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『コードD2』 DUEL.2 『直江一歩は選ばれた』

コードD2

X県Q市。日本のどこにでもあるような地方都市。それがこの物語の舞台だ。
この何の変哲もない舞台の上で彼らは想い、戦い、ぶつかり合い、そして、生きる。
これは魔法のカード『デュエル・マスターズ』を使って戦う正義達の物語である。
直江一歩(なおえいっぽ)、十五歳。
ヒーローになるためにQ市にやって来た彼は何かから逃げる男性、石塚が落とした紫色の宝石を拾う。魔封石(まふうせき)と呼ばれるそれを持った一歩は、知り合ったばかりの幽霊少女、飛川詠美(とびかわえいみ)に荷物を託して石塚を追う。
石塚を追っているのは一歩だけではなかった。魔封石の本来の持ち主である悪しき魔法使い、スターズの蟹江(かにえ)と善光寺(ぜんこうじ)から石塚を守るため、一歩は二人に立ち向かう。善戦する一歩だったが、力の差は埋められない。
そこへ一歩が所属しようとする組織のメンバー、玉野勇作(たまのゆうさく)、角田力(かくだりき)が現れる。一歩の代わりに善光寺に挑んだ勇作は『デュエル・マスターズ』を使って善光寺を下す。
蟹江は逃走し、一歩は魔封石を石塚に渡そうとするが、少年はそれを落とした事に気付く。そこへ遅れて駆け付けた詠美が現れ、落ちていた魔封石を見つけた。一歩達の前で詠美は魔封石に触れ、肉体を得るのだった。

DUEL.2 『直江一歩は選ばれた』

目覚めよ。
我を扱うにふさわしい者よ。
目覚めよ。
熱き闘志を持って。
目覚めよ。
遥かなる戦いの道を往くために。

「やったやった!」
一歩と詠美が一緒に飛び跳ねている時、三台のパトカーがやって来た。その中の一台から降りた四十代の男性と勇作の側に来る。ネクタイを外し、ボタンを二つ外したその男は挨拶代わりに片手を上げる。
「駿河(するが)警部。どうも」
「とんでもない大物を捕まえたみたいですね」
「ええ」
勇作より十以上年上に見える駿河警部は、魔法を使った戦士に対して敬意を感じさせる態度を取っていた。それを見た一歩は飛び跳ねるのをやめ、真剣な目で彼らを見る。
勇作は警部といくつか言葉を交わした後、彼は一歩達を見た。
「雨が降りそうだから送ってくれるみたいだ。パトカーに乗りな」
「すごい!逮捕されたみたいだ!」
「そんな喜び方するなよ!」
「そうだよ。パトカーに乗れるからってはしゃいじゃって」
力と詠美は子供のようなリアクションの一歩を見て呆れていた。尤もその詠美も彼をたしなめた後に、興味深そうな目でパトカーの内装を見ていたのだが。
「力、俺は警部と一緒にあの男の話を聞いてから合流する。二人を案内してくれ」
「判りました」
力はパトカーの助手席に乗り、新人と元幽霊少女は後部座席に乗った。一歩が左側、力の後ろの席に乗っている。
同じころ、別のパトカーには意識を失ったままの善光寺が乗せられていた。一歩達が乗ったパトカーも善光寺が乗せられたパトカーも出発する。善光寺のパトカーはすぐに別の方向へ移動してしまった。
「色々と言う事はあるけれど、ようこそ新人。俺はお前の先輩の角田力だ」
車が動き出してから力は後部座席を見て一歩に話しかけてきた。それを聞いた一歩が目を輝かせる。
「先輩!?じゃ、勇作さんみたいに強いの?」
「まあな」
先輩と呼ばれたのが気に入ったのか、力は得意そうな顔をしてシートに深く腰掛ける。
「そして、私がかわいいおねえさん、飛川詠美よ」
「あ、それは聞いたから。それにおねえさんって感じじゃないよ。やっぱりちっちゃいじゃん」
「これは違うの!あの宝石のパワーが足りなかっただけ!」
「宝石のせいじゃないよ」
「あまりレディを困らせるものじゃないぞ、新人」
たしなめるような口調で一歩に話した後、力は詠美を見る。その目には一歩に向けられたものとは明らかに違う優しさや穏やかさが含まれていた。
「Q市へようこそ、お嬢さん。良かったら、この後でこの俺、角田力がQ市の素敵なスポットをご案内しましょうか?」
「いいの?」
「もちろん。美しいお嬢さんは大歓迎です」
力の言葉を聞いた詠美は笑顔で隣の一歩を見た。その顔はだらしなく緩み切っている。
「えへへ、美しいお嬢さんだって。判る人には私の良さが判っちゃうんだよね~。こうやって人を褒めるんだよ、お坊ちゃん」
「子供扱いするなよ」
一歩は口を尖らせるが、詠美はそれを見ていない。完全に自分の世界に入っているようで、ふんぞり返ってシートに体重を預けた後、
「いや~、あの宝石のパワーがもうちょっとあったらね~。私の本来の背が高くてナイスバティな姿になれたんだけどね~」
と、言っていた。
「判ったか、新人。レディには優しく。それが男の基本だ」
「そんな事よりさ!勇作さんが使っていたアレ!すごいよな!」
「ああ、『デュエル・マスターズ』か?」
「それ!」
一歩は手を叩いて叫んだ。声の大きさに運転していた警官が顔をしかめたが、他の三人は気付いていない。
子供のように目を輝かせた一歩は(年齢的には子供だが)力に問いかける。
「あれってどうやったら使えるようになるの!?力は使えるんでしょ!?」
「力、じゃない。先輩をつけろ」
一歩の額を小突いて注意した後、力はバツが悪そうな顔で言う。
「俺はあの力を使えない。使えるのは選ばれた強い魔法使いだけだ」
「じゃ、あの鼻輪男も選ばれた魔法使いだって言うのか!?」
一歩は抗議するような目で力を見た。彼は視線を逸らし、フロントガラスを見る。
「俺も選ばれる条件はよく判らないんだ。ほら着いたぞ」
話を逸らせるように言った後、目でその場所を指す。表向きは小さな時計屋だった。表のディスプレイに様々な腕時計が置かれている。
「俺、時計を買いに来たんじゃないよ」
「この奥にあるんだよ。降りるぞ」
先にパトカーを降りた力は後部座席に回ってドアを開ける。
「どうぞ、お嬢さん」
「ありがとう、力!」
「お前に言ったんじゃねえ!」
先に降りた一歩に言った後、力は詠美に笑顔を見せて彼女に手を差し出す。
「ありがと。ヒーローの組織って聞いたんだけれど、時計屋さんなの?」
詠美は力の手を取って降りてから彼に聞いた。
「そうじゃないんだな。来てくれれば判る」
そう言うと、力は時計屋に入っていった。二人は彼についてく。
商店街の外れの一角を借りているらしいその時計屋は外見からも判るように決して広くはなかった。蛍光灯に照らされた店内では様々な時計が宝石のように並べられている。穏やかなクリーム色の壁を見ると、そこでは様々な種類の壁掛け時計が静かに時を刻んでいた。
「誰もいないね」
詠美は言うように店内には三人以外は誰もいなかった。客だけでなく、店員の姿も見えない。慣れているのか、力はそんな事を気にせず奥まで進むと従業員用と思われるドアを開けた。
「こっちだ」
力はドアを開けて二人を待っている。促されて二人はその中に入った。
「すごい!」
室内に入った一歩は目を輝かせた。詠美も驚いて目を丸くしている。
外からは想像も出来ないほどの空間がそこに広がっていた。時計屋にあったものとは比べ物にならない種類の時計が壁に掛けられている。壁に接するように置かれたデスクには数台のパソコンが置かれていて、その前にインカムをつけた男女が座っている。
「ここが俺達の組織、フロンティアの事務所だ」
『その言い方は正しくないな』
その時、どこからともなく穏やかな男の声が聞こえた。パソコンの前に座っているオペレーターらしき男女は声を発していない。当然、力のものでもない。一歩と詠美が不思議に思っていると再び、同じ声が聞こえた。
『直江一歩と飛川詠美だったね。ようこそ、正義の秘密基地へ』
「またさっきの声だ」
声は頭上から聞こえているようだった。だが、一歩が見上げてもそこには誰もいない。
「時将(ときまさ)。事務所でも秘密基地でも一緒じゃないか」
『力。これは重要な事だよ』
慣れている事なのか、力は気にせずに声に対して話しかける。
『初めまして。私がフロンティアの代表、米田(よねだ)時将だ』
「お、俺が直江一歩です!よろしく!」
代表という言葉に反応したのか、一歩は直立不動の姿勢を取って見えない相手に頭を下げた。それを見ながら詠美は不思議そうな顔をしたまま、時将に尋ねる。
「フロンティアって何ですか?」
『君にはそこから話さないといけないね。フロンティアとは魔法を使って悪と戦う正義の組織だ。警察と連携して人々を守る仕事をしている』
「そうは言っても、対した事はしてないさ。魔法を使って戦うのは勇作さんと俺の仕事で時将はここにいるオペレーターを動かして街でどんな事件が起こっているのか調査するのが仕事だ。三人で回しているようなもんだ」
今までオペレーターは一度も一歩達を見ていない。彼がそれに気付いた時、時将は補足するように言った。
『オペレーターはあくまで魔法を元に作り上げたプログラムだ。二十四時間、常時監視し、私に問題を報告したり警察と連絡を取ったりするが意思や人格がある訳ではない。客人に挨拶をする事も、言葉を交わす事もない。そして、私も意思と人格はあるが実体を持っていない』
「え?」
その言葉に驚いた詠美は天井を見る。それに答えるように時将は言った。
『魔封石によって肉体を得た君を少し羨ましく思うよ。だが、私も同じ方法で体を得られるかどうかは判らない』
「時将は幽霊っていう訳じゃないからな。ところで、勇作さんは何か言っていた?」
『連絡はあった。石塚と名乗ったスターズの男が目を覚ましたから、詳しい話を聞いたら戻ってくると言っていたよ』
「そっか」
その時、会話に割り込むようにして警報が鳴り響く。突然の大音量に詠美は「ひっ!」と言ってその場に座り込んで頭を抱えた。
「大丈夫だって。正義の秘密基地によくある事だよ」
一歩はしゃがみこむと、優しく声をかけて詠美の頭の上に手を置く。それでも、詠美は泣きそうな声で
「だって、びっくりしたもん……」
と、呟いた。
「時将!」
『スターズの反応だ。君達が相手をした男の一人だろう。今、位置を特定する』
時将がそう言うと、天井から透明なパネルが降りてくる。それにカラフルな色合いの街の地図が映る。現在地と敵の位置が赤い点で表示され、そこへ至るまでの道筋が赤い線で描かれる。
「一緒にいた男って事は、スターズ幹部の蟹江か。また、幹部クラスの奴が動いたのかよ!」
『単体で破壊活動を行えるほどの魔力を持っているのは幹部クラスだけだ。勇作にも連絡しておこう』
「勇作さん待ちか。新人、一応俺達も……、あれ?」
力が背後を見た時、そこに一歩はいなかった。周りを見ても一歩はいない。
「あいつ、怯えて逃げたのか?」
「違うよ。そうじゃない」
座り込んでいた詠美は立ちあがって力の言葉を否定する。
「一歩君、もう出て行ったよ。「蟹江ってあの小さい方か!」って言って」
『彼は自分の手で蟹江を止めるつもりなのだろう。素晴らしい正義感だ』
「バカ。相手はスターズの幹部だぞ。相手に出来ると思ってんのか!」
力が吐き捨てるように言った。震えるその手を詠美が握る。
「そう思ってるんじゃないかな?一歩君、ヒーローになるって言ってたし、その気持ちは本当だと思う。だから、すぐに出て行ったんだよ」
詠美は手を放した。そして、ドアに向かう。
「どこへ行くんだ?ここなら安全だよ」
「私も一歩君を見に行くね。何だか手のかかる子供みたいで心配だし、一直線で見ていて面白いもの!」
ドアの向こうに詠美が消える。力はそれを呆然とした表情で見ていた。
『どうする。力?』
「俺も行くよ。すぐに勇作さんだって来てくれるだろ?だったら、大丈夫だ」
自棄になったような口調で答えると、力もドアまで向かった。ドアノブに手をかけた時、振り返って聞く。
「スターズの奴らは何で『デュエル・マスターズ』が使えるんだ?」
『調査中だ。石塚という男が持ち出した資料を見たら判るかもしれない』
「それともう一つ。俺も『デュエル・マスターズ』が使えるようになるかな?」
そうやって問いかける力の言葉からは、震えるような感情が溢れていた。背中には自分の無念さが現れている。
『私には判らない』
時将の答えは正しいが残酷だった。それに答えず、力はドアを開けて出て行った。

フロンティアに秘密基地があるように、スターズにも彼らの隠れ家があった。今はそこに蟹江しかいない。
一般的なオフィスの会議室ほどのスペースに、壁を全て埋めるように熱帯魚の水槽が並んでいる。その中の一つで優雅に泳ぐアロワナと目が合った時、蟹江の怒りのスイッチが入り、悪態を吐いた。
「鼻血が出てしもた。こんな事、半年ぶりや。ワシの顔を傷つけやがって!それに魔封石も!あいつら、絶対に許さへん!」
熱帯魚は何も言わない。無数のもの言わぬ視線に対して蟹江は怒鳴りつける。
「見せもんやないで!」
「失態だな、蟹江」
部屋の奥から良く響くバリトンの声が聞こえた時、蟹江の瞳に怯えが走る。ドアが開き、ゆっくりとした速度でその男は歩いてくる。水槽の光に包まれて西洋風の軍服に包まれたがっしりとした肉体が照らされた。
「し、宍倉(ししくら)はん……」
長身の男、宍倉が少しずつ蟹江に近づいてくる。彼が動く度に、腰に掲げたサーベルが金属音を響かせた。
宍倉が目の前に来て足を止め静かに息を吐いた。その瞬間、蟹江は腰の力が抜けたようにその場に倒れる。尻餅をついた蟹江を見下ろしながら宍倉は話し始める。
「魔封石も奪われ、善光寺も倒された。この責任をどう取るつもりだ」
蟹江は震えたまま何も言えない。言葉を選びながら口を開いたり閉じたりしている。それを見た宍倉は彼を促すように「何か言ったらどうだ」と聞く。
「あ、あいつらが強いのが悪いんや!一人は玉野勇作やで!」
自分の中の怯えと怒りが混ざったまま、彼は叫んだ。感情をぶつけられた宍倉は眉一つ動かさずに答える。
「なるほど。一理ある」
「せやろ!」
「だが、失態は失態だ。汚名返上のチャンスをやろう」
宍倉は腰のサーベルを勢いよく引き抜く。その動作に恐怖した蟹江は「ひっ!」と呻いてのけぞる。サーベルは蟹江には向けられていない。彼の背後を指していた。怯えた蟹江はしばらくそれに気付かなかったが、宍倉に促されて背後を見る。
そこには木製の丸い小さなテーブルがあった。その上に四角いケースが置かれている。
「これは『デュエル・マスターズ』のデッキやないか」
「お前に戦う力をやろう。これならどうだ?」
「あのクソガキは『デュエル・マスターズ』のデッキを持っていなかった。これなら、一方的にワシが蹂躙できる!」
蟹江は這いずるようにしてテーブルの上のデッキを取る。そして、狂ったように笑った。
「魔封石を取り戻し、奴らを倒して来い。玉野勇作は無理でも、他の奴らなら倒せるだろう?」
それを見た宍倉はサーベルをしまう。笑うのをやめた蟹江は振り返って軍服の男を見た。
「もし、失敗したらどうなるんや?」
「蔵王(ざおう)が行おうとしている儀式には贄があるといい」
宍倉は蟹江の問いには答えず、関係ない話を始めた。普段ならそんな話をされたら馬鹿にされたのかと怒る蟹江だったが、この時はそうは出来なかった。彼が言おうとしている事は充分に理解できる。
今の蟹江なら、一歩には勝てる。だが、勇作に勝てるとは限らない。勇作が現れた時の事を考えて体が震えた。
「生贄になりたくなかったら、死ぬ気で頑張れって事かい!やったるわ!魔封石を取り戻して、あの気に食わないガキをぶっ殺したる!」
蟹江はそう言うと懐からべっこうで出来た櫛を取り出し、髪を整え始めた。その行動を続ける内に震える手がスムーズに動くようになり始める。
「やったる!やったるからな!」
自分を鼓舞するように言って蟹江は出て行った。それを見届けた宍倉は懐からスマートフォンを取り出し、通話を始める。
「俺だ。蟹江にはデッキを渡した。善光寺と同じように、奴にも例の薬を飲ませてあるんだろう?……判った。追って報告する」
短い通話を終え、宍倉は息を吐く。虚空を見定めながら呟いた。
「スターズの贄となれ。蟹江」

「いい雨やないかぁ」
駅から北西に位置する道路に立ち、蟹江は傘も差さずに空を見上げていた。彼の前には多くの車が停まっている。蟹江がどくのを待っているのではない。それらの車は蟹江によって機能を停止し、それぞれが目茶苦茶な方向を向いている。中には横転して腹を雨に晒している物もあった。
「あのガキはまだか。あいつをグチャグチャにしてやりたいんや……。来ないんやったら……」
蟹江は横目で右を見た。道路の右側には数年前に出来たばかりの市民センターがあった。蟹江の暴走に怯えて、人々は全て逃げてしまっている。
無人の市民センターに対して蟹江は右手を向ける。
「ぶっ壊したる!この街をなぁ!」
蟹江が軽く右手を押すと、透明なガラス玉が空中に現れ、市民センターに向かって飛んでいく。その数は十を超えていた。勢いをつけて飛ぶガラス玉を見ながら蟹江は満足そうに笑った。
「やめろー!」
だが、ガラス玉が蟹江に届く事はなかった。駆けつけた一歩が赤い光を発する棒を振って叩き落としたからだ。道路に当たったガラス玉は音を立てて砕け、かんしゃく玉のように煙を出した。
「お前、さっきの蟹江とか言う悪い奴だな!」
「何が悪い奴や!ワシはスターズで仕事して、好きな宝石を集めてるだけや!勝手に悪人扱いするな、ボケぇ!」
蟹江は一歩に向けて右手を押し出した。ガラス玉が飛んでくるのを見ながら、一歩は木の棒を振って叩き落とす。
「ガラス玉なんかで俺を倒せると思うな!」
「ガラス玉やと思って舐めるんやないで!当たったらこうや!」
蟹江は横転した車に向かって右手を押し出す。勢いよくガラス玉が飛び、フロントガラスやボディを突き破った。大破した車は音を立てて爆発し、炎上する。それを見た一歩から血の気が引いた。
「げっ、思ったよりヤバいかも」
「それにワシの能力なら、ガラス玉はいくらでも作れる。教えてやろうか?ワシの能力は水の粒を一時的にガラス玉に変える力や。水は無限に空から降ってくるでぇ!」
再び、ガラス玉の連射が一歩を襲う。一歩は木の棒を振ってそれを叩き落とした。だが、その直後、違和感に気付いたのか持っていた棒を見る。
「もうボロボロだ……」
「それがお前の弱点の一つ。善光寺はんと戦った時にワシは気付いていたんや!お前は魔力で木の棒を強化しているみたいやけど、耐久力に限界がある。そして、もう一つ」
蟹江は懐から四角い物を取り出した。離れたところにいる一歩にも、それは何なのかすぐに判った。
「それって『デュエル・マスターズ』!」
「そうや!『デュエル・マスターズ』のカードには、持ち主の魔力を増幅させる効果がある。これでパワーアップしたワシが負ける理由がないって判ったやろ!」
「だったら、それより先にアンタをやっつける!」
一歩は蟹江に近づこうとして地面を踏みしめる。だが、それを阻むようにしてガラス玉の連射が一歩を襲った。
「あ!しまった!」
その一撃を振り払った瞬間、木の棒は根本から折れてしまった。これで一歩は自分を守る術を失った。それでも彼は諦めず、木の棒を投げ捨ててファイティングポーズを取り、蟹江を睨む。
「覚えとけ、クソガキぃ!『デュエル・マスターズ』を使える奴に、使えない奴は絶対に勝てへんのや!」
「勝てなくてもいい!それでも俺は、この街を守る!」
「そうか。それやったら、ワシの魔法でグチャグチャにしたる!お前もこの街もなぁ!その後でゆっくり魔封石を探したるわ!」
蟹江がガラス玉を発射した。その動きが、一歩にはスローモーションで見えていた。自分に向かってくるガラス玉がどこに当たるのか、全て理解出来た。だが、体は動けずにいた。
蟹江が言うように自分では勝てないのも判った。だが、それでも街だけは守りたかった。
(あの人は島を守ってくれたんだ。俺だって……!)
その時、一歩の眼前で奇妙な事が起こった。火柱が現れ、蟹江が放ったガラス玉が飲みこまれたのだ。破裂音と共にガラス玉は消えていく。
「この力!玉野勇作か!」
蟹江は血走った目で周囲を見る。だが、勇作の姿はない。
「新人!」
力の声が聞こえた。緊張が解けた一歩は声がした方向を見る。力と詠美が駆けつけて来た。
「もしかして、力が助けてくれたの?」
「力“先輩”だ。それよりも大丈夫か!?一人でスターズに挑むなんて無茶しやがって!」
「そうだよ!一歩君、速すぎなの!」
二人の声を聞いて一歩は呆けたような顔をしていた。
「それじゃ、これは……」
一歩は火柱を見た。それはまだ赤い光を発しながら燃えている。その中から一歩は自分を呼ぶ声を聞いた気がした。
「判った。俺を助けてくれたのはお前か!」
そう言って彼は火柱の中に右手を突っ込んだ。力、詠美、離れた位置にいる蟹江は驚いた様子でそれを見ている。
「一歩君!?何してるの!」
「大丈夫だよ、詠美ちゃん。こいつは俺の仲間。いや、俺の相棒だ!」
一歩が笑顔でそう言うと、火柱が消える。彼の右手には、燃えるように赤い色をしたケースがあった。それを天に掲げて一歩は叫ぶ。
「ウエイクアップ!『サベージ』!!」
主の声に呼応してケースの中から大量のカードが飛び出す。同時に一歩の前には横に長い形の大きなテーブルが現れた。
飛び出したカードは空中で暴れ回るように飛び回る。それを見ながら蟹江がガラス玉を打ち出すが、カードは的確な動きでそれを弾き飛ばした。
数時間前に勇作がやったように一歩は五枚のカードを手に取り、五枚の壁―シールドの準備をして蟹江を見た。蟹江は苛立ったような顔をしている。
「なんや。何でお前まで『デュエル・マスターズ』のデッキを手にしているんや!?」
「判らない!判らないけれど、デッキが来てくれたんだ!」
カードを手に取った一歩は左手で蟹江を指し、宣言した。
「『剣』のデュエリスト、直江一歩!スターズ、蟹江!アンタは俺が倒す!」
「これで五分と五分になっただけや!舐めるな!」
蟹江も同じように自分のデッキを取り出して準備を始めた。彼がシールドを設置し、五枚のカードを手に取った時、戦いが始まった。

「力!」
力が一歩の動向を見守りながら、結界を作って炎上する車を閉じ込めている時、勇作がやって来た。その背後にはパトカーが見える。
「勇作さん、大変っすよ!新人が『デュエル・マスターズ』のデッキを持って戦ってるんす!」
「本当か?」
勇作は力の説明を聞き、その場を見て状況を理解した。蟹江のクリーチャーが地面を蹴り、一歩のシールドに飛びかかる。
「あいつ、結界も張れないのに戦い始めて……」
「問題はない。結界なら、時将が既に張っている。このまま続けさせるぞ」
力は驚いた顔で勇作を見た。その目には非難するような色があった。
「勇作さん、本当にあんな新人にやらせるんですか?」
「そうだ」
「デッキを手にしたばかりのガキなんですよ!」
「デッキがあるなら戦える。直江一歩は選ばれた」
勇作は信頼した目で一歩を見ていた。力も仕方なくその戦いを見守り始めた。
「まずは、《サン・ピエトロ》で一枚!」
ステンドグラスのような美しい模様の羽根を広げた《サン・ピエトロ》の左腕から光線が放たれる。それによって一歩の右端のシールドが破れていった。
「どや!ワシの《サン・ピエトロ》は美しいやろ!宝石みたいにキラキラしたこいつらでお前をグチャグチャにしたる!」
「そうはいかない!お前を倒して街を守る!」
一歩は自分の前にあるテーブルを見た。今、置いたカードを合わせて彼のマナゾーンには使えるカードが四枚。それを全て使い、手札から一枚のカードを引き抜いた。
「マナ!俺のカードに力を貸してくれ」
マナのカードから四条の赤い光が飛び、引き抜いたばかりのカードに吸い込まれている。光を吸収したそのカードを一歩がテーブルに叩きつけた時、その場に火柱が現れる。その火柱は《サン・ピエトロ》に近づき、その体を飲みこんでしまった。
「ワシの《サン・ピエトロ》が!キラキラしたワシのクリーチャーを潰しよって!何や!」
「これが俺のドラゴン!《爆竜バトラッシュ・ナックル》だ!」
火柱を吹き飛ばし、鎧を纏った龍が姿を現す。龍の頭部を模した両手の手甲は赤い炎が消えずに残っている。眼帯に隠れていない目で敵を見た《バトラッシュ・ナックル》は翼を広げて吠えた。
「すごい!やったね、一歩君!そのままやっつけちゃえ!」
「ああ、そうする!」
後方から聞こえた詠美の応援を受けて一歩はテーブルの上に置いた《コッコ・ルピア》のカードに指を添えた。それを横向きにした時、カードは赤く輝く。
「よくも《サン・ピエトロ》で一枚やってくれたな!俺もやるぞ!《コッコ・ルピア》で攻撃だ!」
《バトラッシュ・ナックル》の横にいたオレンジ色の体毛の鳥が羽根を広げて飛び立つ。小鳥らしい高い声で鳴くと、くちばしで蟹江の中央のシールドを突いた。ガラスのような音を立てて砕けたそれを見た後で、蟹江はセットしておいた中央のシールドのカードを見た。
「ちっ、シールド・トリガーやない!運のいい奴や。せやけど、それもここまでやで!」
そう言った蟹江はテーブルの上に置かれていたカードを優しく撫でる。それに反応して、場にあったステンドガラスで出来た魚のような形状のクリーチャー《剛力の使徒イグナッチオ》が嬉しそうに震える。
「クソガキ、お前のミスやぁ。《バトラッシュ・ナックル》で《サン・ピエトロ》やなく、こっちを選んでおけばよかったものを……。せやけど、そのミスに感謝するで!ほら!」
蟹江がマナのカードを二枚使い、新たなクリーチャーを召喚する。
空から金色の粉のような物が舞い、それが集まって形を作っていく。現れたのは二体目の《サン・ピエトロ》だった。
「さっきやっつけたのに!」
「これだけやないで!ほら!」
蟹江の掛け声と共に《イグナッチオ》のステンドガラスの模様が変化していく。模様が追加されながら、その姿が一回り大きくなっていった。
「ワシの《イグナッチオ》は味方のイニシエートが一体増えるごとにパワーが2000増えるんや!これで《イグナッチオ》のパワーは5000!さらにもう一体の《サン・ピエトロ》を召喚!」
新たな《サン・ピエトロ》が並び、《イグナッチオ》の肉体がさらに大きく膨れ上がる。そのサイズは既に《バトラッシュ・ナックル》を超えていた。
「勇作さん、あれってヤバいっすよね!?」
「確かにそうだな。これで《イグナッチオ》のパワーは7000。《バトラッシュ・ナックル》のパワーを上回っている」
「一歩君のドラゴンよりも強いの!?」
それを聞いた詠美は慌てて一歩を見る。そして、彼に伝えるために叫んだ。
「一歩くーん!気をつけて!」
「気をつけても無駄や!《イグナッチオ》、やれ!」
巨大化した《イグナッチオ》は空中を優雅に泳ぎ回り、《バトラッシュ・ナックル》の横をすり抜けて一歩のシールドに近づく。ステンドガラスで作られた巨体が一歩のシールド二枚にのしかかる。水色をした透けた壁は重みに耐え切れず歪み始めた。
「一度に二枚も攻撃するなんて汚いぞ!」
「はっはっは!パワー6000以上になった《イグナッチオ》はW・ブレイカーになるんや!喰らえ!」
中央から真っ二つになった二枚のシールド。合計四つの大きな塊は少しずつ砕けて小さな欠片となっていく。
「W・ブレイカーの《イグナッチオ》に加えて《サン・ピエトロ》が二体。次のターンでお前は終わりや!」
蟹江の表情は勝利への確信に満ちていた。シールドの数も倍。クリーチャーの数でも勝っている彼は目に狂気を浮かべながら「グチャグチャや。グチャグチャにしたる」とうわ言のように呟いていた。
対して、一歩は破られたシールドと引いたカードを見て頭を抱えていた。詠美達からはその表情は読み取れない。
「勇作さん、このままじゃ……」
「まだ続けさせるぞ」
心配する力に対して、勇作はその感情を切り捨てるように言う。それを聞いた力は、疑うような目で彼を見た。
「最後までやらせる。あいつなら、それが出来る。それに、ここは時将の結界の中だ。いざとなったら、緊急脱出を使う」

「一歩君!」
「詠美ちゃん、俺は信じている」
「え?」
「俺を選んでくれたこいつの力と、選ばれた俺自身の力を信じている!こうなったら、ダメ元でやってみるしかない!」
一歩は顔を上げた。笑顔だ。それは追い詰められている者がするような表情ではない。
「負けに怯えておかしくなったんか!」
「違う!俺は俺が勝つ方法を見つけたんだ!行くぞ!」
一歩がマナのカード四枚を使う。そこから現れた四つの光線は一歩の手札にある一枚のカードに吸い込まれていった。満足したような目でそれを見ながら、一歩は切り札をテーブルに置く。
その瞬間、雨は止み、雲が切れた。夕焼けの赤い光がその場に降り注ぐ。
《コッコ・ルピア》は空から降りて来た光を見て興奮したように鳴き、《バトラッシュ・ナックル》は空に向かって拳を突き上げて吠えた。
「お前達も判るよな。俺の切り札の出番だ!」
空から赤い隕石のような物が降ってくる。炎を纏って高速で飛んでくるそれは、一歩と蟹江が戦っている場に落ちて爆発を起こした。
「一歩君の切り札って、隕石?」
「いや、そうじゃない。ドラゴンだ!」
一歩が言うように、隕石だと思われていたものはドラゴンだった。着地したドラゴンは炎を振り払い、左腕につけた巨大な大砲の先を蟹江のシールドに向けた。
「俺の切り札《フレミングジェット・ドラゴン》!決めるぜ、俺の正義!」
赤い体色の龍《フレミングジェット・ドラゴン》の姿を見て、一歩はデッキの上のカード三枚を指の先でつまみ、頭上に放り投げた。
「《フレミングジェット・ドラゴン》が出た時、俺は山札の上のカード三枚をめくる。その中のドラゴンの数だけシールドを多くブレイク出来る!お前達はなんだ!」
三枚のカードはそれぞれ、敵を威圧するように吠えた。全て赤く、強いドラゴンだった。
「そうだ!みんなドラゴンだ!」
「何で三枚全部ドラゴンなんや!」
一歩は蟹江の問いに答えない。呼び出したばかりの龍を動かして行動を始める。
「《フレミングジェット・ドラゴン》は召喚した時、すぐに攻撃出来る!」
「すぐに動けて一度に四枚なんて汚いやないか!」
「これが《フレミングジェット・ドラゴン》の力だ!行っけー!」
めくれた三体のドラゴンに呼応して《フレミングジェット・ドラゴン》は吠えた。左腕の大砲が過熱によって赤く変色する。高いエンジン音と共に砲口から炎の弾丸が発射された。炎の弾丸は空中でドラゴンの姿に形を変えると蟹江のシールドに突っ込んだ。シールドに穴が空き、そこから煙が出る。
「まずは一枚!次!」
休む間もなく《フレミングジェット・ドラゴン》は二発目の弾丸を発射する。続けて三発目を撃った後、《フレミングジェット・ドラゴン》は地面を蹴って飛び、左腕を最後のシールドに叩きつけた。
「どうだ!」
「まだや!まだワシは負けてへん!」
蟹江がかすれそうな声で叫んだ。《フレミングジェット・ドラゴン》の最後の一撃によって砕かれたシールドの欠片は群青の輝きを発する。
「シールド・トリガー!《スパイラル・ゲート》や!これで邪魔な《バトラッシュ・ナックル》を手札に!」
攻撃のために力を溜めていた《バトラッシュ・ナックル》の足元の水たまりが突如、水流となってその体を飲みこんでいく。呻き、もがく《バトラッシュ・ナックル》だったが、体を包む水の勢いには勝てない。抵抗も空しく徐々に押し流されていく。
「ドラゴンも対した事ないな!」
「そうでもない!《フレミングジェット・ドラゴン》が道を切り開いてくれたお陰で俺は勝てる!」
「何やて!?」
蟹江が一歩の言葉に驚いた瞬間、水流を突き破ってオレンジ色の弾丸が飛び出した。よく見るとそれは弾丸ではない。蟹江が弾丸だと思ったのはクリーチャーだ。
「《コッコ・ルピア》でとどめだ!」
「しまった!そいつがいたんか!」
蟹江はその存在を忘れていた。巨大な二体のドラゴンに気を取られていた。故に、《コッコ・ルピア》を倒せるチャンスを逃した。
「ち、ちくしょぉぉぉっ!!」
蟹江が後悔の雄叫びをあげるのと、彼の腹に《コッコ・ルピア》の頭突きが決まるのはほぼ同時だった。蟹江の体は宙を舞った後、背中から地面に着地する。水と泥をはねた彼の体は動く気配を見せなかった。
「へへ……、どうだ!」
勝利した一歩は肩で息をしながら右手でVサインを作って蟹江に見せた。その瞬間、実体化していたクリーチャーの姿は消え、散らばっていた一歩のカードは一つにまとまり、ケースの中に戻っていく。赤いケースは空に向かって飛んでいった。
「またな。『サベージ』!」
一歩は自分に力を貸してくれたデッキケースに向けて手を振ると、仰向けになってその場に倒れた。
「一歩君!?大丈夫なの!?」
詠美が駆け寄ってしゃがみ、彼の様子を見る。勇作と力もそれに続いた。
「どうだ?」
勇作に聞かれた詠美は彼の顔を見上げた。詠美は一歩の頬に手を当てたまま
「あの……、寝てます」
と、困惑したような表情で言った。
「は、はは……」
それを聞いた勇作は力が抜けたように笑う。そして、力は眠っている一歩の手を取ると彼を背負った。
「いいか、新人。こうするのは今日だけだぞ。今度は俺も『デュエル・マスターズ』を使えるようになってスターズ相手に戦ってやる」
眠っていて聞こえていないはずの一歩に力は語りかけた。一歩も思うところがあったのか、右手の拳を振り上げる。が、力尽きてすぐに手を開いて下ろした。
「こうしていると優しいお兄ちゃんと小さい弟みたい!」
「こんな奴と兄弟はやめてくれよ」
力は詠美の言葉を聞いて苦笑しながら歩き出した。その様子を見ていた勇作は警察に時間解決の報告をするのも忘れて呟く。
「まったく……、面白い奴だ」

DUEL.2 『直江一歩は選ばれた』 終

次回
DUEL.3 『暴れ馬』
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