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DM企業戦士 時任俊之助 第八話

第八話 時任の想い

前回までのあらすじ
 時任俊之助(ときとうしゅんのすけ)二十四歳。職業会社員。彼はデュエル・マスターズというカードゲームの勝敗で契約を取るDM課の課長だ。
 徹夜でデッキを組んでいた彼の前に現れる相原文美(あいはらふみ)。さらに、文美に呼ばれて流通最大手、アカシック・ホールディングの金井社長が現れる。金井社長に見られているという極限の緊張状態の中、時任は新たなデッキを手にして文美とのデュエルを始めるのだった。

「『シャーマン・ブロッコリー』を召喚!俺のターンを終了する」
 金井社長が見ている前で、カードをプレイする時任と文美。時任の先攻でデュエルが始まったばかりだ。
「ふーん、火と自然のデッキですか。『ウインドアックス』があるなら、マナがかなり増えそうですね」
「何っ!」
 時任が驚いている内に、文美は『ギガザンダ』を召喚してターンを終了する。
「熊本(くまもと)、俺の手札にない『ウインドアックス』がどうしてバレたんだ?」
「先輩、最初に『ウインドアックス』をマナにしたじゃないッスか。しっかりして欲しいッス!」
 確かに、熊本の言うとおりだ。自分でマナに置いたのだ。驚く事ではない。
「俺はマナを置いて、『青銅の鎧』を召喚。マナを山札から一枚ふやして、『シャーマン・ブロッコリー』でシールドを攻撃!」
「あ、攻撃するシールドはこれですね。えーっと、これは……」
 裏返しになったシールドを手札にくわえる文美。その顔が弾けるような笑顔に変わる。
「やったー!シールド・トリガー、『地獄スクラッパー』!時任さんのクリーチャーは全滅ですよ!」
「嘘っ!」
「先輩、何やってるんスか!」
 熊本の叱咤に顔をしかめながらも、時任は気合を入れなおす。
「大丈夫だ。『シャーマン・ブロッコリー』は墓地に行く時、マナになるクリーチャー。『青銅の鎧』と『シャーマン・ブロッコリー』の効果で、俺のマナはすでに5マナだ」
 マナが増えたのは、時任の方が有利になったという証拠。だが、文美は余裕のある顔をしている。
「じゃ、私のターン。『ギガスラッグ』を召喚して、『ギガザンダ』で攻撃です!」
 時任のシールドが破壊される。だが、今度は時任の顔に笑みがこぼれた。
「よし、今度はこっちが巻き返してやる!山札からドロー。そして、マナをチャージ。『コッコ・ルピア』を召喚して、『紅神龍ガルドス』を2マナで召喚!こいつはスピード・アタッカーだ!」
「なるほど!先輩は『コッコ・ルピア』を出して、ドラゴンを出す時のコストを下げる作戦ッスね!マナブーストと組めば、効果的にドラゴンを出せるッス!」
「そういう事だ。『ガルドス』で『ギガザンダ』を墓地に……」
「いいんですか?攻撃で」
 余裕のある文美に言われて、一瞬悩む時任。だが、問題があるようには思えない。
「もちろんだ!『ギガザンダ』を攻撃して、墓地に」
「『ガルドス』の攻撃を『ギガスラッグ』でブロック。『ギガスラッグ』はスレイヤーですから、『ガルドス』も墓地に行きますね」
「げげっ!」
「先輩、新しいデッキはダメすぎじゃないッスか!」
「うん、そうかもしれない……」
 文美のペースに飲まれたまま、時任の戦略はどんどん崩されていった。主に、こんな調子である。
「『デモニック・プロテクター』をつけたギガザンダでシールドを攻撃。ブロックされなかったから、時任さんの山札から、『無双竜機ドルザーク』を墓地に送りますね」
「やめろー!俺の切り札がー!」
とか。
「シールド・トリガー、『ナチュラル・トラップ』だ!これ以上『ギガザンダ』に好き勝手はさせない!さらに、俺のターンで『無双竜機ドルザーク』を召喚!この切り札で勝ってみせる!」
「じゃ、私は『デーモン・ハンド』です。『ドルザーク』を墓地に」
「何故だー!」
とか、時任が押されたまま、対戦が進んでいった。すでに終盤にデュエルは突入している。
 時任の場には、シールドが二枚。クリーチャーは『コッコ・ルピア』のみ。文美の場には、シールドが三枚と、『ギガスラッグ』が一体いる。マナは時任の方が多いが、手札は一枚もない。文美は何枚か手札を持っていた。
「負けるわけにはいかない。俺はこのデッキを信じているんだ。行くぜ!」
 時任が引いたカードが場に出る。土壇場の時任が引いたそのカードは……。
「『バルキリー・ドラゴン』だ。この効果で、山札から『バザカジール・ドラゴン』を手札にくわえてターンを終了する!」
「ふーん」
 スピード・アタッカーのドラゴンを手札に加えたのに、文美は表情を変えない。余裕が崩れないのだ。
「私のターン、『ギガバルザ』を召喚です」
「うわーっ!」
 時任は泣きそうになりながら、最後の手札、『バザカジール・ドラゴン』を墓地に置く。
「はいっ、次は時任さんのターンですよ」
 非常につらい状況だ。今までもデュエルでピンチになった事はあったが、こんなプレッシャーに潰されそうなピンチは初めてだ。このままでは、負ける?
「先輩!何やってんスか!」
 熊本の吼えるような声で耳を揺らす。
「うるさいぞ、熊本!デュエル中は静かにしろよ!」
「先輩が不甲斐なくて見ていられないのがいけないんス!先輩は徹夜でそのデッキを作ったんじゃないんスか?そのデッキには、先輩の想いがこもっているんじゃないんスか?」
「俺の想い……」
 そうだった。このデッキは勝利するために、試行錯誤を繰り返した最高のデッキ。だから、どんなカードを引いても、後悔はしない!
「俺のターンだな。俺には、まだ『バルキリー・ドラゴン』と『コッコ・ルピア』がいる!」
 時任が山札からカードを引き、マナをタップする。
「9マナのクリーチャーを『コッコ・ルピア』の効果で7マナで召喚。進化!『超竜ヴァルキリアス』!!」
 時任は『バルキリー・ドラゴン』を『ヴァルキリアス』に進化させる。その効果でマナから時任が選んだドラゴン。それは……。
「この状況は、こいつの特殊能力に賭ける!『無双竜騎ドルザーク』だ!」
 マナゾーンからバトルゾーンに出現する『ドルザーク』。
「ほぅ、おもしろくなってきたようだな」
 それを見た金井社長がようやく口を開いた。
「え?おもしろくなっているんスか?自分は文美さんの方がまだ有利だと思うッス」
「よく見てごらん。文美の顔は確かに今までの同じだが、目つきが鋭くなっている。追い詰められた事に気がついたんだよ」
 熊本は文美の顔を見るが、その違いには全く気付かない。余裕を貫いているように見える。
「どうしたんですか、時任さん。この状況で、『ドルザーク』なんか出しても攻撃はできないですよ」
「『ドルザーク』は攻撃させるために呼んだんじゃない。『ヴァルキリアス』で、シールドを攻撃!そして、ドラゴンである『ヴァルキリアス』が攻撃した事で、パワー5000以下のクリーチャーを一体、マナに送る!俺がマナに送るクリーチャーは『ギガスラッグ』だ!」
 ブロッカーがマナに送られ、『ヴァルキリアス』の前にさらされる無防備な三枚のシールド。それが全て壊される。
「あとは、『コッコ・ルピア』で」
「シールド・トリガー、『デーモン・ハンド』!『コッコ・ルピア』を墓地に!」
 最後のシールドに入っていたシールド・トリガーで、『コッコ・ルピア』が破壊された。それによって時任はもう攻撃ができない。
「まだだ。俺のシールドは二枚ある。『ギガスラッグ』を出しても、また『ドルザーク』の効果でマナに送ってやる」
「じゃ、私のターンですね」
 さっきよりも、柔和な声で文美が聞いて、山札からカードを引く。それを見ていた金井社長は鼻を鳴らした。控えめな仕草だったので、それに気付いたのは近くにいた熊本だけだった。
「『ギガザンダ』を召喚。そして、『ギガザンダ』を『超機動魔獣ギガランデス』に進化です!」
「バカな……!」
 有利な状況に安心した時任の顔が真っ白になる。その表情には目もくれずに文美が攻撃をしかけた。
「『ギガランデス』でシールドを二枚ブレイク!シールド・トリガーはないですね?じゃ、『ギガバルザ』でとどめです」
 手札からこぼれ落ちるカード。今まで勝ち続けた時任は、ここで敗北したのだ。
「いい対戦だったよ、時任君」
 金井社長が満面の笑みをたたえて時任に近づく。
「いい対戦ですか?僕は負けてしまったんですが」
「文美をあれだけ追い詰める人間は久しぶりに見た。やはり、君ならアレをやってくれるだろう」
 金井社長の言う『アレ』とは何なのだろう?時任は文美を見るが、彼女も首を横に振っていた。
「もうすぐ、君の力を借りる事になるかもしれない。その時は、よろしく頼む」
 そう言い残して、金井社長は去っていった。
「でも、俺……負けちゃったしな」
「何言ってるんスか!先輩は強いッス!デッキを改良して、今度こそ文美さんに勝つッスよ!」
「熊本君、簡単に言うけど、私は負けるつもりなんてないから。時任さん、次はDM課の課長の座を賭けて対戦しませんか?」
「じょ、じょじょ、冗談じゃないよ!課長の座は賭けないからな!」
「冗談です。それじゃ」
 デッキを片付けると、手の横で手を振って文美は去っていった。熊本も時間なのか、文美の後を追って去っていく。
「負けた……か」
 だが、後悔はしていない。あと一歩で勝てる気がする。その少しの実力差を埋めるために、もっと努力をするしかない。

次回に続く(ドルザークばかりひどい目に合っていたな)

次回予告
金井社長が言っていたプロジェクト。その一つに首都圏のドーム球場に観客を集めて公開デュエルを行うというものがあった。公開デュエルの最初の試合に招待される時任。行け、時任!久しぶりに契約をゲットするための仕事デュエルだ!
第九話 新たなるステージ

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