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『デュエルのくに』 最終話

最終話 終わりの部屋 ~Good night~

「親切すぎる問題だな。俺は、『ガザリアス・ドラゴン』を召喚する!これで、3マナ使用。残りは6マナだ」
 勉が召喚したアーマード・ドラゴンは、あまり見かけないクリーチャーだった。幸一も予想外の展開に言葉を失う。
「驚くな、幸一。こいつは条件さえ揃えば、パワー8000でダブルブレイカーになるドラゴンだ」
「それは判ってるよ、でも……」
 その条件は『自分のシールドが一枚もない』事だ。6マナで自分のシールドを二枚も消して、相手の『光器スヴェータ』を破壊し、ダブルブレイカーのドラゴンをさらにもう一体呼ぶ事などできるのだろうか。
「6マナあれば、充分だ。もう一体のドラゴン『デュアルショック・ドラゴン』を召喚!」
 4マナを使い、さらにダブルブレイカーのアーマード・ドラゴンを召喚する勉。そして、その効果でシールドが一枚墓地に行く。
「足かせの存在に気付いたら外すだけだ。つける事ができたなら、外す事だって可能。俺はこの呪文で自分の足かせを外す」
 勉は持っていた最後の一枚を場に出す。その呪文は『ボルカニック・アロー』だ。
「これで、俺のシールドはゼロ!そして、『光器スヴェータ』を破壊!『スカイ・ジェット』の効果でスピードアタッカーになった俺のドラゴンでシールドを四枚ブレイク!」
 慈雨が宣言したとおり、シールド・トリガーは入っていない。
「そして、コッコ・ルピアで直接攻撃だ!」
 勉が直接攻撃を宣言した時、扉の開く音が火文明の部屋に響き渡る。五つの文明の部屋にある問題を全てクリアしたのに、まだ問題があるのか。
 その疑問は直後、スピーカーから流れた慈雨の声によって消された。
『見事ね。岸宮勉、最後の部屋に進みなさい』
 勉が扉に向かって進もうとして、立ち止まる。幸一はどうなるのか?
『私が指定したのは岸宮勉だけよ。それ以外の人間は認めない』
「待てよ、お前が招待したのは、幸一だろ?なのに……」
「いいんだ、勉」
 背中から、幸一の穏やかな声が聞こえる。いつもと同じように、彼は決まって穏やかな声を出すのだ。
「行っておいで。問題は全部勉が解いた。だから、勉が行くんだ」
 そして穏やかな中に、勉に行動を強制するような厳しさがあった。
「今日の事が勉にとってプラスになる日が来るかもしれない。そんな歴史的な瞬間に、一緒にいられただけで僕は満足だよ」
「……ありがとう」
 勉は進む。自分が見上げた場所にいる天才が指定した場所に。

 暗い廊下を抜けて、勉が最後に辿り着いたのは、殺風景な部屋だった。窓はなく、照明も点いていない。ドアを閉めると、暗黒が全てを支配する部屋。その中心に、黒髪の少女が立っている。それが天才、宇島慈雨だ。
「おめでとう。ここまで辿り着けたのは、あなただけよ」
 いたずらっぽく慈雨が笑う。天才が浮かべた笑みはそれだけで芸術であり、少女の表情にしては妖艶でさえあった。
「俺だけ……?条件に合うのが他にいなかったって事だな?」
「その通り。私の気まぐれに合う塩沢という最高の舞台。そして、条件に合う最高の役者達。エチュードとしてはなかなかの出来ね」
「塩沢は明治の終わりになってから出来た村だ。歴史的に見て非常に若い」
 勉は誰に言うでもなく解説を始める。カードゲームの単純なパズルではない、天才が仕掛けたもう一つの仕掛けに対する解答だ。
「塩沢とその住民には、一つの秘密があった。シンメトリーの名前にこだわるという秘密が」
 シンメトリー。それは対称の事だ。我々が目にする多くの物は左右が対称になっている物が多い。
「塩沢という地名は使われるローマ字が点対称になっている。ここで使われるのはS、H、I、O、Z、A、W、Aだ。これらの全てがある点を中心に対称となっている」
 そこまで聞いた慈雨はふぅん、と相槌を打った。
「招待された幸一だが、名前に使われた漢字がほぼ線対称だ。実際、とめやはねが入るから厳密に言うと線対称にならないとも言えるが、そこに目をつぶれば金谷幸一の名に使われている文字は全て線対称と言える。そして、使われているローマ字も全て点対称になっている。
俺の名も使われているローマ字も点対称となる。まあ、イニシャルのKは正直、微妙だがな」
 勉は犬に自己紹介した時に、彼が何度かその名前を呟いていた事を思い出す。あれはきっと、使われている文字が点対称になるかどうかを頭の中で確認していたのだろう。
「最後に宇島慈雨。名前に使われた漢字にもローマ字にも対称になるものはない」
「それじゃ、あなたの説はここでストップね。おもしろいこじつけだけど、これで終わり。それとも、私の名前は例外とでも言うの?」
「いや、例外じゃない。多分、今までの中でもっともスペシャルなパターンがあてはまる。それは、回文だ」
 回文とは、初めと終わり、どちらから読んでも同じになる文章の事だ。
「発音にして『うじまじう』となるから、どちらから読んでも同じ発音になる。これは文字が対称になるのとは別の意味でのシンメトリーだ」
「あなたの言うとおりね」
 慈雨が手を叩く。勉は自分に宛てられた拍手なのかと思ったが、一度でそれは終わってしまう。
 手を叩くのと同時に、真っ暗だった周囲が急に明るくなり、黄金色に輝く宮殿がいくつも現れた。そこには同じように金色の雪が舞っている。勉と慈雨の二人は宙に浮いていた。そして、少しずつ移動している。
「これが、本物の『デュエルのくに』よ。行きたい文明の世界にすぐ行く事ができる。アトラクションとしては最高のバーチャルリアリティだと思わない?」
 慈雨は再び、手を叩く。周囲はすぐに青く変わる。全身半透明で流線型の不思議な生物がいくつも泳ぎ、遠くにある水面からは太陽の光が差し込む。ここは水文明の世界なのだ。
「あなたが言った事は正解。私の情報を追っている人物で、今作ったアトラクションに招待できる資格を持っているのは……つまり、名前にシンメトリーを含んでいるのはあなただけだった」
 そして、暗い闇と紫色のガスが周囲を包む。死と暴力が支配する闇文明の世界だ。
「だけど、招待状を渡されたのは俺じゃなく幸一だ。何故、俺に招待状を出さなかった?」
 勉も手を叩いてみる。空から照りつける太陽、澄んだ空気、深緑の空間。自然文明の世界である。
「あなたに招待状を出しても、来なかったでしょう?だけど、友達に勧められて付き添いとしてなら来てもいいと思った。違う?」
「正解だよ」
 幸一がいたから、『デュエルのくに』に来る気になった。勉だったら、招待状が来ていても、見ないでゴミ箱に捨てていたかもしれない。
 いつの間にか周りは暑さを感じる灼熱の世界に変わっていた。火文明の世界になった途端、気温まで変わっていく。バーチャルとは言っても、そこには全身で感じられるリアリティがあった。
「付き添いでも来ないのなら、それでよかった。あなた以外の別の人を呼ぶだけだったから。塩沢の住民がシンメトリーを好むと言っても、絶対に妥協しないというわけじゃないし……」
 慈雨は勉に背を向ける。そして、話を続けた。
「あなたは私という巨大な壁を見て、恐れなさい。巨大な壁に突き進んでいったらどうなるか、考えなさい。力なき者は、体を打ち付けて滅ぶでしょう」
 火文明の世界からさらに風景は変わる。完全な黒い闇の中に、様々な色で輝く星があった。銀河の中に、宇宙の中にたった二人だけが立っていた。
「俺は力なき人間じゃない。訂正しろ!」
 勉は慈雨につかみかかろうとする。だが、その両腕は慈雨の体を擦り抜けてしまった。
「本物じゃない……。これも映像か……」
 そう呟いた瞬間、全てが消える。煌めく星も。目の前にいる天才少女も。そして、いきなり照明が点いて勉がいた部屋を明るく照らした。
 いきなり照明が点いたので、目が慣れるのに少し時間がかかった。そして、勉は地面に一枚のカードが落ちている事に気がつく。
「これは……『悪魔聖霊バルホルス』か」
 それは慈雨が勉に出した最後の問題。何度も立ち向かう事を強制し、何度でもそれを阻むという彼女のメッセージ。
「上等だ。何度でも俺の前に立つのなら、何度でも乗り越えてやるよ」
 自分は一人ではない。夢を受け止めてくれた友達がいる。夢を応援してくれる彼がいれば、何度でも立ち上がる。一人じゃないなら、諦めない。
 勉は、カードを持って部屋を出た。元いた場所に帰るために。

  THE END

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