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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第十話 文化祭!コスプレ喫茶とスイーツ味!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、平和と治安を維持する者達がいた。
書道の達人、闘魂堂(とうこんどう)テツノスケ。
言語のエキスパート、ワン・チャン。
学園最強の女帝、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビ。
常識的な生徒会の良心、野波(のなみ)エリコ。
凡人、一ノ瀬(いちのせ)タダオ。
そして、生徒王にして生徒会長の極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。
これは、彼ら、無双竜機学園生徒会が学園に巣食う悪を蹴散らす物語だ。
ダイゴのデュエマの最中に紛れ込んだ《特攻人形ジェニー》のカードが実体化したまま戻れなくなった。「キスの味を知るため」にこの世界にやってきた《ジェニー》にダイゴは興奮し、喜んだ。
しかし、《ジェニー》は彼女をスーパーロボットに改造しようとするマッドサイエンティストに誘拐されてしまう。ダイゴは自らの愛のために彼女を助け出す。こうして、生徒会に新たな仲間が加わるのだった。

第十話 文化祭!コスプレ喫茶とスイーツ味!

「素晴らしい日本晴れだ」
空を見上げていたその男の長い銀髪が穏やかな風に揺れ、陽光に照らされて輝く。
彼の名は極神寺ダイゴ。世界的に有名な極神寺グループの総帥で、無双竜機学園の生徒会長でもある。
「そうね。日本晴れっ!」
ダイゴの隣で同じように空を見ていた少女が言う。
正確には少女ではない。制服の袖から覗く手首には球体関節が見える。彼女は非常に精巧に作られた人形だ。より正確に言うのであれば人形の姿をしたクリーチャーである。ダイゴと同じように銀髪をなびかせているのは《特攻人形ジェニー》。ある日、実体化したまま戻れなくなってしまった。本人は「キスの味を知るために来た」と言っている。だが、今はその目的を忘れ、この世界で遊んでいる。
「晴れてよかった」
ダイゴは足元に広がる世界を見た。隣の《ジェニー》も真似して下を見る。
彼らがいるのは無双竜機学園の屋上だ。今日は日曜日なのに、多くの生徒の姿が見える。文化祭だからだ。楽しそうに談笑する生徒の姿がダイゴの目に写った。
「晴れた方がいいの?学校の中だから関係ないじゃない」
「そうでもない。気分の問題だ。それに校庭でやるイベントもあるからな。さあ、俺達は俺達の仕事だ」
ダイゴは《ジェニー》にたすきとがま口財布を渡す。たすきには『生徒会名誉役員ジェニー』と書かれていた。
「《ジェニー》は名誉役員として展示やイベントでおかしなものがないか確認してくれ。食べものの店とかでまずい飯を出していたり、高校の文化祭としてふさわしくないようなものが出ていないかチェックする仕事だ。必要な資金は財布の中に入れてある」
《ジェニー》は綿割れた財布を開ける。中には折りたたまれた千円札が数枚といくつかの小銭が入っている。
「うわー、お金がいっぱい!これで欲しいもの食べていいの!?」
「ああ、いいぞ。だが、あくまで仕事だというのを忘れるな。それだけあれば足りるはずだ。俺も見回りをするから、後で落ち合おう。ケータイは持っているな?」
「うんっ!」
《ジェニー》の返事を聞いた後、ダイゴも自分のたすきをかけた。『生徒会長にして生徒王・極神寺ダイゴ』と書かれている。
「《ジェニー》にはタダオの生徒会役員見習いよりも上の名誉役員の役職を与えている。その名に恥じない活躍を期待しているぞ!」
「了解であります!」
ダイゴにかわいらしく敬礼した《ジェニー》は屋上から出ていった。その直後、ダイゴの携帯電話が鳴る。
「何だって!?それは本当か?判った。何とかしよう」
今、通話した相手は文化祭実行委員だった。携帯電話をポケットにしまう頃には、彼は伝えられたトラブルの解決法をいくつか思いついていた。
「今年の文化祭はいつも以上に荒れそうだな」
そう呟くと、ダイゴも屋上を出ていった。

一般参加者の入場開始時間になって数時間が経った。生徒会役員見習いの一ノ瀬タダオは慣れない執事風の服に身を包んでコーヒーを淹れている。
「タダオ!今度は八番テーブルにアールグレイだお!」
タダオが用意したコーヒーを受け取った少女は、彼にメモを渡した。
高校生とは思えないほど小柄で、頭の上に乗せた大きなリボンが目立つツインテールのこの少女はワン・チャン。生徒会に所属している二年生でワンコと呼ばれている。
何故か、彼女の服装は制服ではなく、クラシカルなメイド服だった。
「はい、判りました」
「予想以上の大当たりだな」
タダオの横で抹茶の準備をしながら執事風の服装をした男子生徒が言う。
黒髪の和風の雰囲気の男子生徒、闘魂堂テツノスケだ。三年生で書道と茶道を得意としている。生徒会役員のために茶を立てることも多いので、抹茶の準備はお手の物だ。
「ホントホント。忙しくて焼酎を飲む暇もないわね」
そう言って明るい顔でぼやいているのは三年の不死鳥座ミヤビだ。
綺麗でさらさらの長髪とメイド服を着た状態でも強烈にアピールする大きな胸が特徴的な女子生徒だ。焼酎お湯割り梅入りが好物でよく飲んでいる。彼女は二度留年していて二十歳なので、飲むこと自体は違法ではない。
生徒会のメンバーは空き教室を借りてコスプレ喫茶をしていた。タダオとテツノスケの二人は教室の端に作ったカウンターの中で飲み物の準備をしている。カウンターの中には、客に見えないところにいくつかのポットを用意していた。
他にも同じようなことをしているクラスや部活もあったが、「コスプレをした人割引サービス」や本格的な味のコーヒーや紅茶、それとテツノスケが得意としている抹茶といった他との差別化に成功したため、集客に成功していた。
「エリコががんばってくれたおかげだお」
ワンコは入口付近で対応をしている女生徒を見て言った。
「ありがとうございました!またどうぞ!」
笑顔で客に礼を言ったその少女は三つ編みにしたお下げ髪と眼鏡が印象的な少女だった。彼女も同じようにメイド服を着ている。
彼女の名は野波エリコ。三年生だ。生徒会のメンバーの中では数少ない常識人で、個性溢れる彼らの調整役となっている。エリコは他の生徒会役員の視線に気付くと近づいてきた。
「ほら、がんばって!まだ始まったばかりだよ」
「エリコに言われたんじゃ、仕方ねえな。貧乳の言うことを聞くのは我慢ならねえがお前だけは特別だぞ」
テツノスケは素早く手を動かし、抹茶オレを準備する。
「うん、ありがと。あと、テツノスケ君のセクハラ発言は聞かなかったことにしてあげるね」
エリコはテツノスケの発言に笑顔で対応すると抹茶オレを持っていく。心の底からコスプレ喫茶の店員を楽しんでいるようだった。
本来、生徒会は何もしない予定だった。しかし、エリコがコスプレ喫茶をやりたいと言い出し、彼女を中心に企画が動いた。今回、生徒会長として見回りの仕事があるダイゴはエリコのサポートに徹していた。
エリコの指示通りに動けば全てうまく行った。タダオは今まで、彼女をぱっとしない人間だと思っていたが考えを改めた。彼女はサブリーダーだけでなく、リーダーも努められる人間だ。
(あれ……?)
そこまで考えたタダオの頭に違和感が生まれた。
生徒会役員に野波エリコという人間はいない。今まで生徒会はダイゴ、テツノスケ、ミヤビ、ワンコ、タダオの五人だった。
最近になって《ジェニー》が加わったが、タダオはそれを覚えている。だが、エリコがいつ生徒会に加わったかは思い出せない。
エリコはずっと生徒会役員であったかのように溶け込んでいた。ミヤビの時と同じように今まで生徒会にいた者ならばそれもおかしくはない。だが、それならばエリコ自身か他の生徒会役員が彼女をタダオに紹介しているはずだ。ミヤビの時とは違ってそれもない。
「タダオ君、休憩行ってきてね!」
エリコに声をかけられてタダオは我に返った。目の前には彼女の優しそうな笑顔があった。
「あ、はい……。でも、いいんですか?まだ忙しいですよね?」
「いざとなったら、ユウミちゃんとショウコちゃんを助っ人に呼ぶから大丈夫だよ。だから、タダオ君も文化祭楽しんできてね!」
「はい、ありがとうございます」
「ちょっと待って!」
エプロンを外し、教室から出ようとしたタダオにエリコが声をかける。彼女はタダオがかけていたものとは別のエプロンを渡した。それにはこの教室の場所とメニューが書いてあった。
「宣伝もがんばってね」
「……ちゃっかりしてらっしゃる」
エリコに渡されたエプロンを着けた時、彼の疑問は頭から消えていた。

「困ったことになったな」
現在、生徒会室には一部の文化祭実行委員とダイゴが集まっていた。実行委員は皆、頭を抱えている。
彼らを悩ませているのは、午後の目玉となるイベント、軽音部によるライブだ。全ての準備が滞りなく進んでいたのだが、軽音部のメンバーが今朝になって急に「音楽性の違いのせいで解散する。今すぐに」と、言いだしたのだ。
「客から逃げる奴にエンターテイメントを語る資格はない。そんな奴に演奏をさせるわけにも行くまい」
「ですが、会長!どうするんですか!もう人は集まっているんですよ!」
実行委員の一人がテーブルを叩いてダイゴの意見に反論する。
校庭に作ったステージの上にはもう機材が運ばれている。いつでもライブが行えるような状態だ。開始まで一時間あるが、多くの生徒や父兄が楽しみに待っている。中止など言い出せる状況ではない。
「代わりのメンバーを用意する。それでいいな?」
そう言ったダイゴが自分専用のデスクで指を鳴らした。すると、扉が開いて三人の人影が入って来た。その内の一人は《ジェニー》だ。
「ダイゴ!頼まれてた焼きそば買ってきたよ!文化祭って楽しいわね!」
彼女は満足そうな顔でりんご飴を頬張る。彼女の横にいた二人の男子生徒も同じようにりんご飴を口に入れた。
「この三人が、代わり……、ですか?」
実行委員はダイゴに問いかけた。それを聞いたダイゴは不敵な笑みを浮かべて言う。
「三人じゃない。四人だ。俺を含めた四人でライブを行う。それでいいな?」
最後の言葉は《ジェニー》の横に立つ男子生徒に向かって投げかけられたものだった。二人は無言で頷く。
「実行委員のみんなは、楽器を用意してくれ。専用のものは持っていないから、音楽室にあるもので何とかするぞ!」
ダイゴの言葉を合図に実行委員はヤケクソで走り出した。空いた席に《ジェニー》を含む三人が座る。
「それで、あたし達は何をやるの?」
「歌を唄って曲を演奏するんだ。《ジェニー》手伝ってくれるか?」
「うん!面白そう!」
「お前達もそれでいいか?」
ダイゴは他の二人にも問う。その二人も無言で頷いた。
「これでいい。腹ごしらえをしてライブに挑むとしよう」
《ジェニー》から焼きそばを受け取ったダイゴはそれに口をつけ、静かな笑みを浮かべた。

タダオにとって初めての文化祭は楽しいものだった。普段と同じ学校の校舎のはずなのに、全く別の表情を見せている。全ての教室に、それぞれの生徒が精一杯考えた楽しいものを詰め込んでいた。まるで、おもちゃ箱の中にいるような感覚だ。
宣伝を兼ねたエプロンを笑われることもあったが、それもまたいい思い出だ。焼きそばを片手にタダオはそんなことを思いながらコスプレ喫茶がある空き教室まで戻っていた。
「なんですかYO、この生徒さんは!」
教室の前まで来たところで、タダオはそんな怒声を聞いた。男の声だ。ただならぬものを感じたタダオは急いでカウンターのある入口に向かう。ドアを開けたタダオが見たのは、エリコに向かって立っている一人の男だった。
神父のような服装をした男だ。白髪混じりの髪にサングラスをかけていて、背が高い。
「テツノスケ先輩、あの神父っぽい人、どうしたんですか?」
タダオはカウンターで立ちつくしているテツノスケに近づき、小声で話しかける。テツノスケはそこで初めてタダオに気付いたらしい。彼の方をちらりと見た後、
「判らねえ。入って来て、いきなりエリコに向かって怒鳴ったんだ」
と言った。その目はまだ神父風の男を見ている。周囲の人間は神父風の男を見てひそひそ話をしている。
「おっさん、何を怒っているんだお?エリコ、気にすんなお」
「お嬢さん、その生徒さんに近づいてはいけないYO!」
神父風の男は近づいてきたワンコを威嚇する。その声に驚いてワンコは足を止めた。
「私は神父の門倉(かどくら)ジーンと申す者だYO!悪魔祓いを得意としているYO!」
「なんだ、あいつ?」
「関わらない方がいいな」
「他にも喫茶店はあるみたいだから、そこ行こうぜ」
神父風の男が自己紹介をしたのを見て、客が逃げていく。生徒会役員が止める間もなく、空き教室にいる客は門倉ジーンだけになってしまった。
「お、お客さんが……」
「さあ、女子生徒さん!正体を現すYO!あんた、本当は悪霊だYO!」
客が逃げてしまったのを見て呆然としているエリコにジーンは指を突き付ける。
「正体って……、一体、何を言っているの?」
腕を組んだミヤビがジーンを睨みつける。ジーンは彼女を見て説明を始めた。
「さっき言ったように私は悪魔祓いを得意としているんだYO!だから、人間と悪霊を見分けることができるんだYO!この生徒さんは悪霊が人間に化けているんだYO!さあ、正体を現すYO!」
エリコはそれには答えない。顔を伏せて下を向いていた。
「さあ、正体を現さないとただではすまないYO!」
「許さない……」
気をつけて聞いていないと聞き洩らしてしまいそうな小さな声がエリコの口から洩れた。
「ん?何か言ったかYO」
「許さないと、言ったんです!」
彼女は顔を上げるとジーンを睨みつける。あまりの勢いにミヤビから睨まれて平然としていたジーンは思わず「ひっ!」と声をあげた。
「お客さんがみんな帰っちゃったじゃないですか!このまま行けば順調に利益が出たと思ったのに!今日の売上予算が達成できなかったらどうしてくれるんですか!営業妨害の責任を取ってください!」
「あ、怒るところは悪霊呼ばわりされたところじゃなくて、そんなことなんですか」
タダオが呟くように言うとエリコは彼を見た。温厚なエリコしか知らない彼も思わず「ひっ!」と声をあげる。
「そんなことじゃないよ!他人事みたいに言って!ダイゴ君だって言ってたでしょ!利益は全部寄付する。だから、全力で稼げ。全ての力を使って善行をするのだって。それを邪魔するということはこの人は悪魔だね」
エリコは懐からデッキを取り出した。それを見たジーンも自分のデッキを取り出す。
「オーケーオーケー。デュエマで悪魔祓いだYO!」
「悪魔はあなたです!営業妨害をするような悪い人はこの手で滅ぼします!」
物騒なことを言う、とタダオは思ったが黙っていた。それが懸命だと思ったのだ。
エリコとジーンの二人は廊下に出た。タダオと他の生徒会役員もそれに続く。
二人は互いに五メートルほど離れた後、聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させる。
エリコは自分の背後に現れた大きなベッドに腰掛ける。枕元には色々な動物のぬいぐるみが置かれていた。彼女はそのまま、自分の前に現れた木製のテーブルにデッキを置くとシールドの設置とドローを終えた。
「エリコ先輩の聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)は……、睡眠欲ですか?生徒会で人間の三大欲求が揃いましたね。っていうか、一人くらい欲以外のもので発動させてくださいよ!」
タダオはエリコが腰掛けたふかふかのベッドを見て言った。ダイゴ、テツノスケ、ミヤビは性欲。ワンコは食欲で聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させていた。睡眠欲で発動させる人間はエリコだけだ。
ジーンの背後に巨大なパイプオルガンとステンドグラスが現れる。神父らしく教会をイメージした聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)だった。
「ふん!デュエマが始まればこっちのものだYO!《フェアリー・ライフ》を使うYO!」
先に動いたのはジーン神父だ。《フェアリー・ライフ》でマナを増やす。
「マナに置かれたのは火のカード。自然文明のサポートでマナを増やしてクリーチャーを手札に加えて火文明の切り札を出すデッキかな」
エリコは呟きながら自分の手札を見る。思考していたのは一秒程度だった。慣れた手つきでカードを動かすと、黄金色の球にドリルがついたようなクリーチャーを召喚した。
「《予言者ラメール》召喚。ターンエンドです」
「なるほど。こいつは怖いYO」
現れた《ラメール》を見て、ジーンは険しい顔をした。タダオはその動作の意味が判らず、周囲に集まった生徒会役員の顔を見た。
「《ラメール》はウェーブストライカーのクリーチャーよ。普段はそんなに強くないけれど、ウェーブストライカーを持つクリーチャーが場に三体以上集まると真価を発揮するわ」
「なかなか渋いカードを使うよな」
ミヤビとテツノスケの説明を聞いても、タダオにはその強さが理解できなかった。三体も集めなければならないというのが大変に思えたからだ。
「三体も揃えさせはしないYO!セイッ!《掘師の銀(シルバースコップ)》召喚!」
白い特攻服を着た獣が場に現れる。そのクリーチャー《堀師の銀》は《ラメール》の下まで移動し、穴を掘り始めた。その後、跳躍し《ラメール》の上に飛び乗った。クリーチャー二体分の重量に耐え切れず、《ラメール》は落下し、二体のクリーチャーは穴の中に埋まった。
「《ラメール》が除去された!なんですか、あのクリーチャーは!」
「《堀師の銀》を出した時、それぞれのプレイヤーは自分のクリーチャーを一体、マナに置かなくてはならないんだお。その能力で《ラメール》をマナに封じたんだお」
これにより、ジーンのマナゾーンのカードは五枚になった。相手クリーチャーの排除と自分のマナの増強を同時に行う強力な一枚だ。
「大丈夫。墓地じゃなくてマナならすぐに戻って来てくれる」
エリコは自分の山札の上に手を置いて呟いた。それはタダオを安心させるために言った一言なのか、それとも自分に言い聞かせるように言った一言なのかは判らない。ただ、それを聞いてタダオは安心した。エリコの言葉には人を安心させるような何かがあった。
「ドローします。そして、マナにカードをチャージ。《炎舞闘士サピエント・アーク》を召喚!」
エリコの場に二体目のクリーチャーが現れた。それは。鎧に身を包んだ龍人のようなクリーチャーだ。持っていた三又の槍の先をジーンに向けて威嚇している。
「あれも、ウェーブストライカーのクリーチャーですか」
「そうだぜ。揃ってからが本番だ」
ジーンは新たに現れた《サピエント・アーク》を見ていた。タダオには強さが判らなかったそのクリーチャーを警戒しているようだった。
「ふむ。ならば、アニキにお越しいただくかYO!」
周囲を振るわせる衝撃と共に、緑色の巨大な虎のクリーチャーが現れる。そのクリーチャーは鋭い牙の生えた口で咆哮した。
「《大地のアニキ虎武流(トラブリュウ)》だYO。マナに置いた《堀師の銀》はこいつの力で再び手札に戻すんだYO!」
「いいアイディアね」
《虎武流》を見てミヤビが呟いた。タダオの視線に気付いた彼女は説明を始める。
「《虎武流》がいる時に他のハンターを出せば、マナにあるハンターを手札に戻せるの。《堀師の銀》を出してその能力を使えばマナに置けるわよね?そして、その後《堀師の銀》を回収できる」
「じゃ、あの神父は《虎武流》がいる限り、無限に《堀師の銀》を召喚できるってことですか!?ズルイ!」
思わずそう言ってしまいたくなるコンボだった。
切り札と言っても遜色のないクリーチャーがいるジーンに対して、エリコは吹けば飛ぶようなクリーチャーが一体いるだけだ。タダオの目にはこれが絶望的な状況に見えた。安心させるようなエリコの言葉を忘れてしまうくらい怯えている。
「揃った」
しかし、タダオの心に生まれた暗雲はすぐに消えた。エリコが静かに呟いた時、彼女の場には新たに二体のクリーチャーが並んでいた。
「《ラメール》と《アラーム・ラディッシュ》を召喚!ウェーブストライカー準備完了です!」
タダオには、一瞬、三体のクリーチャーが光ったように見えた。三体並んでも、外見上の変化はない。変化はないが、何かが変わったように思える。
「タダオ。お前、神父のカードをズルイって言ったお?でも、三体揃ったウェーブストライカーを見たらもっとズルイって思うお」
「え?それってどういう……」
ワンコの言葉を聞いたタダオは戸惑いながら場を見た。その答えはエリコが教えてくれた。
「まず、《アラーム・ラディッシュ》の能力!山札の上のカードをマナに置き、《ラメール》を手札に!」
半分に切られた大根のようなクリーチャー《アラーム・ラディッシュ》のウェーブストライカー能力によってマナに封じられた《ラメール》が回収できた。《虎武流》にも劣らない能力だ。
「他に二体以上ウェーブストライカーのクリーチャーがいる時に《アラーム・ラディッシュ》を出せば山札の上のカードを一枚マナに置き、マナからクリーチャーを手札に戻せる。使えるのは一回だけだが、種族の制限がないからどんなクリーチャーでも戻せるぜ」
「《サピエント・アーク》で《虎武流》を攻撃!」
ここでエリコが仕掛けた。エリコと《サピエント・アーク》の闘志に呼応するように、その槍の先は炎のように赤く変色していた。
「《サピエント・アーク》は他に二体以上のウェーブストライカーがいることでタップされていないクリーチャーを攻撃できるようになる。そして、パワーは4000増えるのよ!」
これで《サピエント・アーク》のパワーは6000になった。それを知ってタダオの顔に再び、動揺が走る。
「ちょっと待ってください!《虎武流》のパワーは6000だから、このままじゃ相討ちですよ!」
しかし、心配はいらなかった。
《サピエント・アーク》の槍は《虎武流》の胴を貫き、反撃しようとした《虎武流》の攻撃は宙を切った。《サピエント・アーク》は傷一つ負うことなく《虎武流》に背を向ける。緑色の虎の巨体はその場に沈んだ。
「え?相討ちのはずなのに、何で……」
「そして、《ラメール》のウェーブストライカー能力。それは自分のクリーチャー全員のパワーを1000増やす能力だお。これで《サピエント・アーク》のパワーは7000だお!」
「ず、ズルイ!」
思わずタダオはそう叫んでいた。元々はただのパワー2000だったクリーチャーがいきなり切り札級の力を得たのだ。今までに見たことがない衝撃の能力を持ったカードだった。
「ふん。このままじゃ息切れするYO。仕方がないからここは《ハッスル・キャッスル》を要塞化してターンを終えるYO」
「ならば、こちらは《雷鳴の守護者ミスト・リエス》を召喚!ターンエンドです」
ジーンもエリコも、ドローのためのカードを準備していた。それはこれから戦いが激化することを現していた。

毎年恒例になったものまね王決定戦が終わった。今年も猿渡によるゴリラの物真似が優勝だった。
ステージで行われるイベントは軽音部のライブを残すのみとなった。軽音部のライブを楽しみにしていた者達はステージを見ていた。
ステージの上にはドラムセットの他に和太鼓が置かれていた。その異様さが注目を集めていた。
「おい、時間になったのに始まらないぜ」
「どうしたんだろう?」
予定の時間を三分過ぎたところで観客がざわめき始めた。いくら待っても始まらないことに不満を漏らす者もいる。
しばらくして文化祭実行委員の女子がステージに立った。緊張し、震えている彼女はマイクを手に持ち、こう言った。
「皆さん、本日は無双竜機学園文化祭にお越しいただきありがとうございます。大変申し訳ありませんば、軽音部が今朝、音楽性の違いを理由に解散したため、ライブは中止になりました!」
怯えた声だった。これから観客の怒りをぶつけられることを想像して委縮してしまっている。
「ふざけんな!」
「軽音部を出せ!」
「金払ってないけど、金返せ!」
「責任者呼べ!」
「その表情、ちょっとかわいいから写真撮らせて!」
怒号(と、一部よく判らないもの)が校庭を埋め尽くす。実行委員の女子は今にも泣きそうな顔で、何度も頭を下げて謝っている。
「ちょっと待った!」
観客の怒声よりも大きくよく通る声がスピーカーから聞こえた。観客は一時的に静まる。スピーカーの声は続けて言った。
「軽音部など忘れろ。奴らは練習をせずケーキを食べ、紅茶を飲んでいるだけだ。活動内容を見たことはないが、恐らくそうだろう。そんな奴らの歌より、俺の歌を聞けぇぇーい!」
ギターの音色と共に四人の人物がステージの上に現れ、実行委員の女子は入れ違いになるように去っていった。
四人の内、一人はダイゴだ。上下を黒い革の衣装で包み、トゲのついた肩パッドをつけ、赤いマントをなびかせている。スプレーで固めた髪はまるで剣山のように尖っていた。彼は血のように赤いギターを持っていた。
ダイゴが呼んだ二人の男はベースとドラムの担当だ。彼らも黒い革の衣装を着ている。和太鼓の位置に陣取ったのは《ジェニー》だ。ゴスパンク風の衣装を身に纏い、背中にはこうもりのような黒い羽根をつけている。
「あ、あれは、伝説の糞メタルバンド『ロック・シザース・スカル』じゃないか!」
観客の一人が驚いた声で言った。その人物がダイゴ達を見ている目は期待に満ちた目ではない。恐怖に怯えた目だ。
「何、知っているのか!?」
「ああ。二年前にこの学校の学園祭でライブをやって観客全員に罵声を浴びせられ、観客の九割から空き缶を投げられたという伝説のメタルバンドだ!残りの一割はあまりのひどさに失神していた。学園祭の後で解散したっていうからもう聞けないと思ったけれど、まさか復活してやがったとは!」
「げ……。そんな奴らの歌なんか聞きたくねえ!」
「そうだな。帰れ!引っ込めー!軽音部を出せー!」
「俺達『ロック・シザース・スカル』のライブへようこそ。一曲目行くぜ!『てのひらをハンドデストラクション』!」
演奏と共に歌が始まった。ギター、ベース、ドラム、そして、和太鼓の不協和音が観客の耳を貫く。
観客の叫びが校庭を包み込む。それは怒りの叫びだった。
「引っ込めー!」
「下手くそー!」
「やめちまえー!」
「でも《ジェニー》はかわいいぞー!」
「《ジェニー》タン、こっち向いてー!
観客の怒り(と、一部のよく判らない興奮した声)は最高潮に達した。ライブの中止を聞いた時を超えている。
「ぼくらはみんな生きている~。生きているから自爆する~」
怒声にもめげずに(あるいは自分の歌と演奏に酔いしれて聞こえていないのか)ダイゴは唄っている。怒号と変な歌が混ざり、校庭は混沌としていた。

ダイゴ達のライブによって観客の怒りのボルテージがマックスに達していた頃、エリコとジーン神父のデュエマもクライマックスを迎えていた。
エリコの場に並んでいた《ラメール》、《アラーム・ラディッシュ》、《サピエント・アーク》がジーンのシールドに突っ込む。神父のクリーチャーがいなくなったから攻撃に転じたのだ。
「それぞれ一枚ずつ、シールドブレイク!」
三体のクリーチャーはテンポよくシールドをブレイクしていく。
「よし!これでジーン神父のシールドは二枚!あとは《ミスト・リエス》でも攻撃すれば残り一枚ですよ!勝てますよ!」
タダオが喜んだ顔で興奮している。エリコの場には他に《ミスト・リエス》と召喚したばかりの《ラメール》がもう一体いた。クリーチャーが出たら《サピエント・アーク》で攻撃すればいい。もうエリコの勝利は確定的に思えた。
しかし、突如、現れた燃える炎を纏った剣が二体の《ラメール》と《アラーム・ラディッシュ》を切り裂いていく。これでエリコのクリーチャーは《サピエント・アーク》と《ミスト・リエス》のみとなった。これでウェーブストライカー能力も解除される。
「そんな……、どうして……」
「シールド・トリガーだYO!こいつを使ったんだYO!」
動揺するエリコに見せつけるようにジーンは一枚のカードを掲げた。それは《めった切り・スクラッパー》だった。
「《めった切り・スクラッパー》は相手のクリーチャーをコストの合計が6以下になるように選んで破壊する呪文だお。エリコのウェーブストライカーはコストが軽いのが多いから大量に破壊されてしまったんだお」
「で、でも、まだ《サピエント・アーク》がありますから!」
タダオがそう言った時、《サピエント・アーク》と《ミスト・リエス》の体が炎を吹きだした。あっという間にその二体は灰になって崩れ落ちる。
ジーンの場を見ると、そこには巨大な角を持つ四足歩行の獣がいた。
「《超次元ボルシャック・ホール》で《サピエント・アーク》を焼き、《ブーストグレンオー》を出して《ミスト・リエス》を焼き殺してやったYO!さらに《ハッスル・キャッスル》の効果でドロー!」
五体もいたエリコのクリーチャーが全滅した。あまりの出来事にタダオは言葉を失う。
「大丈夫。まだ大丈夫。《ミスト・リエス》で引いたカードがあるから戦えます!」
エリコは持っていた手札から、銀色の装飾品めいたクリーチャー《堅防の使徒アースラ》と《ラメール》を召喚する。ウェーブストライカー能力が発動すればパワー6000のブロッカーとなる《アースラ》だが、今はただのパワー2000のクリーチャーでしかない。
「二体か。なら、発動はしていないから問題ないYO!《ボルシャック・ホール》で《アースラ》を破壊!そして、超次元ゾーンから呼び出すのはコイツだYO!」
《ボルシャック・ホール》によって発生した炎の中から一体のクリーチャーが飛び出した。草食を施した詰襟の学生服にも似た鎧を纏い、炎のように燃える翼で飛ぶ人とも獣とも言える存在《紅蓮の怒 鬼流院 刃》だ。
「《鬼流院刃》がいる時に火か自然のハンターがバトルして勝てば、勝ったハンターよりもコストが小さいハンターをマナか超次元ゾーンから出せる!迂闊な攻撃はできなくなったYO!」
とてつもない切り札だった。ジーンのクリーチャーの多くは火か自然のハンターだ。マナだけでなく超次元ゾーンにも多くのハンターが控えている。
「そして《ブーストグレンオー》で攻撃するYO!」
《ブーストグレンオー》の角がエリコのシールドを貫いた。既にジーンの攻撃によってシールドを一枚失っていたエリコはここで二枚目のシールドを失い、残りは三枚となった。
「まだ……、まだ来ない」
エリコは手札に来たシールドを見て落胆したような表情で言った。彼女は肉体がマグマでできていうような人によく似た姿の怪物《スカイフレーム・リザード》と《アラーム・ラディッシュ》を召喚した。これでウェーブストライカー能力が発動し、マナの《サピエント・アーク》を手札に加える。
「ターンエンドです」
エリコは消え入りそうな声で言った。神父は余裕でもあるのか、口笛を吹いて彼女を見る。
「ん?攻撃してもいいんだYO」
攻撃は危険だった。今、攻撃可能な《ラメール》が動けば《鬼流院刃》か《ブーストグレンオー》の攻撃を受け、ジーンの場に新たなハンターが並ぶことになる。それにウェーブストライカー能力も解除されてしまう。
「まあいいYO!マナや超次元ゾーンからでなくてもハンターは出るYO!《クラッシャー・ベア子姫》を召喚だYO!」
クマのお姫様のようなかわいらしいクリーチャーが場に出ると、《アラーム・ラディッシュ》の体をつかみ、背負って投げた。投げられた《アラーム・ラディッシュ》はそのままマナゾーンへ突っ込んでいく。
「《クラッシャー・ベア子姫》は出した時に相手のパワー2000以下のクリーチャーを全てマナ送りにするんだYO!《ラメール》のせいで一体しか除去できなかったが、まあ仕方ないYO!」
ジーンが右手の指を鳴らす。すると《鬼流院刃》が持っていた剣を振り回し、エリコのシールド二枚を叩き割った。その中にシールド・トリガーはない。エリコが求めていたカードもなかった。
「よしよし、それじゃ最後の一枚行くYO!」
《ブーストグレンオー》の角が最後のシールドを貫いた。エリコは手元に戻ったそのカードを見ると、悲しい声で叫んだ。
「ダメ!これも欲しかったカードじゃない!」
「あっはっは!当然だYO!悪魔や悪霊に全能の神が力をお貸しになるわけがないんだYO!次のターンで滅ぼしてやるYO!」
「黙れ!」
神父の嘲笑をかき消すように叫ぶ者がいた。それはタダオだ。怒りに満ちた目でジーンを見ている。
「エリコ先輩は悪魔でも悪霊でもない。優しい僕の先輩だ!これ以上悪く言うと許さないぞ!」
「な、何を……」
思いもよらない方向からの、思いがけない反撃にジーンはたじろぐ。それを見て、他の三人もタダオに続いた。
「エリコは人の悩みも親身になって聞くいい奴だ。悪魔というより女神だぜ」
「地味な仕事も真面目に丁寧にこなしているの。そういうことができる人って素晴らしいわ」
「それにエリコがいると、生徒会の雰囲気がほんわかと優しくなるんだお」
「みんな……!」
エリコは生徒会役員達の応援に元気づけられたようだった。目尻に浮かんだ涙を拭い、ジーンを見る。
「勝負です、ジーン神父!私は今から引くカードに全てを賭けます!私が負けたら悪魔祓いでも何でも好きにするといいでしょう。でも、私が勝ったらここから出て行ってもらいます!」
「くっ、神の御加護を受けた私が負けるはずがないYO!」
「私だって負けません!私の仲間達のためにも、汚名を晴らしてみせます!」
エリコは引いたカードを見た。その場にいる者の視線が彼女の一挙一等足に注がれる。全員が固唾を飲んで見守っていた。
エリコの表情はしばらく変わらなかった。一分ほど経った時、静かに溜息を吐いた。そして、瞳を閉じて呟く。
「クリーチャーじゃありませんでした」
それを聞いたジーンは下卑た笑みを浮かべる。黄ばんだ歯が見えていた。
ジーンのシールドは二枚。そして、エリコのクリーチャーも二体。どちらもブレイクできる数は一枚だけだ。このターンではシールドのブレイクだけで精一杯だ。ジーンに直接攻撃はできない。それ故、彼は勝利を確信していた。
「でも……」
エリコは目を開ける。渓流の流れのようなその瞳はジーンの考えを全て見透かすように澄んでいた。今、引いたばかりのカードをキスでもするような仕草で軽く口に当てた彼女は、空いている手でマナに触れた。
「勝機をくれる一枚です」
彼女はマナのカードを六枚タップする。そして、今、引いたカードを出した。
突如、《クラッシャー・ベア子姫》の体が炎に包まれる。それと同時に、エリコの場に無機質な灰色の祭壇が現れた。
「今さら《クラッシャー・ベア子姫》を破壊してどうするつもりだYO!勝てないから、嫌がらせのつもりかYO!」
「そんなことではありません。ちゃんと意味はあります!」
炎の中から光が飛び出す。幾筋もの光が祭壇に向かって飛んで行き、祭壇の色を明るい金色に変えていった。
「《破壊と誕生の神殿(エターナル・サンクチュアリ)》を使いました。これでパワー5000以下のクリーチャーを一体破壊します。そして、破壊したクリーチャーと同じコストのクリーチャーを山札から出せる!」
「そんな馬鹿な!」
祭壇が音を立てて割れていく。中から現れたのは、足がなく宙に浮いている金色の天使だった。
「これが私の切り札《星雲の精霊キルスティン》です!これでウェーブストライカー能力が発動します。《スカイフレーム・リザード》で攻撃!」
《スカイフレーム・リザード》の両手は火山のように燃え上がっていた。勢いよく燃えた炎の拳がジーンのシールドを一枚貫く。
「な、なんだYO!切り札を出して驚かすから何かと思ったら、それだけかYO!」
「それだけです。でも、それで充分です!」
安心して笑う神父の眼前で《スカイフレーム・リザード》はもう一枚のシールドを貫いた。それを見て神父の表情が凍りつく。
「な、何故だYO!」
「《キルスティン》のウェーブストライカー能力が発動すると、こちらのクリーチャー全てのパワーはプラス5000され、ブロッカーを得て、W・ブレイカーを得ます!」
「ズルイYO!たった一枚でそんなに強化されるなんて……、クソがっ!」
悪態をついたジーンは最後のシールドを見た。そして、頭を抱える。
「私の勝ちです、ジーン神父!《ラメール》でとどめです!」
《ラメール》が勢いをつけてジーンに体当たりする。その衝撃を受けて、ジーンは遠くまで吹っ飛ばされた。
「やった!やりましたね、エリコ先輩!」
聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除したエリコにタダオが駆け寄る。他の三人も近づいた。
「ありがとう。みんなに応援してもらえたおかげだよ。ちょっとトラブルはあったけれど、私、こんな素敵な文化祭ができてよかった」
エリコは生徒会役員を見て微笑んだ。すると、彼女は真っ白な光を発する。突然のことに驚いた生徒会役員は目を閉じた。光が止んで目を開けた時、エリコの姿はそこにはなかった。
「え?」
タダオは呆然とした顔でそこを見ている。目をこすってからそこを見ても、エリコはいなかった。
「おーい!」
遠くからナイスミドルに見えるスーツ姿の男がやってきた。生徒会の顧問、富宝(とみたか)ゴンゾウだ。
「富宝先生、どうしたんですかお?」
「ああ、生徒会主催のコスプレ喫茶に変なクレーマーが現れたと聞いて飛んで来たんだ。ところで、そのクレーマーはどこだ?」
「ああ、それならエリコ先輩がデュエマでやっつけましたけど……」
タダオがその名を口にした時、ゴンゾウは驚いた顔で彼を見ていた。
「僕、何か変なこと言いましたか?」
「今、エリコと言ったな。野波エリコのことか?」
真剣な顔で聞かれたタダオは首を縦に振る。「そうか……」と呟いたゴンゾウはしばらく黙っていた。彼は溜息を吐いた後、生徒会の四人を見る。
「野波エリコは六年前にこの学園に在籍していた生徒会役員だ。当時の高校三年生で文化祭の準備のために頑張っていた」
「ちょっと待ってくださいよ!エリコは今まで俺達の目の前にいたんですって!」
「落ち着いて聞け、テツノスケ。私もお前達の話を聞いて驚いている。野波は文化祭の準備のために頑張っていたが、結局、文化祭を楽しむことはなかった」
そう言ったゴンゾウは窓から遠くを見た。
その視線を見てタダオは察した。エリコは文化祭の準備をしている時に亡くなったのだ。それで成仏できない魂がこうやって現れたのかもしれない。
「先生、エリコさんも天国で見守ってくれてますよ」
「一円玉君、変なことは言わないでくれ!野波は死んでいない!」
タダオの言葉を聞いたゴンゾウは憤慨していた。
「すみません」
さすがにこの状況で名前の間違いを訂正することはできない。怒った顔でゴンゾウは続けた。
「野波は六年前の文化祭の準備の時に、生徒会室で学校の守護霊を呼び出す謎の儀式を行ったのだ」
「……は?」
「よく判らないが、学校の守護霊を呼び出して学校のみんなを幸せにすると言っていた。一円玉君、そんなおかしな顔をするな。時々、こういうことをするが、それ以外は普通のいい子だったのだ。それも学園のために行ったことだったが、問題が発生した。大量の蝋燭に火を点けたせいで彼女は一酸化炭素中毒で倒れてしまったのだ。その日以来、野波は目を覚ましていない」
「そうだったんですか……」
悲しむべきか呆れるべきか迷うケースだ。その話を聞いている内にタダオの中にある考えが浮かんでいた。他の役員を見ると、彼らも同じことに気付いたらしく、青い顔をしている。ゴンゾウは電話がかかってきたのか、携帯電話を耳に当てて通話をしていた。通話を終えると嬉しそうな顔でタダオ達を見る。
「病院からだ。エリコが目を覚ましたそうだ!学校で文化祭をした夢を見ていたらしい。生徒会主催のコスプレ喫茶の夢で神父がクレーマーとしてやってくる夢だと言っていた。野波は本当に面白い奴だな!」
その後、ゴンゾウはエリコを迎えに行くとだけ言って去って行った。その場には四人だけが残される。
「あ、あの……、僕、エリコ先輩のことよく知らないんです。気がついたら僕達の側にいたみたいで……!」
「俺もだ。でも、みんな知ってるみたいだから適当に話を合わせてた」
「実は、あたしも」
「ワンコもだお」
三人とも青ざめた顔でタダオを見た。タダオは乾いた口を無理矢理開いて声を出す。
「も、もしかして……、あの神父が言っていたことは少しだけ当たっていたんでしょうか?エリコ先輩の生き霊がいつの間にか生徒会に溶け込んでいて……、一緒に文化祭の準備をしていたとか……」
誰もそれには答えない。無言でそれが正解だと言っているようだった。
「うおー!《ジェニー》ちゃん、超かわいいぞー!」
校庭のステージで行われているライブはいつの間にか《ジェニー》が主役になっているようだった。怒りから興奮に変わった声が校庭を埋め尽くしている。
そんな熱気とは正反対の冷たく鳥肌が立つような空気の中で生徒会役員の四人は無言で震えていた。

次回につづく

次回予告

彼には彼の道がある。その道を進むのが彼の人生。それ故に道を塞ぐ者とは戦わねばならない。例え、相手がダイゴであったとしても……。
次回 第十一話 侵略
止まらない拳が襲いかかる。
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