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『コードD2』 DUEL.1 『嵐を呼ぶ新人』

コードD2

X県Q市。日本のどこにでもあるような地方都市。それがこの物語の舞台だ。
この何の変哲もない舞台の上で彼らは想い、戦い、ぶつかり合い、そして、生きる。
これは魔法のカード『デュエル・マスターズ』を使って戦う正義達の物語である。

DUEL.1 『嵐を呼ぶ新人』

憧れていた。
それは彼が強いから?
それだけではない。
それは彼が恩人だから?
それもある。
それは彼の背中が好きだから?
そうかもしれない。
自分でも憧れている理由を一言でまとめられなかった。
今も少年は彼に憧れている。

「オッケイ!着いた!」
Q市商店街の入り口でそんな叫び声が響いたのは、四月に入ったばかりの暖かさと寒さが空の機嫌次第で入れ替わってしまうような日の昼過ぎの出来事だった。幾人かの通行人はそれに驚き、声の主を探す。
叫び声の少年はすぐに見つかった。最初に通行人の目に入ったのは、顔全体から嬉しさと興奮が伝わる笑顔だ。激しい運動をしたのか、額には汗をかいている。頭部にバイザーのような形でかけていたレンズの大きな赤いサングラスを外すと汗を拭い、手を伸ばした。
両腕を高く上げ、両脚を開いている。ローマ字のHともXとも言えるようなポーズだ。
通行人の多くは黒い詰襟の学生服と足元に置かれた赤いドラムバッグから、旅行者か合宿に来た中学生だと判断した。彼は小柄で中学生くらいにしか見えない。
少年は、詰襟の第一ボタンだけでなく、第二ボタンも外す。中に来ていた鮮やかな赤のTシャツがはっきりと見えた。
彼は詰襟と同じ色をした短い尖った髪の頭を軽く振ると、目の前に広がる光景を見た。
「まず、道!」
中央にある広い歩行者用の道を見てまた彼は叫ぶ。
「右、店!左も店!」
道の左右を見てもう一度叫ぶ。通行人の多くはもう彼を見ていなかった。
確かに彼が言うように道を挟んで多くの店が並んでいた。店の軒先の上を見ると、雨をしのげるような屋根があった。そして、少年の頭上には『Q市商店街へようこそ』と書かれた古い看板が見える。
「うおーっ!Q市だ!俺の憧れの街だ!」
興奮して叫ぶその少年を見ながら、小さく拍手する者がいた。
「おー、すごいすごい。やったね、少年。目的地に到着だよ」
「おお、ありがとう!」
その声の主は少女だった。高く、よく響く声で耳に届く感触が心地よい。
少年はその声を聞きながら、Q市の商店街から目をそらさずに彼女に礼を言った。反応が帰ってきたのを見て、少女も会話を続ける。
「でも、港からここまで走って来なくてもいいんじゃない?十キロもあったよ」
「そうはいかないぜ!この直江一歩!今日という日を待ちわびていた!いても立ってもいられないから走ってきたんだ!電車やバスの中で待ってられるかよ!」
「ふーん。でも、電車やバスで移動した方が早いと思うよ、一歩君」
少女がそう言ったのを聞いて一歩と名乗った少年は振り向いて少女を見る。
最初に目が合った。黒い瞳の中に映った一歩の姿が見える。
次に一歩が見たのは日本人形のようなかわいらしい顔だ。健康的な白い肌が光を吸い込む。肩の辺りで切りそろえられた癖のない黒髪が風にさらされて微かに揺れた。黒いセーラー服が彼女のために仕立てられた一品のように似合っていた。
「あ、やっと見てくれた」
そういうと少女はにっこりとほほ笑む。一歩は自分の体温が少し上昇するような気分を味わっていた。
よく見ると少女の肉体は透けている。半透明で、奥の景色が見えた。一歩がもう一度目を凝らして見ると彼女には足がなかった。そこから導き出される結論は一つである。
「ギャー!ゆ、ゆゆ、ユーレイだー!」
さっきまでの元気は完全に消え、顔を真っ青に染めた一歩は頬に両手を当てて叫んだ。
「え?ちょっと、落ち着いてよ!てか、そんなに驚くの!?」
「ひえー、ナンマンダブナンマンダブ。俺、ユーレイとピーマンはダメなんだ!!助けてくれー!」
「落ち着け!」
「痛て!」
幽霊の少女は一歩の脳天に手刀を繰り出す。近年まれに聞くいい音と共に、彼女の白い手がクリーンヒットした。
「ねえ、そんなに驚かなくてもいいでしょ。君、ここでヒーローになるって言ってたよね。ユーレイくらいで驚いていてもいいの」
「確かに俺はヒーローになるつもりの男だけど、やっぱりユーレイは怖いし……。あれ?俺、ヒーローになるって話、してたっけ?」
「してないよ。君が港に着いた時に叫んでたのを聞いた」
それを聞いた一歩は思い出す。故郷の島から船に乗って港に着いた時も、感極まって「ヒーローになる!」と宣言したのだ。
「あの時から俺を見てたのか!もしかして、俺って取り憑かれてる!?つーか、あそこからここまで俺と同じペースで走ってきたのか!ヒー!」
「だから、落ち着けっての!」
「痛て!」
二度目の手刀が一歩の脳天に繰り出される。一歩は「今ので身長が伸びなくなったらどうしよう」と言って頭をさする。
「君、何か勘違いしてるよ。いい?よく聞いて」
少女は怒ったように腰に手を当て、深く息を吐き出すように言う。一歩は二度目の手刀で落ち着いたのか、それとも観念したのか少女に対して何も言い返す事なく話を聞く姿勢を取った。そんな彼を周囲の人は好奇の目で見ながら通り過ぎていく。
「追いついたのはバスに乗ってきたから。それに、君になんか取り憑かないし。あと、私、わるいユーレイじゃないよ。なんていうか……、その」
少女は思案して唇に右手人差し指を当てると軽く上を見上げる。空に貼り付けられたカンニングペーパーを探しているような動きだった。
「天使!そう!天使っぽいユーレイです!」
「天使なのかユーレイなのかはっきりしてくれよ」
真面目に聞いていた一歩は呆れたように息を吐いた後、ドラムバッグを手に取って歩き始める。それを見て少女も宙に浮いたまま一歩の後に着いていった。
「どこ行くの?この飛川詠美(とびかわえいみ)おねえさんが着いて行ってあげましょう」
「別にいいよ。それにおねえさんってなんだよ。ちっちゃい癖に」
「なっ!」
一歩は詠美と名乗った少女の顔を見ずに言う。
『ちっちゃい』と言われた事が気に食わなかったのか、詠美の顔は怒りや羞恥で真っ赤に染まった。そして、思い切り頬を膨らませて一歩の言葉に抗議した。
「ひどい!ちっちゃいのは一歩君でしょ!身長が百六十ちょっとの癖に威張らないでよ!」
「そっ!そっちだって同じくらいだろ!俺の方がほんの少し大きい!」
気にしている身長の事を言われて一歩も黙ってはいられなかった。足を止め、振り返って詠美に抗議する。
「い~や!私の方が絶対大きいもん!」
「俺の方が大きい!今だって、君は俺を見上げてるじゃないか!」
「脚がないからそう見えるだけ!ちゃんと脚があったら、絶対君より大きいもん!」
「いいや、そんな事ないね!脚があっても結果は同じだ!」
「何よ!」
二人の顔が至近距離まで迫り、睨み合う。互いの呼吸を感じ取れるほどの距離だ。
だが、多くの人には詠美の姿が見えないため、不思議そうな顔をして一歩を見ながら通り過ぎる。中には心配そうに見つめる姿もあった。
そんな時、彼らの横を慌てた様子で走っていく一人の男がいた。皺だらけの服を着た中年の男性だ。走りにくそうなサンダル履きで、慌てながら走っている。時々、後ろを振り返り、転びそうになりながらも前進し続けていた。
セカンドバッグを抱えたその男が去った後、地面には紫色の宝石のようなものが転がっていた。一歩はそれを手に取って見る。握ったら手の中に隠れてしまいそうな大きさだ。
「綺麗だね。あの人の落し物かな?宝石が似合わなさそうな人だったね」
詠美の感想を聞きながら、一歩は目で男の背中を追った。まだ視認できる距離にいる。
「ちょっと行ってくる。これ、持っててよ」
詠美の姿を見ずにドラムバッグを預け、一歩は宝石を握ってかけ出した。急にドラムバッグを渡されてよろめいた詠美はドラムバッグを落とした。
「ちょっと!これ、どうすんの!?」
問いかけるが一歩は聞いていない。宝石を落とした男目掛けて全力で走っていた。十キロも走った後だというのに、走力は全く落ちていない。
詠美はドラムバッグを見て両手でそれをつかむ。
「よいしょっ!……うぬぬ、おっもーい!」
何が入っているのか判らないが、持って歩くのがやっとだった。一歩のようにこれを持ったまま走る事など出来ない。
「優しいおねえさんに感謝しなさいよ、一歩君。私が天使のように慈愛に満ちたユーレイだから、仕方なく持って行ってあげるんだからね。でも、おっもーい!」
地面を引き摺るようにしながら、詠美は少しずつドラムバッグを動かしていく。当然、通行人には詠美の姿は見えない。ドラムバッグが少しずつ動くという珍妙な光景は、この後もしばらくQ市で話題となるのだった。

同じ頃、Q市商店街の駅から徒歩数分のところにある小さなイタリアンレストラン。
一時を少し過ぎ、客足も落ち着いた店内で片付けに精を出している青年がいた。
十代後半に見える青年で百八十を超える長身。日焼けをしたスポーツマンらしい体格の体を白シャツ、黒いベスト、同じ色のスラックスといったウエイターらしい服装が包んでいる。
彼が動くのに合わせて、真ん中分けにしたこげ茶の髪が左右に揺れる。精悍な顔つきだが、かといって冷たい印象を与える訳でもなく、帰って行く客に対してあたたかい笑顔で挨拶をしている。
それを見つめながらカウンター席でコーヒーを味わう一人の男がいた。
ウエイターと同じように背が高く体格がいい男だ。だが、ウエイターがスポーツマンらしいのに対してこの男は格闘家らしい筋肉がついた体格だった。スキンヘッドと顎髭が特徴的な男で、彼を恐れているのか(ほとんどの客が帰ったせいもあるが)周囲のテーブルには誰も座っていない。
ウエイターより十歳近く年上に見えるその男は空になったコーヒーカップをソーサーの上に置いた。
「勇作(ゆうさく)君。おかわり、いる?」
間髪入れずに柔和な顔のマスターが格闘家風の男に聞く。それに気付いた玉野(たまの)勇作は
「じゃ、もらいましょうかね」
と、言ってカップをマスターに渡す。マスターは笑顔を絶やさずにポットからカップにコーヒーを入れて勇作に渡した。
「どうも」
すぐに勇作はコーヒーに口をつけ、再び、ウエイターに目を向けた。
「あいつ、ここでの仕事はよくやってますか?」
「力(りき)君はがんばってくれてますよ。お陰で大助かり」
「もう一つの方ももう少し気合い入れてくれたら助かるけどね」
そう言った後、勇作は再びカップに口をつける。力と呼ばれたウエイターはほとんどのテーブルの片付けを終えて勇作に近づいた。
「勇作さん、お待たせしました!今日も決まってますね!」
「軽口を叩いている場合か。今日は新人を出迎える日だと前から言っていただろ。こっちのバイトのシフトを入れている場合か」
「俺、こっちの方が好きっすからね。お客様を楽しませなくちゃいけないっていう責任感があります!」
「俺達の仕事にも責任感を持てよ」
勇作に軽く胸を小突かれて、ウエイターの青年、角田(かくだ)力は「へへへ」といたずらがバレた子供のように軽く笑った。
「そう言えば、俺、新人がどんな奴なのか時将(ときまさ)から聞いていないんすけど、かわいい女の子ですか?」
「男」
「やる気がなくなりましたよ」
「俺の拳でやる気を注入してやってもいい」
「……ははは、がんばります」
力が乾いた声で答えた直後、店の外から男の悲鳴のような声が聞こえた。それを聞いた瞬間、勇作と力、二人の目に警戒の色が宿る。数秒前まで冗談を言い合っていた時の顔ではない。
「何かあったみたいっすね」
「仕事だ。行くぞ」
勇作はそう告げて椅子に引っかけていた黒のスタジャンを羽織り、帽子をかぶるとテーブルの上に代金を置いてその場を去った。力もそれに着いていく。
「気をつけてねー!」
マスターの穏やかな声を聞いて、二人は軽く手を振り、ドアを開けて出て行った。

「おーい、待ってくれよー!」
一歩が中年男性を追ってから数分後、その男性はその場に尻餅をついて倒れていた。気がついたら路地裏まで迷い込んでしまったようだ。夜から開く店が多いせいか、今はどの店もシャッターが下りている。
中年男性に追いついた一歩が彼に近づこうとしたが、ふと、立ち止まる。倒れた男が震えていたのだ。その視線の先には二人の男が立っていた。それを見て中年男性は恐怖のあまり叫ぶ。
「うっ、うわぁーっ!!」
「石塚ぁ、よくも手間取らせてくれたやないかぁ~」
一人は背が低い若い男だ。派手な色のジャケットと別の派手な色のズボンを合わせ、体中に宝石を使ったアクセサリーを散りばめている。七三に分けた黒髪が春の日光を反射して光った。
もう一人は背が高く筋肉質の男だ。派手に染めた髪と鼻輪が特徴的な男で、茶色の革ジャンを羽織っていた。
背が低い男は凄味を利かせているように話しているつもりのようだが、一歩にはその男が恐ろしく見えなかった。だが、石塚と呼ばれた中年男性は、冬の豪雪地帯に放り込まれたかのように震え続けている。
「小僧、消えな。見せもんじゃないぞ」
鼻輪の男が低い声で一歩に注意する。その直後、恐怖に耐え切れなくなったのか石塚が叫んだ。
「どうして、あんた達が!スターズの幹部が何で!?」
「組織の資料だけじゃなくて、ワシの魔封石(まふうせき)を勝手に持って行ったからやろ!早く魔封石と資料を返せ。そしたら、見逃してやらん事もないわ」
背が低い男がそう言った時、石塚は震える手でセカンドバッグのジッパーをつかんだ。だが、それを開けようとはしない。
「どうしたんや。あんさんをバラバラにしてから資料だけ持って帰ってもいいんやで!」
「……出来ない」
「……あ?」
「お前達のような悪党に返す事など出来ない。私はこの資料を持ってお前達と敵対している組織に逃げる!」
「人が優しく言ってやっているのに、こいつは……。善光寺(ぜんこうじ)はん、あんさんの出番や!」
「ふん、やはり蟹江(かにえ)は自分で戦いはしないか。ま、予想通りだ」
善光寺と呼ばれた鼻輪の男は首を鳴らしながら石塚に近づく。石塚は尻餅をついたまま、後ずさった。その二人の前に一歩が立ち、善光寺と蟹江を睨む。
「何の真似だ、小僧?」
「話は聞いてた。あんたら、悪党だろ?じゃあ、放っておけないな」
「だったら、どうする!」
善光寺が目の前の地面に拳を振り下ろす。その拳は容易く地面を砕き、周囲にコンクリートの破片が弾け飛んだ。
「判るやろ、石塚。善光寺はんは自分の体の一部か、自分の持っている物の重量を一時的に増加する魔法を使える!あんさんもそこのボウヤも今のコンクリみたいに粉々や!」
「魔法か。それなら俺も使えるぜ!」
そう言うと一歩は横に飛び、近くにあったゴミ箱から長い木の棒を拾って手に取った。彼がその棒を軽く撫でると、それは赤い光を発する。棒の先を蟹江と善光寺に突き付けて一歩は叫んだ。
「俺は『剣』の魔法使い、直江一歩!悪党は絶対に許さない!」
一歩は発光する木の棒を剣のように構えると善光寺目掛けて走った。それを見た鼻輪の男は両手を組み、強く握り締めると一歩の頭上に振り下ろした。だが、一歩はそれを木の棒で受け止める。コンクリートを粉々に砕くはずの威力の一撃でも、木の棒は砕けなかった。
「魔法を使えるというのは間違いないようだな。だが、俺だけを止めても意味がないぞ」
善光寺の忠告を聞いた一歩が横目で周りを見ると、その意味が理解出来た。蟹江が石塚に近づいている。
「石塚ぁ、魔封石や!資料より先にワシの魔封石を出さんかい!」
石塚は蟹江に迫られて震えている。一歩には蟹江の恐ろしさが理解出来なかったが、石塚の様子を見て危険である事を察した。
「魔封石って、紫色の宝石みたいな奴の事か?それなら、俺が持ってるぞ!」
「何やて!この小僧ぉ!」
それを聞いて激昂したのか、蟹江の怒りの視線が一歩を向く。そして、善光寺の一撃を食い止めている一歩に対して飛びかかった。
「この泥棒が!ワシの魔封……、ぐぎゃっ!」
だが、蟹江が一歩に触れる事は出来なかった。彼に触れる直前で何かにぶつかって動きを止められたかのように立ち止まる。
「ナイスだ。力」
「どうも。でも、何で男を守るのに俺が魔法を使わなくちゃならないんすか」
新たに二人の男の声が聞こえた。勇作と力だ。力の右手からは金色の光が出ていて、掌を一歩に向けている。鼻を押さえた蟹江は、それだけを見て何が起こったのか理解した。
「結界、か……。くそっ!痛い!!」
目の端に涙を溜めた蟹江は勇作と力を睨んだ後、走り去る。
「善光寺、ここは撤退や!」
「撤退だと!?裏切り者を放って撤退など出来るか!」
善光寺はそれを聞いて、再び一歩に両手を振り下ろした。一歩は木の棒で受け止めるが、今回は耐え切れずにそれが折れてしまう。
「もう止められないな!くたばれ!」
だが、善光寺が振り下ろした両腕が一歩に届く事はなかった。彼はそれが当たるよりも先にバックステップで後方に移動する。それと同時に、勇作と力が一歩の横に並んだ。
「直江一歩、お前を迎えに来た」
勇作が敵から目を逸らさずに一歩に言う。それを聞いた一歩は笑顔で勇作を見た。
「って事は、正義の味方の仲間なんですね!」
「勇作さん、それじゃ、こいつが……?」
勇作は一歩と力に同時に疑問をぶつけられる。それに対して静かな声で答えた。
「そうだ。こいつが今日から俺達の仲間になる『嵐を呼ぶ新人』。直江一歩だ」
「何を無駄話してやがる!ぶっ潰す!」
自分の攻撃が何度も外れたのが気に食わなかったのか、善光寺は顔を真っ赤にして怒鳴った。鼻息も非常に荒い。
「選手交代だ。力、お前は一歩と後ろで腰抜かしている男を守れ」
「りょーかいっす。勇作さんは?」
「目の前の奴を倒す」
一歩と力が下がったのを見ると、勇作は懐から銀色のライターを取り出した。彼がそれに火を点け、天に響く声で叫ぶ。
「ウエイクアップ!『バーニング』!!」
突如、勇作と善光寺の二人を中心に炎が二人の周囲に現れる。上から見ると輪のようになっていて、二人を閉じ込めているかのようだった。
勇作が空に向かって右手を伸ばすと、空から一つの火の玉が彼目掛けて振って来た。彼が右手でそれを受け取ると、それから火が消えて銀色の四角いケースへと姿を変えた。
「お前達、スターズの幹部はただの魔法じゃ倒せない。唯一の方法はこれ、『デュエル・マスターズ』だったな」
「そこまで知っているか。ならば、俺も蟹江から預かったこの力を使う」
善光寺は革ジャンのポケットに手を突っ込む。そこから取り出したのは、勇作と同じようなケースだった。
二人がケースの蓋を開けるのは同時だった。彼らの前に巨大なテーブルが現れる。そしてケースからは大量のカードが飛び出す。カードは空中で好き勝手に飛び回った後、テーブルの上に五枚、それぞれの主人の手元に五枚が飛ぶ。残ったカードはそれぞれの主人が取りやすいテーブルの右端に置かれた。
「『焔』のデュエリスト!玉野勇作!スターズ幹部、善光寺、勝負だ!」
「舐めるなよ。潰してやる!」

一歩は勇作が作り出した炎の結界の外からその戦いを見ていた。それは彼が初めて見る魔法だった。目を皿のようにして一挙手一投足を見逃さないようにしながら観察している。
「あの人、勇作さんって言ったよな!あれって何!?」
「お前、『デュエル・マスターズ』カードを知らないのに俺達と一緒に戦おうとしてたのか!」
顔を向けたまま一歩が聞き、その質問を聞いた力が驚いた顔で尋ねる。
「ああ、俺がいた島じゃ、あんな魔法は見た事なかった!つーか、俺以外に魔法使いがいなかった!」
「どんな田舎から出て来てるんだよ!ここも都会ってわけじゃないけれど、魔法使いが一人しかいないようなところとかあるのかよ……」
力は一歩の言葉を聞いて溜息を吐いた後、自分も勇作の戦いを見る。
「新入り。今から俺が『デュエル・マスターズ』について教えてやる。『デュエル・マスターズ』は選ばれた者だけが使える最強の戦闘用の魔法だ。カードの力を使って相手をねじ伏せる。ほら、今、勇作さんがドラゴンを出しただろ」
力が言ったように、勇作がカードを動かし、場の中央に赤い龍を呼び出した。それは、善光寺の前にあった五枚の青い壁に向かって突撃し、二枚の壁を打ち破る。
「ドラゴンが何かぶっ壊した!強い!」
「ああ、勇作さんは強い。あんな風にクリーチャーを召喚して五枚の壁――シールドを全部破った後に相手をクリーチャーで殴れば勝ちだ。負けた奴は魔力のほとんどを失う」
「そうなのか!」
非常に簡素な説明だった。その説明で一歩が理解出来たかどうかは力には判らない。だが、彼は納得していた。
「あ!何か相手のデカイのが勇作さんのドラゴンを倒したぞ!マズくないか!?」
「心配するな。勇作さんは無敵だから、黙って見てろって!」
そう言った力も少し心配していた。今回の相手、善光寺が所属するスターズは危険だと仲間から聞かされていたからだ。自分や勇作が戦える相手なのかどうか、心の中で不安を抱えていた。もし、勇作が善光寺に対して圧勝できればその不安も消えるかもしれない。
「勝ってくれよ、勇作さん……」

「やれっ!《ドルゲーザ》!」
善光寺の命令と共に、彼が使役する巨人が動く。下半身が奇妙な水棲生物で出来たその巨人が拳を振り下ろすと勇作のドラゴンがそれを受けて倒れた。
「簡単にはやられてくれないという訳か。スターズの幹部とつくだけの事はあるな」
勇作はそう言ったが、その差は歴然だった。
勇作の前に並ぶ壁、シールドは五枚全てが残っている。クリーチャーは善光寺の《ドルゲーザ》によって倒されてしまったが、まだ戦えるカードは残っている。
善光寺のシールドは残り一枚だ。巨大なクリーチャー、《ドルゲーザ》の隣に一つ目の水棲生物《スペース・クロウラー》が並んでいる。後がない事が判るため、その目は恐怖に怯えている。
「《ドルゲーザ》のパワーは厄介だ。これで消えてもらう!《ナチュラル・トラップ》!」
勇作が自分の手に握っているカードの束から一枚のカードを選び、相手に見せる。そのカードは緑色の光を発した。すると、《ドルゲーザ》の足元から緑色のツタが伸び、地中に飲みこんでいく。
「せっかくのデカブツもマナ送りにされちゃ意味がないよな?」
「黙れ!」
追い詰められた善光寺の顔は真っ赤なままだ。鼻息もさらに荒くなっている。叩きつけるような手つきで山札のカードに触れ、勢いよく引いた。
それを見た途端、善光寺はすぐにそのカードをテーブルに置く。彼のシールドの前の空間が緑色の光を発し、唸り声と共に地中から一体のクリーチャーが姿を見せる。
それは獣のような毛皮に包まれた二本脚の巨人だった。鋭い爪を舐めて勇作を見ている。
「《絆の戦士シウバ》だ。これでマナ送りにされた《ドルゲーザ》をもう一度手札に!」
《絆の戦士シウバ》が爪のついた拳で地面を掘り起こした時、善光寺のテーブルから一枚のカードが宙に飛んだ。それは勇作が場から消したばかりの《ドルゲーザ》だった。善光寺がそれをつかむと彼の鼻息が収まる。
「ターンの終わりにマナのカードを手札に戻すクリーチャーか」
「そうだ!これがあれば、マナ送りなど怖くはない!」
「そうか。……なら、その得意気な顔をもう一度真っ赤にしてやろう」
勇作がそう言った時、善光寺は背筋に寒気を感じた。四月になったばかりとはいえ、ここは炎の結界の中だ。汗をかくほどの暑さを感じる空間で寒気を感じるなど尋常ではない。善光寺は自分の感覚がおかしくなったのかと感じたがそうではなかった。彼の第六感は正常に働いていて、これから現れる切り札の存在を察知していたのだ。だが、気付いたところで既に遅すぎた。
勇作が豊富な手札の中から一枚を引き抜き、場に置いたところで彼のシールドの前に火柱が現れる。炎を吹き飛ばして現れたのはジャケットを羽織った龍のようなクリーチャーだった。胸にはめ込まれたクリスタルが善光寺の焦った顔を映す。そして、頭部にあるVの字をしたような金色の角が光った。
「《無敵剣 カツキングMAX》だ。登場時、こいつはパワー8000以下のクリーチャーを破壊できる!」
勇作の《カツキングMAX》が右腕に持った巨大な剣の切っ先を《シウバ》に向けた時、《シウバ》の体が一人でに燃え始めた。
「俺の《シウバ》が!」
「マナ送りが怖くなくても、破壊されたらどうだ?」
持ち主の挑発的な言葉に呼応するように、《カツキングMAX》は剣の切っ先を善光寺に向けた。善光寺の顔が再び真っ赤に染まり、鼻息が荒くなる。
「ぬおおおーっ!だったらこうだ!絶対にぶっ潰してやる!」
激昂した善光寺は鼻輪を砕き、破片を地面に叩きつける。それでも、彼の怒りは収まらない。
そして、握り潰さんばかりの勢いで手元から引き抜いた一枚のカードをテーブルに叩きつけた。それは、マナから回収した《ドルゲーザ》だった。
場に出たばかりの《ドルゲーザ》が大きな唸り声を上げた時、地中から噴き出した水流が善光寺の山札を包んだ。水流が消えると、泡に包まれた三枚のカードが善光寺の手元に飛んでいった。
「俺は《ドルゲーザ》の力で三枚ドロー。いいカードが来たぜ!喰らえ!」
再び、得意そうな顔になった善光寺が一枚の黒いカードを勇作に見せる。そこから奇声と共に鎌を持った黒い死神のようなものが飛び出してくる。黒い死神は勇作目掛けて飛んでいき、そのまま勇作をすり抜けていった。その瞬間、勇作の手元のカードが全て灰になって崩れ落ちていく。それを見た死神はケタケタと笑うと消えていった。
「《ロスト・ソウル》か。不愉快な笑い方をする」
「その通りだ!これでお前のクリーチャーは《カツキングMAX》一体!後続は出せまい!」
「甘い」
「何っ!」
勇作の足元に広がっていた灰が風に流され、《カツキングMAX》の近くまで移動する。その灰が燃え上がり、巨大な青い龍の形へ変わっていった。尾は長い剣となり、体の一部からは絶えず炎が噴き出していた。頭部には人間のような黒い頭髪が生えている。
「俺の《永遠のリュウセイ・カイザー》は相手の手札破壊を受けた時に場に出る。俺のクリーチャー二体相手にどこまで持つかな?」
煽るような口調と軽く浮かべた微笑。勇作は余裕を持ったまま、次の行動を始める。
「《エナジー・ライト》で二枚ドロー。さらに《伝説の秘法 超動》。お前の《スペース・クロウラー》を焼く!」
勇作がかざしたカードが赤い光を放った瞬間、善光寺の《スペース・クロウラー》が炎に包まれた。《スペース・クロウラー》の断末魔を聞きながら《リュウセイ・カイザー》はその横を通り過ぎ、善光寺のシールド目掛けて飛ぶ。
「やめろーっ!」
善光寺の悲鳴にも似た声を聞きながら、《リュウセイ・カイザー》は尾の剣を振り下ろす。ガラスが割れるような小気味のいい音と共に、善光寺の場にあった最後のシールドが粉々に砕けていった。
「終わりだ、スターズ幹部、善光寺!」
「いいや、まだだ!死ね!」
善光寺が悲鳴にも似たような、喉から絞り出した声で叫ぶと共に砕けたシールドの欠片が黒い光を発した。すると、《カツキングMAX》が立っていた場所の周囲の地面から黒い手がいくつも伸びていく。
「シールド・トリガー、《デーモン・ハンド》だ!これで《カツキングMAX》を殺す!」
善光寺の呪文《デーモン・ハンド》によって現れた黒い手が《カツキングMAX》を無理矢理地中に引きずり込んでいく。黒い手と《カツキングMAX》が消えた時、そこにはクリスタルだけが残った。
「首の皮一枚つながった!俺は運がいいぞ!」
「そうか。今だけはその幸運に感謝しろ。そして、その程度の運だった事を呪え」
切り札が消えたのを見ても、勇作は動じない。冷たく静かな声を放ち、自分の手元に残った最後の一枚を見ている。
「強がりか。何を言って……っ!?」
得意そうな顔で鼻息を荒くした善光寺は目の前の現象に驚き、動きを止める。彼の目の前でクリスタルが赤い炎を発し、火柱を作り上げた。そして、炎の中から傷一つない姿で《カツキングMAX》が再生したのだ。
「驚いて鼻息も出なくなったか。これが《カツキングMAX》の特殊能力、ドロン・ゴーだ。破壊された時、手札に特定のカードがあれば場に出す事が出来る。最後の一枚がこれだった俺は運がいいな。さあ、これで終わりだ」
新たな《カツキングMAX》が剣を構えて地面を蹴った。
「バカな!召喚したばかりのクリーチャーは召喚酔いで動けないはずだ!何故、動ける!?」
「《リュウセイ・カイザー》の力だ。これで《カツキングMAX》の召喚酔いを解除した。俺の相手をするのには運と実力が足りなかったな!」
《カツキングMAX》が勢いよく剣を振り下ろす。その直後、場に合ったクリーチャーの姿もシールドも消える。そして、周囲の結界の炎が善光寺を包んだ。
「ぐああーっ!」
善光寺が叫んだ直後に炎は消えた。勢いよく燃えていたはずだが、体も服も燃えていないし、焦げたような匂いもしていない。しかし、意識は失われていて炎が消えた瞬間、彼は倒れて動かなくなった。
「助かった……、のか?」
今まで怯えて一言も声を発しなかった石塚が絞り出すような声を出した。それを見て一歩、勇作、力が振り返る。体に力が入らないのか、彼はまだへたりこんだままだ。
「大丈夫みたいだよ!良かったね、おじさん!」
一歩は笑顔で彼に近づくと石塚の背中をバンバン叩いた。石塚は痛そうに顔をしかめたが、その直後で安心したのか顔をほころばせる。
「力、警部に電話だ。善光寺を連行してもらう。それと、このおっさんの持っている物も気になるな」
「りょーかいっす!」
力がスマートフォンを取り出して電話をかけているのを見た後、一歩は小さく「あ」と声を出した。
「ごめん、俺まだおじさんから預かっていた宝石、持ってたままだった。それを返しに来たんだよ。ちょっと待ってね」
そう言って、一歩は自分の詰襟のポケットを探す。
「あれ?」
驚いた顔をした一歩は別のポケットに手を突っ込む。それを見た石塚の表情が曇る。
「なくしたのかい?」
「いや、確かにポケットに入れて……、あれぇ!?」
一歩は焦り始めた。追い詰められた善光寺と同じように鼻息を荒くしている。
「おーい、一歩くーん!」
その時、間延びした少女の声が響いた。ドラムバッグを引き摺って詠美がやって来たのだ。魔法が使える一歩達三人にはその姿が見えているが、石塚には見えていない。
「ちゃんとドラムバッグ持ってきてあげたぞ!天使のように優しい詠美おねえさんに感謝しなさい!あれ、この宝石落としたの?ダメじゃない!届けに行くって言って落し物落としちゃ」
そう言うと、詠美はドラムバッグを置いて地面に手を伸ばす。彼女が言うように視線の先には紫色の宝石、魔封石が落ちていた。詠美の指先がそれに触れた時、魔封石は紫色の光を発した。
「えっ!ちょ、ちょっと……!」
魔封石の一番近くにいた詠美が驚いていると、すぐに光は消えた。それと同時に魔封石も消えてしまった。
「びっくりした。宝石、消えちゃったよ」
自分のせいではない、と許しを乞うような視線で詠美は一歩を見る。その詠美の姿を見て一歩達は目を見開いて驚いていた。今回は石塚も一緒だ。
「詠美ちゃん、脚……」
「こら!まだちゃん付けは許さないぞ!私の方が背が高いし、おねえさんなんだから!それよりも、脚?」
一歩の言葉に怒った口調で言い返した詠美は、自分の脚を見た。スカートから二本の脚が伸びている。もう、彼女の肉体は幽霊ではない。
「やった!元に戻ってる!やった!」
「ま、魔封石が……」
喜びで顔をほころばせた詠美はその場で何度も跳びはねる。それを見ていた石塚は倒れ、気絶した。
「何かよく判らないけれど、やったな!」
お気楽なもので、一歩も詠美と同じようにその場で跳びはねていた。力は助けを求めるような目で勇作を見る。
「どうします?」
「知るか。俺は考えたくない」
目の前の光景を見た勇作は頭を抱えていた。

DUEL.1 『嵐を呼ぶ新人』 終

次回
DUEL.2 『直江一歩は選ばれた』
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