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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第八話 嘘まみれ?新聞とヒーローとソーセージ!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、平和と治安を維持する者達がいた。
書道の達人、闘魂堂(とうこんどう)テツノスケ。
言語のエキスパート、ワン・チャン。
学園最強の女帝、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビ。
凡人、一ノ瀬(いちのせ)タダオ。
そして、生徒王にして生徒会長の極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。
これは、彼ら、無双竜機学園生徒会が学園に巣食う悪を蹴散らす物語だ。
ワンコが犬型ロボット、JPことジロキチ・ピエールを拾って来た。ワンコは生徒会でジロキチを飼おうと考える。犬嫌いのダイゴは反対したが、多数決によりジロキチは生徒会でかわいがられることになった。
ある日、ジロキチを狙う探偵達によってワンコ達が狙われる。友の危機を感じたダイゴ達の手伝いもあってワンコは探偵のボス、波多野(はたの)ラモンを撃退する。だが、ジロキチは不具合の修理のために研究所に返されてしまった。
ワンコは涙を飲んでジロキチに別れを告げ、再会を胸に誓うのだった。

第八話 嘘まみれ?新聞とヒーローとソーセージ!

無双竜機学園には色々な部活がある。
部活を名乗る条件は活動をしていて顧問の教師を一人以上つけるという緩いものなので、毎年新しい部活が誕生している。それと同じように毎年、いくつかの部活が廃部になっているのでバランスは取れている。
「へぇ、こんな部活もあったんだ」
一ノ瀬タダオは、校内の掲示板に目を向けた。そこに貼られていたのは新聞部が作った壁新聞だ。普通の新聞と同じくらいのサイズの紙が貼られている。
そこに生徒会の文字を見つけた彼は壁新聞に近づいて記事を読んだ。読んでいる内にタダオの顔色が変わっていく。
「な、なんじゃ、こりゃーっ!?」
壁新聞には嘘ばかりが書かれていた。見出しは『生徒会、またまた予算で飲酒パーティー!?』となっている。ミヤビが焼酎お湯割り梅入りを飲み、ワンコがピザを食べている写真が載っていた。タダオはミヤビのために焼酎お湯割りの準備をしていた。テツノスケは隅で書道をしていたのか写っていない。ダイゴはデスクの上のパソコンを使って何かの作業をしていた。
記事には、『生徒会は予算を私物化して毎日、酒池肉林の宴を楽しんでいる。生徒会予算は我々の学費から捻出されている。予算の無駄遣いを許すな!』と書かれている。
「で、でたらめばかりだ。それにこの写真はいつ撮ったんだ?」
ミヤビの焼酎もワンコのピザも予算で買ったものではない。彼女達の自腹だ。
そして、この日にカメラなど写真が取れるものを持ちこんだ者はいなかったはずだ。携帯電話を取り出してカメラの機能を使った者もいない。
疑問に思ったタダオが写真をよく見ると妙なことに気付いた。
この写真は、生徒会室の扉がある位置から撮ったようなアングルだ。そのせいか誰もカメラに気付いていない。普通に撮った写真なら、誰か一人くらいカメラに気付いていてもおかしくない。
(あの日にドアを開けて写真を撮った人はいなかったはず。じゃ、もしかして盗撮?)
「あーら、誰かと思ったら生徒会見習いの一ノ瀬タダオさんじゃありませんの!」
女子生徒の声を聞いてタダオは壁新聞から視線を逸らして彼女を見た。声の主と思われる巻き毛の女子生徒と、女子生徒に瓜二つの男子生徒がタダオに近づいてくる。ブレザーの襟のバッジで二人とも三年だと判った。
「何ですか、あなた達は」
「ご挨拶が遅れましたわね。私は新聞部の渡辺ヒジリ」
「僕は新聞部の渡辺コブシさ」
「新聞部?じゃ、あなた達がこの嘘新聞を!」
タダオは体をヒジリとコブシに向け、新聞を指して抗議した。それを見て、扇子を出したヒジリは「あらあら」と気のない返事をする。扇子を広げると、口元を隠してタダオに近寄った。
「新聞に真実が必要だと思っておいでですか?」
「えっ?」
ヒジリが小声で言った言葉を聞いてタダオは耳を疑った。嘘を描いたことに対して弁明や謝罪があるのかと思っていたが、そうではない。完全に開き直っている。ヒジリの顔を見ると、悪びれている様子すら見えなかった。
「嘘でもいいじゃありませんか。私達は生徒の皆さんの退屈な毎日にちょっとしたスパイスを差し上げているだけですわ。外の世界をごらんなさい。この世はゴシップや噂まみれ。それが真実であろうとなかろうと関係ない。人はそんなことを日々の話題にして浪費し続ける生物なのです。誰かが話題のタネを提供しなければなりませんの」
「で、でも、嘘をかくのは悪いことだと」
「頑固な子ね。ここを見なさいな」
呆れたようにそう言ったヒジリは扇子を持っていない手で新聞の下の部分を指した。そこには大きさ一センチほどの文字で『この新聞記事は嘘かもしれません』と書いてある。
「こう書いておけば、何も問題ありませんわ」
「問題大ありですよ!」
「きゃっ!」
タダオが怒鳴ると、ヒジリはかわいらしい声を出して飛び上がる。そして、タダオを見ながら後ずさった。それを見たコブシは険しい顔でヒジリに近寄る。
「ヒジリ、どうしたの?」
「コブシ、タダオさんが『この新聞のせいで名誉を傷つけられた。謝罪して、今、穿いている下着を見せろ』と……」
ヒジリは涙を流しながらそう呟いた。いつの間にか、周囲に人が集まっている。
「えーっ!僕、そんなこと一言も……」
「黙れ、変態!」
「お前、真面目そうだと思ったけれど、やっぱり変態生徒会の一員だ!」
「チカン!」
「最っ低!」
タダオが弁明する声をかき消して周りの生徒が騒ぐ。男も女も冷たい目でタダオを見ていた。多くの目に見つめられたタダオは、もう何も言えなかった。
「ちょっと来てもらうよ」
コブシに腕をつかまれたタダオは抵抗しなかった。そのまま、引きずられるようにしてコブシに連れて行かれる。
(ああ、僕はこれからどうなってしまうんだろう……)
ぼんやりとそんなことを考える。連れられて行くタダオの体に、生徒達の鋭い視線が矢のように突き刺さった。矢よりも痛いと、タダオは感じていた。

ダイゴ達四人は新聞部室に向かっていた。ダイゴとテツノスケの表情は険しい。
「まずいな」
「ああ、全くだぜ」
「本当に最悪よ!」
ミヤビは頬を膨らませて怒っていた。
「呼び出されたせいで、焼酎が飲めなくなっちゃったじゃない!」
「今回、呼び出されたのも半分くらいはミヤビさんの行動が原因なんですけどね……」
ダイゴは苦い顔でそう言うと、横目で掲示板を見た。
ミヤビが堂々と飲酒している写真が、嫌でも目に入る。
「でも、何でワンコ達が新聞部に呼び出されるんだお?この壁新聞の写真が問題なんだったら、職員室に呼ばれると思うお」
ワンコは口をもごもごさせながら話す。手にはまんじゅうを持っていた。
「見当はつくが俺にも判らん。困ったことになったな」
ダイゴはテツノスケを見た。二人は揃って溜息を吐く。
「よく判らんお」
「あたし達三人、新聞部の壁新聞のせいでリコールされたことがあるのよね」
「ワンコ、それは初耳だお」
「知らないのも無理はない。俺達が一年の時だ」
ダイゴは当時のことを思い出しながら語った。
「一年の一学期が終わる頃に俺は生徒会長になった。その時は俺、書記のテツノスケ、会長のミヤビさんで当時の生徒会は成り立っていた。ある日、ミヤビさんが予算を使って焼酎を飲んでいたことが判った。そして、俺達がそれを全校生徒に公表して謝罪する前に新聞部がそれを記事にして広めた。その結果、俺達三人はリコールされ、別の奴らが一時的に生徒会役員となった」
「一時的にってことは、どういうことだお?」
「後の奴らが俺達に比べて使えねえってことでひと月も持たずにリコールされちまったんだよ。で、その次の生徒会役員が俺達三人ってわけだ」
「ふーん、じゃ、ダイゴはリコールされるのが怖いのかお」
ワンコは納得したような顔でダイゴを見る。彼は青い顔で首を振った。
「いや、リコールだけならまだいい。今回のネタ以上のものを奴らは持っているような気がしてならない。それを使って俺達をゆすってくるか、尾びれ背びれをつけて新聞のネタにするのかもしれん」
「そんなにヤバい奴らなのかお?」
青くなったダイゴの顔を見て、ワンコはまんじゅうを食べるのをやめた。怪訝(けげん)そうな顔で彼を見る。青い顔をしたダイゴの代わりにテツノスケが口を開いた。
「新聞部の双子、渡辺ヒジリとコブシは『ペンは核兵器よりも強し』の信念を持ってあることないこと書いて生徒を陥れる奴だ。嘘新聞の所為で被害をこうむったのは一人や二人じゃねえ」
「誰か怒って殴り込みに行かないのかお?」
「そうすると、報道の自由を奪ったって言って、殴りこんだ人を糾弾する記事を書くのよ。だから、新聞部にネタにされた人は嵐が過ぎ去るのを待つようにうわさが収まるのを待つの」
「ふむ……。我慢するのは大変だお」
そんな話をしていると、新聞部室の前に着いた。四人を代表してダイゴがドアをノックした。
「どうぞ」
中から女生徒の声がしたので、ダイゴはドアノブを握る。
「ヒジリだ。まだ引退してなかったのか」
その声を聞いたダイゴは吐き捨てるように言った。
「あいつ、性格悪いんだけど、胸はでかいんだよな。身長の割に胸がでかくてそのアンバランスさがそそるっていうか。何とかしてあいつの胸揉む方法はねえかな?」
テツノスケは、リラックスした様子だった。くだらないことを真剣に悩んでいる。ミヤビとワンコは彼に対して南極のような冷たい視線を向ける。
ドアが開いて四人は中に入った。
新聞部の部室は、普通の教室の半分ほどの広さだった。中央に置かれた作業用の大きなテーブルのせいか、狭く感じる。室内は整頓されていたため、ワンコは意外だと思った。メモや書きかけの記事や写真などが散らばっていると思っていたからだ。
ヒジリとコブシの二人はテーブルに面した椅子に座っていた。二人の他に眼鏡をかけたスーツ姿の若い女性がいる。
「こんにちは、生徒会役員の皆さん。今日、あなた方をお呼びしたのは他でもありません」
「胸、揉ませてくれるのか」
テツノスケがそう言った時、ダイゴが彼のすねを蹴った。そして、彼の胸ぐらをつかむと血走った目で睨みつけ、叫ぶ。
「お前は馬鹿か!既に問題を一個抱えているのに、これ以上増やす気か!」
「極神寺君、落ち着きなさい!」
スーツ姿の女性が立ち上がって注意する。それを聞いたダイゴは大人しくテツノスケを放した。
「気をつけろよ。ここは奴らのテリトリーだぞ」
ダイゴはテツノスケだけに聞こえるような静かな声で注意する。テツノスケは「判った判った」と軽い口調で言った。その目はダイゴではなく、スーツ姿の女性を見ている。
「改めまして自己紹介をいたしましょう。私は新聞部の渡辺ヒジリ」
「僕が渡辺コブシ」
「新聞部の顧問をしております戸塚(とづか)マスミです」
生徒相手だが、マスミは頭を下げた。釣られてテツノスケも頭を下げる。
「挨拶はいい。ヒジリ、俺達を呼んだ理由を聞こう」
「言葉の選び方には気を付けた方がいいですわよ、ダイゴさん?あなたもそう思うでしょう?タダオさん」
ヒジリに呼ばれてテーブルの影からタダオが出て来た。バツの悪そうな顔をしている。
「タダオが何かしたのかお?」
「そうだよ。彼は僕らが書いた新聞が事実と異なっていると言って難癖をつけて来たんだ。写真もあるのだから、間違いなどはない!」
コブシはその場にいる全ての者に聞こえるようなはっきりした口調で言った。それに対するせめてもの抵抗なのか、タダオは小さく横に首を振る。
「それだけじゃない。彼はたまたま通りかかったヒジリに淫らな行為をしようとしてきたんだ!」
「何っ!」
それを聞いたダイゴは驚いてタダオを見る。他の生徒会役員も同様だった。今度は、タダオは首を強く横に振った。首が切れてしまうのではないかという勢いで何度も振っている。
「タダオが本当にそんなことをしたのか?」
ダイゴはヒジリに問う。彼女は扇子を取り出すと、口元を隠した。
「私達を疑っているのですか?私は被害者です!でも、負けません!真実を伝えるのがジャーナリズムなのですから!ペンは核兵器よりも強いのです!」
「落ち着いて、ヒジリさん。私が話してみるから」
マスミはそう言ってヒジリの肩を叩くと入口の近くにいる生徒会役員達に近づく。
「この二人が言っていることは本当よ。多くの人が一ノ瀬君のしたことを見ていたの。確かに、彼も若いから……、その、色々と抑えられないこともあると思う。だけど、ヒジリさんを傷つけたことは事実よ。これが一つ。もう一つはあなた達の普段の生活態度についてです!」
マスミは四人の眼前に一枚の写真を突き付けた。それは、壁新聞に貼られていた写真と同じものだった。
「生徒会はみんなのための仕事をするものです!それなのに、その予算を使って飲み食いするのはいけないことよね。特に不死鳥座さんはいけないと思うわ」
「へ?あたしですか?」
マスミの視線はミヤビに向いていた。自分に矛先が向くと思っていなかった彼女は呆けた顔をする。
「そう。あなた、三年生でしょう?未成年なのに、お酒を飲んじゃいけません!お酒を飲むと体に悪いし、あなたくらいの歳なら成長に悪影響を及ぼすかもしれないのよ!」
マスミの声は心の底から彼女を心配しているようだった。ただ注意するのではない。相手への思いやりが込められている。
「ミヤビさんは二十歳のBBAですけどね」
ダイゴは自分にしか聞こえないような小さな声で言った。しかし、言い終わるのと同時にミヤビのかかとがダイゴの足を踏みつけている。ダイゴは声にならない悲鳴をあげた。
「はい……、気をつけます」
ミヤビは頭を垂れて反省したような声で言う。だが、その口元は笑っていて「未成年……。未成年……、えへへ」と呟いていた。
「確かに、予算を勝手に使っていたら怒られるのも仕方ありません。ですが、我々生徒会が予算を私物化していたという証拠はありませんよね?」
ダイゴに言われてマスミは「あっ!」と呟いた。その時、初めてそれに気がついたようだった。
「え、えと……、証拠!証拠はあるわよね!」
慌てた様子で振り返り、ヒジリとコブシを見た。二人は少しも慌てることなくこう言った。
「証拠はこれからつかみますよ。でも、そのための調査をする前にタダオ君に邪魔されてしまったんです」
「そういうことらしいの。だから、あなた達の身の潔白が証明されるまで、調査をさせて?やましいことがないのなら、いいでしょう?」
マスミは困ったような口調で言う。そんな彼女を見ながら、今度はワンコが口を開く。
「あと、タダオは痴漢なんかできるような奴じゃないと思いますお。ヘタレっぽいし」
「そうっすよ。ミヤビさんの巨乳を毎日のように見ているのに手を出せないチキン野郎ですよ!痴漢なんかする勇気はないですよ!」
続けてテツノスケが目茶苦茶な反論をする。こんな反論でも嬉しかったのか、タダオは目の端に涙を浮かべていた。
「えっと……、でも、多くの人が見ていたし……」
「話にならないわね」
そう言ってミヤビが他のメンバーの前に立った。彼女は既に二つのデッキを取り出している。
「ヒジリちゃんとコブシ君って言ったわよね?あたし、自分が写る写真のアングルにはうるさい方なの。この写真はダメね。好みのアングルで撮れていないわ。だから、あたしが二人まとめてこの手で処刑してあげる!校庭に出なさい!デュエマで勝負よ!」
ミヤビは勝利を確信した笑みを浮かべた。自信に満ち溢れた目で新聞部の三人を見る。
ダイゴは警戒した様子でその場の空気を感じ取っていた。教室内に入ってから、ずっとヒジリとコブシがどんな策略で自分達の力を奪ってくるのか考え続けていた。
テツノスケ、ワンコ、タダオは安心した様子でミヤビを見ている。学園最強の彼女が負けるはずがないからだ。
「不死鳥座さん、馬鹿なこと言わないの」
意外にも行動したのはマスミだった。呆れたような顔をすると、ミヤビのデッキを包むようにその手に触れる。
「あなたも高校生なんだから、こんなカードゲームで決着をつけるとか考えちゃダメよ。これから社会人になっていくんだから、こういう方法で解決するんじゃなくて、話し合いで解決させなさい?いいわね?」
「あ、はい……」
ミヤビは毒気を抜かれた様子でマスミを見ていた。今までになかった予想外の反応だ。
「今日はタダオさんを返してあげますわ。ですが、これから私達の調査を妨害したら只ではすみませんわよ」
「報道の自由を踏みにじることは許されない。それは例え、王であっても」
ヒジリとコブシは立ち上がって生徒会役員を見た。タダオは力ない足取りで仲間達に近づく。
完敗だった。ダイゴ達は何もできないまま新聞部室を後にした。

「さて、困ったことになったな」
生徒会室に戻った五人は、所定の位置について作戦会議を始めた。ダイゴは自分専用のデスクに腰掛け、腕を組んでいる。
「会長、すみません。あと、二人からこれを預かってきました」
タダオは泣きそうな顔でダイゴに謝ると、懐から白い封筒を取り出してダイゴに渡した。ダイゴは、それを開いて中身を読む。
「何々……。『生徒会が新聞部の予算を増やしてくれたら証拠は出ないかもしれません。でも、予算を増やしてくれなかったらリコールされるくらいの証拠が出ます』だと!?ふざけているな!」
ダイゴは手紙を丸めるとゴミ箱に向かって放り投げる。
「今回は二年前に比べるとマイルドだな」
「確かに、少しは丸くなったみたいだな。だが、これからが本番かもしれん」
テツノスケの言葉に答えたダイゴは頭を抱える。それを見てワンコが言った。
「リコールが怖いのかお?」
「リコール自体は怖くないし、俺に生徒会長の器がないのであれば、この座を追われてもかまわない。だが、無実の罪でリコールされるのだけは嫌だ。あの一ヶ月間はきつかったぞ。極神寺グループ関連の株価も下がったからな……」
ダイゴは当時を思い出したのか、辛そうに胃の辺りを押さえた。テツノスケとミヤビに比べて彼が受けたダメージは大きかったらしい。
「でも、ふざけた話よね!あの写真、盗撮でしょ!?勝手に人の写真撮るのだけでも許せないのに、無実の罪を着せるなんてやることが汚いわ!やっつけてやるべきよ!」
「僕もそう思います。会長、いつもみたいに何とかできないんですか?」
ミヤビとタダオはダイゴを見る。ワンコも同じようにダイゴを見た。
「ワンコもそう思うお。ワンコ達なりにがんばったし、結果も残してきたのに無実の罪で怒られるのは許せないお。テツノスケも何とか言ったらどうだお」
「そうだな……」
テツノスケは顎に手を当てて立ち上がる。そして、その場にいる全員を見て言った。
「俺に考えがあるぜ」
「ええっ!本当ですか!」
タダオは驚いた顔でテツノスケを見上げる。普段、こういう時にアイディアを出すのはダイゴの役割だと思っていた。しかし、彼も生徒会役員だ。ダイゴが不調の時は彼が動くのだ、と感じた。
「まず、新聞部顧問のマスミ先生だけを呼び出すんだ。ヒジリとコブシがついてこないように気をつける」
「なるほど。戸塚先生は少し頼りない感じですけれど、正義感に溢れた常識人ですからね。説得して僕達が無実であることを理解してもらうんですね!」
タダオはいい策だと思って感心した。これならマスミが言うように話し合いで解決したことになる。だが、テツノスケは「何、言ってんだ?」と、首をかしげた。
「俺の作戦はこうだ。マスミ先生だけをどこかに呼び出してこう言う。『先生!俺、先生のお説教を聞いて目が覚めました!もっと激しく叱ってください!』ってな。マスミ先生に叱ってもらえると思うだけで、燃えてくるだろ!?さっきのマスミ先生を見て、俺はそう思ったぜ!」
生徒会役員は全員、汚物でも見るような目でテツノスケを見ていた。タダオは溜息を吐くと
「他に何か意見がある人はいませんか」
と、言った。
「おい!俺の意見のどこが悪いんだよ!完璧だろ!?マスミ先生、かわいいし!俺好みの巨乳だし!眼鏡かけた女教師だし!コンボパーツ揃ってんじゃねえかよ!」
「戸塚先生の存在が厄介だけれど、新聞部にとってもストッパーになってるんじゃないかしら」
意見を言ったのはミヤビだった。
「どういうことですか?」
「二年前だったら、あの場であたし達をゆすっていたと思うのよ。でも、今回はそうしなかった。二年前と違って戸塚先生がいるから、悪い行動はできないんじゃないかしら?」
「じゃ、戸塚先生に怒られないような方法で勝負して勝てばいいんじゃないかお?」
ワンコはその方法について考えを巡らせた。小さく腕を叩き、ダイゴを見る。
「ダイゴ!今こそ、ヴァンガードをやるんだお。それで、ヒジリとコブシを叩き潰すんだお!」
「俺の名前で遊ぶな!全宇宙のヴァンガードやってないダイゴって名前の人に謝れ!」
「というより、デュエマから別のカードゲームになっただけじゃないですか!戸塚先生はカードゲームで戦うのがダメって言ってたんですよ!」
「じゃ、ベイブレードで勝負するのはどうかしら?」
「ミヤビ先輩!デュエマと同じ会社のものですけど、玩具で勝負してどうなるって言うんですか!」
「同じ会社の商品じゃ駄目か。じゃ、ハイパーヨーヨーならどうだ?」
「会長!コロコロに載ってるホビーで戦う発想から離れてください!」
「じゃ、巨乳対決にしようぜ。マスミ先生とミヤビさんでどっちがバストが大きいか、それで決着をつけるんだ。審査員は俺な」
「テツノスケ先輩、ふざけていると本当に怒りますよ」
全員の意見を聞いたタダオは深く溜息を吐いた。そんな彼を他の四人が見る。
「タダオ。人の意見のダメ出しばかりなのはいけないお。お前も意見を出せお」
「う……、確かに人の意見のダメ出しばかりなのは謝ります。でも……、意見なんか出せないですよ。嘘の新聞で悪党扱いされて、しかも、こっちの土俵で勝負できないんですから。いつもみたいにデュエマで勝負できたらいいんですけど……」
タダオの言葉に対して誰も何も言わなかった。静かに息を吐く音だけが聞こえる。
「デュエマで勝負できないから、こうやって悩んでるんだよ。今さら何が問題なのか言ってどうするんだ。そんなことより、どうやってマスミ先生にかわいらしく怒ってもらえるか考えようぜ!」
「それだ!」
ダイゴがデスクに手をついて立ち上がる。他の四人は驚いた顔で彼を見ていた。
「珍しいじゃねえか、ダイゴ。貧乳派のお前なら俺に反対すると思ってたぜ」
「違う。そうじゃない。デュエマで勝負できないから問題だということに気付いた。つまり、デュエマで勝負できればいい!俺達の土俵にあいつらを引きずりこめばいい!」
「いや、会長。それができないから……」
そこまで言いかけて、タダオは言葉を飲み込んだ。
今のダイゴの目は新聞部にいた時とは違った。既に獲物を捉えてどうやって食べようか考えている肉食の獣の目だ。勝つ方法が見えている。
「いい案が出たのかお?」
「ああ。だが、実行に移すまで数日かかる。数日間、壁新聞を見た者から浴びせられる誹謗や中傷に耐えてくれ。これで、必ず勝つ!」

ダイゴの勝利宣言から数日が経った。
壁新聞の影響は小さくはなく、タダオはクラスメートから『予算ドロボウ』と罵声を浴びせられることがあった。だが、それでも、彼はダイゴの策を信じて耐えてきた。
その日は全校集会だった。体育館に集められた生徒達は退屈そうな様子で教師の話を聞いていた。
「えー、では、今から生徒会からのお知らせです」
壇上にいる教師の声を聞いて、生徒達がざわめき始める。
「生徒会だってよ」
「予算を勝手に使ったの謝るつもりか?」
「でも、あの会長だぜ?」
「謝ったって許してやらないけどな」
その時、体育館の電灯が消えた。直後、スポットライトが体育館の入り口を照らす。そこには五つの人影があった。
「ワルモーノ反応、キャッチ!行くぞ、みんな!とうっ!」
五つの人影の内、リーダー各の男が言って入口から壇上まで飛び移る。他の四人は走って壇上まで移動した。
ライトは五人の姿を照らす。顔を含めた全身を赤タイツで包んでいる五人の姿が生徒達の前に現れた。
「レッドナンジャイ!」
「レッドナンジャイだぜ!」
「レッドナンジャイだお!」
「レッドナンジャイよ!」
「……レッドナンジャイ」
「我ら、生徒会戦隊、ダレナンジャイ!」
全身赤タイツの五人はポーズを決めて名乗りをあげた。それを見ていた生徒達のざわめきは最高潮に達していた。
「あいつら、生徒会だよな」
「あんな格好して何のつもりかしら?」
「俺達を馬鹿にしてるのか!」
そんな生徒達の声が聞こえたのか、右端でポーズを決めていたタダオが中央のダイゴに近づく。
「あ、あの~。さすがにこれは失敗じゃないでしょうか?」
「何を言っている。俺の策に狂いはない!」
「タダオの言う通りだ。さすがにこの服はなかったんじゃないのか。戦隊の真似をするって発想はいいが、こんな安物のタイツはないだろ」
「ドンキホーテでこれしかなかったのだから仕方あるまい」
「でも、赤一色なのはどうかと思うお」
「えー、でも、みんな主役みたいでいいじゃない!色じゃなくてそれぞれの個性で勝負よ!」
「色じゃなくて個性で勝負って、伝説のあのコントのパクリじゃないですか!」
「落ち着け、タダ……、いや、レッド。そろそろ作戦の効果が表れる。見ろ」
ダイゴは体育館の壁側を見た。タダオが見ると、そこにはマスミがいた。子供のように目を輝かせて壇上の生徒会役員を見ている。
「リサーチの通りだな。戸塚先生は戦隊ヒーローを好んでいる。正義のヒーローの言うことややることには疑問を持たないはずだ!あとはこっちのやり方でヒジリとコブシを倒せばいい!」
この数日間、ダイゴはマスミの調査をしていた。彼女のデータを調べた結果、戦隊ヒーローを好んでいることが判り、それを利用した作戦を決行することになった。
「新聞部の渡辺ヒジリと渡辺コブシ!お前達は嘘の新聞を作って生徒会を陥れようとした!我々、ダレナンジャイが成敗する!」
生徒会を照らしていたのとは別のライトがヒジリとコブシを照らす。他の生徒は二人の周りから離れていった。
「何を馬鹿なことを言うんだ!報道の自由を奪う気か!」
「自由と言ったな?ならば、自由の真の姿を見せてやろう!」
ダイゴが指を鳴らすと、体育館の中に砂が流れるようなノイズが流れた。その直後、人の声が生徒達を包む。
『コブシ、撮影はうまく行きまして?』
『ばっちりだよ、ヒジリ』
流れてきたのは、ヒジリとコブシの声だった。
『普通に見ればただの会議をしている生徒会の写真だ。だけど、少し記事を加えれば……』
『生徒会が予算を勝手に使うための会議をしていた、というのはどうでしょう?』
『面白いね。それで行こう』
「何でこんなこと!」
コブシは声を流している犯人を見つけるために放送室に向かおうとした。だが、大勢の生徒が邪魔で思うように進めない。
『本当にお馬鹿な人達。自分で考えずに誰かに与えられた情報に満足して踊らされている。でも、嫌いではないですわ』
『そうだね。ずっといつまでも僕らの新聞で踊ってもらおう』
「やめろー!」
コブシの絶叫が響いた。音声はここで途切れる。ざわついた生徒達はヒジリとコブシから離れた。二人は何もできずに体育館の中央で立ちつくしている。その二人に、マスミが近づいた。
「ヒジリさん、コブシ君。これは一体……?」
「罠ですよ、先生!僕達に暴かれると困るような秘密を持つ者が仕組んだ罠だ!」
心配するマスミを見て、吐き捨てるような声でコブシが言う。
生徒会の五人が二人に近づいて歩いてきた。
「戸塚先生、下がっていたまえ。我々ダレナンジャイはデュエマでこの二人を倒さなくてはならない」
「あ、はい……」
デュエマで決着をつけることに対して、マスミは何の疑問も持たなかった。生徒達と同じように壁側に移動した彼女は
「あ、あの!後でサインもらえますか!」
と、頼んでいた。
「もちろんですとも!」
テツノスケが親指を立てて答えた。マスミは嬉しそうに拳を握ると「やった!」と言ってその場で飛び上がった。
「自由と言ったな。自由には代償が伴う。自分がした行動が巡り巡って自分に帰ってくるものだ」
「じゃ、今の放送は嘘かい?僕達が言った声ではないね!?」
コブシはダイゴの言葉に答える。ダイゴはコブシを見たまま
「お前達が嘘の新聞を書いていたなら、嘘。本当のことを書いていた本物だ」
と、返した。
今、放送室から流れた声は本物だ。ダイゴが秘書のユウミを使って新聞部室に仕掛けた盗聴器で拾った声だ。マスミの前で大人しくしていたせいか、その反動で二人でいる時は生徒達を馬鹿にするような発言をしていた。
「戸塚先生を盾にすればデュエマで戦わずに済むと思っていたようだな。だが、こうなった。さあ、どうする?」
「もちろん、戦いますわ」
「ヒジリ!」
ヒジリがデッキを取り出してダイゴの前に立つ。それを見てコブシが彼女の横へ走った。
「コブシは私のサポートをお願いしますわ」
「判ったよ」
「決まりだな。ならば、我々も行くぞ!」
「じゃ、戦う役目はあたしに任せて!盗撮の恨み、今こそ晴らしてあげるわ!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
ミヤビが他の四人の前に出た。
ダイゴ達が離れた後、彼女の周囲が変化する。彼女が腰掛けるためのソファ。カードを置くためのテーブル。そして、彼女の周りに配置された数人の四十代の美形紳士達が現れて変化が完了した。
「あれ?ミヤビちゃん、今日は面白い格好してるね?」
「ダメよ、おじ様。今はあたしの名前を言うのはダメ。正体不明のスーパーヒーローなんだもの」
「おっと、これは失礼」
紳士達は優しく微笑むと、発光した。光が止むと、紳士達は等身大パネルになっていた。
「やっぱり、生徒会の不死鳥座ミヤビさんではないですか!そんな変な格好をして恥ずかしくないのかしら!」
「しーっ!あたしはレッドナンジャイよ!不死鳥座ミヤビなんて美人でかわいい女の子は知らないわ!」
ヒジリとコブシは呆れながら聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させる。
彼ら二人は大人っぽいスーツ姿に変わっていた。二人の前には上品な色の大きなテーブルが置かれている。その上には、それぞれの名前が横書きで書かれた名札のような物が置かれていた。二人は疲れないように椅子に座っていた。そして、服の目立たない位置に小型のマイクがつけられている。まるで、ニュース番組のようだった。
ヒジリがデッキを取り出し、コブシがシールドを並べた。五枚のカードを引くと二人で手札を見ている。
「新聞部は二人で一つのデッキを使うみたいですね」
「そうだな。あいつらが戦うのを見るのは俺も初めてだ」
ダイゴが口にした言葉を聞いてタダオは彼を見た。顔全体を赤いマスクで覆っているため、表情は判らない。
「心配するな、タダオ」
マスク越しの表情を読んだのか、ダイゴはタダオを見て言った。
「ミヤビさんは学園最強だ。俺も勝ったことはない。必ず勝つさ」
「そうですね」
タダオが改めて場に目を向けた時、既にデュエマは始まっていた。
「《フェアリー・ライフ》!」
「こっちも《フェアリー・ライフ》よ!」
ミヤビも新聞部側も最初は《フェアリー・ライフ》でマナを増やした。
ミヤビが使うのはいつもと同じ、火と自然のドラゴンデッキだ。そのため、序盤でのマナブーストは必須となる。
ヒジリとコブシのマナゾーンには自然文明の他に水文明のカードが置かれていた。デッキの全貌はつかめない。
「真似しないで下さいますか?」
「《フェアリー・ライフ》なんて自然文明を使っているデッキなら、みんな入れているようなものじゃない。気にしないの!」
挑発的な一言を投げかけたヒジリはマナをタップして緑色のカードを出した。それは《フェアリー・ライフ》だった。二度続けての《フェアリー・ライフ》に生徒達はざわめく。
「マナを増やしてターン終了ですわ」
「僕達のデッキが本領を発揮するのはまだ先です。動き出した時はミヤビさんを仕留めていますよ」
大した自信だった。
好戦的な態度が気に入ったのか、ミヤビはマスクの下で笑顔を作ってカードを引いた。
「マナをチャージして《エコ・アイニー》を召喚よ!」
ミヤビの場に美しい羽根を持った緑色の鳥が現れる。《エコ・アイニー》が翼を広げた時、二枚のカードがミヤビのマナゾーンに置かれた。
「こっちのマナは充分ね。さあ、あなた達はどうするの?マナを増やすだけじゃあたしには勝てないわよ!」
「判っていますわ。マナの次は手札です!」
「そうさ!《超次元エナジー・ホール》!」
青い光と共に彼らの頭上に穴が開く。そこから黄色くて四角い戦車のようなクリーチャーが現れる。半透明なキャノピーで覆われたコックピットにはリキッド・ピープルが乗っていた。
「《アクア・アタック〈BAGOOON(バゴーーーン)・パンツァー〉》ですわ」
「《バゴーン・パンツァー》がいる間、僕達はターンの最初に一枚ドローできる。通常のドローと合わせれば二枚だ!」
《アクア・アタック〈BAGOOON(バゴーーーン)・パンツァー〉》は恐ろしいクリーチャーだった。タダオも何度もデュエマの対戦を見て手札の重要性は熟知している。だから、こういうクリーチャーは早く破壊しなければならない。
「会長、ミヤビ先輩のマナはもう6マナです。何とかして《バゴーン・パンツァー》を倒せるクリーチャーを出せるんじゃないでしょうか?」
「だが、簡単ではないな。《バゴーン・パンツァー》はパワー6000のW・ブレイカーだ。攻撃に使っても強い」
「それに《バゴーン・パンツァー》がいる間、持ち主の水のハンターは攻撃されなくなるんだお。《バゴーン・パンツァー》は光と水の多色クリーチャーだから、攻撃して倒すのは不可能だお」
「そんな……!」
強力な能力を持ち、破壊されにくいクリーチャー。これが渡辺兄弟の自信の秘密のようだった。
「テツノスケ先輩!どうすれば《バゴーン・パンツァー》を倒せるんですか!」
タダオがテツノスケを見ると、彼はマスミと見つめ合っていた。二人とも細い魚肉ソーセージを食べている。
「美しい。さすがは美人のマスミ先生だ。俺達のダレナンジャイソーセージを食べている姿も絵になりますね」
「う、美しいだなんて……。もったいないお言葉です!」
マスミは感激して顔を真っ赤にしていた。テツノスケがつけているマスクにも負けないくらいの赤さだ。謎のヒーローと話している興奮のせいか、タダオがヒーローの中の人の名前を呼んだことにも気が付いていない。
「タダオ。お前の疑問の答えはミヤビさんが見せてくれる。場に目を向けろ」
ダイゴに言われてタダオは場を見た。ミヤビがカードを引いている。
「これはあなたのデータを調べて作ったデッキですわ」
「情報を知る僕らだからこそ組めるデッキだ。新聞部の恐ろしさを教えてあげますよ」
《バゴーン・パンツァー》を出しただけで安心しているのか、ヒジリとコブシは大口を叩いていた。ミヤビは、それには耳を貸さずに手札を睨んでいる。
「うーん、でも、ちょっと情報が古いんじゃないかしら?」
ミヤビは明るい声で言うと一枚のカードを出した。場に、燃える炎のような剣を持った赤い鎧の龍が現れる。
「《無双竜鬼ミツルギブースト》召喚!《バゴーン・パンツァー》をやっつけるわよ!」
《ミツルギブースト》は燃え盛る剣で《バゴーン・パンツァー》に斬りかかる。綺麗に真っ二つになった《バゴーン・パンツァー》はその場で爆発し、《ミツルギブースト》も爆発に飲み込まれて消えた。
「馬鹿な!《ミツルギブースト》はパワー5000のクリーチャーだ!パワー6000の《バゴーン・パンツァー》に勝てるわけがない!」
「それに《ミツルギブースト》はスピードアタッカーでもないですわ!というより《バゴーン・パンツァー》は攻撃されないはずですわ!」
ヒジリとコブシは驚いていた。簡単に破壊されないと思っていた《バゴーン・パンツァー》がわずか1ターンで破壊されてしまったからだ。
「驚かなくてもいいじゃない。《ミツルギブースト》は場に出した時にパワー6000以下の相手クリーチャーを破壊できるのよ。それに……」
ミヤビは自分のマナゾーンを指した。そこには今まで場にあった《ミツルギブースト》が置かれている。
「出した時の能力を使えばマナに置ける。マナも増やして相手クリーチャーも破壊できるなんて一石二鳥ね!」
「ならば、こうです!」
コブシはマナをタップし、呪文を唱えた。緑色の光と共に頭上に穴が開き、リーゼントのような髪型の白熊のようなクリーチャーが現れる。
「《超次元フェアリー・ホール》を唱えて《魂の大番長「四つ牙(クワトロ・ファング)」》を出しましたわ。今度はマナです!」
《魂の大番長「四つ牙」》は《バゴーン・パンツァー》と同じようにターンの最初にカードを増やすサイキック・クリーチャーだ。このクリーチャーがいれば、ターンの最初に山札の上のカードをマナゾーンに置ける。
「なるほど。今、《四つ牙》を破壊できるカードはないわ。だから、次の準備ね!」
ミヤビの場に真っ赤なドラゴンが現れる。大きな翼を広げ、相手を威嚇していた。その翼にはミサイルのようなものが取り付けられている。
「《インフィニティ・ドラゴン》よ。これで、ドラゴンは破壊されにくくなった!」
《インフィニティ・ドラゴン》がいればドラゴンが場を離れる時に山札の上をめくる。その時に出たカードがドラゴンかファイアー・バードであれば離れなくなるのだ。ドラゴンデッキにおける守備の切り札と言うべきカードだ。
「嫌なものを出しますね。でも、ここまでは事前に得た情報通り」
「《四つ牙》の能力でマナを増やし、行動を開始しますわ。《超次元フェアリー・ホール》!」
ヒジリの指から一枚のカードが離れる。再び、緑色の光と共に穴が開き、今度は《バゴーン・パンツァー》や《四つ牙》よりも小さなサイキック・クリーチャーが二体出て来た。黄色い体色のヒーローのような外見のクリーチャー《時空の英雄アンタッチャブル》と赤い体色の人型クリーチャー《時空の喧嘩屋キル》だ。
「選ばれない《アンタッチャブル》とサイキック・クリーチャーを手札に戻せなくさせる《キル》!この調子でどんどん増やしていきますよ!」
コブシは強気だった。順調に行けば《キル》は次のターンに覚醒して《セツダン》となる。そうなれば、W・ブレイカーとなり、攻撃力が格段に増すのだ。
「なるほど。《四つ牙》と一緒にいれば覚醒できるものね」
「その通りですわ。ですから《四つ牙》で攻撃はしません。《インフィニティ・ドラゴン》による殴り返しを受けるのは嫌ですもの」
妥当な判断だった。《インフィニティ・ドラゴン》のパワーは7000で《四つ牙》の6000を上回る。ここで攻撃をせずに破壊されるリスクを減らす。その判断は誰が見ても正しい。
だが、渡辺兄弟は相手がミヤビであることを忘れていた。彼女がマスクの下で笑みを浮かべた時、その表情が見えていないはずの二人は背筋に冷水を流し込まれるような悪寒を感じていた。
「でも、覚醒なんかさせてあげない。それと、選ばれない《アンタッチャブル》も嫌い。だから、こうするわ!」
ミヤビが場にカードを出すと、体育館の中に雷鳴がとどろいた。雷を思わせる閃光と共に、マントを羽織ったドラゴンが空を舞う。その龍はカッターナイフを連想させる右腕の剣と、丸みを帯びた左手の剣で自分のマントを切り裂いて《四つ牙》に襲いかかる。
「スピードアタッカー《偽りの名(コードネーム) バザガジー・ラゴン》よ。出したターンだけはタップされていないクリーチャーを攻撃できる!」
《四つ牙》は持っていた剣を使って《バザカジー・ラゴン》の斬撃を受け止めようとする。だが、それよりも先に《バザカジー・ラゴン》の攻撃が白い腹部を貫いていた。《四つ牙》が倒れ、体育館が揺れる。それを合図に《インフィニティ・ドラゴン》が動いた。狙いは《アンタッチャブル》だ。
「《インフィニティ・ドラゴン》で《アンタッチャブル》を攻撃するわ!」
「何を言っているのです、ミヤビさん!タップされていないクリーチャーは攻撃されないはずですわ!」
「デュエマの基本ですよ!」
《四つ牙》を失って狼狽した二人は震えながら言った。それに対してミヤビは穏やかな声で言い返す。
「あたしのデータを取ったと言うけれど、勉強不足ね。《バザカジー・ラゴン》がバトルに勝った時、所有者のクリーチャーは全てタップされていないクリーチャーを攻撃できる!選ばれない《アンタッチャブル》も攻撃対象としてなら、選べるわ!」
《インフィニティ・ドラゴン》の鋭い爪が《アンタッチャブル》を貫いていった。これで、ヒジリとコブシのクリーチャーは《キル》一体のみだ。
「ドロー。あ……!」
カードを引いたヒジリの表情が変わる。ミヤビのドラゴンによって形勢逆転される前のような穏やかな顔だ。
「ああ、これはいいね」
「でしょう?うふふ。今すぐミヤビさんの余裕を打ち砕いて差し上げましょう?」
ヒジリとコブシは一緒にそのカードを持って場に出した。電灯がついているはずの体育館の中が突然、暗くなる。まるで、嵐の中にいるようだった。
「見ろ!」
ダイゴが上を指した。そこに天井はない。あるのは真っ黒な雲だ。頭上が全て雲で覆われている。そこから青く長い体の龍が出て来た。水神を思わせるその龍は体中に赤い傷がついている。手には傷の色と同じ赤い色の銛を持っていた。
「私達の切り札《蒼の潮流スーパー・スペル・グレートブルー》ですわ」
「《スーパー・スペル・グレートブルー》のパワーは8000だ!簡単にはやられないパワー!W・ブレイカー!そして、このクリーチャーだけが持つ唯一無二の能力!」
ヒジリとコブシは二人で山札の上をめくるとカードを見た。目を合わせた二人は一緒にそのカードを出した。
「出した時、もしくは攻撃する時に山札の上を見てそれが呪文であれば出せるのです!どれだけ重い呪文であってもコストを支払う必要はありません!」
「めくった呪文は《超次元エナジー・ホール》だ!もう一度現れろ!《バゴーン・パンツァー》!」
青い光と共に《バゴーン・パンツァー》が再度現れた。1ターンに二体のW・ブレイカーが登場した。さすがのミヤビもこれは苦しい。
「まだね。まだ攻撃する気分じゃないわ。《紅神龍バルガゲイザー》を召喚してターン終了よ」
ミヤビの場に、赤い鱗で覆われたドラゴンが現れただけでターンは終わった。同時に、渡辺兄弟の《キル》が緑色の巨人《セツダン》に変化していく。
「覚醒完了ですわ。さらに《超次元エクストラ・ホール》を二枚!」
渡辺兄弟の猛攻はそれで終わりではなかった。《超次元エクストラ・ホール》の使用によって墓地から二枚のカードが山札に戻っていく。それが二枚分、つまり二回繰り返された後、《バゴーン・パンツァー》に似た雰囲気の戦闘機とクルーザーが現れる。《アクア・ジェット〈BOOON(ブーーーン)・スカイ〉》と《アクア・カスケード〈ZABUUUN(ザブーーーン)・クルーザー〉》だ。
「ダイゴ!あれは覚醒リンクのパーツだお!」
「覚醒リンク?それは何ですか?」
タダオにとって聞き慣れない言葉が出た。ワンコの声色から危険だということだけは判る。
「覚醒リンクは複数のサイキック・クリーチャーが合体することによってより強化されたクリーチャーになることだ。《バゴーン・パンツァー》、《ブーン・スカイ》、《ザブーン・クルーザー》がリンクすると、あの二人のハンターは攻撃もブロックもされなくなり、攻撃する時に三枚までドローが可能になる。さらに、自分の手札を好きな枚数見せることで相手クリーチャーを手札に戻すことも可能だ!」
《バゴーン・パンツァー》の能力を強化したようなものだった。そんなものが出たら、学園最強のミヤビでも勝てないかもしれない。
「リンクのパーツが揃っただけで勝ちではありませんわよ。《スーパー・スペル・グレートブルー》で攻撃!」
攻撃と共に渡辺兄弟は山札の上を見た。そのカードを出した時、頭上の雲から青い光と共に《アンタッチャブル》が降りてくる。そして、墓地のカードが二枚、山札の中に戻っていった。
「《超次元エクストラ・ホール》だ。もう一度使いたい呪文だけ山札に戻して再利用するのさ」
《スーパー・スペル・グレートブルー》の銛がミヤビのシールドを貫いていく。《セツダン》と《バゴーン・パンツァー》もそれに続いた。無傷だったミヤビのシールドは1ターンでゼロ枚になってしまった。
「おっと、まだ終わりじゃない。ターンの最後に《アンタッチャブル》が覚醒する」
《キル》が《セツダン》へと覚醒したことで条件は満たされていた。《アンタッチャブル》は青い光を出しながら発光し、巨大な人型ロボットのような《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》へと変化した。
「《アンタッチャブル・パワード》は選ばれずブロックもされないクリーチャーですわ」
「仮に《アンタッチャブル・パワード》を倒したとしても、それで終わりじゃない。僕達に勝てますか?」
ヒジリとコブシ、そして、六体の超獣がミヤビを睨む。彼女は何も言わずにカードを引いた。
「十五枚」
「何ですの?」
ミヤビが発した言葉を聞いてヒジリが怪訝そうに眉をひそめた。他の者達もその言葉の意味が判らずにいる。
「あたしの中に入っているドラゴンじゃないカードの枚数。そのカードがほとんど山札以外のところにある。だから、あたしの勝ちよ!」
ミヤビはまず、クリーチャーの召喚を始めた。《バザカジー・ラゴン》が赤く発光し、八つの頭を持つ凶悪な龍へと変化した。
「あたしの切り札の一つ、《超無双 ヤマタヘッド 8th(エイト) G(ジー)》よ。さらに《魂の呼び声》!」
ミヤビが手を上げると彼女の元に三枚の龍のカードが飛んでいった。彼女はそれを好きな順番で山札の上に置く。
「これであたしのもう一つの切り札が山札の上に置かれた。行くわよ!《バルガゲイザー》でシールドを攻撃!そして、オープン!」
ミヤビがめくったカードは赤い光を出して場に出る。斧とも剣とも言えるような形の武器を体から生やし、鋭い爪や牙を持ち、鎖で自らの体を縛りつけて力を封じている龍。《国士無双カイザー「勝×喝(ガッツ)」》だ。
「《「勝×喝」》が出たらもう止められないわよ。バトルゾーンに出した時、自分のドラゴンの数だけガチンコ・ジャッジを行うわ。あたしのドラゴンの数は四体。そして、勝った数だけ相手のパワー7000以下のクリーチャーかコマンドを破壊できる!それじゃ、山札の上のカードをセット!」
ミヤビは自分の山札の上のカードに触れる。ヒジリとコブシも奇妙な力によって指が動かされ、山札の上のカードに触れた。
「オープン!」
渡辺兄弟のカードのコストは6だった。それに対し、ミヤビがめくったのはコスト5の《ミツルギブースト》だ。
「やった!これなら……」
「そうね。あなた達の負けよ」
《「勝×喝」》の武器がひび割れ、そこから光の刃が飛び出す。それは《バゴーン・パンツァー》を貫いて消えていった。
「何故!?私達のカードのコストが大きかったのに、何故!?」
「言い忘れていたわ。《ヤマタヘッド》がいる間、ガチンコ・ジャッジでめくるあたしのドラゴンのコストは8増えるの。ほら」
ミヤビは自分がめくった《ミツルギブースト》のカードを見せた。本来は5であるはずのコストが13になっている。
「そんな馬鹿な!」
「馬鹿じゃないわ。悪夢よ。徹底的に蹂躙してあげるわ!」
ミヤビは計四回のガチンコ・ジャッジを全て成功させ、パワー8000の《スーパー・スペル・グレートブルー》と選ばれない《アンタッチャブル・パワード》以外のクリーチャーを全て破壊した。《バルガゲイザー》が渡辺兄弟のシールドを破る。
「くっ!ですが、《スパイラル・ゲート》ですよ!」
コブシは手に入ったカードをすぐに突き出す。水流が《ヤマタヘッド》に襲いかかる。しかし、それを守るように《インフィニティ・ドラゴン》が立ち塞がり、両翼のミサイルで水流を打ち抜いていった。
「言ったはずよ。ドラゴン以外のカードは山札以外の場所にあると。そんなに《ヤマタヘッド》が嫌ならこれで攻撃してあげるわ!セット!オープン!」
《ヤマタヘッド》でのガチンコ・ジャッジが発動する。ただでさえ、コストの高いドラゴンが入っているミヤビのデッキだ。《ヤマタヘッド》自身のコストを増やす能力によってブーストされれば、負けるはずがない。
「《ヤマタヘッド》がガチンコ・ジャッジで勝てばパワー12000以下のクリーチャーを一体破壊できる。《スーパー・スペル・グレートブルー》を破壊よ!」
《ヤマタヘッド》の五つの頭部は青い火を吐いて《スーパー・スペル・グレートブルー》を焼き尽くす。残りに三つの首はシールドへ突撃していった。一枚ずつシールドを破っていく。これで渡辺兄弟のシールドは残り一枚だ。
「ま、まだ一枚残っているさ……!これでシールド・トリガーが出れば!」
「そ、そうですわ!《アンタッチャブル・パワード》は選ばれない!どんな方法でも倒せませんわ!」
それは希望を持っている者の言葉ではない。二人の声は震え、顔は怯え、目は絶望で黒く塗りつぶされている。そんな二人の前で《「勝×喝」》によって最後のシールドが砕かれる。それはシールド・トリガーではなかった。
「嘘だー!」
二人が同時に叫ぶ。それに対してミヤビが言った。
「嘘ばかり書いてきたから、何が嘘で何が本当なのか判らなくなったの?覚えておくといいわ。これは『ウソのようなホントウ』って言うのよ!《インフィニティ・ドラゴン》で渡辺兄弟にとどめよ!」
《インフィニティ・ドラゴン》の両翼のミサイルがヒジリとコブシに向かって飛ぶ。八百発発射されたミサイルは全て着弾し、爆発した。
「八百発撃ったけれど、手加減はしたわ。さあ、反省しなさい」
ミサイルの煙が晴れた時、そこには倒れたヒジリとコブシの姿があった。二人とも気を失っているだけで外傷はない。
「さあ、マスミ先生。行ってあげなさい。嘘ばかり書いてきた彼らに真実の報道を教えてあげるんです。それができるのはマスミ先生しかいない」
「はい、レッドナンジャイさん!」
テツノスケに言われてマスミは倒れている二人に駆け寄る。聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除したミヤビを含む五人のレッドナンジャイは生徒達に背を向けて去ろうとした。
「おっと、忘れていた。サインを頼まれていたんだったな。……レッドナンジャイより、マスミ先生へっと!」
テツノスケはダレナンジャイソーセージのパッケージ(今日のためにダイゴと極神寺グループが作ったものである)にサインを書いた。ペンで書いた文字も達筆だった。
「マスミ先生、プレゼントです!」
テツノスケの声に気付いたマスミは飛んできた物を受け取る。それはサイン入りのダレナンジャイソーセージだった。マスミが彼らを探した時、もうそこに彼らはいなかった。
「ありがとう、ダレナンジャイさん!」
マスミと、そして、生徒の感謝の声が体育館を包んだ。

「おい、何か歓声が聞こえるぞ」
体育館を出たテツノスケは他の四人に対して言った。五人の背中に歓声が響く。
「あいつらの噂の被害者は少なくないからな。感謝されるのも悪くはない」
「そうだな。マスミ先生のあの目、最高だったぜ。巨乳の先生のハートを射止めちまったな。とうとう俺もリア充の仲間入りか」
マスクを外したテツノスケは顔を赤くすると照れたように言った。
「テツノスケ先輩。戸塚先生が好きなのはテツノスケ先輩じゃなくて、レッドナンジャイなんじゃないですか?他の教師と生徒は正体が僕達だって気付いていたかもしれないですけど、戸塚先生だけは気付いていないみたいでしたし」
「……あ」
マスクを外したタダオに言われてテツノスケはそれに気付いた。テツノスケはマスクをかぶり直すと四人に背を向ける。
「どこに行くつもりだお?」
「レッドナンジャイの正体が俺だって明かす!それで惚れてもらうんだ!」
「諦めなさい、テツノスケ君。ヒーローの正体はいつだって秘密なのよ!」
暴れるテツノスケを他の四人がつかんだ。そして、無理矢理引きずっていく。
「ちくしょー!誰か俺の活躍を壁新聞で伝えてくれー!」

次回につづく

次回予告
彼女には夢がある。純粋な願いを叶えるため、彼女は我々の前に姿を見せた。彼女には望みがある。一途な思いを聞いた時、生徒会とダイゴは行動を開始する。
次回 第九話 人形
その身を滅ぼしてでも、奪いたいものがある。
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