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DM企業戦士 時任俊之助 第三十一話


第三十一話 最後に立つ者

前回までのあらすじ
 DM起業戦士最強を決める大会の決勝戦が迫っていた。デッキレシピ提出前日の金曜日。酒を飲ませようとする文美(ふみ)から逃げ出した時任(ときとう)は、偶然、百瀬(ももせ)と出会い、彼と食事を共にする。そこで再会した二人の共通の友人、片桐(かたぎり)はるか。彼女が語る夢。その言葉が二人の闘志を熱く燃やしたのだった。

 会場全体を包む熱気。集まった人々の期待。そして、中継を通じて見ている全国の人々。色々な思いがこれから始まる数分間の戦いにこめられている。
 文美は思った。やはり、時任はこの舞台に立つのに等しい人物だと。そして、百瀬もその資格がある。
「文美さん、よかったッスね。こんな近くで先輩のデュエルを見られるなんて」
 文美と熊本は時任が立つテーブルの近くに座っている。時任のプレイを間近で見られるのは、最高の待遇といっていいだろう。
 それよりも、文美には気になる事がある。時任と百瀬のテーブルの間は、十メートルほど離れているのだ。金井社長には何かの考えがあるのだろうが、親戚の文美にもこの空白の理由は教えてくれなかった。
「雉宮、百瀬さん日本一になっちゃうよ!すごい事だよね!」
「犬飼、落ち着きなさい。君の姿が全国に中継されるかもしれませんよ」
 雉宮と犬飼のコンビも、百瀬の近くの席でデュエルを観戦するようだ。百瀬についてきた彼らだからこそ許される。そして……。
「俊ちゃんと光ちゃんの勝った方が日本一になるんですね?どっちもがんばってほしいな~」
 文美が始めて会ったこの女性。時任と百瀬の知り合いで、名を片桐はるかというらしい。特別にこの席に招かれたのだ。時任側につくのでも、百瀬側につくのでもない。中間地点で二人のデュエルを見ている。
 照明が消えて観客達がざわめく。
「いよいよ始まるのね……」
 暗闇を切り裂く二条の光。スポットライトに照らされて時任と百瀬が会場に入る。二人は、テーブルの前に立つとデッキをテーブルの上に置いた。
「百瀬、最高のデュエルにしよう。勝っても負けても恨みっこなしだ!」
「お前に勝つ私が何を恨む必要がある。お前こそ、全力でかかってこい!」
 デッキをシャッフル。今回は相手のテーブルが遠くてデッキを渡せないので、ジャッジ二人がデッキをシャッフルし、シールドと手札を取った。そして、先攻と後攻が決まり、デュエルが始まる。
「俺から行くぜ!『チッタ・ペロル』を召喚!」
 すると、二人のテーブルの間でどこからともなく炎の塊が現れ、それがクリーチャーの形へと変貌する。小鳥くらいのサイズの『チッタ・ペロル』が現れたのだ。
「すごい!こんな仕掛けがあったなんて!」
 時任は突如出現したクリーチャーに驚いた。観客席からも驚きの声が聞こえる。
「なるほど。昨日の内にデッキリストを提出させたのはこのためか。事前に時任と私のデッキを確認し、クリーチャーのCGを作っておく。そして、会場を暗くし、特殊な効果で空中にクリーチャーの映像を出現させる。エンターテイメントだな」
 百瀬もマナをタップして、クリーチャーを召喚する。彼が呼び出した『秘護精ラビリオン』も映像となって現れ、その辺りをうさぎのように飛びまわっている。
「おもしろい!おもしろすぎるぜ!『青銅の鎧』を召喚して、マナを増やす!」
 映像となって現れた『青銅の鎧』は右手を天にかざす。すると、緑色の雨が映像となって観客席に降り注いだ。
「『霊騎マリクス』を召喚して、私のターンは終了だ」
「なら、一気に行くぜ!『紅神龍ガルドス』を召喚!『ガルドス』で『秘護精ラビリオン』を攻撃!」
 『ラビリオン』に突撃する『ガルドス』。それによって『ラビリオン』は壁まで突き飛ばされ、バラバラになってしまう。
「そして、『青銅の鎧』でシールドをブレイクだ!」
 水色の長方形となって映像化されているシールドを『青銅の鎧』が割る。すると、そこから金色のまばゆい光があふれ出した。
「何っ!まさか……!?」
「その通りだ、時任。シールド・トリガー、『霊騎ミューズ・リブール』!パワー3000以下のクリーチャーを全てタップ!」
 空を飛びまわっていた『チッタ・ペロル』の動きが突如止まり、落下していく。
「私のターンだな。『アクアン』を召喚し、手札を補充するぞ!」
 百瀬は五枚の手札を補充し、反撃の準備を固める。
「さらに、『ミューズ・リブール』、『マリクス』で『チッタ・ペロル』と『青銅の鎧』を攻撃!」
 時任のクリーチャーが全滅する。だが、まだ戦いは始まったばかりだ。
「やってくれるな、百瀬!俺は『フェアリー・ライフ』を使う!そして、『サイバー・ブレイン』で手札補充!」
 時任はマナと手札を増やして長期戦の準備をした。百瀬にもそれが判る。
「踏み込むのは危険なようだな。ならば、『ミスト・リエス』を召喚。私のターンは終了だ」
 互いに、相手の手の内をにらみ合う。相手よりも少しでも有利に攻めるために……。そして、にらみ合いが終わった時、最高の激突が始まるだろう。

「おもしろいですね。俊ちゃんと光ちゃんの対決」
 いつの間にか文美の隣に片桐が来ていた。にこにこと笑顔で二人のデュエルを見ている。
「判りますか?」
「実は、どうすれば勝ちなのかよく判らないんですけど、色々な動物がでてきて楽しいですね。次に何が出てくるのかってわくわくしちゃう」
 デュエル・マスターズを知らない片桐までも魅了し始める。この二人の戦いには、他の者では代わりになれない何かがあるのだ。
「二人ともすっごく楽しそう。小学生の時と同じ顔をしてる」
 文美は時任と百瀬の表情を見た。今まで二人が戦っている時と変わらないような気がする。だが、言われてみれば彼らの表情は何かに夢中になる子供と何も変わらない。
「そっか……。何か、判った気がする」
 夢中になる事。それは生きていく原動力。彼らのデュエルはそれを教えてくれるのだ。二人がデュエルに夢中になり、そして多くの人がそれを観るのに夢中になる。ここに、一つの大きな繋がりが生まれている。

「『緑神龍グレガリゴン』で、百瀬の『ファルマハート』を攻撃!」
「『秘護精ラビリオン』でブロックだ!」
 中盤に差し掛かった二人のデュエル。百瀬のシールドはあれから傷をつけられていない。四枚残ったままだ。クリーチャーは『聖帝ファルマハート』、『霊騎サイヤ』、『聖霊提督セフィア・パルテノン』の三体である。
 時任のシールドは無傷の五枚。クリーチャーは『緑神龍グレガリゴン』が一体。それとは別に『アクテリオン・フォース』がジェネレートされた状態で置いてある。
「ならば、そろそろ本気を出そうか……」
 百瀬が上着を脱いで床に投げ捨てる。前回と同じように、鈍い音がした。だが、それだけではない。上着を脱いだ百瀬の体には、バネなどを仕込んだ拘束具のような物に覆われていたのだ。
「あれは、最強デュエリスト要請ギプス!百瀬さんはあれをつけてデュエルをしていたのか!」
 タイミングよく説明的なセリフを入れる犬飼。百瀬は最強デュエリスト要請ギプスを外し、肩をほぐす。
「つーか、お前何年前の少年マンガだ!ノスタルジーを感じるぞ!」
「時任、本気の私を相手にできる事に後悔と喜びの入り混じった感情を抱くがいい」
 時任は、百瀬の目にぞっとした。アルフレッドを倒した時よりも、さらに鋭い視線。それは常に時任に向けられていたのだ。
「まず、『ウエーブ・ランス』を使う!」
 津波が現れ、『グレガリゴン』を覆う。波が流れ去った後の場に、『グレガリゴン』は残っていなかった。
「『ウエーブ・ランス』はクリーチャーを戻し、それがドラゴンだった時に一枚引けるカード。そして、私はそれによって引いたこの切り札を使う!」
 百瀬が切り札を天にかざすと、場にいた三体のアーク・セラフィムが光の粒子となって混ざり合い、形を変えていく。そこから生まれたのは光のフェニックス、『超新星ヴィーナス・ラ・セイントマザー』だった。
「こんなでかいクリーチャーがあったなんて!」
 時任が息をつく暇もなく、三枚のシールドが割られる。その一枚が緑色の輝きを発した。
「そうか!俺にはこのシールド・トリガーがある!シールド・トリガー、『ナチュラル・トラップ』!よかったな、百瀬。これでマナは一気に増えるぜ。切り札はいなくなるけどな!」
「甘い!甘いぞ、時任!『ヴィーナス・ラ・セイントマザー』のメテオバーンを使う!」
 『セイントマザー』に絡まろうとする緑色のツタが、見えない壁によって弾かれる。
「そんな……!『ナチュラル・トラップ』が効かない!?」
「先輩!『ヴィーナス・ラ・セイントマザー』はバトルゾーンを離れる時にメテオバーンを使う事で、場にとどまる事ができるッス!」
「げげっ!しかも、パワーが12500でT・ブレイカー。しかも、『ファルマハート』を進化元にしてたから、まだ三回もメテオバーンが残ってやがる!」
 時任のターンになった。だが、あれだけのクリーチャーを倒す術はない。
「いや……待てよ。俺のデッキなら、できる!俺のドラゴンなら、『セイントマザー』を倒せる!」
 『グレガリゴン』をマナに置いた時任。そして、裏向きにした二枚の手札を見せて百瀬に宣言する。
「俺はこの二枚を使って、お前の『セイントマザー』を倒す!」
「おもしろい……。やってみろ、時任!」
 時任はマナをタップする。燃え盛る炎の中から、彼の切り札が登場した。
「これが俺の切り札、『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』だ!」
 時任の『ボルベルグ』は『アクテリオン・フォース』をクロスする。
「そうか!これで、先輩の『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』は攻撃した時にパワーが9000上がってパワー16000!しかも、スピードアタッカーだから、このターンに攻撃ができるッス!」
 形勢逆転と思われたが、それを見て百瀬は笑い出す。
「笑わせるな、時任!『セイントマザー』はメテオバーンがある。このターンの攻撃をしのいで次のターンに『セイントマザー』で『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』を攻撃すれば、貴様の負けだ!」
 百瀬の言葉に、ふっと笑みをもらす時任。その余裕に百瀬は鳥肌が立つ。
「まさか、貴様……!」
「ああ、もう気付いただろう?1マナで起こせる奇跡って奴に!『無限掌』、発動!『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』を強化するぜ!」
 『無限掌』によって時任の『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』はバトルに勝つとアンタップできるようになった。
「俺の『ボルベルグ』は、『セイントマザー』のメテオバーンが切れるまで攻撃できる!『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』!百瀬の『セイントマザー』を攻撃だ!」
 『アクテリオン・フォース』で武装した『ボルベルグ』が放つ怒涛の連続攻撃。メテオバーンを使ってもアンタップされるので意味がない。『ボルベルグ』の背中にある二つのキャノン砲が、『セイントマザー』の体を貫いた。
 爆(は)ぜる『セイントマザー』の肉体。そして、轟く爆音。
「さらに、『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』でT・ブレイク!ターン終了だ」
 切り札を失い、シールドも残り一枚。だが、何故か百瀬は喜びを感じずにはいられなかった。
「それでこそ、時任だ。さあ、もっと私を楽しませろ!」
 百瀬は再びカードを動かし、デュエルを続ける。

「遊ぶとかカードゲームとかは生きるのに無駄な物だと、言う人もいるだろうね」
 会場の上側にある特別席で、金井社長と一ノ瀬少年は二人のデュエルを見ていた。そこで社長はぽつりと言葉を漏らす。
「デュエルも無駄ですか?」
「そう思う人もいるだろう。だが、無駄でもいいじゃないか。僕達は多くの無駄を生み出して生きている。そうしないと生きていけない」
 金井社長の目は優しい色をしている。その目は、時任と百瀬の二人が夢中になってデュエルをしている姿を見ている。
「生きるのに役に立つものが存在するのは普通だ。でも、生きるのに無駄なのに存在し、愛されるものがある。素晴らしい事じゃないか。役に立つものよりも素晴らしい。そして、それらは役に立つものでは与えてくれない喜びを僕らにくれる」
「喜び……?」
 満たされていると感じる一ノ瀬少年にはよく判らない。だが、きっと成長してくに連れて、少しはこの言葉が判っていくのだろう。
「映画でもなんでもいい。僕達には無駄なもの、役に立たないものが必要なんだ。それが、動物とは違う、人間として生きるという事でもあるんだ」

 デュエルはすでに終盤。互いにシールドは一枚もない。百瀬のバトルゾーンにはタップされた『ファルマハート』が一枚。そして、時任の場には『アクテリオン・フォース』をクロスした『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』が一枚ある。
「俺のターンだな、百瀬」
 百瀬には勝機があった。時任のデッキには、『ボルベルグ』以外に召喚したターンでプレイヤーを攻撃できるクリーチャーはいない。そして、『ファルマハート』はメテオバーンでブロッカーになれる。時任の攻撃を防げば、手札にあるクリーチャーで勝つ事ができる。
「俺はもう『ファルマハート』には負けない。『無限掌』で『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』を強化!」
「何だと!」
 過去にこの戦法で時任に勝利した百瀬。だが、時任は過去の経験を活かして成長していた。
「『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』で百瀬を攻撃!」
「『ファルマハート』のメテオバーンでブロックだ!」
 『ファルマハート』を犠牲にして攻撃を防ぐも、『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』は再び攻撃の準備に入る。
「百瀬、ありがとよ。最高のデュエルだったぜ!『ボルベルグ・クロス・ドラゴン』、百瀬を攻撃だ!!」
 二条の光線が百瀬を貫く。ライバル同士の戦いは時任が制したのだ。
「俺……勝ったのか?」
 時任は周囲を見る。そして、一人で震えている。
「先輩!」
「時任さん!」
 客席を飛び出して、熊本と文美が時任に駆け寄った。
「うおーっ!俺、スゲーっ!」
 そして、時任はようやく自分が優勝した事を確信し、その場で飛び上がる。ついに、日本最強のDM企業戦士が誕生したのだ。
「ありがとう、『ボルベルグ』。あと、『無限掌』……そして、みんな」
 自分のデッキを愛しそうに抱きしめる時任。そこへ、百瀬と犬飼、雉宮が歩み寄る。
無言で手を差し伸べる百瀬。
「ありがとう、百瀬。ここまですごいデュエルができたのは、お前のお陰だ」
「ふん……。次の大会がいつ開催されるか判らんが、優勝はお前に預けておく。次の決勝戦、勝つのは私だ。覚えておけ」
 上着を羽織り、百瀬は時任に背を向けて会場を去っていく。
「百瀬ーっ!表彰式はいいのかよ?お前二位なんだぞ!」
「二位などいらん。私が欲しいのは、最高の時任に勝利したという満足感だけだ」
 百瀬は去っていった。それに遅れて犬飼と雉宮もついていく。
「俊ちゃん、おめでとう」
 そこへ、片桐もやってきた。興奮したのか、頬が赤く染まっている。
「ありがとう、片桐も見に来てくれたんだな」
「うん、俊ちゃんもこれで夢が叶ってよかったね!」
「夢……?」
 時任は、片桐が何気なく発したその言葉に違和感を覚えた。時任の夢は優勝する事だったのだろうか。いや、違うと言い切れる。
「まだ、俺は夢には到達していない。もっと、もっと先の方に俺の夢はあるんだ!」
 今なら見える。時任が追いかけたい本当の夢。それに気付いたこの瞬間、時任の新しい戦いが始まろうとしていた。

次回に続く(ついに大会編完結!)

次回予告
 熊本ッス!ついに大会も完結ッスね!先輩が優勝してくれたお陰で、会社も融資を受けられて大きな計画に乗り出しているみたいッス!そんな中、先輩は……えっ!退職!?先輩、何で会社をやめちゃうんスか!次回『第三十二話 時任、飛び立つ』

DM企業戦士 時任俊之助 第三十話


第三十話 到達点

前回までのあらすじ
 金井(かない)社長が主催するDM企業戦士達の大会は、ついにクライマックスを迎えようとしてた。予選から始まった長い大会には、様々なアクシデントが起こり、人々の心を熱くした。そんな中、決勝まで登りつめた時任(ときとう)と百瀬(ももせ)。彼らの戦いは人々に何を与えるのか?

 決勝が間近に迫った金曜日の夜。時任、文美(ふみ)、熊本(くまもと)の三人は鳥尾三郎(とりおさぶろう)の店に来ていた。決勝で使うデッキについて討論しながら食事をするためだ。
「つーかさあ、やっぱり俺のデッキだからドラゴンがメインじゃないと魂が震えないわけよ。って、事でドラゴンデッキに決まり!」
「先輩、そんな簡単に決めちゃ駄目ッスよ!ここはマナブーストを駆使しながらビーストフォークで速攻を決めるべきッス!」
「何言ってるの、熊本君。水で手札補充しながら、闇文明の手札破壊で戦略を崩す。でも、マナブーストもいいかもね。『ロスト・ソウル』が撃ちやすくなるし」
「だぁーっ!だからドラゴンデッキだっつーの!ビーストフォークも『ロスト・ソウル』も入らないよ!」
 そう言った時任がウーロン茶に口をつけると、一瞬で脳が爆発するような感覚に襲われた。
「うぇ……これ、ウーロン茶じゃないや」
「時任さん、何言ってるんですか!それはウーロンハイですよ。ウーロン茶に焼酎が少し入ってるだけだから、ウーロン茶と似たようなもんです!」
「酒……?」
 酒が苦手な時任にとって、割った酒でも摂取するのは危険である。
「俺、ちょっと外に出てる……」
 時任は一度店の外に出て、近くをふらふらと歩いていた。夜風に当たると、乱れていた思考が少しずつまとまっていく。
「お前、時任ではないか」
 聞き覚えのある声にふと振り返ると、そこには百瀬がいた。どうやら、会社の帰りのようである。
「おお~、浦島太郎~」
「とうとう桃太郎ですらなくなったか!私は百瀬光太郎(こうたろう)だ、こ・う・た・ろ・う!お前の部下にもきちんと言っておけ!」
「部下?ああ、熊本と文美ちゃんの事か。あの二人は部下じゃないんだ。一応、俺はDM課の課長だけど、うちの課は俺一人しかいないし。それよりも百瀬聞いてくれよ~。文美ちゃんが俺に酒を飲ますんだ。あれはアルハラだ~!」
「大の男が酒ごときで騒ぐな。食事がまだなら、いいところに連れて行ってやる」
 そう言って歩き出す百瀬。食事の途中で出てきてしまったが、特に問題はないだろう。文美に酒を飲ませると大変な事になるので、熊本に任せておいた方が良さそうだ。
 数分歩いて駅ビルの中に入った二人は、イタリア料理のレストランに入った。
「ここは金曜と土曜の夜は1時間限定でビュッフェスタイルの食事が取れる。好きなものを取ってくるがいい」
「へえ、そりゃいいな。好きなものを好きなだけ食えるのって、最高!」
 ピッツァや、パスタなどを取ってきた二人は席について食事を始める。オレンジジュースを飲む時任に対し、百瀬はワイングラスに入った赤い液体を飲んでいた。何かとワインを混ぜたカクテルだと聞いていたが、横文字が苦手な時任には覚えられない。
「デッキレシピの提出は明日だな」
「ん?ああ、そうだね」
 レバーペーストが乗ったトーストを食べていた時任は、百瀬に言われてその事を思い出した。いつもならば、デッキレシピの提出は大会当日でよかったのだが、今回だけは一日早くなった。
「俺のデッキはまだ決まってないよ」
「時任の事だ。どうせまたドラゴンデッキを作ろうとしていたのだろう?」
「ば、バカ言うな!俺はそんな単純じゃねぇ!」
 図星であった。百瀬にまで読まれるのであらば、熊本や文美の言うように全く別のデッキを作るべきなのだろうか?
「お前はいつもワンパターンだな。バリエーションという言葉を知らんのか?」
「でも、それが俊(しゅん)ちゃんのいいところだと、わたしは思うな」
 ふいに女性の声がして、時任と百瀬は固まる。二人がけのテーブルに椅子をつけて、細身の女性が座っていたのだ。
 年齢は時任や百瀬と同じくらいだろうか。髪は黒く長い。そして、それとは対照的に着ている服は白かった。目はくりくりしていて大きく、そこだけ見ると子供のような印象を受ける。
「……知り合いか?」
「いや……」
 百瀬が時任に問うが、時任はまったく覚えていない。だが、この女性は明らかに時任を知っているような口ぶりだったが。
「もう!光(こう)ちゃんもわたしの事忘れるなんてひどい!俊ちゃんが忘れっぽいには昔からだけど、光ちゃんは覚えてると思ってたのに……」
「俊ちゃん……光ちゃん……。もしかして、君は片桐(かたぎり)女史か!?」
「えっ!?片桐って言ったら、俺達と小学校の時に一緒だった片桐はるか!?」
 時任と百瀬の頭にその記憶が蘇ってくる。小学校の時の時任と百瀬のコンビにいつもくっついていた少女、それが小学生時代の片桐はるかだ。
「ああ、よかった……。二人とも思い出してくれたみたい」
「いや……すまない。君に言われるまで完全に忘れていたようだ」
「ところで、片桐。何でここにいんの?一人?」
 片桐は周りを見る。そして、首をかしげた。
「おかしいな?さっきまで一人じゃなかったのに……」
「片桐先生ー!」
 その時、眼鏡をかけた美形の男性が店に入ってきて時任達がいるテーブルに近づく。
「駄目じゃないですか、先生。一人で勝手にどこかに行かないでくださいね、とあれほど言ったでしょう。ん……?」
 その眼鏡の男性は時任と百瀬の顔を見て驚く。時任達二人もこの男性を知っていた。
「あなたは、一回戦で熊本と戦った紫村(しむら)さんですか?」
「そうです。覚えてくださって光栄です」
 紫村士郎(しろう)。熊本と戦って敗れた男。詩集専門の出版社、転生舎の社員だ。
「二人とも紫村さんの事知ってるの?紫村さんのカード仲間?」
「そのようなものだ。片桐女史こそ、紫村さんの知り合いか?先生と呼ばれていたようだが」
「そうだよ、光ちゃん。わたしは詩集の先生!紫村さんがわたしの編集さん!」
 百瀬も時任もこの言葉を聞いて素直に驚いた。片桐は昔から文章を書く才能に恵まれていたが、まさかプロになるとは……。
「すげえな……。俺も同じ歳なのに、ただのサラリーマンだよ」
「まったくだ。才能が開花したという事か。我々の想像を超えるような努力をしたのだろう」
「夢だったからね!他の人は努力したっていうけど、わたしは努力したなんて思ってないよ。努力ってつらい事を我慢してやるものだけど、わたしはつらい事も我慢もしていないもん。言葉とお話してただけ」
 夢に到達したものの言葉は、何気ないようでいて重い。その裏には他の者には出せない強い説得力があるからだ。
「夢……か」
 時任、そして、百瀬の今の夢は何か。言うまでもない。
「時任、我々の今の夢は判っているな?」
「ああ、俺達の今の夢はきっと同じだ」
 金井社長が用意してくれた舞台で、全ての力をぶつけた最高のデュエル。それを意識した途端、時任はデッキを作りたくて仕方がなくなってくる。
「燃えてきたぜ。これが俺達の到達点だ!」
 決勝まであと二日。夜がゆっくりと過ぎ去っていく。

次回に続く(食事シーンを書くと空腹になるのが問題)

次回予告
 紫村です。また、僕の出番があるとは思いませんでしたね。それにしても、先生が時任さん達の知り合いだったとは驚きでした。次回はついに決勝戦。百瀬さんは鉄壁の防御網を展開し、時任さんを翻弄します。時任さんも自分のデッキを信じて突き進み、ついに互いの最高の切り札が激突します!次回『第三十一話 最後に立つ者』多くの希望、継げ!『ボルベルク・クロス・ドラゴン』!

DM企業戦士 時任俊之助 第二十九話


第二十九話 二つの龍

前回までのあらすじ
 準決勝前夜、金井(かない)社長は時任(ときとう)、熊本(くまもと)、文美(ふみ)の三人を和食の小料理屋に連れて行った。そこにいたのは、鳥尾(とりお)兄弟の三男、鳥尾三郎だ。彼が時任の準決勝の相手だと告げる金井社長。一方、アルフレッドもまた準決勝の戦いをシミュレートしていた。それぞれの思いを胸に、夜は更けていく。

 準決勝は二試合同時に行われる事もあって、観客の期待も大きかった。会誌三十分前にはすでに満席になっていたのだ。
「こんな大舞台でたくさんの人の前でデュエルができるなんて、先輩がうらやましいッス。自分ももっと注目されたかったッスよ」
 客席で準決勝が始まるのを待っている熊本は口を尖らせて呟く。これだけの人が観ている中で勝てたら、うれしさも倍増するだろう。
「でも、うらやましいだけじゃないわ。プレッシャーも増えていく。時任さんに耐えられるかしら?」
 冷静にこの状況にメリットとデメリットを判断する文美。時任の相手は客商売をしている鳥尾三郎だ。これくらいの観客の視線など対したプレッシャーにはならないかもしれない。むしろ、適度な緊張を促して彼の実力を引き出させるだろう。
「桃太郎さんなんかはどう?プレッシャーには強い?」
「リーダーはこれしきの視線でまいるような男ではありません。それから、リーダーは桃太郎ではなく、百瀬光太郎です」
 むきになって反論するのは、文美と熊本の近くにいる雉宮だ。その隣には、犬飼もいる。
「雉宮、百瀬さんが入ってきたよ!」
 百瀬だけではない。準決勝を戦う四人の戦士が会場の中に入り、対戦テーブルの前に立った。デッキをシャッフルし、互いにデッキを交換。四十枚あるのを確かめてからシールドと手札を五枚ずつ準備。先攻、後攻が決まり準決勝が始まった。

「これだけの観客……。緊張しますね、時任さん」
「え?ああ、そうですね!」
 今まで観客の事など気にしていなかった時任だが、三郎の言葉を聞いてその存在を思い出す。
(うっわ~、そう言えば大勢の人が観てるんだっけ。これで負けたら俺ってすげぇかっこ悪いじゃん。鳥尾さんは全然緊張してないし。つらいなぁ…)
「行きますよ。『腐敗電脳メルニア』を召喚!」
「なら、俺は『フェアリー・ライフ』!マナを増やします」
 序盤からクリーチャーを召喚してきた三郎に対して、時任はマナを増やして足場を固めていく。
「では、私は『アクア・ハルカス』を召喚。一枚ドローします」
 三郎のデッキは『リキッド・ピープル』を主体とした手堅い構成のデッキだ。ドローのためのカードもあり、安定した戦いができるだろう。
「さらに、『メルニア』でシールドを攻撃!」
「くっ、シールド・トリガー。『ネオ・ブレイン』!二枚ドロー」
 だが、時任もドローのためのカードは入れてある。強敵との戦いが彼を戦士と呼ぶにふさわしい男へと変えていったのだ。
「まだ、デュエルは始まったばかり。俺はこれから爆発してみせる!」
 そして、彼はプレッシャーからも完全に解放されていた。テクニックだけでなく、精神面でも少しずつ成長していったのだ。

「HAHAHA!逃げずに来た事だけは褒めてやるYO!大勢の観客の前で叩きのめしてやる!」
「それは私のセリフだ。貴様などすでに眼中にない。時任と戦う舞台の前から、邪魔な障害物など消してやる!」
 百瀬は小型のブロッカーを並べるデッキだ。防御力は充分にある。
「そんな小型のブロッカー、俺にとってはないも同然だYO!『クローン・バイス』で手札を喰らってやるYO!」
「しまった!次のターンで使うつもりの『サイバー・ブレイン』が!」
 百瀬の貴重なドローカードが失われる。さらに、次からの『クローン・バイス』はその力を増していく。クローン呪文なので、当然二発目、三発目もアルフレッドのデッキの中に存在するだろう。
「私のターン、『ブレイン・チャージャー』で手札とマナを増やし、終了する」
 別のカードを使ってドローはできたが、それでも三枚引けない状態なのはつらい。そんな状態の百瀬を見て、アルフレッドはにやりと笑う。
「手札が引けなくてつらいか?ならば、山札も壊してやるYO!『転生プログラム』でモモタロの『サリエス』を墓地に送り、クリーチャーが出るまで山札のカードを上から墓地送り!」
 『ブレイン・チャージャー』と『バリアント・スパーク』が山札の上から墓地に行った後、『ミール』が場に出る。
「調子に乗ってくれるな、アルカディアス」
「OH!本当に俺をそう呼ぶとは驚きだ!あれは冗談なんだYO!」
「何だと!本気にしてしまったではないか!」
 羞恥に顔を赤らめる百瀬。だが、瞬時に思考を切り替え、目の前の手札に集中する。
「マナは充分。ならば、このクリーチャーの出番だな。『雷鳴の守護者ミスト・リエス』を召喚する!」
 百瀬が場に出したのは、ドローのためのガーディアンだ。相手に手札破壊があるのなら、手札を増やして対抗する。
「やってくれるな。『ミスト・リエス』は怖いから早く除去するのがグッド。というわけで『魂と記憶の盾(エターナル・ガード)』を使うYO!」
 『ミスト・リエス』がシールドに閉じ込められる。
「まさか、お前のデッキは……」
 豊富な除去呪文。そして、山札を削る『転生プログラム』。百瀬の予想は当たっているようだ。
「その通り。俺のデッキは呪文中心の除去デッキ。例え、切り札が出てもデッキごと破壊してやるYO!」
 アルフレッドは自分のデッキの解説をすると、自信たっぷりに歯を見せて笑うのだった。

「『フレイムバーン・ドラゴン』を召喚!鳥尾さんの『ブラッディ・イヤリング』を墓地へ!」
 時任と三郎の対戦は中盤に突入していた。互いにシールドは四枚。鳥尾の場には、『アクア・アナライザー』が一体いる。そして、時任の場には『チッタ・ペロル』と『フレイムバーン・ドラゴン』がいる。
「ブロッカーが除去されたのはつらいですが、準備は整いました。『アクア・アナライザー』を『クリスタル・ランサー』に進化!」
「これが、鳥尾さんの切り札かよっ!?」
 鳥尾の場に現れたのはパワー8000のW・ブレイカーだ。時任の今の手札では倒せない。
「『クリスタル・ランサー』で時任さんのシールドをW・ブレイク!」
「一枚目……駄目か。二枚目……『ナチュラル・トラップ』!『クリスタル・ランサー』をマナに!」
 除去はできたものの、相手のマナが二枚も増えてしまった。相手の手札が増えている今、これは危険だ。
「だったら、俺は切り札のドラゴンを増やして対抗だ!『無双竜機ドルザーク』召喚!」
 時任は自分のデッキに入っている切り札級のドラゴンを出す。彼のドラゴンデッキでは能力を使う事も多いだろう。
「『フレイムバーン・ドラゴン』でシールドを攻撃!」
 そして、三郎のシールドも減っていく。順調に行けば、勝てる試合だ。
 だが、それはあくまで順調に行った時の話だ。
「シールド・トリガー。『デーモン・ハンド』!『ドルザーク』を墓地へ送ります」
「そんな!せっかく出したのに……」
 能力を使う間もなく墓地へと送られる『ドルザーク』。ここで流れが変わったのか、三郎の目つきが変わる。
「こちらも切り札の出番ですね。『蒼神龍スペル・グレートブルー』召喚!」
 三郎が出してきた切り札もドラゴンだった。時任がまだ見た事がない水のドラゴンである。
「三郎さんも切り札を出してきたのか……。俺も対抗策を考えなければ……」

「『マリエル』に『ペトリアル・フレーム』をクロス!『ノーブル・エンフォーサー』もあるから、もうお前は攻撃できないYO!」
 シールドが二枚まで削られた時点で、切り札を出したアルフレッド。選ばれない『マリエル』以外には、『新星の精霊アルシア』が二体いる。百瀬のシールドは七枚。そして、クリーチャーは『蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ』と『日輪の守護者ソル・ガーラ』が一体ずつだ。しかし、山札がどんどん減っている。このままでは、アルフレッドの勝利が確定してしまう。
「攻撃できないのは、貴様とて同じ事だ」
「OH!だが、俺のデッキは攻撃せずに勝つデッキ。それにもし攻撃しなければならない状況になったとしても、俺には『ダイヤモンド・カッター』があるYO!」
「なるほど……。攻撃不可の条件を解除するという事か。おもしろい」
 百瀬は上着のボタンを一つずつ外していく。いきなり始まったおかしな行為にアルフレッドを始め、彼を見ていた者が全員唖然としていた。
 皆の視線が集まる中、百瀬は上着を脱いで投げ捨てた。そして、その上着が地面に落ちた瞬間、鈍い音がし、対戦テーブルに軽い振動が走った。
「な……何のつもりだYO!」
 アルフレッドの顔に動揺が走る。ジャッジの一人が百瀬の上着を拾おうとするが、持つ事ができない。重すぎて一人では持ち上がらないのだ。
「く、狂ってやがるYO!これが、ジャパニーズ・カミカゼかYO!」
「つーか、桃太郎!お前、そりゃいつの時代の少年漫画だ!」
 隣の対戦テーブルから時任がツッコミを入れるが、今の百瀬には届かない。
「本気で……行くぞ!」
 百瀬が山札からカードをドローする。
「ブラフだ!思い上着を脱いだだけだYO!パフォーマンスにはなるかもしれんが、俺はびびらない!そんな事じゃプレイミスもしないYO!」
「お前がプレイミスをする必要はない。私の戦略の前にひれ伏せ。『光神龍スペル・デル・フィン』を召喚する!」
 百瀬の切り札が場に君臨する。
「そのカードは、相手の手札を見て呪文を使えなくさせるクリーチャー!さらに、呪文の枚数だけパワーが上がる光のドラゴンかYO!」
 アルフレッドのデッキにとっては天敵と呼べる存在。それが、現れたのだ。今、『スペル・デル・フィン』のパワーは12000だ。
「私のターンはこれで終了する」
「だが、俺が有利な事に変わりはないYO!山札が切れるまでねばってやる!それに、『アクア・サーファー』もデッキに入っているYO!」
 ドローして、呪文を一枚マナにチャージするアルフレッド。そこで、百瀬にターンが変わる。
「ブロッカーを出さなくていいのだな?私はこのターンで決着をつけるつもりだ」
 百瀬の手札からもう一枚、光の龍が現れる。
「『光神龍ダイヤモンド・グロリアス』。これで、私のクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃可能になった」
 アルフレッドの表情が凍りつく。二枚のシールドだけで、百瀬のクリーチャーによる攻撃を受けきれる自信などない。
「まず、『スペル・デル・フィン』でW・ブレイク!」
「Shit!シールド・トリガー、出やがれ!」
 一枚目は『転生プログラム』。そして二枚目は『デーモン・ハンド』だった。どちらも、シールド・トリガーだが、百瀬の場にスペル・デル・フィンがいるため使う事ができない。
「日本経済を乗っ取るなら、山札破壊など狙わず正面からぶつかる戦略で来るのだな。『蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ』でアルフレッド・カーター・ディアスに直接攻撃!」
 アルフレッドの手から呪文カードが零れ落ちる。
「そんな……!『アクア・サーファー』はどこだYO!」
 山札をめくると、一枚目にそれは入っていた。互いにぎりぎりの勝負だったのかもしれない。

「百瀬にツッコミを入れてる場合じゃないな……」
 『スペル・グレートブルー』を睨む時任。どんな戦略が三郎の中にあるのか判らないが、手札は充分にある。
「『バルキリー・ドラゴン』を召喚して、山札の『ドルザーク』を手札に!俺のターンは終わりです」
「では、私のターン。『アクア・アナライザー』で山札を操作して、『スペル・グレートブルー』で『チッタ・ペロル』を攻撃!」
「げっ……!『アクア・アナライザー』を出したって事はもしかして……」
 山札を操作すれば、呪文が山札の上に持ってくる事が可能だ。時任の予想は悪夢となって襲い掛かる。
「『ロスト・ソウル』を発動。手札を全て捨てていただきます」
「ぎゃー!やっぱり!」
 時任の手札にあった三枚のカードが消える。そして、場の『チッタ・ペロル』も倒され、危険な状態だ。
「『スペル・グレートブルー』を倒したとしても、何かまだ秘策があるかもしれない。それに、シールドは三枚。特攻したとしても攻撃は届かない」
 時任は山札を見る。カードを引く時の緊張が心臓から、指先へと伝わる。
「来いっ!俺の最高の切り札!」
 手札に来たのは、時任が待ち焦がれた最高の一枚だ。
「『フレイムバーン・ドラゴン』を『超竜バジュラズテラ』に進化!」
 時任の超竜が場に光臨した時、大量にあった三郎のマナが全て消え去る。そして、時任のドラゴン以外のマナも消えてしまった。
「マナさえ削れば何とかなる!『バジュラズテラ』で『スペル・グレートブルー』を攻撃!」
「まだですよ。まだ私には『アクア・アナライザー』が!」
 三郎が操作した山札を引く。だが、マナが一枚もない状態では何も出来ない。
「俺のターン。『バジュラズテラでシールド』をT・ブレイク!そして、『バルキリー・ドラゴン』で三郎さんに直接攻撃だ!」
 時任の攻撃が届いた瞬間、場を歓声が埋め尽くした。同時に百瀬のテーブルでも雌雄が決したらしい。
「私の負けですか……。力及ばず、ですね」
「そんな事ないですよ。『スペル・グレートブルー』で『ロスト・ソウル』を出すの、無茶苦茶強かったです!」
「ありがとうございます、時任さん」
 時任と三郎は互いに手を握り合う。そして、その直後時任は百瀬に近づいた。
「決勝は俺とお前の戦いか。前に負けた時の借りは今度こそ返してやるぜ」
「ふん。互いに一勝一敗。次のデュエルでどちらが上なのか決まると言ってもいいな」
 二人の間で火花が散る。
「決勝は来週って、金井社長が言ってたけど、それまで待ってられないぜ!今すぐ、勝負だ!」
「おもしろい!叩き潰してくれる!」
 時任と百瀬は互いにデッキを突きつける。突如始まろうとしている決勝戦にスタッフは困惑し、観客は興奮していた。
「盛り上がっているところ、申し訳ないが決勝は来週まで待ってもらうよ」
 そんな二人の間に金井社長が入る。
「まだ準備が必要だからね。それに君達だってもっとデッキを強くしたいだろう」
 金井社長の言葉で二人は冷静になる。そして、百瀬は時任に背を向けて歩き始めた。
「時任、決勝ではお前の最高のデッキでかかってこい。私もお前とのデュエルに恥じぬよう最高のデッキで戦う」
 最高のデッキ。その言葉が時任の心を熱くさせた。
「判った!俺にできる最高のデッキで、互いに死力を尽くした最高のデュエルをしよう!」
 最後に残ったのは、時任俊之助と百瀬光太郎。彼らの激闘を見守った人々の興奮は最高潮に達しようとしていた。

次回に続く(うーん、二つの龍じゃなくて三つの龍のような気も…)

次回予告
 こんにちは、鳥尾三郎です。準決勝以降、時任さんが私の店の常連になってくれて何よりです。次回は決勝の準備。時任さんが最高のデッキを作り上げます。ライバルの百瀬さんの動向も見逃せませんね。次回『第三十話 到達点』

DM企業戦士 時任俊之助 第二十八話


第二十八話 二つの準決勝

前回までのあらすじ
 大会の第二回戦も最後の試合に突入した。最終試合は百瀬(ももせ)と雉宮(きじみや)のデュエル。そして、時を同じくして時任(ときとう)と文美(ふみ)のフリーデュエルも行われた。結果、時任と百瀬が勝利し、彼らの仲間の思いを引き継ぐ。そこへ現れたのが、アメリカ出身のDM企業戦士、アルフレッド。日本経済界の支配を企む彼と火花を散らす百瀬。大会はクライマックスに向けて進みつつある。

『百瀬光太郎さんへ
 こんにちは。お手紙では初めまして。一ノ瀬俊樹です。
準決勝進出おめでとうございます。百瀬さんがこの手紙を読む頃には、もう準決勝で使うデッキを組み終わっているでしょう。
 そろそろ、僕が何故、百瀬さんと戦ったのか、理由を説明してもいい頃だと思うので、今日は手紙を書きました。あのデュエルを覚えていますか?負けず嫌いな百瀬さんだから、忘れていないと思います。
 あのデュエルは金井社長の指示でやった事です。百瀬さんに勝って、もっと強いデッキを作ってもらうためにやったんです。そうすれば百瀬さんの試合が派手になって、多くの人が喜んでくれます。金井社長はビジネスとしてそれを計算に入れています。
 もちろん、百瀬さんにも判っている事かもしれません。裏で金井社長が演出を入れている事に。でも、金井社長は決して八百長試合などはさせていません。純粋にデュエルの実力を高めてより派手でレベルの高い戦いをさせようとしています。
 いよいよ、準決勝ですね。このままがんばって下さい。
                   一ノ瀬俊樹』

 準決勝前夜の土曜日。時任、熊本(くまもと)、文美の三人は金井社長に連れられてとある料理屋にいる。金井社長が良く来る隠れ家的な和食の店らしい。四人は座敷に通され、料理を食べていた。
「うまいな、この豆腐」
 時任が驚いたのは豆腐の味だ。スーパーの一個四十八円の豆腐だけしか食べた事がない彼は、生まれて初めて食べる『本物の豆腐』の味に驚いていた。
 他にも、から揚げや大根のサラダなど酒のつまみになるような料理がおいてある。時任は酒が飲めないので常にウーロン茶だ。文美に焼酎をウーロン茶で割って飲む事を強制されたが、断った。
「おじさん、お酒頼んでもいいですか~?」
「文美、お前は酒を飲むとセーブが効かなくなるから駄目だ」
 金井社長は自分のペースでゆっくりと熱燗を飲んでいる。文美は金井社長に酒を止められているので、時任と同じようにウーロン茶を飲んでいるが物足りないらしい。
「これだけ美味しい物食べさせてもらうなんて悪いッス!」
と、言いながら熊本は普通の成人男性の倍以上の量を食べている。単純に計算して、時任の三倍は食べただろう。彼はジョッキに入った生ビールを一杯注文しただけだ。食べる事が優先で、ほとんど飲んでいない。
「金井社長、今日はどうして僕達をここへ連れてきてくれたんですか?」
 食事が終わる頃に、時任が金井社長に聞く。熊本は注文したお茶漬けを待っていた。
「ああ、今日は君に会わせたい人がいるのでね。もうすぐ来るだろう」
「お待たせいたしました。こちら、お茶漬けです」
お茶漬けを持ってきたのは、熊本も文美も見知った顔だった。忘れるはずもない人物。
「鳥尾(とりお)兄弟……」
 その人物は、文美が誘拐された事件で百瀬、熊本相手に戦った鳥尾一郎、次郎と同じ顔だ。髪型がさっぱりしている以外に違う点はない。
 だが、鳥尾兄弟も貝沢組の組員と共に逮捕されたはず。こんなところにいるはずがない。
「二人の兄がご迷惑をおかけしました。私は鳥尾三郎と申します」
頭を下げる三郎。それを見て、文美と熊本は目を丸くする。
「おじさん、三郎って事は……」
「うむ、鳥尾兄弟は三つ子で、彼は三男だ。一郎と次郎は間違った道に進んでしまったようだが、彼だけは自分の夢を追ってこうして料理人となって自分の店を持っている」
 三郎の事を話す金井社長の口調は優しい。それだけ三郎を気にかけているのだろう。
「時任君、準決勝で君と戦うのはこの三郎君だ」
 時任は驚き、三郎を見る。熊本達が知っている鳥尾兄弟はどんな男か知らないが、目の前にいる鳥尾三郎は誠実そうな外見の中に一本太い芯が入ったような質実剛健な男に見える。
「時任さん、よろしくお願いします。明日の準決勝、お互いにがんばっていい試合にしましょう!」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
 全身から溢れる自信。彼は努力家だ。自分の力でこの店を持つバイタリティもある。時任の何倍も大きい人間に見える。
(こんなすごい人と俺が戦うのか?)
 一瞬、不安になる時任。だが、周りにいる熊本と文美。そして、ライバルである百瀬の事を考えると自分のプレッシャーなどに潰されるわけにはいかないと思う。

「ここをこうして、そして、こうする。チェックメイトだYO!」
 アルティメットコーポレーション日本支部。深夜のオフィスでアルフレッドがパソコンを前に何かしていた。画面には二つのデッキ、そして対戦相手が映っている。
「モモタロの癖を完全にコピーしたプログラム相手のシミュレーションでは、100パーセント俺の勝ちだYO!明日が楽しみだYO!」
 データをセーブした彼は、パソコンの隣に置いてあったデッキを持って立ち上がる。そして、窓に近づき外を見た。そこから見えるのは人工の星空。人々が生きているという証だ。
 それを見たアルフレッドは唇の端を吊り上げてにやりと笑う。
「見てろよ、日本人ども。俺達が日本経済界を支配してこの光も俺のものにしてやるYO!HAHAHAHA!」
 準決勝前夜。それぞれの思いが交錯する中、夜は更けて行く。

次回に続く(出てくる料理が全部居酒屋メニューだ)

次回予告
 うっす!熊本ッス!先輩達が戦う準決勝は二試合同時に行うみたいッス!三郎さんは強敵っぽいッスよ。先輩は大丈夫ッスか?あと、桃太郎さんと戦うアルフレッド。どんな戦いをしてくるのか判らないので要注意ッスね。桃太郎さん、納豆をひどく言う奴には負けないで欲しいッス!次回『第二十九話 二つの龍』大いなる力、振るえ!『バジュラズテラ』!

DM企業戦士 時任俊之助 第二十七話


第二十七話 選ばれた四人

前回までのあらすじ
 特例により、時任(ときとう)と熊本(くまもと)のデュエルが行われた。熊本との戦いに勝利した時任の次の相手は文美(ふみ)だ。今まで文美に勝った事がない時任は自分の全てをぶつけるため、デッキを手にした。一方、百瀬(ももせ)は決勝トーナメント二回戦を勝ち抜くため、部下、雉宮(きじみや)との戦いを始めるのだった。

「『鋼鉄大使ジャンボ・アタッカー』を召還し、ターンを終了する」
「私は『炎のたてがみ(バーニング・ヘアー)』を召喚して終了です」
 準決勝へと進む最後の切符を懸けた百瀬と雉宮の対戦。特別に二人の目の前での観戦を許された犬飼は今までに見た事がない二人の表情に言葉を失った。
 ピリピリとした緊張感。デュエルが始まった瞬間から、二人は牙を剥いた獣となっている。一瞬の判断ミスも許されない。裏の読み合いと、自分のデッキとの信頼が勝負を決める。
(こんな二人は初めて見た。雉宮は本気で百瀬さんを倒すつもりだ。もちろん、百瀬さんも本気だ。二人とも目の前にいるのは同じ会社の社員じゃない。敵だ)
 まばたきをするのも忘れるほど、二人のデュエルは犬飼を魅了した。

「『エマージェンシー・タイフーン』!二枚ドローして、手札の一枚を墓地へ置きます」
「『バブル・ランプ』を召喚してターン終了だ」
 一方、熊本の目の前で行われている時任と文美の対戦。熊本は文美が今使っているデッキを見た事がない。どんな戦い方をするのか全く判らない。
 だが、時任のデッキとは一度対戦した事がある。いつだったか、時任が話していた。あのデッキには、時任が初めてデッキを作った時に使った大切な切り札が入っていると。
「『バブル・ランプ』ですか。時任さんがドローのためのカードを入れるなんて意外ですね」
「俺だって成長してるんだ。ドローの重要性ぐらい判ってるさ」
「ふぅん。でも、ドローがうまく行ってもその後の戦略がうまくないと駄目ですよ。『エナジー・ライト」で二枚ドロー」
 文美の手札がさらに増えていく。
 時任は、文美に一度も勝った事がない。思えば、連勝中の時任を負かして、時任を努力させた相手が文美だった。百瀬に勝つために努力したし、それと同じくらい文美に勝つためにも努力をした。
(このデュエルで…俺、勝てるかな?)
 越えられないような大きな壁を見るような思いで、時任はプレイしていく。
「『ブレイブハート・ドラグーン』を召喚!こいつはスピードアタッカーだ!」
「火文明特有の速攻ですか。最初ならば、シールドを攻撃されても問題はないですね」
『ブレイブハート・ドラグーン』と『バブル・ランプ』がシールドを攻撃する。だが、二枚目のシールドは『デーモン・ハンド』だった。時任の『ブレイブハート・ドラグーン』は破壊される。
「じゃ、私のターン。『封魔ウェバリス』と『ブラッディ・イヤリング』を召喚して、ターンを終了します。『バブル・ランプ』と手札のスピードアタッカーでまた攻撃するつもりなんでしょうけど、そうは行きませんよ」
「くっ……!」
 文美に戦略が見抜かれていた。時任は、今手札にある『猛菌剣兵チックチック』を召喚して、一気に攻撃しようと考えていたのだ。
「へっ……。だったら、別の戦い方をするだけだ。ドロー!そして、マナをチャージ。『バブル・ランプ』を『アストラル・リーフ』に進化!」
「そんな!」
 文美もこれは予測していなかった。時任がドローのためにこんな強力なクリーチャーを使ってくるとは思っていなかったのだ。
「三枚ドローして、『不死身男爵ボーグ』を召喚する。そして、『アストラル・リーフ』で攻撃だ!」
「『ブラッディ・イヤリング』でブロックです!」
 攻撃を阻止できたが、これで『バブル・ランプ』が一枚墓地に行った。次から『バブル・ランプ』を出す時に時任はドローが可能になる。
 練習で相手をした時任とは違う。今の時任は、強い。
「やるじゃないですか。時任さんのくせに……」
「だろ!?……って、それ褒めてんの?けなしてんの?」
 カードをドローして、文美は冷静に場を観察する。マナと今まで使ったカードから考えて、時任のデッキは水と火の速攻デッキ。そして、文美のデッキは、中盤から終盤がメインの闇・水デッキだ。序盤さえしのげれば勝てると思うが、スピードアタッカーは厄介だ。
 最後の最後まで気は抜けない。時任相手にこんなスリリングな対戦ができた事を、文美は満足している。

 百瀬と雉宮の対戦は、終盤を迎えていた。互いに一歩譲らない攻防に、観客達も息を呑んでいる。
「『ベインズ・セーレ』を『守護聖天ラルバ・ギア』に進化!『大勇者「大地の猛攻」』と『ラルバ・ギア』でリーダーのシールドをブレイクします!」
 ブロッカーが無力化された状態で百瀬のシールドが全てなくなった。場にいるクリーチャーは、『無敵巨兵オメガブラックZ』と『爆腕ロボ・リターンエース』、そして、『キャプテン・メチャゴロン』が一体ずついる。
 雉宮のシールドは三枚。場には、『ラルバ・ギア』と『大地の猛攻』のみ。だが、彼のシールドには、クリーチャーの攻撃を中止させる呪文、『スローリー・チェーン』が入っている。
「やはり、お前は強いな。ドロー。そして、『仮面鉄人ブリキオン』を召喚!スリリング3でシールドを手札から三枚追加だ。さらに、『オメガブラックZ』で『大地の猛攻』を攻撃!」
 さらに『オメガブラックZ』のアタックトリガーで山札の上から四枚めくり、その中にあった『深海メカ・オーシャーン』が手札に加わる。
「すごい……。水文明のカードで手札を大量に増やして、『ブリキオン』でシールド回復。さらに、『オメガブラックZ』で仲間を増やすなんて……。百瀬さんのデッキはすごい!」
 犬飼が無邪気に喜ぶ。そして、そんな強い百瀬と互角に戦っている雉宮に対しても、素直にすごいと思った。
「『キャプテン・メチャゴロン』でシールドを攻撃!」
 どうやら、今のシールドはシールド・トリガーではないらしい。雉宮は手札に加える。
「では、『ベインズ・セーレ』を召喚して『深海メカ・オーシャーン』をタップ。『炎のたてがみ』を召喚し、『大地に猛攻』に進化!『ラルバ・ギア』で『深海メカ・オーシャーン』を攻撃します」
「『リターンエース』でブロックする」
「では、『大地の猛攻』で『オーシャーン』を攻撃!ターン終了です」
 百瀬のブロッカーが全て倒される。雉宮もまだ負けていない。
「私は、『封魔ニューロ・マルヴァス』を召喚。二枚ドローし、『オメガブラックZ』でシールドを攻撃!」
 百瀬がアタックトリガーを終了し、残り二枚のシールドが割られる。一枚目にシールド・トリガーはない。二枚目……。
「シールド・トリガー、『スローリー・チェーン』!リーダーには攻撃を中止していただきます!」
 ギリギリのところで、雉宮のシールド・トリガーが発動した。そして、彼は自分のターンに二体の『ジル・ワーカ』を召喚する。
「『ラルバ・ギア』、『ベインズ・セーレ』、『大地の猛攻』でシールドを攻撃します」
 百瀬のシールドにシールド・トリガーはなかった。これでシールドの枚数は同じ。
「でも、雉宮の場には破壊された時に相手のクリーチャーを二体タップする『ジル・ワーカ』がいる。百瀬さんが強くても、この状況じゃ勝てない」
 犬飼は、雉宮の勝利を確信した。だが、雉宮を見るとまだ警戒を解いていない。この状況でまだ百瀬に倒される可能性があると考えているのだ。
「では、行くぞ。我が切り札、『キャプテン・ミリオンパーツ』!」
「……!そのカードは!」
 犬飼も雉宮も目を見開く。百瀬が出したクリーチャーによって、グレートメカオーとキカイヒーロー以外のクリーチャーはブロックができなくなってしまったのだ。
「雉宮、これで『ジル・ワーカ』はブロックができなくなった。『オメガブラックZ』で直接攻撃!」
 百瀬の直接攻撃が雉宮に届いた瞬間、観客が沸いた。今まで張り詰めるような緊張感から解放され、さらに素晴らしい対戦に感動したからだ。

「『封魔の戦慄ジュマゾール』を召喚!これで、私のグランド・デビルは種族にデーモン・コマンドを追加します」
 文美の場には、『ジュマゾール』の他に『封魔ウェバリス』が一体と『封魔メールワスプ』が一体いる。そして、シールドは三枚だ。
「今のでマナはなくなったな。じゃ、俺のターン……」
「まだですよ、時任さん」
 マナもない状態で、文美はまだやる事があるという。手札から出したそのカードは……。
「『漆黒戦鬼デュランザメス』。G・0発動です」
「何だって!そんなクリーチャーを残してたのか!」
 『デュランザメス』の効果で、文美が意図的に墓地に送ったクリーチャーと、序盤の戦闘で墓地に行ったクリーチャーが全て手札に戻る。『ジュマゾール』一体で形勢が変わってしまった。
 時任には、『一撃勇者ホノオ』が二体と『ブレイブハート・ドラグーン』が一体いる。シールドは二枚だ。
「だけど、俺にもこの場を何とかするための切り札はある!進化GV、『超新星マーズ・ディザスター』!」
 時任が場に出した切り札。それは、メテオバーンでパワー4000以下のクリーチャーを全て破壊する進化クリーチャーだった。
「『マーズ・ディザスター』のメテオバーンで進化元を抜いて、文美ちゃんのブロッカーを全て破壊!そして、シールドを三枚ともブレイクだ!」
 文美のシールドにシールド・トリガーはない。だが、切り札は入っていた。
「私のデッキには『マーズ・ディザスター』を倒すカードが入っています。このデュエル、私の勝ちですよ!」
 文美は手札から一枚のカードを出した。その瞬間、時任の表情が凍りつく。
「『ジュマゾール』を『悪魔神バロム』に進化。『マーズ・ディザスター』を墓地へ」
「せっかく出した『マーズ・ディザスター』が………!」
 時任のクリーチャーがいなくなった。さらに、シールド・トリガーがなければその場で時任の敗北が確定する。
「『封魔ウェバリス』を召喚。そして、『悪魔神バロム』でシールドをW・ブレイク!」
「うぅっ……!」
 観念して一枚ずつシールドを見る時任。そして、奇跡は起きた。
「来たぜ、シールド・トリガーが。『アクア・サーファー』を召喚!『デュランザメス』を手札に!」
 何とか負けだけは逃れた時任だったが、『バロム』を倒せるカードはない。今、手札に一枚あるカードだけでは文美を倒せない。
「だけど……なんだろう。この状況で俺はあの切り札を引けそうな気がする」
 会社の命令で初めてデュエル・マスターズのデッキを作った時の、あの切り札。あれで百瀬との対戦を制したのだ。
「頼む。来い!『ヴァルディオス』!」
 時任が引いたカード。それは、時任が信じて待ち続けた切り札だった。
「『不死身男爵ボーグ』を召喚。そして、『ボーグ』を進化!『機神装甲ヴァルディオス』!!」
 場に降り立つ機神装甲。その登場によって時任の勝利が確定した。
「『アクア・サーファー』で直接攻撃!」
「『封魔ウェバリス』でブロック!」
「無駄だ!『ウェバリス』はこれでブロックできなくなった。『ヴァルディオス』でとどめだ!」
 『ヴァルディオス』での攻撃が決まった瞬間、時任の何かが軽くなった。ついに、自分の目標であった文美に勝利できたのだ。
「あ~あ、まさか時任さんに負けるなんて……。ちょっとショック」
 文美はむくれていたが、すぐに顔を元に戻すと時任に手を差し出した。
「準決勝、がんばって下さいね。というか、ここまで来たら優勝しないと駄目ですよ」
「もちろんさ。ありがとう、俺は文美ちゃんと熊本が一緒に練習してくれたからこれだけ強くなれたんだ」
「どうやら、時任のデュエルも終わったようだな」
 別の対戦テーブルから百瀬達もやってくる。
「お互い、いいデュエルをしたみたいだな。で、百瀬が勝ったのか?」
「ああ、私は準決勝進出が決まったぞ。あと一人倒せば決勝でお前と戦える。それまで、誰にも負けるなよ」
「判ってる。お前こそ、準決勝で……」
「HAHAHA!そんな青臭いセリフはどこか別の場所で言ってくれYO!」
 会場に響く男の声。その声の主は、時任達に向かってゆっくりと歩いてきた。
 青いシャツに黄色のネクタイ、グレーのスラックスに身を包んだ長身の男。髪がブロンドで目が青い事から、西洋人だと判る。
「OH!イントロデュースが遅れたね。俺の名はアルフレッド・カーター・ディアス。長いから省略してアルカディアスと呼んでくれてもいいYO!俺は『聖霊王アルカディアス』を使った事はないけどね」
「貴様、何の用だ」
 百瀬がアルフレッドに近づく。今まで陽気な表情で笑っていたアルフレッドだが、百瀬を見て視線だけが鋭くなった。
「HAHAHA!準決勝の相手に向かって何の用、か!一応、あんたのデュエルを偵察していただけだYO!これなら、安心して勝てるネー!」
 そこで笑いを止めたアルフレッドは、時任達に指を突きつけ、こう宣言した。
「俺はアメリカに本社を持つアルティメットコーポレーション日本支部から来た。俺の目的は日本企業の弱体化。そして、祖国の企業を日本に進出させて日本の経済界を乗っ取る事だYO!そのためにもこの大会は絶対に俺が優勝してやる。おっと、日本の経済界を乗っ取った後は法律で納豆の存在を禁止にしてやるYO!あんなものは食べ物じゃないYO!」
「日本の経済界を乗っ取るだと……?貴様ごときに乗っ取られるほど日本経済界は甘くない事を教えてやる」
 睨み合う百瀬とアルフレッド。準決勝は、波乱が待ち受けているようだ。

次回に続く(今回、長すぎ)

次回予告
 HAHAHA!アルフレッドだYO!俺と対戦する事になったモモタロだが、どんなデッキを使おうと俺の相手じゃないYO!そして、別のテーブルで同時に行われるもう一つの準決勝では、トキトーという奴と料理人が対決するらしい。どうでもいいけど、早く終わらせて俺の優勝する姿をみんなに見せてやりたいYO!次回『第二十八話 二つの準決勝』

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