答える。
「研究所と違って、今は、いい暮らしデース。マスターワンコは色々な食べ物の匂いをかがせてくれる素晴らしい飼い主デース。特に、ミーの好きなチーズはよく匂いをかがせてくれるデース!これでワインの匂いをかがせてくれれば最高なのデース!」
「じゃ、焼酎の匂いはどう?」
ミヤビが自分のグラスをジロキチの鼻先に近づけた。すると、ジロキチは顔を背ける。
「オ、オーゥ、これは苦手デース」
「あ?」
ミヤビはジロキチの頭をつかみ、睨みつける。ジロキチは細かく振動しながら
「別にそんなことはなかったデース!焼酎もいい匂いデース!」
と、答えた。
「いい子ね、ジロキチちゃん!」
そこで、扉が開いて一人の男が入って来る。四十代のナイスミドルに見える渋い二十代、富宝(とみたか)ゴンゾウだ。生徒会の顧問である。
「やぁん、富宝せんせぇーい!」
ミヤビはどこから取り出したのか、犬耳カチューシャを持っていた。それを頭に装備し、富宝に抱きつく。
「酒くさっ!」
富宝が正直な感想を漏らしてもミヤビは気にしなかった。上目遣いの潤んだ瞳で富宝を見る。
「ほーら、あなただけのかわいい子犬ですよ~。ワンワン!」
「うわぁ……」
それを見ていた生徒会役員は耐え切れなくなって呟く。
だが、ユウミとショウコの反応は違っていた。
「さすが、お姉さま!それじゃ、アタシも……」
「あ、おもしろそうだからボクもー!」
二人はミヤビと同じように、どこからか犬耳カチューシャを取り出して頭に装着する。ダイゴに近寄り、上目遣いで彼を見た。
「総帥、あなただけの犬ですワン!」
「べ、別に撫でてくれてもいいんだからね!……何よ、早く撫でなさいよ、バカァッ!」
あまりにもひどい状況を見てダイゴは頭を抱えた。可能なら、現実逃避をしたいと強く願った。
「ところで先生。何か大事な話があるんじゃないですか?」
富宝がミヤビを引きはがそうと、彼にタダオが聞いた。
「そうなのだ。一何とかドル君。今日の議題でもある」
「一何とかドル君って何なんですか!円高のせいで名前の価値が下がりそうですよ!僕は一ノ瀬タダオです」
「判ったよ、一セント君」
「もっと安くなった!」
富宝の口から発せられた議題という言葉を聞いて、ダイゴは意地の悪い笑みを浮かべる。
「悪いな。今から会議なんだ。部外者は出て行ってもらえるか?」
「会議じゃしょうがないか。でも、総帥!ボクという犬の飼い主は総帥だけだからね!困ったらすぐ呼んで欲しいワン!」
「ダイゴ!他の犬に浮気なんかしたら許さないんだからワン!」
二人は好きなことを言って大人しく引き下がろうとした。それを富宝が呼びとめる。
「待て、お前達。最近、外で不審な男達が目撃されているらしい。一人で帰るのはやめておけ」
「不審な男達ですか?」
タダオが気になって聞く。
「そうだ。目的は何か判らないが、学園の周辺で妙な男達がうろついているらしい。何かを探しているようだな」
「ふーん、確かに危なそうだお。じゃ、ワンコも一緒に帰るお」
鞄に荷物を詰めるとワンコはジロキチを抱えて立ち上がった。
「あれ?用事ですか?」
「そうだお。ジロキチと一緒にチーズフォンデュ食べ放題に行くんだお」
「チーズフォンデュ楽しみデース!」
三人と一匹(?)は生徒会室を出ていく。ジロキチが部屋から出ていくとダイゴの顔に生気が戻った。
「よし!あの犬さえいなければ、もう何も怖くない!さあ、今日の会議を始める!」
そう言ったダイゴの顔は満ち足りた笑顔だった。

校門から出た三人と一匹(?)は近くの道を歩いていた。ワンコは楽しみなのか、スキップしている。
「そんなにおいしいの?」
興味を持ったのか、ユウミが聞く。
「そうだお。ホテルの食べ放題だから味は一級品だお!ワンコだったら、食材を全部食べ尽くしちゃうくらいだお!」
「そんなにおいしいんだったら、ダイゴも誘ってあげればよかったわね。……か、勘違いしないでよね!アイツと一緒にチーズフォンデュ食べたいとか、そんなこと全然思ってないんだから!」
顔を赤くしたショウコが早口で言う。
「ダイゴは誘っても来ないと思うお。犬嫌いだからジロキチの側にいたがらないんだお」
「嫌われてミーはショックデース!」
その時、どこから現れたのか、数人の男達が三人と一匹を取り囲んだ。全員がオリーブ色のトレンチコートを着ている。
「お前ら、何者だお?」
男達を見上げながらワンコが聞く。ユウミは脚を軽く開いていつでも動き出せる体勢を作る。ショウコもデッキを取り出して戦う準備をしていた。
「答える必要はない。JPを渡してもらおう」
相手の狙いがジロキチだと判り、ワンコはジロキチを抱きしめる腕に力を入れた。
「ミーに何の用があるのか知らないが、ミーはお前達に用などないのデース!マスターワンコ!」
「判ってるお!」
まず、ユウミが動いた。素早い動きで目の前の男に拳を叩きこむ。バランスを崩して後ろに倒れたその男を踏みつけながら、ワンコが走って逃げた。
「待て!」
当然、トレンチコートの男達が追いかける。だが、ユウミとショウコの動きの方が速かった。二人は男達の前に回り込んで道を塞ぐ。
「アタシ達が相手よ!ユウミ、ダイゴに連絡!」
「もうやってるよ!」
ユウミは携帯電話を取り出してダイゴに連絡を取っている。その目は男達から離れることはなかった。ショウコもデッキを持って警戒している。
「デュエマで俺達を止める気か。ただの女子高生では相手にならない」
男の一人がデッキを取り出した。それを見てショウコは不敵な笑みを浮かべる。
「別にアンタ達の相手をしてあげようなんて思ってないんだからね!アタシは時間稼ぎになれば充分なんだから!」
ショウコとデッキを持った男の視線がぶつかり合う。今にも、戦いが始まりそうだった。

「おや、なんだ?」
ダイゴはマナーモードにしていた携帯の振動を感じ取って取り出す。ユウミからの着信だった。
「もしもし」
『総帥。大変です!富宝先生が言っていた変な男達が現れました!』
「何だって!お前達は無事か!?」
ダイゴが大声を出したので、生徒会の三人と富宝が彼を見た。
『大丈夫です。でも、狙いはジロキチらしくてワンコちゃんがジロキチを連れて逃げています!ボク達は校門の近くです』
「ジロキチが狙いか。判った。お前達はそこにいろ」
ダイゴは通話を終えると頭を抱えた。
「ダイゴ、何があったんだ?」
「富宝先生が言っていた怪しい男達にワンコ達が襲われかけたらしい。奴らの目的はジロキチだ。今、ワンコがジロキチを連れて逃げている」
テツノスケの問いにダイゴが答えた。
「じゃ、今すぐ皆さんを助けに行きましょう!……会長?」
生徒会室を飛び出そうとしたタダオは、そこでダイゴが青い顔をしていることに気がついた。
「ダイゴ君?まさか、ジロキチちゃんを渡せば助かると思ってるの?でも、ワンコちゃんがあの子のこと気に入ってるの知ってるでしょう!?」
ミヤビに言われたダイゴは目を閉じたまま天井を睨む。しばらくして「判ったよ」と呟く声が聞こえた。
「ワンコがジロキチを気に入ってるのは俺もよく判っている。だが、俺は犬など助けるつもりはない」
「そんな!ひどいですよ、会長!」
「だが、俺は生徒会役員のワンコは助ける。ワンコを泣かせるようなこともしない。つまり、結果的にあの犬型ロボットも助けることになるな」
「会長!」
ダイゴが立ち上がった。その目は闘志で燃えている。
「行くぞ、生徒会役員!学園の周囲に徘徊する不届き者を一人残らずこの手で粛清するのだ!」
「オー!」
全員が決起し、彼らは生徒会室を出て行った。

「マスターワンコ……」
ジロキチは行く先に立ちふさがる者を見て呟く。ワンコもその姿を目で捉えていた。
「何者だお?」
「あ~ら、初対面の人にそんな口の利き方するのは失礼ねぇ」
その男もオリーブ色のトレンチコートを羽織っていた。頭には同じ色の帽子をかぶっている。大柄な男で顎が割れていた。妙にくねくねした動きをしていた。
「まあいいわぁん、教えてあげる。私は波多野(はたの)ラモン。JPをゲットするために雇われた探偵よぉ。私の部下達はあなたのこと捕まえられなかったみたいねぇ」
気持ちの悪い話し方をする波多野ラモンを見て、ワンコは背筋に冷たいものを感じた。悪寒を感じながら、デッキを取り出す。
「マスターワンコ……」
「大丈夫だお。ワンコはジロキチの飼い主。ジロキチのことはワンコが守るお」
「私をデュエマでやっつけて守ろうっていうの?いいわぁ……。私、荒事は苦手だし、ネイルに傷がついちゃうから」
そう言ってラモンはピンク色のネイルが目立つ指で自分のデッキを取り出した。二人は五メートルほど距離を取る。
「聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動だお!」
白い光と共に、ワンコの背後に色々な屋台が現れる。ジューシーな匂いがその場を包んだ。そして、ワンコの前にテーブルが現れる。ワンコはシャッフルを終えたデッキをそこに置き、シールドの設置とドローを終えた。
「オーゥ、さすがマスターワンコ!素晴らしい聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)デース!」
「こっちも負けないわよぉ、聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
ラモンの聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)はシンプルだった。彼の前に、使いこまれた金属製のデスクが現れただけだ。だが、その上にはタバコの吸い殻で溢れた灰皿や黒電話など探偵事務所らしいものが置かれている。ラモンは空いているスペースにデッキを置いた。
「まずはこっちのターンよ!《海底鬼面城》で要塞化!」
ラモンの右端のシールドが青い城へと変化していく。彼のターンの最初にそれぞれのプレイヤーにカードを引かせる《海底鬼面城》だ。
「手札を増やして何をするつもりだお?」
「そんな怖い顔をするものじゃないわぁ。手札が増えて嬉しくない人なんていないもの。でも、あなたは手札を使う暇すらないけどねん!」
「本当に気持ち悪い奴だお!」
確かに、今のターンでワンコが手札を大量に使うことはない。マナにカードを置いただけでターンを終えてしまった。
「じゃ、行くわよ!《海底鬼面城》の効果で一枚多くドロー!いいカードが来たわぁ。それ!」
ラモンが最初に召喚したのは軽量ブロッカーの《トロン》だった。ラモンにはまだ使えるマナがあったがそこでターンを終える。
「最初に攻撃できないブロッカーを召喚するなんて馬鹿かお?そういうのは手札の無駄遣いなんだお」
マナをタップしたワンコは、場にフェレットのようなクリーチャー《幻緑の双月(ドリーミング・ムーンナイフ)》を召喚する。《幻緑の双月》の高い鳴き声を聞きながら、ワンコは手札のカードを一枚マナに置いた。
「オーゥ、素敵デース!《幻緑の双月》は出した時に自分の手札を一枚マナにできるクリーチャー。《海底鬼面城》の効果で増えた手札を有効活用デース!」
「おっと、有効活用するのはお嬢ちゃんだけじゃないわよーん。それっ!」
ラモンが置いたカードによって《トロン》の姿が変わっていく。進化を終えた時、そこには奇妙な機械に乗ったサイバーロードがいた。その機械は四本の足で動き、ドリルや巨大なマニピュレーターで武装していた。
「《エンペラー・ベーシックーン》よぉん。それっ、シールド攻撃!」
《エンペラー・ベーシックーン》が載っていた機械が音を立てて移動し、ワンコのシールドに近づく。そして、巨大なドリルでシールドを貫いた。
「くっ、先攻攻撃を受けたお!」
「それだけじゃないわぁ。メテオバーン!」
《エンペラー・ベーシックーン》の巨大なアームが光線を放つ。その光線から、巨大な怪物のような下半身を持つサイバーロード《電磁封魔ロッキオ》が飛び出して来た。
「マスターワンコ、《エンペラー・ベーシックーン》はメテオバーンで進化元のクリーチャーを全て手札に戻し、山札の上からクリーチャーを出す進化クリーチャーデース!」
「《ロッキオ》を使えば山札の上のカードの操作もできる。考えられた戦略だお」
「ほぉら、私のデッキを褒めてる場合じゃないわぁん。早くしないと私の勝ちで終わりよぉ」
ワンコはその挑発に口では答えない。だが、手札からクリーチャーを出すことで答えた。
「行っけーだお!」
ワンコが出した赤いヒューマノイドは体よりも巨大な四つのドリルを我武者羅に振り回して《ロッキオ》を攻撃する。そのクリーチャーを見てラモンは唖然とする。
「馬鹿な!召喚酔いもなく、しかもタップされていないクリーチャーを攻撃するなんて!」
「これがワンコの進化ヒューマノイド《機真装甲ヴァルドリル》の力だお!」
「オーゥ!《ヴァルドリル》はデッキ進化のクリーチャー!進化クリーチャーだから召喚してすぐに攻撃ができるのデース!それに、《ヴァルドリル》は召喚されたターンに限り、タップされていないクリーチャーを攻撃可能デース!」
その直後、《ヴァルドリル》の下をくぐり抜けて《幻緑の双月》が走る。その先には《海底鬼面城》で要塞化されたシールドがあった。
「行くお!《幻緑の双月》でシールドブレイクだお!」
《幻緑の双月》の頭突きによってシールドは砕かれる。ラモンは手札になったカードを見て鼻を鳴らした。
「ふん。いいわ。これからが勝負よぉん。全力でやっつけてあげるから覚悟しなさぁい」
「望むところだお!」
ワンコは闘志を秘めた目でラモンを睨む。それを見ながらラモンはカードを引いた。

校舎を出たダイゴ達は、すぐにユウミ達を見つけた。ユウミの拳とショウコのデュエマにより、既に三人の男が倒れている。
「お前ら、何をしている!」
そこに向かってダイゴが走る。両手にデッキを持っていた。
「げっ!あれは極神寺ダイゴだ!奴に見つかったのはまずいぞ!」
「まずいのはダイゴだけじゃねえ!」
テツノスケとミヤビもデッキを持ってダイゴに続いた。生徒会役員に周りを囲まれ、トレンチコートの男達は顔に汗をかいていた。
「何故だ、極神寺ダイゴ!データによると、お前は犬嫌いのはず!そんなお前が犬型ロボットのJPを助けるためにここに来たのか!」
「黙れ!俺はあんな犬型ロボットなどどうなろうと関係ない!お前らにくれてやってもいい。だが、そうするとショックを受ける奴がいる。あんなものでも、大事にしている奴がいる!」
ダイゴの二つの瞳が男達を睨む。その視線を受けて男達が怯えた。
「故に、俺はお前達を許さない。俺のこの手でお前達を処刑する!」
「くそっ!だが、俺達を倒しても無駄だ!ワン・チャンの元には俺達のリーダーが向かっている」
「ならば、お前達を速攻で叩き潰してワンコを追う。行くぞ!」
ダイゴの声が合図となり、生徒会役員の三人は聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させる。ここでも戦いが始まった。

ダイゴ達とトレンチコートの男達の戦いは数分で終了した。ダイゴは二つのデッキを操り、二人の相手を同時に倒すという離れ業をやってのけたのだ。
「急ぐぞ!」
「うるせえ!必殺技の名前が致命的にダセェくせに威張るんじゃねえ!」
テツノスケが悪態をつきながらダイゴについて行く。ミヤビとタダオも続いた。ユウミとショウコはトレンチコートの男達の持ち物を調べて彼らに依頼した者の情報を探っている。
「会長、二人同時に倒した後とは思えないほど元気ですね」
「それだけワンコちゃんのことが心配なのよ。こういう時はちゃんとお兄さんしてるわね」
突然、ダイゴが足を止めた。彼を追っていたテツノスケ達も止まる。
「いきなり止まるんじゃねえ!どうした?」
「ワンコが戦っている」
テツノスケ達が目を向けると、そこでワンコとラモンが戦っていた。
「あらら、部下がやられちゃったみたいねぇん。でも、お嬢ちゃんをやっつければ私の勝ちよぉ!JPを頂いていくわぁ!」
「勝手にそんなこと決めるんじゃないお!そんな約束はしてないお!」
「私が負けたら引き下がるのだからいいでしょ!」
「いいだろう。それで受けよう!」
二人の会話にダイゴが割って入る。そこにいる全員が彼を見た。
「お前が勝ったらジロキチを好きにしろ。だが、ワンコが勝ったらさっさと帰れ。いいな?」
「さすが、極神寺グループの総帥ね!決断力があるわぁ!」
「ダイゴ、余計なこと言うなお!」
「ミスターダイゴ、何故、そんなことを言うのデース!」
ダイゴの提案は敵であるラモンには受け入れられた。当然だが、ワンコとジロキチは反対する。飼い主と飼い犬を見て、ダイゴは静かに呟く。
「ワンコ、お前はジロキチの飼い主だろう?」
「そうだお。だから、ジロキチと離れたくないんだお。犬が嫌いだからって意地悪を言うんじゃないお!」
「ミスターダイゴはミーが嫌いだからそんなことを言うのデース!意地悪デース!」
「違うな」
ダイゴは静かな声で、しかしはっきりと断言した。その一言がワンコとジロキチの心に響く。
「俺は意地悪でそんなことを言っているんじゃない。お前も飼い主なら、飼い犬と共に危機を乗り越えてみろ!そこに愛があるなら乗り越えられるはずだ!」
ワンコはダイゴの言葉に答えない。黙ってラモンを見た。
「な、なんなの……!この子、さっきまでと目が違うわぁ!ちょっとアドバイスをされただけなのに!おかしいわぁ!」
タダオは場を見た。
ワンコのシールドは一枚でラモンのシールドはゼロだ。ラモンの場にはブロッカーの《トロン》が三体と《ロッキオ》が一体いる。ワンコの場には《無頼勇騎ゴンタ》が一体と《ヴァルドリル》が一体だ。
今は、ラモンのターンらしく彼がカードを引いた。
「そんな言葉だけで人は強くなれないわぁ!《ロッキオ》を進化!」
ラモンがカードを置き、《ロッキオ》が青い光を出して体を変えていく。そこにいたのは巨大な青い球体の下半身を持ち、長い髪を振り回しながら叫ぶ女性型の進化サイバーロードだった。巨大な球体の周りには小さな球体が浮いている。
「《エンペラー・マリベル》よぉ。《マリベル》でシールドを攻撃!そして、メテオバーン!」
《エンペラー・マリベル》の周囲に浮いていた小さな球体が音を立てて砕ける。すると、《ゴンタ》が赤い光を出してその場から消え去った。
「ノー!《エンペラー・マリベル》は攻撃する時に進化元のカードを一枚、墓地に送ることでクリーチャーを手札に戻す能力を持っているデース!このままでは、マスターワンコの攻撃可能なクリーチャーは《ヴァルドリル》だけデース!」
《エンペラー・マリベル》の振り乱した髪がワンコのシールドを傷つけていく。その攻撃を受けて、最後の一枚は砕けていった。
「さあ来なさい!悪あがきをしなさぁい!どんな攻撃も《トロン》で受け止めてあげるわぁ!」
ワンコの目は最後に残った《ヴァルドリル》を見ていた。その目にも、その顔にも表情はない。それを見たタダオの心が痛んだ。
「会長!何とかして極神寺グループの名前を使ってこいつらを止められないんですか!このままじゃ、ワンコ先輩が負けてしまいますよ!」
その頭をテツノスケが叩く。頭を押さえたタダオが文句を言おうとすると、彼は「黙って見てろ」と言った。
「あらぁ、仲間割れかしらぁ?後で反省会でもするのねぇ。誰のせいでJPを手放すことになったかって。あっはっは!」
「もう勝ったつもりかお」
ワンコの言った一言でラモンの笑いが止まる。彼は信じられないものでも見るような目でワンコを見ていた。
「何よぉ。もう勝ったようなものじゃない。さ、早くこっちにターンを寄こしなさぁい」
「そうはいかないお。ここからはワンコのターンだお!」
ワンコはカードを引いた。そして、迷うことなくそのカードをマナに置く。
「笑いをこらえるのに苦労したお。だって、もうワンコの勝ちは決まっているからだお」
ワンコはラモンに対して笑顔を見せる。その目は、その顔は勝利を疑っていない。決められた手続きを済ませるだけで自分の勝利が手に入る。そんな表情だった。
「何よぉ!三体の《トロン》をどうにかできるっていうの!やれるものならやってみるがいいわぁ!」
「言われなくたってやるお!ワンコのため、ジロキチのためにやるんだお!進化!」
ワンコが手札から選んだのは、今までずっと握っていたカードだった。それを《ヴァルドリル》に重ねる。それと同時に《ヴァルドリル》の姿が変化していった。
現れたのは赤い装甲を纏った鬼だ。巨大な大砲を背負いながら、己の拳で道を切り開く切り札《涙の終撃(ラストアタック)オニナグリ》がそこにいる。
「《涙の終撃オニナグリ》は攻撃する時にコストの合計が6以下になるように相手クリーチャーを破壊できるお。《トロン》なら6体まで破壊できるお!」
《オニナグリ》の砲撃が響く。ラモンの場にいたクリーチャーは絶え間なく続く砲撃を受けて全滅した。
「わ、私のクリーチャーが!」
「クリーチャーの次はお前だお!《オニナグリ》でオカマ探偵にとどめだお!」
《オニナグリ》の手刀がラモンの首を捉えた。ラモンは気を失ってその場で倒れる。
「素晴らしいデース!マスターワンコ、最高デース!」
「よし!勝ったお祝いにチーズフォンデュだお!」
ワンコは笑いながらジロキチを持ちあげた。高い位置に持ち上げられたジロキチも嬉しそうに尻尾を振る。
その時、生徒会役員の近くに一台のワゴン車が止まった。中からスーツ姿の男達が出てくる。
「奴らの仲間か」
警戒したダイゴが仲間の前に立ち、デッキを握る。
「警戒しないでください。私達はこういうものです」
男達の一人が名刺を取り出してダイゴに渡した。ダイゴは男が所属している組織の名に見覚えがあった。
「これは、ジロキチを作った研究所か」
「そうです。実はJPの電子頭脳に欠陥が発覚したのです」
スーツ姿の男達はワンコの腕に抱かれたジロキチを見た。
「じゃ、ジロキチを連れて行ってしまうのかお?」
ワンコは消え入りそうな小さな声で言った。
「ノー!ミーは異常じゃないデース!マスターワンコと一緒にいるデース!これからチーズフォンデュを食べると約束したデース!約束を守るのは男デース!ブシドーデース!」
ジロキチはワンコの腕の中で暴れた。産みの親である研究者達は困った顔でジロキチを見る。そんな中、リーダー格らしい男が言った。
「JPは記憶領域に不具合があります。このまま放っておけば、JPは記憶を失ってしまうかもしれません。だから、すぐに連れて帰って検査と修理をしなければなりません。それには時間がかかりますし、経過を見るために数カ月は外に出さずに研究所内で観察します」
「そうなのかお……」
ワンコはジロキチを見た。顔を伏せた彼女の表情はジロキチだけしか見ることができない。彼女はそのまま腕を伸ばし、ジロキチを研究者に渡した。
「マスターワンコ」
「ワンコは、本当はふさふさでやわらかくてかわいい犬の方が好きなんだお。お前、硬くてさわり心地が悪くてうんざりしてたんだお」
その声は小さく震えていた。時々、言葉が途切れる。
「それに、フランス生まれとか言ってるのとか本当におかしいお。ワンコ、お前はいらないから……、いなくなっても寂しくないから、さっさと行けお」
水の雫が地面を叩いた。それは雨などではない。
「マスターワンコ、お元気で。ミーを忘れないで欲しいデース」
「お前みたいな変な奴、一生忘れないお。どうしてくれるんだお……」
ジロキチは懸命に手を振っていた。ワンコは震えながらそれを見ている。研究者達はジロキチを連れて車に乗り、去って行った。
「ワンコ、良かったのか?」
優しい声でダイゴが聞いた。ワンコはダイゴの胸を軽く叩きながら言う。
「良かったも何もないお。ワンコはジロキチの飼い主だお。ジロキチにとって一番いいことを選ぶのが飼い主の役目だお」
ワンコの右手がダイゴのネクタイを強く握った。そうしないと、寂しい気持ちが外に抑えきれそうになかったからだ。
「ワンコは最後までちゃんと飼い主だったお。さよなら、ジロキチ」

ワンコは力のない足取りで廊下を歩く。昨日まで抱きかかえていて登校していたジロキチは、今は腕の中にいない。
仕方のないことだった。自分の我儘でジロキチの機能を停止させるわけにはいかない。別れるのは悲しいが、ジロキチが自分のことを永久に忘れてしまう方がもっと悲しかった。
「あ……」
ワンコは生徒会室を開けて呟いた。今まではこの部屋の中にジロキチを置いて授業に出かけた。だが、今はここに置いておく物はない。
「朝早くから来るなんて珍しいな。今までのが習慣になっていたか」
生徒会室のデスクにはダイゴがいた。寝不足なのか、目の下にくまができていた。
「そんなことないお。たまたまだお」
ワンコはそう言ってダイゴから目を背けた。彼はワンコに近づき、彼女の顔を見る。
「頬が腫れてるぞ。昨日、ずっと泣いてたのか?」
「うるさいお。乙女の秘密に立ち入るんじゃないお。ダイゴだって目の下にくまができてるお」
言い返すワンコの声は、どこか元気がないように思えた。それを見たダイゴは懐から白い封筒を取り出した。それをワンコの眼前に突き出す。
「何だお?」
「俺の目の下のくまの原因だ。開けてみろ」
封筒を受け取ったワンコはそれを開けた。その中にはワンコの顔写真がついたIDカードと地図が入っていた。そのIDカードの組織の名はジロキチを作った研究所だ。
「ダイゴ、これって……!」
「あの後、研究所と交渉してきた。面白い研究をしているから融資をさせてもらえないかってね。それと、おまけとしてそのIDカードを作ってもらったんだ」
ダイゴは再びデスクに戻った。椅子に体重を預けると窓から外を見る。
「ジロキチのチェックが終わったらそのカードを使って研究所に遊びに行け。アポさえ取れば入れてくれるそうだ」
ワンコは感激した様子でIDカードを握る。
「ダイゴ、ありがとうだお!」
ワンコの顔に本当の笑顔が戻った。ダイゴは背中でそれを感じながら
「それでいいんだ。お前はジロキチの飼い主なんだから、あいつを心配させないように笑ってなくちゃダメだぞ。とりあえず、俺は寝る。授業はサボる」
「判ったお!」
ワンコはIDカードを持って生徒会室を出た。
廊下を歩いていると、前方からものすごいスピードで子犬が走ってきた。それはワンコの横を通り、生徒会室に入る。
「無断で飼われていた犬だお。本当にいたんだおね」
子犬が部屋に入ってからしばらくしてダイゴの叫び声と物音がした。
「うわぁっ!何で犬がこんなところに!ちょ、おい、待てやめろ!俺の顔の上に乗るな!え?待て待て待て待て!何でお前、プルプルしてるんだ?俺の顔に尻向けて……、ってまさか!我慢だ!我慢!って、ぎゃー!」
さっきまでの態度とは大違いの、情けないダイゴの悲鳴が廊下に響いた。

次回につづく

次回予告
正義と敵対するのは悪だけではない。それと敵対するのはまた別の正義。自らの正義を貫くのはダイゴか、それとも……。
次回 八話 正義
蒼き龍のイリュージョンが始まる。
スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

Twitter

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。