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決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ! 第十一話 史上最大の侵略は裏切りの味!

決闘暴走議事録 デュエマのダイゴみ!

都内某所にある私立無双竜機学園高校。個性溢れる生徒達が大勢通っている進学校だ。
そんな生徒達をまとめ、平和と治安を維持する者達がいた。
書道の達人、闘魂堂(とうこんどう)テツノスケ。
言語のエキスパート、ワン・チャン。
学園最強の女帝、不死鳥座(ふしちょうざ)ミヤビ。
凡人、一ノ瀬(いちのせ)タダオ。
そして、生徒王にして生徒会長の極神寺(きょくしんじ)ダイゴ。
これは、彼ら、無双竜機学園生徒会が学園に巣食う悪を蹴散らす物語だ。
無双竜機学園の文化祭が始まった。ダイゴは生徒会の代表として文化祭の見回りをすることになった。《ジェニー》と共に動き出した彼は、目玉イベントの一つである軽音部のライブが中止になった事実を告げられる。ライブを楽しみにしていた客を悲しませないために、ダイゴは奔走する。そして、彼が結成した伝説のバンド『ロック・シザース・スカル』が一日限りの復活を遂げ、多くの観客達の前に姿を見せるのだった。

第十一話 史上最大の侵略は裏切りの味!

その日の放課後、一ノ瀬タダオが生徒会室に行くと、そこには既に極神寺ダイゴがいた。
この部屋の主、ダイゴは窓際にある自分のデスクに着席していた。窓から差し込む陽光が彼の銀色の波打った髪を照らしている。
「あれ?会長が一番乗りですか」
「ああ、集中したいことがあって午後の授業をサボってここにいたのだ」
「ダメですよ、サボったりなんかしちゃ……。そりゃ、生徒会長と極神寺グループの総帥で忙しいのは判りますけど」
「そう言うな」
鞄を置いたタダオはダイゴのデスクに近寄る。高級品らしい落ち着いた輝きを放っているデスクの上には多くのデュエル・マスターズカードが散らばっていた。その中には、ダイゴが今までのデュエマで使ったことがないものもある。
「デッキの調整をしていたのだ」
タダオの視線に気付いてダイゴが言う。
「調整ってカードを入れ替えていたんですか?今のままでも充分強いのに、どうしてそんなことを」
「デッキの調整をしない者などいない。歩むことを止めた者に勝ちはないからな。戦い続けたら、デッキをより自分の理想に近づけるためにいじりたくなるものだ」
「そういうものですか」
未だに市販のデッキを使って何の調整もしていなかったタダオは、家でカードの入れ替えをしてみようかと思っていた。
そこに、扉を開けて三人の人物が入ってきた。ミヤビ、ワンコ、《ジェニー》だ。
「ダイゴ、たい焼き持ってきたわよ!ファンクラブの人が買ってくれたの!」
《ジェニー》は元々、実体化した《特攻人形ジェニー》のカードだったものだ。実体化したまま、戻ることなく制服を着て学園に在籍している。先日の文化祭のライブで多くのファンが生まれた。最近では、ファンクラブもできている。
「ダイゴ!ファンクラブの貢ぎ物はおいしいのが多いお」
《ジェニー》の隣で大きな菓子箱を持ったワンコが言う。
ワンコというのはあだ名で本名はワン・チャンという。彼女は中国系アメリカ人の二年生だ。非常に小柄で、頭部につけた巨大なリボンを含めても《ジェニー》と同じくらいの身長でしかない。かわいらしいツインテールの髪の先が顔の横で揺れていた。
ワンコが持っていた菓子箱にはファンクラブの名前が入ったのしがついていた。どれも、高級な菓子だと一目見ただけで判る代物だ。
「焼酎があってもよかったのにね~」
そう言ったのは三年の不死鳥座ミヤビだ。
綺麗な長髪と均整の取れたプロポーションの肉体が特徴の美女だ。焼酎お湯割り梅入りを好んで飲んでいる。彼女は二回留年しているため、現在、年齢は二十歳だ。そのため、飲酒自体は合法である。
「ミヤビ先輩、未成年じゃお酒は買えませんから。それに《ジェニー》のファンクラブですよ!」
「それくらい判ってるわよ!ねえ、《ジェニー》ちゃん、ファンをちょっと譲ってくれないかしら?」
「ダメ!ファンはあげちゃったりするものじゃないの!ミヤビ、そんな失礼なこと言っちゃダメ」
「あたし、闇文明のクリーチャーに礼義について叱られるとは思わなかったわ」
「《ジェニー》はいい子だな。よし、デッキも完成したし、休憩するか。タダオ、茶を淹れてくれ」
「判りましたよ。そう言えばテツノスケ先輩はどこに行ったんでしょう?」
タダオは生徒会室の隅を見る。そこには畳がしかれたスペースがあった。この場所の主、闘魂堂テツノスケは一週間ほど姿を見せていない。
「どーせ、また巨乳の女の子を探して気持ち悪がられてるんだお」
「きっとそうよ!この前も女子寮のお風呂を覗いてたって聞いたわ!」
「何!?《ジェニー》、それは本当か?《ジェニー》の入浴を覗くとは許せん!」
ダイゴは拳を強く握り、怒りに震えていた。
(すごい怒りだ。会長、好きな人の入浴を覗かれたからものすごく怒っているみたいだぞ)
「俺が覗きたい!」
「会長……」
タダオがダイゴの発言に呆れていると、扉が開いた。入って来たのはテツノスケと一人の女子生徒だ。彼は女子生徒の肩に腕を回していた。まるで、仲睦まじい恋人のようだった。
彼、闘魂堂テツノスケもまた生徒会役員の一人だ。
短く切った黒髪と和風の雰囲気の似合う三年生で生徒会の一員である。有名な書家の息子で、彼自身もプロとして活躍している。書道以外に茶道の心得もあるため、生徒会室にいる時は紺色の作務衣を着て生徒会のメンバーに抹茶を振舞うこともある。
隣にいる女生徒は黒いショートの髪の少女だった。ブレザーの襟についたバッジで二年生だということが判る。背はテツノスケと比べて頭一つ分くらい小さい。顔立ちはかわいらしい方で、どことなく幼さが残るように見える。
顔だけで見るのなら、ダイゴの好みだったが女子生徒の胸が大きかったため、彼は「これはないわー」と思っていた。
「丁度いいところに来たな、テツノスケ。少し聞きたいことがある」
「そうですよ。今まで、何をしていたんです?」
「それにその子はどうしたんだお?」
ダイゴ、タダオ、ワンコが口を開いた時、テツノスケは何も言わずに懐からデッキを取り出した。その双眸はダイゴを見ている。
「お前とはいつか決着をつけなくちゃならねえと思っていたんだ。表へ出ろ。俺と戦え、極神寺ダイゴ!」
テツノスケの発言に生徒会役員達は驚いた目で彼を見た。ダイゴは何も言わずに立ち上がり、デスクの上に置いてあったカードをまとめる。そして、デッキケースに入れると出入り口のテツノスケに近づいた。
「面白い。お前がやる気になった理由は聞かん。相手になるぞ、テツノスケ!」
ダイゴは生徒会室を出ると、近くの窓を開け、脚をかけた。
「いいか、ダイゴ!俺が勝ったら生徒会は解散だ!」
その一言を聞いてダイゴは振り返る。その目には微かに動揺の色が見えた。
「……いいだろう」
「会長!何を言ってるんです!」
タダオが叫ぶが、ダイゴは聞く耳を持たずに窓から校庭へ飛び降りる。それを見たテツノスケも生徒会室を出ようとする。
「待ってくださいよ!会長と戦うって言ったり、生徒会を解散させるって言ったり、何を考えているんですか!」
タダオは慌ててテツノスケの前に移動し、彼を見る。だが、テツノスケはタダオを見ずにその横を通った。女子生徒も一緒だ。
「ねえ、テッちゃん。説明くらいしてあげてもいいと思うよ?」
女子生徒はテツノスケを見上げると甘えた声で言う。それを聞いたテツノスケは女子生徒を見てだらしない顔で笑った。失敗した福笑いのような表情だが、彼は微笑んでいるつもりらしい。
「判ったよ、しょうがねえな、チサが言うんならこいつらに説明してやるか」
テツノスケはたるんだ笑顔のまま、生徒会のメンバーを見た。それを見たタダオ達は「デレデレしやがって!クソが!」と思ったが、声にも顔にも出さなかった。
「こいつは二年の片倉チサ。俺の、その……、ガールフレンドだ」
「いわゆる彼氏彼女の関係です!みなさん、よろしく!」
「テツノスケ先輩に彼女が!?そんな馬鹿な!」
タダオは目を見開き、口を大きく開けて驚く。
「嘘だー!こいつ、一生彼女できないと思っていたのにおかしいわよ!」
驚いたのはタダオだけではない。《ジェニー》もタダオと同じように自分の感想を述べる。二人はワンコとミヤビの反応を見る。その二人は意外なことに驚いていなかった。生徒会役員の前でいちゃつく二人を冷たい目で見ている。
「おいおい、驚き過ぎだろ。まあ、俺もこんなにかわいい彼女ができたのには自分でも驚いたけどな!」
「やだぁ、テッちゃん。他の人の前でかわいいだなんて!恥ずかしいよ!」
「いいじゃねえか。本当のことなんだからよ!」
いちゃつき始めた二人を見ながらタダオはミヤビに「何かウザいですね」と耳打ちした。
「そのまま、様子を見ていなさい。この子、どこかで見たような……」
ミヤビは静かな声でタダオに告げた後、ワンコを見た。アイコンタクトの意味が判ったのか、ワンコは静かに頷く。
「テツノスケ先輩!それよりも生徒会を解散させるってどういうことなのか、説明してくださいよ!」
「ああ、そうだったな」
タダオの叫びを聞いてテツノスケはいつもの彼の顔に戻った。鋭い目つきで後輩を見ながら説明を始める。
「全ての始まりは、俺が生徒会の代表としてチサから相談を持ちかけられたことから始まった。女子寮の風呂を覗く不届き者がいるってな」
(どこかで聞いた話だ)
タダオは数分前に《ジェニー》がしていた話を思い出す。その話では女子寮の風呂を覗いていたのはテツノスケだった。
「それって、あんた、ムグッ!」
途中まで言いかけた《ジェニー》の言葉は、ワンコが後ろから口を塞いだため、かき消されてしまった。暴れようとする《ジェニー》にワンコは
「今だけは黙っているんだお。ミヤビに作戦があるみたいだお」
と、呟く。それを聞いて《ジェニー》は大人しくなった。タダオも疑問を口に出さずに話を聞いた。
「俺は調査を進め、チサと親しくなった。ある時、チサはある噂を耳にした。風呂を覗いていた犯人はダイゴだって噂だ!」
「何ですって!」
それはタダオ達の知っている噂とは違う。反論しようとしたが、タダオは肩をミヤビに掴まれた。《ジェニー》を見ると、後ろからワンコに口を塞がれている。何か叫んでいるが聞きとれない。
「俺だって信じられねえ。だけど、ダイゴが犯人だっていう証拠が出ているんだ」
「そんな……。きっと何かの間違いですよ」
「チサもダイゴが覗いていたのを見たって言っているんだ。それに、これを見ろ」
テツノスケは銀色の細長い糸のようなものをタダオ達に見せる。それは、綺麗な曲線を描いていた。
「ダイゴの毛髪だ。女子寮の風呂の近くに落ちていたのをチサが見つけた。銀髪の奴なんてそうはいねえ」
証拠を見せたテツノスケは、ダイゴのものらしき頭髪を懐にしまうと生徒会のメンバーに背を向ける。
「俺はダイゴを止めて、生徒会を潰す。それが俺の……、あいつのダチとしてできる唯一のことだ」
「そんな!本気でやるんですか!?二人が戦うなんておかしいですよ!」
「止めるんじゃねえ!」
テツノスケはタダオの手を振り払うと走り出した。チサも彼について行った。
「何で……、何で生徒会役員同士で喧嘩みたいなことしなくちゃならないんだ。いつもみたいにやっつけなくちゃならない相手がいるわけでもないのに……。これ、おかしいですよ」
タダオは言いようのないやるせない気持ちを口に出し、肩を落とす。その肩をミヤビが軽く叩いた。彼女はタダオに向かって優しく微笑む。
「二人とも男の子だからね。デュエマではライバルみたいなものだから、どっちが強いのか気になるのよ、きっと」
「そういうものなの?」
ミヤビの横で《ジェニー》が聞いた。
「男って、大抵、そういうめんどーくさい奴なんだお。二人が戦うところなんてなかなか見られないから見に行くお」
ワンコは《ジェニー》の手を引いて歩き出した。《ジェニー》もついていく。
それを見てミヤビはタダオの手を取った。
「行きましょ。ダイゴ君には何か考えがあると思うわ。だから、きっと大丈夫。タダオ君の心配するようなことにはならないわ」
「そうだといいんですけど……」
タダオはミヤビに引っ張られながら歩き出した。
タダオ達が校庭に着く頃には、多くの生徒が集まっていた。ギャラリーの生徒を押しのけて進むと、臨戦状態になったダイゴとテツノスケの姿が見える。二人とも聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を発動させ、シールドの設置を終えていた。テツノスケの側にはチサが立って見守っていた。
「テツノスケ!彼女ができてもフィールドはそのままか。浮気でもするんじゃないのか?」
ダイゴはテツノスケの周りにたくさん並んだ巨乳美女の等身大パネルを見て言う。
「彼女いない歴十八年のお前が彼女いない歴ゼロ年の俺の動揺を誘おうとしても無駄だぜ」
「何だと!?」
互いに挑発を終えた時、頭に血が上っていたのはダイゴだった。鋭い目つきでテツノスケを睨んでいる。
「ふ、ふん……!そんな安っぽい挑発になど乗るものか。俺には、《ジェニー》がいる!」
「お前が勝手に彼女だと思い込んでるだけじゃねえのか?」
「うぐっ!」
ダイゴは青い顔をして一歩後ずさった。彼女ができたという自信がテツノスケに底知れないパワーを与えている。
「ねえ、あんな風に言ってるけど《ジェニー》ちゃんはダイゴ君のことどう思う?」
ミヤビは《ジェニー》に話を振った。異世界の人形は小首を傾げた後
「んーと……、大事な友達の一人、かな?」
と、答えた。
「あー、今のダイゴ君が聞いたらショック受けるかも」
「だ、だってまだ好きなのかどうなのかよく判らないんだもん!」
「自分の気持ちくらいはっきりさせるお!」
《ジェニー》の横でワンコが怒っていた。何故か、彼女は口を尖らせて不満そうな顔で《ジェニー》を見ている。
「始まりましたよ!」
会話に加わらず、対戦を見ていたタダオが声を上げる。それを聞いて三人は会話を中断し、場に視線を向けた。
「行くぜ、まずはマナゾーンにカードをチャージ。ターンエンドだ」
先攻を取ったのはテツノスケだった。しかし、彼の行動はマナチャージだけだ。いつもならば、1ターン目からクリーチャーを召喚してくる彼らしくない。
「いつものテツノスケの動きと違う……?それとも、腕が鈍ったか?」
軽口を叩きながらダイゴはドローする。彼も本当にテツノスケの腕が鈍ったと思っているわけではない。手札の内容によっては1ターン目にクリーチャーを出せない時だってある。
偶然出せないのならば、警戒する理由はない。問題はダイゴへの対策を考えてデッキを強化していた時だ。初手の動きを変えることでダイゴへの対処をしやすい形にしているのかもしれない。そうなると簡単には勝てない。
「鈍ったかどうか、試してみろよ」
「そうだな……」
ダイゴは手元のカードを見ると、その中から一枚選んでマナゾーンに置く。ダイゴは1ターン目から使えるカードがないのでこれでターンを終えた。
「それじゃ行くぜ。《鬼人形ボーグ》を召喚だ!」
テツノスケが最初に召喚したのは、鎧を着たような人型の人形のクリーチャーだった。大きな鉄球を持ってはいるが、小さく頼りない印象を受ける。
「パワー1000のクリーチャー?テツノスケ先輩は一体、何を考えているんだ?」
《鬼人形ボーグ》のパワーの低さに驚いたタダオはテツノスケを見た。彼は自分の選択を誤っていない自信があるらしく、真っ直ぐな目でダイゴの反応を見ている。
《鬼人形ボーグ》を見たダイゴは驚いていた。その直後、額に皺を寄せる。
「厄介なクリーチャーを出してくれたな」
「お前を倒すんだ。これくらいの準備をしておくのは当然だろ?」
タダオにはテツノスケの自信とダイゴの狼狽の理由が判らなかった。困った顔をしていると、ミヤビが口を開く。
「テツノスケ君が召喚した《鬼人形ボーグ》は最軽量のスレイヤー持ちのクリーチャーよ」
「スレイヤーってことは、バトルして負けた時、相手クリーチャーも墓地に送る能力ですか」
説明を聞いて、タダオにもその強さとテツノスケの自信の理由が理解できた。
ダイゴがテツノスケの速攻に対抗するには、強力なブロッカーとカウンターに頼るしかない。その強力なブロッカーをバトルで倒すために《お人形ボーグ》を使ったのだ。
「確かに驚いた。が、俺を倒すための準備としては足りないな。なめてもらっちゃ困る」
ダイゴが場にカードをかざした瞬間、水流が《鬼人形ボーグ》に押し寄せる。すぐにその姿は場から消えた。
「《スパイラル・ゲート》か。こんなに早く使ってよかったのか?」
「こっちを心配している場合か?お前はまだシールドに触れてすらいないぞ?」
「野郎……!」
テツノスケは奥歯を噛みしめ、再び《鬼人形ボーグ》を召喚した。それを見て、ダイゴは顎に手を当てて考える。
「《スパイラル・ゲート》じゃ、その場しのぎにしかならんからな。ここはこうする!」
ダイゴは《光陣の使徒ムルムル》を召喚する。このクリーチャーがいれば、他のブロッカーのパワーは3000もプラスされる。クリーチャーへの攻撃もできるから、タップされた《鬼人形ボーグ》との相討ちも狙える。
「やっぱりいつもの戦略か。お前の戦いは飽きるほど見て来たからな。対策は充分だ。召喚!」
テツノスケの場にツルのように首が長い鳥人間のようなクリーチャーが現れる。《突風のゴーマッハ・スワン》。相手の場にブロッカーがいれば、コストが3下がるスピードアタッカーだ。
「なるほど。《ムルムル》よりもパワーの高いクリーチャーを出してきたか」
「ここでは、パワーは関係ねえよ。これでどうにかするぜ。喰らえ!」
テツノスケは一枚の赤いカードを場にかざす。すると、それから出た赤い光線が《ムルムル》の体を貫いた。同時に《鬼人形ボーグ》が赤い光に包まれる。《鬼人形ボーグ》は《ムルムル》の残骸を踏み潰しながらダイゴのシールドに向かった。
「行くぜ、《鬼人形ボーグ》!W・ブレイクだ!」
《鬼人形ボーグ》は持っていた鉄球を我武者羅(がむしゃら)に振り回す。それによってダイゴのシールド二枚が破られた。
「そんな……!あんな小さいクリーチャーがW・ブレイカーだなんておかしいですよ!」
「そうよ!《鬼人形ボーグ》はただのスレイヤーのはずよ!」
「テツノスケが直前に使った《パワフル・ビーム》の力だお」
突然のW・ブレイクに驚いたタダオと《ジェニー》に対してワンコが言う。
「《パワフル・ビーム》は相手のブロッカーを破壊し、自分の闇か自然のクリーチャーにW・ブレイカーを与える呪文だお。テツノスケはそれで《ムルムル》を破壊して、闇文明の《鬼人形ボーグ》をW・ブレイカーにしたんだお」
「ブロッカーを破壊するだけじゃなく、W・ブレイカーまで追加するなんて……!本当に会長を倒すためだけに作られたデッキみたいだ」
心配するタダオに目もくれず、テツノスケは次の攻撃を始めた。《ゴーマッハ・スワン》が持っていたサーベルでシールドを打ち砕いていく。
「早くもシールド残り二枚か。こいつはヤバい。だがな……!」
空を金色の光が包みこむ。同時に空中に金色の幾何学模様が現れた。
「出た!会長の《ヘブンズ・ゲート》だ!」
タダオの歓声と共に、場に二体のブロッカーが現れる。青い体色で多くの手を持つ精霊《知識の精霊ロードリエス》と《光線の精霊カチャマシグ》だ。
「言っておくぞ、テツノスケ。お前が速攻のスタイルを変えない限り、俺には勝てない」
「うるせえ!俺は自分の戦い方は変えねえ!それに、俺の中にある闘志とチサがくれた愛がある限り、俺は負けねえ!」
ダイゴの挑発を聞いてテツノスケは彼を睨む。それを見てタダオはハラハラしていた。
「うわ~、会長、あんな風に挑発しなくてもいいのに……」
「いつものことだからね。気にしなくていいわよ」
「そうだお。去年もこんな風に戦ってたお。仲がいい証拠なんだお」
「え……?」
ミヤビとワンコは既に二人の戦いを見たことがあった。そのせいか、何があっても動じる様子を見せていない。
「ミヤビ先輩、ワンコ先輩。あの二人の最初の戦いについて教えてくれますか?本気で戦っているのに、何で仲がいいのかよく判らないんです」
「あたしも聞きたい!」
タダオの言葉に《ジェニー》が同調する。
「いいでしょう。それじゃ、あの二人の出会いと最初の戦いについて教えてあげるわ」
「あ、それはワンコも初めて聞くお。教えて欲しいお」
ワンコもミヤビを見た。三人の視線を集めながら、ミヤビは口を開く。
「ダイゴ君とテツノスケ君が出会ったのは今から二年くらい前のことなの」

二年前の春、ダイゴはクラスメートにとって近寄りがたい存在だった。それはダイゴが持つ極神寺グループの総帥という肩書が原因だった。
無双竜機学園に通っている生徒の中には、社長の子供や有名政治家の子供もいる。だが、世界的大企業のトップはダイゴだけだ。場合によっては一人で学園内のパワーバランスを大きく変えてしまいかねないほどの存在に、生徒達はどう接していいか判らなかった。
そのため、学園内のダイゴは孤独だったと言える。極神寺グループ総帥という肩書だけを見る周囲の存在を冷めた目で見ていた。
それが変わったのはある日のことだった。一人の男子生徒が、放課後、ダイゴの教室に入って来たことから全ては始まる。
「お前が極神寺か。頼む!俺が作る部活のために資金援助をしてくれ!」
それが闘魂堂テツノスケだ。ダイゴも有名な書家の息子として、テツノスケの名前を知っていた。
「何をする気だ?書道部ならもうあるだろう?」
「あんなものに入るつもりはねえよ。俺はもっとすばらしい部を作る。だが、前衛的過ぎて誰もついて来られないかもしれない。部費が出ない可能性もある。だから、自分の足でスポンサーを探していたってわけだ」
「何の部活だ」
ダイゴに対して気軽に話しかけてきた生徒はテツノスケが初めてだった。だが、彼もまたダイゴの金だけを見ているようだった。
それでも、ダイゴは自分に話しかけてきたことへの礼として話に付き合う。
「よくぞ聞いてくれました!俺が作るのは巨乳部だ!」
「何だって?」
驚いたダイゴは数秒固まった後、テツノスケに聞き返す。彼は自信に溢れた声でこう言った。
「巨乳について語り、巨乳を愛し、巨乳の豊作を願う部活だ!いいだろ!?そうだ。お前もこの部活に入れてやろう!どうだ、嬉しいだろ!?」
テツノスケはハッハッハと笑ってダイゴの肩を叩く。スポンサーへの態度とは思えなかった。
「……ざ、けるな……」
「ん?何か言ったか?」
「ふざけるな!」
ダイゴは机から立ち上がる。顔は怒りに染まり、目は血走っていた。
「なんだ?お前も巨乳部なんてのはダメとか硬いこと言うのかよ。高校生活は一度きりなんだから、やりたいことやろうぜ?」
「黙れ!巨乳部なんてのはダメだ!作るなら貧乳部だ!」
その一言を聞いてクラス内の空気が凍りつく。テツノスケの巨乳好きは噂になっていたので、クラス内の生徒はあまり気にしていなかった。だが、今まで自分をさらけ出さなかったダイゴが初めて自分らしさを見せた一言がそれだった。他の生徒達は驚かずにはいられない。
「貧乳?お前、頭おかしいんじゃねえのか?」
「お前こそ狂っている!貧乳こそ正義だ!」
二人はそれ以上何も言わなかった。互いに懐からデッキを取り出すと、教室を出て校庭へ向かう。
「貧乳好きで大企業のトップが務まるわけがねえ!俺がそのねじ曲がった考えを叩き直してやるぜ!」
「それはこっちの台詞だ!行くぞ!聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)発動!」
デッキを取り出した二人が白い光を発し、デュエマが始まった。

「それが二人の初めてのデュエマなの。結果はシールド・トリガーの《ヘブンズ・ゲート》でエンジェル・コマンドを出したダイゴ君の勝ち。テツノスケ君は巨乳部を作るのを諦めたわ。それを見ていた当時の生徒会長が二人を生徒気亜に勧誘したのよ」
「なんというか……、とんでもない話ですね」
タダオは呆れると同時に二人らしいエピソードだと感じていた。
「ねぇ、ミヤビ。生徒会に入った後、二人はすぐ仲良くなったの?」
《ジェニー》の問いにミヤビは首を横に振って答える。
「二人ともあんな性格だからね。生徒会に入った後もしばらくはお互いのことを認められずに、しょっちゅうデュエマで喧嘩していたの。そうしている内に多くの生徒が本当の二人を理解していったわ。大企業のトップだからとか、有名な書家の息子だからとか、そういった目で見る人はほとんどいなくなった。極神寺ダイゴと闘魂堂テツノスケという一人の人間として見るようになったの」
タダオは思い出す。ダイゴは学校で極神寺グループの総帥として振る舞うことはなかった。それは、ありのままの自分を生徒達に見て欲しかったせいなのかもしれない。同じようにテツノスケも書家の息子としか見られていないことが不満だったのだ。
「その後、しばらくして二人はお互いのことを認めるようになったわ。その証拠がこれよ」
ミヤビは懐から一冊のノートを取り出した。ワンコとタダオはそれに見覚えがある。
「それはダイゴが書いた厨二病小説『クエストオブジャスティス』じゃないかお」
「ダイゴって小説も書けるの!すごい!でも、これが証拠になるの?」
生徒会のメンバーはミヤビが持っている『クエストオブジャスティス』のノートを見ていた。
「ダイゴ君はこれを誰にも見せたがらなかったわ。ただ一人、テツノスケ君を除いてね」
「こんなに面白いんだから、見せてもいいじゃないですか」
「タダオ、そこは察してやれお。こんな痛い小説、見せたがらないのも無理はないお」
「はあ……。面白いのに……」
疑問に思うタダオを尻目にミヤビはページをめくる。そして、あるページを見せた。
「これは『クエストオブジャスティス』の外伝の一つよ。これはテツノスケ君が書いた話なの。ほら見て」
「何々……。『巨乳怪盗ハープ現る』。うわ、本当にテツノスケ先輩らしいですね」
「そうね。でも、こうやって自分の小説にテツノスケ君らしいものを書かせてあげるのはダイゴ君がテツノスケ君を認めている証拠」
そう言うと、ミヤビは視線を場に移した。二人の戦いは続いている。
「心の底で認めている仲間だから大丈夫。このデュエマを見守りましょう」
「そうですね」
「うん!ダイゴもテツノスケもがんばれー!」
「負けた奴はワンコにごはんをおごる名誉を授けてやるお!」
生徒会の声援がダイゴ達の耳に届く。それを聞いてダイゴは手を止め、微笑んだ。
「おい、何を笑ってんだ?」
「いい仲間を持った。そう思っただけさ。そして、テツノスケ!その中にはお前も入っている!いつものお前に戻れ!」
「うるせえ!俺はいつも通りだ!」
ダイゴの言葉を遮るようにテツノスケは叫んだ。
ダイゴは場を見る。テツノスケのシールドは二枚。クリーチャーは残っていない。ダイゴのシールドも同じように二枚だ。W・ブレイカーの《カチャマシグ》がいるが一体では攻撃できない。
「なら、こうするしかないか。《ヘブンズ・ゲート》!」
ダイゴが唱えた呪文によって、光と共に二体のエンジェル・コマンドが現れる。《ビビラ精霊オッソ・レオーネ》と《覚醒の精霊ダイヤモンド・エイヴン》だ。
「しまった!そいつは……!」
「ああ、そうだ。《ダイヤモンド・エイヴン》が出たターン、俺のクリーチャーは召喚酔いを含めた攻撃できない状態を解除する!行け、《カチャマシグ》!」
《カチャマシグ》の光線がテツノスケのシールド二枚を撃つ。そして、《カチャマシグ》の横では《オッソ・レオーネ》が最後の一撃のために四肢に力を込めて準備していた。
「テツノスケ!これで俺の勝ちだ!必殺!」
「まだ終わっちゃいねえ!」
テツノスケの場に突如、黒い門が現れる。それが開いた途端、先端が口のようになった触手が門から溢れた。その触手は《オッソ・レオーネ》に向かって伸びると、その体を食いつくした。
「シールド・トリガーか!」
「ああ、《地獄門デス・ゲート》を使ったぜ。この効果で俺は墓地から《地獄のケンカボーグ》を呼び出す!」
新たにテツノスケの場に現れた《ケンカボーグ》を睨みながらダイゴはターンを終えた。それを見てタダオが叫ぶ。
「まだ《ダイヤモンド・エイヴン》があるじゃないですか!攻撃できない状態を解除できるのなら、最後に残ったそれで攻撃すれば……!」
「いや、《ダイヤモンド・エイヴン》は自分自身までは解除できないんだお」
「解除できるのは自分の仲間のクリーチャーだけ。でも、大丈夫。ブロックはできるわ」
タダオはワンコとミヤビの説明を聞いて《ダイヤモンド・エイヴン》が攻撃できない理由を理解した。同時にブロックできるというのを聞いてほっとした。
「あ……」
だが、テツノスケの顔を見た瞬間、背筋に悪寒が走る。彼の口元に一瞬、笑みが浮かぶのが見えたのだ。まだ爆発的な切り札を隠し持っている。そんな顔だった。
「正直焦ったぜ。《デス・ゲート》が来なかったら俺の負けだったからな。だが、これで問題ない。勝負だ、ダイゴ!」
テツノスケは《ケンカボーグ》のカードの上に一枚のカードを重ねた。それと同時に場の《ケンカボーグ》のビジョンが変化していく。
「進化クリーチャーか!」
「ああ、そうだ。俺の切り札だ。ぶちのめせ!《無限鉄拳オニナグリ》!!」
そこには赤と紫の装甲を纏った大男のクリーチャーが立っていた。《無限鉄拳オニナグリ》は瞬時に《カチャマシグ》の前まで移動すると、その拳を振るった。
「ブロックだ!」
《オニナグリ》の前に《ダイヤモンド・エイヴン》が立ちふさがる。《オニナグリ》の拳を受けて《ダイヤモンド・エイヴン》の肉体は紙切れのように切り裂かれていった。
「やったわ、ダイゴ!今度は《カチャマシグ》で攻撃すれば――」
「ダイゴ!何やってるんだお!」
《ジェニー》が安心した時、横でワンコが声を張り上げた。ダイゴの判断が正しいと思っていたタダオはその反応に驚いてワンコを見る。
「言われてるぜ、ダイゴ。それじゃ、今度こそ喰らえ!」
《オニナグリ》はもう一度拳を振り上げると、《カチャマシグ》に向かって力任せに振り下ろした。その肉体が砕かれ、残骸が飛び散る。
「……え?」
タダオは信じられない光景を目にした。《オニナグリ》は間違いなく攻撃を終えていたはずだ。だが、《オニナグリ》は彼らの目の前で二度目の攻撃をしていた。
「さて、今度はシールドだぜ!」
《オニナグリ》は二枚のシールドの前に立った。今度はボクサーを思わせる素早い動きで二枚のシールドを叩き割った。その中にシールド・トリガーはない。
「何なんですか……。あの《無限鉄拳オニナグリ》は何回攻撃できるんですか!こんなのおかしいですよ!」
「《無限鉄拳オニナグリ》はクリーチャーとのバトルに勝った時、アンタップできるクリーチャーよ。ブロッカーが攻撃を遮るのなら、全て殴り倒して進むの」
「もし、《ダイヤモンド・エイヴン》でブロックしなければ、《オレワレオ》で攻撃できたかもしれないんだお!ダイゴの判断ミスだお!」
タダオは《オニナグリ》の真価と理解不能なダイゴの行動の二つに驚いていた。《オニナグリ》は攻撃の標的を《カチャマシグ》にしていた。《ダイヤモンド・エイヴン》はブロックなどと余計なことをしなければ破壊されず、場に留まっていられたはずだ。
「どうするんだ、ダイゴ?クリーチャーもシールドもない。次のターンで俺の勝ちだ!」
「テッちゃん、すごい!」
チサがテツノスケの近くまで駆け寄り、彼の腕に抱きつく。彼の今までの引き締まった表情が消え去り、だらけた顔に変わった。
「ん?そう思う?もっと褒めて褒めて」
「テッちゃん、すごい!天才!大天才!」
「はっはっは、そうだろそうだろ。俺にかかればダイゴを倒すなんて赤子の手をひねるようなもんだぜ」
「チサ、頭が良くて優しいテッちゃんがだーい好き!」
「そろそろその猿芝居をやめたらどうだ?」
いちゃついていた二人はダイゴの声を聞いて動きを止める。
絶体絶命の状況の中で、ダイゴは笑っていた。口元には微笑みを、目には闘志を。そして、その頭脳は勝利への方程式を完成させていた。
「猿芝居とはどーいうことですか、会長さん!」
「片倉チサと言ったな。お前のやっていることは全て嘘まみれだ。テツノスケ、お前もいくつか気付いているんじゃないのか?」
「何っ!?」
ゴキゲンだったテツノスケはダイゴの言葉を聞いて眉をひそめた。
「その女は外見も行動も嘘まみれだ。お前のことだから騙されるのも無理はない。どうせ、色気に負けて生徒会か生徒会長を倒すという約束でもしてしまったのだろう」
「馬鹿な!何で、それが判った!」
あまりにも単純だった。それを聞いた生徒会のメンバーは「ああ、やっぱり」と頷く。
「少し頭を働かせれば判る。ところで、何故、お前は俺を倒そうと思った?」
「お前が女子寮の風呂を覗いていたってチサが言ってたからだ!お前が犯人だっていう証拠はこれだ!チサが見つけた!」
テツノスケは懐から長い銀髪を取り出す。それを見てダイゴは鼻で笑う。
「テツノスケでなく、片倉チサが見つけたのだな?そして、証言も片倉チサのもので裏付けも撮れていないということか。普段のお前ならば少しくらい怪しいと思っただろうが、相当浮かれていたようだな」
ダイゴは小さく溜息を吐いた後、テツノスケを見る。そして、はっきりとしたよく通る声で断言した。
「俺が三次元の女の入浴など覗くか!俺は二次元を愛している!」
「ぐっ!確かに……!」
それを聞いたテツノスケは目を大きく見開いて狼狽した。
「えー、それで納得していいんですかねー。さっきは《ジェニー》の入浴なら覗きたいって言ってたのに……」
呆れたタダオは力ない声で呟いた。その声を聞いた者はいない。
「テッちゃん、そんなことで納得しないでよ!犯人はあいつ!変態生徒会長なんだから!」
「チサ……。だけど、ダイゴは……!」
テツノスケの目は、自分を頼るチサと自信に溢れたダイゴの間を行ったり来たりしていた。
「最近、俺を生徒会長の座から引きずり降ろそうとしている者達が暗躍しているようだ。そのメンバーの一人に片倉チサという名があったな」
ダイゴの言葉を聞いてチサは動きを止める。テツノスケは驚いた目でチサを見ていた。
「チサ、お前……」
「テッちゃん!チサを信じて!」
「テツノスケ!この情報は新聞部を盗聴して得た情報だ!信頼できるぞ!」
「って、何してるんですか、会長!」
タダオのツッコミは虚しく空を切る。ダイゴの発言は少しずつテツノスケを追い詰めていた。彼は動揺し、青い顔をしていた。
「じゃあ、何だよ。俺は何を信じればいいんだよ……」
「チサだよ!テッちゃんはチサを信じて!」
「そんなものは自分で決めろ」
暖かい言葉で声をかけるチサと冷たく言い放つダイゴ。その二人を見てテツノスケは髪をかきむしった。
「お前ももう気付いているはずだ。その女の嘘に……」
「会長……」
タダオはダイゴの自信に溢れた言動を見て思った。
彼は金目当ての女性に言い寄られた経験が多いと聞く。その経験が女性を見る目を厳しくしたのかもしれない。それ故、チサが偽りの心でテツノスケに近づき愛していると騙していることに気付いたのだ。
(やっぱり、会長はすごい!)
「ダイゴ、俺……」
「まどろこっしい奴だ。お前が気付かない振りをしているのなら言ってやる。巨乳の彼女ができたと言って喜んでいるようだが、その女の胸はパッドだ。本来の大きさは並みといったところか。お前の基準で言えば貧乳だな」
「……え?」
タダオはダイゴが何と言ったのか理解できなかった。どんな方法でチサの嘘を暴くのか期待していたら、奇妙な言葉が耳を通り抜けて行った。
「テッちゃん、これはその……!」
チサは慌ててテツノスケから離れると胸を隠すように手を動かした。それを見てテツノスケは溜息を吐いた。
「気付きたくなかった……!俺だって判っていた!必死に気付かない振りをした!だけど、そんなこと言われたら目を逸らすことなんてできないじゃねえか!」
テツノスケは泣いていた。滝のように涙を流しながらダイゴを見る。
「目を覚まさせてやったんだ。感謝しろ。そして、お前も嘘を隠し持っている。この一撃でそれを晒してやる」
ダイゴはゆっくりとした仕草で自分のマナゾーンのカードを数えていく。そこには十枚のカードが置かれていた。
「十枚。これで充分だ。完璧だ。テツノスケ、お前は片倉チサのために俺と戦うと言ったな。それは嘘だ。本当はただ、俺と戦えればよかった。理由などいらない。しかし、生徒会の人間が仲間割れをするのはまずいとでも思ったのだろう。小さい奴だ」
ダイゴは静かに溜息を吐いた。その直後、息を吸い、腹に力を込めて叫ぶ。
「お前は親友だ!外聞など気にせず、いつでもかかってこい!俺は何度でもお前を打ち倒す。今もこれからも……!」
ダイゴはマナのカードを全てタップした。そして、一体のクリーチャーを場に出した。
それは金属でできた鎧の騎士のようなクリーチャーだった。胸と間接にカラフルなクリスタルがついている。左手で持った槍を振り回すと、そのクリーチャーの周りにいくつものクリスタルが現れた。
「もしもの時のために隠し持っていた切り札《「命」の頂 グレイテスト・グレート》だ。召喚してバトルゾーンに出した時、墓地かマナからコストの合計が7になるように選びクリーチャーを出すことができる!」
《グレイテスト・グレート》の周囲に黄色いクリスタルが七つ集まり、それが光を放った。クリスタルは一瞬で《ダイヤモンド・エイヴン》の形になる。
「ダイゴ!お前、まさかこれを狙って《エイヴン》でブロックしたのか!」
ダイゴの行動を見て、テツノスケはいつもの彼に戻っていた。同時に、自分の敗北を悟る。
「ああ、そうだ。手元に《オレワレオ》が来てなかったからな。シールドにも入っていなかった時のことを考えてわざとブロックし、破壊させた。これで《グレイテスト・グレート》は攻撃が可能になる!」
ダイゴはテツノスケを見ると、拳を握って構えた。そして《グレイテスト・グレート》は持っていた槍を投げ捨てると拳を握りしめてテツノスケに向かって走る。
「今だ!必殺!グレート・ド・ミテモアキレス!」
ダイゴが拳を振り上げると、《グレイテスト・グレート》の強烈なアッパーがテツノスケに炸裂した。衝撃を受けてテツノスケの体が後方に吹き飛んだ。
「だ、ダサすぎる……」
吹き飛ばされながら、テツノスケはそう呟くのだった。
「ダイゴ、やったー!」
《ジェニー》がダイゴに向かって走っていく。生徒会のメンバーもそれに続いた。
聖決闘暴走領域(デュエマ・フィールド)を解除したダイゴは笑顔で仲間を迎える。
「会長!今まで見たことがないすごいカードですよ!それを使うために調整していたんですね!」
「ああ、重いカードだからな。簡単には使えない。さて……」
ダイゴの目は倒れているテツノスケに向いた。テツノスケはまだ倒れたまま動かない。ダイゴの足は彼へと向いていた。
「テツノスケ……」
ダイゴがテツノスケに近づこうとすると彼は起き上がる。そして、チサを見た。
「判っていた。判っていたんだよ、チサ。お前は偽りの巨乳(コードボイン)ニセ・チーチだってことくらい」
「テツノスケ先輩、アンノウン風に言わなくてもいいですから」
タダオのツッコミを聞かずにテツノスケはチサに近づいていった。
「それでも俺はお前が好きだ!俺を愛してくれるお前が大好きだ!」
そう言ってテツノスケはチサに手を伸ばす。だが、チサはその手をはねのけた。
「気持ち悪いこと言わないでください、闘魂堂先輩。あなたなら生徒会長を倒してくれると思ったのに、使えない人ですね。でも、まあいいです」
チサは冷たい言葉でそう言い、横目でギャラリーを見る。
その時、ギャラリーからざわめきが聞こえ、列が割れる。そこから飛び出してきたのは、生徒会のメンバーがよく知った顔だった。
「ショウコ!」
それは外見だけは女子生徒、正体は男子生徒という毒島(ぶすじま)ショウコだ。顔色が悪く、足をふらつかせながら歩いている。
「ダ……、イゴ……」
彼はダイゴに向かって手を伸ばすとその場で倒れた。呼ばれたダイゴは少し迷った後、しぶしぶ彼の元へ向かう。
「あー、大丈夫か?できれば寝ててくれ」
「ダイゴ、ごめん。アタシじゃ……、勝てなかった」
ダイゴが近くまで来たため、ショウコは安心したように微笑んだ。
「勝てなかったって何の話だよ!訳が判らないことを言うな!」
「なら、ワタシが教えてあげまショウ、我がライバル、極神寺さン」
特徴的なイントネーションで話す男子生徒がギャラリーの中から現れる。
黒縁の眼鏡をかけた七三分けの男子生徒だ。髪は黒々としていてボリュームがあった。
「お前……、まさか!」
「その通りでスよ。あなたのライバル、菅野(かんの)ヤマヒトでス!」
菅野が自分の名を言うと、彼の元へチサが走り寄った。そして、彼に敬礼をする。
「裏生徒会長!私が誘惑した闘魂堂テツノスケは作戦に失敗しました!」
「ふム、それは残念でス。極神寺さンの髪の毛を手に入れるのは簡単ではなかったのでスが、仕方ありませン」
その一言に生徒会のメンバー全員が驚いた。
「ダイゴ!今、ダイゴの髪の毛を手に入れたとか言ったわ!じゃあ、こいつが首謀者なのね!」
《ジェニー》は菅野を睨む。菅野は眼鏡のブリッジを軽くあげると《ジェニー》を見る。
「おやおや、時期生徒会支配者に対して、そンな目つきでいいンでスかねぇ?」
「時期生徒会支配者だとか、裏生徒会長とか何のことだ?」
ダイゴが菅野につかみかかろうとした時、彼のスラックスの裾をつかんで止める者がいた。ショウコだ。
「ダ、イゴ……。気をつけ……、て。あいつ、ダイゴとテツノスケを戦わせ……、て、生徒会を、仲間割れさせようと……」
「そうだと思っていた。テツノスケが女子寮の風呂を覗いたという噂を流したのもこいつらだろう。テツノスケが俺に仕掛けなかったら、俺がテツノスケに仕掛けるように仕向けていた。そんな算段だ」
「そうよ。そこで疲れたところを……攻撃しようとか言ってて……。だから……、こいつらをやっつけようと……したんだけど……」
ショウコはそこでせき込んだ。そして、潤んだ目でダイゴを見上げる。
「ダイゴ……、今まで、言っていなかったけれど……、今なら、言え、る……。実は、アタシ……、あんたの、ことが……、好……、き……」
「いや、いいから!それ言わなくていいから!聞こえてないから!」
ダイゴは慌てて耳を押さえた。言うべきことを言ったせいか、ショウコは満足した顔で気を失う。
「毒島さンも可哀想に。ワタシに逆らわなければ裏生徒会のポジションを用意してあげたのでスが」
「くだらないことを言ってるんじゃない!」
ショウコから目を背けたダイゴは、その視線を菅野に向けた。彼の目には闘志が宿り、その手にはデッキが握られている。
「ふざけたことをしてくれたな。今からデュエマで処刑してやるから覚悟しろ!」
「フッフッフ、いいでショウ。でスが、極神寺さンと戦うのはワタシではありませン。今回の作戦を手伝ってくれた先生にその役目をお譲りしまショウ。ワタシ以上にアナタを恨んでいるお方でスよ」
そう言った菅野の後ろから一人の男が出てくる。
それは、ダイゴ達の親くらいの年齢の男性だった。黒いスーツを着た会社の重役風の男だ。頭髪の多くが白くなっている。
その目は、ダイゴだけを見ていた。そして、ダイゴもその目を見ていた。
「あんたか。……あんたなのか」
ダイゴの声は震えていた。他の者達は彼が何者なのか知らない。ダイゴだけがその存在を知っていた。
「あんたがこんなことをしたのか!ダイゾウ伯父さん!」

次回につづく

次回予告

目の前にあるのは高く険しい壁。脳裏をよぎるのは楽しい思い出。想いと想い、覚悟と覚悟、そして熱い魂がぶつかり合う。
次回 最終話 醍醐
全てを抱えていざゆけ、ダイゴ!
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