スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

DM企業戦士 時任俊之助 第二十九話


第二十九話 二つの龍

前回までのあらすじ
 準決勝前夜、金井(かない)社長は時任(ときとう)、熊本(くまもと)、文美(ふみ)の三人を和食の小料理屋に連れて行った。そこにいたのは、鳥尾(とりお)兄弟の三男、鳥尾三郎だ。彼が時任の準決勝の相手だと告げる金井社長。一方、アルフレッドもまた準決勝の戦いをシミュレートしていた。それぞれの思いを胸に、夜は更けていく。

 準決勝は二試合同時に行われる事もあって、観客の期待も大きかった。会誌三十分前にはすでに満席になっていたのだ。
「こんな大舞台でたくさんの人の前でデュエルができるなんて、先輩がうらやましいッス。自分ももっと注目されたかったッスよ」
 客席で準決勝が始まるのを待っている熊本は口を尖らせて呟く。これだけの人が観ている中で勝てたら、うれしさも倍増するだろう。
「でも、うらやましいだけじゃないわ。プレッシャーも増えていく。時任さんに耐えられるかしら?」
 冷静にこの状況にメリットとデメリットを判断する文美。時任の相手は客商売をしている鳥尾三郎だ。これくらいの観客の視線など対したプレッシャーにはならないかもしれない。むしろ、適度な緊張を促して彼の実力を引き出させるだろう。
「桃太郎さんなんかはどう?プレッシャーには強い?」
「リーダーはこれしきの視線でまいるような男ではありません。それから、リーダーは桃太郎ではなく、百瀬光太郎です」
 むきになって反論するのは、文美と熊本の近くにいる雉宮だ。その隣には、犬飼もいる。
「雉宮、百瀬さんが入ってきたよ!」
 百瀬だけではない。準決勝を戦う四人の戦士が会場の中に入り、対戦テーブルの前に立った。デッキをシャッフルし、互いにデッキを交換。四十枚あるのを確かめてからシールドと手札を五枚ずつ準備。先攻、後攻が決まり準決勝が始まった。

「これだけの観客……。緊張しますね、時任さん」
「え?ああ、そうですね!」
 今まで観客の事など気にしていなかった時任だが、三郎の言葉を聞いてその存在を思い出す。
(うっわ~、そう言えば大勢の人が観てるんだっけ。これで負けたら俺ってすげぇかっこ悪いじゃん。鳥尾さんは全然緊張してないし。つらいなぁ…)
「行きますよ。『腐敗電脳メルニア』を召喚!」
「なら、俺は『フェアリー・ライフ』!マナを増やします」
 序盤からクリーチャーを召喚してきた三郎に対して、時任はマナを増やして足場を固めていく。
「では、私は『アクア・ハルカス』を召喚。一枚ドローします」
 三郎のデッキは『リキッド・ピープル』を主体とした手堅い構成のデッキだ。ドローのためのカードもあり、安定した戦いができるだろう。
「さらに、『メルニア』でシールドを攻撃!」
「くっ、シールド・トリガー。『ネオ・ブレイン』!二枚ドロー」
 だが、時任もドローのためのカードは入れてある。強敵との戦いが彼を戦士と呼ぶにふさわしい男へと変えていったのだ。
「まだ、デュエルは始まったばかり。俺はこれから爆発してみせる!」
 そして、彼はプレッシャーからも完全に解放されていた。テクニックだけでなく、精神面でも少しずつ成長していったのだ。

「HAHAHA!逃げずに来た事だけは褒めてやるYO!大勢の観客の前で叩きのめしてやる!」
「それは私のセリフだ。貴様などすでに眼中にない。時任と戦う舞台の前から、邪魔な障害物など消してやる!」
 百瀬は小型のブロッカーを並べるデッキだ。防御力は充分にある。
「そんな小型のブロッカー、俺にとってはないも同然だYO!『クローン・バイス』で手札を喰らってやるYO!」
「しまった!次のターンで使うつもりの『サイバー・ブレイン』が!」
 百瀬の貴重なドローカードが失われる。さらに、次からの『クローン・バイス』はその力を増していく。クローン呪文なので、当然二発目、三発目もアルフレッドのデッキの中に存在するだろう。
「私のターン、『ブレイン・チャージャー』で手札とマナを増やし、終了する」
 別のカードを使ってドローはできたが、それでも三枚引けない状態なのはつらい。そんな状態の百瀬を見て、アルフレッドはにやりと笑う。
「手札が引けなくてつらいか?ならば、山札も壊してやるYO!『転生プログラム』でモモタロの『サリエス』を墓地に送り、クリーチャーが出るまで山札のカードを上から墓地送り!」
 『ブレイン・チャージャー』と『バリアント・スパーク』が山札の上から墓地に行った後、『ミール』が場に出る。
「調子に乗ってくれるな、アルカディアス」
「OH!本当に俺をそう呼ぶとは驚きだ!あれは冗談なんだYO!」
「何だと!本気にしてしまったではないか!」
 羞恥に顔を赤らめる百瀬。だが、瞬時に思考を切り替え、目の前の手札に集中する。
「マナは充分。ならば、このクリーチャーの出番だな。『雷鳴の守護者ミスト・リエス』を召喚する!」
 百瀬が場に出したのは、ドローのためのガーディアンだ。相手に手札破壊があるのなら、手札を増やして対抗する。
「やってくれるな。『ミスト・リエス』は怖いから早く除去するのがグッド。というわけで『魂と記憶の盾(エターナル・ガード)』を使うYO!」
 『ミスト・リエス』がシールドに閉じ込められる。
「まさか、お前のデッキは……」
 豊富な除去呪文。そして、山札を削る『転生プログラム』。百瀬の予想は当たっているようだ。
「その通り。俺のデッキは呪文中心の除去デッキ。例え、切り札が出てもデッキごと破壊してやるYO!」
 アルフレッドは自分のデッキの解説をすると、自信たっぷりに歯を見せて笑うのだった。

「『フレイムバーン・ドラゴン』を召喚!鳥尾さんの『ブラッディ・イヤリング』を墓地へ!」
 時任と三郎の対戦は中盤に突入していた。互いにシールドは四枚。鳥尾の場には、『アクア・アナライザー』が一体いる。そして、時任の場には『チッタ・ペロル』と『フレイムバーン・ドラゴン』がいる。
「ブロッカーが除去されたのはつらいですが、準備は整いました。『アクア・アナライザー』を『クリスタル・ランサー』に進化!」
「これが、鳥尾さんの切り札かよっ!?」
 鳥尾の場に現れたのはパワー8000のW・ブレイカーだ。時任の今の手札では倒せない。
「『クリスタル・ランサー』で時任さんのシールドをW・ブレイク!」
「一枚目……駄目か。二枚目……『ナチュラル・トラップ』!『クリスタル・ランサー』をマナに!」
 除去はできたものの、相手のマナが二枚も増えてしまった。相手の手札が増えている今、これは危険だ。
「だったら、俺は切り札のドラゴンを増やして対抗だ!『無双竜機ドルザーク』召喚!」
 時任は自分のデッキに入っている切り札級のドラゴンを出す。彼のドラゴンデッキでは能力を使う事も多いだろう。
「『フレイムバーン・ドラゴン』でシールドを攻撃!」
 そして、三郎のシールドも減っていく。順調に行けば、勝てる試合だ。
 だが、それはあくまで順調に行った時の話だ。
「シールド・トリガー。『デーモン・ハンド』!『ドルザーク』を墓地へ送ります」
「そんな!せっかく出したのに……」
 能力を使う間もなく墓地へと送られる『ドルザーク』。ここで流れが変わったのか、三郎の目つきが変わる。
「こちらも切り札の出番ですね。『蒼神龍スペル・グレートブルー』召喚!」
 三郎が出してきた切り札もドラゴンだった。時任がまだ見た事がない水のドラゴンである。
「三郎さんも切り札を出してきたのか……。俺も対抗策を考えなければ……」

「『マリエル』に『ペトリアル・フレーム』をクロス!『ノーブル・エンフォーサー』もあるから、もうお前は攻撃できないYO!」
 シールドが二枚まで削られた時点で、切り札を出したアルフレッド。選ばれない『マリエル』以外には、『新星の精霊アルシア』が二体いる。百瀬のシールドは七枚。そして、クリーチャーは『蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ』と『日輪の守護者ソル・ガーラ』が一体ずつだ。しかし、山札がどんどん減っている。このままでは、アルフレッドの勝利が確定してしまう。
「攻撃できないのは、貴様とて同じ事だ」
「OH!だが、俺のデッキは攻撃せずに勝つデッキ。それにもし攻撃しなければならない状況になったとしても、俺には『ダイヤモンド・カッター』があるYO!」
「なるほど……。攻撃不可の条件を解除するという事か。おもしろい」
 百瀬は上着のボタンを一つずつ外していく。いきなり始まったおかしな行為にアルフレッドを始め、彼を見ていた者が全員唖然としていた。
 皆の視線が集まる中、百瀬は上着を脱いで投げ捨てた。そして、その上着が地面に落ちた瞬間、鈍い音がし、対戦テーブルに軽い振動が走った。
「な……何のつもりだYO!」
 アルフレッドの顔に動揺が走る。ジャッジの一人が百瀬の上着を拾おうとするが、持つ事ができない。重すぎて一人では持ち上がらないのだ。
「く、狂ってやがるYO!これが、ジャパニーズ・カミカゼかYO!」
「つーか、桃太郎!お前、そりゃいつの時代の少年漫画だ!」
 隣の対戦テーブルから時任がツッコミを入れるが、今の百瀬には届かない。
「本気で……行くぞ!」
 百瀬が山札からカードをドローする。
「ブラフだ!思い上着を脱いだだけだYO!パフォーマンスにはなるかもしれんが、俺はびびらない!そんな事じゃプレイミスもしないYO!」
「お前がプレイミスをする必要はない。私の戦略の前にひれ伏せ。『光神龍スペル・デル・フィン』を召喚する!」
 百瀬の切り札が場に君臨する。
「そのカードは、相手の手札を見て呪文を使えなくさせるクリーチャー!さらに、呪文の枚数だけパワーが上がる光のドラゴンかYO!」
 アルフレッドのデッキにとっては天敵と呼べる存在。それが、現れたのだ。今、『スペル・デル・フィン』のパワーは12000だ。
「私のターンはこれで終了する」
「だが、俺が有利な事に変わりはないYO!山札が切れるまでねばってやる!それに、『アクア・サーファー』もデッキに入っているYO!」
 ドローして、呪文を一枚マナにチャージするアルフレッド。そこで、百瀬にターンが変わる。
「ブロッカーを出さなくていいのだな?私はこのターンで決着をつけるつもりだ」
 百瀬の手札からもう一枚、光の龍が現れる。
「『光神龍ダイヤモンド・グロリアス』。これで、私のクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃可能になった」
 アルフレッドの表情が凍りつく。二枚のシールドだけで、百瀬のクリーチャーによる攻撃を受けきれる自信などない。
「まず、『スペル・デル・フィン』でW・ブレイク!」
「Shit!シールド・トリガー、出やがれ!」
 一枚目は『転生プログラム』。そして二枚目は『デーモン・ハンド』だった。どちらも、シールド・トリガーだが、百瀬の場にスペル・デル・フィンがいるため使う事ができない。
「日本経済を乗っ取るなら、山札破壊など狙わず正面からぶつかる戦略で来るのだな。『蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ』でアルフレッド・カーター・ディアスに直接攻撃!」
 アルフレッドの手から呪文カードが零れ落ちる。
「そんな……!『アクア・サーファー』はどこだYO!」
 山札をめくると、一枚目にそれは入っていた。互いにぎりぎりの勝負だったのかもしれない。

「百瀬にツッコミを入れてる場合じゃないな……」
 『スペル・グレートブルー』を睨む時任。どんな戦略が三郎の中にあるのか判らないが、手札は充分にある。
「『バルキリー・ドラゴン』を召喚して、山札の『ドルザーク』を手札に!俺のターンは終わりです」
「では、私のターン。『アクア・アナライザー』で山札を操作して、『スペル・グレートブルー』で『チッタ・ペロル』を攻撃!」
「げっ……!『アクア・アナライザー』を出したって事はもしかして……」
 山札を操作すれば、呪文が山札の上に持ってくる事が可能だ。時任の予想は悪夢となって襲い掛かる。
「『ロスト・ソウル』を発動。手札を全て捨てていただきます」
「ぎゃー!やっぱり!」
 時任の手札にあった三枚のカードが消える。そして、場の『チッタ・ペロル』も倒され、危険な状態だ。
「『スペル・グレートブルー』を倒したとしても、何かまだ秘策があるかもしれない。それに、シールドは三枚。特攻したとしても攻撃は届かない」
 時任は山札を見る。カードを引く時の緊張が心臓から、指先へと伝わる。
「来いっ!俺の最高の切り札!」
 手札に来たのは、時任が待ち焦がれた最高の一枚だ。
「『フレイムバーン・ドラゴン』を『超竜バジュラズテラ』に進化!」
 時任の超竜が場に光臨した時、大量にあった三郎のマナが全て消え去る。そして、時任のドラゴン以外のマナも消えてしまった。
「マナさえ削れば何とかなる!『バジュラズテラ』で『スペル・グレートブルー』を攻撃!」
「まだですよ。まだ私には『アクア・アナライザー』が!」
 三郎が操作した山札を引く。だが、マナが一枚もない状態では何も出来ない。
「俺のターン。『バジュラズテラでシールド』をT・ブレイク!そして、『バルキリー・ドラゴン』で三郎さんに直接攻撃だ!」
 時任の攻撃が届いた瞬間、場を歓声が埋め尽くした。同時に百瀬のテーブルでも雌雄が決したらしい。
「私の負けですか……。力及ばず、ですね」
「そんな事ないですよ。『スペル・グレートブルー』で『ロスト・ソウル』を出すの、無茶苦茶強かったです!」
「ありがとうございます、時任さん」
 時任と三郎は互いに手を握り合う。そして、その直後時任は百瀬に近づいた。
「決勝は俺とお前の戦いか。前に負けた時の借りは今度こそ返してやるぜ」
「ふん。互いに一勝一敗。次のデュエルでどちらが上なのか決まると言ってもいいな」
 二人の間で火花が散る。
「決勝は来週って、金井社長が言ってたけど、それまで待ってられないぜ!今すぐ、勝負だ!」
「おもしろい!叩き潰してくれる!」
 時任と百瀬は互いにデッキを突きつける。突如始まろうとしている決勝戦にスタッフは困惑し、観客は興奮していた。
「盛り上がっているところ、申し訳ないが決勝は来週まで待ってもらうよ」
 そんな二人の間に金井社長が入る。
「まだ準備が必要だからね。それに君達だってもっとデッキを強くしたいだろう」
 金井社長の言葉で二人は冷静になる。そして、百瀬は時任に背を向けて歩き始めた。
「時任、決勝ではお前の最高のデッキでかかってこい。私もお前とのデュエルに恥じぬよう最高のデッキで戦う」
 最高のデッキ。その言葉が時任の心を熱くさせた。
「判った!俺にできる最高のデッキで、互いに死力を尽くした最高のデュエルをしよう!」
 最後に残ったのは、時任俊之助と百瀬光太郎。彼らの激闘を見守った人々の興奮は最高潮に達しようとしていた。

次回に続く(うーん、二つの龍じゃなくて三つの龍のような気も…)

次回予告
 こんにちは、鳥尾三郎です。準決勝以降、時任さんが私の店の常連になってくれて何よりです。次回は決勝の準備。時任さんが最高のデッキを作り上げます。ライバルの百瀬さんの動向も見逃せませんね。次回『第三十話 到達点』

スポンサーサイト

コメント

非公開コメント

Twitter

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

検索フォーム

QRコード

QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。