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『デュエマ族』 第六話

『デュエマ族~一と新之助は奇妙な部活に入るようです~』

第六話 美少年の正体は?

小早川卓(こばやかわすぐる)は満足そうな顔で重厚な扉を開けた。昨日、聞いた重々しさを感じさせる交響曲とは違う、軽快なメロディが彼を出迎える。
「これは昨日、発売になった『素敵な宇宙人』ですか。こういう曲も聞くんですね」
男のものとは思えない長いまつげをした目で卓は、生徒会長の神足綾音(こうたりあやね)を見た。奥にある椅子に座っていた綾音はそれに答えず腕を組んでいた。
「それで、どうだったのかしら?」
「パーフェクトですよ。僕はゲームの達人なんですから、あんな馬鹿な初心者に負ける訳がないでしょう?」
結果を聞いた綾音に対して、鼻で笑ったような声で卓は答えた。勝って当然という顔をしているが、目が輝き、頬が興奮で赤く染まっている。勝利の喜びは隠しきれない。
「首尾よくいきましたわね?」
「もちろんですよ。今日、松野一(まつのはじめ)はデュエマ部をやめるって言いだしたみたいです。自分が上級者だと思い込んでいる奴が、初心者に負けたら恥ずかしくて続けられるはずがないですね」
「単純でプライドが高そうだから負けを恥だと感じるのは間違いないですわね。これで、デュエマ部もおしまいですわ!」
高揚した様子で両手を握り、椅子から勢いよく立ち上がる。それを遮るように、卓が冷たい声を発した。
「おっと、それは違いますよ。松野一は退部しますが、デュエマ部は残ります」
「一体、何を言っているの?松野一がいなくなれば、デュエマ部の部員は四人になる。部を存続させるためには、部員は五人いなければならないのよ!」
「だから、僕が入るんですよ。これで僕の目的は達成できました」
「アタクシを騙したのね!」
綾音は卓を睨みつける。それを見ても卓は動じる事はなかった。
「デュエマ部の部員をやめさせる。その目的のために共闘したんじゃないですか。戦ったのは僕だけでしたけどね」
綾音に背を向けた卓は「それじゃ、ごきげんよう」と言って生徒会室を出た。

「そっか……。僕が気を失っている間にそんな事があったんだね」
同じ頃。デュエマ部の部室には部外者の一ノ瀬(いちのせ)を含む五人が集まっていた。
部員の一人、三島健人(みしまけんと)は昨日の一と卓のデュエマの内容について聞いていた。彼の想像通り、いや、それ以上にひどい結果となっていた。対戦中、気を失っていて、気がついたら保健室のベッドで寝ていた健人は一にアドバイスできなかった事を悔やんでいた。
「僕はどうして保健室のベッドで寝ていたんだろう?僕も途中までは一君のデュエマを見ていたような気がするんだよね。でも、アドバイスしようとしたところで記憶が途切れてて……。記憶が目茶苦茶になってるみたいだ。僕、どうしちゃったのかな?静貴、何か知らない?」
「さあ……、疲れていたんじゃないかしら?健人は最近、一君や新之助君にデュエマを教えるのに必死だったじゃない?その疲れが出たのよ、きっと」
静貴は歯切れの悪い口調で言って、目を逸らした。挙動不審な動作だったが、疑問に対して答えを与えられた健人はそれに気付かない。
「そっかー。そうかもしれないね。義男もそう思う?」
「ああ、間違いねぇ。みっちゃん先輩に必要なのは休息かもしれねぇな。それと、この事は忘れた方がいい。いつまでも考えているとまた同じように倒れるかもしれねぇぜ」
「変な理屈だな。でも、そうかもしれないね。それよりも問題は一君の事だよ!本当に、デュエマをやめるなんて言ったの!?」
「本当なんです」
健人の疑問に答えたのは新之助だった。とても悲しそうな声だった。
一が新之助にその話をしたのは登校直後だった。朝の挨拶をした一は元気でいつもと変わらなかった。それを見て安心した新之助が近づいた時、一は挨拶をした後で言った。
「俺、デュエマやめるからみんなにそう言っといてくれよ」
新之助は聞き間違えたのかと思った。だが、後で確認しても同じ事を言うだけだった。それ以上の事は何も聞けず、新之助はあった事を報告した。
「それじゃ、一君はデュエマやめちゃうの!?そしたら、ここも部員が四人になっちゃうよ!」
烈光学園中等部の規則では、部活をやるには最低でも五人の部員が必要になる。このままでは部員が足りずに廃部になってしまう。
「だったら、僕が部員になりましょう」
「誰?」
静貴の声と共に部員達は出入り口を見る。そこには卓が立っていた。彼は静貴の顔を見て嬉しそうに微笑む。
「僕をデュエマ部の部員にしてください。そうすれば、問題は全て解決しますよ」
「てめぇ……、その問題を持ち込んだのは誰だと思ってやがる!」
義男が激昂して卓につかみかかって拳を振り上げた。それを見た健人が慌てて止めに入った。
「駄目だよ、義男!確かにこの子とデュエマをしなかったら一君はやめなかったかもしれない。でも、この子に文句言うのは違うよ!」
「クソッ!」
義男は拳を下ろす。強く握られたその手は、震えていた。
「おお、怖い。それで、入部させてもらえるんですか?」
「いいわ」
「静貴!」
「次の月曜日に入部テストをします。その入部テストの結果を見て判断するわ」
「判りました。それで入部テストの内容は?」
「一君とデュエマをする事。君が勝つか、一君が来なかったら入部を許可するわ」
「静貴!それはメチャクチャだ!」
健人は反対するが静貴はそれが耳に入っていないかのように振舞う。卓だけを見て口を開く。
「どうするの?やるの?やらないの?」
「もちろんやりますよ。どうせ、あいつは来ないでしょう。来たとしても僕の敵じゃない。また、余裕の勝利をみなさんに見せてあげますよ」
卓は静貴の顔をじっと見つめる。そして、一度微笑むと
「では、ごきげんよう」
と言って部室を出て行った。
「静貴さん、何か策でもあるのですか?」
静貴のマネージャー、一ノ瀬がいつものように穏やかな声で聞く。静貴は首を横に振った。
「ないわね。一君が戻って来てくれる保証なんてどこにもない。だから、賭けるのよ。一君の意思と彼を選んだあたし達の目に!」
静貴は右手を強く握って部員達を見る。健人がゆっくりと右手を上げた。
「健人、どうしたの?」
「確かに、一君を呼び戻したいとは思うよ。でも、小早川君が部員になってもいいんじゃないの?」
それを聞いて静貴はわざとらしい溜息を吐く。健人は慌てたように言う。
「ちょっと!そんなわざとらしいリアクションを取らなくてもいいじゃないか!」
「健人、あんたって冷たいのね。一君との思い出を忘れろって言うの?あんなに親身になってデュエマを教えてあげてたじゃない」
「静貴も義男も基礎を教えようとしないからね。……って、そうじゃなくて!一君がやめたいって言ってるんだったら、無理に呼び戻すのはよくないと思うし。小早川君を部員にしちゃいけない理由もないと思うんだ。だから、こんなに拒むのには理由があるのかと思って。静貴のことだから何か考えがあるんだよね?」
部員全員の目が静貴を見た。彼女は少し考えながら自分の気持ちを言葉にしていく。
「理由は……、うまく言えない。だけど、あの子のあたしを見る目がいやらしいっていうか、好きになれない。健人は納得できないかもしれないけれど、これじゃ駄目かしら?」
健人は少し迷っているようだった。頭に手を当てて考える。
しばらくして、彼は「判ったよ」と溜息を吐くような口調で返した。
「静貴がこういうこと言って間違ってたことないもんね。一君に戻ってもらえるようにがんばろう!」
「決まりだな。俺はあの男について調べてくる。敵を知らなければ勝てねぇからな」
義男は立ち上がると部室を出ていった。
「それじゃ……、僕は一君が勝つ方法を考えます。手を貸してください」
新之助が一のデッキを取り出し、静貴と健人を見た。
「判った。それじゃ、卓君のデッキを真似たデッキを作らないとね。どんなデッキだった?」
「それなら、もうアタシが組んでおいたわ」
静貴はデッキを取り出して健人に渡す。健人はその中身を見た。
「健人は昨日のデュエマを見てないけれど、デッキレシピを見れば戦い方は判るでしょ?」
「バッチリだよ。これ……、本当に一君対策に特化したデッキだね」
デッキの中身を確認し終えた健人が呟いた。軽量ブロッカーを多用した防御メインの構造を見れば誰でも同じ感想を抱く。そんなデッキレシピだった。
微々たる違いはあるかもしれないが、大まかな違いはないはずだ。練習に支障はない。
「アタシも昨日、見ていてそう思ったわ。それじゃ、仕事があるから、また明日ね」
「皆様、ごきげんよう」
静貴と一ノ瀬の二人は部室を出た。
廊下を歩きながら、静貴が口を開く。
「本当は一君を部に戻して卓君をやっつける方法を思いついているんじゃない?」
そう言って、彼女は一ノ瀬の顔を見た。しばらく黙っていたが、彼は観念したように口を開く。
「静貴さんに隠し事はできませんね。その通りですよ」
「やっぱりね」
静貴と一ノ瀬の付き合いは長い。そして、彼が有能であることも理解していた。
「じゃあ、何で行動しないのかしら?アタシ達、ピンチなのよ」
その言葉に一ノ瀬を非難するような響きはない。悪戯めいた微笑を受かべながら静貴は上目遣いで一ノ瀬を見た。
「私が動けば一君を部に戻すことも、卓さんに勝つ方法を見つけることも簡単です。ですが、それでは部の皆さんの成長を妨げることになります。私は、皆さんの力でこの困難を乗り越え、成長して欲しいと思っているのです」
一ノ瀬の返答を聞いて静貴は手を叩いた。
「パーフェクトね。いいマネージャーを持ってアタシは幸せだわ」
「お褒め頂き光栄です。静貴さん」
静貴は笑顔で一ノ瀬を見た。その直後「ただ……」と彼女の顔が曇る。
「何か問題でも?」
「そうじゃないの。卓君の戦い方が気になっただけ。彼がデュエマを始めて間もない初心者って言葉に嘘はないと思うの。シールドを並べる仕草やマナをタップする時のぎこちない動きは間違いなく初心者のもので演技ではないと思うわ」
「他のカードゲームのプレイヤーという事ではないでしょうか」
「違うと思う。あれはカードゲーム自体に慣れてない動きよ。そんな彼が特定のデッキの対策に特化したデッキを組むかしら?」
「彼の裏に誰かいるということでしょうか?」
一ノ瀬が考えながら言葉を口から出す。それに対して、静貴は
「まだそこまでは判らないわ」
と、悩みながら答えて溜息を吐いた。

次の日曜日。
健人、義男、新之助の三人は一の家の前にいた。彼らは学校で何度も一の説得を試みたが、彼はそれを聞こうとしなかった。今までまともに話ができなかったので、彼の家に乗り込んで説得することになった。
義男の調査で卓がただの初心者でないことも判った。確かに彼はデュエマもカードゲームもやったことがなかった。しかし、彼は『ゲームの達人』と呼ばれるようなゲーマーでテレビゲームが得意な少年だということがわかった。
彼は様々なゲームの勝ちやすい戦い方を見つけるのがうまい。一対策に特化したデッキを使ったのもそのためだと考えた。
「奴は本当にゲームがうまい。だが、友人を作るのはうまくないみたいだな」
調査を終えた義男が卓について抱いた感想は我儘な子供というものだった。卓は様々なゲームへの適応力に優れているが、そのゲームをやり込んだプレイヤーほどではない。中途半端な実力でプレイヤーの怒りを買うような挑発を繰り返し、上級者に敗れるとそのゲームから去っていく。その繰り返しだった。
「あるゲームのコミュニティにしばらくいたかと思ったら、そのコミュニティを荒らしていく。コミュニティの不評を買ったら、そこから出て行ってすぐに別のゲームのコミュニティに移る。ゲームがちょっとうまいだけの奴でマナーも礼義もない野郎だ」
新之助は義男が吐き捨てるように言うのを聞いて、絶対に彼を部に入れてはいけないと思った。一の代わりに入るのが、そんなデュエマへの愛を持っていないような男であってはならないと感じていたからだ。
卓を入れないためにも、一には復帰してもらわなくてはならない。
「ねえ、義男。こんな立派な門、見たことある?」
「ねぇな」
義男は健人の質問に間髪入れずに答えた。
三人が初めて見る一の家は立派なものだった。彼らは立派な門がある和風の家というのをマンガやドラマでしか見たことがない。それに遭遇するというのは、初めての体験だった。
「だが、こんな家だろうと想像はしていた。イチのじいさんはこの近辺の有力者だ」
「知ってたの!?だから、サングラスを外していたんだね」
今日の義男はトレードマークとも言えるサングラスを外していた。サングラスのない彼の目は平凡な形をしていた。
「いや、有力者だからサングラスを外したんじゃねぇ。保護者の方に会うのにサングラスをつけたままなのは失礼だからだ」
「うぐ……。義男らしくない正論だね」
健人が言い返せずにいると、義男は呼び鈴を押した。それを見た健人は
「何してるのさ!」
と、怒鳴る。
「何……って、呼び鈴を押したんだ。俺達はイチを説得しに来たんだ。ここで立っているだけで説得できるか?できるわけがねぇ」
「そりゃそうだけど……」
『はい、松野です』
呼び鈴の横についているスピーカーから男性の声が聞こえる。健人は義男の腕を引っ張って「よ、義男が押したんだから何とかしてよ!」と言った。
「しょうがねぇな」
そう言って、義男はスピーカーの前に立つ。
「こんにちは。僕達は烈光学園中学デュエマ部のメンバーです。一君に会いに来ました」
「義男が自分のこと、僕って言ってる!」
驚いた健人を無視して、義男はスピーカーの奥の男性と話を続けた。
『デュエマ部。一のお友達か。今、門を開けるから入りなさい』
「ありがとうございます」
男性の声が聞こえてからしばらくして道に面していた大きな門が開いた。門から中に入ると、家の扉に続く道があった。三人が入口の扉に近づくと、その扉が開いた。中には小柄な男が立っている。義男はその男性を見て頭を下げる。
「はじめまして。僕は二年の石黒義男と言います。こっちが三年の三島健人。それと、一年の永瀬新之助です」
「はじめまして。一の祖父、松野藤之助(とうのすけ)です。よろしく」
藤之助は三人に対して穏やかな笑顔を見せる。緊張して硬くなっていた健人はそれを見て少し落ち着いた。
「地元の有力者っていうからどんな怖い人かと思ったけれど、大丈夫みたいだね」
健人は隣にいた新之助に対して小声で話す。
その後、三人は藤之助に案内されて一の部屋に向かった。
「はい、一君は部活でも活発で、見ていて楽しい後輩です」
「そうかそうか。部のみなさんに迷惑はかけていないかね?」
「そんなことはありません。僕達も彼と活動できて楽しいですよ」
藤之助と話す義男は、学校で見せる彼の顔とは別のものだった。イメージとの違いに新之助と健人は戸惑う。
藤之助は学校での一の行動について色々なことを聞いてきた。それについて答えたのは、三人の中で一番度胸のある義男だ。彼も有力者を前に緊張していたのか、終始上ずった声で言葉を慎重に選びながら答えていた。その返答を聞いて藤之助は楽しそうに笑っている。
「一、入るぞ」
案内された部屋の出入り口はふすまではなく、ドアだった。藤之助が開けると、ごく普通の洋風の部屋がその中にあった。一はパジャマ姿でベッドに腰掛けていた。帽子をかぶっていない彼の頭の上では髪が躍っていた。いつもかぶっている野球帽は寝ぐせを隠すためのものだったのかもしれない。
「それじゃ、ごゆっくり」
そう言って、藤之助は去っていく。三人は一の部屋に入った。
「何か用っすか?」
一は不機嫌そうな顔で部員達を見た。不機嫌の理由は寝起きのせいか、それともデュエマ部の来訪が気に入らなかったのか判別できない。その両方かもしれないと健人は考えていた。
「君に部に戻ってもらおうと思ったんだ。明日、小早川君とデュエマをして欲しい」
三人を代表して三年の健人が答える。
「何で俺が」
「実はね……」
健人は卓が入部を希望していることと入部テストの内容について話した。
「勝手にそんなこと決めないでくださいよ。俺はもうデュエマをやめたんだ。それにまた俺に恥をかかせるんすか?」
「負けるのが恥だって言うんなら、次は勝ちゃいいんだよ」
義男に促されて新之助は鞄からデッキを取り出す。一はそれを見た。
「これはシンがお前のデッキを改良したものだ。俺達がアドバイスをして完成させた。これを使えば間違いなくあいつに勝てる」
「俺のデッキに何するんだ!」
激昂した一は、新之助の手からデッキを叩き落とす。フローリングの床の上にカードが散らばった。
「俺は自分の力で作ったあのデッキが好きなんだよ!誰かの手が入ったデッキなんか使えるか!」
一は新之助を見て怒鳴る。新之助は彼の言葉を聞いて微笑んだ。
「なんだよ。気色悪いな」
「だって、一君、デュエマを嫌いになってないみたいだから。安心したんだ」
戸惑った一は、新之助から目を逸らすと落ちたカードを見た。かがんでそれらを拾い集める。
「とにかく、帰ってくれよ。俺は俺以外の誰かの手が入ったデッキなんて……」
そこまで言って一の手が止まる。その目は自分のデッキを見ていた。
「これ、改良してない。俺のデッキから何も変わってない」
「改良するのは君の役目だよ」
そう言って新之助は数枚のカードを鞄から出した。それらのカードを一に突き付ける。
「このカード、どうしたんだよ」
一が驚いた顔でカードを見ながら言う。新之助が持っているカードは一のデッキと相性がいいものばかりだったからだ。
「新之助君が集めたカードだよ。持っているレアカードをトレードして集めたんだ」
健人が説明した後に、義男が
「俺達も少しは手伝った」
と付け加える。
「このカードを使って一君のデッキを改良して欲しいんだ。長作君も正也君もトレードをしてくれた。デュエマでできた友達が、君に手を貸してくれているんだ」
一は答えずにカードを見つめている。
「来いよ、イチ。お前がいないと楽しくねぇ」
「また明日ね」
義男と健人がドアを開けて去っていく。新之助も二人に続いて出ていった。
「ありがとな」
後ろから小さな声が聞こえた。

決戦の月曜日がやってきた。部室には一を除くデュエマ部のメンバーと一ノ瀬、卓が集まっている。
新之助は授業中の一を思い出していた。彼は一日中ぼうっとしていて、どこか上の空だった。自分達の想いが届かなかったのかと、少し不安になる。
「一君、来ませんね。やっぱり怖気づいて逃げ出したんじゃないですか?」
卓は馬鹿にしたような声で言った。その挑発に答える者はいない。それが気に入らなかったのか、彼は鼻を鳴らした。
「約束は守ってくださいよ。松野一が来なかったら、僕を彼の代わりにデュエマ部の部員にしてもらうという約束です」
「お前は俺の代わりにはなれないな」
部室のドアを開けて一が入ってくる。彼は笑顔で自分のデッキを持っていた。
「一君、体は大丈夫?」
新之助が聞く。
「何を心配してんのか判らないけど、俺は大丈夫だぜ!ただ、授業中、どうやって勝てばいいか考えていたからちょっとヤバいけどな。だから、後でノート見せて」
一の言葉を聞いて部員達が笑った。
「僕に勝つ方法を考えるなんて無駄なことをしますね」
挑発的な言葉を投げつけて卓が席につく。一も反対側に座った。デッキをシャッフルし、シールドの設置、ドローを終えて対戦が始まった。
「ハンデです。先攻はくれてやりますよ」
「お、いいの?後悔しても俺は知らないよ」
一はそう言うとマナゾーンにカードを置いた。それを見た卓が身を乗り出す。
「何すんだよ。俺の手札を見るつもりか?」
「違います!このカードはなんですか!前はこんなカードなかったはずです!」
マナに置かれているのは火と自然の多色クリーチャー《ツッコミパンダ・ディス》だった。
「いいカードだろ?《ゴンタ》の代わりにこれを入れたんだ」
一はマナに置いていた《ツッコミパンダ・ディス》を手に持って言う。
「そんなことは聞いていません!何でデッキの内容が変わっているんですか。ずるいですよ!」
「あら、何もずるくはないわよ。誰だってデッキを改良する。昨日、入ってなかったカードが今日は入っているかもしれない」
激しい口調で糾弾する卓。一に助け舟を出したのは静貴だった。
「僕も新しいカードが出た時は、自分のデッキに合うものがないか探して入れてみるよ」
「デッキに改良をしねぇ奴はデュエマ族を名乗る資格がねぇな」
さらに二人の先輩に言われて、卓は押し黙った。その後、強がるような声で
「まあ、いいでしょう。ちょっと改良しただけでは僕には勝てませんよ」
と、言ってカードを引く。しばらく考えた後、《霊王機エル・カイオウ》をマナゾーンに置いてターンを終える。
「そっちも多色カードをチャージしたか。ドローして《弾け山のラルビン》をチャージ。自然含む2マナをタップして、《大冒犬ヤッタルワン》を召喚だ!」
また卓の見たことがないカードが出て来た。彼の怯える顔を見ずに、一は手札を見て考えている。
「何してるんです。置かれているマナは全てタップされた。だから、もうできることなどないでしょう!」
大きな声を出すのはプレイミスをした相手への威嚇ではない。二枚目の未知のカードを見たことへの恐怖だ。
「焦るなよ。俺のターンはまだ終わってないぜ。えーと……、これだ!」
一はマナゾーンに二枚目の《ツッコミパンダ・ディス》を置いた。それを見て目を丸くしている卓の横で健人が説明する。
「《ヤッタルワン》は、場に出た時に手札のカードを一枚マナに置く能力を持っているんだ。置いても置かなくてもいいんだ。手札が減ったら困るからね」
《ヤッタルワン》の能力に怯えていた卓は、それを聞いて軽く息を吐き出す。そして、馬鹿にしたような顔で一を見た。
「そうですよ。手札は減っているんです。それにパワーが低い!僕のブロッカーの敵じゃありません!」
卓は《エナジー・ライト》をマナゾーンに置き、二枚のカードをタップして《光陣の使徒ムルムル》を召喚した。ブロッカーを強化し、一の行動を制限した強力ブロッカーを見て新之助は思わず声をあげる。
「一君、気をつけて!」
「判ってるよ。ブロッカーのパワーが増えるのは痛いからな。アンタップしてドロー」
「そんな手札で何ができますか?」
ターンの最初のドローを終えても一の手札は三枚しかない。マナゾーンに《ヤッタルワン》をチャージしたことで二枚になってしまった。
速攻の弱点である手札不足は直っていない。そう直感した卓の口元が緩む。
「付け焼刃の改良ではその程度ですよ。弱点を直す時間まではなかったようですね」
「いや、そんなことはないぜ。俺の新しいデッキは手札補充の手段だって入れてある。自然を含む4マナをタップして《猛烈元気バンジョー》を召喚!こいつの力で山札を見るぜ!」
新之助は自分の山札を手に取って中身を見た。そこにあったカードに目をこらしてチェックする。
「お、あったあった!」
嬉しそうな声と共に一枚のカードを手に取って卓に見せる。それは一の切り札《独裁者ケンジ・パンダネルラ将軍》だった。
「《猛烈元気バンジョー》を召喚した時の能力を使ったぜ。これで《ケンジ・パンダネルラ将軍》を手札に加える!」
「手札補充まで……!」
卓は怯えていた。今、彼の目の前にいるのは今までの一ではない。この数日間で進化した別物の一だ。
「それでも問題はないはずです!ブロッカーが多い僕のデッキはビートダウンデッキの天敵!落ち着いて戦えば問題ありません!《蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ》をマナに置き、《コアクアンのおつかい》を唱えます。これで光のカード二枚を手札に加えてターンエンドです」
手札補充を終えて卓は落ち着いたようだった。この時点で彼の手札には切り札とも言える《ダイヤモンド・ソード》が来ていたからだ。
「手札補充で終わりか。じゃあ、行くぜ。マナに《ヤッタルワン》をチャージ!《ヤッタルワン》を《ケンジ・パンダネルラ将軍》に進化!」
一の切り札が場に現れる。彼は出したばかりの《ケンジ・パンダネルラ将軍》に右手の指を添えてタップした。
「《ケンジ・パンダネルラ将軍》でシールドを攻撃する!そして、攻撃する時の能力で山札の上をめくるぜ!」
表向きになったカードは《森の特攻隊長ペンペン中尉》だった。強力なカードではなかったため、卓はほっとする。
「それならば問題はありませんよ。ブロックはしません」
卓は一が指定した二枚のシールドを手札に加える。それらはシールド・トリガーではなかったが、卓にとっては何の問題もなかった。その二枚はブロッカーだったからだ。
ブロッカーが増えれば増えるほど一の動きを拘束し制限することができる。動けなくしてからとどめを刺せばいいだけの話だからだ。
「ターンエンドだ」
「では、僕のターンですね。《コアクアンのおつかい》をマナにチャージして《魔光王機デ・バウラ伯》を召喚します。能力で墓地の《コアクアンのおつかい》を手札に戻す!ターンエンドです」
ターンを終えた卓は《デ・バウラ伯》を見ていた。《デ・バウラ伯》の本来のパワーは4000だ。《ムルムル》の能力によってパワーを3000プラスされ、現在のパワーは7000になっている。一の切り札の《ケンジ・パンダネルラ将軍》のパワーは現在7000。これで相討ちになる計算だ。
「パワー7000か。やべえな」
そう言った一はカードを引いて手札を見た。何を出すのか悩んでいるらしく、額に皺がよっている。
「どうぞどうぞ。よく考えてください。どう動いても無駄ですから」
卓が落ち着いているのには理由があった。彼の手札には二枚の《ムルムル》がある。今回、《ケンジ・パンダネルラ将軍》の攻撃をスルーし、次のターンで二体の《ムルムル》を召喚すれば《デ・バウラ伯》のパワーは13000となる。この状況で《ケンジ・パンダネルラ将軍》を攻撃すれば一方的に倒すこともできるのだ。
既に自分が優位に立っていると感じた卓は笑みすら浮かべる余裕があった。
「いや、そんなに悩む必要はないんだ。ブロッカーはどれだけ強くてもこれで何とかできるからな」
一の額から皺が消える。そして、彼は軽快な手つきでマナゾーンのカードを四枚タップしていく。
「目玉開けてよーく見ておけよ!火含む4マナをタップして《サージェント・クワガタン》召喚!」
これも今まで卓が見たことがないカードだった。だが、怯えることはない。そのパワーを見て噴き出した。
「ははは!パワー1000とか!その程度のカードで何をする気ですか!それでパワー7000の《デ・バウラ》を倒せるとでも!?」
「多分、倒せるぜ!」
一は自分の行動を疑っていない。太陽のような笑顔を見せると山札の上に手を置いてカードをめくり始めた。
「何をしているんです!?」
「スリリング・スリーも知らねぇとは、勉強不足だな」
慌てる卓を見て、義男が吐き捨てるように言う。自分の知らない能力を見て驚いた卓は、助けを求めるような目でデュエマ部の部員達を見た。
「スリリング・スリーは山札の上三枚をめくって出た指定種族のカードの分だけ特殊な能力を使うカードだよ」
「《サージェント・クワガタン》のスリリング・スリーでは、めくって出たドリームメイトの分だけブロッカーを破壊できるようになるわ」
「何っ!」
健人と静貴の解説を聞いて卓は狼狽する。低い声で叫んだ後、目を見開いた状態で一の動向を見ていた。
「いや、問題はないはずです!情報が正しければデッキの中のドリームメイトは多くはないはず……!」
「二枚出たぜ」
一は誇ったような表情で山札の上にあった《バンジョー》と《ツッコミパンダ・ディス》を見せる。これで卓の場にあった《ムルムル》と《デ・バウラ》は破壊された。残るは三枚のシールド。《ケンジ・パンダネルラ将軍》と《バンジョー》、《ペンペン中尉》の三体攻撃で勝利が可能だ。
「何故……?何故、です……?」
「そんなに驚かなくてもいいだろ?デッキを改良したんだって。《ケンジ・パンダネルラ将軍》でシールド攻撃!一枚めくって……よし!出たのは《早食王リンパオ》だ!」
新たにスピードアタッカーまで現れる。シールド・トリガーによる除去で一体破壊されても攻撃が届くようになった。
「一枚目!……くそっ!二枚目!……あああ!」
卓も落ち着いた美少年の仮面を捨てて荒々しい手つきで自分のシールドを見る。どちらもシールド・トリガーではない。
「これで決めてやるぜ!《バンジョー》で最後のシールドをブレイク!」
「くっそ!」
卓はひったくるように最後のシールドを取る。そのカードがシールド・トリガーだと判ると、すぐに場に叩きつけた。
「来た……!来ましたよ!シールド・トリガーだ!《DNA・スパーク》!これで、これで……生き延びる!一君のクリーチャーを全てタップして、シールドを一枚追加です!」
マラソンでもして来たように息を切らせた卓は山札の上から一枚のカードをシールドとして置いた。これで彼は1ターン生き延びた。
「やるじゃん。俺はこれでターンエンドだ」
「余裕ぶっていますね。すぐにその余裕を粉砕してあげますよ!」
過剰なまでに呼吸を乱した卓は震える手でカードを引く。そして、場と自分のマナを見た。
「《デ・バウラ》をマナにチャージ!そして、《ラ・ウラ・ギガ》一体と《ムルムル》を二体召喚!」
これで三体のブロッカーが出た。卓はすがるような目つきで最後のシールドを見る。これがシールド・トリガーであれば卓は次のターンまで首がつながる。
「《ラ・ウラ・ギガ》のパワーは8000か。すげえな!でも、俺だって負けてないぜ!自然含む5マナをタップ!」
一がマナのカードをタップするのを見て、卓は背筋が寒くなるのを感じていた。これから一が出すであろう切り札の存在を感じてしまい、恐怖で震えた。
「ま、待って……!」
「待ったはなしだ!《バンジョー》を《ケンジ・パンダネルラ将軍》に進化!」
「に、二枚目ぇっ!?」
それも改良前の一のデッキには入っていなかったカードだ。彼のデッキ内の《ケンジ・パンダネルラ将軍》は一枚だけだという情報を彼は聞いていた。
「強いから増やしたんだ。文句はないよな?《ケンジ・パンダネルラ将軍》で最後のシールドを攻撃!能力で山札の上をめくって……あ、《ツッコミパンダ・ディス》だ」
幸いにして、めくれたのはスピードアタッカーでも出た時に能力を発揮するクリーチャーでもなかった。卓は反射的に《ラ・ウラ・ギガ》に触れる。
「ブロック!ブロックです!滅べ、《ケンジ・パンダネルラ将軍》!」
「くそ……。でも、《ペンペン中尉》の能力でマナに送れるぜ。次にもう一体の《ケンジ・パンダネルラ将軍》で最後のシールドを攻撃!能力でめくって……こっちは《ラルビン》か」
「《ムルムル》でブロック!残りも受け止めてみせます!」
「じゃあ《サージェント・クワガタン》で攻撃だ!」
「ブロック!」
これで卓の場にブロックできるクリーチャーはいなくなった。一は勝利を確信した目で《バンジョー》に指を添える。
「行くぜ!《バンジョー》で最後のシールドを攻撃!」
「来い、トリガーッ!」
卓はその場でシールドをめくって表向きにする。それはシールド・トリガーではない。ただのブロッカーだった。
「あ、ああ……。僕が……負ける……?」
「そういうことだ!《ペンペン中尉》でとどめ!勝った!」
一の攻撃を止める者はいない。卓は敗北を突き付けられて真っ青になっていた。
「ま、まぐれだ!まぐれですよ!もう一度だ!もう一度戦えば僕が勝つに決まっている!ねえ、そうでしょう!?そうだ。前回だって三回やったんだ!だから、あと二回やりましょう!残りの二回チャンスをくださいよ!」
卓は噛みつくように言って一を見る。その顔は負けた理由が判らないと言っていた。
新之助は卓の変化に戸惑う。一を三回負かした人間とは思えない卑屈さがそこにはあった。
「いいぜ。あと二回だ。その二回で俺が一度でも負けたら俺は部を抜ける。だが、俺が勝ったらお前は部に入れない。いいな?」
「いいですよ!だから、始めましょう!僕が負けたんだから、先攻でいいですよね!」
一が答えるよりも先に卓はシャッフルを始めた。一度の負けだけで彼は完全に調子を崩している。そんな卓が万全の調子の一に勝てるわけがなかった。二回目の対戦でも一が勝った。そして、ついに勝負は最後までもつれこむ。
一のシールドは残り二枚。これは、卓がブロッカーを並べて《ダイヤモンド・ソード》を使って攻撃したことにより、ダメージを受けた結果だ。卓の除去カードによる妨害を受け、場に残っているのは《ツッコミパンダ・ディス》一体のみとなった。
卓のシールドは最後の一枚。そして、ブロッカーも《ダイヤモンド・ソード》による奇襲で使ってしまったため、全てタップされたまま置かれている。
(負けるはずがない。もし、スピードアタッカーが出たとしても、大丈夫。最後のシールドはもしもの時のためにイカサマをして仕込んでおいた《DNA・スパーク》だ。そして、手札の中には《ダイヤモンド・ソード》もある!バレなければイカサマしていいんだよ!僕はゲームの達人!だから、こんなザコに負けてはならない!)
「さあ、来なさい!このターン、僕は耐えて必ず勝つ!」
「そうは行くか!勝つのは俺だ。自然含む5マナタップして《ツッコミパンダ・ディス》を《ケンジ・パンダネルラ将軍》に進化!」
一の切り札が出た。卓はその能力を熟知している。どんなドリームメイトが出ても《DNA・スパーク》で止めることができる。それ故、笑ってしまいそうだった。噴き出す笑いをこらえるように口の端は小刻みに動いている。
「行くぜ!《ケンジ・パンダネルラ将軍》でシールドを攻撃!山札の上をオープン!」
一は元気よく山札の上をめくった。そのカードに描かれていたのは、白いライオンのようなドリームメイトだった。
「出たぜ、《楯神の賢者レオルド》だ!こいつはスリリング・スリーのクリーチャー!」
「ほう、そうですか。今さらスピードアタッカーじゃないクリーチャーが出たところで痛くも痒くもないですが」
「安心するのはまだ早いぜ」
勝利を確信した卓に対して義男が言う。それに続くように健人が口を開いた。
「《レオルド》が出た時に、スリリング・スリーでドリームメイトかビークル・ビーが出た数だけ相手のシールドを見ることができるんだ」
「見るだけでしょう?」
「いいえ、それだけじゃないわ。見たシールドがシールド・トリガーであれば墓地に送れるのよ」
「な……何ですって!」
健人に続いて静貴の解説を聞いた卓は目を大きく開けて一の手つきを見る。一がめくって見せたカードは呪文だった。
「あー、呪文か。でも、今度こそ……!」
一は対して落胆することもなく二枚目をめくる。それも呪文だ。
「どうしたんですか?二回連続失敗ですよ。次もどうせ失敗に決まってます!」
「違うぜ。二度失敗した。だから、もう失敗しない」
二度も呪文が出たのに、一は落ち込んでいない。彼の目は真っ直ぐだった。真っ直ぐな瞳でデッキを見て、山札の上のカードに触れる。
その場にいる全員の視線が注がれる中、山札の上のカードがめくられた。
「来たぜ、《早食王のリンパオ》。ドリームメイトだ!」
「そ、そんな……!」
卓は驚いて動くことすらできなかった。そんな彼の前で一は最後のシールドに手をつける。
「それじゃ、見せてもらうぜ。お、シールド・トリガーだ。じゃあこれを墓地に置いて……。あれ?攻撃中に相手のシールドがなくなったらどうなるんだ?攻撃は中止?」
「大丈夫よ、一君。こういう時はプレイヤーを守るシールドがなくなったから、そのまま相手にとどめが刺せるわ。元気よく行きなさい!」
「了解っす!それじゃ、《ケンジ・パンダネルラ将軍》で小早川卓にとどめだ!」
ついに一の三回目の勝利が確定した。あまりの出来事に卓はまだ呆けたような表情で場を見ている。
「やったよ、一君!」
対戦を見守っていた新之助は笑顔で一に近づく。静貴達も彼に続いた。
「みんな、ありがとう。みんなのおかげだぜ。くれたカード、大切にするよ」
「ああ、出世払いだ。いつか倍にして返してもらうぜ」
「ええっ!くれたんじゃないんすか?」
「冗談だ」
義男の冗談を聞いてデュエマ部の部員達は笑う。だが、その声を制するように卓が机を叩いた。
「あ、ああ……。嘘、嘘だ、嘘なんだ!ありえない、ありえるはずがない!この僕が、『ゲームの達人』のこの僕が、初めて一カ月くらいの初心者に負けるなんて……。何で、こんなことに……。あ、そうか」
卓は自分の目の前にあるデッキを取って握りしめる。敵でも見るような険しい目つきだった。
「これだ。このデッキが弱いからだ!このせいで負けたんだ。あいつらに文句言ってやる!」
そう言うと彼は勢いよく立ちあがった。椅子が後ろに倒れ、激しい音がする。卓はそれを気にせずに部室を飛び出した。
「あいつら、って言ってたね。卓君を裏で操っていた奴らがいるのかな?」
健人は彼が去ったドアを見ている。黒幕がいるのであれば、初心者であるはずの卓が一対策に特化したデッキを組んでいた理由も説明がつく。
「そうかもしれないわね。でも、今はそれについて考えるのはなし!一君の部活復帰記念と行きましょ!一ノ瀬君、用意はできてる?」
「ええ、準備は万全です」
静貴の問いに、一ノ瀬は笑顔で答えると鞄を開けた。中から取り出したのは白いビニール袋だ。その中からいい匂いが漂ってくる。
「ハムカツを用意しました。お飲み物の準備もしてあります。一さんの祝勝会をしましょう」
「やった!早く食べようぜ!俺、頭使いすぎてお腹ぺこぺこだよ~」
対戦中とは打って変わって情けない声を出した一が席に着く。そんな彼を笑いながら、他の部員達も席に着いた。

卓は勢いよく生徒会室の扉を開けた。彼が中を睨みつけると、そこに綾音はいない。彼女が好んで聴いている曲も流れていない。いるのは三人の少年だった。烈光学園とは違う学校の制服を着ている。
「その様子じゃ、負けて帰ってきたみたいだな」
「ええ、あなた達のせいですよ。あなた達が僕に弱いデッキを渡したから!」
卓はデッキを握りしめながら、三人を睨みつけた。
「俺達のせいだと?笑わせるな」
中央にいた少年が卓に近づく。切れ長の目をした頭の切れそうな少年だ。
「負けたのはお前が弱いからだ。お前が再戦して負けたのは少々予想外だったが、まあいい。お嬢様からの伝言だ。お前は用済みだとな。デッキを返せ」
切れ長の目の少年はひったくるようにしてデッキを奪い取った。そして、卓の胸を強く押す。押し出された卓は生徒会室から出た。彼の目の前で扉が閉まる。
「で、デッキが……!嫌だ。返してくださいよ!リベンジしてやりますから!今度こそあいつらに勝ちますから!そのデッキを返してくださいよ!」
「安心しろよ、ゲームの達人。リベンジなら俺達がやってやる。俺達ジェット・ストリーム・ブラザーズがな!」
扉の向こうから笑い声が聞こえる。既に舞台を降ろされた卓は、そこに加わることができない。しばらく扉の前でデッキを返してもらえるよう懇願していた卓だったが、しばらくして諦めた。固く閉ざされた扉から逃げるように彼は去っていった。

第六話 終

次回予告
「オッス、俺、一!無事デュエマ部に復帰できたぜ!新之助にもデュエマ部のみんなにも感謝してるよ!で、次回なんだけど、部長がいない隙をついて謎の道場破り『ジェット・ストリーム・ブラザーズ』がやってきた。義男先輩はパトロールだし、健人先輩で大丈夫か?隠して道場破りとの激戦が始まる!『第七話道場破り デュエマ部が危ない』次回も読んでくれよ!」
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