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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第九話 自爆とキスはどんな味?

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、平和と治安を維持する者達がいた。
書道の達人、闘魂堂(とうこんどう)テツノスケ。
言語のエキスパート、ワン・チャン。
学園最強の女帝、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビ。
凡人、一ノ瀬(いちのせ)タダオ。
そして、生徒王にして生徒会長の極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。
これは、彼ら、無双竜機学園生徒会が学園に巣食う悪を蹴散らす物語だ。
新聞部が作った嘘の新聞記事のせいで、生徒会は予算を私物化する悪の組織のレッテルを貼られた。それに憤慨したタダオは新聞部の渡辺ヒジリと渡辺コブシによって痴漢の容疑をかけられる。ダイゴ達、生徒会のメンバーがタダオの無実を主張するが新聞部の顧問、戸塚マスミはヒジリとコブシを信じていた。
ダイゴはマスミを味方にするための策を用意。さらに、ヒジリとコブシが嘘の新聞記事を書いていたことを白日の元に晒す。そして、ミヤビの手で処刑が行われたのだった。

第九話 自爆とキスはどんな味?

その日も多くの生徒が校庭に集まっていた。そこで行われるデュエマを観戦している。
「この程度か?校内連続食い逃げ犯、音速のタツ!」
頭に王冠をかぶり、制服の上からマントを羽織った生徒が相手を指して言う。ウエーブがかった銀色の長髪が風で揺れた。
彼は無双竜機学園の生徒会長、極神寺ダイゴだ。
聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を生み出し、今日も学園のトラブルに立ち向かっている。
対戦相手、音速のタツはマラソンランナーのような格好をしていた。頭には赤い鉢巻きを巻いている。
「やれやれ。人の弁当を盗み食いし続けたタツオもこれで終わりだな」
ダイゴを見守っていた生徒の一人が呟く。
制服ではなく、紺色の作務衣に身を包んだ黒髪の少年だ。名は闘魂堂テツノスケ。生徒会役員の一人だ。
「がんばれ、ダイゴーッ!ワンコのハンバーグ弁当の仇を取るんだおー!」
大声でダイゴを応援するのは頭に乗せた大きなリボンが目立つ少女だった。身長はリボンを入れても百四十ほどしかなく、ツインテールの髪が余計に彼女を幼く見せている。彼女はワン・チャン。中国系アメリカ人の少女で自分のことを『ワンコ』と呼び、周りの人間にもそう呼ばせている。
「ワンコちゃん、本当に怒っていたものね」
片手に持っていたグラスを口につけながらスタイルのいい女子生徒が言う。焼酎お湯割りを手放すことがないこのロングヘアーの女子生徒は不死鳥座ミヤビ。二年留年しているため、今は三年生で二十歳である。
「やっぱり会長の実力なら楽勝ですね」
最後に口を開いたのは地味で真面目そうな外見の一年生だった。彼は一ノ瀬タダオ。まだ生徒会見習い扱いであり、正式な生徒会役員ではない。
「とどめだ!行くぞ、《アルカディアス》!必殺、シャイニング・プリズム・ライトニング!」
ダイゴと《アルカディアス》が同時に右腕を上げる。すると、今まで晴れていた空に雲が立ち込めて風が吹いた。
風に飛ばされたのか、どこからか一枚のカードが飛んできてダイゴ達が戦っている聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)の上に落ちる。それに気づいた者はわずかだった。ダイゴは気にせずに対戦相手、音速のタツを指した。雲から落ちて来た雷がタツに当たる。少ししびれた後、タツはその場に倒れた。
タツにとどめを刺したことを確認し、ダイゴは聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除した。それと同時に、聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)の上に落ちた一枚のカードが黒い光と共に変化した。
カードがあった場所に少女のようなクリーチャーが現れた。雲の切れ間から差し込む陽光が、彼女の銀髪を照らしている。あまりにも大きなカッターナイフを両手で握り、呆けたような顔でちょこんと座っていた。予想外の出来事に生徒も生徒会も何も言えずに固まっている。
「あれってクリーチャー……、ですよね?」
その空気を壊すようにタダオが呟いた。彼も目の前で起きていることが信じられないというように何度も瞬きしている。
「そうだお。《特攻人形ジェニー》だお」
「どうせ出てくるなら、女のダークロードみたいにバインボインでムチーンな奴が良かったのに」
「でも、聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除したのに、どうしてクリーチャーが残ってるの?」
三人とも驚いて現実が飲みこめずにいる。言葉の切れが悪かった。
生徒達が固唾を飲んで見守る中、ダイゴは《特攻人形ジェニー》に近づく。
《ジェニー》は自分に近づく人影に気付いて顔をあげた。
「あなた、誰?」
ダイゴはその問いに答えない。両手を広げると、突然、《ジェニー》に抱きついた。
「え……!ちょっ……!」
「やったー!二次元美少女が飛び出して来たー!俺達の理想が今ここに!やりましたぞ、同志よ!ついに二次元と三次元の壁が壊れたぞ!どうだ、極神寺エレクトロニクスの馬鹿共!二次元から美少女は出てくるんだよ!そんなことをする技術はありませんとか言って諦めてるんじゃない!しかも、人を馬鹿にするような目で見やがって!来月までに全員クビにしてやる!」
「離れなさい!」
《ジェニー》は嫌そうな顔でダイゴの顔を押す。ダイゴは離れると地面に片膝を立て、《ジェニー》に頭を下げた。そして、右手を伸ばして言う。
「はじめまして、マドモワゼル。私の名は極神寺ダイゴ。あなたの為に存在するナイスガイです!」
自己紹介を終えると、ダイゴは顔を上げて意味もなく歯を光らせた。
「ど、どうも。特攻人形の《ジェニー》です」
ダイゴの態度を見て安心したのか、《ジェニー》も正座して頭を下げる。そして、ダイゴの右手を取った。ダイゴは《ジェニー》の手を取ったまま立ち上がり、彼女を立たせる。
「会長は一体何を……。もしかしたら、あのクリーチャーの目的を知るために下手に出ているんじゃないでしょうか!」
タダオが驚いた顔で言うと、隣にいたワンコはタダオの足を強く踏んだ。
「痛ってー!」
「タダオ、お前、目か頭がおかしいお。あれはクリーチャーの目的を知ろうとしている者の顔じゃないお。二次元の女が出て来て喜んでいる顔だお」
ワンコの声は不機嫌だった。その理由が判らずにタダオは踏まれた足を押さえながら不思議そうな顔でワンコを見る。
「青春ね」
「振られちまえ」
二人の後ろでミヤビとテツノスケが呟く。
生徒会メンバーのやり取りなど気にせずにダイゴは《ジェニー》を見ていた。
「美しいマドモワゼル。一体、どうしてこんな荒廃した薄汚れた世界に来なさったのですか?」
「あ、そうよ!あたしには目的があるの!ここの偉い奴を呼びなさい!」
「偉い奴って言ったら俺のことだ。俺は生徒王にして生徒会長だからな!」
そう言ったダイゴは握った右手の親指で自分を指す。
「そう……。生徒王って何だか判らないけれど、『王』ってつくんだったら偉いわよね。極神寺ダイゴ。あなたに手伝ってもらうわ!」
《ジェニー》はカッターナイフを持っていない手でダイゴを指す。そして、その場にいるギャラリー全員に聞こえるような声で言った。
「あたしにキスの味を教えなさい!」

《ジェニー》を連れて来た生徒会メンバーは生徒会室に集まっていた。ダイゴは自分専用のデスクで赤い顔をしながら震えている。
「き……、キスだと……!?いや、待て。落ち着け。キスって言っても口と口でするアレとは限らないだろう!魚のキスかもしれん!でも、俺としては口でするキスの方が……!そして、その味を教えるのは俺が……!」
意味もなく緊張しているダイゴとは違い、《ジェニー》は落ち着いていた。タダオが用意した椅子に座ると、テツノスケが立てた抹茶に口をつけてリラックスしている。
「苦ーい。お砂糖入れてちょうだい!」
「は?抹茶に砂糖とか舐めてんのか、この貧乳は!そういう我儘をワガママボディーの巨乳レディ以外が言うことはゆるさん!」
「それよりも聞きたいことがあるお」
腕を組んだワンコが《ジェニー》に近づく。彼女の敵対的な視線に気付いた《ジェニー》は抹茶が入った茶碗をテツノスケに預けると立ち上がった。睨むような視線でワンコを見ている。
「タダオ、お前飲むか。間接キスだぞ」
「いりませんよ」
「なら、俺にくれ!」
ダイゴはデスクから跳躍して茶碗を奪い取る。抹茶を一気に飲み干すと必死になって舐めていた。その顔は幸せそうだ。今まで見たことがないような幸福に満ち溢れた表情をしている。それを見てミヤビ、テツノスケ、タダオの三人は「うわあ……」と呟いた。
一方、ワンコと《ジェニー》の二人は睨み合っている。口も開かずに表情も作らずに互いの目を見ていた。その空気を感じ取ってダイゴ達四人は彼女らを見る。
「何だお?」
先に声を発したのはワンコだった。ダイゴが《ジェニー》の存在に興奮し始めてから、彼女はずっと不機嫌そうにしている。今の声も普段の彼女よりも低く、機嫌の悪さが伺える。
そんなワンコを見て《ジェニー》は笑った。だが、それは友好的な笑いではない。悪意や敵意を込めた笑みであり、相手を下に見た顔だ。
「ふっ、偉そうにしちゃって。あなた、あたしよりも背がちっちゃいじゃない」
《ジェニー》は得意そうにそう言った。ワンコの頭に手を置くと自分の頭まで持ってくる。ほんの少しだが、《ジェニー》の方が背が高かった。それを知った《ジェニー》は、自分の方が格上だと確信したのか自信に満ちた表情で笑う。
「リボンのせいであなたの方が大きいのかと思ったわ。やーい、チビ!チビの癖に偉そうにするんじゃないわよ!べーだ!」
「うおお!何てかわいらしい仕草なんだ!まさに天使!」
「いや、会長。闇文明のクリーチャー相手なんだから天使ってのはどうなんですか?」
「あら。最近は闇文明のエンジェル・コマンドもいるんだし、闇文明のクリーチャー相手に天使って言ってもいいんじゃない?」
「いや、でも、デスパペットですし……」
「そうだぞ。俺は天使よりもムチムチプリンプリンでスタイルのいい女ダークロードのワガママ闇文明極悪ボディの方がいいぜ!」
「テツノスケ先輩は黙っていてください!ただでさえややこしい話が余計にややこしくなるでしょう!」
タダオが怒鳴るような声で言ってワンコと《ジェニー》を見た。
「どうしたの?チビって言われて言い返せない?図星つかれて怒っちゃったかなー?」
そこまで言った時、《ジェニー》は口を閉じる。その目はワンコを見たまま震えていた。表情にも余裕がない。
不思議に思ったタダオはワンコの表情を見る。表情がなかった。だが、その目は雄弁だ。溶けることのない氷のように冷たい怒りと、何者も焼き尽くす炎のような熱い怒りが同居している。触れた者を一瞬で消滅させてしまいそうな怒りが彼女の目から読みとれた。恐怖でタダオは息を飲む。
「う、うわー!」
恐怖に耐え切れなくなったのか《ジェニー》は走り出した。急いでダイゴの背後にかけ回ると彼の制服の上着の裾をつかみ、背中に頭をうずめる。その体は細かく振動していた。まるで、携帯電話のマナーモードのようだ。時折、「えぐっ……、ひぐっ……」と泣いているような声が聞こえる。
「頼られてる!俺、今、二次元から飛び出した美少女に頼られてるぞ!うおー!神よ、こんなチャンスを与えてくださったことに感謝します。オーイエー!」
抱きつかれたダイゴは顔を赤くし、鼻息を荒くして興奮していた。ここまで喜んでいる彼の姿を、タダオは見たことがない。
「ご、ごめんなさいごめんなさい。もう背のことで調子に乗ったりしません。だから許してー!」
ダイゴの背後に隠れていた《ジェニー》は顔だけ出してワンコに謝る。その顔は涙まみれで、今も怯える小動物のように小刻みに震えていた。
「泣いちゃったぞ。ワンコ、許してやれ」
頼られていると思っているダイゴは低く渋い声を出してワンコに注意する。ワンコも毒気を抜かれたのか、いつもの彼女の表情に戻った。
「次、身長のことでワンコを馬鹿にしたらただじゃ済まさないお。テツノスケに胸をもませるお!」
「俺にも選ぶ権利はあるだろ」
「うぅ……、こんなのにもまれるのなんてやだぁ。だから、背のことはもう言わない……」
「俺、傷ついたんだけど……」
混沌とした状況だった。ワンコの怯えた《ジェニー》が泣き、《ジェニー》の一言に傷ついたテツノスケが涙で瞳を濡らしている。こんな状況でダイゴは《ジェニー》と密着していることを喜び、ミヤビは焼酎のお湯割りを飲んでいた。
「それよりも、ワンコ先輩。聞きたいことがあったんじゃないんですか?」
「そうだったお。いくつか聞きたいことがあるけれど、これを聞いておくお。《ジェニー》はどこから来たんだお」
「ん……と、あっちの方」
少し落ち着いた《ジェニー》は右手でどこかを指した。詳しいことは彼女も判っていないらしい。
「これだけじゃ判りませんね」
「しょうがないじゃない!キスの味を知りたいって、ずっと思っていたらここに来ちゃったんだから!」
「本当にそうかお?もしかして、この世界を侵略しようとしてるんじゃないかお?」
「侵略!?」
物騒な言葉がワンコの口から出る。タダオは慌てて《ジェニー》を見た。
デュエマのクリーチャー達は自分達の覇権を賭けて争っている。別の世界を侵略しに来てもおかしくはない。
「そんなことしないよ!《バロム》様に聞いてもキスの味を教えてくれなかったからどうしようか迷ってたの!そしたら、吸い込まれるような感覚がしてそれで……!」
ワンコから疑いの眼差しで見られた《ジェニー》は必死になって否定する。それを見たダイゴは《ジェニー》の頭を撫でながら頷いた。
「判る!判るぞ!キスの味を教えてくれなかったということは《バロム》はモテなかったに違いない!だが、大丈夫だ!この俺がキスの味を教えてやる!」
「あなたじゃ、イヤ!」
ダイゴが近づけた顔を《ジェニー》は必死になって押し返した。そして、彼から離れダイゴのデスクまで移動する。
「決めた!あたしがキスするのにふさわしい相手が現れるまでここにいる!どうやったら帰れるか判らないけれど、とりあえず、その時まではここでお世話になるわ。みんなよろしくね!」
「おお、好きにしろ!歓迎するぞ!」
「なんだってー!」
喜ぶダイゴとは対照的に他の四人は驚いていた。《ジェニー》は「よろしくー」と言ってダイゴに微笑みかける。この日から生徒会に新たなメンバーが加わった。

それから数日が経った。
一度、元いた世界に帰れるか試した《ジェニー》だったが、それは不可能だった。そのため、《ジェニー》は無双竜機学園の女子寮に住むことになり、生活費はダイゴが負担した。一時的に生徒会見習いとして働いているため、放課後は生徒会役員と共に生徒会室にいる。
「おーい、《ジェニー》!たくさん働いて疲れただろう?おやつにしよう!」
「わーい!」
ダイゴが近くで買ったクッキーを持っていくと《ジェニー》は喜んで仕事を放り出す。ワンコが「まだ始めて十分だお」と言っても聞かなかった。
「どうだ。こっちの生活には慣れたか?」
「少しね。こっちはおいしい食べ物があって素敵!」
「そうかそうか。おい、テツノスケ。茶を立ててくれ。あと、ジェニーにはココアを用意してくれ」
「俺はお茶汲みじゃねー!」
テツノスケが叫んだが、クッキーを頬張る《ジェニー》に夢中のダイゴは聞いていなかった。それを見つめてワンコが溜息を吐く。
「ダイゴってこんなにデレデレする奴だったのかお」
そう呟くと隣にいる人物を見た。そこにいたのはダイゴの秘書、蜜本(みつもと)ユウミだ。外見はショートカットが似合う少女に見えるが、少年である。学園に潜入した状態でダイゴを見守るため、無双竜機学園の女子の制服を着ている。
「そうだね。好みの女の人に言い寄られるとこうなっちゃうよね」
「こんなダイゴ、見たくなかったわ!」
ユウミの横で腕を組んで怒っているのは、毒島(ぶすじま)ショウコだ。生徒会役員ではないただの一年だが、生徒会室に出入りしている。証拠も外見はポニーテールの女子生徒に見えるが、男子生徒だ。本名は毒島ショウタという。
「そうだお!それに《ジェニー》も慣れ慣れしくしていてイライラするんだお!」
「じゃ、ワンコちゃんもダイゴ君に甘えてみたら?素直に甘えたらダイゴ君、落とせるかもよ?」
「な、なな、何を言っているんだお!」
ミヤビに言われてワンコの顔が赤くなる。その様子をショウコは見逃さなかった。
「好きなの?アタシの方がダイゴを好きなんだからねっ!」
「どーでもいいお、こんな奴!ユウミも何とか言ってやれお」
「ボクとしては総帥がどっちを選んでもいいと思うんだけどね。モニターの向こうじゃなくてこっちで恋をしている総帥を見るのって久しぶりだから」
ユウミは穏やかな笑みを浮かべてダイゴと《ジェニー》を見ていた。今までのユウミの行動を知っていたワンコとショウコはその表情を意外に思う。
「ワンコちゃんは知っていると思うけれど、総帥って本当はモテるんだよ?今でも、色々な女性からのお誘いが来てるんだ。でも、総帥は全部断ってるの。何故だか判る?」
話題を振られたショウコはしばらく考えていたが答えが出ずに首を横に振った。
「全部、総帥じゃなくて総帥が持っているお金目当てだから。極神寺ダイゴっていう人間じゃなくて極神寺グループの総帥だから近づきたいだけなの。そういう人ばかり近寄ってくるから、趣味が二次元に偏っちゃったんだよね」
ショウコに説明するユウミの目はどこか悲しいものを含んでいた。ユウミも秘書としてダイゴが多くの女性に声をかけられ、恋をして、その気持ちを失って落胆してく様子を見ていたのだろう。
そう考えたショウコは何も言えなかった。
「だから、総帥が恋をするんだったら見守ってあげたいって思うんだ!だから、ワンコちゃんもショウコも今回のことは見守ってあげてね!」
ユウミは笑顔だった。心の底からダイゴのことを思っている顔だ。
三人はダイゴを見た。すると、彼は《ジェニー》に思いっきり強く頬を叩かれていた。
「変態!何で勝手にキスしようとするの!そういうのは……、本当に好きな人相手じゃないとしちゃいけないんだから!ダイゴの馬鹿!ちょっといい奴だと思ってたのにー!」
《ジェニー》は早口でそう叫ぶと生徒会室から出ていった。ダイゴは叩かれた頬に手を当てたまま動かない。目も虚ろでどこを見ているか判らなかった。
「総、帥……?」
不安に思ったユウミが声をかける。その時、ダイゴは目から滝のような涙を流した。
「さようなら。俺の……、本当の恋」
そう言った後、彼はデスクに顔をうずめ大きな声で泣き始めるのだった。

ダイゴから逃れた《ジェニー》は校外に出ていた。頬を膨らませたまま、人気のない道を歩いている。
「まったく!女の子のはじめてのキスを何だと思ってるのかしら!ちょっといい奴だと思って油断したらこれよ!」
彼女は怒っているせいか、周りが見えていなかった。そのせいか、背後から近づく白衣の男にも気がつかなかった。
「はっ!誰!?」
《ジェニー》がその存在に気がついた時、白衣の男は彼女の口に白いハンカチのようなものを押し当てていた。その匂いを嗅いだ瞬間、彼女は不快感に襲われる。
(な、何……。これ、すごく臭い……)
ハンカチの匂いを嗅いだ《ジェニー》は糸の切れた操り人形のように力を失って倒れる。白衣の男は近くにハンカチを捨てると《ジェニー》の体を抱き上げた。そして、近くの車に彼女を乗せる。
「特製のシュールストレミングの匂いハンカチの味はどうだった?さあ、僕の工房に行こう。素敵な姿に生まれ変わらせてあげるよ」
男は運転席に乗り込み、車を発進させた。その様子を見ていた人間はいない。

「しくしくしくしく」
「総帥!しっかりしてよ!」
「しくしくしくしく」
「ダイゴ!しっかりしないと許さないんだからね!」
「しくしくしくしく」
「しくしくなんて言って泣く人、初めて見ましたよ」
ダイゴはまだ泣いていた。ユウミとショウコが必死になって慰めようとしていた。タダオは呆れた顔でダイゴを見ている。
「ざまあ見ろ、ダイゴ。お前がリア充になるなんて十年早いんだよ。うん、今日も茶がうまい!」
ダイゴが《ジェニー》にフられたことを喜んだテツノスケは自分で立てた抹茶を飲んで満足している。輝いた笑顔だ。
その声を聞いた後、ダイゴは顔をあげる。美しいその顔は、涙で目茶苦茶になっていた。
「そうだ。ここから飛び降りよう。さようなら、俺の青春。さようなら、俺の人生」
「会長。いつも近くの窓から校庭まで飛び降りているじゃないですか。そんなんじゃ、人生にさよならはできませんよ」
「うぐっ!」
ダイゴが思いついたアイディアはタダオのツッコミによって失敗に終わった。彼は再び、デスクに顔を伏せ「しくしくしくしく」と泣き始める。
「ダイゴ君。そんなに泣かないの。《ジェニー》ちゃんだってお腹が空いたら帰ってくるわよ。その時に謝ればいいじゃない」
ミヤビは通常通りだった。軽い気持ちでダイゴを慰め、焼酎お湯割り梅入りを飲んでいる。
「それに、《ジェニー》ちゃんにフられても、他にも君のことを想っている素敵な女の子がいるんだゾ!だから、諦めないの!」
ミヤビはそう言ってワンコにウインクする。ワンコは彼女に目を合わせずにダイゴを見た。
その時、大きな音を立てて生徒会室の扉が開く。濃い茶色のスーツを着た男性が、息を切らせて生徒会室に入ってくる。
「やぁーん!富宝(とみたか)先生っ!」
ミヤビは弾丸のような勢いで飛ぶと、生徒会室に入って来た男に抱きついた。
彼は富宝ゴンゾウ。外見が四十代の渋い中年男性に見える二十代後半の男で、生徒会の顧問だ。彼はミヤビを引きはがすよりも先に口を開く。
「大変だ。《ジェニー》が誘拐された!」
富宝の一言を聞いた時、ダイゴの動きが止まった。同時に「しくしく」という泣き声も止む。
「なんですって!
タダオ達は自分の耳を疑った。《ジェニー》が部屋を出てから数十分しか経っていないからだ。
「一体、どうして誘拐されたって判ったんですか?」
「この付近の道路には新聞部が監視カメラを仕掛けていたのだ。それで判ったんだよ。一センチ君」
「一ノ瀬です。って、新聞部の人達、監視カメラなんか仕掛けてるんですか!」
「生徒達の安全のためと言っているが、本当はネタ探しが目的だろう。一キロメートル君」
「一気にスケールが大きくなりすぎですよ!」
それまでの会話を聞いてダイゴは立ち上がった。今のダイゴの顔は《ジェニー》にこっぴどくフられた情けない男の顔ではない。何かを決意した顔だ。
「行くのかお?」
「ああ、行く」
「《ジェニー》に余計なことはするなって言われるかもしれないお」
「それでも行く。何度《ジェニー》にフられても、しつこくアタックする。《ジェニー》が振り向いてくれるその日まで俺は諦めない!だから、彼女を助けに行く!」
「しょうがない奴だお」
ワンコは呆れたような口調で言うと、生徒会室を出た。扉のところで振り返り
「早く新聞部の部室に行くお。カメラの映像を見て犯人を特定するお」
と、言った。
「そうだな!行くぞ!」
「しょうがねえ。またダイゴがフられるところでもみてやるか」
「それ、面白そうね!今度、お酒飲む時に笑い話にしてあげる!」
「総帥!もし、フられてもボク達がいるから心配しないでね!」
「そうよ!その時は、アタシが……、って何言わせんのよ!」
「お前ら……、俺がフられる前提で行動するな」
ダイゴは呆れたように溜息を吐くと生徒会室を出る。生徒会のメンバーと二人の部外者は彼の後ろについていった。
「行くぞ!悪の魔王から美しいお姫様を救い出すんだ!」
「その台詞はちょっと臭いお」

「ん……」
《ジェニー》は見慣れない部屋で目を覚ました。この世界に来てからしばらく住んでいた学生寮の部屋より少し狭い部屋だった。金属製の棚に色々な機械や工具が置かれた部屋だ。そういった物が溢れている。
ベッドのようなところで寝かされていることに気付いた彼女は体を動かそうと試みる。だが、その体は動かない。
「な、何これ!」
彼女の体はベッドのような簡素な台の上にロープで拘束されていた。必死に動いても、彼女の力ではロープが緩みそうもなかった。
「何で……、何でっ!」
「気がついたかい?」
ロープを睨んで必死に体を動かしていた《ジェニー》はその声を聞いて動きを止める。心臓をわしづかみにされるような恐怖を感じ、彼女は声の主を見た。
それは白衣を着た細身の男だ。眼鏡をかけた若い男だが、ぼさぼさの髪に白髪が混じっている。《ジェニー》はこの男が自分を誘拐した犯人だということを思い出した。
「離せ!この縄をほどいて!」
「暴れるのなら、そんなことは許可できない。暴れないとしても許可はしない」
男は眼鏡の奥の瞳を光らせながら《ジェニー》に近づく。途中で、一本のドライバーを拾った。その先の金属が鋭く輝く。
「ひっ!」
先の鋭さを見て《ジェニー》は怯えた。
男が何をするつもりなのかは、正確には判らない。だが、それが自分にとって有害であるということだけは理解できた。理解したくないのに、理解してしまった。そこから生まれた恐怖が体の動きを止める。
目を閉じるという命令が無視される。彼女の視線はドライバーの先を見ていた。その鋭い切っ先で貫かれたらどうなってしまうだろうという考えが浮かぶ。
動け、暴れろ、という体への命令が無視される。暴れれば、うまくいけばロープが緩むかもしれなかった。それが無理でも、こうすることで打開策が浮かぶかもしれない。しかし、恐怖に凍りついたように体は動くことがなかった。
「いやぁ……」
声は出た。出るのは恐怖に怯える声だけだ。
「怖がらなくてもいい。君は生まれ変われるんだ。天下無敵のスーパーロボットにね!」
男はドライバーを持っていない手で壁にかけていた電動ドリルをつかむ。そのスイッチが入ってドリルが勢いよく回転し始めた。
「う、生まれ変わるって何をするつもりなの……?」
「生きた人形の君を改造して強大な力を持ったロボットにするのさ。どんな兵器にも負けない最強のロボットになるんだ!」
「そ、そんなのやだぁーっ!誰か、助けて!ダイゴーっ!」
悲鳴に近い《ジェニー》の声をかき消すように勢いよくドアが開いた。そして、一人の男が入ってくる。鬼のような形相で入って来た男は右手に持っていた二枚のカードを素早く投げ、白衣の男の両手に当てる。カードが刺さり、白衣の男は工具を落とした。
「誰だ!」
白衣の男は侵入者に向かって怒鳴る。侵入者はその問いに答えない。《ジェニー》を見ると、自慢の銀髪をかきあげて微笑む。
「《ジェニー》、大丈夫か?助けに来たぞ」
「ダイゴ!」
来たのはダイゴだった。それを見て緊張が解けた《ジェニー》は笑顔で涙を流した。
「さて、感動の再会は少し後だ。こいつを何とかする!」
ダイゴは懐からデッキを取り出し、視線を部屋の主に向ける。その目は、かつてない怒りの炎で燃えていた。
「残念だったな、本山(もとやま)さんよ。あんたの計画はこれで終わりだ」
「一体、何故、ここが判った!それに僕の名をどこで知った!?」
「《ジェニー》の居場所を知る方法は簡単だ。これを見ろ」
ダイゴは自分のスマートフォンの画面を部屋の主、本山に見せた。画面には地図が表示されている。現在地、つまりこの家の部分で赤く光る点のようなものがあった。
「これは極神寺グループ特製の発信機の信号を探知するアプリだ。俺はもしもの時のために《ジェニー》の制服のバッジに発信器を仕込んでおいた。受信したデータと監視カメラの映像を元にここを突き止めたのだ!そして、名前は表札を見た」
「そうか。そうだったのか……」
「表へ出ろ!無双竜機学園生徒会長にして生徒王の俺、極神寺ダイゴがあんたを処刑する!」
「人の家に入って勝手なことを言うね。いいだろう。極神寺といえば、あの有名な極神寺グループだ。僕が勝ったら僕の研究の資金援助をしてもらおう」
「望むところだ!来い!」
本山と呼ばれた部屋の主はダイゴの誘いに乗って来た。二人は部屋を出る。それから少しして生徒会のメンバーとユウミ、ショウコが部屋に入って来た。
「大丈夫だったかお?」
最初にワンコが《ジェニー》に近づき、近くの棚に置かれていたカッターナイフで縄を切り始めた。全ての縄が切れた直後、《ジェニー》は泣きながらワンコに抱きついた。
「怖かったのかお。もう大丈夫だお。みんなここにいるお」
ワンコは震える《ジェニー》の頭を撫でながら言った。《ジェニー》は顔を上げながら口を開く。
「ダイゴ、ダイゴがぁ……」
「ダイゴなら心配いらねえぜ。ちょっと様子を見に行くか」
テツノスケが先頭になって全員は部屋を出た。
《ジェニー》は知らなかったが、ここは本山が住んでいるアパートだった。出て少ししたところに空き地があり、二人は聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させて対戦を始めていた。
「僕の完全無欠スーパーロボット計画のためにも負けられない!行くぞ!」
本山の聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)には多くのロボットが並んでいる。それらは、全て四角い箱を並べて作ったような古いデザインのものだった。
「《封魔ジョーズジャックス》を召喚!」
先に行動したのは本山だった。両腕が巨大なサメのような姿へと変化した人型の魔物のクリーチャー《封魔ジョーズジャックス》が場に出る。それを見たダイゴは静かに舌打ちをした。
「あれって怖いクリーチャーなんですか?見た目は怖いですけど……」
未知のクリーチャーを見たタダオが聞く。
「ダイゴのデッキにとっては怖いクリーチャーかもな。《ジョーズジャックス》はスレイヤーを持っている」
テツノスケがタダオの問いに答えた。
スレイヤーはバトルの勝敗に関係なく、相手を葬り去る能力だ。相手の切り札を選んで狙い撃つこともできる。しかも、《ジョーズジャックス》はコスト2と軽い。序盤から相手に睨みを利かせられる。
「ならば、こちらは《ハッチャキ》を召喚だ!」
ダイゴも自分のクリーチャーを召喚した。人型のクリーチャー《ハッチャキ》だ。攻撃する時に自分の手札からコスト5以下のブロッカーを出す能力を持っている。
「ブロッカーを出すクリーチャーか。いいよ、何を出しても。でも、無駄だけどね」
《ジョーズジャックス》の横に深海に咲く青い花のようなクリーチャーが現れる。《メディカル・アルナイル》だ。
「これはグランド・デビルの種族デッキね」
本山の戦い方を見てミヤビが呟いた。疑問に思ったタダオに答えるように説明を続ける。
「《メディカル・アルナイル》はグランド・デビルが破壊された時、代わりに手札に戻す能力を持つわ。《ジョーズジャックス》は破壊された時に持ち主の手札を捨てるデメリットがあるけれど、これで打ち消すことができる」
「困りますね……」
手札に戻った後、再召喚までのタイムラグはあるが、これは不死身なのと同じだ。
「《メディカル・アルナイル》がいれば問題はない!《ジョーズジャックス》で攻撃!」
《ジョーズジャックス》の巨大なサメの頭部がダイゴのシールドを貫く。それはシールド・トリガーではない。
「そうだな。問題はない。《メディカル・アルナイル》を消し去ってさらに《ジョーズジャックス》を破壊すればいい。《スパイラル・ゲート》!」
ダイゴが出した呪文のカードによって渦巻きが発生し、《メディカル・アルナイル》がそれに飲みこまれる。その横を《ハッチャキ》が通って《ジョーズジャックス》に近づいた。さらに、その背後には《ハッチャキ》の能力で現れた神官のようなエンジェル・コマンド《我牙の精霊 HEIKE(ヘイケ)・XX(ダブルクロス)》がいる。
「《HEIKE・XX》は選ばれないブロッカーだ!これで俺の防御は万全だな!」
《ハッチャキ》の拳が《ジョーズジャックス》を捉えた。《ジョーズジャックス》はその場に倒れ、《ハッチャキ》の体が黒く染まって行く。《ハッチャキ》は苦しそうにもがくとその場に倒れた。
「さあ、手札を捨ててもらおうか」
「いいだろう。でも、捨てた手札が墓地に行くとは限らないんだよ?」
本山の瞳が怪しく光った。すると、《ジョーズジャックス》の亡骸から、巨大な魔物が姿を現す。人を不快にさせる鳴き声が周囲に響いた。
「《悪魔提督アルゴ・バルディオル》。相手のターン中に手札から捨てられると場に出るグランド・デビルさ。そして、場に出た時、山札の上を三枚めくり、グランド・デビルとディープ・マリーンを手札に加える能力を持つ!」
本山が右手を上げるとそこに三枚のカードが飛んでいった。全てグランド・デビルのカードだ。
「そこまで考えて《ジョーズジャックス》を出していたか」
「そうだよ。そして、選ばれないブロッカーを退治する方法も考えてあるさ」
ダイゴの場にあった《HEIKE・XX》の肉体が突然、崩れ去った。ダイゴが慌てて場を見ると、そこには長い黒髪を持つ左脚が強化された魔物が立っていた。
「《封魔ヴィネス》。相手に自分のブロッカーを選んで破壊させる能力を持つ」
「俺のブロッカーは《HEIKE・XX》だけだった。これしか選べなかったから選ばれないブロッカーを選んで破壊できたということか」
「そういうことさ!」
《アルゴ・バルディオル》の巨体がダイゴのシールドを押し潰す。それもシールド・トリガーではない。
「ダイゴ!」
戦いを見ていた《ジェニー》が彼の名を叫ぶ。その肩をミヤビが抑えた。
「今は声をかけちゃダメ。ダイゴ君を信じて見守っていて」
それを聞いた《ジェニー》は心配そうな顔でダイゴを見た。
二枚もシールドを破られ、クリーチャーは残っていない。だが、それでもダイゴは諦めていない。不敵な笑みを浮かべて本山を見ている。
「確かにつらいな。だが、これからだ!」
ダイゴの場にたくさんの手を持った青い体の精霊が現れる。《知識の精霊ロードリエス》だ。
「《ロードリエス》がいる間、俺はブロッカーを出す度にドローできる。これを破壊できるカードはあるのか?」
「確かに、今の僕の手札にそれを破壊するカードはないよ。だから、こうしよう」
本山は《メディカル・アルナイル》を再度召喚する。そして、その横には深海の生物のような奇怪な形のクリーチャーが現れた。
「グランド・デビルをサポートするディープ・マリーンの一つ、《スナイプ・アルフェラス》さ。君の《ロードリエス》と同じようにドローに使うクリーチャーだ。《スナイプ・アルフェラス》がいる時にグランド・デビルが破壊されたら手札を捨てなくちゃいけないっていう欠点はあるけれど、それも《メディカル・アルナイル》を同時に並べることで帳消しになる」
説明を終えた本山はダイゴのシールドを指す。《ロードリエス》よりもパワーが高い《アルゴ・バルディオル》が動き、その巨体による体当たりでシールドを粉砕する。
「少しくらい反撃をしたらどうかな?それとも、極神寺グループの会長っていうのはそんなものかな?」
本山が得意そうな顔で言った。
だが、その顔はすぐに恐怖で青ざめる。ダイゴが場に出したカードから金色の光があふれ始めたからだ。
「待たせたな。俺はスロースターターなんでね。ここから楽しませてやる!《ヘブンズ・ゲート》!」
天に金色の幾何学模様で出来た魔法陣が現れる。その魔法陣から二体のエンジェル・コマンドが飛び出して来た。
「出でよ!《光線の精霊カチャマシグ》!そして、《偽りの名(コードネーム) ビルド・レオーネ》!」
現れたのはオブジェのような形のブロッカー《カチャマシグ》とカラフルな四枚の翼で羽ばたく金色の獅子《ビルド・レオーネ》だった。
「ブロッカーが二体出たから《ロードリエス》の能力で二枚ドローする。さあ、どうだ?ブロッカー三体を乗り越えられるか?」
「くっ!」
本山は苛立ったように眼鏡のブリッジを指の先で押し上げた。その後、カードを引いて行動を開始する。
「《封魔ハリセンモン》を召喚!ブロックできないクリーチャーならどうだ!」
現れたのは、トゲ付きのグローブを両手にはめたようなグランド・デビル《ハリセンモン》だ。攻撃をこのクリーチャー一体に任せるらしく、本山は召喚だけでターンを終了した。
「怯えたか。本気で何かを成したいなら、失敗を恐れずに飛び込むべきだったな!」
ダイゴは金色の鳥のようなクリーチャー《束縛の守護者ユッパール》を召喚した。その輝きを受けて《アルゴ・バルディオル》が倒れる。
「タップして攻撃かい?でも、無駄だよ。《メディカル・アルナイル》がいる限り、僕のグランド・デビルは不死身さ!」
「だから、邪魔な《メディカル・アルナイル》をどかす。《ザ・ストロング・スパイラル》!」
ダイゴが放った呪文によって竜巻が生み出され、《メディカル・アルナイル》が飲みこまれていく。それを横目で見ながら《ビルド・レオーネ》が動いた。翼を羽ばたかせながら地面を蹴る。
「《ビルド・レオーネ》で《アルゴ・バルディオル》に攻撃!さらに能力で《ハリセンモン》をシールドに移動させる!」
《ビルド・レオーネ》は《ハリセンモン》に向かって吠える。すると、《ハリセンモン》はカードの姿に変化し、シールドゾーンへ飛んでいった。
間髪入れずに《ビルド・レオーネ》は攻撃目標へ向かって飛んだ。右の前足を上げた後、体重をかけて一気に振り下ろす。その重量に耐え切れず《アルゴ・バルディオル》の肉体は潰された。
「さあ《スナイプ・アルフェラス》のデメリットの処理をしてもらおう。二体目の《アルゴ・バルディオル》を出すか。それとも手札を捨てるか!」
本山は悔しそうな表情で手札を捨てた。それを見たダイゴはシールドを指す。
「《カチャマシグ》!攻撃だ!」
《カチャマシグ》の光線が本山のシールドを破っていく。ダイゴはそれを満足そうな表情で見ていた。
「邪魔なクリーチャーはタップして殴るか《ビルド・レオーネ》で叩く!動き出した俺のデッキは、もう止められない!」
「言ってくれるね。そういう偉そうな台詞は勝ってから言って欲しい!」
《カチャマシグ》がブレイクしたシールドが一枚、青い光を発してクリーチャーの姿へと変化していく。それは杖を持った魔術師を連想させる紫色のグランド・デビルになった。
「《封魔ベルアリタ》さ。連鎖を使い、山札をめくるよ!」
《ベルアリタ》の能力、連鎖は登場時に山札を見て自身よりコストが低いクリーチャーを出すというものだ。この場合、《ベルアリタ》のコスト6よりも低いコスト5以下のクリーチャーを出すことができる。
「能力で《ジョーズジャックス》を場に!そして《スナイプ・アルフェラス》の能力でドロー!」
一気に手札が増えていく。加わったカードを見て本山は穏やかな顔で微笑んだ。
「切り札が来た。これを使えばこのターンで勝てる!進化!」
本山がカードを出した瞬間、場に黒い光が現れ《ヴィネス》《ベルアリタ》《ジョーズジャックス》が光に吸い込まれていく。三体が重なった瞬間、それは巨大な進化クリーチャーへと姿を変えた。
「切り札《超神星プルート・デスブリンガー》!」
漆黒の巨体は、主に自分の名を呼ばれて吠えた。青い球体の下半身を持ち、いくつもの腕をせわしなく動かしている。ステンドガラスのような模様の頭部が光った。《プルート・デスブリンガー》が腕を向けた瞬間、ダイゴのシールドを守っていた唯一のブロッカー《ロードリエス》が爆散する。
「メテオバーンさ。使えるのは残り二回だけど、気にしなくていい。これで終わりにしてあげるからね!」
メテオバーンは進化元の数だけ使える特殊能力だ。《プルート・デスブリンガー》を召喚するのに使ったのは三体のグランド・デビルだった。本山はそのカードを一枚使って能力を発動させたのだ。
「《プルート・デスブリンガー》のメテオバーンはクリーチャーの破壊だったな。大型が来ないと思っていたが、こんな奴を隠しているとは……」
感心しているダイゴの目の前で最後のシールド二枚が破られていく。シールドの欠片が宙を舞うのを見て《スナイプ・アルフェラス》が敵に向かって突進していく。
「おっと、攻撃するか決めるのはまだ早い。シールド・トリガー《ヘブンズ・ゲート》!」
ダイゴが放った二発目の《ヘブンズ・ゲート》によって《カチャマシグ》二体が場に並んだ。《スナイプ・アルフェラス》が攻撃をしても、止められてしまう。
「ここでシールド・トリガーか!」
「だが、まだ終わりじゃない。俺のターン!三枚目の《ヘブンズ・ゲート》を使う!」
金色の輝きが全てを照らし、同じ姿のエンジェル・コマンドが二体、姿を現す。巨大な白い翼を持ち、体中にクリスタルを散りばめたブロッカー《偽りの名(コードネーム) オレワレオ》だ。
「シールド・トリガーのせいで《カチャマシグ》が攻撃不可能になったら困るからな。念には念を入れて一気に叩く!」
二体の《カチャマシグ》が同時に光線を発する。残った四枚のシールドは閃光と共に消えていった。シールド・トリガーが発動する気配はない。
「そ、そんな……!僕のスーパーロボット計画が!あの子を見つけてから毎日、準備していたのに!」
「お前の敗因は俺の仲間に手を出したことだ!次は自分の力だけでロボットを作るんだな!《ユッパール》!」
ダイゴの命令を受けて《ユッパール》が空中に浮遊する。そして、回転しながら本山に向かって飛び、加速していった。
「必殺!ドリル・フラッシュ・ストライク!」
《ユッパール》の体当たりを受けて本山の体は吹っ飛ばされる。宙を舞った後で、地面に叩きつけられた彼はカエルが潰れるような声を出して気を失った。
「ユウミ、警察に電話を頼む。それと……」
聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除したダイゴは《ジェニー》に近づいた。ダイゴは彼女の頭に手を置いた後、「大丈夫だったか?」と聞いた。
「ねえ、どうして助けてくれたの?あたしを助ければ、キスできるとか思ってるの?」
「それもある。男はいつの時代も惚れた女の前ではいいカッコをしたいからな。もしかしたら、これで俺を好きになってキスさせてくれるチャンスがあるかもしれんと思っていた。それ以外にもう一つ」
冗談めいた口調で言っていたダイゴは、そこで区切ると優しい顔で《ジェニー》を見た。
「君が俺達の仲間だからだ。大事な仲間のためなら、俺は全力で戦う。ここにいる生徒会の連中は全員そうだ」
「あたしも仲間、なの?」
「そうだ。この世界に来た時から、俺達の仲間だ」
「それじゃ、次にあたしが危険な目にあっても助けてくれる?」
「もちろんだ」
そう言ってダイゴが微笑んだ時、《ジェニー》は彼に抱きついた。
「お、おい……!」
「助けてくれてありがとう!ダイゴ、大好きだよ!」
そう言って《ジェニー》はダイゴの頬に口をつけた。それを見て生徒会のメンバー達は「あーっ!」と大声を出した。
「い、今のはほっぺだから!ほっぺだからノーカンなんだからね!」
照れたように耳まで真っ赤になった《ジェニー》はそう言ってダイゴの顔を見た。彼は鼻血を出したまま、気を失っていた。
「さ、先を越されたお!」
「《ジェニー》ばっかりずるい!アタシもダイゴの頬にキスするわ!」
「あ、ボクもー!」
「畜生!ダイゴ、てめー!リア充爆発しろ!」
「テツノスケ先輩、リア充って言いますけど、相手はクリーチャーですよ?」
「でも、いいじゃない。青春よ青春!あたしも帰ったら富宝先生に積極的にアプローチよ!」
その後、彼らはユウミが呼んだ警察が来るまでそうやって騒いでいるのだった。

次回につづく

次回予告
人は変化を望む。どんな者でも内に秘めた変身願望は抑えられない。全てが変質した異質な空間。そして、それが許される時。日常の中に現れた非日常の中でダイゴと生徒会はどう動くのか。
次回 第十話 仮装
その精霊は全てを鼓舞する。
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