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DM企業戦士 時任俊之助 第三十一話


第三十一話 最後に立つ者

前回までのあらすじ
 DM起業戦士最強を決める大会の決勝戦が迫っていた。デッキレシピ提出前日の金曜日。酒を飲ませようとする文美(ふみ)から逃げ出した時任(ときとう)は、偶然、百瀬(ももせ)と出会い、彼と食事を共にする。そこで再会した二人の共通の友人、片桐(かたぎり)はるか。彼女が語る夢。その言葉が二人の闘志を熱く燃やしたのだった。

 会場全体を包む熱気。集まった人々の期待。そして、中継を通じて見ている全国の人々。色々な思いがこれから始まる数分間の戦いにこめられている。
 文美は思った。やはり、時任はこの舞台に立つのに等しい人物だと。そして、百瀬もその資格がある。
「文美さん、よかったッスね。こんな近くで先輩のデュエルを見られるなんて」
 文美と熊本は時任が立つテーブルの近くに座っている。時任のプレイを間近で見られるのは、最高の待遇といっていいだろう。
 それよりも、文美には気になる事がある。時任と百瀬のテーブルの間は、十メートルほど離れているのだ。金井社長には何かの考えがあるのだろうが、親戚の文美にもこの空白の理由は教えてくれなかった。
「雉宮、百瀬さん日本一になっちゃうよ!すごい事だよね!」
「犬飼、落ち着きなさい。君の姿が全国に中継されるかもしれませんよ」
 雉宮と犬飼のコンビも、百瀬の近くの席でデュエルを観戦するようだ。百瀬についてきた彼らだからこそ許される。そして……。
「俊ちゃんと光ちゃんの勝った方が日本一になるんですね?どっちもがんばってほしいな~」
 文美が始めて会ったこの女性。時任と百瀬の知り合いで、名を片桐はるかというらしい。特別にこの席に招かれたのだ。時任側につくのでも、百瀬側につくのでもない。中間地点で二人のデュエルを見ている。
 照明が消えて観客達がざわめく。
「いよいよ始まるのね……」
 暗闇を切り裂く二条の光。スポットライトに照らされて時任と百瀬が会場に入る。二人は、テーブルの前に立つとデッキをテーブルの上に置いた。
「百瀬、最高のデュエルにしよう。勝っても負けても恨みっこなしだ!」
「お前に勝つ私が何を恨む必要がある。お前こそ、全力でかかってこい!」
 デッキをシャッフル。今回は相手のテーブルが遠くてデッキを渡せないので、ジャッジ二人がデッキをシャッフルし、シールドと手札を取った。そして、先攻と後攻が決まり、デュエルが始まる。
「俺から行くぜ!『チッタ・ペロル』を召喚!」
 すると、二人のテーブルの間でどこからともなく炎の塊が現れ、それがクリーチャーの形へと変貌する。小鳥くらいのサイズの『チッタ・ペロル』が現れたのだ。
「すごい!こんな仕掛けがあったなんて!」
 時任は突如出現したクリーチャーに驚いた。観客席からも驚きの声が聞こえる。
「なるほど。昨日の内にデッキリストを提出させたのはこのためか。事前に時任と私のデッキを確認し、クリーチャーのCGを作っておく。そして、会場を暗くし、特殊な効果で空中にクリーチャーの映像を出現させる。エンターテイメントだな」
 百瀬もマナをタップして、クリーチャーを召喚する。彼が呼び出した『秘護精ラビリオン』も映像となって現れ、その辺りをうさぎのように飛びまわっている。
「おもしろい!おもしろすぎるぜ!『青銅の鎧』を召喚して、マナを増やす!」
 映像となって現れた『青銅の鎧』は右手を天にかざす。すると、緑色の雨が映像となって観客席に降り注いだ。
「『霊騎マリクス』を召喚して、私のターンは終了だ」
「なら、一気に行くぜ!『紅神龍ガルドス』を召喚!『ガルドス』で『秘護精ラビリオン』を攻撃!」
 『ラビリオン』に突撃する『ガルドス』。それによって『ラビリオン』は壁まで突き飛ばされ、バラバラになってしまう。
「そして、『青銅の鎧』でシールドをブレイクだ!」
 水色の長方形となって映像化されているシールドを『青銅の鎧』が割る。すると、そこから金色のまばゆい光があふれ出した。
「何っ!まさか……!?」
「その通りだ、時任。シールド・トリガー、『霊騎ミューズ・リブール』!パワー3000以下のクリーチャーを全てタップ!」
 空を飛びまわっていた『チッタ・ペロル』の動きが突如止まり、落下していく。
「私のターンだな。『アクアン』を召喚し、手札を補充するぞ!」
 百瀬は五枚の手札を補充し、反撃の準備を固める。
「さらに、『ミューズ・リブール』、『マリクス』で『チッタ・ペロル』と『青銅の鎧』を攻撃!」
 時任のクリーチャーが全滅する。だが、まだ戦いは始まったばかりだ。
「やってくれるな、百瀬!俺は『フェアリー・ライフ』を使う!そして、『サイバー・ブレイン』で手札補充!」
 時任はマナと手札を増やして長期戦の準備をした。百瀬にもそれが判る。
「踏み込むのは危険なようだな。ならば、『ミスト・リエス』を召喚。私のターンは終了だ」
 互いに、相手の手の内をにらみ合う。相手よりも少しでも有利に攻めるために……。そして、にらみ合いが終わった時、最高の激突が始まるだろう。

「おもしろいですね。俊ちゃんと光ちゃんの対決」
 いつの間にか文美の隣に片桐が来ていた。にこにこと笑顔で二人のデュエルを見ている。
「判りますか?」
「実は、どうすれば勝ちなのかよく判らないんですけど、色々な動物がでてきて楽しいですね。次に何が出てくるのかってわくわくしちゃう」
 デュエル・マスターズを知らない片桐までも魅了し始める。この二人の戦いには、他の者では代わりになれない何かがあるのだ。
「二人ともすっごく楽しそう。小学生の時と同じ顔をしてる」
 文美は時任と百瀬の表情を見た。今まで二人が戦っている時と変わらないような気がする。だが、言われてみれば彼らの表情は何かに夢中になる子供と何も変わらない。
「そっか……。何か、判った気がする」
 夢中になる事。それは生きていく原動力。彼らのデュエルはそれを教えてくれるのだ。二人がデュエルに夢中になり、そして多くの人がそれを観るのに夢中になる。ここに、一つの大きな繋がりが生まれている。

「『緑神龍グレガリゴン』で、百瀬の『ファルマハート』を攻撃!」
「『秘護精ラビリオン』でブロックだ!」
 中盤に差し掛かった二人のデュエル。百瀬のシールドはあれから傷をつけられていない。四枚残ったままだ。クリーチャーは『聖帝ファルマハート』、『霊騎サイヤ』、『聖霊提督セフィア・パルテノン』の三体である。
 時任のシールドは無傷の五枚。クリーチャーは『緑神龍グレガリゴン』が一体。それとは別に『アクテリオン・フォース』がジェネレートされた状態で置いてある。
「ならば、そろそろ本気を出そうか……」
 百瀬が上着を脱いで床に投げ捨てる。前回と同じように、鈍い音がした。だが、それだけではない。上着を脱いだ百瀬の体には、バネなどを仕込んだ拘束具のような物に覆われていたのだ。
「あれは、最強デュエリスト要請ギプス!百瀬さんはあれをつけてデュエルをしていたのか!」
 タイミングよく説明的なセリフを入れる犬飼。百瀬は最強デュエリスト要請ギプスを外し、肩をほぐす。
「つーか、お前何年前の少年マンガだ!ノスタルジーを感じるぞ!」
「時任、本気の私を相手にできる事に後悔と喜びの入り混じった感情を抱くがいい」
 時任は、百瀬の目にぞっとした。アルフレッドを倒した時よりも、さらに鋭い視線。それは常に時任に向けられていたのだ。
「まず、『ウエーブ・ランス』を使う!」
 津波が現れ、『グレガリゴン』を覆う。波が流れ去った後の場に、『グレガリゴン』は残っていなかった。
「『ウエーブ・ランス』はクリーチャーを戻し、それがドラゴンだった時に一枚引けるカード。そして、私はそれによって引いたこの切り札を使う!」
 百瀬が切り札を天にかざすと、場にいた三体のアーク・セラフィムが光の粒子となって混ざり合い、形を変えていく。そこから生まれたのは光のフェニックス、『超新星ヴィーナス・ラ・セイントマザー』だった。
「こんなでかいクリーチャーがあったなんて!」
 時任が息をつく暇もなく、三枚のシールドが割られる。その一枚が緑色の輝きを発した。
「そうか!俺にはこのシールド・トリガーがある!シールド・トリガー、『ナチュラル・トラップ』!よかったな、百瀬。これでマナは一気に増えるぜ。切り札はいなくなるけどな!」
「甘い!甘いぞ、時任!『ヴィーナス・ラ・セイントマザー』のメテオバーンを使う!」
 『セイントマザー』に絡まろうとする緑色のツタが、見えない壁によって弾かれる。
「そんな……!『ナチュラル・トラップ』が効かない!?」
「先輩!『ヴィーナス・ラ・セイントマザー』はバトルゾーンを離れる時にメテオバーンを使う事で、場にとどまる事ができるッス!」
「げげっ!しかも、パワーが12500でT・ブレイカー。しかも、『ファルマハート』を進化元にしてたから、まだ三回もメテオバーンが残ってやがる!」
 時任のターンになった。だが、あれだけのクリーチャーを倒す術はない。
「いや……待てよ。俺のデッキなら、できる!俺のドラゴンなら、『セイントマザー』を倒せる!」
 『グレガリゴン』をマナに置いた時任。そして、裏向きにした二枚の手札を見せて百瀬に宣言する。
「俺はこの二枚を使って、お前の『セイントマザー』を倒す!」
「おもしろい……。やってみろ、時任!」
 時任はマナをタップする。燃え盛る炎の中から、彼の切り札が登場した。
「これが俺の切り札、『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』だ!」
 時任の『ボルベルグ』は『アクテリオン・フォース』をクロスする。
「そうか!これで、先輩の『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』は攻撃した時にパワーが9000上がってパワー16000!しかも、スピードアタッカーだから、このターンに攻撃ができるッス!」
 形勢逆転と思われたが、それを見て百瀬は笑い出す。
「笑わせるな、時任!『セイントマザー』はメテオバーンがある。このターンの攻撃をしのいで次のターンに『セイントマザー』で『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』を攻撃すれば、貴様の負けだ!」
 百瀬の言葉に、ふっと笑みをもらす時任。その余裕に百瀬は鳥肌が立つ。
「まさか、貴様……!」
「ああ、もう気付いただろう?1マナで起こせる奇跡って奴に!『無限掌』、発動!『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』を強化するぜ!」
 『無限掌』によって時任の『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』はバトルに勝つとアンタップできるようになった。
「俺の『ボルベルグ』は、『セイントマザー』のメテオバーンが切れるまで攻撃できる!『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』!百瀬の『セイントマザー』を攻撃だ!」
 『アクテリオン・フォース』で武装した『ボルベルグ』が放つ怒涛の連続攻撃。メテオバーンを使ってもアンタップされるので意味がない。『ボルベルグ』の背中にある二つのキャノン砲が、『セイントマザー』の体を貫いた。
 爆(は)ぜる『セイントマザー』の肉体。そして、轟く爆音。
「さらに、『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』でT・ブレイク!ターン終了だ」
 切り札を失い、シールドも残り一枚。だが、何故か百瀬は喜びを感じずにはいられなかった。
「それでこそ、時任だ。さあ、もっと私を楽しませろ!」
 百瀬は再びカードを動かし、デュエルを続ける。

「遊ぶとかカードゲームとかは生きるのに無駄な物だと、言う人もいるだろうね」
 会場の上側にある特別席で、金井社長と一ノ瀬少年は二人のデュエルを見ていた。そこで社長はぽつりと言葉を漏らす。
「デュエルも無駄ですか?」
「そう思う人もいるだろう。だが、無駄でもいいじゃないか。僕達は多くの無駄を生み出して生きている。そうしないと生きていけない」
 金井社長の目は優しい色をしている。その目は、時任と百瀬の二人が夢中になってデュエルをしている姿を見ている。
「生きるのに役に立つものが存在するのは普通だ。でも、生きるのに無駄なのに存在し、愛されるものがある。素晴らしい事じゃないか。役に立つものよりも素晴らしい。そして、それらは役に立つものでは与えてくれない喜びを僕らにくれる」
「喜び……?」
 満たされていると感じる一ノ瀬少年にはよく判らない。だが、きっと成長してくに連れて、少しはこの言葉が判っていくのだろう。
「映画でもなんでもいい。僕達には無駄なもの、役に立たないものが必要なんだ。それが、動物とは違う、人間として生きるという事でもあるんだ」

 デュエルはすでに終盤。互いにシールドは一枚もない。百瀬のバトルゾーンにはタップされた『ファルマハート』が一枚。そして、時任の場には『アクテリオン・フォース』をクロスした『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』が一枚ある。
「俺のターンだな、百瀬」
 百瀬には勝機があった。時任のデッキには、『ボルベルグ』以外に召喚したターンでプレイヤーを攻撃できるクリーチャーはいない。そして、『ファルマハート』はメテオバーンでブロッカーになれる。時任の攻撃を防げば、手札にあるクリーチャーで勝つ事ができる。
「俺はもう『ファルマハート』には負けない。『無限掌』で『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』を強化!」
「何だと!」
 過去にこの戦法で時任に勝利した百瀬。だが、時任は過去の経験を活かして成長していた。
「『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』で百瀬を攻撃!」
「『ファルマハート』のメテオバーンでブロックだ!」
 『ファルマハート』を犠牲にして攻撃を防ぐも、『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』は再び攻撃の準備に入る。
「百瀬、ありがとよ。最高のデュエルだったぜ!『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』、百瀬を攻撃だ!!」
 二条の光線が百瀬を貫く。ライバル同士の戦いは時任が制したのだ。
「俺……勝ったのか?」
 時任は周囲を見る。そして、一人で震えている。
「先輩!」
「時任さん!」
 客席を飛び出して、熊本と文美が時任に駆け寄った。
「うおーっ!俺、スゲーっ!」
 そして、時任はようやく自分が優勝した事を確信し、その場で飛び上がる。ついに、日本最強のDM企業戦士が誕生したのだ。
「ありがとう、『ボルベルグ』。あと、『無限掌』……そして、みんな」
 自分のデッキを愛しそうに抱きしめる時任。そこへ、百瀬と犬飼、雉宮が歩み寄る。
無言で手を差し伸べる百瀬。
「ありがとう、百瀬。ここまですごいデュエルができたのは、お前のお陰だ」
「ふん……。次の大会がいつ開催されるか判らんが、優勝はお前に預けておく。次の決勝戦、勝つのは私だ。覚えておけ」
 上着を羽織り、百瀬は時任に背を向けて会場を去っていく。
「百瀬ーっ!表彰式はいいのかよ?お前二位なんだぞ!」
「二位などいらん。私が欲しいのは、最高の時任に勝利したという満足感だけだ」
 百瀬は去っていった。それに遅れて犬飼と雉宮もついていく。
「俊ちゃん、おめでとう」
 そこへ、片桐もやってきた。興奮したのか、頬が赤く染まっている。
「ありがとう、片桐も見に来てくれたんだな」
「うん、俊ちゃんもこれで夢が叶ってよかったね!」
「夢……?」
 時任は、片桐が何気なく発したその言葉に違和感を覚えた。時任の夢は優勝する事だったのだろうか。いや、違うと言い切れる。
「まだ、俺は夢には到達していない。もっと、もっと先の方に俺の夢はあるんだ!」
 今なら見える。時任が追いかけたい本当の夢。それに気付いたこの瞬間、時任の新しい戦いが始まろうとしていた。

次回に続く(ついに大会編完結!)

次回予告
 熊本ッス!ついに大会も完結ッスね!先輩が優勝してくれたお陰で、会社も融資を受けられて大きな計画に乗り出しているみたいッス!そんな中、先輩は……えっ!退職!?先輩、何で会社をやめちゃうんスか!次回『第三十二話 時任、飛び立つ』

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